ショートショート

由紀ちゃん四こま

由紀ちゃん四こま


 ピアノ弾きの由紀ちゃんは、売れないたこ焼き屋のアルバイトして、とうてもおかしなおっちゃんとテレビ見て、残ったたこ焼き食べて、それからかめ三疋と小鳥と金魚と猫とすずむしとアパート暮らし。じゃりんこ知恵ちゃん、もっきり屋の少女の向こうを張って四こまマンガにする、これは起承転結その原稿。
   ネタ提供由紀ちゃん
   起承転結すけべ坊主
マンガだれか描いて下さい。別に四こまでなくって もいいんです。

1たこ焼き屋由紀ちゃん一人お店。2おっちゃんのっこり出てぶつくさ。3由紀ちゃん時計見る十時過ぎ。4由紀ちゃん青海苔して売れないたこ焼き食べる。
1由紀ちゃんおっちゃんと二人お店。2おっちゃんいっしょに死のうと云って由紀ちゃんの首しめる。3ようったら大学の先輩間抜け面出す。4襟巻きとかげの真似してるのって由紀ちゃん云う。
1先輩かつてラブを感じたっていうのに。2なんていう豚みたいおっさん、出会い系サイト専門してるってさ。3「なんし来たの。」4「ラーメン食いにゆこいいとこめっけた。」「うんゆこ。」由紀ちゃん青海苔してたこ焼き食べずにすむ。
1友達スナック開いた手伝いです、疲れたびー喉が渇いたいっぱい。2お、飲めるじゃねえかねえちゃん、ハイ、うーこれも下北旅行の軍資金。3ヨロシクあたしがママ開店祝いの乾杯でーす、みんなで一気飲み。4次の日下痢、あたしって肝臓悪いとちゃうか。
1あたしゲゲゲの鬼太郎って云われるの。2スポンサーのすけべ坊主いて目玉親父。3砂かけ婆さの恵美子ちゃん、ねずみ男の弟子に子泣きじじいの学生にって、かってに仇名くっつけて、4下北旅行しようってことになってる。
1恐れ山の夢を見た。2おじいさんはどこって呼ぶ、なつかしいあたしのおじいさん。3地獄沼もやっと霧、由紀ちゃん赤ん坊になってはいずり回っている。4どうしておじいさんのお骨抱えて立ってるのーふうと消えて夢が覚める。
1ここはおじいさんの生まれた家。2お骨を抱えて墓参り、なんでだろうもうお墓入ってるのに。3由紀ちゃんが消える、風景だけになる淋しい。4なんという美しさ、あれは卯の花鳴くほととぎす。
1由紀ちゃん一人お店、おっちゃん来た。2おっちゃん恋に破れて精神病院行ったって、青春辛かったんだ。3もう禿げちゃって五十歳、兄の土地借りてたこ焼き屋、ひとりもので。4かわいそうって思ったら、おっちゃんいっしょ精神病院ゆこって云ったうそ。
1ピンとチョンの二疋の亀が死んだ。2春になっても出て来ない、土掘ったら死んでいた、もう生き物は飼わない、なんていうあたしは罰当たり。3そうじゃない大往生だってすけべ坊主、ちゃんとお浄土へ行ってるんだよう。4由紀ちゃんまっしろいひげ生やして浦島太郎になった夢。
1今度は金魚が病気になった。2さかさになったきり餌食べないよう。うろこがつったって血がにじむ。3それ鮒の松かさ病だってだれか云った。4それさかさま病だってだれかいった。
1スナックのなんだかいやーな客、べっとり死体みたい手で触る。2たいして飲みもしないのにさ。3由紀ちゃんまつかさ病の金魚に変身、うろこたって血が出る。4ギャッといって客ふん伸びるショック死だあ。
1おっちゃんと二人テレビの相撲見る。2由紀ちゃんひいきの高見盛の真似してほっぺたひっぱたく。3おっちゃん相撲通いっぱし蘊蓄、朝青龍は云ってみりゃむかしの日本人だとか。4そう云ってなぜかしぼむ。
1由紀ちゃん投稿用紙おっちゃんに貰って川柳作り。2ねこのみい子餌切れてわめく。3おっちゃんあーうー浪花節みたい電話よこす。4昨夜飲んでおなか変うわあ川柳できないよ。ほっぺたやひいきの鼻水ふくの紙じゃなくってー
1久しぶりにクラシックのチケット貰ってコンサートに行って来た、帰りの電車の中。2イリーナ・メデューエワ可愛いピアニストのソロ、人気のショパンにドビッシーでした。3なんだか昔を思い出すったらそんなんうそ。4ほろ酔いサラリーマンみんな無言でメール打ってる、だれに打ってんだろ。
1カストラーレってむかし映画見た、ミルクのお風呂に薔薇の花が咲く。2中国人も残酷日本人もそうだろうか、人間てそもそも残酷。3田舎行ってお餅食べた、今年の正月はよくお餅食べたなあ。4今年もまた死ぬまで生きるつもりなのでよろしく。
1ねこ家出して帰って来ない、友達と出かける約束どたきゃん。2三軒隣までしか行かない猫なのにどうしたんだろ。3カストラーレってどこちょん切るんだってすけべ坊主聞く、人間ひまだとろくなことしない。4あーああたしもひま。
1文鳥の寿命ってどのくらいなんだろ、七年飼ってたらこのごろ様子が変だ。2籠から出ようともしないし、水浴びしない。3友達のやっているロカビリーのバンド見に行った、なんと客はあたし一人。4仕方がないまた飲んじゃった。
1文鳥が死んだ、もっと遊んでやればよかった。2ぜにあおいの植木鉢買って来て、その中へほうむった。3物云わぬ死、頭下がるばかり。4空耳に鳴き声を聞く。
1ちえタイ行って5つ星ホテル泊まったってさ、2あたしなんか600円宿、いもりに背中ひっかかれた。3お湯は出ないしタイ式トイレ、エアコンなしの扇風機がたがた。4死ぬか生きるかの旅がいい。
1ベトナム旅行いつんなったら行けるんだろ。2売れないイラストレイターの友達お金できない、3あたしもお金たまらない。4五つ星ホテルとタイエステのお金回してよこせ、贅沢。
1おじいさんの家空家なってて父親が時々掃除に行く。25年ぶりに来た。2裏に何代か続いた祖先のお墓がある。3時間てなんだろ、過去から未来へってはたしてそうだろうか。4ここに住んでいたころの、そういつも八つでいたい。
1時間なんてもな脇見運転の科学者とかがでっち上げたもんさって、すけべ坊主。2わしは生まれる前とか、死んだあととかせいぜい赤ん坊。3そうねえって由紀ちゃん、あたし五つんとき七夕さまにマンガ上手になりたいって書いた。マンガ家になりたかったの。4トホホでもって今は三流ピアノ弾きやってる。

