ピカソ青の時代人間喜劇ゲルニカ
熊谷守一がピカソの絵はまずいといった、たしかにそうだ、熊谷守一の天狗の落とし札という、あの絵に比べればアッハッハ、カスみたいだと云いたくなる、技術的にどうの、筆の洗練度の問題ではない、対象物への全幅の信頼、今様に云えばそう愛の問題だ。
熊谷守一が愛など聞けば、きっとキャンパスを破り捨てる、愛という狭義の妄想、思い込み風は彼にはない、むしろ愛を云い信頼をいう、そうした己をかなぐり捨て、かなぐり捨てていった所の、天狗の落とし札だ。
天狗とはつまり彼の額縁だ。
たった一枚のあげはちょうの絵に、人はそのまんま動けなくなる。感想はと聞かれて、涙を流すきりだったりする。
バッハの音楽が、感想はと云う前に涙を流すきりの。
同じか否か、同じと云えば同じ否と云えば否。
「信仰があり音楽があり、終生変わらぬ妻と家庭への愛情。」
と、毒舌をもって鳴る小林秀雄が、バッハの評に云った、他に云いようがない。熊谷守一に信仰があるか、信仰というより赤貧洗うが如し、
「首くくる縄もなし年の暮れ。」
飯田とう陰老師の云う、我が宗旨、信仰を持つほどおれは贅沢ではないと、良寛さんにも似てきっと云ったに違いない。彼の絵はそんなふうに語りかける。
ピカソはバッハよりモーツアルトに似ている。
to the happy fewと云う、数少ない幸福な人へ捧げもの、どういうことかというに、西方浄土の信仰のように、現実家のモーツアルトがついに神の前の選良を目の当たり信ずる。
それは人間であるという
「解いてはならぬ。」
スフィンクスの謎をそのまんま。
ピカソの青の時代、痩せて気弱な微笑を浮かべるアルルカンの、どこにも出口のない密室、命はおのれの分泌物で賄うといったふうの、取り付く島もない、青いその向こうには、もはや空気さへない。
おのれの分泌物であろうか、そういう思い込みの過去の遺産。
もはやないはずのトゥザハッピィフェウ=心そのもの。壁の向こうは砂漠の、
「それは人間だ。」
という、ヘラスの民、ついで一神教、キリスト教という歪められて伝わる、彼らが心の伝統だ。
云はばコンセンサスによって成り立つ以外にない、作り物は壊れ物だ、ピカソ出生前にすでに崩壊し去っている。絵によってしばらく繋ぎ止める。
ドストエーフスキーのラスコールニコフのように、
「ひとりよがり。」
から、追い出される他はない。
青い内壁の、卵の殻を破って外へ出る。
まさにそういう絵がある。
未完の、凶暴な線描のようなアルルカン。
ラスコールニコフは殺人事件を起こす、振り上げた斧以外になんにもない、実存主義という遊びごとではない、空気がない、一切合切造り出す以外にない、神の手によってではない、突っつきまわして、裏側から手探り以外にない。手足を鍛えのピカソの誕生。
神がない=どこまで行っても裏っかわ。
まるっきりなんにもない向こうに、忽然として絵が現れる。それが自分であり所有であり、ほんの一瞬を保障する。保障するかに見えて、嘘だお化だ、およそなんにもなりはしない。新古典主義もキューピズムも、強いて云えば、そう、酔いどれ舟のあっちへ寄りこっちへ寄り。死体ぷっかりぷっか。なぜか、たといアフリカの土着を東洋を真似たろうが、ピカソには変わらぬ標準がある。
おおむかしヘラスの民だ。
「ものはこうあらねばならぬ。」
割れ鍋にとじ蓋。
それをよく表わしているのが、デッサンの習作人間喜劇だ、むしろこれがピカソの代表作とも云える。
熊谷守一がつまらないという証左だ。
ピカソ天才の秘密という映画があった、学生のころ感激して見た、最近テレビで見てさっぱり面白くなかった、たしかに技術筆の洗練はある、心地よいすばらしいものだ、殺人的な凶暴性、スペインの闘牛というより向こうが見えない、向こう見ずだ、
もう一つは徘徊性だ、ぐるぐる回るっきりで、
「絵になった。」
と自他断定する以外に、結論がない。
行きつくところがないのだ。
ピカソ以後西欧には、殆ど絵画らしい絵画の生まれぬ所以である。
ゲルニカという戦争と平和祈願の大作がある。
歴史に残る二十世紀最大の傑作である。
その練習帳を見た。なんのことはない部屋に灯が点って、裸の女が仰のけに寝ている。
実にこれに終始して、結果戦争と平和の大作となった、お笑いだというより、どこたたいてみても社会性、平和祈願もくそもない、絵が描けて、描いた絵が売れて、画家の生活は女との密室しかない、青の時代の卵っちに、+絵が売れたとうお粗末。
だからといってピカソの絵に価値がないんじゃない、もしガラス館にピカソのカットグラスがあれば文句なしに飛びつく。NHKでどこかの女絵描きが子供を集めて、ピカソ張りの絵を描かせようとする、無邪気な童心と云いたいのだろう、馬鹿云っちゃいけない、子供がどう逆立ちしたって、そんなん問題にならない。洗練度百戦練磨、就中他の文芸評論家など足下にも及ばぬ批評眼だ、
泣く女という絵一つとっても、正確無比デフォルメがデフォルメを呼ぶなんてこと、爪から先もない、ピカソは真似したら駄目だ、そんなわやな品物じゃない。用無しの女は気が触れる、たといそういうこったな。
エッセイ・童謡
宮沢賢治イーハートーヴォ
宮沢賢治イーハートーヴォ
明治以来西向け西、追いつけ追い越せという空しいがらくた、中にあって、残るのは漱石の坊ちゃんと猫、そうして宮沢賢治だ、他は歴史の闇に消える、マイナーで云えば嘉村礒太と命の初夜の北川民夫だ、どうやらそんなふうに思う。
漱石はべらんめえに一応ニヒリズムを接ぎ木して失敗作、宮沢賢治は優等生だ、
彼一人西向け西に成功する。
たった一人あるいはゲーテでありモーツアルトである、その詩に見る、まっすぐであり、手も触れえぬ恋愛であり、フモールであり、微笑みである。
ディッヒターというにふさわしい、厳格な人生に、命を顧みず、川に溺れた人を助ける、一回的な心である。
こんな人は他にいない。
ぺらんぽらんのお化けが昆布を取り昆布を取り、他みな消滅する中に生き残る、賢治童話はたとい思いつきも、100ぺんの書き直しの末に生まれる、ついには世界裁判長になる。浮かれてこの世に現出、太陽の刺を取りに行くといって、未完に終わる。火山局の役人になって蘇る、ついには死んで百花開くという。
挫折をいう、挫折というならそれでいい。黄色いトマトという童話がある、兄妹で野菜を育てる、黄色い小さなトマトがなって、日の光と露の雫に宝石のようだ、いいものができたといって、二人売りに行く、
「なんだこんなできそくないのトマト。」
といってつっかえされる。
彼はつっかえされて、たったの一行も売れなかった。
たとい何度試みたって同じだったと思う。彼を標準にして文壇を一般人を計ればいい、いったい何が不足していたか、当時と比べて今はといえば、もはや読者も文壇もない、高島屋のカタログのような婦人雑誌。
「今の世そうさなあ、ある意味で宮沢賢治の理想は実現した。」
といったら、
「なんていう悪い冗談を云う。」
と娘が云った。農協ができ科学的であり、村起こしだの観光だ、人間の命は地球よりも重い、
「でもだれ一人火中の栗を拾わない。」
いや、そういう人もいるさ。
食うため第一の世の中、なあなあ組織人間の、北朝鮮と同じ内部告発なんぞしようもんならー
宮沢賢治を小学校のころ読んだ、兄弟三人で読んで以来バイブルであった、学生のころ女の子が卒論に、
「宮沢賢治は単純過ぎて。」
という。日本人に何が弾けないって、特に女の子にはモーツアルトが弾けない。
いつか世界中弾けなくなったりする。
「万人が幸福にならなければ個人の幸福はありえない。」という賢さの理想を、
これは西向け西のまっ心だ、
「それは人間だ。」
の解いてはならぬ謎だ。わしはこれをひっくり返そうと思う。
「まず一箇の灯明あって万人の幸福。」
一箇灯明なければ万人の幸福なし、賢さと父親の仏教論議は父親が正しい。
でなけりゃお先真っ暗だ。
旅に行って岩手県を過った、花巻へ行こうというのを、
「賢さはわしのバイブルだった、行きたくない。」
といって、わずかに過った、すると能登へ行ったときに感じた、絶句するよう
な圧倒的な何か、
「これがイーハートーヴォだ。」
ただもうなんにも云えぬのだ。
賢さのイーハートーヴォに敷かむにはなほも淋しえその花筵
・賢さと書いてマルで囲って宮沢賢治の署名
クレエ天使よまだ女性的な
クレエ天使よまだ女性的な
手作り本を作って、「とんとむかし」という表紙には、むかし大好きだったクレエの絵を拝借、鮮やかな色彩が白黒になって、デッサンもどうもぱっとしない、はてなと思って、たまたま韓国名宝展のカタログから、申師任堂の草虫図というのをとった。シンサイムデンという、なんともすばらしい、白黒にしたって、そりゃまことに残念には違いないが、ぱくっとネズミが西瓜を噛ったり、あげは蝶が、佳人の装いの如くにおうがように飛んでいる、16世紀の女流であり、
「朝鮮性理学の巨儒李イイの母、高い人格と立派な子女教育、詩書画すべてに秀で。」
という、まったく初見参であり、他のことをわしは知らぬ。でもこれ人格高潔とか教育者という以前に、美しい、ユーモアがあり惚れこんで、何度見たって新鮮だ、イムデンさんが鏡に向かってメイキャップ、なんていうふうの清楚である。
むかしの絵と、クレエももう古典に入るだろうが、今様と、わしの年になるとたいてい文句なしに、むかしを取る。
どうしてクレエの絵があんなに好きだったんだろうか。おおかたの日本人とて、最後の審判の超大作よりも、おのれ掌する一枚、
「ぴったりと納まってものみなある。」
という、珠玉の額縁が欲しかったのか。
クレエはだけどまったくそうではない。たしかに、
「売れる絵。」
をこさえる為の工夫がある、並大抵ではない、千人万人試みてたった一人成功する底。
たしかに溢れるような才能を、自然がその眼を押さえるのだという、止むに止まれぬ欲求がある。
それを生かし、そいつで飯を食って行く。
他の人よりもよっぽど端的に行く。
首尾よう壁に貼りつける。
「人間と同じように絵画も皮膚や骨格を持っており、従い絵画の解剖学を形作る必要がある。」
という、たといどんな理由付けも、さっぱり役には立たぬことを知って、なをかつ絵描きという額縁を。
「空間と時間との区別はない、手紙のように読む必要のある絵を。」
「表現手段の純粋培養。」
肉体精神の分離を云い、善と悪の対立をいい、バウハウスでの講義あり、広範な教養とかつて伝統のくびきと。
断末魔の画家と云ったらいいか。
論議をこえてみずみずしく蘇る色彩=ただの風景。
「ある庭園の思い出。」
という、庭の風景に立ち返る。
あるいは舞台をしつらえて、汚点をまき散らしながら身をさらす、瀕死の娥。
絵画という額縁をこさえる悪を知る、日本人には到底及ばぬ理屈だ。
日本画伯など戦争あろうが、社会どうあろうが、
「絵描きでございます。」
と云っていれば足りる、ゴッホの絵100億日本画2000万の所以だ。
クレエのぴったり額縁に納まる、色彩と構成の圧倒的な魅力を、日本画風の静けさというには、とんでもない誤解だ。
いっときの非常な緊張の辺に自分が生きている。
一瞬許された空間である、ほんとうは許されるべくもないと知る。
修行の上に修行を重ねという、そういう理屈とは違うのだ。
ナチスが暴威をふるう時に、ほとんど作品がない、
「天使よ、まだ女性的な。」
と雌伏するほかない自分を見る。
その絵画の額縁に雌伏するよりない自分を、どこかに知る。
そうしてその絵はぴったり納まって、次には額縁を抜けて行く、広大な平野
に向かって歩き出す、どうにも収まり切れぬ本来がある。
それ故に絵画も額縁も捨てた現代作家の先駆となる。
でもクレエは伝統の人であった、伝統はクレエとともに死ぬ。
現代作家は森林にモニュメントを刻んだり、夢の島にトーテムポールを建てたり、大空に凧を上げたり、溢れかえるコマーシャリズムに一定のパターンを強要したり、自分の内蔵を宇宙にかっぴろげてみたりなど、さまざまわけのわからんと、わしら旧世代はたいていそっぽを向いたり。
なんにもしないのが一番いいといって、なんにもしないの一番いいことを知らぬ。
ではストーンヘンジの、オカリナの狭い心域にさへはるかに届かぬ。
失敗かひとりよがりの他にはない。
なんにもしないことだ。
蘇ることだ。
申師任堂の幸福を知るには、遠くて遠い、かえってクレエのほうが近いという、それではどうにもこうにも。
モーツアルト弦楽四重奏
モーツアルト弦楽四重奏
ハイドンセットはブタペストだっていう、聞き始めからそういうことで他のを受付けない、このごろ再び音楽が聞きたくなって、CDを取り寄せようとすると、おおかたは絶版になってもうない、ブタペスト弦楽四重奏団のこれがあった。奇跡のようにあった。ポンコツの車にプレイヤーを取り付けて、聞きながらドライブして歩く。
他になんとか聞けるのが二三あって、とっかえひっかえ聞く。フルトベングラー100円叩き売りというのがあって、ベートーベンのバイオリンコンチェルトがあった、絶品だ。聞いていると運転を過る、はてモーツアルトなら気絶しそうになってもOKだというのに。
わしは野蛮人で大学へ入るまで音楽のおの字も知らなかった、免疫がなかった、
モーツアルトを聞いたとたん、世界も人生もとつぜんモーツアルトになった。
一音すべてを抛つに足る、ピアノソナタを聞き、魔笛を聞き、k516をききk614を聞き、そこらあたりほっつき歩く。
人生破滅。
でもなんでもモーツアルトさへあればと思っていた。いざとなったら首くくって死にゃいい。だがどっかしっくり行かない。
ハイドンセットを聞いた。たちまち虜になった、口ずさみ聞かないたってどっかで鳴っている。神童モーツアルトが脱皮する、師匠のハイドンに捧げた、14番から不協和音と仇名のついた19番まで。
青春を心行くうそぶき歩いて帰りつくと、それが音楽になっている、美しいと云うさへ愚かな自己発見の14番。これが春なら五月の月夜を15番、きしっとまとまっている、何よりも好きだった、今も同じを知ってかえって訝しむ。
青春の遍歴というか、そりゃそれぞれにある、抱いた女のこと、思想理念の紆余曲折、屈託もあれば疑念もある、人みな自分の青春に鑑みればいい、今の人青春がない、人格上のゆゆしい欠損だ、亡国の兆候これに過ぐるはなし。
そうして19番最後の一曲がある。こんなに美しい曲はない、人類史上これに匹敵する作品は、十指に満たない、月桂冠を抱く古代オリンピアードの勝者の笑い。何が美しいといって、世の中に対する全幅の信頼である、一枚の葉が無数の葉に溶け込む、不協和音という、どうあったってこりゃ気絶するよりない、とてつもなさ。
わしはきっと何日も気死していた、ものみなぴったり行く。
「美の本体とはこれか。」
納得するのに、目の前に菊の花があった、中国の菊の精のように、人の姿になって会釈する。
しなびる、見るまに崩折れて砂粒になった。
ものみな崩壊する、
「うおう。」
絶叫して突っ立った。三日三晩突っ立ちつくす。ふいとまどろめば発狂、
「ぱっくり食ってやろうか。」
暗闇にスフィンクスが云う。そのスフィンクスと取り引きをした、双方痛み分けだった、わしは白髪と耳鳴りを、スフィンクスは手ぶらで去る。
ひどい面つきだった。人みな遠のいて、幽霊のように過ごす。
再び蘇る。
蝶の花園だった、中学のころ採り歩いた蝶の高原、どっと音を立てて蘇る、ふたたびモーツアルトが聞こえる。
いびつな成人式だった、わしは、
「モーツアルトで生きよう。」
とする、七転八倒する、たといクレエのような、汲み出すポンプであろうか、
純粋マシーンを作る。
首尾よう稼動する。
過負荷に耐え兼ねてマシーンは暴発。
原始崩壊したらしい、目も見えず音も聞こえず、ケロイドまみれになって転がる、激痛ばかりが、おのれありと主張する。
「なんにもないのに、なんで透明人間にならぬ。」
という、狂おしい思念。
たといモーツアルトは漆喰に産みつけられた、青いぶよぶよの虫の卵の羅列。
首をくくって死ぬ時が来た。
「だがまだ生きた覚えはない。」
急に思いついて出家した。
どうせ死ぬんならしばらく執行猶予というそれが、わしのようなあばずれが、前生因縁であったか、はた迷惑、みなひどい目に会うきりの、親兄弟友人らの故にであったか、ついに正師につく。
いきさつは省略しよう。
いつかモーツアルトが復興している、むかしのそっくりそのまんまの。
そうしてあながちモーツアルトにはよらぬ、雪の林が天空の星が、草も紅葉も鳥も雲も、たとい自然の風景がモーツアルトを遙に凌駕する。
これを人に伝えたい。
孤軍奮闘する。
わしがモーツアルトの経緯は、二三他に訴えたこともあったが、だれも耳を傾けてはくれなかった。
そりゃそうだ、年寄りの戯言。
でもハイドンセットが残っていたのは、だれか音楽家が、「聞けなくなったモーツアルト。」
について一言したからだ。
なにしろこっちはただの雲水だ。音痴というもひどい。
「わしの他にモーツアルトを聞ける者は今の世いないだろう。」
うっかり云って、おおかたの顰蹙を買ったが、ただ一人、「そうだ。」
と云った男がいた、どっぺり学生で二人親不孝この上なしの仲だった。
向こうは定年を迎える、坊主には定年がない。
k593は行き倒れのモーツアルト、k614は人は死んで音楽だけが蘇る。なんでこうなるのか、マニアリスムスではない、哀れというほどに美しい。CDはうすっぺらとか、再生装置に凝るという、なに音が聞こえりゃそれでいい。へたくそなモーツアルトは我慢ならぬ、手淫するような、どうしようもないのばっかり。小沢征爾はさすがだ、彼はモーツアルトを演らない。
雪舟デズニーランド
雪舟デズニーランド
雪舟展を見に行った、INで呼びかけて、
「身心ともに失せて見る風景これ。」
といって、十数人で押しかけた、行列が並ぶ、どうしてこんなに人間が押し寄せるのか、まっぱじめに慧可断臂の大作がある、臂を切って面壁九年の達磨さんに差し出す。これをかつて見た時は、なんていう絵だと思った、「いいとこがないじゃないか。」
南画の風情もなく、絵描きのノウハウのようなものさへない、これはいったいなんだという。
取り付く島もない、まさにこれ雪舟。
中国へ渡って、
「四明天童第一座。」
の印下を貰う、外交辞令だという、まったくそんなことはないのだ、たとい外交辞令だろうが、授けるものこれ受けるものこれ、もと一目瞭然事。
「身心ともに失せて見る風景。」
悟り終わるんです、妄想の人のたいていまったく与り知らぬものです。
自分というものがなくなってものみながあるんです。
雪舟作と云われる、どの絵でもいい見てごらんささい、日本画はもと遠近法によらぬとしたって、これは遠近奥行きもみな一つ鏡です、そうねえこれ説明し難いとこあります、悟り終わってものみな伸び上がるような、清濁の彼岸て、もと彼岸なんです。
とやこうじゃない、たとい天橋立図のように、まさにこのように見えるんです、山水長巻のデテイルのように、言語を絶する塩梅です。
かつてこの風景を描いたものはいない、絶学無為の閑道人、たとい釈尊のように一所不定住です。
横山大観の絵と比べてみればいい、大観は天衣無縫、即天去私ですか、たしかにすぐれてこれを写す、でも観念のものなんです。限界がある。
雪舟はそうではない、のっと入る虚空そのものです。
光前絶後の事玉露宙に浮く。
情実の入る余地はまったくないんです、絵描きの安泰など微塵もない、たとい中国風だろうと、南画の風情などとは無縁の品物です。
雪舟の絵は、伝雪舟といい、弟子の描くもの、模写するもの、けっこうな数に登り、向こうの寺院には、たいてい彼の絵があるという。
どういうことかというと、
「悟り終わった風景これ。」
ということが定着していたんです。雪舟仏向上事一瞬も留まっていないです、でも帝の法を超えず、決して食み出さないんです。
雪舟には弟子の何十人いたか、ついに雪舟を超えなかったというのは、
個性とかなんとかいう曖昧現代人の言い種です。
「仏の風景これ。」
に、弟子もまた模写する人も徹底していたんです。また見る人一般も徹底していたです、伝雪舟という、技術的に過不足ないのさへ、どこかにちらっとなにかある、一枚鏡、宝鏡三味ではない、あるいはふっと濁る。必ずそこを見て選ぶんです。
ずっと江戸時代から、明治の初め頃までこうであった、最近になって失われ。
なんとかいう画伯が、富岡ホワイトですか、けっこういい絵書くんですけど、雪舟の空観を手に入れる為に、ヘリコプターに乗って雪山を廻るとか、メイキャップして白布を被って達磨の真似する人とか、呆れてものもいえない。白布の中にうじ虫がいる、雪舟の達磨は姿あってもなんにもないんです。
雪舟展を見て、もうくったくたになって、でもって明日はデズニーランドへ行こうという、なにわしが云い出した。若い子がいたし、冥土の土産にさあとか、
「雪舟を取り巻く有象無象とデズニーランド、どっちがどうって。」
良寛研究家の良寛殺し、そりゃデズニーランドの方に軍配が上がった、肉のひだまでふりとやらせのなんまんだぶつ、アメリカという巨大空洞化現象を、まあ必死になってサービスこれ努める。
それが日本人になると恥ずかしいというか、ただもう切ない。
雪舟という空洞化現象の、はたして世界に通用するかなど、てっきり詳しくあげつらって、自分の是非が空洞化。それじゃどうもならん。
デズニーランドの印象、ウッフやらせのねえちゃん必死にサービス、客も相応やってたら、外人小学生の女の子の一隊が、植え込みの葉っぱをむしる、
「こらあ止めとけ。」
金切り声上げた。
ゴッホ見据える目
ゴッホ見据える目
学生のころゴッホ展が来て、見に行った。原画を見るのは初めてだった、何かがおかしい、聞いていた知っていたゴッホなんてない、見据える目がある、こっちが見ているんではない、向こうが見据える。
不動金縛りにあって、汗だくで突っ立つ。
いったいどんな絵があったか。
何十年ぶりで、ゴッホの画集を見る、平和で優しく、一枚も売れなかったにしては、はつらつとして歓喜に満ちて描く。
見据える目はない、あれは原画だけのものだ。
すると洗練されて、殆ど貴族的とも云いうるほど、
「凶暴なゴッボ。」
メデューサの首のように、あいつに関われば石化する、(でもあいつは限りなく正しかった。)
というような、かつての思い入れが薄らぐ。
「浄極まり光通達し、寂照にして虚空を含む、却来して世間を観ずれば、猶ほ夢中の事の如し。」
これは商売道具の、年回回向だ、なぜかこれを思い起こす。
浄極まり光通達しとありながら、発狂せずにはおかぬ。
ゴッホの魅力はさておく、こんな絵は歴史上二度とはなかろう。
だがこういう語がある、
「自己を運びて万法を修証するを迷とす。
万法すすみて自己を修証するは悟なり。」正法眼蔵現成公案。
ゴッホの狙ったことは、自己を運んで万法を修証することだった。
たとい日本の絵の正確を知ろうが、それ以外を知らなかった。
宣教師になって果たさず、再三恋愛に失敗し、粗暴というよりは、どうでもそのものと一体化する、非常な欲求、これはまさに宗教家のものだ。
その文章の精緻、わしなんぞ不細工には、テオへの手紙の、あんなに達者なら、絵なんぞ描かなくてもいいと思う。
左臂を切って差し出すゴッホ、これに応える達磨大師がいなかったという、悲劇とはまさにこれだ。
いいことしいの最後の審判、キリスト教は邪教だ。
たいして出来がよくない、古代の宗教に比べたってさまにもならぬ。
空を知らぬ色の道だ。
ゴッホはアルルの風景に開花する、ゴーギャンを殺そうとして、自分の耳を切るころには、その絵は完成の域に達する。
同時に発狂する。
色彩という黒いくまどりのない絵のせいか、さっぱり売れなかったからか、溢れるような幸福を、たれ一人答えず、あるいは生得そういうたちであったか、だが何物かの手が頭蓋に触れる、ただの真空の内爆発か。
「その向こうはだめ。」
という、敷居を一歩踏み出す。
発狂したらそういう回路に廻る。
まじめに平和に長閑かに優しい、
「普通の人のように描く。」
その絵が次には発狂して、わけがわからなくなる。
オーベールの野のように、むかしの風景画の気宇壮大、静物画のように空間を切り取るのか、あるいは遙な無限遠を見る、どこまで行っても、
「色。」
必ず意図がある、神を信じようという、信じるという絵を描くよりない、では自分が神か、そんなことはない、見据える目になって、何を願おうという、空間は奥行きを失う、でたらめ寸前になって、また蘇る。
マインカンプフだ。
ついにその闘争の止む日はなく、死に至る。
烏の群れ飛ぶ向こうに、それはなにかしら救いのきっかけ。
時に外人の参禅者がやって来る、語学が駄目だからってこともあるが、
どうにもこうにも度し難い。
禅らしいものを持ち、仏を持ち、崇め奉り、かたくなに信じて譲らぬ。
「わっはっはゴッホだ。」
きょとんとしてこちらを見る。
お釈迦さんはインドユーロピアン語族だという、だったら里帰りのはずが、どうしてこう入って行かないのだろう、言葉さへわかればとは思うが、フランス辺り大流行りの禅が、いったい何をやっているんだろうと思う。
未だに本来のものが、向こうへ渡ったという話を聞かない。
「世界中が幸せにならなければ、一箇の幸福はありえない。」
たといゴッホの絵はこういう意図を持つ。
孤軍奮闘する、七転八倒だ。
「一箇灯明をもって世界中を照らす。」
逆方向だ、孤絶たった一人も、別にどうってことはない。
俳句と歌手前味噌の定型
俳句と歌手前味噌の定型
俳句歳時記を読んでいると、仰山な数ある中に、ふっと囁く声が聞こえる、見れば決まって芭蕉だ、
よく見れば薺花咲く垣根かな
ではあとのものは何か、格好はありながら言葉の用をなさぬ。
歌は訴えるという、俳句は行きて帰る心の味なりという、訴えるよりおれを見てくれという、あっちこっち行くは行ったろうが帰って来ない、
水仙の風水仙に移り行く
仕出かしたろうが、だからどうなんだと云いたい。
どこか根本が違うのだ。
良寛の酔ひの中なる蛍かな
秀逸であろうけれども、袋小路。
どこが違うという。細みという、思いつきやひとりよがりではない、黄金の延べ板という、叙情は浮き世ぜんたいにかかる、詩人の命そのものだ。
年をへてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり小夜の中山
たとい一所不定住が詩人の命か、いやそうではない、自分は別に生活を確保して、歌を読み俳句をという、それを詩人とは云わない。
帚木に影といふものありにけり
ランボウの無鉄砲さへ知らずに、権威を持つ、こんなのはただの害悪以外にない。
定型というそのいい加減、山寺へ行くと、
静かさや岩にしみいる蝉の声
という芭蕉の句碑の回りに、何百という手前味噌が建つ、どれも芭蕉とは無縁だ、似ているのは五七五というだけ、続いて飛び込む蛙なしという、日本人というのは、なんていういい加減、どうしようもなさだと思うよりなく。
格好さへあれば、あとは野となれ山となれ。
今の世どうしようもなさの、まさに根本原因かも知れない。
学生のころ山本健吉の芭蕉という本が出た、繰り返し読んで、日本の文学がどのようなものであるか概要知った。花はさくら鳥はほととぎすという、これが網羅する生活感情を我がものにするのは、非常に大変だ、ついに崩壊して、正岡子規の写生句になった、正岡子規だけは成功する、だがどうしたって古典には及ばない。ないしは現状の袋小路、だれがなにを云ったろうが可という、それじゃなんにもならない。
「ようしじゃ俳句を作ってやろう。」
とて、二三年七転八倒する、なんにもできなかった。
ついに諦めてこんなものを作った。
ままくれ
とんとむかしがあったとさ。
むかし、下田村に、雪がしんしんふりつもると、どこからか、
「ままくれ、ままくれ。」
といって、やって来た。
戸を開けると、白いものがふうわり入る、中の明かりにあたってふっ消えた。
すると、子どもがひきつけ起こしたり、かかや姉が大熱出して、寝込んだりする。
寝たきりのじいさま、ころっと死ぬ。
入れてはいけなかった。ままくれは、水子のたましい、闇から闇へ
の、あの世へも行かれず、ふらつき歩く。
しんしん雪がふると、軒の明かりが恋しゅうて、とっつく。
雪の辺に、もみんからなと、まいておく。
ままくれは、それ拾って食って、泣きながら、うつって行ったと。
万年学生がついになんにもならずは、就職仕立ての風景である。しかもこんなふうなものをさへ七転八倒。
出家して一応の悟を得て、寺をもって歌を作り出した。俳句はだめだが歌ならという、東京がだめなら大阪があるさ、
「歌というのは人間の姿して立って歩いて。」
ということだった。どうにもこうにもこいつがうまく行かなかった、どだい文才なし、
梓弓春あけぼのの天空をなんにたとへん雪の軒にして
こんなのが初物だったか、
三界の花のあしたをいやひこのおのれ神さひ雨もよひする
戊申の役に破れて河合継之介が山越えに会津へ行く途中に死ぬ、そこを八十里越えという、
いにしへも月に逐はれて卯の花の茂み会津へ八十里越え
推敲を重ねては何百も作ったが、だれも歌とは認めてくれぬ、
「おまえさいい言葉いうけど、これ歌ってんではねえようだし。」
など云う。二三どっかへ出したが選外にもならぬ。
俳句作りに正当俳句はこう、そりゃ構造的に違うといって笑われるきり。
でもって水と油みたい、馴れつかぬ坊主組合に住んで年寄る、最近
こんなのを作った。
流人花
とんとむかしがあったとさ。
むかし、伊予の沖の島に、げんのうという流人があった。本名はようもわからない。
鉄の足かせひきずって歩き回り、砂金を取る。
それを持って行って、どうにか飯にありつけた。
時にはいくらかになった。
島の犬に吠えたてられ、かみつかれして、げんのうはもう、長いことそうやっていた。
百合の花が咲く、御赦免花といった。
三つ四つ花をつけて、時には百も付けることがあった。船が来て一人二人、また何十人となく、許されて帰って行く。
げんのうの番はついに来なかった。
しまい一人きりになった。
百合の花がたった一つ咲いた。
げんのうの番であったか、でも一つきりの花を、手折ったら死ぬと
云われた。
げんのうは花を手折った。
「そうか、死ねば許される。」
弟を殺し、母を殺した。
獄門を免れてここへ来た。
「なんで母を殺し、弟を殺した。」
思い起こしてもわからなかった。花を手折ったときに、それがわかった。
げんのうはにっと笑った。
弟と母親が迎えに来ていた。
三日ほどして、死んでいるげんのうを、島の者が見つけた。
それは百八つも花をつけた、百合の下であった。
流人を手厚く葬るのが、島人の習わしであった。
げんのう塚という、石かけがあった。
げんのうは船頭であった、嵐に船が沈むとき、人みなを助けて、たまたま乗り合わせた母親と、見習いの弟を見殺しにした。泳ぎの達者なげんのうが助かった。
おれが殺したと云い張って、流罪になったという。
だれかがこさえた話であったかも知れぬ。
ドストエーフスキー今も
ドストエーフスキー今も
駒場寮のお粗末ベッドでふて寝していたら、何かある、先人の忘れていった地下生活者の手記、米川正雄訳。どっ汚い字でびっしり書き込みが入る、
「お前こそこうゆうやつだ、そっぽ向いて、何をいっても手前のことばかり。」
とやこう理屈を上げて二人分。読んでみた、なんというこんなものが小説か、だったらおれにだって書ける、など云う、半ばにうっちゃった。するとどうだ、今まで後ろめたい、ひた隠しにすることどもが、大威張りして面を向く。
それっきりどうもおかしくなった。
ドストエーフスキーについては、小林秀雄の評論がある、付け加えることは殆どない。地下生活者とは何か、今の世わからなくなった、忘れ去られたか、そうではない、全員が地下生活になって、破れほうけたのだ、だからドストエーフスキーを通って、元へ復する道がある。
真剣にそう思う人がいる。
心理学は二派に別れる、一はフロイドから始まる今様謳歌の心理学、そうしてもう一つはドストエーフスキーに拠るという。
ひけめばっかりのドストエーフスキー心理学、ないに越したことはない、わかりやすく云えば、地下生活者の手記=優しさだ。
優しさとは文明そのものだ、精神という、一神教の置き土産だ。
もはやナイーブな人間などはいない、極度に洗練されて崩壊する。
悪貨は良貨を駆逐する、駆逐されてなほおのれを主張する、存在価値を疑う他なく、どこにも身の置き処なく、しかも優しさ、愛するというには愛する以外なく。
これは何か、観念の産物だ。
ドストエーフスキーの大作家たる所以は、観念に衣を着せることに成功した点だ。地下生活者は罪と罰のラスコールニコフになって現れる、ともあれなにをやっても一人きりの卵の殻を破らねばならぬ。
まがいものの少年犯罪がひところ起こった、空気が欲しい、外へ出たい。まさかりを振り上げて金貸し婆を殺す、マリアという罪もない女を殺す、無意味に殺す。
自分は殺せない、不思議に死なない。
たとい大地に接吻したって土くれ一つつかない。判決が下ってシベリアへ行く。
レフ・ムイシュキンになって帰って来る、善と悪しかないとは善=悪の観念そのものだ、ムイシュキンの誓いはまったくゴッホに似る、てんかんの発作まで酷似している。
「自己を運びて万法を修証するを迷いとす。」
以外に手段を知らぬ。ふれあうだれかれを不幸にする、あるいは気違いにする、
「これを悪という。」
と、小林秀雄は云った。
観念の衣を来て何十何百という人物が登場する、あたかも西欧文明の断末魔、ゲーテのようなニコライ・スタブローギン、モーツアルトのような未成年の父、あるいは共産党の雛形あり、スビドリガイロフのような文明人のカリカチユアあり、すみからすみまで思想が、人間の面を付けて歩く。
救いようのない地獄に、ドミートリイを登場させシベリア送りにし、スメルジャーコフという諸悪の根源というより、エコーノミックアニマル日本みたいのーそうだこれも観念だ、の向こうにアリョーシャを登場させる。
長きに過ぎるこの小説は失敗する。
アリョーシャがついに形を取らなかった。
ただの阿呆だ。
そうしてロシアがどうなったか、いいや今の日本がどうなったか。アリョーシャはいない、ただの阿呆はいる。日本中どこ捜しても、生まれついての人なんぞいない、三つ四つのころにもう観念倒れ、六十七十の年寄りまで思い込み観念でよれよれになっている。
面白くもなんともない。
新興宗教が流行った、彼らは社会環境のどうしようもなさを理由にする、そんなものは宗教の樹立には無関係だ。ひとりよがりで狂っている、日本は仇を理由にする、北朝鮮のキムジョンイルだ。
なぜにそうなる、
観念倒れから逃れるためのアンチョコ。
ああこんなことをしていては駄目だ。
ただの人を取り戻す方法がある。
「万法すすみて自己を修証するは悟りなり。」
悟るとは元の木阿弥に立ち返ること、生まれて来る子はまっさらだ、観念倒れ、自縄自縛のがんじがらめの縄をほどく、ほどけば仏。
たった今もまっさらなまんまに気がつく方法。
時代環境によらぬ、たとい人類滅び去っても仏法はある。
わしはその証拠のはしっくれだ。
利用して欲しいと思っている、失敗作のアリョーシャではなく。
ドストエーフスキーの女性は美しい、かつて何度も読み返して、ずいぶん気に入っていた。
だが今のわしの弱点はドストエーフスキーに違いない、他に接するに彼が心理を見る、要らんこったと重々承知しながら。
すると相手の思惑通りやっていたり、地下生活者の手記!