1クリスマスは一人きり。2すけべ坊主の新潟は雪降ってるかなあ。3おじいさんの満中除もすんだ。4あたしの彫った聖観音もいっしょに納めて来た。
1早々にバイト止めて貧乏のどん底。2来年から扶養家族外されるって、年金税金重圧。3昨日の忘年会つい飲みすぎて、昼頃になってやっとおかゆさん。4はーい元気しておりまーす。
1親嫁に行けっていってうるさい。2親父石原慎太郎で逆らえない、何云われてもハイって、云いなりにお見合いして相手に悪いけどあとでお断わり。3十一回お見合いして十一回断る。4たこ焼き屋のおっちゃんに気に入られて、客もいないのにアルバイト。
1、今度は真宗のお坊さんとお見合い。2西本願寺前で待ち合わせ、天王寺動物園見てそれからー。2(友達に)SFの筒井康隆の親父さんて動物園の園長だったんですって、4へーえあの人人間の肉食べたんですってね。
1さんしょううおペロッと飲む人って尊敬しちゃうかも。2声楽の人で喉にいいってなめくじ飲む人いた。3その人優勝したんだけど、創価学会でもって、4これもみな信心の賜物って演説するからみんな辟易。
1たこ焼きなんて貧乏たらしいもん食わんていう人と、2一流ホテルでお見合い。一流企業でもって600円安宿泊まる人軽蔑だって。危険だし虫嫌いって、3おほっ高級ワインがぶがぶ飲んで食べようっと。縁がなくたってもとっこだあ。4ゲ割り勘だってさ、ま断る理由できていいか。
1すけべ坊主法事で飲まされ、お布施安いとこほど悪強いとかぼやいて宿酔い。2幸ちゃんからテツのキーホルダー送って来た。3うわあドライブ行こうそれくっつけて、突っ立ったとたんギックリ腰。4あつっつうたら弟子にんまり。
1おっちゃんなんでも拾って来る、拾ったぱっちまで着てる、2ブッシュは偉い人や云ったり、見境いなく殺したあれ、宅間さんて呼んで決して悪い人やないって云う。3ちょっとついてけないとこあるけど。4座ってテレビ見ているだけでバイト代。
1おっちゃんミニ鯉のぼり赤いの拾って来て、いいだろって店に飾る。2由紀ちゃんうっかりかわいいって云ったら。3おっちゃん拾得文化について大演説。4そうだって酔っ払いが云った、落選議員どの鼻の頭赤い鯉のぼり。
1清き一票だぞおれを拾えって別の酔っ払い云った。2役に立つものは拾うべきだって議員。3おれかあちゃんに捨てられてさあって酔っ払い泣き上戸やる、4役に立つよ由紀ちゃんと云って、おっちゃん拾って来た女物のパンツ出す。
1中国語して太極拳やってニイハオと手こうやってやるのしか覚えない。2ベトナム行きたいヒマラヤ行く。3モンゴルの大平原に行って馬に乗ってゲルに宿って満天の星。4うわパソコン打ってるここ氷点下手はじかむなあ。
1もうじき金魚死ぬ、もう生き物は飼わない、かわいそうだあたしはなんて罰当たり。2鳥獣草花空の雲も大往生ってすけべ坊主。そうだみんなお浄土へ行く。3わしに抱かれりゃおまえさんも極楽往生って云う。4坊主大嫌い人間きらいといって、由紀ちゃん小鳥買って来る、生き物かわいいるんるんて、ピイチクオウジョウボウズキライゴヨノオンタカラって小鳥が鳴いた。
1篭の中の鳥から見たらこっち檻の中って坊主。2そう云えばおっちゃんなんでも拾って来てへんてこ演説して、売れないたこ焼きやって檻の中。3あたしはお見合いしてみんなこっちから断ったんだっていって同じ檻の中。4雲は檻の外って思へばなおさらってすけべ坊主。ピーピーオジョウゴクラクオリノナカって小鳥がさえずる。
1由紀ちゃん前川柳の会入っていた、2桂米朝門下の歌之介さんという人の、去年なくなったけど、「二匹目のどぜう」という川柳結社。3タイガースの応援団長いたりして、4アフターの飲み会面白かった。
1その川柳の会で知り合った人と、友達の仲介でお見合いした。2あの人経済学者で本なんか書いてる、3どうして断ったのって目脂ついてた。4惜しいって思ったのあれ一つもう後の祭り。
1書写山へ行ってうどん食べて来た、川柳作ろうって由紀ちゃん。2早口言葉のとんがらし。3出来ないたらいやらしいじっさこっち見てる。「すけべじっさうどんずうたら鼻水目脂」だめえ汚い鶯が鳴く、ホーケキョケ口笛に真似してすっきり。
1「貧乏はひまがあってもなかっても」川柳作った。2今は金持ちほど忙しいんだ、でっぷり太ったやつは貧乏人て客が云った。3おっちゃんはどっちって小声で聞く。貧乏人にもなれない人って客云う、つまり偉いんだ。4なによそれ、おっちゃん聞こえたんかどうか鼻歌してる。
1「なんでやろ仕事で飲むとまずい酒」川柳作った。2「朝帰りぬき足さし足虫の声」虫の声ってなんだって、すけべ坊主云う、鈴虫が鳴いたんですって由紀ちゃん。3ビール飲みすぎておかしい、肝臓悪くしたかもって浮かぬ顔。4なんでやろ肝臓だめでもうまい酒、坊主まぜっかえす、朝帰り抜き足さし足虫の息。
1知的障害児のミュージカル。2障害児11人とあたし達バンド5人、二年かかってる。3一所懸命他と比較したり自分を観察したりしない、まっすぐで素直で楽しい。4ふー疲れたビール飲んでぐっすり。
1人を傷つける、そんなのいやだ、どうしたらいいって由紀ちゃん。2うっふ生きてる限り傷つける、その反対もあるってすけべ坊主。3わし人をどえらい目合わせる迷惑人間だった。4自分で自分許せなかった、それが縛りになってた。
1ある時免れる。死んでも許せないことは同じ。2たといなにあったろうがちらとも触れない摩尼宝珠。3いつか人を傷つけない者になっていた涙。4へえそうなんだって由紀ちゃん不思議にどっか納得。
1この世は儚いって由紀ちゃんとつぜん思う。2儚いを一歩出りゃ無心ですってすけべ坊主。3そうさあ喜怒哀楽200%。4たとい由紀ちゃんに振られたってストーカーしないですむかもって。ふんなんのこと。でも座禅しないとなあ。

1一遍上人が大好きだって由紀ちゃん、2うんあれは禅門以外の最高傑作だ、すけべ坊主云った。3最高傑作ってなによ。4しゃしんしこ。
1しゃしんしこって何。2玉虫の厨子の絵柄んなってる、飢えた虎に身を施すって書く、お釈迦さんが修行中に、虎に身を投げ与えた、それ故この世に早く出生した、衆生済度に当たる、これ仏の真骨頂。3どういうこと。4どういうことって人間の完成なんかじゃないのさ。
1虎に食われて何が残る。2ほーらこのとおり風景。3なんまんだぶつって飢えた虎に食われちまう。4投げ与えるのさ、座禅てそうなんだよってすけべ坊主。
1死んだらどうなるのって由紀ちゃん聞いた。2このとおり、たった今とぜーんぜん変わらない。3普通の人にはわからないんだけどな、生きてるの100%=死ぬってさ、100%大喜び知らないから、浄土だあの世だの不平不満の夢見るのさ。4そうかなあやっぱ座禅かな。
1司法試験今度は受かった、離婚訴訟とか任せとけと友達云った、みんなで発表見に行く。2だめだった。3ようし残念パーティしよみんなで飲もうって。4残念男をばんざーいって胴上げ、ちょっとやり過ぎだよう、あらあたし病院に検査行って来たとこだのに、また飲んじゃったって由紀ちゃん。
1由紀ちゃん友達の田舎行って初体験の田植え。2うはうはどーんなもんです天皇と同じ日本人原体験て蘊蓄、お茶もうまいビール最高って、3翌日腰痛でいざりばあさ。4植えた苗浮き上がる、町の娘さんだであっはちゃんと見てあっからさって云われた。
1おっちゃん拾って来た扇風機据える。2扇風機重たそうだからっておっちゃん囲い取って回転羽むきだし。3こわいけどって由紀ちゃん云ったら、4わし拾ったら生きていた、もう命よみがえって恐くないっておっちゃん云った。
1あたし虫先生知ってる、ピアノ弾いてる店時々来てつけで飲んでく。2網と虫籠もってる、何して生きているのか。3お店のトイレでまむし三枚に下ろしたりカウンターにかぶと虫並べたり、4いのしし毛布一枚で捕まえたり、防御服なしですずめ蜂の巣取るんだって、変な人です。
1中国雑技団見て来た面白かった。2すごいアクションがあってショーもあって。3八歳から十五歳のテントから出て来たら、普通に笑って可愛い子供。4そうですなんかすかっとしたんです。
1由紀ちゃん髪短くしよう断髪だって、いやなこと思い出した。2十七歳断髪して男の子と間違えられた。3ぶっとばしたるったら街角のおねえさん、ボクおいで寄ってかないって云った。4うわーいやだ、ちょっとあんとき筆下ろしして、なーんて変なこと頭どうかしてる。
1そうだ頭だ、すけべ坊主云った、剃っちまってきゃわいいったら永平寺人形。2いやよあたし悪いことなんかしてない。3今流行ってるんじゃないかな上も下もつるんぱ。いやったらしゲンコ。4オホッやっぱ男の子調査、ギーやな日もう伸ばしぱなしする。
1じゃがいもに玉葱あっちこっち貰う、当分肉ジャガとカレー。2カレーだっていろんなのある、インド人毎日カレーだしさって阿呆面の先輩。3おっちゃんじゃがいも玉葱拾ったのくれた、どっかにおう、それに猫フッドも拾ったからって。4先輩に手作りカレーご馳走する、うんまいどっか変わってて芸術的だってあれねこ舌。
1いろんな係り有縁無縁出来て、頭剃るたってそうはいかないって由紀ちゃん。2今日のご縁は明日ない、今の係り一瞬ない、なにさ縁を見るに縁なしってな、真正面向きゃないんだってすけべ坊主。3そんなんわかったようなわかんないような。4そうかい死にゃぱっかり終わり、死ぬのはもったいねえその、パチンいけず。
1今日は雨、明石の友達んとこ行って来る。2明石のたこ焼きは、タコ卵だけで包んでたれつけて食べる。3これ明石焼きって云うんだけど、地元の人卵焼きって云う。4そんじゃ普通の卵焼きなんて云うんだろ。