黒沢明の映画
黒沢明の映画
出家しようとして、どうしたものか迷っていた、そうしたら黒沢明の映画「赤ひげ」が来た。四時間ものをぶっ続け二度見て八時間、外へ出たら真っ暗だった。
「ものみなある。」
と、そう思った。雪の田んぼ夏のいらか、雑巾掛けをする女、風鈴の音、そうさ音楽までが復活する。
「そうさ、生まれ来る子はまっさらだ。」
だったら出家しようと思った。
藁をもつかむ思いであった。
黒沢明は映画を代用品と知る、そんな監督は他にはない、きわめて健康だ。「すり」という映画を見たとき、
「なんという。」
絶句したのは、長大壮大に続いて息切れもしない、こいつはなんだ、万葉の歌のようだ、弦楽四重奏のない一本調子、まさにこいつは日本人だというわけだ。
命短しのあれもそうだ、こんなふうにデテイルがしっかりしながら、一分の隙もない。
いったいどういう男だという驚き。
ゴッホも白痴のムイシュキンも理解しない日本人代表。
文句なしに、「七人の侍」が代表作だ。
百年たったろうが古びはしない、映画をもてはやす昨今だが、かつての感動を再びというのは皆無だ、映画とはいはばそれしきのものだ。
代用品と知ってたといゴッホにもシェークスピアにも匹敵させる。
現実を見ることとヒューマンというその単純。
その主人公が「用心棒」ではアウトサイダーとして登場する、切れすぎて組織を食み出す、そうしてまだ存在価値があった。
「赤ひげ」で復活するか。主人公の失せる「影武者」泥棒として復活しようとする、強盗のような信長が強烈だ。どいつもこいつもみんな気違いの「どですかでん」彼のヒューマンが浮き上がる。
「乱」を見た。砂上楼閣の絢爛豪華。
世の中なしでも生きられる名声と云おうか。
「忘れものを届けに来ました。」
というような、その「夢」は、恥ずかしいような失敗作に終わる。
日本にはもうどこ捜しても、黒沢明の土壌はない。
まずはそういうことであった。
いい面の皮の出家であったか。
まったくそうかも知れない。
なにかしらこうやって、エッセイでも提唱や作品を書く、孤立無縁を思う、宗門の中にあって参禅するさへ爪弾きという、不思議な世界だ、だれあって、それはむかしから食わんが為の他は、二の次三の次。
でもだからこそ何ものか欲しい。
でなけりゃ生きている価値なんかない。
右往左往の夢の島。
みんな仲良く平和にという、わけのわからん、そりゃどっか北朝鮮と同じだ、本当の事を云えぬ、というより本当のことを思うさへできない。こんな情けない、哀れな話はない。
履き捨てパンツのごみあくた。
日本人は日本人だ、混血して別人種に生まれ変わるのもいい、いったん国が滅びる、とたんの苦しみがある、ユダヤ人のようにはだが、どうあったって生き残れないだろうが。
汚ギャルだのでかぱいだのいう、ますかき面の女ども、たとい北野武の映画もあんまり冴えない。
だがどっかに人のいい日本人が顔を出す。
なにしたってどうあったって、
「これっきゃない。」
と云う。
そうして日本の自然はまだ残っているのだ。
雪の田んぼも雪の林も、夏の風も時には風鈴も。
観光だの村起こしだの、食わんがため、みんなで右往左往を、いっとき忘れて見るにいい。
自分という世間噂をかなぐり捨てる。
失禁でない涙を流す。
そうさたった一声、
「おう。」
と云い得ること。
何かをなすんじゃない、何かをしようとする、まずもってその手をおく。
でないとまたかき汚すだけ。
魚行いて魚行けり水自ずから澄む。
そうです。
生まれ出る子は、常にまっさらなんです。
国定教科書さざえさん
国定教科書さざえさん
国定教科書が是か非かは知らない、ただつうかあというか同じ冗談が云え、同じ歌が歌えた。それがなくなってさざえさんが、国定教科書だった気がする。毎朝見て、こうこうだといっては、同じ笑い。
世の中たいして面白いこともなかった。でもたいてい大笑いしたさざえさん。
そりゃ長い間だから、さまざまあった。
「女のぬえ的ユーモア。」
をもって持ちこたえる。なつかしい。
さざえさんを継ぐものは、春木悦美のじゃりん子ちえちゃんだった。
あれは面白かった。だれかれ共通の話題にさへなりうる。でも四コマなら長生きできたって、印象が強すぎて、やっぱり続かなかった。
残念だ。
もうそういうことは起こらないのかも知れない。
どうしてかわからない。
坊主もまあいう無責任、
「みんな仲良く平和に。」
の化けの皮を剥がしたら、ひょっとしてって。
生き生きした国定教科書、そうじゃないマンガの話だった。
「世の中みーんなマンガになっちゃったから、もうマンガはおしまい。」
というのがもっともらしい説だ。
そう云えばだれかれマンガじみている、することなすこっとどっかピントが外れる、軸が違うというのかな、しかも食うためには必死で、いじめもし、揚げ足取りや、政治やボランティアや人助けや、お役人やと、要するにどこ変わっていないはずが、みんなマンガ。
どっか笑うよりなく、当人も苦笑するほかなく、苦笑しないなら、こりゃ大笑い。
致命的なものさへマンガ。百鬼夜行の化物じみていて、きーとかかーとか擦過音はスヌーピーの大人どもか、ムーミンの家庭のほうがまともで、ありうべくもないつげ義春の町のほうが、よっぽどなつかしい。
人は住処を追われて、そりゃマンガの世界になんかだれも住めない、タイガーウッズや一郎や、松井だのだれかれ、スポーツ選手にぶら下がる、真っ黒け鈴生りになってぶら下がる。
ふっと惨めな気分になる。
生きるってこんなことかというような。
SFの詩人レイ・ブラッドベリが、世の中立体テレビとコマーシャルソングきりになって、ちょっと別こと云おうもんなら、思想Gメンがやってきて、豚箱へ放り込む。どっかフランス映画にもそっくり同じのがあったが、そんな近未来物を書いている。
国家や戦争には抵抗しても、大衆には抵抗できない。
俗悪という言葉が死語になった、へたなことを云えば死刑だ。
向こうからエンサイクロペディアV2が来た、あれはダンテの神曲だとか、一人一人密かに諳んじて、人類の知慧を伝えて行くのだが、そんなものはコンピューターが受け持ち、専門家がいて、ー。
はてなと思う。
でもってやっぱりサッカーに大リーグにさ、まさにこれが国定教科書。
するともうわしらロートルにはついて行けない。
そうだ用なしはさっさと死ね。
仕方がない、そういうことにしよう。
おかしな雪が降って、こびりついて杉の梢が折れ、竹が全滅、やまざくらの巨木が無惨にむしり取られ。
かつてはもっと豪雪であったが、こんなことはなかった。
それでも自然だ。
だんだらの雲が真っ青な空に浮かぶ。
「寒のうちにしては、春めいて。」
といって見上げる。
林の枝にきらきらと水滴が着く。
雪の辺にくるくる落ち葉。
わしらには、残された時間と自然しかないのなら、心行く味わうがいい。
二、三話し相手があればそれでいい。
たといなくたって、なんとかなる。
自然を見るには、身心共に無しがいい。
自然と自分が一体化する、自分というもの失せてものみながある。
ではなんの文句もなし。
環境がどうあろうが、たいていどうってことはない。
草もありゃ木もある。
月は国定教科書。
たいていまあそんなけちなものではないな。
人類の知慧なんかいらん、死んで行くのにそんなものいらん。
アッハッハきれいさっぱりって、これもマンガかなあ。マンガじゃ
ない真剣だ。
道元禅師正法眼蔵
道元禅師正法眼蔵
道元禅師は十三才で比叡山に登り、十七才のころには一切経巻を尽くして、要約するに、
「本来本法性、天然自生心。」
だと知った。もとこのとおり手つかず、このまんまでいいという、なんにもせずいたってだが、さっぱりいいことはなかった。たまたま栄西禅師に問う、
「如何なるか是れ仏。」
答えは、
「三世の諸仏知らず、狸奴白虎卻って是を知る。」
仏は知らず、きつねやたぬきの類が知るという。その通りであったが契わず、入宋沙門となって海を渡る。
大宋国に行脚し、論破するには、
「こっちもわからんが、そっちも知らん。」
というのだ。諦めて帰ろうとした時に、天童山如浄禅師に会う。求める人と正師です、こっちもわからんのが、これぞと知る。生まれて初めて父に出会う心地です。すっかり入れ揚げるというんじゃ、まだ足らんです、一切合財です、如浄禅師があるんじゃない、まるっきりこっちを映す鏡です。
ちらともあれば取れる、外れる、とっつきはっつきする自縄自縛の縄がほどけるんです。
ほどき終わって坐っていた。ほどくものも坐る自分も失せる。
忘我です。
たまたま隣単に居眠りする人がいて、如浄禅師叱咤してこれを打つ、打睡一下の因縁という、別に言語上のこっちゃない、ぱすっでもかちでもいい、これを機縁にはあっと一念起こるんです。
身心失せてものみながある、自分というものがまったくなくなって個々別々です。
「やったあ、やりました。」
というんです。面白いんです、よたよたぶっ飛んで行くんです、手の舞い足の踏む処を知らずです。
「身心脱落来。」
身心脱落し来たる、やりましたって云うんです。これに対し如浄禅師は、
「脱落身心底。」
脱落せる身心底、そうじゃないよ、もとはじめっからこうあるんだよ、と云う。ここに於てまったく納まるんです。
そうでないと、やったあやりましたの人になってしまう、あまりに強烈な体験、というのはあとからに思念なんです、それを持ってとやこうする、本来人から遠いんです。たいていもう一苦労せにゃならんです。
師嗣相継ぐぴったり行くんです。
空手還郷なんにも持たずに故郷へ帰ること、中国へ留学僧のうち、道元禅師が初物でしょう、経巻も道具立てもなんにもありはしない、つまり他は偽物ってことです。仏ではない。
これを云うに、
「眼横鼻直にして、他に瞞ぜられず。」
目はよこ鼻はたて、なんの他と変わるものはない、だがだれが出て来ようが、迷わされないたぶらかされないというんです。平ちゃらという無神経粗暴じゃない、たれかれありゃたれかれってだけです。
いいですか宗教これです。
眼横鼻直以外にちらともありゃ、それは邪教です、弊害のはなはだしいこと歴史が証明しています。
他に瞞ぜられず、まったくただの人です。
取りつく島もない=自分です。
「自分が自分に取り付くこと不可能。」
自分を知ること不可能、三世の諸仏知らずです、これ天然自生心、なを証せざれば露われずです。
帰朝第一声は普勧坐禅義であった。坐る方法これがすべてだったんです、第一声すべて、第二も第何十もみなすべてです。
道本円通争か修証を仮らんという、これをなを証せざるは露われず、まさに円通の人がこれを示す、これを透過しないことには、そりゃなんにもならんです。
普勧坐禅義につぎたし継ぎ足し行く形の正法眼蔵を、世の人眼蔵家といい研究解明といい、あるいは趣味上の物とする、そりゃとんでもない間違いです。
そんなことしたってなんにもならない、百害あって一利なしです。
眼蔵は一応にも二応にも普勧坐禅義を卒業し終わった人が見るものです。
証拠し終わってはじめて見るんです。
すると自分のありようが、鏡に映すようにわかるんです、至らずを知り、休咎を咎め、あるいは手を携えて行く。正法眼蔵まさに至宝、人類の財産です。
繰り返しいいますが、忘我身心脱落来ないし脱落身心底という、自他同じ、一回きりのこれないかぎり、そりゃどうにもこうにもなんです。
歩みを進むれば遠近にあらず、迷って山河の箇を隔つんです。
今はようもわからんだからということないんです。
目は横鼻はたて、他に瞞ぜられずとは、時代や環境によらんです。
東山寺四季
東山寺四季
ふきのとう
雪ん中のふきんこは、
一つのっこりいい匂い、
二つふっかり汁に入れ、
三つ三日月ほんのりくもる。
さんしょううお
さんしょううおってなーんだ、
雪消えひいらりえらを出し、
大人になったら雲隠れ、
ぺろうと呑んでかんの虫。
みずばしょう
みずばしょう、今日は、
ざぜんそう、今晩は、
王さまの、
女王さまの、
冠つけて、
春の挨拶。
いちりんそうは
いちりんそうはいちげ、
かたくりはかたこ、
しょうじょうばかまはなんていうの、
むかしの名は。
ひきがえる
蛙合戦ごったくさ、
げーごーぶんが一晩中、
ばあさがやあだと逃げてった、
池いっぱいのぐーるり卵。
やまざくら
観音さまはおおやまざくら
お地蔵さまはしのやまざくら
ひいらりほらり日もすがら、
ひいらりほらり夜もすがら。
水を引く
こっちはぜんたい蛙鳴く、
あっちはぜんたい灯の、
蒲原田んぼに水を引く、
お寺はぼっかり宙に浮く。
ずくなし
ずくなし咲いて雨が降る、
ずくなし咲いて田植え冷え、
むかしはごっつうたいへんだった、
死んでも代りの嫁が来て。
あんにんご
かっこうが鳴き渡って、
あんにんごが咲いて、
田んぼ山には月が出て、
だけど兄にゃは帰らない。
春蝉
みーんと鳴いて春の蝉、
みーんと鳴いて春の蝉、
えちごの山からどこへ行く、
竜宮城へソーダを買いに、
シャーベットかな、
天人の羽衣に恋して、
ほーら一匹見つけた、
夏が来るよって。
つばめ
つばめはなんでも知ってるって、
花が咲いたのも、
おじいさんがなくなった日も、
一年坊主になったのも、
海を渡って行くんだ、
なんだって忘れるもんか。
かなかな
かんばらはかなかなに明け、
かんばらはかなかなに暮れ、
かんばらは淋しい夏、
かんばらは苦しい夏。
ほたる
夜を恋しい、
あっちへぽっかり、
こっちへぽっかり、
ウインカーによって来て、
明け方までも飛んで、
雨にしっとり合歓の花。
はざの木
はざの木はなくなって、
ぴっからしゃんから米山さん、
夏は雷、
早苗の田んぼを、
雨が上がって、
つばめがさ。
ふう、
道草食って、
あれはだーれだ。
すいれん
赤いの三つ、
白いの十三、
行ったり来たり、
おにやんま、
雨がぽっつり、
千この輪、
どんがらぴっしゃ、
雷鳴ったら、
つゆは終わり。
夏
じーんみーんどんがらごおろ蝉が鳴く、
とんもろこしのお化け影。
おにやんま
通行止めだって、
どうして、
しーっ、
羽化している、
おにやんまが、
指さしてもだめ。
さるすべり
猿もすべって、
さるすべり、
百日咲いて、
百日紅、
つくつくほうし、
ほうしつくつく、
人生、
五十年だってさ、
深い井戸の底。
てんかん
田んぼはこんなに暑いのに、
てんかんてんかん鍛造屋、
役得だあってあの親父、
女のおしりさわって、
アッハッハ、
はざをかけて稲刈りだ、
雨が降るって烏が鳴いた。
夕焼け
やひこ山の、
てっぺん夕焼け、
星がきらあり光って、
雲のない空は重力レンズ、
電柱だって歪んで見える。
こんぺいとう
きれいな花が咲くのに、
こんぺいとうは、
ままこの尻拭いだって、
すごいぎざぎざ、
あかのまんま
親分猫のお墓に、
赤のまんまがゆうらり、
でっかい猫だったから、
でっかい赤のまんま。
食べていたんだ、
おときの鮭といっしょに。
三日前から水だけ飲んで、
大往生が。
やままゆ蛾
今晩はっていう、
秋のお客は、
日本一大きな、
やままゆ蛾、
目ん玉二つ、
透き通って、
木枯らし吹いて、
葉っぱが落ちると、
あっちこっち、
やままゆのみどり、
金の糸を吐く。
カルテット
すずむし、
こおろぎ、
がちゃがちゃ、
すいっちょ、
寝ていても、
月の光に、
山や林を、
行くような、
モーツアルトの、
カルテット。
あけび
空気と水と頬ずりと、
知らん顔した秋でもって、
あけびは色づく、ー
そう、
掌のようにな。
柿のもみじ
ふうらり舞い落ちる、
柿の葉っぱが、
色づいて、
ううんなんだって、
宝のありかを記す、
地図、
鳥にしか
読めないって。
これひよどり、
ぎゃーお、
なんだと、
山の向こうに、
竜宮城があって、
雪の降る前に、
乙姫さまに、
十の物語をさ、
語って聞かせれば、
年寄りにならずにすむ、
どうしてそれが宝のありかなんだ。
軒先に
萩が咲いて、
長雨が降って、
ぽっかり月が出て、
しだれて落ちて、
きちょうが舞い、
そうしてだあれも来ない、
知っているかい、
秋のきちょうって、
紋付がなくなって、
まっきいろ。
からすうり
からすうりぶーらり、
きつねだって食べないよ、
赤い鳥居の、
お稲荷さん、
そうさ、
宝剣が、
祀ってあるんだぞ、
かーお、
烏も知らない。
霜
紅葉が散ってジャワ更紗、
いいや花色木綿、
冬になるから、
ぽっかり浮かんだ、
真綿の雲を、
光と、
やままゆの金の糸で、
縫う、
霜柱の針が、
欲しいってさ。
初雪
甘柿に雪はふり、
渋柿に雪はふり、
ほうと叫んで、
飛び出した、
はだしでさ、
だって玉のように、
残った柿の、
年が明けて、
大雪のさ、
鳥が食べに来る。
冬将軍
どんがらごーと雷鳴って、
こわーいおっさんがやって来る、
死んじまったような、
どうしようもねえおっさんで、
山を越せずに、
ぴえーっと屁ひって、
そうさなあべったん居座る、
なんとかなんねえかな。
大雪
竹の折れる音、
松の張り裂ける音、
雪の降るのはなんにも聞こえない、
柱がみっしり鳴る。
雪の額縁
雪の額縁に銀河の名画、
一つ西へ流れて行った、
世界平和の願いのように、
今日は月が上る。
スノウダンプ
二メートルの氷柱を槍に、
どんがらごうろ、雷めがけて突進ドンキホーテ、
ぴえーもがり吹雪のロシナンテ、
天下とったぞ、
死にそうな退屈をさ、
サンチョパンザっておまえかスノウダンプ。
ふくろう
おっほんほー、
ふくろうが鳴く、
今年も春がやって来た、
ふっと温とんだ氷柱の軒に、
おっほんほー、
ふくろうが鳴く。
しみわたり
まんさくが咲いて、
今日はしみわたり、
田んぼを越えて、
五郎作の家まで行くぞ、
あれ、
りすのつがいがぶら下がって、
春の燭台。
童謡集一
夜行列車
河の向こうに街明かり、
夕焼けぱっかり星が出た、
夜行列車はタイムマシ-ン、
真っ暗やみを亜空間。
銀河宇宙を飛び越えて、
アンドロメダに途中下車、
R地球型内惑星、
どんざん波のここはどこ。
海猫鳴いて一軒家、
三角窓がぽっかり開いた、
青いロ-プの女の子、
哀しい歌を空のはて。
「お父さんは行ってしまった、
金の印の旗のもと、
お母さんも行ってしまった、
長く続いた戦争に。」
「頼りもなくって十日が過ぎた、
街は真っ赤に燃えるよう、
月は緑にくらめいて、
いったいあたしはどうなるの。」
昆布に混じって打ち寄せる、
ロケット砲のブ-スタ-、
「きっともうじき帰って来るさ、
こうして君が待っている。」
一年のちにタイムトラップ、
どんざん波は硫酸の、
首のないモビルス-ツが、
浜辺の家を薙ぎ倒す。
「お父さんが帰ったぞ。」
瀕死の男が娘を抱いた、
飢えて死んだ女の子、
「母さんは行ってしまった。
金の印は平和の願い。」
月は二つに張り裂けて、
「どこへ行っても戦争だ、
勝手な理由をくっつけて。」
三年まえにタイムスリップ、
開戦前夜のスクリ-ン、
父と娘のむくろを置いた、
金の印の旗竿の下。
涙に曇ってなんにも見えぬ、
「どうしてそんなに泣いてるの。」
にっこり笑って女の子、
「そうか解った戦争はない。」
海猫鳴いて一軒家、
楽しい一家団欒は、
「母さん一人に父さん二人、
年がら年中戦争よ。」
「どっかであんたを見たことがある。」
三つ上の娘が云った、
「あたしもあんたを見たことがある。」
下の娘と大喧嘩。
夜行列車はタイムマシ-ン、
真っ暗やみを亜空間、
「知らないったら二人とも。」
お母さんを知らないったら。
お地蔵さん
雪のかんむり、お地蔵さん。
赤ん坊を、三つ抱き、
百年そうして、道っぱた、
いろんなことが、あったのさ。
にっこり笑って、お地蔵さん。
一つ強欲、二つ怒り、
三つ阿呆の、人間どもさ、
宇宙のような、大きな掌。
金のくし
むかごがぶ-らりなったとさ、
うさぎが食った、
一つ食って目はまっ赤、
二つ食って耳二つ、
三つ食ったら気が触れて、
雪んな-かにすっとんで、
笹やぶ行って、
川行って、
お寺のや-ねのてっぺんだ、
ぴょ-んと跳んで、
お月さん、
お月さんお餅つき、
くるっとまわって、
金のくし。
すいれん
お宮の池に、すいれんが咲いた、
やごからぴっかり、おにやんま。
赤いのにとまれ、白いのにとまれ、
くうるり飛んで、むこうへ行った。
雨がぽっつり、うずができ、
あっというまに、千こになった。
赤いかさ三つ、白いかさ二つ、
かさを忘れた、ぬれん子だあれ。
カエル殺人
カエル長者が殺された。
殺人事件。
ウサギ刑事がとんできた。
「ピストル強盗だ、なんとなれば、ピストルでうたれている。」
署長が云った。
「ですが署長、窓はしまって、ドアにはかぎがかかってます、密室です。」
まっ赤な目の刑事が云った。
「密室殺人。」
署長はあたりを見回した。たった一つ換気窓、
「わかった、犯人はやつだ。」
ヘビの床屋が、しょっぴかれ、
「あいつを抜けられるのは、おまえだけ。」
署長は云った。
「ヘビにカエルというわけだ。」
「いつ死んだんです。」
床屋が云った。
「え-と、昨日の午後三時ごろ。」
「午後の三時と、わしはおまえさんの、ひげを剃っておったが。」
はあて弱った、
「つるっぱげ頭が、なんで床屋だ。」
「人権侵害。」
ヘビは云った。
「大汗かきのカエル長者も、長者の一家もだいじな客です。」
机をどんとたたいて、署長、
「自殺だ。」
「凶器のピストルが見当たりませんが。」
「なきゃあさがせ。」
ウサギ刑事は飛び回る。
カエル屋敷は河っぱた、風に吹かれて柳の木、桟橋には舟が一そう。
さがしまわって石ころ一つ。
「ええ、ピストルは暴力団。」
署長はかんかん。
「まあまあ。」
ひげをぴ-んと張って、ネコの探偵、
「柳の枝にかすりきず、換気窓には釘のあと、どうやらこれは、仕掛けがあった、あの日は急に暑くなる、スイッチを引いたとたん、どかんと一発。」
ネコの目ん玉緑色。
「ピストルは、たわめた枝にふっとんで、河の中。」
弾道はぴったり、スイッチを引く、カエルの大頭。
「河をさらえ。」
と署長。
三日さらって、ピストルが出た。
「石っころ一つに釘穴四つ、むすんだひもは、河に流れて。」
名探偵は考える、
「長者が死んで、得するやつだ。」
署長が云った。
カエル長者のせがれパ-太郎は、実業家。そこいら中に、温泉を掘って、大穴をあけ、
「一山当てりゃ元は取れる、大汗かきのおやじのため、世のため人のため、そのうちきっと町会議員。」
とパ-太郎。
娘のピ-子は、飛行機狂い、
「黄色いセスナって、かっこいいのよ、お父さんのために買ったんだけど。」
耳利きのウサギが調べた。
「せがれのパ-太郎は、借金一億、けちの長者にそっぽを向かれ。」
「ピ-子のセスナが、暴力団のクマ屋敷に突っ込んで、ゆすられていた。」
「ふうむ、こいつはにおう。」
と署長。
河をわたって、カエル長者の二号どの、サルの舟頭が逮捕され。
「カエル長者が、二号に買った、ダイヤモンドがなくなった。」
ウサギの刑事、
「おまえが盗って、サルのカ-子にくれてやった、そいつを長者に責められて、計画犯罪。」
「おれじゃねえったら。」
サルの舟頭。
「木登り上手のおまえの仕掛け。」
サルのカ-子が、ダイヤモンドをさしだした、カエル長者のお手伝い。
「それは拾ったんだ。」
「舟ん中って長者のもんだろ。」
「あ-んかあ。」
って、カ-子は泣いた。
「あの人、柳の手入れを頼まれていた、あたしが宝石なんかねだるから、でも、でぶのピ-子は、宝石だらけ。」
「おれじゃねえったら。」
三日たって、サルのカ-子が、河に浮く。
たもとに書き置き。
「あの世で待ってます、哀れなカ-子。」
「ばかな舟頭に教えてやれ。」
と署長。
一件落着。
ネコの探偵がのそのそ歩く。
「ダイヤモンドは、ピストルは、舟はどうだ、カ-子はルビ-ももっていた。」
「ぱぜりのフライを食うんだ。」
と署長。
「石はあっても、釘がない。」
「なきゃあさがせ。」
みんな集めて、名探偵の演説だ。
せがれのパ-太郎に、娘のピ-子、舟頭は檻の中、ヘビの床屋に、ヨタカの証人、クマの暴力団、