1由紀ちゃん断髪止めたらゲゲゲの鬼太郎みたいになった。2ようしわし目玉親父ってすけべ坊主云う。3とうてつ坊やねずみ男、26歳だけど半分禿げてる。4恵美子ちゃん砂かけ婆さの若いころ、ようしみんなで旅行こう下北旅行、すけべ坊主のみみっちい年金当てにしてってうふふっ。
1ねずみ男のとうてつ坊やデジカメ買った。2目玉親父の車に乗って女中高校生のちゃりんこ姿写す。3だってデジカメの研究って云う、そういうの出歯亀の研究っていうんだ。4男の子にはゼニ出さないシュミないってすけべ坊主。
1砂かけばあさの恵美子ちゃんは佐渡へ行きたい。2坊主は3回も行った、でも魚釣っててどこも見てない、行こうかって半分思う。3かーお来いって烏が鳴いたやっぱ恐れ山。4じゃ下北へって云ってたのに恵美子ちゃんどたきゃん。
1すけべ坊主由紀ちゃん車に乗っけて、あのなあ二人行けなくなった、でもってハネムーンだ死出の旅って云う、2そんなんだめ弟子か奥さん連れて来てって由紀ちゃん、あらったらもうどっか走ってる。3だって鬼太郎には目玉親父って坊主。4そんじゃお碗のお風呂入っててって由紀ちゃん。
1でもなんだか旅は楽しくって、夕飯食い外れてすんでに突っ込んだ寿司屋、意外とうまい。2じっさばっさ営業ののんびり握って、飲ん兵衛どもがよったくって巨人阪神戦見てる。3関西弁の由紀ちゃん大威張りして逆転阪神。4穴子一匹分のっている、鯖うまい、玉おいしかった安かった、でも二人お酒飲めないさあ出発。
1運転変わって由紀ちゃん、突っ走る真夜中。2うわ若い女子と心中だうれちいって目玉坊主。3ギャー変なとこ手出さないでぐら。4やっぱ死ぬの止めた、象潟や雨に西施が合歓の花ってなによそれお題目、いやさねむくなんねえようにって。
1二人交代で夜明けには青森の道の駅「りんご畑」に仮眠。2しょーがねえなあ弟子呼ぼうって坊主云った、お経終わって電車で来りゃ間に合うから。3だって由紀ちゃん弟子のプロポーズに根負けしてイエスっていった、ばーろーめえイエスてのは邪教だあって坊主。4うふふって由紀ちゃん、奥さんこわい弟子もこわいやっぱ善人です。
1青森街道はあかしあの花が満開。2この道はいつか来た道って二人歌う。3ゲゲゲの鬼太郎はぱっちり目が覚めたって、4おわんの風呂が欲しいよって目玉親父。
1野辺地に来たさいはての旅。2春には萩の原生椿を見た、ここは椿の北限。3八百比丘尼が萩からここまで植えて来た、人魚の肉を知らずに食べて。4いや彼女は能登の人だっけか。
1大島で、昨夜寿司屋のお稲荷さんと糊巻の弁当食べる。2はまなすの花盛り、浜百合が咲き、名も知らぬいろんな花が咲く。3水が澄む、海にはおもしろいひとでがいる。4心地よい朝。
1椿があった、冬の嵐に折れ曲がって幾歳、2いや800年。3突然ちーんと鳴ってカーナビがx情報を受信しましたって云った。4それからおかしくなる。付いたり付かなかったり。
1だれの祟りだ、ねずみ男のとうてつ坊やか、うーんあいつの禿げ光線。2由紀ちゃん運転穴ぼこへどんと入れたらとたんに付く。3じゃ弟子の怨念だあ、ちえわしどっこもHしなかったのに。4違います奥さんの一睨み、うーんかもなってまたじきカーナビ役立たず。
1六箇所村行こう温泉もあるっていうぞ、さいはてをゼニにする原発お化け、2人の踏み込めぬ原野たってブルトーザー一発な。3まっすぐな道とけっこうな住宅地と。4霧に覆われた沼があった唯一風景、アイスクリーム売りが来た、でもトイレ汚い。
1 すごい匂いがする、恐れ山へ来た。2由紀ちゃん試行錯誤の末駐車、だって免許取って半年。3若い兄ちゃんBMWの1200ccバイクに乗る。4兄ちゃん得意になって恐れ山のあれが最高峰ってさ、バイク背景に二人写真撮って貰う。
1入山料500円。2剥き出し大地に硫黄の川。3さいの河原の石を積んで、お地蔵さまや観音さまや。4水子供養搭になんとか池に、さいせん箱もいっぱい。
1風車が回っている、さらし風車に由紀ちゃん写真。2烏が止まって逃げない、烏といっしょに写真。3すけべ坊主鼻歌歌って歩く。4空気わりいから長居は無用だってさ。
1薬研という道標へ行く。でっかい温泉境だそこ泊まろうって目玉親父云う。2どうも道は心細い。3巡り回って奥薬研というとこへ出た。4はて混浴温泉て聞いたがなあ。
1いやですって由紀ちゃん。2じゃあって行くうち奥薬研消える。3じき開けるからって未舗装の道。4林道山奥祟りだあって戻るに戻れず。
1北限の猿がいた、小さいからまだ子供と思ったけれど、そうではなく毛並みは白っぽい、三疋。2へえ満更祟りでもないかってカーナビこそともせん。3川内川の上流へ出た。4夢のような清流がダムを作って汚れ、くう日本人に祟ってやるってすけべ坊主。
1昼は過ぎた、食い物屋あったって入って行ったら老人施設。2由紀ちゃん大笑い坊主憮然。3やっとケイタイが通じた、弟子と連絡、大湊駅に六時には着くという。4大湊って名のしょーむねえ檀家いる鬼門だって坊主、ちえ建て前で来いったのに弟子二つ返事でやってきやがる腹はへるしって、うふうそうですわねえって由紀ちゃん。
1めっけたあ道ぐるっとよぎってスナック入る。2ランチタイム過ぎたからオムレツなら出来るって、しゃあないそれ。3ところがコーヒーめったらうまい、はい注文受けてから豆挽くんですって云った。大湊駅前にJRのホテルあるっていう、たいていだいじょうぶでしょう、駄目だったら下北にもあるし旅館もありますって。4由紀ちゃん運転するって、その方向転換ウヒー命あっての、だって心中でしょハイイイ。
1JRホテル満員下北駅のこれもでっかいホテル泊まる。ちえ弟子待ちなけりゃどっか混浴温泉。2、613目玉親父615由紀ちゃん、つまり中に弟子ってそれうーん頭来るってばたんきゅー。3とんと叩かれてドア開けると弟子と由紀ちゃん立ってる。メシですって。4ちえ子泣きじじいめわしは刺身のツマか。
1ジョッキばかうまガブガブ。2貝味噌というの、これは贅沢味噌で海老やら帆立入って卵とじ、でもビール飲み過ぎて腹いっぱい、うーむ残念。3翌朝615叩き614三つ四つ叩く、だめそこ他所の人泊まってるって由紀ちゃん、続き部屋なかったのって。4バイキング朝食は、弟子め野菜サラダ山盛り、子泣き爺じゃなくって馬かおまえは。
1仏ケ浦見て脇野町~蟹田のフェリー乗ろうといって行く。2三年前に弟子またもう一人と来た下北温泉潰れている。3おっかさどこへ行ったか、おまえさま方恐れ山大祭さ来た坊さま方け、わかんねわかんねおらそんで大それたもんでねって、こっちもなんとか弁。4半分なんでも屋してご馳走食い切れんほど出たがなあってなつかしがる、美しい松林。
1これが下北って感じの海沿いの道、霧になったり晴れたり。2おい空家あるでおまえら二人ここへ住むかって、いいわねえって由紀ちゃん。3仏ケ浦は行って帰って来るだけでもどうかっていう、では仕方がないその辺り散歩。4家ごとに薪小屋作って山のように積む、冬はそりゃもうそのって、帆立て三つでピアノ教えてか。
1北限の猿山公園に行く、そうか毛並み白くって小型でってつくづく。2ふーん絶滅寸前の36疋餌付けしたら、たちまち100頭超えてってそりゃ人間自然を管理なんてできっこないさ、てめえがてめえを管理する無駄骨も知らねえでよって目玉親父気炎。4道ぱたに野性の群れが出た、畑もなんも食い荒らしてってば
あさ外国語で云った、そういえば畑みんな柵してあるてえへんだこりゃ。
1津軽半島へ行く1時間フェリー、港にはでっかい帆立てを容れた籠が三つ。2霧の海を行く、へさきを別ける白波が美しい。3いるかがいた、10頭ほど行く。4またいた今度は集団で餌さを取る。
1由紀ちゃんと坊主は船ん中でビールを飲む、弟子運転。2そうじゃねえ海岸行くんだったら、あ間違えましたでもそっち一時間よけいかかる、ちえ未必の故意め、いえそんなことねえです。3なに民謡酒場だって、はい由紀ちゃんが行きたいって。4ちえかってにしろ民謡よりさおねえちゃんと混浴温泉。
1竜飛岬へ、かんぞうとはまなすととりどりの花に咲く遊歩道を下りて礒っぱたへ。2日本三大潮流という、ごうごう白波をたてて流れる。うーんあそこで釣ったら釣れるぞって目玉親父。3そう云えば空手の羽賀が潜ったらちぬの群れだったって、あんなとこ潜るやつ人間じゃねえやフウ。4恋しい二人礒っぱた歩かして目玉親父途中引き返す、気利かしたって登りに不安を感じた。
1味噌垂れのおでんといか焼き食って昼飯、2霧で北海道は見えぬ。3展望台に烏一匹。4せんべえやったら食った烏のひょうきん由美ちゃん。
1十三湖へ行った。2日本のアトランティスだ一夜で海に沈んじまった、黄金と朱の町だ、潜水艦もコンピューターもあったんだ、その跡はどこだ、人間はみなしじみになったんだ。3推定安藤屋敷跡の看板を行ったり来たり。4道っぱたに覗くと魚がいっぱい、なんの魚だ、そういえば釣りしている、ふーん突っ立つ。
1民謡酒場ってみんなで民謡がなる歌声喫茶な。2ちがう津軽三味線の人来る、山上進という人名手です、高橋竹山のお墨付きだってNHKでやってた、たしかにすごいあたしもちょっと三味線弾く。3なんだと山上進長岡講演に乾杯する役やってんだわし。あいつはじめどうってことねえと思ったら、どえれえものになった、頭下がるとこあるで。4そうなのって由紀ちゃん。
1あれ由紀ちゃんそっちお嫁行きたいんかな。2後釜決まった、一滴もお酒飲まないまじめ男、こないだ太田家晩餐会に彼女来ていた、太田奥さんわしにちょっかい出すなって釘さした、ふーん一足違いだなはてなって、よけいことは云わずもさ。3なんで民謡酒場なんだ、十二湖でも夕日の温泉でもどこへでも行けるのに。4だって由紀ちゃんの希望です、ちえ。
1青森ワシントンホテル泊まった、民謡酒場予約しないとだめだってさ。2ただの酒場へ行った、村山っていう末寺の和尚と同じ名だぜ、鬼門かなまたって、3どえらいご馳走出るうまい、にしん食っていわし食ってほや食ってかんぱちのかま食って、刺身食ってうどしどけ食って、なに食ってかに食って、田酒飲んだ。4罰当たったそうの由紀ちゃん翌日下り気味。
1青森から郡山まで高速一気に行って砂かけ婆さの恵美子ちゃんに会おう、だってわし仲間外れ。2二人げらげら笑ってケイタイしてる、恵美子ちゃんOK。3磐悌熱海温泉で一泊、前に泊まったことある。まっ新しの旅館、すけべ坊主無責任に誉めて、軸物お宝鑑定団に出せって云った、どっか行きにくいけど、4三~四時間で行くと思ったら運転三交代五時間半。
1恵美子ちゃん砂かけ婆さと郡山二時半合流、2いっしょ昼飯食おうってこって、そこら捜したらうなぎ屋あった。3うわすげえ上等うなぎどっしり腹いっぱい、西瓜にところてんまで付く。4さあどこへ行こうあぶくま洞って、うーん首傾げたが恵美子ちゃん案内。
1小野町郡山線アップダウンぐるぐる回り、2砂かけ婆さぶっとばす、3毎日通ってるって弟子必死にあとへつけ。4目玉親父腹のうなぎ突っ張るゲエップ。
1へえこりゃすげえや強烈登りつけたら石灰岩の山壁、2雪舟の絵みたいにふわーっと浮かび上がる。3ふーんそうさな戦後に発見されたんだ、音に聞こえた阿武隈洞。4遊園地があった。うさぎとかめの車乗ろうって由紀ちゃん、ただじゃないってじゃ止す。
1梅子さんて砂かけ婆さの友達来るって云った、なかなか来ない。2観覧車乗ろうって由紀ちゃん、よし乗ろうったら一人分負けるって係のおっさん。3そうあんがとって恵美子ちゃんも乗って三人、がたがた横揺れ。4あたし高所恐怖症だったって、恵美子ちゃん外見ないでちじかまる。
1梅子さん来て鍾乳洞見学急峻ぐねぐねへえなかなか。2冒険コース濡れる一般コース行く。3ワインの貯蔵庫を兼ねる、せっかく天然リザーブをさワインろくなのないって由紀ちゃん、しょーねえな地元のヤッパンモルトって坊主。4梅子さんお土産にってワイン買ってくれた。
1梅子さん介護老人二人抱えて草刈りして馬三頭世話して子供の面倒みて田んぼして、わーたまんないよ息抜きしたいって、うははそれわかる梅子さんちの牧場見学。2恐怖の空手亭主と思ってすけべ坊主挨拶したら、物売りのおっちゃんだった。3かわいい真っ白い馬にちっと気紛れルナーな馬に。4馬糞踏みそうになってブルーベリ畑行く、たった二つきり実ってた、目玉親父と由紀ちゃん食べるうまい。
1旅館から電話来た、あら忘れていた今から行きますって砂かけ婆さ。2来た道ラッシュはすんでに過ぎた強烈戻る。そうか反対方向だったか。3うなぎ腹まだつっぱる、温泉入ったらすっきりって思ったら、待ちかまえていた仲居が、すんませんがご飯先にしてくれって。4しょーがねえなあ早く帰りてえんかビール飲んでぽかあ。
1恵美子ちゃんぴったりくっついていい塩梅だったのに。2部屋二つペア二組うふっいいわよって、かちっと音して今日はだめ男女別。3家族風呂入ろうってあれいない。4あの二人ほっといたら手も握れないって翌朝砂かけ婆さ、結婚したらそうも行かんだろうがさ、結婚してもそうだったりしてアハハッ。
1チェックアウトしてからけやきの原生林というの見に行く。2てんぐちょうとくじゃくちょうと、だがじき急激な登り。3たしかにあった300年のけやき十数本、でもって汗ぐっしょり。4しゃあない出戻りしてまた温泉に入る。
1会津ガラス館へ行く。2前に目をつけた雪のようなシャンデリア売れていた、因みに聞いたらこっちは425万円これ25万円、でぶ女にくたらしげに云った。3雪のようなシャンデリアお蔵にぶらさげてお蔵喫茶するんだった。4それで二階に蒲団敷いておく、恵美子ちゃんと由紀ちゃんの頭剃って尼寺喫茶、といって怒られたっけさ。
1砂かけ婆さ渋川問屋というとこ案内した、会津若松七番町の名物店、海産物問屋をそっくり料亭にする。2むかしなつかしみがきにしんに棒鱈に会津牛、由紀ちゃんと二人また冷や酒飲む。3観光通りぶらぶらしてそれから恵美子ちゃんと別れる。4帰途についた、あれ飲んだてのに由紀ちゃん運転してる。

1由紀ちゃん幼い時の恐い夢、親父が由紀ちゃん持ち上げてどぶへ叩き込む。2近所にある汚いどぶ、その下にまたこわい世界がある、3母親がいた、向こうを向いたきり助けてといっても、助けてくれない。4恐い夢って何度でも見る。
1由紀ちゃんほっぺたに痣があった、2すけべ坊主初めて気がついて、どうしたのって聞いた、生まれつきあったのと云う。3そうかその痣のせいだな、両親どうしてもピアノ習わせたかったんだ。4でもいやでいやでたまらなかった。
1あたしって美少年趣味あるのって由紀ちゃん。2へえまだ前髪のってえのいじめたいわけな。ううん一人そっぽ向かれて一人友達と三人で飲んでほっぺたさわった。3メケメケの大将高校生んときの写真どっか出てたすごい美人、でもさあーゆーの結局頭の良さってことかな。4うんそう浪花節シャンソンじゃだめ。
1もう一つの夢はねって由紀ちゃん、18のころ見たの、もう死ぬんだっていって真っ赤な血を吐くの。2ふーんそいでどうした。3死んだと思って度胸ついた、青春ていうよりもたもたしてたから。4そのあとどうだった、わかんない。
1由紀ちゃん20なって真剣にピアノする、ニューヨーク行ってジャズピアノしようと思ったけど止めた。2先生女の人だったけど、ニューヨーク行って向こうのシンガーと結婚した、黒人で薬やってアル中でドメステイックバイオレンス、日本へ逃げ帰って来ていた。3彼追って来てでもって薬とアル中治そうとして失敗。4あの先生今乞食みたい暮らししてる、さっそうとした美人だったけど。
1由紀ちゃんはイエスウーマン何したって面白い面白すぎるてなもんの。2でもって親父のお膳立て十一回のお見合いにはいといって出て、みーんな断る。3一長一短だよってすけべ坊主。4自分のしたいようにしながらさ、本音はどこへ行った。
1由紀ちゃんピアノ弾いて坊主夫妻歌う。2知らない歌でも伴奏する、すげえプロだ、学校んときそんな先生いなかった、今はいるって由紀ちゃん。3聴衆の拍手喝采受けなくたっていいではないか、歌は心だって、こうして歌わせて貰って感激、思い残すことはないってなあ坊主。4上には上がいるのだ、プロとなる連中のものすごいこと由紀ちゃん知ってる。
1弟子と結婚してーうふふあたし余生を送るのって、由紀ちゃん。2そいつをもう一歩、死んじまって生まれ変わるのさって、すけべ坊主。3一晩中坊主もんもん、音楽に食い殺されたのはなにもモーツアルトだけではない、由紀ちゃんの本音は音楽だ、あいつをときほぐして、どうやってときほぐしてー。4明くる日弟子と二人草むしってるの見て、悪夢のような思い忘れる。