「舟にはひっかいたあとと、糸くず、死んだカ-子のスカ-トのものです、それが相当もつれています、もう一つはクマの毛だ。」
名探偵は書き置きをとる。
「水にひたって、判読不可能。」
パ-太郎をにらまえる、
「ということはないんです。」
「ち、ちがう、わたしじゃあない。」
「クマの暴力団は、高利貸しもやっている、町会議員になったら、元を取ろうというんで、一億円の半分を貸し付けた、利子がついて、一億三千万、遺産の方が手っ取り早いと気がついた。」
「ピ-子の方はゆすられて困っていた、兄妹二人をそそのかす。」
「ふん。」
とピ-子は、そっぽを向いた。
「舟にダイヤを置いたのはだれか。」
ヨタカの証人が立つ。
「カ-子が置いたんです。」
「それはいつです。」
「十日ほど前の晩です、カ-子が舟によって行き、何かを置いた、そのあと蛍がよったくる、舟が揺れると光るんです、ほおっと光る。」
たぬきの宝石屋が呼ばれ、
「ダイヤモンドはピ-子さまのお買上げ、ルビ-はカ-子にと、パ-太郎さま
が注文。」
「サルの舟頭は、はめられたんだ。」
「筆跡鑑定人によると、書き置きはピ-子の字に、似ているそうです。」
「ようしそこまで。」
クマの暴力団と、パ-太郎ピ-子の兄妹が、引っ立てられ。
「あとはこっちで泥を吐かせよう。」
「ところでと。」
名探偵が云った。
「犯人は上がった、話してくれますな。」
ヘビの床屋に向き直る、
「ヘビはなんでも知ってるそうな。」
「せっかくの遺産が、ふいになるって、クマの暴力団は思った、ピ-子が遺書を書かされた、一生ゆすろうっていうんです。」
「なんで知っている。」
「パ-太郎がしゃべった。」
「これですな。」
ぶあつい本を探偵は置き、
「犯罪学の本です、換気窓の仕掛けも出ています。」
「パ-太郎が貸せっていうから、貸してやった。」
「犯罪教唆だ。」
と署長、
「別に。」
「ヒントは与えた。」
「そりゃまあ、密室殺人て云うから。」
「でもって、そいつが成功したあと、仲間だというんで、べらべら喋る。」
「いい迷惑です。」
「う-ん、こいつをしょっぴけねえか。」
「ほんとうとは知らなかった。」
名探偵は合図した。
ウサギ刑事が、へんな器械をもって来た。
「必死になって、さがしましたよ、こりゃこうなるんです。」
刑事のピストルをとって、仕掛けに乗せて、ひもを引く、ずどんと一発。
「精妙なもんです。」
「ふうむ。」
「電子顕微鏡にヘビの跡。」
「そういうこった。」
とヘビの床屋。
「石っころと釘なんぞで、できるわけがないんだ、ばか息子が。」
署長と名探偵は、床屋を見つめ、
「タオルが熱いっちゃ文句、ヘビ臭いっちゃ文句、親子そろって、べらべらてめえんことばっかり。」
「そこんとこは、あとでゆっくり。」
署長はがっちゃり手錠をかけた。
「完全犯罪のしそくない。」
ネコの探偵。
「だから、カエルにゃヘビって云ったんだ。」
署長が云った。
大漁祭り歌
百合あへ浜に潮満つ、
さてもおんどろ寄せ太鼓、
泳ぎ渡ったさお鹿の、
角館岩に日は昇る。
さても大漁祭り歌、
男は伊那の八丁櫓、
さかまきうねる渦潮の、
なめりの底に虹をかけ。
弓矢にかけて押し渡る、
八幡太郎義家は、
その美わしき平らの地、
久島の王に使者を立て。
「鳴門の渦を押し開き、
八十の平らを明け渡せ。」
かく伝えてや龍神の、
猛り狂って申さくは、
「弓の汚れになろうには、
久島を共に海の底。」
その逆鱗に泡だって、
使いを潮に呑み込んだ。
漂いついて若者は、
もがいの浜に息も絶え、
七日七夜を添い寝して、
一つ命を救うには。
久島の王の愛娘、
百合あへ姫と名を告げた、
十月十日の月は満ち、
玉のようなる子をもうけ。
泳ぎ渡ったさお鹿の、
尻尾哀しい初秋や、
使いの役を果たさんと、
坂東武者は浜を去る、
その美わしき平らの地、
子は父親に生き写し、
潮の鳴門に生い育ち、
弓矢のわざに抜きん出て。
父に会おうと子は云った、
会ってはならぬと母は云い、
さてもこっそり流れ木に、
渦潮かけて他所の国。
父に会うさへ束の間の、
子を押し立てて攻め寄せる、
八幡太郎の軍勢に、
鳴門の波は血汐を巻いて、
その美わしき平らの地、
八十の島廻を地獄絵の、
久島の王も破れはて、
百合あえ姫は波のむた。
とこのえ眠る乙女子の、
波はおんどろ寄せ太鼓、
神さびわたるさお鹿の、
きらいの岩に日は沈む。
今宵十五夜満月の、
男は伊那の八丁櫓、
鳴門の汐に虹をかけ、
さても大漁祭り歌。
四つの太陽
空想史の-だ-れも相手にしてくんない史
世にも美しい鳥ケツアルコアトルが飛んできていった、
「四つめの太陽が墜落する、支える手を差し出せ。」
「ふ-んそうかねえ。」
差し出したら、その手を取って、
「来い。」
という。真夜中の世界を半周する、
「太陽に追いつこうというんだな。」
「ちがう、ペンタゴンへ進入して虹のカプセルを盗み出せ。」
手だけが実体化して、七色のカプセルを盗みだす。赤~紫までの蓋を開ける。ヨ-ロッパじゃこれをパンドラの箱といったそうだが、白いのも黄色いのも黒いのも、人間どもは宗教もイデ-も平和も愛も、つまり妄想というものはすべて失って、何種類かの死に様だけが残った、赤はエイズウイルス、橙はエイズウイルスの2~7まで、黄はエボラ出血熱、黄緑は狂水病+煙草モザイク病の空き腹に気違い水ってやつ、緑は脳味噌ならなんでも食っちまうというめったら繁殖性錫、青は人間の血液がauに強変化してあ-う-芽生え花咲いちまう大腸菌、紫はどんなものだってみ-んな猛毒にかえちまう人面ウイルス。
「人類苦っていうのが、ひょっとして太陽の墜落を防ぐ。」
「な-んだおれの心臓かと思った。」「おまえの体はタイムマシ-ンに乗せて投げ出した、なにいい相手もみっけといた、太陽が生き延びたら、次なるその為に、丈夫な心臓を育てとけ。」
さ-てどうなったか、タイムスリップした先が未来ではなくって、恐竜時代だった。いい相手ってのは恐竜そっくりのか-ちゃんで、そこでおれはやりまくって、子孫を増やし、恐竜どもと食ったり食われたり、楽しく遊んで、二万年ほどは、第一の太陽と付き合った。
恐竜と人間のテラコッタが、中南米のどっかに出るよ、足跡もいっしょにさ。
そうしてさ、メキシコ湾に巨大彗星が落っこちて、第一の太陽は消えちまった。
おれらはさ、心臓の弱いのは、恐竜どもといっしょに、そう、ケツアルコアトルの鳥になって、心臓の強かったのは、そのまんまふっ飛んで、BC五千年期の第二の太陽を崇拝する。
そいつは理想社会ってなもんで、黄色い人間と黒い人間の二通りあって、どっちも他愛ない神さまで、冠のかぶせあいっこして、どでっかいなまけものなと食って、仕事といったら、カメレオンみたい体ぬったくって、生んだり死んだりやって、そのあいの子に、白いのが生まれて、こいつは大凶と出たから、笹舟に乗せて海に流した。「生き延びたら、この地を滅ぼしにやって来る。」
星を見るのがいった。
星を見るのはまたいった、
「第二の太陽はいつ滅びる。」
砂漠にでっかい蜘蛛の絵を描いた。太陽の光が金の糸になって、世界中が蜘蛛の巣になった。それからあとのことはようもわからん、無邪気な神どもはその巣を伝って、どっか行ってしまった。第二の太陽も消えた。
第三の太陽も消えた、だってしょうむない地上絵がまだいっぱい残る。
ましなのはみ-んな行ってしまって、残酷な神官と頭蓋骨の手術と、縄の結び目と石段昇り降りと、心臓をえぐり出す儀式ばっかりの世の中。
「そうさ、まったくの付けたしだったんさ。」
ケツアルコアトルの声が聞こえた。
「呪文だけは残ってたさ、白いのに滅ぼされた時な。」「自滅の呪いってやつ。」
「まあな。」
あれ、おれはどこ行ったらいい。
ケツアルコアトルは地上で一番美しい鳥さ。
スタ-シップ
裕子は考え、たっぷり絵の具をつけて、筆を走らせる、それは、
あけぼのの大空に煌めくアフロ-ジテ、金星に茂る巨大な生命
の木。はるかなむかしに、スタ-シップが漂いついた、十億年
の深宇宙の旅を終えて、亜物質の扉から一粒の種が芽生える。
大地と多少のミネラルと風や雲やその大空とともに成長する、
木は生い茂って、同時に二つの花と三つの果実を、頑丈なその
枝につける。蓮と呼び蘭と云われるその花と、龍であり獅子で
あり鳳凰であるその果実。蓮は純潔と平和に咲き、蘭は至心と
情愛に咲き、龍は頭脳と知恵の実り、獅子は五体と勇気を、鳳
凰は手足と忍耐を結果する。世界は誕生し千変万化し、繁栄し
てついにはその頂点を極め、宇宙の辺境に巡礼して、十億年が
たった、十億と三五六二年三月十二日。渦を巻く亜硝酸と硫酸
の深海底、ガラスの泡の細胞の中で、いわいとお-らは二人の
愛を実らせた。十日ののちを王水の幻に消え果てるまで。愛し
いお-ら、その額には龍の鱗、恋しいいわい、その胸には蓮の
花弁、生まれ出ずる三人の子には、天空の知恵、日光の力と雄
弁、春の青草のような優しさが備わるはずであった。今はもう
この星には生命を育むなんのゆとりもない、闇に消える深宇宙
の断片、だが二人の出会いを空しいものにはするな、百キロの
密雲に、もし万が一にも光が射せば、見えたであろうスタ-シ
ップ、二つの花と三つの果実をつける、生命の木の、永遠によ
みがえる種子を載せて、今まさに旅だって行くスタ-シップを、
二人の愛もその脱出のためのエネルギ-となる、絶え間なし水
彗星の落下する、溶岩と海の始原の惑星に、ふたたび我らが繁
栄と一瞬の平和を、夢を稔らせるために、平和と繁栄の夢では
なく、なにかもう一つ別のメッセ-ジを、大切なものをと、裕
子は、密雲を抜けて行くスタ-シップに、紅の花弁を描き添え
ながら思う、なんであろうそれは、人にだけではなく、一筆を。
童謡集二
童謡集二
なめくじ
なめくじどこへ行く、
銀色の道をつけて。
おいしいきのこを、
食べに行く、
むこうへつくまで、
何日かかる、
二日と半分。
なめくじ何がこわい、
銀色のあとをつけて。
かえると、
まいまいかぶり。
むこうへつくまで、
会わないか。
さあわからない。
なめくじ何が好き、
銀色のしるしをつけて。
しっとり降って、
やさしいこけ。
でも明日は、
かんかん照り。
そうしたらお休み。
なめくじ彼女が来たよ、
銀色の道をつけて。
そっちへ曲がろう、
すてきな子。
そんなところから、
見えるの。
もうきっと。
からすか-お
からすがね、
石を拾って、
ぽ-んと落とす、
なんでかな、
なんでかなったって、
か-おかお。
からすがね、
人のあたまへ、
ぽ-んと落とす、
あぶないよ、
あぶないよったって、
か-おかお。
車に当たって、
キイ-ブレ-キ、
ばっかやろうって、
はげのおっさん。
車をおっかけ、
ぽ-んと落とす、
ふえ-仰天、
バイクの兄ちゃん、
「ばっかやろうって、
からすがいった。」
これはなんたって、
一一O番。
ピ-ポ-鳴って、
パトカ-が来た、
仰天がらすは、
急上昇、
石はど-んと、
急降下、
フロントガラスは、
めっちゃくちゃ。
本官さんは、
ピストルだ、
鼻水ふいて、
ぶっぱなす、
どっかんどかん、
か-おかお。
うつなといって、
飛び出した、
両手をあげて、
銀行強盗、
手錠がっちゃり、
か-おかお。
本官さんは、
お手柄だ、
鼻水すすって、
ラ-メン一杯、
かあちゃん、
おまえを、
愛してる。
からすがね、
石を拾って、
ぽ-んと落とす、
なんでかな、
なんでかなったって、
こういった。
「ばっかやろうったら、
ふえ-仰天、
ピ-ポ-どっかん、
か-おかあちゃん、
愛してる。」
恐竜ウィルス
ドンクサキッドは早打ち名人、
O・二秒に空缶二つぶっとばす、
大統領の電話が鳴った、
「恐竜ウィルスが盗まれた。」
文明世界は崩壊だ、
エイズの千倍こわいやつ、
シンジケ-トの女スパイだ、
「ドンクサキッドあとを追え。」
女スパイはミセスバッティ、
ボインビ-トの悩殺兵器、
間一髪で追いついた、
自由の女神のへその上。
四発いっぺんO・三秒、
「盗んだものをこっちへよこせ。」
「あ-らかわいいピストルね。」
ボインビ-トの殺人光線。
「恐竜ウィルス一億円、
ロシヤに売ろうか東京か。」
目から鼻へとミセスバッティ、
ハエコプタ-に飛び乗った。
悩殺兵器に脳天しびれ、
ほんのすこうし遅れをとった、
ハエコプタ-から女スパイは、
パリへ脱出コンコルド。
ドンクサキッドは鈍行切符、
凱旋門をチャリンコだ、
女スパイは深海底、
バチスカ-フで商談の。
セ-ヌ河にはめだか一匹、
ワインの底にも姿は見えぬ、
どうせどけちのフランス野郎、
ドンクサキッドは先回り。
ドイツはどこだミュンヘンだ、
アウトバ-ンをぶっとばせ、
ポルシェに乗ってミセスバッティ、
ではお得意のカ-チェイス。
ボインビ-トの悩殺爆弾、
アウトバ-ンが舞い上がる、
「うわあバッハのカンタ-タ。」
キッド印のソ-セ-ジ。
脳天しびれてO・四秒、
女スパイの手先になった、
捨て子ゾウルス第三帝国、
スキンヘッドに口裂け女。
「恐竜ウィルス三億円。」
「刺青を入れたら信じてやろう。
ネオナチどもと交渉だ、
キッドの頭にかぎ十字。
いた-いキッドは気がついた、
「胸くそ悪うがきどもが。」
O・五秒大掃除、
女スパイはどこ行った。
道はてんからロ-マへ通ず、
法皇庁の抜け穴だ、
「ユダもアラブもいらんのソウルス。」
ア-メンそうめん味噌ラ-メン。
「世界平和だ寄付にしろ。」
ミセスバッティスパゲッティ。 、
トレノの泉に十円入れて、
ゼニゲバドンの東京へ。
ドンクサキッドは追っかけた、
ディスコノドンのTバック、
「そうれ見っけたバッティおっぱい。」
O・二秒もおしりの壁だ。
「おっとそこまでシンジケ-トだ。」
蝶ネクタイが取り囲む、
「裏切り女はしばり首。」
一人おまけの絞首刑。
新宿都庁を本拠地の、
ジャパンポリスは面倒だ、
棺桶にして火葬場、
恐竜ウィルスは取り上げた、
キッドと二人バ-べキュ-。
なんまんだぶつアッチッチ、
「これをお飲み。」とミセスバッティ、
へんなとこから取り出した、
恐竜ウィルスのアンプルだ。
二人は飲んで爆発だ、
コンクリ-トをぶち抜いて、
モスラになって空を飛ぶ、
「風邪を引いたら、元に戻るわ。」
バッティモスラがそういった、
「シンジケ-トを攻撃よ。」
モスラの羽根は衝撃波、
ミサイルだってふっ飛ばす。
新宿都心を本拠地の
シンジケ-トも崩壊だ、
ボスはロシヤに逃げ込んだ、
KGBの旧別荘へ。
二つモスラはあとを追う、
恋も氷ったシベリヤだ、
インフルエンザAソ連型、
くっしゃん二人元へ戻った。
つららになって凍りつき、
「KGBはからっぽだ。」
ボスはつららに犬ぞりを、
「中国マフィヤに当たってみよう。」
悩殺光線一万倍、
つらら溶けてボスは昇天、
「恐竜ウィルスは貰ったわ。」
犬ぞりとってミセスバッティ。
バックファイヤに手足しびれ、
ドンクサキッドは見送った、
あっちもこっちも雪野原、
たどりたどってバイカル湖。
戸数三百漁師の村が、
女スパイの故郷だ、
ちょうざめ取りの赤ひげが、
ボインビ-トの夫だそうの。
曲撃ち一秒ドンクサキッド、
漁師のひげはつるっつる、
「女スパイの女房を出せ。」
「ママ-シャんとこで手伝っている。」
「どこへ行ってたこの悪ったれ。」
ママ-シャの怒鳴り声、
「もうしない堪忍してえ。」
おしりぱんぱんミセスバッティ。
「盗んだものを返して下さい。」
おそるおそるにドンクサキッド、
「返してやるから手伝いな。」
ママ-シャばあさん一睨み。
ちょうざめ採りのシ-ズンだ、
キャビア工場はフル回転、
キッドはミセスと女の仕事、
「どんくさいったらこの役立たず。」
仕事は終わって夕飯だ、
ウオッカあおってママ-シャばあさん
「わたしゃバイカル海賊育ち、
青い月夜にゃ血がさわぐ。
あれは遠吠え狼の、
そうろり寄せて野郎ども、
大まさかりをかっ飛ばせ。」
飲んで飲んで夜は更けて。
「わたしゃバイカル海賊育ち、
末は王妃かしばり首、
あれはスバルの三つ星、
死体になっても野郎ども。
闇い波間を乗り越えろ。」
どんざん波はバイカル湖、
「西も東もあるもんか、
一杯飲みゃあ同じよ。」
ママ-シャばあさん手を伸ばす、
ぐいとあおった恐竜ウィルス、
さしもロシヤのママ-シャが、
どっかり倒れて息もなく。
「母さんあたしが悪かった。」
むくろにすがってミセスバッティ、
「夫といっしょにちょうざめ取りを。」
泣いて誓ったその明日。
「何をしておる上天気。」
むっくり起きてママ-シャの、
「おかげで風邪がふっとんだ。」
どうやらこれでけりがつく。
恐竜ウィルス低温効果、
「誓ったことは忘れるな。」
くうらり睨んだ二つの目、
漁師の夫にひげも生え。
大統領に電報だ、
「レイノモノショリス・キッド」
ドンクサキッドは鈍行切符、
セイシェル諸島で皿洗い。
「あしたは舟でかじき釣り。」
O・二秒で空缶二つ、
大統領の電話が鳴った、
「Aソ連型世界を征服。」
バイオリン弾き
月の光になって、波になって、
リョンのバイオリン弾きが、
わたしの心を奪って行った、
ド-ル-ラララ、ド-ル-ラ。
花になって、嵐になって、
リョンのバイオリン弾きが、
わたしの耳を、奪って行った、
ド-ル-ラララ、ド-ル-ラ。
氷になって、吹雪になって、
リョンのバイオリン弾きが、
わたしの手足を、奪って行った、
ド-ル-ラララ、ド-ル-ラ。
雲になって、木の葉になって、
リョンのバイオリン弾きが、
わたしの両目を、奪って行った、
ド-ル-ラララ、ド-ル-ラ。
だからわたしはお化けなの、
どこへ行っても外国の、
窓の辺にはくもの巣が、
ド-ル-ラララ、ド-ル-ラ。
ボスネコ
ちいろり小猫がニャ-ンと鳴いた、
大ボス猫がのっそりと出た、
そこいら十匹しゅ-んとなった、
「はい今晩は。」小猫が挨拶、
「いい月です。」「いい月だ。」
四キロ四方は大ボスのしま。
小猫をつれて大ボス猫は、
レ-ガンさんのステ-キを食う、
サッチャ-屋敷の冷蔵庫、
ぴっちゃりぴっちゃにゃ-んごろ、
大ボス猫はトロをぺろうり、
「がきは帰った巡回だ。」
帰らないって小猫が云った、
「世間のことが知りたいの。」
「知ってどうする。」「強くなる。」
大ボス猫はふわ-りあくび、
「いっぺんだって負けなきゃいいさ。」
定刻通りの見回りだ。
「おまえの年にゃ山ん中、
雪かきわけて山鳥を追い、
兎を食って三ケ月、
毎年これが定めになった。」
大ボスさまがうっそり行けば、
犬のけんかもそれっきり。
「駅のシ-トに半日すわる、
哀れなもんだ人間なんて、
長生きするっきゃ能がねえ。」
あっちもこっちも大ボス猫の、
小猫はきっとやしゃ子にあたる、
「おっといけねえご帰館だ。」
小猫はあとへついて行く、
のっそり入った貧乏屋敷、
にゃ-おんごろったら大ボス猫が、
せんべいぶとんにもぐりこむ、
「うるせえってんだ。」がきおやじ、
しっぽをつかんでほうり投げ。
やぶれ障子に猫まんま、
(昨夜の話はほんとかなあ。)
大ボス猫は膝の上、
背中をなでてがきおやじ、
「そうさこいつは猫又よ、
耳は三つに張り裂けて。」
大明神につごう三回、
猫の年なら百歳を越え、
夜中の一時にお帰りだ、
いったい何をしてんだか、
外で会ったら知らん顔、
「酒はさっぱりだめなようだが。」
三年たったら小猫は大ボス、
貧乏屋敷に石かけ一つ、
先代さまのお墓があった、
赤のまんまがゆ-らり一つ、
「人間さまより立派な往生、
三日前から仏であった。」
くふうと笑ってがきおやじ、
大ボス猫はしっぽを立てた、
「まだいっぺんも負けはない、
ボスをつぐならスマ-トに。」
おんなむねこじゃ大明神、
耳は一回張り裂けた。
童謡集三
童謡集三
ペンギンさんのドレミ
ドはどっかのど、
レはレッツゴ-のれ、
ミはみんなのみ、
ファはファンファ-レ、
ソはお空のそ、
ラはらんらららん、
シはしっぽをぴっ、
ド-れ食べに行こう。
ドはどっこいしょのしょ、
レはレッスンのれ、
ミはみんなのみ、
ファはファンタジ-、
ソはお空のそ、
ラはらんらららん、
シはしくじった、
ド-れもう一度。
春はまだ
うそが花のつぼみを食べている、
そんなに食べないで。
雪のなかにぽっかりと開いた穴、
きっとなにかいるぞ。
吹き荒れてとびこんだのどあか、
北海道へ行ったかな。
まんさくが咲いたまんま氷って、
日に当たって溶けて。
味噌汁に入ってたふきのとうは、
朝起きてとったんだ。
むささびぎゃ-
ばっさり飛んで、松の枝、
あれなんじゃいな、月の夜、
ぎゃ-っと鳴いて、あっちへ行った、
人殺しいったら、山の寺、
そうではなくって、運動会。
そうではなくって、UFOだ、
ワ-プといったら、山の寺、
ふわ-っと消えて、こっちへ行っった、
あれなんじゃいな、星の夜、
ばっさり飛んで、二匹になった。
とっとことっとこ、
あれなんじゃいな、
坊さん坐禅、
ぱ-んと一発。
し-んといっとき、
坊さん坐禅、
あれなんじゃいな、
とっとことっとこ。
ばっさり飛んで、松の枝、
あれなんじゃいな、雪の夜、
ぎゃ-っと鳴いて、あっちへ行った、
つららぎっしり、山の寺、
そうではなくって、春が来た。
そうではなくって、むささびだ、
つらら溶けて、山の寺、
ふわ-っと消えて、こっちへ行った、
あれなんじゃいな、雨が降る、
ばっさり落ちて、松の雪。
うりをべったり
き きつねが化けた た
つ 月夜の小犬 ぬ
ね ねこがとっつき き
よ 与太郎ん娘の の
り 両のほほ ほ
は はっかいてう う
ず ずっかいてが が
う 瓜をべったり り
と 父っちゃんに化け
つ つけてはっとこ こ
たぬきがいう う
めでたいな
つ 月の宮の舟大工 く
き 紀州のかわうそ そ
よ 嫁入りやどこだ だ
の 野っ原の三丁目 め
ば 番屋の猫がにゃ-お
ん んとこしょのあっち
に 荷は二つ届けた た
めでたいな
花の子守歌
金のお椀に月を盛り、
銀のお椀に雪を盛り、
一つ吸うてはねんころろ、
二つ吸うてはねんころろ。
天の舟には旗をのせ、
風の舟には酒をのせ、
一つ漕いではねんころろ、
二つ漕いではねんころろ。
浅い井戸には花の影
深い井戸には星の影、
一つ汲んではねんころろ、
二つ汲んではねんころろ。
近い橋には毛槍歌、
遠い橋には笛太鼓、
一つ聞いてはねんころろ、
二つ聞いてはねんころろ。
金の櫛には春の雨、
銀の櫛には秋の雨、
夢や現つやねんころろ、
なんに泣くとやねんころろ。
天の窓には吹き流し、
風の窓には影法師、
行くも帰るもねんころろ、
なんに泣くとやねんころろ。
、
はやい流れに桃を投げ、
おそい流れに箸を投げ、
人の浮き世をねんころろ、
なんに泣くとやねんころろ。
高い塀には竜のひげ、
低い塀には獅子頭、
末に生まれてねんころろ、
なんに泣くとやねんころろ。
金の太刀
むかし山の本田の長者さま、
たにしのように邪しまで、
背いた者にはに水やらぬ、
大勢連れて狩に出た。
弓矢がそれてあろうことか、
芹を摘む娘に当たる、
「鴨ではないが。」とその父親、
「なんとな。」長者は云った。
「それ射て鴨の父子じゃ。」
勢子どもはいっせいに弓を取る、
「なんということを。」
両手をあげて若者が立つ。
「わしは本田の長者そちは。」
「伊谷の十郎。」
名告って太刀を引き抜く、
「外道め成敗いたす。」
手勢をうち伏せ、
長者のそっ首をはねた、
「お逃げなされ。」娘の父親、
「責めは喜んで受け申す。」
よって伊谷の十郎は、
山の本田をあとにした、
噂も絶えて十何年、
父母の家屋根に、
月は二つと鳴りくらめいて、
金ねの太刀が抜き立った、
太刀には文が付く、
「ご不孝お許し下され、十郎は、
妻と二人月へ行く。」
月を仰いで父母が、
形見の太刀に涙流せば、
金ねの太刀が物語る。
故郷をあとに伊谷の十郎、
賊のやからを平らげて、
山川越えてやって来たれば、
風のたよりにこう聞いた、
「草もなびくと美しいやな、
松の長者のさゆら姫。」
尋ねれば松の門前、
苔むす大岩に太刀が一振り。
「この太刀引き抜いた者に、
ゆら姫をやる。」札が立つ、
なんのこれしき伊谷の十郎、
柄をとっては引き抜いた。
どんがらっぴっしゃ雷と、
その手になった巌の太刀、
「天晴れ見事引き抜いた、
そっ首はねたは四十と九人。」
まっ白い松の長者が引き合わす、
美しいやなさゆら姫、
三年三月は夢のよう、
子のないだけがたった一つの。
巌の太刀に見入る十郎、
思いは遠く父母の辺、
不意にあやしの気配、
切先走って斬りつけた。
朱けに染まって倒れるのは、
美しいやなさゆら姫、
返す刀で我と我が胸を、
「待った。」と云うて松の長者。
「末摘む花は宝のつぎ穂、
子のもうからぬ姫は末、
朱けに染んだ刃はつぎ穂、
鬼の宝を取りに行け。」
姫へのはなむけわしが為、
まっ白い松の長者が申し様、
伊谷の十郎ゆら姫の太刀、
行方定めぬ旅枕。
歩む行く手は太刀が知る、
西へ向かって十日余り、
さんさあ風に鈴が鳴る、
「宝の守りは鳴子太郎。」
四方八方白刃に舞う、
すねをえぐり耳をそぐ、
「死なば死ね。」伊谷の十郎、
ゆら姫の太刀をとって突っ走る。
とーんがらごろ綱はふっ切れ、
鳴子太郎の守りは抜けた、
山を揺るがす竹林、
ふーわり跳んだ巨大なけもの。
「千年劫をへて盲になった、
宝の守りは白虎二郎。」
十郎をひっとらえ、
急所を外してもてあそぶ。
雷のように喉を鳴らす、
氷の牙をすんでに逃れ、
十郎太刀をつっ刺して、
白虎の首にまたがった。
「めくらの目になろう走れ。」
虎は千里を行って倒れ、
日はとっぷり暮れて、
一つ屋敷に灯が点る。
くたぶれて宿を乞えば、
美しい女が案内する、
たらふく食って湯に浸り、
床を取ってこう聞こえ。
「宝の守りは屋敷三郎、
ゆっくり眠るがよかろう。」
古い書物が一冊あった、
詞を追えば目が閉じる。
「ゆめやうつつやたからぐら、
ひとついのちをふたつにかえて。」
二日を眠り十日を眠り、
ゆら姫の太刀を腿に刺す。
「あやしのえにしむなしくおわる。」
十郎ついに読み終えた、
一つ屋敷が火を吹いた、
炎の海を危うく逃れ。
笛や太鼓に行列が行く、
輿に乗る美しい花嫁、
「めでたいな。」伊谷の十郎、
「なにがめでたい。」若者が云う。
「くすのき様へ生け贄じゃ。」
ひよどりの大くすのきは、
あしたに二十の村を覆い、
ゆうべに二十の村を覆い、
七年に一度花嫁を迎える、
「そんなものは伐り倒せ。」
花嫁なんぞいらぬと十郎、
祟りが恐ろしいと若者。
「木挽を十人用意しろ。」
「ではそうしよう。」必死の若者、
夜を日についで木は伐られ、
「よそ者がなんということを。」
石のつぶてが飛んで来た、
八方にうなりを上げて、
「宝の守りはつぶて四郎。」
そう聞こえては撃ち当たる。
太刀をないでうち払い、
「くすのき様の花嫁じゃ。」
美しい娘が胸を押し広げ、
いったん止んでうち当たる、
「またの世に結ばれようぞ。」
むくろを抱いて若者、
石のつぶてをなぎ払い、
さしものくすが倒れ伏す。
「くすのきにふねをこさえて、
たからのたびはうみのはて。」
娘のむくろが口を聞く、
弔いおさめて伊谷の十郎。
大くすのきに舟をこさえ、
鬼の宝は海のはて、
伊谷の十郎ゆら姫の太刀、
十日九夜波枕。
とつぜん海はまっくらめいて、
「宝の守りは霧五郎。」
べったり凪いで五里霧中、
同じところを堂々巡り。
夢やうつつや幻に見え、
帆げたは腐れかじは利かず、
はやこれまでと十郎、
投げ入れたゆら姫の太刀。
切先光って波に浮く、
あとを辿って舟を漕ぎ、
霧五郎のはらわたを抜け、
しだいに海は吠え狂い。
ぺっかり稲光に大波うねり、
「宝の守りは嵐六郎。」
かじは吹っ飛び帆柱折れ、
木の葉のようにもてあそばれて。
海の藻屑と消ゆるには、
いくたり乙女が舞い歌う、
「ちとせをへぬるくすのきの、
ふねはちたびのあらしにたえて。」
へさきに立って十郎、
ゆら姫の太刀を抜く、
雷うってごう然、
ひるがえり六郎の目ん玉を撃つ。
どっと津波に押し出され、
生臭い臭いに電光、
波は逆巻いてうねり、
「宝の守りは大蛇七郎。」
おろちの七つかまっ首、
これに対えばあっちが襲う、
一つ失せりゃ二つ生える、
死に物狂いの十郎、
血潮に濡れる切先に、
美しいやなゆら姫の、
おもかげ佗って袖を振る、
したがい大蛇は海に消え。
すざまじい臭いがして、
いちめんに腐れ漂う、
「宝の守りは腐れ八郎。」
血いだら真っ赤の生首。
手足目ん玉くされわた、
おおぞろもぞろかき上がる、
うちすえひっぺがえし、
気も狂うかと十郎、
引き抜いたゆら姫の太刀、
鞘は衣に押し広がって、
清うらに舟を包む、
腐れの海は伝い抜け。
塩を吹いて海は泡立つ、
「宝の守りはひでり九郎。」
らんらんとレンズの目、
舟は裂け帆は燃え上がる。
お刀をとゆら姫の声、
引き抜いて日にかざせば、
光の渦になりくらめいて、
冷たいしずくと注ぎ落ち。
ひでり九郎を舟は抜け、
四つの守り五つの界を、
乗り越えて、流転三界、
鬼の宝は虹のはて。
金銀珊瑚あや錦、
紅玉碧玉しおみつの玉、
かりょうびんがか歌う羽衣、
へんげの壺にへらずのお椀。
命の泉につくも岩、
浮き寝の梯子天の速舟、
命の泉に太刀をひたし、
美しいやなよみがえる。
松の長者のさゆら姫、
ぬけがらは金ねの太刀に、
十郎ゆら姫天の速舟、
鬼の宝は積み込んで、
その夕映えの大空へ、
姫の指さす星の座、
「鳴子の星にめしい虎。」
「一つ屋敷につぶて星。」
二人数える星の座、
「霧のカーテン嵐の目、
七つ大蛇にくされ星、
ひでりレンズ。」と九つの。
「宝の守りは十郎お前じゃ。」
天の速舟が口を聞く、
「たしかにわしは伊谷の十郎。」
「舟は下界には下りぬ。」
人の持つ品にはあらず、
鬼の宝は鬼に返すか、
「月の国へ。」とさゆら姫、
「よかろうそこへ。」と十郎。
「その舟待てえ宝のつぎ穂。」
真っ白い松の長者は、
鬼になって後を追う、
十郎父母の屋根に。
金ねの太刀は振り落とし、
伊谷の里には十五夜、
浮き寝の梯子が舞い降り、
月の国へも行けるそうな。
童謡集四
童謡集四
ゆーばん世界一周
とんとむかしがあったとさ。
うちなん村の、ゆーばんは、うりが咲いても、寝てばっかりの、ぶーすーぷうらり、鼻提灯。
蝿がたかって、世界一周、くーらり回って、ぱちんと割れた。
のっこりゆーばん、旅に行く。
「どこへ行く。」
と、となりの姉さ、
「世界一周。」
すたこらさっさ。
「さんごのかんざし、買うて来て。」
姉さ云ったが、ひいらり花の。
もっけの河の、舟くいに、漁師のもっさが、舟をもやう。
ゆーばん乗って、棹をさす、
「かつおを取るで、夕には返せ。」
もっさが云った、
「はいな夕方。」
流れに乗ったら、わからない、河はどんざん、そで山過ぎて、ころも山、おうかん鳥が、きいろり鳴いた、枕崎には、夢の花。
「山川ふうらり、いいなあ烏。」
ゆーばんいったら、押し合い浜に、あわんとどもが、押し寄せた。
あわんと舟は、かにの爪、
「川の上から、神さまが来た。」
「神さまでねえ、ゆーばんだ。」
「そんなら歌え。」
棹とったら、ゆーばん歌う、
「ゆーばんぶうらり、
鼻提灯、
寝てばっかりが、
きんたまくさる。」
「神さまでねえ。」
爪にはさんで、ゆーばんを、せんぐらとへ、投げ入れた。せんぐらとは、渦巻いて、ゆーばんぷっかり、海に浮く。
どうしようたて、どんざん波の、しいらん魚が、口を開け、ぷっかりふーい、飲み込んだ。
しいらん魚の、腹の中。
屋敷を建てて、だれか住む。
「世界一周の、ゆーばんだ。」
「釣ろうとしたら、食われちまった、漁師のざっき。」
ざっきとゆうばん、二人仲良く、腹の中。
「百年めには、竜宮へ行く。」
ざっきが云った。
「しいらん魚の、お役人。」
「待ってはおれん。」
ゆーばん云った。
でっかい骨に、槍をこさえて、つっ突いた。しいらん魚の、浮き袋。
ぶふうといったら、沈没だ。
そこなんとの、そこなん岩に、しいらん頭を、ぶっつけた。
ぶーいと二人、吐き出され。
しいらん魚と、
「こいつを引いて、凱旋だ。」
漁師のざっきは、村へ帰る。
「世界一周の、ゆーばんだ。」
そこなんとの、門を叩くと、
「なんかご馳走が、作れるか。」
門番が聞く、
「いもん汁なら。」
「うんまいか。」
「そりゃあうんまい。」
ぎいっぷっかと、門が開く。
そこなんとの、美しい、みやはんのきろしただ姫さま、うんまいものが、大好きで、
「お口にあわずは、殺す。」
まさかりもって、大臣が立つ。
みやはんのきろしただ姫さま、
「うんまいはんのきろ。」
三ばい食べて、
「ぶーいぷっかり。」
「あれはんのきろ。」
でっかいおならが、止まらない。
「忘れておった。」
と大臣、
「そこなんとは、食ってはならぬ、いもん汁。」
大まさかりが、追っかける。
「ひえー。」
ゆーばん、ぷーいぷっかり、おならつかんで、海の上。
どんざん波に、十日もいたら、がいこつ印の、海賊船が、さしかかる。
「世界一周の、ゆーばんだ。」
「だったら乗れ。」
と、こぎ手にされた。
「そうれ行け。」
獲物めがけて、まっしぐら、ゆーばんだけが、あべこべじゃ。
「しょうがねえったら、飯炊きだ。」
塩水炊いて、大失敗。
一本マストの、見張り役。
ゆーばんぷーらり、鼻提灯、ぱっちん割れて、虹が立つ。
「一万両に、きれいな嫁さん。」
そうれといったら、まっしぐら、どーんと岩に、乗り上げて、いわなんとが、押し寄せた。
「ししっ鼻には、虹が立つ。」
「一万両に、きれいな嫁さん、おっほっほ。」
海賊船は、降参だ。
「おまえはなんだ。」
と、いわなんと。
「世界一周の、ゆーばんだ。」
「だったらこやつに、乗って行け。」
いわなんとは、けおるぐ鳥を、引いて来た。
「食われんように。」
けおるぐ鳥に、手綱をつけて、ゆーばんどっかり、大空へ。
村から町へ、花の踊りの、娘たち、どっかん大砲、戦争だ、うねりめぐって、大蛇の河の、森はうるうる、大ばけものの。
けおるぐ鳥は、右へ旋回、ぼやーと雲に、眠くなる。
「きーけおる。」
ひなは三匹、お城のような、巣の中の。
ゆーばんぎゃあと、ひなのまね。
ぎゃあぎゃあ三月、巣立ったあとは、空っぽの。
雪がさんさん。
巣ごと、スカイダイビング。ぴえーと滑ってゆーばん、どっかの家の、窓へ突っ込む。
青い目をした、女の子、
「世界一周の、ゆーばんだ。」
「お父さんも、お母さんも、ダンスに行って、帰らない。」
二人でもって、捜しに行った。
塩のホールは、酔っ払い。
波止場は烏が、かーおさや。
「キータラの、白いお化けが、さらって行った。」
あーんと泣いて、女の子。
「みやはんのきろしただ姫が。」
ゆーばん話す、
「みやごはん。」
「いもん汁食べて、ぷわーりぷっかり、あれはんのきろ。」
「はあはんのきろ。」
女の子は、大笑い。
氷の浜に、夫婦は踊る。
沈まない日が、くうらり。
「もう三日めよ。」
と、女の子、
「そうか道理で。」
「お腹が空いた。」
三人そろって、帰って行った。
ゆーばん一人、氷のダンス。
影と二人、手をつなぐ。
くうらり、お日さまに、とげが刺さって、ごおっと竜巻。
「せかいいっしゅう、ー 」
飲み込まれ。
にしんとたらが、いっぱい泳ぐ、そいつを食って、デルタヨッホの、港へ着いた。
デルタヨッホは、百万都市の、ゆーばんは、にしんとたらで、大もうけ。
竜巻印の、缶詰めだ。
にしん屋敷に、きれいな嫁さん。
ひげをしごいて、演説だ。オペラに行って、大あくび、蝿が止まって、鼻提灯、
「にしんのげっぷは、もういうやだ。」
きれいな奥さん、駆け落ちだって、
「そうだゆーばん、世界一周。」
屋敷を売って、車を買った。
野越え山越え、突っ走る、
「しまったわしは、無免許運転。」
ぐるぐるひーん、フェラーリは、入ったら出られぬ、シンダールの砂漠。
ぶっこわれ車に、ひっからび。
死んでゆーばん、ぼうぼうばっちと、砂嵐。
らくだビートが、鞭をひゅーるり、死体をさらう。
どんごろどんご、水を吸ったら、蘇る。
「ゆーばんだろうが、死体になったら、らくだビートの、財産よ。」
金山掘りに、突っ込まれ、明けても暮れても、働かされて、
「ゆーばんふーらり、
皮ばかり、
死んでも生きても、
同じだ。」
月がぺっかり、山の上。
「お月さま、金の糸。」
といったら、ぴえーと下がる、金の糸。
それつかんで、ふーらり浮いた、真っ赤なくもの、八つの目、
「なんてえ痩せだ、食えもせん。」
くもはふうっと、吹っ飛ばす。
明日夜明けに、吹っ飛んで、たんだろ村の、大男、たんだねーるの、耳の中。
「世界一周の、ゆーばんだ。」
「けしつぶが、何を云う。」
「けしつぶだて、役に立つ。」
「ほんとうか。」
と、たんだねーる、
「では美しい、たんだふろーりあを口説け。」
あざみの花の、イアリングに、ゆーばんを入れ、誕生祝いの、プレゼント。
「エーデルワイスに、替えて来て。」
美しい、たんだふろーりあは、恋人の、みおーんにいう、恋人みおーんは、エーデルワイスをプレゼントして、
「こいつはもらう。」
と、耳へくっつけ。
恋しい人よ、たんだねーると、日も夜もなしの、ゆーばん口説き。
みおーんは、たんだねーるを、追いかけた。
「止めろったら、シュミはない。」
「天の声だ、止められん。」
「もうきらい。」
と、美しい、たんだふろーりあは、たんだねーるに、鞍替え。
「どうじゃ、どんなもんだ。」
と、けしっつぶ、
「たいしたもんだ。」
美しい、たんだふろーりあと、三人そろって、乾杯。
ぱっちん、ワインが溢れて、河になる。
「めでたいうわあ。」
ゆーばん、流れて行った。
「せかいにっしゅう、にょうはんた。」
酔っ払って、着いたところは、戦場だ。
アラント軍と、フルント軍が、どうどうどっかん、鉄砲嵐、
「うるさったいな。」
ゆーばん、そこらにあった、旗を振る。
左右に振って、突き刺した。
大砲一発、
「百年戦争は、おしまいだ。」
あたりはしーんと、鎮まり返る。
「ごるたの丘に、旗が立つ。」
おうといって、大歓声、百万人が、手を取りあった。
「永遠の、平和のしるし。」
アラント軍の、大将が云った。
「旗の男は、銅像に。」
フルント軍の、大将が云った。
みんなでもって、塗り固め、
「世界一周の、ゆーばんだ。」
「ぐるっと回りゃ、世界一周。」
回るどころか、びくともせん。
鳩がぴいっと、糞をひり、
「となりの姉に、さんごのかんざし。」
月の光に、ゆーばん泣いた。
涙になって、流れ出す。
そうしてもって、貝のから。
「ゆーばんぶーらり、
貝のから、
うちなん村は、
海のはて。」
波間に浮いて、歌ったら、
「うちなん村は、
海のはて、
ぶーらりゆーばん、
貝のから。」
波はうねって、また歌う。
となりの姉さ、孫ができ、二人まごが、遊んでいたら、赤いさんごの、かんざしもって、しろいひげの、じいさま来た。
「世界一周の、ゆーばんだ。」
名告ってもって、
「みやはんのきろって、お姫さま、氷の浜に、ダンスを踊り。」
おもしろうに、話して聞かせ、
「そんでどうした。」
「それから。」
「八つの赤い、くもの目が。」
みんな話さず、あの世へ行った。
とんとむかし
天神山のきつねがさ、
小僧に化けて、
和尚のもちを食ったとさ、
なんまんだぶつ、
こんちきしょうめ、
和尚は怒って。
きつーい折檻、
くわんくわんと鉦が鳴る、
くったくったと鍋のふた、
あれなんとした、
いつんまにやら、
和尚が二人。
「そっちがきつね。」
和尚が云った、
「そっちがきつね。」
和尚がいった、
提灯さげて、
きれいな娘がやって来た。
坂東屋敷の法要じゃ、
十月三日に来ておくれ、
「ふーんわかった。」
「おときは出るか。」
おっほう笑って、
「そりゃ大ご馳走。」
坂東屋敷の提灯二つ、
「あらこれかしら。」
きれいな娘が、
火を点けた、
「あっちっちっち。」
しっぽを焼かれ。
きつねは走る、
野越え山越え、
十丸池に突っ込んだ、
じゅうといったら、
「ひい助かった、
若い娘は剣呑じゃ。」
しっぽをぱっくり、
十丸池の大なまず、
きつねは仰天、
「引き込もうかい。」
「釣り上げようかい。」
うんとこどっこい。
うんとこどっこい、
勝負はつかず、
天神山が仲裁だ、
「ひげを一本、
きつねが取って、
しっぽ半分大なまず。」
ひげを一本、
きつねは取って、
しっぽ半分すすきの穂、
天神山に月がぺっかり、
勝負はついた、
すたこらさ。
坂東屋敷の法要だ、
なんまんだぶつ、
お経がすんで、
大ご馳走、
あんれや和尚の、
お袈裟が二枚。
あっちをぺろうり、
こっちをぺろうり、
「これなんとした。」
「なんともなんまん。」
きれいな娘に巻きついた、
「あらもったいなやの。」
地震ぐうらり、
なげしの槍がまっさかさ、
ぴったりつけりゃ、
「助けてくれ。」
きつねは逃げる、
槍は追う。
十丸池へ、
槍と見えたはひげ一本、
「しっぽを半分。」
ぱっくりまるごと、
大なまず、
「天神山の仲裁じゃ。」
天神山のきつねがさ、
しっぽがのうて化けられぬ、
月はぺっかり、
坂東屋敷、
お寺はさんさ、
雪が降る。
はたすすき
あいつは火星人だぜ、ヨシオさ、
つむじが三つ、水爆頭、
スーパーパワー、ライブドア、
なんたって100m23秒。
(x=つゆの玉にルート、光速一定だから雲の三乗。)
四教科あわせて5点だってさ、
おっかねえ工藤の数学も、あいつ、
ぶーすー寝てて、目開けると、
ぴったし今何時何分て。
りえちゃんの歌歌って、ぼこぼこに、
星野に、ぶんなぐられた、
水爆頭ふわーとつったって、
かわいそうだっても、大笑い。
りえちゃん、学校へ来るんだって、
「だれが呼ぶのか、乱れ雲、
月は三日月、流行り歌、」
りえちゃん、卒業生だもん。
(k分数にインテグラして、ソフトバンクの二重回線。)
あいつたこんなって、立たされて、
めちゃんこ書いてあるんだ、ノートに、
りえちゃんはタレントだが、
このクラスには、天才がいるってさ。
「浮き名をおくの、夜は明けて、
見果てぬ夢を、はたすすき。」
花束贈呈を、星野はいやだ、
みんなで天才に、しちまった。
かわいそうにあいつ、もしや、
腕とか足、もげちまったり、
「白い紙片に、吹き飛んで、
もがり笛かや、流行り歌。」
「さいの川原に、石を積み、
空しい恋を、はたすすき。」
整理券4000円だって、
そんなん駄目だ、星野のやつ。
「はたやほーたら、はたすすき。」
なぐられたって、不買同盟だ、
ヨシオを守ろう、恥だよ、
「紅葉の辺に、雪を置く、
名さへ忘れて、流行り歌、
最上川かよ、みをつくし、
破れほうけて、はたすすき。
はたやほーたら、はたすすき。」
「からくれないに、紅をさす、
憂いの夏を、流行り歌、
寄せては返す、潮騒の、
波の花さへ、はたすすき。」
大成功だった、テレビも来たし、
星野一派なんて、どうってことない、
見たか、あいつ花束といっしょに、
両足、浮き上がったんだぜ。
童謡集五
童謡集五
大漁祭り歌
百合あへ浜に潮満つ、
さてもおんどろ寄せ太鼓、
泳ぎ渡ったさお鹿の、
角館岩に日は昇る。
さても大漁祭り歌、
男は伊那の八丁櫓、
さかまきうねる渦潮の、
なめりの底に虹をかけ。
弓矢にかけて押し渡る、
八幡太郎義家は、
その美わしき平らの地、
久島の王に使者を立て。
「鳴門の渦を押し開き、
八十の平らを明け渡せ。」
かく伝えてや龍神の、
猛り狂って申さくは、
「弓の汚れになろうには、
久島を共に海の底。」
その逆鱗に泡だって、
使いを潮に呑み込んだ。
漂いついて若者は、
もがいの浜に息も絶え、
七日七夜を添い寝して、
一つ命を救うには。
久島の王の愛娘、
百合あへ姫と名を告げた、
十月十日の月は満ち、
玉のようなる子をもうけ。
泳ぎ渡ったさお鹿の、
尻尾哀しい初秋や、
使いの役を果たさんと、
坂東武者は浜を去る、
その美わしき平らの地、
子は父親に生き写し、
潮の鳴門に生い育ち、
弓矢のわざに抜きん出て。
父に会おうと子は云った、
会ってはならぬと母は云い、
さてもこっそり流れ木に、
渦潮かけて他所の国。
父に会うさへ束の間の、
子を押し立てて攻め寄せる、
八幡太郎の軍勢に、
鳴門の波は血汐を巻いて、
その美わしき平らの地、
八十の島廻を地獄絵の、
久島の王も破れはて、
百合あえ姫は波のむた。
とこのえ眠る乙女子の、
波はおんどろ寄せ太鼓、
神さびわたるさお鹿の、
きらいの岩に日は沈む。
今宵十五夜満月の、
男は伊那の八丁櫓、
鳴門の汐に虹をかけ、
さても大漁祭り歌。
ペンギンさんのドレミ
ドはどっかのど、
レはレッツゴーのれ、
ミはみんなみ、
ファはファンファーレ、
ソはお空のそ、
ラはらんらららん、
シは尻尾をぴっ、
ドーれ食べに行こう。
ドはどっこいしょ、
レはレビューのれ、
ミはみんなのみ、
ファはファンタジー、
ソはお空のそ、
ラはらんらららん、
シはしくじった、
ドーれもう一度。
やひこ
弥彦が見えた、
明日は晴れる、
そんなこたないよ、
烏がかーお。
お地蔵さん。
弥彦がくもる、
今夜は雨だ、
そんなこたないよ、
とんびぴーとろ、
田んぼは刈って、
あかのまんまに、
こんぺいとう、
とんぼがいっぱい、
お地蔵さん、
弥彦が見えん、
嵐が来るぞ、
そんなこたないって、
雲の中のお月さん。
タイムスリップ
河の向こうに月が出た、
夕焼け山に飛行機が、
すすきさーらり空間移動、
夜行列車のタイムマシーン。
銀河宇宙を飛び越えて、
アンドロメダの大星雲、
青い地球のここはどこ、
海猫鳴いてにゃーおと聞こえ、
三角塔には雲が浮かんで、
ブルーネットの女の子、
「パパは戦闘機に乗って、
ママはナースになって、
平和のための戦争だって、
頼りもなくって行ったっきり。」
哀しい声は風の歌、
ロケット砲がうなりを上げて、
町は真っ赤な火の海に、
月はてっかりみどり色、
敵は十日で敗戦だって、
三年たってもまだ続く、
どんざん波にうち寄せる、
なんの破片かブースター、
敵も味方も死体になって、
昆布といっしょに浮かんでる、
配給パイプが破裂して、
三日をなんにも食べてない、
海猫鳴いて日は暮れて、
パパもママも生きてはいない、
片腕の目もない男が、
冷たい娘を抱き上げた、
「ママはもう帰って来ない、
なんでおれだけ生きている。」
「平和のための戦争なんて、
そんなものはありっこない。」
夜行列車のタイムスリップ、
空しい父子を戦争前に、
「百万人がこうなった。」
父は娘をさし示す、
がらんがらーん戦の告げか、
涙にむせんでなんにも見えぬ。
「なんでそんなに泣いてるの。」
ブルーネットの女の子、
「ママのおいしいスープが冷める、
今日はあたしの誕生日。」
すすきさーらりおめでとう、
電信柱がうなって行って、
銀河宇宙の時空を超えて、
ふっと聞こえたパパの声。
夏が来た
一つ日影のいちりんそう、
二つ古寺白い梅、
三つ三日月杉の森、
四つ夜っぴで蛙鳴く、
五つ井の上山桜、
六つは村のお祭りだ、
七つ中しも青田んぼ、
八つ八代の松風、
九つこうやのほととぎす
十でとうとう夏が来た。
春はな
春はな、
さーやさやさや咲く花の、
花のさくや姫さま、
ほ、
お好きなようじゃて、
ほ、どんがらぴー。
とって、日は昇る。
田んぼの蛙も、
けえろと鳴けば、
山んどだて、
のっこと生ひる。
春はな、
ひーらひらひら散る花の、
花のさくや姫さま、
ほ、
お好きなようじゃて、
ほ、どんがらぴー。
とって、月が出た。
川んどじょうも、
にょうろり行けば、
谷内んたにしも、
ぷったかふた開く。
春はな、
とーろとろとろ行く水の、
雪んはだれは、
ほ、
駒の姿で、
ほ、どんがらぴー。
とって、風が吹く。
山んおがらも、
もんがら茂りゃ、
でとんお美代も、
さんのせだすき。
春はな、
ぞーろぞろぞろ行く水の、
谷内んせきだて、
ほ、
どっと流して、
ほ、どんがらぴー。
とって、雨が降る。
わらびゃぜんまい、
どんどこ生ひりゃ、
まむし青大将が、
ぞうろり歩く。
(かってにこさえて続ける。)
みそさざい
みそっちょみそっちょ、
十三七つ、
味噌樽はまって、