1天人が蜘蛛の巣にかかった蝶を救おうとして、ひょっと手を突いた。2それが生まれ出る子の頬に痣となった。3お釈迦さまがお怒りになった、蝶も蜘蛛も同じ命なにをよけいなことを。取り返しのつかぬことをした、その子をよく見そなわせという。4たとい何あろうとすべてが是となるように。

2019年05月31日

続由紀ちゃん四こま

続由紀ちゃん四こま

1由紀ちゃん電車に乗っていたら。2変な子対いに座ってスケッチブック取り出す、 3どうやらあたしを描くらしい、仕方ないから本読んでるふり。4下りるときちらと 見たらへたくそ、世の中いろんな人います。
1すけべ坊主ドライブの夢、2殿様清水に飯塚お汁塚という石碑。3恵美子ちゃん美 しいお女中になって清水を汲みご飯を炊きお汁をこさえ。4たくあん石のかあちゃん 出る。1どっかのおっちゃん電車ん中でワンカップ飲んで声張り上げて競り売り。2かと思ったら中学生とっつかまえて説教している。3やあだ酔っ払いおっちゃん、かわいそう真面目中学生。4アラッ放送禁止用語も飛び出した。まわりゲラゲラ笑ってる、あの子のPTAになって出てコラッてやる勇気ーない。
1すけべ坊主に云ったらほっとけってさ、仏はほっとけ。2中学生トラウマになって一生残るギヒヒッだって。3擬似おっかさんトラウマもって、なに云ってんのよでしゃばりのくせに、やあさんの真似大好き坊主。4おっちゃん別の電車でまたワンカップ買って競り売りやってた、あんなん名物なんかな。
1弟子と由紀ちゃん結婚式。2二人ともお金ないから届けだけにしよ。3つまんないよそんなの、盛大にやろ由紀ちゃん友達女の子いっぱい呼んでパーッとさってすけべ坊主。4あのとにかくお父さんに挨拶行ってからって、おそるおそる弟子云う。
1親父インチキ慎太郎でわけわかんないからって由紀ちゃん、2じゃわし代りに行ってぶっ飛ばしてやっかって、すけべ坊主。3イヒヒッ兄弟子寺へ入る時も生臭坊主ぶっ飛ばしちまって、どうなるかって思った。4どうなったの、雨降って地固まるってより押し流し、なに納まるものは納まった。
1その兄弟子、式なら早いめにホテル予約しろって。2新婚旅行のゼニぐらいおれが貸してやるって。3由紀ちゃんベトナム行きたいんだって、貧乏友達の美穂ちゃんと行くはずだったの、行けなくなったから。4なぬ夏の真っ盛り行くんだって、マラリアかデング熱なる。
1弟子首洗って親んとこ出かけて行った=マルだったって。2こんな年の過ぎたの貰っていいんかって聞かれた、はいいいんですって云った。3親父釈迦に説法で、とくとくとして弟子に仏教の話してた。4それ黙って聞いていてくれた、ありがたかったって由紀ちゃん。
1麻雀しよう相手あるってすけべ坊主、そんなひまねえですって弟子。2由紀ちゃんつれて札幌の両親に引き合わせに行く。3両親大喜びしてそこらじゅう観光案内。4結婚式のお金出してくれるっていった、盛大にやれますって弟子。
1そんなのいけませんてすけべ坊主のかあちゃん、自分が盛大にしたいため結婚式させちゃって。2だっておまえ女の一生は白無垢ウエディングドレスだぞって。3無理しないで式だけお寺で挙げて。4えへわし唯一の趣味披露宴のスピーチなんだってすけべ坊主。
1ほんとうなんだって兄弟子云った。あいつんときもこいつんときもスピーチでみんなかっさらった。2そうさ、来賓市長の演説形無しってな、教育勅語みたい、どだい日本人はユーモアのかけらもないでえ、あれじゃ成人式荒れるわけさって。3弟子ども戦々恐々何云われるかわからん。4あらあたし平気よウフッこれ以上どうってことないからって由紀ちゃん。
1九月友引の日に結婚式、2すけべ坊主のとこでやって、披露宴は近くの温泉旅館。3それ以前にすでに弟子は寺へ入っている、空き寺にはしとけん。4従いお盆が終わったらベトナム行き、新婚旅行じゃなく婚前旅行だ。
1弟子すけべ坊主の云うことを聞き、あっちを立てこっちを立て大変。2うふふそれがまああいつの特技ってわけよって、すけべ坊主平然。3わし酒飲めるようになったホレって弟子。4いっぱい飲んで固まっちまうのが三杯飲んでもってがんばる。


1年一回の禅門御祈祷大般若法要因みに得度式、2発心の人出家剃髪の式に、自分のかかっている歯医者先生気に入ったからって、すけべ坊主説教師に引っ張り出した。3今日は盛大な法要、由紀ちゃんも恵美子ちゃんも手伝いに来てる。4だって終わったら佐渡へ連れてってくれるって云った。
1インターネットで知って出家させてくれといって来た、これはすけべ坊主の十一番めの弟子。2十一という数字はげんがいいんですって新弟子、恋人がいてとうとう別れられなかったと云う。3世の中捨てるっていうのにふんなんてえこった、じゃ両親といっしょに呼べってんで列席。4シャバでは営業をやってたっていうし、坐禅これ一筋ってどっか見込みありそう。
1得度式じーんと来たって由紀ちゃん、前の晩真ん中ぽつんと残して頭剃って。本人はそんときが一番感じたみたい。2日本刀鍛冶がうった和剃刀あるぜえ、かっくいいってすけべ坊主3押しても切れない、もういっちょ押すとばかっと切れる。4あれどこへいったかな血だら真っ赤の感無量、どっかへしまい忘れた、新弟子ほっとする。
1由紀ちゃん女だわねえってかあちゃん。2なんでさあ。結婚するってとつぜん美しくなった。3そうなんだ、わしとこ拒絶反応する、4触ろうったら美しくなった、つまりわしのおかげだあってすけべ坊主。
1あーあ面白くねえ、美穂ちゃんと仲良くしようってすけべ坊主。2みっちゃんは由紀ちゃん旅のときは留守番してかめ三疋に文鳥に猫にすずむしの面倒みてくれる子。3うっふじゃ云っとくわ。4あの縁遠い人って薄幸の触れなば落ちんじゃなくって、その。
1歯医者先生の説教は阪神大震災や日航機墜落事件のこと。2わたしの話は死体のこったがそれでいいかと聞かれて、すけべ坊主いいぜ聞きに来るほうも半分死体なってるって。3手がぶらーりぶら下がったり生々しい映像ある。4面白いんだけれどお昼どき、先生遠慮して途中はしょる。
1おたくの坊さまうちじゃ人気者だって、歯医者先生たくあん石のかあちゃんに云う。2ちゃま付けるんだって、今日はセッタンちゃまドタキャンて受付の女の子が云ってくる。3あれわし気つけて普通にしてるってすけべ坊主、だって檀家の歯医者に愛想つかされたんだし。4また女の子に変なこと云ったんでしょう、違うってばさ。
1「阿賀に生きる」の小林映画監督も来ていた、山上進長岡後援会長の御夫妻も軍団引き連れて来ていた。2由紀ちゃん紹介された。3名刺貰ったり今度はもう是非おいでって。4映画監督みんなよせてどえらいすけべ話してる。
1もうじき3時よったくって飲んでる人いるし、賄い方の仕事はまだ、でも佐渡汽船もう行かないと間に合わない。2抜け出せないよ、由紀ちゃん遠慮しろ、あした恵美子ちゃんと二人きりで行くエヘヘッてすけべ坊主。3由紀ちゃん泣きまね、しょーがねえなじゃ抜け出すか。4電光石化弟子由紀ちゃん恵美子ちゃんすけべ坊主四人車に乗ってる。
1じゃ頼むな、花嫁さん泣くで仕方ねえってかあちゃんに電話。2そりゃもうかあちゃんお冠り。3でもわしの用事はすんだし、新得度者の御両親も感激して帰って行った。4そりゃあの人たちはほんとにいい人たちなんですっ。
1ちょうど微妙な折に、御両親お寺へ幾ら上げたらいいって聞いた。2五十万よこせ兄弟子の結婚資金に貸すってすけべ坊主。3しゃあしゃあ受け取ってそれ本尊様へ上がってる、4そうだかあちゃん金上がってるよ、え、なんですって。
1寺泊赤泊間二時間、小さなカーフェリイけっこう揺れる。2由紀ちゃん音大の仲間と沖縄へ舟で行って自分だけ酔った、弱い心配だって。3甲板にいわつばめの巣が十一ある。4そういえばこれテレビで云ってた。うひ糞だらけ。4新弟子十一って数縁起がいいんだってさ、あれ変なの、出来損ない入れると十二番目だったか。
1由紀ちゃんと恵美子ちゃんが宿を予約。2すけべ坊主佐渡は三回も来て、どこも見てない釣り禁止の閃角湾で釣りしてた。3そういえばさ、なんみょうほうれんげきょうの師弟がどんつくうちわ太鼓して歩いていたな、いやご立派、佐渡てのお寺廻りすりゃ五万とあらあなってすましてる。4なんでまた小木港まで行ってホテル、民宿にのしつけたみたいな。
1弟子と由紀ちゃんわしと恵美子ちゃんてすけべ坊主部屋割り。2恥ずかしいって由紀ちゃん恵美子ちゃんと女同士泊まる。3ちえ面白くねえや、温泉は塩水の露天風呂には月も出る、ふぐの白子と、めばるやら地物の魚が美味しい。4すけべ坊主女部屋進入してわあっ蒲団蒸しギャー水戸黄門責め、しまい物がおっ立った、あら寝た子が起きたのって恵美子ちゃん、うふう退散。
1明くる朝雨が降っていた、佐渡最南端の灯台を見て、たらい舟がわかめかなんか取ってて、なにしろ由紀ちゃん仕事があって一日限り、朝飯おにぎりして貰って早く出た。2由紀ちゃんナビゲーター弟子運転。3あたしたち朝飯食べるって坊主と恵美子ちゃん、けっこう豪華なおにぎり弁当食べる。4迷路みたい山ん中抜けるとまた海岸。