味噌あばた。
あっちへ飛んだ、
こっちへ飛んだ、
しばっこくぐって、
花嫁修業。
なあにを計る、
一間五尺、
たんす長持ち、
宝蔵。
一二三四、
寿命を数え、
一二三四、
ぴいっと鳴いた。
向こうのすみへ、
娘を埋めた、
月の夜中に、
ぺろうり幽霊。
西へ行ったら、
道祖神、
東へ行ったら、
さいの神。
みそっちょみそっちょ、
十三七つ、
しばっこくぐって、
もう一つ。
とんびの真似して、
ぴーとろ鳴いて、
田んぼにはまって、
たにしになった。
ぎふちょう
でっかい牙の、
マンモスは、
毛むくじゃらで、
優しい目をして、
もおっと鳴いて、
草を食べていた、
そうさ、
飛んでいたのさ、
花から花へ。
悲しい目をして、
マンモスは、
でっかい鼻をもたげて、
もおっと吠えて、
行ってしまったよ、
そうさ、
帰って来る日を、
待っているのさ、
花から花へ。
夕焼け
雲は真っ赤な亀の甲、
星のくらげをぱっくり幾つ、
兄ちゃんのぴっかりトラックは、
竜宮城へパワーハンドル、
札幌から帰って来ない、
出稼ぎだって一月たった、
東の空は口裂け女、
あっちを向いたら狐の尻尾、
お姉ちゃんの銀色ネイル、
ひっかいてだらーり血。
東京から帰って来ない、
だれかを追っかけて行った。
空缶一つぽーんと蹴った、
からんと夕陽が追っかけた、
とんもろこしの長い行列、
茶髪頭はもう着いて、
とっくにテレビを回してる。
来たぞ来たぞあられちゃん。
せんじん谷内のお化け杉、
腹がへったあ人さらい、
おじいちゃんがいっていた、
三人四人いねえなったって、
北朝鮮で生皮はがれ、
お父うもお母ももしかして。
世界一周
ぴいちく雀が、
田んぼにはまって、
たにしになって、
鯉に食われて、
うんちになって、
あぶがぶんぶん、
ひーるになって、
牛にとっついて、
もっくらもっくら、
でっこうなって、
くじらになって、
海へ入ったら、
世界一周。
金の臼
むかごがぷーらり、
うさぎが食って、
目は真っ赤、
もひとつ食って、
耳はのっきり、
みーんな食って、
ぴょーんと跳んで、
雪はさんさん、
笹やぶ行って、
でっかいお寺の、
てっぺんから、
お月さん、
お餅つき、
ぺったんこの、
金の臼。
みのむし
葉っぱが落ちて、
木は淋しそうだ、
ぴーぷー風が吹いて、
ふるえてる、
それとも、
恥ずかしいのかな、
裸になって。
(とうろり夏の夢を。)
雪がふって、
木は涼しそうだ、
ひいらりほらり、
次から次へ、
それとも、
誇らしいのかな、
白い着物が。
(春の嵐は金の糸。)
鳥がやって来て、
木は困っている、
あっちへ飛び、
こっちへ飛び、
それとも、
知りたいのかな、
遠くの世界が。
(いけない食べられる。)
雷鳴って、
木はたいへんだ、
どうっと吹雪に、
月が隠れる、
それとも、
歌っていたいのかな、
大声で。
(虹の七色のほうら。)
童謡集六
ゼフィルス
キュンとお鼻が空を向き、
みどりの髪はうねるゼフィルス、
すてきな彼女に恋をした、
「ぼくはあなたの青いスカーフ。
砂漠の天気もゴーサイン。」
「あたしのハートは真っ赤なの、
ラピスラズリの月の影。」
年は十七サラマンダー。
ジープに乗って走り去る、
あとを必死にランクルが追い、
どおっと砂を巻き上げて、
どこへ行っても蜃気楼。
「三千世界に虹をかけ」
「七つの夢のたった一つを。」
スフィンクスが微笑んだ、
一万年の死人の眠り。
ラピスラズリの星空に、
優しい夜は風の歌、
突如サハラはさやめいた、
ため息一つトルネード。
ハートのような真っ赤な岩に、
四輪駆動は空回り、
嵐をさけて洞窟の中、
「あたしの夢はどうなるの。」
タンクの水もあと一杯、
緑の髪も砂だらけ、
絵文字のような壁画があった、
槍をくうらり野牛の涙。
嵐が去って底無しの、
赤い壁から文字が抜け出す、
槍は交互にぶっちがい、
たくましい七人の若者。
「金色の果実と、コンドルの舞う、
大オアシス、豊穣のサハラは、
迎えるであろう、西風の乙女を。」
黒い七つのダイアモンド。
「マットグロッソの七人兄弟、
中の一人をえらぶがよい。」
ゼフィルスの乙女は選んだ、
真夏の目をした末の弟。
「右手の槍はなんじがもの。」
「捧げるつぼみの花一輪。」
二人は手を取り合って、
六人の兄は祝福。
大兄はオアシスの歌を歌い、
二の兄は椰子の実を二つ、
三の兄はくちなしの弓、
四の兄はアナコンダの皮を。
五の兄はひひの遠吠えを、
六の兄は火食い鳥の羽根を、
新婚の二人に贈った、
そうして森の泉に浸る。
日は千万の茂みを映し、
月は万億のさやめきを、
ガジュマルの涼しい住まいには、
椰子の実は吸って二つの器。
くちなしの弓に獲物を追い、
蛇の皮に傷を癒し、
ひひの遠吠えに危険を知る、
日食い鳥の羽根に門を飾り。
大兄のオアシスの歌に響き、
豊かなマットグロッソは廻る、
ハイハイハルーオーレーナ、
ホイホイホルーアーレーナ。
十月十日の月満ちて、
新しいダイアモンドが生まれ、
すんなりと生い育って、
三つのころには槍を持ち。
次はゼフィルスの美しい花を、
大空は底無しの井戸、
ハイハイハルーオーレーナ、
ホイホイホルーアーレーナ。
大オアシスの真っ昼間、
夫が耳をそばだてた、
「大兄の歌が聞こえない。」
火食い鳥の羽根がさやめく。
マットグロッソを駆けめぐる、
「いったいなにが起こったの。」
「オアシスに死病が流行る、
わしらの他はみな倒れ。」
槍をとって夫は云った、
「コンドルの峰へ行って、
死病を治す青い花を。」
取りに行くなら妻のあたしも。
子供を置いて蛇の皮、
二人は森を突っ走る、
底無しの沼をわたり、
ライオンの草原をよぎり。
人食い猿に追われ、
激流に舟を浮かべて、
すんでに取り付こうとて、
呑み込まれて洞穴の中。
ごうごうまっ暗闇を、
いったい何日、
浮かび上がった島の上、
巨大な亀の甲羅であった。
二人をのせてのっそり這い出す、
岩の裂け目をよじ登り、
一日寝ては三日をたどり、
とつぜんまぶしい日の光。
大コンドルの雪の峰、
百花繚乱咲く花の、
青い花だけ見当たらぬ、
亀はのっそり苔を食み。
「月夜の晩に花は咲く、
大オアシスの言い伝え。」
夫は云って夜を待つ、
今宵満月十五夜の、
月光には真っ白い花、
朝日を浴びて真っ青に、
花を手折って妻のたもとへ、
身を劈いて夫が云った。
「死体をねらってコンドルが来る、
そやつを掴んで舞い下りろ。」
「おまえをおいてなんであたしが。」
「子供と兄の命を救え。」
蛇の皮も役立たず、
群がり寄せるコンドルの、
足をつかんでゼフィルスは。
その絶壁を舞い降りた。
その月光の青い花、
六人の兄の命を救い、
子供の命をつなぎとめ、
大オアシスはよみがえる。
ホイホイホルーオーレーナ、
ハイハイハルーアーレーナ、
「あとを追うさへ許されぬ。」
忘れ形見に涙を流し。
「泣くなゼフィルスサハラの命。」
声は空ろにこだまして、
「死ぬなゼフィルスぼくの恋人。」
その身をゆさぶる若者は、
「さがしあてたぞさあ水だ。」
半分砂に埋もれて、
すてきな彼女は目を覚ます。
「インフルエンザが流行っているぞ。」
フェリーボート
一つとや、一人旅寝は船の上、うみねこ鳴いてうしおの香。
二つとや、二人旅寝も船の上、島影消えて波枕。
三つとや、見える灯は出羽の国、おしんの郷は雪の中。
四つとや、夜霧に暮れる港には、なんの出船か行き過ぎる。
五つとや、いつか行く手を飛島の、鳥海山は夕焼けに。
六つとや、むかし芭蕉は象潟の、雨にけむれる合歓の花。
七つとや、なまはげ行くか男鹿半島、夏を迎えてうしお焼き。
八つとや、山の向こうは下北の、吹雪に向かう寒立ち馬。
九つとや、ここは海峡流れ星、特急北斗はトンネルを。
十とや、十はとうとう函館の、百万ドルの大夜景。
ずくなし
ずくなし咲いて田植え冷え、
どえろう冷えて腰やぬかる。
くそたれ雨の降り続け、
ぽっしゃりぽっしゃり降り続け、
なんで太郎兵衛が嫁になる、
なんでというたて親が決め。
しんだら代りがあるそうじゃ、
婿の代りもあるそうじゃ。
春は
うそが花のつぼみを食べている、
そんなに食べないで。
雪の中にぽっかり開いた穴、
きっと何かいるぞ。
吹き荒れて飛び込んだ鳥は、
北海道へ渡ったかな。
まんさくが咲いたまんま凍って、
日が当たって溶けて。
汁に入っていたふきのとうは、
今朝ぼくが取ったんだ。
猫の奥方
天下無双の豪傑、
どうよのあべの金時は、
猫を一匹飼っていた、
その名はにゃーお。
お館さまものすごーわる・
もすによーるは、人を殺す、
女は奪うのしたい放題、
あっさりそやつを退治した。
あべの金時は指名手配、
取っ捕まえて火責め、
水責めの拷問だと、
美しい奥方のよーろぴ。
せっかく世のため人のため、
そいつをだれも知らん顔、
美しいこわーい奥方、
村を出るよりないか。
にゃーおの猫と道行き、
「おーいそっちはだめだ。」
どうよ館の大手門、
にゃーおは屏を乗り越えた。
「そういうわけかい。」あべの金時、
のっしりみっしり歩んで行った、
美しい奥方の寝室、
どうよ館はうしみつ時。
「死ぬかいそれとも無罪放免。」
刀を抜いて押しつけた、
「さすがじゃな。」美しいよーろぴ、
「おかまいなしにしようぞ。」
猫のにゃーおを差し招く、
あんれなつかぬはずの猫が、
「ものども出会え、曲者じゃ。」
よーろぴは消えて猫が一匹。
四方八方切り抜けて、
死に物狂いにあべの金時、
にゃーおの取った魚を食って、
鳥も通わぬけもの道。
武者修行の一人と一匹、
きよいの村に行列が行く、
美しい乙女がお輿入れ、
なんとな鬼の花嫁と。
そうしないと村が襲われる、
「そんならわしが代ってやろう。」
あべの金時花嫁姿、
しずしず社へ置き去り。
「なんだあ猫は。」「鬼の餌か。」
とっぷり暮れてふーらり鬼火、
「おっほう花嫁。」鬼火が云った、
「二人いるあっちがいい。」
鬼の腕がぬーっと伸びて、
にゃーおの猫をひっさらう、
慌ててあとを追った、
「どうしたこった。」あべの金時。
恐ろしい鬼のかたわらに、
美しいよーろぴがいる、
「きえいおうりゃ。」切りつけた、
あっちへふっ飛ぶ鬼の鼻息。
「ぎゃーお。」その目ん玉を、
猫のにゃーおがひっかく、
でっぷり腹に豪傑の一刀、
あべの金時鬼退治。
村へ凱旋その夜の宴、
「命を救われたわたしは、
おまえさまがもの。」
美しい花嫁が忍んで来た。
「下がりおろう。」猫がしゃべった。
「はあ。」乙女はかしこまる、
「あなたさまのような、美しい、
奥方がおられようとは。」
「猫っきりいない。」だっても、
あべの金時がわめいたら、
ほんに猫しかいなかった、
でもって武者修行の旅。
いっぺん平らに河がある、
わたし守りの船頭が云う、
「この河にはうわばみが棲む。」
「そやつはどんな悪さする。」
河はどんよりあべの金時、
「たいしたことはせんが。」と船頭、
「牛や馬をべろうりやったり、
たまには人も食う。」
「そいつはどんな代物だ。」
「たいていこんな代物だ。」
わたし守りは舟ごと、
どーんとうわばみになる。
「猫なんてえのも好物でな。」
にゃーおの猫を呑み込んだ、
そっちを斬りゃあっちが巻きつく、
胴をえぐりゃ首ががっぷり。
「水から出さなだめだ。」
死にそうになってあべの金時、
河はとつぜん真っ赤に染まる、
「おっほっほ。」女の笑い声。
うわばみの腹かっ裂いて、
美しいよーろぴの手に、
太刀が一振りと思ったら、
猫のにゃーおが食わえ。
「いするぎ神社の宝剣。」
太刀を見て村人が云った、
「よう取り戻して下さった、
悪党きおいのよろずが、
「百年前に太刀を盗んで、
よこしまにふるえばけだものになる。」
「女がふるうと。」声がした、
「美しい人はさらに美しく、
「そうでない人はそれなりに。」
「つまんない。」といって猫きり、
「たたられている。」あべの金時、
「命を救ってやったのに。」
にゃーおの欠伸がそう聞こえ、
でもってやっぱり旅を続け、
だんびら山の曲がり鼻に、
盗人どもの砦があった。
物はかすめる女は奪う、
火をおっ放すやらしたい放題、
「お一人ではとっても。」と村人、
加勢するかというと、だれもいない。
「おれが行こう。」といって、
大人よりたくましい、子供が出た、
「子供じゃどうにも。」「見ていろ。」
柳を切って、水につくまでに、
七つにする、「天童丸。」
天童丸とあべの金時と、
にゃーおの猫は曲がり鼻の、
盗人の砦へ向かった。
息抜きの穴が開く、
にゃーおの猫が偵察に入る、
「猫でいいんでしょうか。」
「七三でまあな。」あべの金時、
「強そうなのが三人、
中位が十二人、
どうでもいいのが三十人。」
偵察のにゃーおが報告。
「三十人を走らせる、
強いのを三人倒したら、
あとは成りゆき任せ。」
「火を放ったらいいのよ。」
「これは奥方さま。」天童丸、
「そうじゃないお化けだ。」
「いい子だねえ気に入った。」
にゃーおの猫が欠伸。
「寝ている十二人に火矢を打ち込む。」
「はい奥方さま。」「うるさいお化けめ。」
にゃーおの猫がおまじない、
どっと砦は大火事。
泣き喚いて三十人は逃げ、
煙に巻かれた十二人を倒し、
あべの金時と天童丸は、
強い三人に立ち向かう。
盗人の頭をふん縛って、
天童丸とあべの金時は、
さらわれた女たちと、
お財を山に積んで凱旋。
「どうよ村へ帰ろう。」
あべの金時はいった、
「骨折り損のくたびれもうけ。」
「そんなことはありません。」
「世のため人の為です。」
天童丸がいった、
「弱きを助け悪者を退治し、
正義の旅にお供します。」
「どうよ村へ帰ったら、そうよ、
拷問が待ってます。」
オッホッホってなんだと、
「天人のような奥方さまです。」
しんや城に高札が立つ、
「お姫さまにとっついた、
化物を退治した者を、
花婿にする。」とあった。
一行は名告りを上げた、
「豪傑あべの金時。」
「正義の味方天童丸。」
「にゃーおの猫。」えっへん。
「ねこが口を聞いたぞ。」
「女の声のようんでもあったが。」
もしやまた化物、
「正義の味方の加勢にゃーお。」
なにしろ夜中を待った、
恐ろしい叫び声がして、
お城中ふるえわななき、
天井が張り裂けて、
お姫さまの衣装を着た、
九尾の狐が現れた、
太刀を引き抜いて、
あべの金時は凍りつき、
にゃーおの猫は総毛立つ、
かろうじて天童丸が一太刀、
化物はさまよい歩き、
おさむらいたちは発狂し、
女たちを阿呆にさせ、
そうして朝になった、
お姫さまは眠っている、
血のあとがついていた。
天童丸の刃のあと、
二人は猫のにゃーおと跡をつけた、
北西に向かって十里、
山のやぶっぱらに穴が開く。
「狐はこの中にいる。」
穴が深くてどうもならん、
「姿を現わすのを待とう。」
あべの金時が云った。
村の古老がやって来て、
ひげをしごいて云うには、
「九尾の狐は二千歳、
倒すには二千歳の弓矢がいる。」と。
そんなものがどこにある、
「もしや。」といって天童丸、
捜し回って拾って来た、
「大昔の人の使ったもの。」
まっ黒い矢尻を三つ、
夕方ぼおっと明かるうなって、
青い狐が飛び出す、
追い矢は二の矢も外け。
「帰りを待って迎え撃とう。」
満月にふりしぼってあべの金時、
迎えうつ九尾の狐、
矢は真っ赤なその目に吸い込まれ。
「おひょーかんかん。」
叫びを上げて、
雷鳴って、
大地は九つに張り裂けた。
しいや城に帰ると、
美しいお姫さまがお目覚め、
天童丸を見てぽっと頬を染める、
「花婿さまは天童丸。」
「そういうことかよ。」あべの金時、
「そういうことよ。」にゃーおの猫、
盛大なる結婚式、
猫と豪傑は飲んだり食ったり。
「兵隊を貸してくれ村へ帰る。」
あべの金時は花婿に云った、
「どうよ館へ押し渡る。」
「あたしには一筆したためて。」
にゃーおの猫が云った、
「はい美しい奥方さま。」
軍勢を率いてあべの金時は、
どうよ村へ押し渡る。
美しいよーろぴが出迎えた、
「猫のにゃーおではなくって化物。」
「ここに手紙があります。」
奥方は読み上げた。
「しいや軍はお館に入ったら、
あべの金時をすみやかに、
逮捕しろ、しいやの花婿。」
多勢に無勢あべの金時、
あっさり捕まって拷問台、
そのまた恐ろしいことは、
「あたしと結婚したら許す。」
「いやだ。」「それでは。」
さしもの豪傑が音を上げた、
猫を飼ったが一生の不覚、
「何かいいました。」「いえなんにも。」
さても盛大なる結婚式。
めでたや村には平和、
にゃーおの猫が死んで、
やーれと思ったら奥方、
「かわいいでしょ。」新しい猫。
詩
詩
2006年05月13日 20:22 せっちゃん ここへ毎日詩を書こうかな、口からでまかせのやつ。
弱虫が自負心ばかり強く
甘えん坊の鼻たれ
親不孝はた迷惑
なんとも言う甲斐もなしが
今虚空幻身を得て
偶々思い起こす
これなんぞ
笑止
見えも外聞もなく
置き忘れて
花に挨拶
今日は
涙ゆすれ
2006年05月14日 07:07 せっちゃん
朝は寒い
青葉冷え
いいやずくなしの花が咲く
かあちゃん風邪引いて
どっぷりうつって
喉ひり
一火主坐って治るかなって
坐ってる間だけー
ちえ年取ったか
えんつつじ
2006年05月15日 06:51 せっちゃん
茂み若葉と楓の花と
触れても行かん
たなごころ
つがいに行くは
せきれいの
舞扇
2006年05月16日 09:14 せっちゃん
お悟り
あなたが死んで三日もすりゃ
まあ三年にしておくか
すっからかんに忘れられて
だあれも覚えていない
しかもかくの如く
風月如昼
これをあなたのお悟りという、
まちがいないですよ
花草常春
2006年05月18日 11:14 せっちゃん
地震以後
むこうの道は修復した
こっちはどうかな
行ってみろ
ふーん雪崩のあと
木株がでーんと
うわ地割れ
こりゃだめだ
崖っぷちにUターン
車に引っかき瑕こさえて
命ばかりは助かった
藤の花のトンネルをさ
藤娘は大津絵の
2006年05月19日 20:33 せっちゃん
谷崎淳一郎の刺青を読んで
ますかいた中学生
なつかしいか
ピカソが刺青に凝って
名流夫人が柔肌を競う
アメリカ大使夫人に
赤い星と鎌を彫っちまって
一悶着
冷たい戦争の
これもなつかしいか
無無明亦無無明尽
たいていいたずらで終わればいいが
18娘と
人力車に乗ってる間は
愛人だとさ
悦に入ったらなんと
車夫もおねえちゃん
奈良の大仏もご照覧あれ
仏法伝来
538嘘の始まり
無老死亦無老死尽
しわくちゃじっさ
2006年05月20日 08:53 せっちゃん
人を誑かす為の
悪魔の発明
モーツアルトは虜にする
はてさあ
良寛は突き放す
一休頓知
にんべんを取り払って来いと
正師にも惑わされ
邪師にも惑わされ
行きつ戻りつ
かつがつに得たり
なんにもならずは
赤ん坊の日送り
2006年05月21日 19:46 せっちゃん
開けてあった窓を閉めて
お休みの挨拶
山河大地と
空と
森の向こうに
宵の明星
わが友よ
たとい地球も人類も
不幸のどん底であろうが
許せ
如来わが
来たる如しの
挨拶を
28 2006年05月22日 19:56 せっちゃん
雇他痴聖人
如担雪埋井
キリスト教やラディニーシではない
このように坐禅をしている
いいのわるいの
こうあるべき
いつまでたってもとやこうなんだかんだ
雪を担うて井に埋ずめるが如し
甲斐のなさを知ってつとに手つかず
わしの名前が入っているからといって、
師の書いた連を
兄弟子から奪い取ってきた
何十年も前
でもって今も客間に掛かっている
雇他痴聖人
如担雪埋井
29 2006年05月23日 13:35 せっちゃん
あしひきの雪振袖の如くして
出雲の阿国はいつ問ひ越せね
室町のころから
あんまり変わっていないという
優雅な踊り
綾子舞
一説には
佐渡を追われ
行き倒れになった
出雲の阿国が伝えたという
雪の鵜川の里
木沢なむ山沢ならむ標して
女沢とふ雪振袖の
長い冬の間の
女の出稼ぎとなって
そいつは残ったという
三日でも15分でも
15万円だって
ようし年金でもって
お寺へ呼んでこよう
来年は
30 2006年05月25日 20:08 せっちゃん
池坊古流の花だってさ
見ろよかあちゃん
なんだかだらしないわね
もうむかしのように活ける人いないのかしら
生活空間の問題さな
草月流が出た
オブジェって物
そういうことかしら
あっちのかあちゃん娘
おっさん見てみな
銭金食う寝る
文句百まんだらなあなあの他に
息ずく空間なんかあるもんか
またいいかげんな毒舌
ちえかあちゃんに説教してもしゃあないか
あらあっは
31 2006年05月27日 09:42 せっちゃん
たしかに如来であったと知る
長い間さすらい惑い
七転八倒はた迷惑
言う甲斐もなしが
ついに一草に帰す
心行く山河大地を
虚空を
人を味わって死ねと
首くくる縄もなし
貧乏ひまなし
あるいはものみな悲しく
葛藤これ本来
まったく何変わらずや
強いて言う
飢えた虎に食わせる
この身あり
32 2006年06月01日 20:30 せっちゃん
先生と坊主にはろくなものがいないってさ
知識の切り売りは思考停止
思考停止は
ふんぞり返って威張る
いやさおかまみたいになっちまうって
寺に生まれたから説教は人間停止
嘘ばっかりのてんぷら
おぞましいったら空威張り
人を救うはずが心理学の対象物だな
赤信号みんなでわたれば恐くないといって
みっともない集団自閉症
ごんずいかたまり
捨てるよりねえったらな
教育は必要悪
いやさ止めた
なあ木の葉っぱ
いつだってどんな世だって
命はみずみずしいのさ
先生のことは知らん
坊主は求道あればすでに可
2006年06月02日 19:45 せっちゃん
爆笑問題
ちいっとも笑えぬ漫才を聞いている
神経痛の男
けえなんてえ
これも前世の因縁だ
仕方がないモーツアルトを聞いて
ドライブに行こう
なんでモーツアルトでドライブだ
爆笑問題
カーステレオしかないからだ
青葉の初夏を
たった一人どこへ
藤とやまおおでまりと
爆笑問題
隣に座る彼女がいないからだ
ハイドンセットと
ソナタを聞いたら帰ってきた
爆笑問題
どこを回ってきたかー
わからない
2008年07月17日 14:46 せっちゃん さっぱりだれも寄っつかねえなあ、うんでは李白のものまねして詩でも作ろう。
詩てのはなぜかいまいちだなあ。
身を横たえて夏の月を仰ぐ
同じく雲間を行くが如し
炎暑涼風を誘い
花鳥微きを取り戻す
まずはこんなんでさ。
2008年07月17日 20:36 せっちゃん
茂み影に遊ぶせきれいのつがい、
軽快にさ、
人に涼風をプレゼント、
水辺に生える草は穂を抱えて、
これもまた、
かそかに秋の思いを。
2008年07月18日 09:01 せっちゃん
モーツアルトを聞きながらドライブに行って
夏の真っ盛りをミヤマカラスアゲハが飛び、
あれあいつはスジボソヤマキチョウ
柏崎へ行き、
綾子舞の鵜川へ行き、
道は崩れてすんでになで落つ
なんだあ地震のあとだって
じゃ標識ぐらい出しとけ
なに出してあったって
うへえもう少しで本望ってやつ
不協和音を聞いてあの世行き
断食して死ぬよりゃよっぽどましだったんにさ
2008年07月18日 11:45 せっちゃん
安物ワインを飲んで、
魚よりはぐっと安いソ-セ-ジや
子羊のソテ-を食って、
でもって多少の野菜となんだかんだ食って、
かあちゃん相手に
弟子相手に演説して
一年たったら布袋腹、
じゃなくってメタボリック
いえさ妊娠十カ月
ちえなんで引っ込まね-んだ、
だれの祟りだ、
貧乏暮らしの、-
そうだ北朝鮮だ中国共産党だ、
ふんアラブにキリスト野郎どもに、
は-あなんにも云えねえ
世の中腹ふくるるわざばっかりの、
四半世紀で地球壊滅たって、
ありがてえことにゃ
こっちの寿命がもっと早いぜ
なんせすっきりしたいって、
うそだあぶ-すかでか腹抱えて昼寝してるくせにさ
このくそあち-のに
ふん
2008年07月18日 17:25 せっちゃん
書をものにすって物書き?
ただもう書いてりゃそりゃ物書き
快感もなんにもなけりゃますかきってことね-わな
がらんどんか野良猫め
なにをやっつけた
めんどくさいいいからもの書き
そうさ百年たったら一億円
ふ-ん四百億もうけるんだって、
それにしちゃ、
三枚書いてどっかへふ-らり、
うっさい知ったことか
北極の氷が消えて
北極熊はあざらしを求めて大海をわたる
いっしょについて行って
涼を求めて
ついでに獲物を取ってやろうかって
あっはっはてめえ獲物になる方が早いわ
絶滅危惧種
動物園の檻の中にしかいなくなる
淋しいってことは
檻の外の人間の
なんともこりゃコメントのしようがねえってやつだな
横尾ただのりみたいに
臓物逆さにふってさらけ出して、
気の聞いたせりふの一つ二つ
いやさめんどくさ
鬼みたいなおねえちゃんともおさらばして
そうさな
檻の内外旅の終わり
また会おうって
それって次の世あんのかな
2008年07月19日 14:39 せっちゃん
中国オリンピックも宇宙飛行士もいらん
ゼニばっかりかかってまるっきりいいことねえ
戦争と平和博愛だの
宗教と食わせものと
嘘ばっかりの他にさ
木の葉っぱ一枚とか
あっちへ行っちまった雲とか
ご丁寧に百%失敗の
日本外交なんぞしなくってすむこといっぱいあるのに
ふ-わあくび
とにかくお呼びじゃね-んだすっこんでいろ
飲んで食って歌って
鼓腹撃壌じゃね-けど
李白の詩ってやっぱりすげ-な
山も川も
空を飛ぶ燕だって
人の心を訴え
あんなんありゃ生きたってもんの
ふ-ん
また会う日まで
しばらく浮き世おさらば
はあてな
まだこの糞袋
暑い寒いやってるぜ
みっともねえったらさ
千里鶯鳴いて
緑紅に映ず
しょ-がねえ釣りにでも行くか
信濃川臭いよ
2008年07月20日 08:31 せっちゃん
クワイ川は清流に
石英か雲母か
きらきらと光るものが入っていて
美しい鳥が行き
遡るにつれて茂みは爽やかに
舟を連ねたホテルがあった
一月は寝て暮らすんだという
外人どもがたむろする
奇妙なことに
それを渡ってシン族の村へ入る
すがきを囲ったような
入り口があって
いろんな種類の
熱帯の蝶ども
売店があり
学校がありする
シン族はベトナム戦に
独立を賭けてアメリカにつく
完全に見捨てられ
タイの捕われ人であり
外には出られない
黒板と椅子が十脚の
みすぼらしい学校
赤ん坊をおぶった
そっぽを向いたきりの女から
タイシルクを買った
ずいぶん安かったから
お土産にしたら
せっかく作ったドレスが
あっというまに擦り切れた
困った
閉ざされその若者の目を
今も忘れない
861 2008年07月20日 13:30 せっちゃん
せっかく植えた蓮は
なんだいこれ
岸に張り付いて咲いているぞ
これじゃお墓のPRにもならん
真中にお堂を建てて
ミイラを祀ろうと思ったのにさ
いやわしのさ
うふふ貧乏寺も御布施が上がるぜ
茶の間にやって来る鬼やんま
もうちっと遠慮したらどうだ
テレビにどっかん
人の鼻先にホバ-リング
羽化を見たのはいつであったか
死ぬまえにもう一度
ぎふちょうはいなくなった
友達は鬼やんまと-あと
2008年07月21日 08:18 せっちゃん
クワイ川の辺りで象に乗る
溌溂たる耳と美しい目
年寄った象は神韻渺茫
なるほどこれは世界長
どっさんどさと脱糞し
巨大な円柱が川水を増す
乗り心地なんてものじゃなく
肩幅が広いしゴンドラは大揺れ
ちゃっかり娘はその太首にまたがる
象使いのサ-ビス
もしや永遠の友になって
夢は故郷の山河を荘厳-
戦争の道具にした古今東西
固いしわだらけの背の上で
ふいに涙に溢れて
いっそ人間のみじめさを思う
2008年07月21日 16:10 せっちゃん
なんという美しい木漏れ日か
三十五度だという梅雨は上がり
彼女と二人
三つになってすっぽろりんの水遊び
恋愛も喧嘩もない
ふ-ん鬼やんまが飛んで来た
人生だってさあほらし
2008年07月22日 09:10 せっちゃん
夕方施餓鬼の稽古だってんで、
雲水ども法堂に並んで、
「こらびくつくな蚊食うぐらいなんだ。」
維那和尚叱咤、
うわ-んと大小無数の蚊、
パンツの中にまで無遠慮に入る、
ほんにま維那和尚ぴくっともせんや。
ぼったぼった、
蚊の落ちること桜桃の如くとは、
坐中刺されるまんま
吸うだけ吸ったらまんまるうなってぼっとり、あっはっは冬は吹雪の吹きっさらしが、
膝の辺につもり
春はのったり眠くなる
秋は食いすぎて腹下しとか。
うっふふいろんなことがあったっけ
なんのための修行かって
たいていすっかり忘れて
おおかた無駄骨折り
十年三十年、
はあて五十年たって、
ようやくに暇が開いたのかな、
せっつかれもせずってやつ、
うっふう生まれついてがやっとこさ
蚊に食われ、
炎熱に草をむしり、
暑さ寒さのない所へ行こうってな、
まあさ、
ご都合は云わないの。
2008年07月22日 17:25 せっちゃん
薬師寺展を見に行った
九0分待ちの大行列
なんでこんなに混むんだい
収入は坊主とお役人に入るんかな
うはうは儲かる使途不明金
はてな外野には関係ね-か
日本人は仏教を大切にする
古典に飢えている
なんかよ-わからんけど
雪舟展もものすごい人数だったな
評論家どものとんでもしない無理解と
一般人の鵜の目鷹の目は
あんまり関係なくって
つまり熱気というんかな
この大混雑にとつぜん
お釈迦様が現れて説法したら
たいていそっぽ向くんだろうな
変な言いがかり付けるなと云う
仏教なぞいらんというやつに
そんなん仏教じゃないというやつに
面白いな
一箇半分お釈迦さまを信じたやつが
袋叩きに会うかな
でも大騒動は終わりそうもない
今度はどこから持ってくる
横尾忠則冒険王より
確実に実入りがあるぜ
彼の絵は面白い
画壇のなにがしにはない命
おまえの絵見てから外へ行くと
世の中み-んな横尾忠則になっちまうんでかなわないよ
ピカソ以来かなこういうの
画期的なことが起こっている
観客側から絵を描くっていうやつかな
十字街頭獄門磔
こりゃ仏の願いかなあっはっは
日光月光菩薩よりも
うん面白いぜ
若者がずいぶん見に来ていたな
2008年07月23日 08:41 せっちゃん
草むしりしていたら
蛇の抜け殻があった
ずいぶん小さいと思ったら
半分別にあった
草は伸びて
あと一月は戦争
なんせ稼ぎどきのお盆も来るしな
ふわ-あやってらんねや
蛇みたいに抜け殻脱いで
食っちゃ寝のど-んと夏がいいな
何の因果か人間さまに生まれて
すったもんだの末の
てめえの妄想も始末できぬ
強いやつが弱いやつを絞るのは
浮き世の摂理
アメリカだの北朝鮮だの
もううんざりのめんどくさ
どいつもまあ
なんてえ間抜けやってんだ
ホ-ムレスは暑いしさ
汚ねえしな
食用蛙飲んで
三日もさつきにぶら下がっている
青大将は
お友達になるのはなんだが
気が利いてらあな
2008年07月24日 08:24 せっちゃん
また地震だな
忘れないうちにやって来る
新潟地震は三カ月も水が来なかったし、
昭石タンクの爆発でえれえめにあったし、
恐怖の中越地震は同じ揺れが四回も来し、
中越沖地震はもう被害カ所に目をつむってとまあ中国に生まれずによかったぜ
毛沢頭を尊敬して就職ふいにした中学生がいたが
ほんに人の噂はいい加減
ポルポトでさえ尊敬するやつがいる
北朝鮮国家を君が代の代わりに教えたとかいう先生は、
責任とらないのかな
役人も先生も
責任なんて言葉知らないみたい
つまり地震と同じだな
無思慮無分別
だらしなさ
てめえゼニ勘定以外ないってやつ
そりゃ災害だあな
なんまんだぶつ
念仏でも唱えるっきゃないか
せっかく仏だってのに
見性したんからと得々として喋るやつ
あっはっは立派な天災
どうしようもこうしようもないったらさ
くそ暑いのだけでもうたくさんだ
雪月花まぶたにかすむってのは
そりゃ
地震も竜巻も人災のうち
ふ-ん主旨不鮮明になった
統一
さっさと人類滅びろ
うさんくさいのを通り越して
うなぎの蒲焼きも食えやしね-や
どじょうもいねえとさ
新潟の田圃だってえのに
くそうめ
ふんでなんだっけ
2008年07月24日 11:02 せっちゃん
ムカデが蝶を食っている
あれこいつは珍種の
おおがましじみ
まさかこんなとこにいるわけねーな
よくまあ茂っているな
土砂降り雨が降って
大分の先生どもは死刑にして
坊主どもは穴埋めにして
そうさちったあ涼しく
2008年07月25日 08:18 せっちゃん
瓜姫に化けた天の邪鬼が
木のてっぺんにぶら下がる
あ-んと泣いて女の子
呆れてだれも助けてやらなかったら
にゅうっとしわくちゃばあさんになった
くたばるんで親孝行しろっていう
間抜けなせがれが助け下ろして
とんでもないめにあった
そりゃもうとんでもないめにあって
施設をたらい回しの末に
汗みずくして溜め込んだぜにもすってんてん
なんでこういうめにって
気がついたときはもう遅い
政治家になったのが悪かった
取るときゃ天引き
くれるときゃ難しい書類作って
銀行役場銀行たらい回し
いじめほっかい民主主義も
しっぺがえし食うんだって
ふ-ん
あれ色っぽい女になって
だれかたらし込んで失せたぞ
うわ-せいせい
なに小沢だと
うわっはっは間抜けめが
とことん吸い取られろ
しょぼたれじっさ
元通り木に吊るすやつはいね-か
アメリカさんに願うよりない
天の邪鬼の生みの親
唐変木だってさ
民主主義だ
アホ丸出し大統領選挙
うっはっはブッシュしか選べねえ
マシンガン無差別殺人の元祖
正義の戦争だって
天の邪鬼は
エイズの生みの親
エボラ出血熱も発明したってよ
神さまを信ずるものは救われる
なんせキリスト様
透明人間だ
天の邪鬼って
そ-さだれも見えないんだって
あれこれ明美ちゃんのこと書いてたの
なんでこ-なった
そりゃ天の邪鬼
2008年07月25日 15:11 せっちゃん
炎熱の雲に半月かかり
明け放った窓からは蚊の大襲来
仕方がない灯を点けて
素っ裸で詩を書く二時間半
まあまあ眠れた
2008年07月26日 08:17 せっちゃん
鮒釣りにどじょう掬いをした
故郷には
何故か二度と戻れない
時に苦しい思いをする
夏の茂みの催眠効果
炎熱の日をよくまあ茂って
その向こうに死があって
また生まれ変わることがあって
だからといってどうなるわけでもなく
人のなつかしさと
因果必然は別もの
ふわ-っと欠伸をして
なんせ事故らずに帰るか
青蛙と鬼やんまと
きちょうと雀と
そういえば人間関係もあったか
ふわ-欠伸
もしやこれニア-ミスだぜ
生きているのさ
死ぬのは相当に面倒くさいから
芥川龍之介みたいに
ちゃんと計画をたててとさ
いっぺんわしも故郷の
小川に行ってみようか
今はもうまったくない清流に
みずくさの白い花が咲いて
丸々と太った鮒がいて
でもそのあとどうなる
しわくちゃばっさが
なんとかちゃんとか
わっはっは
こりゃ幾何学の問題だな
時空交差点
車じゃあんまり追いつかないのさ
笑顔と
なんだか情けない顔と
ふっと向こうに消えて
は-い生きていましたよ
2008年07月26日 16:45 せっちゃん
道端に拾ったもんきあげは
羽化したばっかりを車に当たったか
なんという美しい
まだ息があって
それでは二人でドライブ
あばずれ女よりも
初々しい乙女よりも
色っぽい女よりも
あげはちょう一匹の方が
なんという宝物
はずみに裏返ると
息を呑む絶景
初めて出会った南国の蝶のように
全世界魅せられて
男のロマンというには
往復一時間のもんきあげは
机に置いた
拾って来た
じゃがいもにそっくりの小石の隣に
明日の朝
草の辺に載せるまで
2008年07月27日 09:17 せっちゃん
みおちゃんと鉢の石仏を見に行って
それが杉の林の中に
十三の石仏があって、
お不動さんからお釈迦さま弥勒さま観音勢至菩薩大日如来と
十三仏さんは大きさ等身大で
どのお顔も同じで
みよちゃんにそっくり
よく拝んどけ
あたしになんか似ていないもん
でもって帰って来たのは
小千谷を通って十日町から川口へ
長岡でワインとチ-ズを買って
そばが食べたい
高いからうちへ帰って宴会
といって
はあてわあっと飲んで
明日の夕方中越大地震
通って来たところずうっと
いやもうとんでもないったら
お寺も大被害
帰れずなってみおちゃんは
一週間もお寺にいた
なんせ助手席の窓開けて煙草を吸う
のべつにジュ-スを飲む
おしっこ
もうここらトイレないよどっか行ってやってこい
は-い
でもって松之山へ行ったら
去年生えていた
きのこはなく
みょうがに真赤な花が咲く
これって六十年にいっぺん咲くんだってよ
ふ-ん災害の年かなあ
ほんとうに真赤なの取ってきて
しばらく挿しておいた
いつであったか
雲洞庵へ行ったら
みおちゃんそっくりの山姥がいた
そうかあたしの祖先
今からでも遅くない
山へ入って暮らしたら
そうしよっか
みおちゃんとわしは
寒山拾得なんだってさ
かれこれ十年来のメル友
面倒見の良い旦那がいるけど
2008年07月28日 08:24 せっちゃん
そうめんの残りを
青紫蘇入れて
醤油で炒める
けっこういけるぜこれ
貧乏人食
でもってチ-ズは到来品
赤ワインで晩酌
またどんかん花火やってら
昨夜も一昨日もやって
くそ暑いのに
音ばっかり
うるさったいったら
直江兼継がなんで愛なんだ
唐変木め
中国も
オリンピックだとそんなもないらん
てめえご本尊の体育会系め
涼しくねえったらに
ゼニばか使いやがって
いい大人がさ
ふん
なんか他にするこたね-のか
方丈花火見えますよ
なにどこ
山の向こうです
どれどれ
うわ-い見える
あの山どけろ=
2008年07月28日 14:21 せっちゃん
なむねこは我が家の永久欠番
ばあさんが名付けた
なむあみだぶつのなむではなく
飲むから足んねえとらや-や-もっとく-りょ-く-りょ-の大悲心陀羅尼
どっか猫いねか
お寺鼠出て困る云ったら
ひょ-ろく旦那が小猫持って来た
ほらよって籠から出すと
さ-っと逃げる
それっきり行方知れず
あずけたよってひょ-ろく旦那帰る
暮れから正月
雪が降った
三元日過ぎた
雪がもっこりもっこり盛り上がる
その先へ猫が出た
裸足ですっ飛んで
噛みつかれるまんまに取っ捕まえた
法事のしゃけを餌に
手傷だらけにして三日
どうやら懐く
可愛かったなあ黒虎
重力を無視して
じゃれたり跳ね飛んだり
なんせしゃけの他食わん
法事はそうはない
猫フッドは見向きもせん
どうしたもんだって
目が覚めたら枕元に
血だら真赤の兎の足
ぎゃ-お
次には内蔵どんぶくろ
わかった
なむどっかわしの見えね-とこで店開きしろ
たらもう持ってこなくなった
や-れ安心と本堂の拝敷きの上血いだら真赤
ぐわ-いこれ五万円
はて怒ったらそれっきり
夏が過ぎて
須弥段裏行ってみたら
ふわ-り山鳥の羽根が
こりゃ五六羽分はあるぞ
なんだあなむ山鳥なら喜んでしゃけと交換してやったのにったって
後の祭り
なむめ一年たって色っけ付いた
雌猫がやって来て
玄関先の石の上にスフィンクスやっている
そのまわりをぐるぐる
わしを見上げて
どうにかしてくれろという
うっさい
猫のきんたままで面倒見切れん
てめえでなんとかしろといったら
なんとかしたらしい
三日間行方知れず
どっきたねえ
なまくら猫になって帰ってきて
おかしな声で鳴きゃあがる
どあほめがげすいらねえしゃんとせい
喝入れたら
しゃんとする
立派な猫になった
黒光のする黒虎
眼光けいけい
大きさもたいての猫の倍はあった
でっけえねこといって
がきどもが回りを取り囲む
問答好きの末寺が来て
当家の猫は虎の如しと云った
当家の主は猫の如しと
わしは猫背
そこらじゅうの雌猫孕ませて歩いて参った
あの猫戸棚開けやがる
鮒の煮つけ食わんで
隣のかれい食って行きゃがったと
面白いことには
どえらい甘えん坊が
山門を一歩出ると知らん顔
法事に行ったらまっしろい大きな猫がいる
なむより一回りもでかい
またあいつが来た
うちの猫ちじんじまってと主がいう
外になむが歩く
ひえ助かった知らん顔
そう云えば
どういうものか雪の冬は行方知れずになる
来た時と同じに
冬は外暮らしだと思っている
四キロ離れた駅のスト-ブにあたっていた
この猫煮干しやっても食わねえと駅員がいった
うふ助かった知らん顔
決まって夜中の十一時に御帰還だ
にゃ-ごごろ
とびっきり甘え鳴きして
人の蒲団へ這い込む
うっさいおまねなんか待っちゃいね-んだ
ほうり出したって毎晩にゃ-ご
さかりのついたときは
雌猫の行列して
人の枕元で運動会
くわ階段下まで放り出す
こっちゃまあいいが、
疲れて寝ているかあちゃん妨害
2008年07月28日 14:23 せっちゃん
かあちゃんはまずお父さんを産んで
ばっさを産んで
なむを産んで
徹を産んでお妙を産んで
それから鶏を産んだんだ
むかしあった作文三兄弟の剽窃
せがれが産まれたとき
喉首になむは牙を立てる
こら
人間さまのほうが大事なの
立ち会っていてよかった
年子の娘のときはなんにもなし
ばっさのひよこをとって食う
酉年ばっさは鳥を飼うのが趣味
そのすばやいことは
迷鳥がいる助け出してとやっていると
なむがいた
もうとって食ってる
ばっさのひよこは一羽だけにしとけといったら
一羽だけにする
成鳥は食わない取り決め
なむを連れて山へ行く
とことこと走って待っている
いっしょに歩くってのは間尺に合わぬらしいむっくりというきのこは
ほんのりとピンクなのが藪から藪へ盛大に生える
籠はいっぱい
服脱いで入れて両袖ふん縛って
なむなんか忘れて帰って来た
帰って来ない
三日たって行ってみるとそこにいた
ぐわあぐわあ鳴いている
はて山猫のくせにたって縄張りというのか
どうもそういうものらしい
なむも面白かったが
がきどもは面白かった
子供は三つまでに親の恩を返すという
障子は張り甲斐がある
なんせお寺だ
変だな静かだ
振り返ると二人で指突き刺して順繰り破って来る
静かなときが危ない
徹ちゃんはいは
さんざん呼んだのがようやくはいと返事する
池へはまったんではなく
椎茸の出だしを一つ残らずむしっていた
せっかく借りて大事に読んでいた白土三平を
二人二階からばら撒いている
ひらひら舞い落ちる
うわあきゃあ
碁石もやられた
怒ったことは一度もなかった
いやたった一度
いとこしんちゃんが猫嫌いで
お寺に来て朝寝しているとなむを入れる
ぎゃあと飛び出す
ばっさが小猫を貰ってきた
よせばいいのにさ
なむはえさは小猫から先に食わせる
なんかの加減で
つむじ曲げるとふわ-とおったてる
小猫は小便ちびって逃げる
その猫を池に投げこんで
岸に泳ぎつくのを
三回までが限度だなとしんちゃん
がきどもがまねして
小猫がふんのびた
叱った
なんで叱られたのかわからない
子供は三年で親の恩を返すという
接心がありお盆があり
大般若がありする
なむは暑いときには渡り廊下
寒いときには炬燵猫
居場所は決まっていて
わしがいるとわしの膝の上
ウイスキ-を飲ませると
ふ-らり千鳥足
グラスを見るとすっ飛んで逃げる
八の雌猫を孕ませて
耳は三つに裂けて
猫又大明神に三回お参りしたな
化け猫だと云われて
十三にもなったか
歯が抜ける
毛玉がぼこぼこできてみっともない
洗濯してもはか行かぬ
泥棒猫してどぶっさらへ投げ込まれて帰って来たとき
洗ってやるとふっさり上機嫌で寝ていたが
どうしたものかと思っていると
娘が毛玉をつかんでむしる
みんなとれてすっきりした
赤ん坊のころから発明で無鉄砲で
昨日の芸者よりゃよっぽど面白えやといって、
電車なんかで
親父どもがよったかって困ったりした
さすがのなむもお妙にはめちゃんこ
とうとうなむは
人の膝の上で御漏らしする
急にあったかくなる
うわっと投げ出す
弁護士さんの弟子がいて
その鞄にひっかけたことがあった
うちにも猫いますんでと弁護士先生
最後の彼女はシャム猫とあいのこかなんかの
美人ねこだった
挑んでもままならぬふうが
美人ねこはじっと待つて
それでどうなったか
三日して帰ってきた
さすがばっさで最後を知って
だんぼ-るに蒲団を敷いて入れた
はじめは水を飲み
のまなくなって三日
荘厳であった
仏であった
なむのように死にたいとばっさが云った
お墓にあかのまんまがふ-らりと生えた
一秋美しく咲いた
なむのお墓にはもう一匹入っている
水頭症の猫で
姉が持ってきた
生きられない運命という
獣医に見せると安楽死ですかと聞く
姉はそんなことさせるものかといって
しまいまで飼った
獣医も薬をただでくれたりしたという
これも仏のような猫だった
2008年07月30日 08:41 せっちゃん
根山万座温泉ソムリエ付きのディナ-と
アペリチ-フのカラメルは舌下腺を刺激し
ドイツの白は鱒と岩魚のかけあわせによく
スペインの赤はザルツブルグの塩の結晶によく
初秋の月は酔っ払いを有頂天にして
若し云うならば窓枠は大さそりと銀河を
ともあれ彼女は悦に入って
長い回廊を渡って若返り黄金の湯に浸る
メ-ルヘンのような山は紅葉
933 2008年07月30日 20:04 せっちゃん
きんぎょそうは夏本番
むくげが咲いて積乱雲
うわまいった三十五度だって
なんとかしてくれえたってなんともならん
桔梗が咲いたら秋の風
なんだいこりゃ青大将のぬけがら
紫陽花が揺れて豪雨禍
2008年07月31日 08:50 せっちゃん
市町村というのはさ、
金貰うとみ-んな自然破壊に注ぎ込んじまう
イベントが人寄せ万が一にも成功すりゃ
そりゃもうまるっきりの自然破壊
たいてい不成功に終われば
魚もいない川に鳥もいない
昆虫も花も
珍しいものは失せて
不毛の村になってこっそり
入広瀬もそうだし
背中合わせの下田村もそうだし
八十里越えだといって、
削って壊して今も破壊の真っ最中
人間てまあそういうもんかな
御当地ソングをぱあっと流行らかせて
ユネスコだろうが
世界遺産だろうが
ゼニカネ見るも無惨
川ひとつ蘇らせることができないんだ
川とともに人は死ぬ
仮使興害意推落大火坑念彼観音力火坑変成池
或漂流巨海龍魚諸鬼難念彼観音力波浪不能没
毎朝唱えるお経
観音普門品偈
ドライブに行ったらあっちやこっち
山百合の花
三つつけたり十五もつけたり
うん
念彼観音力と咲いている
夏の今が季節
自然破壊にも生き残ったかって
人は手折らぬし
大切にしているんだなこの花を
念彼観音力
2008年08月01日 16:42 せっちゃん
どこへ行った帰りだったか
ミョ-エとジョ-エに昼をおごるってんで
ラ-メンなんかわしいやだ
蕎麦はまずいくせに高い
いいから帰ろう
もうじきだと思ったら
「八石山ステ-キ」
どかんと看板
ステ-キようしこれだ
捜した甲斐あった
ちえ高いぞ
小国を抜けてまた抜けて
とんでもない山の中
八石山というハイキングコ-スがある
見上げるてっぺんに四阿
登ったら二時間はかかる
ボトルにしよう
スペインの赤かな
そりゃもうステ-キさ350グラムにすっかな
きしょ-めかってに頼んでやがる
パンにすっか
付け合わせがうんまそうだ飯
ロッグハウス風の造りで
フランスはボルド-辺り田舎屋敷
ええうめえぞこれ
たっぷりあっしよ
下には牧場があって
ナンバ-振ってあんだなこれ
ミョ-エはアメフトの選手だった
そうですあんなに面白いもんはないんです
作戦なんです
集団で女犯すやつか
違います
わしが二杯
ちえもう空っぽだぜ
ジョ-エはビトゲンシュタインだってんで
ドイツに十年いた
ドイツ女は丸太ん棒かかえてるみたいで
哲学はもっと初心かな
くうアメフトの倍は飲む
付け合わせの山菜がまた乙で
ごっちゃんです
は-い運転します
ふん
モッホちゃんが来た
あかねさす紫野なる大徳寺一休の徳を慕ひに尼になるとふ
そっかなほんとか
まだわかりません
今は見習い中だという
ミョ-エは僧堂修行
ジョ-エと三人で秋山郷へ行った
きのこを取って
野沢温泉であつい湯につかって
よし帰りにご馳走しようってんで
そりゃもううんまいステ-キハウスだぜ
遠い道を
腹減ったの
えんえんやって来たら
木曜定休日
回りになんにもない
山ん中の一軒家
ひえ参った
ミョ-エの祟りだ
とっときのそこへまた
女の子二人連れて行った
ミョ-エの姪子のみおちゃんと
せがれの先輩
哲学科出てケ-ブルテレビやってる
無邪気に大喜びして
見ているだけで楽しくなる
昼間から贅沢
牧場のステ-キハウスうわあ
小股の切れ上がったっていうけど
小股ってどこだ
そこは大股
にべもないのにべってどういう意味
さあなんかわかんない
タレントのなんとかさんが
男子高校入ったら
全寮制でもって
新入りおいニベア持って来いっていうんだって
魂消て転校したって
にべもないって
ニベアがないっていうこと
きゃあうっふっふ
モッホちゃんは
尼さんになるのやめて
針灸師になった
夫が交通事故で死んで
自分も死んだようであった
白黒映画のように
色彩がなくなる
物の味もわからない
それから回復することができた
またもう一つ人生があった
八石山ステ-キに
今度は木曜日でない日に来た
わ-い乾杯
がちゃんそっちの運転だぞ
仕方ないい-か
ボトル半分開けて
酔っ払って置いて来ちゃった
コ-ヒ-飲んで
蝶がいっぱいいた
いつかあの山の四阿まで行こうか
うんそうしよう
ジョ-エさんとドイツへ行こう
モッホちゃんはドイツにいたんだって
牛飼いのおばあさんにホ-ムステイしたんだって
蠅の入った牛乳を飲んで
おっかないトラクタ-に乗って
なくなる前に訪ねた
結婚式の写真が飾ってあった
嬉しかった
おばあさんを見て泣くと
泣き虫だねえこの子はと云った
ミョ-エは悟ることあって
函館へ行った
許嫁がいて結婚するという
企業戦士であったのに、
この事があると知って
出家して三年
ジョ-エは本山にいる
哲学の延長上にはない
無理だし止めとけというのを、
なにしろがんばる
ドイツへ行って
説得するんだという
リュ-ジュというしまいの弟子と
かあちゃんが運転して
晩餐に来た
そりゃ美味しかったが
帰りが真っ暗がり
本を出したから
出版記念ここでしようといって
お金が足らない
まだ
2008年08月02日 11:47 せっちゃん
我やまた暮らしつくしてあしびきの山にはふきを秋はきのこを
ふきを取った
おおひかげのさなぎがいくつもとっついていて
水に挿しておいたら
見事に羽化した
亜高山蝶で
戸隠にいたな
美しい単純な
大きなひかげちょう
お寺には沢山いたのに
そうしてあとほとんどいなくなった
ぎふちょうも絶える
すぎのわかえという真っ白いきのこは
千年来食用であったのが
とつぜん毒を持つ
中国から吹いてくる風に
松が枯れ
まつたけもしめじも全滅
こうたけを取った
シェフが来てチャ-ハンにこさえて美味しかった
でもってきのこはおしまい
どこへ行ってももうむかしのようではない
海も河も魚が少なく
滝川さんは癌で死んだ
年上の弟子であった
梅が咲いていた
まだ雪があって
人に別れ
ものみなに別れして
大空の雲
市町村合併だってさ
いにしへの人に恋ふらむ梅の花雪の小国は長岡につき
2008年08月03日 10:47 せっちゃん
このくそ暑いのに
大元気なのは秋海棠
おや花をつけたぞ
ぽっちり赤い
なんしろ軒だけに茂る
他へ植えてもだめだ
雨んだれと
日影が好きなのか
伝兵衛さから貰ってきて
一度枯らし
二度枯らし
三度めにやっと根付く
一は普請があってめちゃんこ
二は雑草と間違えて弟子が刈っちまった
三は地震で壁が崩れ
伝兵衛さは何十代続く大家さま
農地開放から
事業に失敗して
いちめん花を植えて
こじんまりした家に住む
せがれが文部官僚になって
まずはめでたし
旧を取り戻すか
秋海棠の花はなんともいえぬ形して
そりゃ美しい
ニュ-ジ-ランドへ行ったら
大木のようにごん太いのがあった
造化の神さまに忘れられた島の
ポッサムの他に哺乳類はいず
蝶は二十五種
蛇もいないんだっけか
外来種がはびこる
牛や羊のうんこ小便で
浜はいったん死ぬ
雨が降って
長雨が降って
眺め暮らして
秋海棠さな
見向きもしない女に惚れて
日んがなため息って感じの
うっさいわしのこっちゃないったら
2008年08月04日 08:28 せっちゃん
でっかい蟻がのそのそ歩いて
やろうめうちん中だぞ
ちったあ遠慮しろって
糊入れ紙の抽出しに巣作っていて
退治したっけが
今度はいったいどこに
くそあち-のに
頭へ来るったら
ごなごな
みんな政府がわり-んだ
国語教育がなっちょらん
亡国の民だ
ふ-
蛍光灯が
剥き出しになって
はらばたみたいみっともねえったら
引き糸が弱くって切れちまう
欠陥車だ
二度交換して
三度めにゃリモコンにする
二万円だとこきゃがった
うっさいガソリン値上げだ
な-んもかんも原料高
ど-もならんての
電力会社だけお手盛りだ
あいつらいつまで
殿様稼業
日本の癌だ
大分の教育委員会とさ
死刑にしちまえ
ふん
血圧上がるぜ
朝っからあっはっは
あの-中小企業ですが
東北電力じゃねえです
丈夫な糸捜して来ますから
そういって三日めだ
ふわ-あ
坊主が最低
仏教の敵
ろくでなしが死刑の価値もねえとさ
ぶっつぶして代替えエネルギ-しよ
メタボ腹
脂肪がたまってらあ
藁束やとんもろこしより
よっぽどはか行くぜ
世のため人のため
問題一挙解決
2008年08月05日 11:39 せっちゃん
四頭立ての馬車が停まって
ロココ風の賑やかな
ふ-んなんだこりゃ
龍と百合の紋章のついた扉を開けた
モ-ツアルトの紋章ですって
貧乏音楽家が
はあてそんなのあったか
待てよ鎮魂ミサだ
あの世のお迎えが来たんだ
じゃ乗らにゃなるまい
あれ貴婦人さまが乗っていらっしゃる
クジラのひげを入れたあんどん海月のスカ-トの下は
いやどっかの女王さま以来パンツ履いてるっていうの
では
洒落た挨拶をしようと思ったら
とつぜん出発
うわしんずれい
ふんもう
時空間を走って夜が明ける
時を超え帰り行くとふヒマラヤの花の谷間の青きけしはも
はてどこかで聞いたふうな
さまざまの花が咲き乱れる
蝶がいるはずだ
すんばらしいヒマラヤの高山蝶が
蝶はいなかった
貴婦人は憤然として突っ立って
そうか手をとってあの
こうもりかさないと紫外線きついぞ
おや
真っ青な花になる
そうか紫外線のせいか
月の光には真っ白に
ピアノソナタでいうと-
また馬車に乗っていた
フランス語もドイツ語もアイドントノウだよどっかワインでもなかったか
ウイスキ-ボンボンでもいい
戸棚開けたら
銀製のピストルが出た
慌ててしまう
決闘でもなさるの
あれ流暢な日本語で
いえそのう
フィレンツェの手料理となむ君若しやポテッツェルリの春の如くに
ふ-んなんだとうわビ-ナスが出た
貝殻の辺に突っ立ってるぞ
どこが美しいたって
美の権化だ
なんで泡から生まれたんだ
神聖なというより
みずみずしい
ああこんなふうに人間が若々しい時代があったんだ
あんまりにも短かった
貴婦人がくしゃみをしたらおしまい
ほんにくしゃみが聞こえて
おっほほ
いたずら小僧がわしか
馬車はまっ暗闇を走る
五十にて議員になりし清一郎永眠せるは夏の終りに
ボランティアみたいなことやっていたのが
念願の議員になったら
かあちゃん離婚
一人暮らしがたたって清一郎め
アル中が復活して
譫妄状態になって
ヌ-ドの女に尻尾生えたのが
天井からぶら下がる
鉄仮面が下駄履いてあと付ける
云々
治ったって
栄養失調で死ぬ
若しや音楽の才能がおありだったんでは
貴婦人が聞く
祭りの太鼓叩いていたけど
太鼓って雪の音が出せるってほんと
そのうわしも音痴でして
隣の部屋に下りる
清一郎の葬式だった
市長と二十名の議員どもを
わしは煙に巻いて
母親を喜ばせていた
汚い坊主が難癖つけて
うっさいからぶっ殺すか
ピストル取り出したら
慌ててあとすざって
羽目板外してどぶへ落ちた
あ-っはははは
貴婦人が大笑い
一箇だにうち出し得ぬとな思ひそね柿はたははに底無しの天
真っ青な空に柿がなっている
あれ食べられるの
渋いかな
あたしはもう帰らなくっちゃ
貴婦人が云った
ウエ-バ-のとこへ行くのかな
そういうことは云わないの
馬車はどうなるんだ
御者が消えている
中は空っぽ
あれ正装してかあちゃんと二人
覚兵衛の嫁取りならむ小栗山田毎の松に押し照る月も
二人でもって盛り上げてそりゃたいへんだ
仲人でも引き受けたんか
酔っ払って帰って来た
長け行きてしましく夜半を目覚むれば雪のやふなる月にてあらむ
ふ-んおかしいな
わしは一人きりだが
モ-ツアルトも貴婦人もいないのさ
かあちゃんもせがれもな
常波の川を清やけしよしえやし踏みし石根も忘らへずあれ
てめえの歌集に涎たらして寝入っていた
まあいいか
2008年08月06日 09:19 せっちゃん
三日もすりゃ同じに草生えてら
草むしって
こないだ大水のあと掃除して
ふいっと見りゃうわ
でっけえ鯉が食われてらあな
苔の辺にえらと骨とうろこ散乱
青鷺だな
柵のこっち広げて馬鹿鯉が入ってやがったから
もうにおう
くっさあ片付けて
猫だったら
どうも野良猫も巣くってるし
ふ-んもっと弱るか
中国オリンピックよりゃよっぽどましの
あのまあ共産党ども見るだに最低
秋になる坪庭なんだやら騒々しいか
今日はあと三カ所やっつけてっと
黄色いきのこが生えて
うんまそうなってたいていどくきのこが無数に生えて
毛沢頭と紅衛兵みたいなの
てんぷらにして誰かに試し食いさせ
温暖化でもって
雨がどさっと降るからだ
大あたり
早くお盆が終われ
毎年そう云い暮らす坊主が
じき引退して
乏しい年金でなんとか
鮒釣りして暮らそう
病院の御厄介になる前に
断食してミイラなってさ
あれさすすきの穂が出た
秋になるって
ひでえ暑い夏
北海道に移り住むか
きたきつねでも嫁に貰って
穴蔵生活
今は鬼やんまと同居してるけんども
冬はさ
でもきついで
2008年08月08日 09:55 せっちゃん
アメリカに占領されて男はきんを抜かれ
女はみんなパン助になると云われ
はてなあまさかと思っていたら
戦後何十年間違いなくそんなふうになって
どん底過ぎて
外交をなんとかしろ
国体を取り戻せという
戦争に負けたら
回復は百年かかるそうの
さあどうなる滅びるか
勝海舟は出ないか
宮沢賢治は
昭和天皇に殉死しておけばよかった
いまさら臍を噛む思いの
日本人は
一に心を取り戻すこと
一に言葉を取り戻すこと
一に国体を取り戻すこと
我が思うには
日本人の心の故郷は一休に良寛
難しい手続はいらん
教えるなく
習うなく
本来本当
生まれついてに帰ればいい
単純簡単がなぜできないか
地獄の釜の蓋が開くというお盆
地獄を見るによし
生生世世を尽くしての六道輪廻
父母の地獄の
いや生きている自分の地獄を見る
心を取り戻す為の初歩なりと
一休は地獄を現出する
良寛は極楽を演出するか
この二人は兄弟にはあらず同じ一人だ
あなたと寸分たがわぬ
薫風自南来
殿閣生微涼
一片の書他を圧倒する
子供らと遊ぶ春日は暮れずともよし
元の木阿弥が
顔をのぞかせる
いずれ命がけ
仏はほどけ
自縄自縛の縄のはしを自己という
先生教育の正反対
平和博愛とは観念にあらず
我生涯もって示す
一に言葉を取り戻す
日本語が死んでいる
上辺だけを言い繕って真実なし
差別用語だのなんだの
おむつを取り替えて貰いながら
云いたい放題の2チャンネル人
歩いたこともない歩き方の論文
教育という必要悪
吉田松陰は獄門
国語教育のまったくのまちがい
歌一つできない日本人
日本語の伝統は芭蕉で絶え
維新の志士の歌にわずかに蘇る
歌はうったえる
身も魂も捨身施虎に似て
預け与えることをもって
人のありようとする
我はまたこれをもってす
国体については我がなすことにあらず
2008年08月17日 20:56 せっちゃん
未知表現個
絶句秋夕暮
白鷺発蓮水
見残影日没
2008年08月18日 07:19 せっちゃん
個を表現することを未だ知らず
秋の夕暮れに絶句す
白鷺が蓮のみぎわを発つ
残影に日の没するを見る
漢文のほうがわかりやすいじゃねっかさ
2008年08月18日 20:51 せっちゃん
消灯見射光
伽藍縦満月
早在秋冷気
槿花過思末
2008年08月23日 20:49 せっちゃん
鳥海山頂荒
霧中見広大
白浪廻早稲
帰期快晴天
2008年08月25日 20:45 せっちゃん
味方村水路
白鷺群天地
他日成釣客
無邪魔稲刈
2008年08月26日 20:45 せっちゃん
夜半長雨停
我寝雲間淡
明仰三日月
稲群辺下弦
2010年02月24日 11:16 せっちゃん
黄昏坐を
雪の夕暮れの
なんという美しい
大空も
社も山なみも
死ぬるほどの絶唱
昨日と今日の間には
人の一生ほどの差があって
わしは何かというと
破れて消えた影法師
そいつがどこにも
ひっかっかっていないのさ
2010年02月25日 08:24 せっちゃん
降ったり止んだり
雪のはだれは
大入道したり
猫又したり
うさぎと亀や
だれかさんしたり
悲しい目をした
なつかしい故郷の
うはは
地球人類のように
直に消滅するかな
自分になるということは
ふいに涙
そりゃ
悟後の修行にもあるのさ
世の中どうにもこうにもだしな
2010年02月26日 08:19 せっちゃん
シーシェパードは
一神教の横暴を曝け出す
ローマ法王の謝罪の如くに
信ずる者は救われるという
身勝手は
十字軍から
オリバークロムウエルから
魔女裁判から
ハワイを滅ぼし
世界中を蹂躙する
野卑野蛮
宗教が間違っていたと
云わないかぎり
際限なく続く
右の頬を打たれたら
左をさし出せという
厚かましさ
真実は
信にも不信にもよらず
そんなことは
鳥でもけものでも
三つの子でも知っている
どうしようもないねこれ
2010年02月27日 09:38 せっちゃん
なにをまあ
しゃちほこばってさ
峡帯峡路錯然なる時んば吉なり
犯ごすべからず
政治は政治にまかせ
経済は経済にまかせ
詩歌には
そっぽ向くよりないか
因果必然という
それだけが当然
元の木阿弥
阿呆のこれさ
世捨て人
生活といえば
坐るだけが
そりゃもうそれっきりの
七転八倒
2010年02月28日 08:58 せっちゃん
からすに
行きずり挨拶すると
きょとこっちを向く
聞こえるはずもなし
車の中
杉のてっぺんに停まったさぎ
これと云ったら
ふいと向く
けきょけきょどあほったら
つんと振り仰ぐ
声にも出さんのにさ
あっはっは
言葉を持った人間だけが
つんぼ桟敷の風景か
いいから
早く雪が消えろ
そうだ
ふきのと取って
雪の山にうっすら
半月がかかる
明日も晴れるってさ
だれか来たら
ふきのとをご馳走しよう
朝に夕に
坐るしかない
能無しの生涯も
じき終わるか
そーしたら
出来ることなら
月山に行って
ミイラになろう
雪消えを
ぶなの新緑
2010年03月01日 08:45 せっちゃん
トヨタの社長は
なんであんなに無能なのかな
危急存亡の時に当たって
申し訳おしゃべりの
ていたらく
肉を切らせて
骨を絶つの一石
若しやトップに立つだけが
精一杯の
えせ官僚
組織が人材を育てなくなって
すでに久しく
トヨタこけりゃ
日本がこける
待てよ
よってたかって
功名に仕組まれた
真珠湾攻撃か
中小企業の国
イチローに
松井にさ
毛唐どもにいいように
しゃぶられて
開国以来二百年
云っちまった
くたばりぞくねの坊主がさ
なんたら
恥っさらしを
春一番
雪が消える
悲しいな
2010年03月06日 08:33 せっちゃん
ちえたいした歌も詠まねえってのに
紀貫之って
どうしてこんなに
文字書くのうんめーんだろな
百万年かかっても追っつかねーか
わっはっは
わしもみみずのたくって
紙汚そうっと
ふん
雪霧がたって
春だな
わしの特許は
風景に自分を置き換えるこったかな
だれにでもできるけど
だれもできないのさ
いいことあるかって
歓喜
2010年03月07日 10:24 せっちゃん
雪霧らい
雨が降っている
もっとものすごい
まっくろけなものだったな
むかしは
四月になって
三メートルの豪雪がいっきに消える
春が来るよと
世話人が云った
先住のいまわのきわだった
向こう山も
こっちの沢も
雪霧は
雲になって流れ
龍の住む里には
雲がかかる
去年は龍舌蘭が咲いた
百年に一度という
センチュリーユッカ
四十年うるさったく
はびこっていた
先住が植えたんだ
とつぜんそやつが咲いた
百年の
君が代蘭に
咲きにほひ
命尽きたる
のちの幸せ
君が代蘭というのだ
龍像とは
禅僧の誉れ
はーい
龍像の
伝えの如く
幽けしや
センチュリイユッカの
花にしぞ咲く
すばらしかったな
百の花ふさ
なにさ
テキーラの原料だってさ
わしは安物のワインで
晩酌
どうやら冬は終わる
暁天坐も
黄昏坐も
けっこうに寒かったな
今年はもう咲かぬか
2010年03月08日 08:35 せっちゃん
冬枯れ山を
抱きしめキッス
なんていう美しい
ふるえる
乱れ雲の
空を泳いで
春だあ
泳ぐのは不得手だったか
溺れたって
空気があるさ
花が咲くには
間があるか
浮かれ呆けて
ドライブして
雪崩だあ
潰れ屋敷だ
見事なもんだ
大木だあ
寝床に入ったら
満月
おぼろ月夜か
暈をかぶっているぞ
あいつと二人
相合傘の道行きは
となりの銀河
アンドロメダへ
行きて帰る心の味は
芭蕉さま
行って帰らぬ無心
そうさなあ
なんで帰って来るんだあ
2010年03月09日 08:32 せっちゃん
雪のまだ残る
鶴賀城は
吹きっさらしに
観光バスがついて
わしらのほかに
団体さんも押しかける
ラーメンと名物コロッケで
腹ごしらえして
天守閣に登る
切腹した
白虎隊の
今様肖像画
いくら似せたっても
どっかかったるいや
歴史音痴のわしには
蒲生も保科も
かたもち先生も
よーわからん
売店でもって
和紙買ったら
どえらい高いぞ
荒城の月の
碑があった
茶室があった
素通りする
荒城の月
とは聞こえ
うらがなし
たれか命の
茶を喫し去る
桜の老木を
手入れする
たいへんな労作だ
三十回四十回
養生するとさ
なーるほど
たとえては
阿鼻叫喚の
花と散れ
石垣をのみ
苔むしてあり
老夫婦の
これは
温泉旅行
2010年03月10日 08:15 せっちゃん
世の人
思い込みにより
惑わされて
てんで勝手に
錦の御旗
いいのわるいの
そうさなあこれ
地球破壊爆弾
思んみるに
痛ましいかな
夜も眠れずと
良寛さんは
詩に書いて
生まれたまんまの
赤ん坊は
仏というお姿の
良寛の前に良寛なく
良寛の後に良寛なく
万億年
わがともがら
孤俊
たった一人を免れて
正法眼蔵に涙を流し
なにをやらかすかわからん
わるがきどもを
対大古法にして
それでもって
それでもって
2010年03月11日 08:07 せっちゃん
みんな仲良く幸せにと云って
校長先生さまは
あばずれ中学生を
そっくり卒業させ
声楽の女先生の
喉を潰してしまった
なんというまあ
あいつ頭剃らんな
二股坊主
どこの馬の骨ともわからん
わしのようなは
さげすまれて
えっへっへ
校長どのは賢いんだ
坊主なんて
人間の格好してねーな
先生だってさ
天邪鬼みてえなのや
へんちくがいたり
先生は悟れず
坊主はでたらめ
禅宗が
坐禅を嫌い
坐りもせず
出家もせず
嘘八百の空威張り
ごんずいかたまりの
どうにもこうにも
猿芝居に明け暮れて
人を見殺しにして平然
血の一滴もない
いつのまにやら偉くなる
見苦しいなあ
なんでこうなる
云う甲斐のないのばっかり
もうじきおさらばできるって
せがれ代継ぎは
出家せずのらごら坊主
なんたるちあ
宗門を出るこったか
所詮そういうこった
宗門すでに滅び
坐ってられりゃ
他は二の次三の次
もう一人二人
あとを作って
このわしを
証明してもらえば
贅沢これに過ぎたるはなし
2010年03月12日 08:28 せっちゃん
秋風とともに来襲して
どんどんかっか
あっというまに
庫裏も本堂も穴っぽこだらけ
極彩美麗なる
青ゲラ七羽
啄木も庵は破らず夏木立
行い清ます
禅僧さまのはずが
釣り坊主の
えーと女好きの
こりゃどうにもこうにも
穿った穴から入って
禅しょうわきの
柱巻きにもぐり込んで
くーすか
ひっつかんで
こんちくしょうめ
どうしてくれるって
川原へ捨てに行く
獰猛なることは
やたらに突っつきまわし
気味がわりーったら
ながーい舌
性悪女よりひでーや
おっぱなしたら
お寺めがけてまっしぐら
左官がしっくいを塗る
もう大丈夫という
どうなんだろ
やっこさんめ
つっつきかけて半穴
薬が入っているらしい
ひとつがい住みついた
朝に夕にたららたた
仕方ない性悪女
きつつきの
穿てるあたり
降り降りて
まふら淋しも
軒伝ひ行く
豪雪の冬が過ぎる
向かいの山にいた
唐松は
堂を破りし
きつつきの
つがひにあらむ
春の燭台
せっちゃん 雪が降って
鉄塔がかすんで
一つはくっきり
一つは幻のよう
宮沢賢治の
電信柱は
エポレットをつけて
勇ましく歌って
行軍
なりがでかいのに
送電線は
スカートを履いて
華奢でふーわり
ラインダンス
流れ雲の
大空が
拍手喝采
烏とわしは
一人ぼっちで
ぶつぶつ
はてなあ男は
生涯で二度もてるんだってよ
色には
女はみんないちころ
空には
世界宇宙一切わしのもの
なーにを
寝言云ってるんだ
烏なんてもな
こうやって
ああやって
かーお
もてるもてない
いらん心配なし
今日んところは
負けておく
真っ黒けえの
あほがさ
2010年03月14日 08:10 せっちゃん
モーツアルトは
白馬を駆って
金銀の両輪に
はるかな天空を行く
田舎者にはお呼びもなく
取り付く島もない
次に聞いたら
一音全世界
モーツアルトだ
世の中
ものみな
田舎者の歩みのように
モーツアルトだ
明けても暮れても
モーツアルト
学校をさぼって
ノートもほったらかし
モーツアルトさえありゃ
命もいらぬ
なんにもいらぬ
青春も
女も知らん
だがなぜかしっくりせぬ
しっくり行く
菊の花の精のように
現われ出でて
挨拶する
すべてが失せる
壁も
大空も
いきなり
砂漠になって崩壊
絶叫して
三日三晩立ち尽くす
狂いか死か
それは人間だ
スフィンクスと取り引き
生き残って
白髪まじり
耳鳴りして
ものみな遠のく
淋しい
つまらない
とつぜんそれが蘇る
八ヶ岳に
雨が止んで
露濡れて
おおいちもんじが飛ぶ
命は
故郷の山河
彷彿として蘇る
モーツアルトが鳴っていた
器械装置を考案する
あらゆるものから水を
汚物から
石ころから
ひからびから
憎悪から
無関心から
空白から
首尾よう行くように見えて
突如暴発
原子崩壊の
全身ケロイドに焼けただれ
盲しい
音は聞こえず
真っ暗闇に
激痛だけが我れありという
しっくいに巣食った
虫の卵の行列は
なんというそやつがモーツアルト
無間地獄は何万年
親兄弟を擲って
出家
断じて許せぬ
はた迷惑の上塗りは
おおよそ十年
モーツアルトを聞く
しっくいの壁を抜け出でて
影というもの失せて
浮き草ではない
涙のように
一音全世界
それを脱して
モーツアルトよりも
一坐の法要
我れなく
モーツアルトなく
風景ものみな失せて仏
2010年03月15日 06:56 せっちゃん
寒いんだねえ
あの雲
ほんのり覗いた
青空の中に
まるまって
一本杉と
冬枯れ林は
もう春だって
云っているのに
2010年03月15日 06:58 せっちゃん
ふきのとを取った
きつい香り
幼馴染の
美代ちゃんが
女だって知ったときの
鮮烈の
思い出を
2010年03月16日 08:16 せっちゃん
新しい部屋に寝ていると
雀のつがいが来て
出て行けと云ったんだ
そう云えば尻の下あたり
屋根瓦に巣食っていたな
ぴいちくぱあちく
うっさいわしのもんだと云ったら、
ぴいっとくそひって行く
二つ並んだしみだあこれ
でもって今は目と鼻の先の
鬼瓦下に住んでいる
雀らが縄張りすらむ
軒のへに
人も住まへば
こは騒がしき
村八分の
わしんことじゃないのさ
雀ってのは強い
鳩のむれ追っ払って
餌を啄ばむ
つばめを追い出して
軒を守る
田んぼの
落ちこぼれなくなって
花の蜜を吸う
くちばしでっかいから
めじろとちがって
花ごとむしる
丸竹にむかい雀は
上杉家の紋
弥生時代に
稲といっしょに
わたって来たという
由緒ある雀一家
つばめは出遅れ
みんなで助けあって
海をわたる
信濃川に
数千数万して
すれすれに飛ぶ
いっせいに
大空に駆け上がる
感動だったな
あれは
おい雀ども
とうとう半分に
へっちまったってな
これからどうするんだ
この寺の紋もさ
丸竹にむかい雀
2010年03月17日 08:40 せっちゃん
雪が降る
生を明きらめ
死を明らむる
仏家一大事の
因縁なりと
生死の中に
仏あれば
生死なしと
雪が降る
生死涅槃と心得て
生死として
いとふべきもなく
涅槃として
ねがふべきもなし
このとき始めて
生死をはなるる分ありと
降る雪の
人身得ること難し
仏法値ふこと希なり
ぼたん雪になった
六道輪廻を
まぬがれ出て
ろくでもない
ぐうたら男の
この身を
捨て去って
降る雪の
滅罪清浄
業類解脱
忘れ呆けて
知らず知らず
降る雪の
涙流れて止まず
2010年03月18日 08:22 せっちゃん
鵜川神社に
大けやきがあって
手当てして
木枠で囲ったら
ゲゲゲの鬼太郎の
住まいになった
柏崎
鵜川の宮の
大けやき
しのふる雪に
我れももうでぬ
次第豪雪地帯
堰をつらねて
鵜川には
岩魚と鯉と
鱒とが同居する
とりかぶとが咲いていた
釣りは面白かったが
道路ができて
手入れして
魚もいなくなった
風の座という
民家を
改装もせずの
喫茶店
趣味人の
展示会があって
書や
陶器などを
おし並べる
立ち寄ってみた
若い子連れで行ったら
大学の先生に間違われた
土田舎坊主が
綾子舞の里は
そのどんずまり
立派な
会館ができて
ビデオを見る
踊りを習う
利恵ちゃんと
ちひろちゃんが
手振りして
踊ってみせる
古風の舞が
わしはすっかり気に入った
室町時代を
今に伝承する
稲刈り終って
九月には
綾子舞の奉納がある
絵描きの
ごりちゃんと見に行った
屋外に
舞台をこさえ
何百人の観客と
教育長が演説し
市長が演説し
会長どのが演説して
米山さんから
雲が出て
ぴっからしゃんから
二つ舞い
狂言があったら
どーんと降って来た
すんでに車に逃げ帰る
佐渡を追われた
出雲の阿国が
行き倒れになって
伝わったという
綾子舞
あしびきの
雪ふり袖の
如くして
出雲の阿国は
いつ問ひ越せね
雪に閉ざされ
うら若い
女たちに
伝承されて
村里を回り
絶えることなく続く
木沢なむ
山沢ならむ
標識して
女沢なむ
雪ふり袖の
美しい衣装を
新調してもって
中高生が
立派に舞う
色っけがあったらなあと
土田舎坊主
2010年03月19日 08:40 せっちゃん
弟子が怪訝な顔して
これってなんだあってさ
まんさくの
花にし咲くを
いつしばの
待たまく春は
日長くなりぬ
まんさくの
花にし咲けど
いつしばの
待たまく春は
日長くなりぬ
そりゃまあなんだと思うわな
いつしばっていつかというのと
やまたずって迎えにかかる
万葉の言葉は
物があるのさ
手に触れ
耳に聞く
わしのを
歌にはなってると
歌人が云った
妄想と独創がないってさ
うっふっふ
歌人さまのは
歌になっていない
日本語でもないし
何語でもない
ふわーい欠伸
まんさくの
花にし咲くを
知らでいて
年のへ我れは
物をこそ思へ
まんさくを貰いに来た
じっさが死んだ
神棚に供えて
年を占うという
まず咲くからまんさく
満作のまんさく
あんまり
縁起のいい花ではない
春ながという言葉が
越後には残っている
いつまでもうら寒い
咲くまえは吹雪
咲いたあとは寒風
わしも越後ぽうになった
まんさくが好きさ
2010年03月20日 08:14 せっちゃん
モンスターのよったくり
樹氷の
八甲田山中には
不思議な音楽が
聞こえる
行ってみようか
死なないようにさ
モーツアルトか
死んだ弟の声だ
安家洞の
百メートルの
水底に
跳びこんで
まっ白けで
目のない
恐竜がいるか
三葉虫かな
バッハの無伴奏
狂った姉の声だ
こうっと風が吹いて
春一番の林が
ぴかっと光って
金色の
狼がわだかまる
ローマから来たんか
エーリアンかな
ぱかっと開いた口に
吸い込まれ
父と鳴くらん
母と鳴くらん烏
人間なんて
万物の霊長だとさ
神様かたって
どうしようもねえ
性器だけの
さなだむしか
食うだけのいもむしか
鯨食うな
まぐろ食うな
日本人はどっかいけ
信ずる者は救われる
キリストユダヤマホメットに
戦争と喧嘩は任せとけ
ふわーい欠伸
ぽっかり月が出た
2010年03月22日 08:29 せっちゃん
杉を植えるといって
山を伐採した
わし一人反対
松茸取るんだ
しめじも出たんだ
ぶなも
といったが通らず
伐採したら
あっちこっち
山百合が咲く
人がいるかと
はあっと振り返ると
十も花をつけて咲く
うっふふ
ふられてばっかりの青春をさ
守門なる
笹廻小百合の
ゆりあへの
あひ見し妹が
忘らへぬかも
守門なる
笹廻小百合の
ゆりあへの
人の姿に
あどもひにけり
松代にも
松之山にも
松がない
松もないのに
松之山といったら
村人が示す
たしかに三本あった
はーてな山百合は
見たことがないぞ
松のしぶでもって
渋海川
松之山
渋海の川の
百合あへの
久しき時ゆ
通ひき我れは
松之山
渋海の川の
百合あへの
思ひ起こせば
年はふりにき
松代の
渋海の川の
百合あへの
人に知られで
住むよしもがな
松代の
渋海の川の
百合あへの
人に忘らゆ
名をこそ惜しも
兵隊の墓がある
二階級特進で
上等兵
山百合の
塚にしあらん
手を合はせ
上等兵なる
念彼観音力
どうにもならん
親不孝のわしの
母親の墓に
一本だけ
山百合が咲いた
けだしやも
親の因果が
子に報ひ
二人もうでぬ
百合あへの墓
笹川の流れは
白砂青松
石英砂の
鳴き砂で
たとえようもない
百幾つも花をつけた
山百合の行列
年へて行くと
車の道ができて
笹川の流れは
どこだと聞いて
ここだと云われて
唖然
九拾九神
百合あへ咲けば
一言の
主の命を
流れ笹川
このあたりに生まれ
海賊になった
話を作った
百合に
龍を
海賊船百合花竜の
痛快大活躍
しまいには
地球のへそから
別の世界へ行く
2010年03月23日 08:06 せっちゃん
坐ってりゃいいのさ
坐るしかないのさ
色即是空の用なし
ゼニを儲ける
甲斐性なし
名利の衣も
おんぼろけ
手足等閑
はなみずすすって
ホームレスは面倒だし
托鉢も無理か
とっつこうか
ひっつこうか
うんこしょんべん
わっはっは
情けない詩だな
さっさと断食して
消えるか
病気になっても
医者いらず
人目をしのんで
浮世のかぼちゃの
つるたぐり
風が吹いて
雲が流れ
菩薩清涼の月
畢竟空に遊ぶ
自分を見ない
一時失せて
宇宙風呂
オールマイティは
我此土安穏
天人常充満
そうしてもって
塔婆一本
諸天撃天鼓
常作衆伎楽
絶句する美しさ
一瞬一生
ふわーい欠伸
たーいくつだあ
えっへっへ
2010年03月24日 08:11 せっちゃん
嵐になるなんて
とっても信じられん
曇り空に
ぽっかり
月が浮かぶ
平和ってこれ
若い女の子が
抱きしめてって
信じられるか
わしでなけりゃ
いやだって
おっほっほまさか
苦心惨憺の連中をさ
みんなよせて
祇園精舎
ほい
百億円やるって
信じられるか
そりゃ夢だな
雪消えには
ぽっかり
しょうじょうばかま
信じられないほどの美しさ
浮世の春を
踏んずけずにな
2010年03月25日 08:32 せっちゃん
魚屋は
魚食ってから魚売る
坊主は
死んでから葬式しろ
うっふっふー
うっかり云ったら
坊主どもぞっと睨む
阿呆めが
なんだと思ってやがる
生を明きらめ
死を明きらむるは
仏家一大事の因縁なり
生死の中に仏あれば
生死なし
檀家に読んで
聞かせるではないか
禅宗のくせに
坐禅大嫌い
見せかけの
坐禅しかしない
そりゃまったくのナンセンスだ
嘘とはったりだけが
胡坐かいてさ
わっはっは
けつを割りゃがった
だれも
坊主にはそっぽ向く
空威張り
らごら坊主の
世はつひえ
割りを食うたか
月見に一杯
舟に乗って
川を下る
水はとうとう流れて
天地幽冥の間
草ぼうぼうの
蓬莱島に
漂いついた
龍華仙女に会う
美しい仙女は
手をのばして
天竺の桃を
取ってわたす
不老不死なんて
いらんといったら
しばらく恋愛ごっこに
いいってさ
我は詩歌に
彼は管弦の技に
二人歌い
舞い踊る
三千年
そうして
十の花草を育てた
如来
応具
正遍知
妙行足
善逝
世間解
無上士
調御丈夫
天人師
仏世尊
すでに花開いて
結果し
十の宇宙となる
われらが宇宙もとこれ
聞こえるだろう
如来十号
賛嘆礼拝
忘れほうけた
そうさ
お前さんがことさ
聞こえないのは
聞こうとしないからー
2010年03月28日 09:15 せっちゃん
春の美しい
雲が流れ
生臭坊主に
挨拶して行く
阿呆めが
数学を勉強しろ
自然数ってのが
わかんねーんだけど
一から十まで数えろ
つまらん説教してねーで
モノポールを発見しろ
宇宙の支配者だ
飛天伎楽天
きれいどころが
よりどりみどり
雨曼荼羅華
重力レンズで探したが
見当たらず
ビッグバンの向こう
宇宙を求めるについに不可得
わっはっは
我汝を救い得たり
科学者なんていうのもさ
十二歳を卒業しろ
戦争も平和も
宗教も哲学もさ
雲の流れの
千変万化
歴史も芸術も
詩歌も音楽も
人の生み出す何倍の
無限泡影
だったら
ぽけえと眺めるによく
飽きたら忘れるによく
5%の合格率
気象予報士よりも
むかしのじっさのほうが
よろしく
かあちゃんの湿度計が的中
これからは
大荒れ
剣呑の時代
ゼニ使い果たしてもって
人間
生き延びるのがやっと
雲を掴む話ってのが
真理だとさ
2010年03月29日 08:19 せっちゃん
暮れに降った雪が
しがみついて
孟宗は
なだれをうち
杉は何十
へし折れて
樫の大枝が
かえでに墜落
雪消えまでは
ほっとかにゃならん
消えたらたいへん
重労働だ
せがれがやれ
わしはいずりまわってー
しょうじょうばかまが
群れ咲いて
美しい
越し人の
呼び名をなんと
しょうじょうばかま
しくしくに
雪の辺に咲く
行ってみると
いちりんそうも咲く
数少なくなって
赤い蝋燭のようなつぼみ
いちげなる
咲き立つ見れば
古寺の
杉の門は
あがきも行かな
杉の門は
荒れ吹くなゆめ
かたくりは
まだ雪の中
いにしへゆ
我が言の葉を
かたかごの
紫にほふ
春ならましを
雪割り草は
向かいの山に咲く
もののふの
いにしへ垣の
いつしばも
紫にほへ
雪割り桜
雪割りの
花を愛ほしと
いつしばの
しのひ行きしは
たが妻として
かたかごはまだ
また雪が降って
おおやまざくらの雪化粧
花よりも美しい
池に映る
雪の林は
この冬の見納め
あっはっは
先のことはわからん
虎を描いて
猫にもならず
なんにもならずは
思い込みも
気位も失せて
雪月花美しく
風景はだが
おかまいなし
暑さも寒さも
大事件ってこったな
仲良くたって
さあてどーかな
2010年03月30日 07:06 せっちゃん
福寿草が咲いて
坐禅草はまだ
百体観音だってさ
田んぼん中に
雪道続く
行こうと思ったら
しなのの山猿め
駐車場じゃねーから
停めるなって
雪もかかねーどいて
パス
教育県だ
炬燵哲学だ
ちんけでえげつねえの
けえくそひって死ね
雪の山
かきのぼって行って
ふうふうはあはあ
石仏を拝む
百五十ある
修那羅の石仏
もう百五十あるってさ
千手観音あり
お地蔵さまあり
閻魔さま
明王あり
不動明王あり
そうずかのばば
きつねに
山姥に
うさぎに
道祖神に
殿様に
お姫様に
天神様に
わかんないのや
こわいのや
にっこりしたのや
はらぼてや
雪をかぶって
いい面構え
どうでもいいのなんてないなあ
むかしの人に会う
人の世に帰る思い
若葉のころに
もう一回来ようか
これも信州人なら
信濃の真人をさ
人間がいなくなってから
ずいぶんたつな
日本人が消えて
相撲は
モンゴル場所になって
朝青竜は罰金払え
せっかく名人芸になって
くそ
わっはっは
わしももうじきおさらば
山に行こうか
海に行こうか
千年もしたら
引返してみようか
2010年03月31日 07:12 せっちゃん
春の雪降る
谷間の林を
絶唱
今様はさっぱりわからん
うっふっふ
死ぬまで生きろってさ
どいつもこいつも醜悪
嘘とはったり
疲れてげっそり
曖昧
おれおれ詐欺に
2チャンネルに
顔のない
人格形成のない
スカイツリーを建てて
浮世から
逃げ出そうってさ
天上へ
無意味さ加減は
馬鹿630m
電波等だってさ
貧乏人
その他大勢の
裏返し共産党
宗教だの
きちがいだの
人間リコール百億人
儲けるアメリカ人な
わっはっは
1000年裁判
死ぬ前に
世の中と和解しろってさ
神さまだっけか
介護されて
文句百万だらは
みっともねーってさ
いひひ
宇宙飛行士だと
つまらんもの
有り難がって
いつの世も
ピラミッド万歳だとさ
芸がねーなあ
ふわーい欠伸
光前絶後
玉露宙に浮かぶ
雪降って晴れて
今日から
春だってさ
早く花咲かんかな
2010年04月01日 07:12 せっちゃん
雲があんまり美しいので
空が青いので
振り返れば
月は中天
雪が降って
白梅は満開
紅梅はつぼみのまんま
残んの生涯は
始まったばかりか
ついの彼女もできたってさ
あっはっは
浮世にお返しは
そりゃこっちが
出張気味だな
親兄弟には
申し訳ないが
なあ月よ
生死を明きらめぬ
修行は
亀の甲羅から
首や手足出して
あーでもないこうでもない
服と不服とは
医の科にあらずってさ
2010年04月02日 08:13 せっちゃん
筆をとってさ
どんな字を書いてるんか
何を書いてるんか
さっぱりわからん
筆法も弁えず
みみずのたくって終わり
でもって
あっはっは
何を書いたかというと
みみずののったくり
桜はまだかな
空威張り
らごら坊主の
世は終わり
割りを食うたか
花見に一杯
修証義だ
正法眼蔵を
筆写するだけで
いいってことがわかった
2010年04月03日 08:20 せっちゃん
ごいさぎがふうらり
雪の辺にいた
あくる日
軒先に立つ
助けてやれなかった
ひよどりの
落ちて死ぬべき
春なれや
越しの深田に
花咲くはいつ
鳥もけものも
冬を越すのは
たいへんだ
年寄って
春先に命を落とす
今年の冬は身に応えた
ついぞなく寒かった
願はくは
花のもとにて
春死なん
そのきさらぎの
望月のころ
頑丈野放図の
西行は
ついにその念願を果たす
じじいばばあと
浮世の厄介者
そろそろ
お覚悟をってやつだな
野垂れ死に
ホームレス
冬には凍死
春がいいなあ
梅の咲く
つとにも降れる
あは雪や
初音鶯
鳴くには鳴かじ
うぐいすの鳴き声
うまいんだがな
わしは
2010年04月04日 06:18 せっちゃん
上田の雲洞庵は
武田信玄に
塩を送るよう云った
和尚の
人呼んで
これは越後一の寺
いにしへゆ
大修行底
雲洞庵
荘厳せむは
新芽吹かへる
豪雪が消え去って
言語を絶する美しさ
僧道の
畳は腐れ
いたずらに
人の寄るさへ
新芽吹かへる
駒澤学者が
跡をついで
坊主はどうしようもないって
大威張り
てめえ
仏教のぶの字もない
あほらしさ
山姥の像があって
そっくりの女の子がいて
ほんとうだ
わあと云っては
だれかれ案内する
滝谷の慈光寺は
村に僧堂を
寄進して貰って
大法要をして
テレビに放映された
それっきりすたれるに任せ
当然のこと
師家のいない
僧堂なんて
まったくの
ナンセンス
杉の森深く
絶好の
修行道場
僧堂は
いたずらにして
静けさや
涙すなるは
出家せぬ尼
御開山
道元禅師の法は
絶えて久しく
お経をあげりゃあ
ゼニになるっていう
坊主どもが
私物化して
たとい出家しても
行くところなし
花も雲も
嘆き悲しむ
鳥もけものも
そっぽを向く
人間の如来は
人間に同ぜるが如し
水は流れ
水は流れ
2010年04月05日 06:12 せっちゃん
この事は単純
ものみな我れにあらざる時節
云うは安く
行うは難し
二十年三十年して
ようやく緒につくが如し
何故か
ただただ我儘なるが故に
梅の綻びるを見て悟る
アルタミラ洞窟の壁画の無我
命のやりとりの辺の野牛を
2010年04月07日 08:41 せっちゃん
浮世の付けを
払わにゃなら
あっはっは
借金地獄に
無感覚ゾンビーに
平和と戦争ナンセンスに
共産党にオームに
死んだら
それっきりおしまい
はた迷惑がしばらく残って
どうにもこうにもの
歴史は
教科書に載る
うっふうへたくそな文章
ホメーロスか平家物語の
嘘八百が正解
フルートを奏でる女と
ピアノの伴奏をする女と
つまらん音楽だ
音楽家ってのは
ださいドレスを着る
ひっぺがして
りんごを食ってる
イブにするか
腹がぶったるんでるぞ
音楽より
ましってこともー
てなこと云うと
大顰蹙
咲いた花なら
散るがよき
神に捧げる才能も
ニイチェの申す通り
神は死んだ
ふっふ
狂人止めて
マシーンになって
それもだめなら
いやさゼニカネ
大空の雲のほうが
よっぽどましだ
千変万化して
消えりゃ
跡なし
モーツアルトを聞こうぜ
ドライブして
1950年代のピアノ
末期患者の
心のケアだとさ
そんなもん
医者にできるわけ
ねーだろがさ
よしつれて来い
さっさと死ね
このごくつぶし
苦しめ
因業ごみあくた
浮世の税金
ちったあ納めろってな
てめえ死なんで
お世辞塗ったくるより
ちったあすっきり
虫けらにも
劣る死に様
なーにが尊厳死だ
麻薬漬けってな
2010年04月08日 08:25 せっちゃん
ろーそくのようなつぼみが三つ
暖冬で先細りかと
思っていたいちりんそうが
いちめんに咲く
感激
雪折れの竹を払い
落ち枝をかたずけ
ごみっさらかいて
雪消えの大掃除
たいてい
若いのがやるんだけど
わっはっはたいへんだ
中国五台山は
三世紀弥勒菩薩を祀って
永らく仏教の聖地であった
今また若い僧が修行に上る
厳寒の冬は
マイナス三十五度にもなる
命がけ
たとい必死の厳行も
心がけも
仏に会わずは
結果を得ず
共産主義の荒野に
いたずらな
無駄骨折りは
悲しいかな
2010年04月09日 08:33 せっちゃん
女が
よれよれのまんま
七転八倒
幸せを得ようとして
手つかずのものに
手を付ける
哀れさ
紅梅はほころび
白梅が待つ
春の日は長く
雲は
浮かんで流れ
あとかたもなくと云えば
雲をおしはかる
救いようにない
人間地獄
2010年04月09日 20:21 せっちゃん
猫魔なる
冬の宿りを
摩訶不思議
月押し照りて
ぶなの林を
では行こうか
はーい
ぽっかりぽっか雪の辺
足跡が続いて
それがふっ消えて
行方知れず
宇宙飛行士
ではなくって雲の辺
ぎゃーお
妖怪猫だ
猫魔女
ふーっ
ひっかいて
腹上ダンス
うわ止めてくれ
目から火花
げらげらぐわーお
雷どんがらぴっしゃ
鬼になって
稲光
月夜が大荒れ
飯山の
金井の妹を
恋ほしくば
しのふる雪を
かきわけて行け
越後は
ちゃーんと雪をかく
信州はでこぼこ
のろくさ
なんだって
おねーちゃんがいるんだって
ちがうったら
もののたとえを
ふーん
飯山を
過ぎて通へば
雪も消え
妹も待たずは
酒でも喰らへ
飲んでやろ
知らない
大虎になった
手も付けられん
置いてく
置いてけば
ぐすん
二つ三つ
胡桃をかけば
炬燵掛け
つましくあらん
野沢の湯
ひえー熱湯
入れやしねえ
もう
火傷して
酔いが覚め
なんていう
ごめん
空間移動だ
一っ飛び
二人して
露天風呂なる
雪と月
こは妙高の
絶景ならん
夢や現や
現実に戻って
さあて
和紙でも買って
書きそぼくるしかないのさ
花の春は
飯山の
正受庵とふ
花をねんじ
白隠さんには
何故伝はらじ
2010年04月12日 09:45 せっちゃん
九十四億円
月の裏側を廻る
旅だってさ
お墓を作りたいってさ
どのみち
人の生涯
まったくの無意味
膨大な
無駄遣いより
月を仰いで
しばらく
無意味を
知るによく
光前絶後
玉露宙に浮く
あっはっは
伝家の宝刀
引っこ抜き
たらーり鼻水
八手の葉っぱ
宇宙飛行して
無心を知るなら
そのゼニわしにくれ
教えてやるぜ
あんぽんたんども
地上の楽しみ
無上楽をさ
わっはっは
2010年04月13日 08:36 せっちゃん
うすずみざくらは
1500年
二番目に古いさくら
吹雪の冬を耐えて
花吹雪
ほとんど
枯れ死したのを
人みな
知恵を絞って
手当てして
ふたたび
満開に開く
桜色して
しだにに淡く
うすずみ桜の名の由縁
仏の道を
絶え果て
2000年の大樹は枯れて
仏という
無上の花を開く
見えないか
そんなことはないはず
2010年04月14日 10:00 せっちゃん
すみれさいしんが咲いた
清んだ青
ぎふちょうはまだか
おととし絶えたと思ったら
去年はいくつもいた
梓弓
春はぎふてふ
マンモスの
氷河の時代ゆ
舞ひ生まれ越せし
なつかしい春をさ
ハルゼミは絶えた
しゃくやくの咲くころには
みーんみーんと鳴いていた
美しい青い蝉
ひめしろちょうも
おおひかげもいなくなった
羽化せむは
蕗の露なる
おほひかげ
夏を舞ひ行け
雷門ぞ
蕗を取ると
七つも八つも
さなぎがあった
同寮会に行った夏
ついぞ見なかった
あさぎまだらが来る
ながさきあげはを
浜松で見た
いやがうえにも美しい
亜熱帯の
大型の蝶
人間の絶滅種も
多いんだってさ
今のさばっているのは
人間というよりも
恐竜
うろこの生えた魚とか
ひんむかれて
逆さに貼り付いた
面の皮
恥も外聞もない
わぎなにきんたま
ぬいぐるみの
ゼニカネ勘定
空気がないんだってさ
水棲昆虫の
だがめ
そんなことはない
空気はあるさ
わっはっは
キリストさまに聞いてみてくれ
こきんとうさまに
アメリカさまにさ
ここは
人間付き合いしてるよ
2010年04月15日 09:57 せっちゃん
死んで死んで
死にきってという
半死半生のまんま
埒開かんのは
欲の皮が
突っ張っているからさ
毎日死んで
百日死ぬと
なーんにもないが
ちらとも見える
なーんにもないは
見えない
見えない向こう
ふーい
梅の花びらが飛んできた
まっしろい
おらあがん
早く自未得度先度他の
心を起こすべし
もっとも大切なものを
人に譲って下さい
2010年04月16日 10:45 せっちゃん
まんさくが終わって
ぜんまいが出て
すみれさいしんが咲いて
ぎふちょうが舞う
なんのために生きるか
自分とは何かと問う
問うもの如何
もとっから答えの中
その上に答えを出そうとする
戦争に平和に
ヒューマニズムにってさ
いずれ劣らぬ中途半端
結果は狂人と
ヒステリーと
いつまでやっているのかな
いよいよむずかしくあいまいに
山の桜が咲いて
越後の春は
清く
淋しくかな
今日はまだ
雪が残る
これぞわが愛人
風の便りに
消え行く
756 2010年04月17日 10:31 せっちゃん
また雪が降って
掃除は一日遅れ
すみれさいしんが咲いたのに
ぎふちょうはまだ
しじみちょうが出て
あれどうしたのかな
雲が浮かんで千切れて
星がまたたく
人にはみな星の座ありと
浮世の鞘と
まあさ
わしは抜き身の太刀
納まらずは
鈍刀これ
空しくもあり
淋しくもあり
錆ついたか
うっふう
お休み
2010年04月18日 10:01 せっちゃん
これはうら寒い風が吹いて
春は名のみのって
東港で一メートル
四キロのさくらますを
釣り上げたってさ
二キロで一万円の品
港中大騒ぎで
凱旋は
ほとんど初心者マーク
三日も興奮覚めやらず
わっはっは通いつめて
結局足が出るかな
六道輪廻盥回しの
たまには溜飲を下げて
魚こそいい面の皮
人生かくの如し
いっとき釣れたり
まったく釣れなくなったり
幸運は竜宮の
乙姫さまがにっこり
はてなあ
太公望も浦島太郎も
同じようなもの
因業じじいの因業暮らし
浮世離れて
なおさら浮世の
外れ浮世のふーらんどーごら
一勝一敗
一引き分け
殺人事件に
巻き込まれなきゃ是
鮒釣りに行こうか
めんどうくさや
ようやく花もほころびて
唯我独尊
2010年04月25日 06:07 せっちゃん
四方より
花吹き入れて
信濃河
寄せあふ波の
行方知らずも
いっち悪たれは
民百姓だってさ
水戸の黄門さま
そいつをうまく扱う商人と
人気商売の代官様と
さあどうする
借金して
アメリカさんのいいなりなって
えーとそれから
うっふっふ
そんなこたどーでもいーか
政治不要
教育という必要悪
執権北条氏が見本の
松下村塾が理想の
水戸の黄門さま
どうしてくれる
なに
ふだらく渡海して
助さん角さんは
釣り暮らし
日本列島さようなら
あっはっはそりゃいいや
三界の
花のあしたを
いやひこの
おのれ神さび
雨もよひする
2010年04月26日 13:28 せっちゃん
ゴンドラを
空しく見上げ
宿らふに
湯沢の花の
今盛んなり
花の時に
客がだ-れもいない
閑散
ご馳走まさにこれ
数の倫理とさ
わしなんぞ
用無し人間
歌も
俳句も
妄想
バジリスク
日本語なんて
どこさがしても
見当たらぬ
淋しいたって
世の中
芽吹きあへ
一人湯船に
ひたれるに
思ひ起こせば
妹も一人ぞ
一人きりでも
空間があるのさ
オブジェの
花とは違う
一人ありゃ
一人息付く
鬼無里には
七曲りせむ
八つ曲がり
妹らがり行く
花吹雪して
鬼のような
人間ばっかりだから
鬼無里
なーんちゃってさ
2010年04月27日 08:17 せっちゃん
ぶなの林の中に
古墳が六十もあって
春はかたかごの花に咲く
どんなふうに主が暮らたか
歴史学者の物語には
あんまり意味がない
なんにも伝わらずなって
白骨だけが残る
月が照れば
月に任せ
天の川の
流れるままに行き
浮世は花盛り
ここに一献をそそぐ
呑兵衛もなし
かたかごに
さやめく女たちに
スカートを覗く肉体もなし
風の吹くだけの
山の林を
身心失せて
無上の一箇ありと知る
若しやこれを知る
すなわち是
あるいは
冬の吹雪の
もがり笛をのみ
心の姿して
2010年04月28日 08:33 せっちゃん
高遠の
花をいついつ
芽吹き山
しのび逢ふ瀬は
過ぎにけらしや
追憶をもって
目の子勘定しなけりゃ人生は
吹き散る花の如し
悲しみも
苦しみも
しのび逢ふ瀬も
わっはっは
サルトルって間違いも
愛もさ
どうしてヨーロッパどもは
間違を
哀れはた迷惑
いえさ子はかすがい
重荷を負ふて
遠い道を
行くが如しも
ちんぷんかんぷん
心月輪
七十を
過ぎて通へば
高遠の
吹き散る花に
さ寝もい寝やれ
雪消え
ぶなの林に
ミイラになるって
月山の理想は
まったくの無責任
人みな天人の如く
舞い舞い帰り行く
浮世
この地の
他にはなくを知る
花とはこれ
わっはっは
花咲爺
2010年04月29日 09:04 せっちゃん
雨が降って芽吹き山が
青葉に変わる
やまでまりが咲いて
山の桜が咲いて
仕事半端で
飯はめんぱって
死んだおふくろが
云っていたっけな
箒も箕も雨ざらし
冬の大掃除まだ
終わってねーや
たらのめのてんぷら食った
やまおがらが伸びる
しおでにとりのあし
うどももうじき
大好物の
たけのこが出るぞ
そのあとはふき
お経を読んだら
芽吹き山
青葉になるか
鳥の鳴き声すりゃ
つっかかってくる
わりーことした
そりゃ真剣だわな
わが幸せはこれ
たいして飲めもしない
酒を飲んで
一人歌って
音痴
無上楽
大法を継いで
和歌を復活
むかしがたりを我が哲学
わっはっは
どれも
一苦労だったがな
だれ知らぬ
世間の評価なし
忘れ呆けて
あっぷらぱあ
さあ寝よう
明日は
明日を一日
2010年04月30日 08:51 せっちゃん
半日ですんだ掃除が
うんさうんさと三日かかる
わっはっは年寄りメタボ
今日と明日の間には
今日と明日の間があるってさ
山の桜が咲いて
なんという美しさ
雲が流れて行って
千変万化
今様の人は
美しさを知らんのかな
テレビに映画に
カメラの放列に
ただもう馬鹿らしい
なんて云えば大顰蹙
命まるだし
一期一会なんて
贅沢茶人の言い分
東南アジアや
アフリカの子は
美しいなんていう
下らん用語不用
日本の子は
つまらんなあ
可哀想だ
今わの際に
人生の価値を知る
人の死ぬるやその言やよしって
今でも同じだと信じる
でなきゃまったくのナンセンス
見れども見えず
顔のないインターネット人間の
おれおれ詐欺を無惨
世界破裂しようが
人類滅亡も
たとい一箇あるを知る
自分という
お仕着せを離れてさ
他人ごとや
思想や宗教によらぬ
無限絶対
山の桜は
ほろりと散って
新緑
一寸の鳥だって
ホーホケキョと鳴くのに
2010年05月01日 11:49 せっちゃん
雪が降ったか
そうじゃない
山桜が吹き散って
いや満月の
ただ月明かり
水を汲んだ
茶碗をひっくり返した
タオルで拭う
何日か乾燥して
まあいい塩梅か
明日から
接心で
二十四、五人の客
賄い方のかあちゃんを
医者に連れて行って
ふわーい
たいしたことなけりゃいいが
たらのめに
やまおがらに
たけのこを掘って
五月は山菜接心
さーて寝よ
2010年05月09日 12:34 せっちゃん
水を引くと
村の灯が倍になって
どっと蛙が鳴いて
蒲原田んぼ
山桜が咲いて
ちらりほらり
生きながらえて
わしはまた夏を迎え
さーてさて
とかく異常気象が
死ぬまでは生きるか
わがあこがれの月山は
雪消え
ぶなの新緑
かあちゃんが病気だで
どーしようもねーや
海を渡って
北海道の花を見に
ついでに小樽の
鮨を食って
くろまぐろに
ほっきがいに
遊ぶことしか考えない
ぐーたら亭主
めんどくさ
がきどもは
とっくに勘当して
勘当されるのは
親のほうだって
うーん
星が出た
蛙の田んぼはー
2010年05月10日 08:41 せっちゃん
たけのこを掘った
大きいの二つ
小さいの一つ
わっはっは浴びるほど
食えるぞ
大好物
山桜が吹き散って
ぶなの新緑は
花のようだ
草むしりもせにゃならん
車椅子を貰って
足なえじじいも一仕事
草むしりしたら
ドライブに行こう
モーツアルト
越しの小国を
新芽吹く
しくしく今に
恋わたるらん
竹の高地で
和紙を仕入れて来たぞ
短冊に切ると
百枚はできる
死ぬまで生きるっていう
強欲たかりが
まずは一千首
2010年05月11日 14:50 せっちゃん
短歌大会だ
書道ギャルだいうの
あれはなんなんだべ
後ろ向き
あかんべえ
あっち向いてほいの
美しいものに
なるには百年
二百年
いや滅んでしまったか
花は咲き
雲は流れ
鳥はさえずり
魚は行く
数を頼んで
付和雷同の
右往左往
淋しいばかりが
おれおれ詐欺だ
2チャンネルだ
顔の無い
人格形成のない
空しい社会の
傷だらけ
ぶっこわれ棺桶の
なんまんだぶ
どういうわけか
スポーツだけが
華やかに
新記録を生んで
そうさな年寄りは
うんこしょんべん
ひりくるんで
介護人間の
四の五の云わずに
あの世へ行け
土葬か
ほったらかしにすりゃ
地球の役に立つ
そういや人間って
なんかこれ無駄
まったくの無意味
2010年05月12日 12:11 せっちゃん
山古志の
この奥の井に
我が行くか
初音の萩の
咲き満つるまで
山のてっぺんまで
田んぼがあって
曲がりくねって
時には
行き止まりの
道があったり
夏の終わりには
もういちめん
萩が咲いていて
とつぜん
地震になって
てんやわんやの
壊滅状態
緋鯉を飼い
牛を飼い
闘牛をし
ものすごい
たくましい牛の
銅像かと思ったら
うわなんと
こりゃ本物だ
短い綱に繋がれて
山古志の
この奥の井に
我が行くか
人を恋ふらむ
道と如くに
山古志の
水辺萩花
咲き乱り
何に舞ひ行く
こは雲に鳥
人も死ぬ
田畑家屋敷
水没して
八方泥沼
時の村長の
大活躍もあって
寄付やら
義捐金やら
大金して
国道190号線は
前代未聞の
とんでもない
大工事
ぐうたら親父が
十万ポケットに
毎日パチンコに通うと
地震そのまんまに
観光地すりゃけりって
国の借金増えるきり
いやさなんせ
めでたいこっちゃ
村長どのは
国会議員になる
復旧した
山古志の
水辺萩花
咲き乱り
何に鳴き行く
こは月に鳥
2010年05月13日 14:48 せっちゃん
新緑の
林の中に立って
振り仰ぐ
何を思い
何を了る
無用の長物
女の肌が
恋しくなけりゃ
わっはっは
男でもなく
雲に泳ぐ
くらげでもなく
未来を知らず
虚空も知らず
破れ法界
ビックバン
はーてだれであったか
また会おうぜ
2010年05月19日 11:41 せっちゃん
でっかい杉玉が
ぶら下がって
作り酒屋のようだ
うまい酒作るんかな
まずい酒だったら
見せかけ杉玉に
火点けてやる、
花盛りに
もうもう煙の
かちかち山
わっはっは
よー燃えるぞ
泥舟沈没
坐禅しない坊主は
溺れかけて
あっぷあっぷ
でもって
四の五のゼニカネ
そんなもな
鮫にでも食われちまえ
よったくって
葬儀屋に
食われてらあさ
2010年05月20日 08:44 せっちゃん
右に廻って山を上ると、
はーていったいどこへ行くんかな、
龍人のねぐらだってさ
温泉もある
朝っぱらから
轟沈てわけにもいかんな
龍人には
彼女を人身御供に差し出す
差し出される前にって
生贄はお姫さまに
決まってらあな
むかしは龍がいたんだな、
今だって雲が渦巻いて
大空を駆ける
竜巻に出合ったな
巻き込まれる前に
上下に分かれ
地は消え
見上げる空を
渦巻いて行く
あれが若しって
高速道路で
逃げられなかったからな
赤い神社が見えて
なんだと
世界救済教だって
呆れた
人間ての宗教が好きだな
ばかにつける薬ってやつ
2010年05月21日 10:15 せっちゃん
うさぎはもう
茶色になって
山坂すっとぶ
元気なもんだ
青葉若葉の
いい季節
ふーん三年も
そーやって生きりゃ
人も存分なのに
100歳の
寿命を延ばして
地球を汚し
宇宙に唾する
情けないったら
トンネルを抜けると
和紙工房がある
短冊があった
扇が書きやすく
でも買わないで帰ろう
なぜかつまらん
モーツアルトも遠のく
帰って行って
草むしりして
一杯飲んで寝る
花筏の白いのが
なんで涙溢れ
2010年05月23日 08:55 せっちゃん
うわー暑いまるっきり夏だなこれ
草むしりしかすることねーけど
たまには客も来るかな
いつだったか
ふとんに入るときんたまのあたりもぞもぞ
ふわっとあけると大スズメバチの特大女王がいた
いくら女好きでもご遠慮願う
今の時期よく女王が飛んでいるんだな
開け放った窓からもぐりこむ
ひめじょおんににがなにたんぽぽにしゃがに
さつきが咲いて
草も鳥もけものも虫どもも大忙し
ちぬ釣り名人も止めちまったし
はあてなあ
坐るだけがひまつぶし
浮世を抜け出して
山川大空といっしょくたの
いいことあるかって
坐りゃあとなし
ふーんなんか仕出かすかって
売れる小説も書けねーよーだし
うっはっは面倒くさ