1佐渡にはコンビニないやっと見つけてごみ空缶捨ててガム買った。2入れ歯じゃガム食えないってすけべ坊主。3入れ歯外すとこみっちゃんに見られないように、みっちゃんてだれよ、由紀ちゃんの留守居美穂ちゃん。4うふっ雨止まない、雨の佐渡ってすてき。
1佐渡の金山この世の地獄、観光バスわんさか。2寒いよ坑道伝い穴の中、由紀ちゃんぶるぶるすけべ坊主の上着借りる。3水替え人足の自動人形ぐるっとこっち振り返る。4ギャッといって恵美子ちゃん、これほんとにぞっと来るぜ。
1ガラス張りに手突っ込んで金塊に触れる。2あれこれ張りついてるわ持ち上がらないってどっかのおっかさ。3どうれって坊主どうにか持ち上げる。へーえ重いんだわ。4向こうへ転がして触れないようしようか、アッハハみんなでわいわい。
1君の名はの閃角湾行ったら、雨降っててだれも車下りない。2行き過ぎて海岸端で朝食。3食っちまった坊主礒っぱた歩く、声張り上げて歌ってる。4砂かけばあさの恵美子ちゃん寝てる、名前かえてくれってさ、砂かけばあさいや。
1昨夜すけべ坊主はばたんきゅう、三人ロビーでなんのかんの。2そのうち二人でどっか行っちゃったって恵美子ちゃん。3由紀ちゃん帰って来て起こされた、だから眠いっていう。夜中お風呂行って来てそおっと蒲団入ったんだけど起こしちゃった、4そうじゃなくってせまったんだろ、実はそうなの、うふっ弟子より二人似合いの夫婦とちゃうか。
1田んぼや町を廻ってとき保護センターへ行く。2雨降ってる、売店で傘借りて行く。ときも仮り物のくろときもみな元気。3羽根落ちてないかな、釧路湿原行ったらたんちょうの羽根あったんだけどって。4売店で赤い鼻緒の草履買って、砂かけばあさの子どもちゃんにお土産。
1アルコール共和国行く、でっかい酒蔵とかあるんかと思ったら村をぜんたい。2真野御稜島流しの天皇さま、教養のない連中は興味ない、売店でおみやげ買う。3また草履買って今度は美穂ちゃんへおみやげって。4由紀ちゃん無念飲めない。
1十二時半までに小木港から直江津行きフェリーに乗る、2港の寿司屋で昼飯、金鶴というお酒うまい、3酒に酔ってりゃ船酔い大丈夫だよって無責任坊主。4由紀ちゃんの取って食ったら納豆巻ゲエッ悪酔いしそうって。
1小木直江津のフェリーでっかくて上等、こそっとも揺れない。2こんなの作るから赤字なるって、それ東日本海フェリーだ。佐渡汽船もたいていじり貧かもな。3ステージがあった、すけべ坊主上って月が出た出たって踊る。4どっかの人拍手うははっ、らしく頭下げてる。
1けっこう混んでた、船内探検の末めっけたあいいとこ、特二料金払って空っぽの部屋占拠。2枕並べてみんなで寝る二時間半の旅。3起きて枕投げ、由紀ちゃんのほっぺたにどかん当る。4だって幸せって書いてあるだもんて到着。
1恵美子ちゃんは一晩泊まって家帰る。2すけべ坊主また退屈な暮らし。3弟子結婚式の準備たいへん。4新弟子坐禅しちゃ草むしり。
1知的障害児のミュージカル三匹の子豚二回目公演大入り満員。2子どもたちのパワーすごい。3うふふあたしボランティアなのに一万円貰っちゃった。4かたすとき机に指挟んで血豆できた、罰当たった。
1送別会続いて天気といっしょに湿っぽいんだか、お腹こわす。2昨日は川原でバーベキューうふふ。3それから銭湯行って一時まで飲んでいた。4こんなん彼には内緒です、もうお酒も止めてあたしだってえーとその。
1結婚するって恩師に電話したら、癌でなくなっていた。2去年の秋いっしょにお昼食べたの最後だった。3どうして死ぬの、世の中みーんな敵に回してつっぱらかっていた時の唯一の味方だったのに。4今夜は痛飲する。

1すけべ坊主ドライブ梅雨空の川っぱた、雲の国にダンス、てやんでえ人も世の中もとっくに終わってらあな。3あらっ初めての道発見、外沢という部落あって、二キロ半道路予定地あって、ひえ対抗車来るとどもならん。4道んなった大崩という村だって、こんなとこで沈没ってキャハハッ。1k614どこ行っちまった、ケースにはピアノソナタ入ってる、花嫁結婚行進曲にしよう思ってるのに、わははっ終わっちまった余生にいいぜ。2うわでかぱいねえちゃん、かあちゃんかなこんなとこで埋もれてるなんて勿体なあって、色目使ったぞウフフッ。3やまどりしょーまと鬼百合と急に悲しくなる、4由紀ちゃん楽しかったな、慎太郎親父知ったらなんてえかな。
1砂かけばあさっていったら、恵美子ちゃんウツになった、違うバッハ聞いたせいだって。2このごろ俳句どうした=砂かけばあさっての止めて。3枕ぶっつけられてウツなったって由紀ちゃん、このごろすぐウツ抜けるってさ。4今日は子どもちゃん連れて買い物行くって恵美子ちゃん、あたしは髪の長あーい頭に口のあるお化けだってさ、こわいよ。
1新弟子なんか云って来ては放下著。2ぽけえトランプやってるすけべ坊主、サッカーと名付けた複雑怪奇な一人遊び。ドライブ行くか、殺し屋稼業でもうけようとか、たいていろくなこと云はん。3はたしてこんな師匠でいいのだろうか。4どんな師匠だっていい、自分で自分が許せるかどうかの問題。
1なんてえ無責任、2ばか断じて許さないよって。3年寄坊主四時半に坐る。4新弟子トイレ洗面五時二十分止静、ばかめ起きたら坐っとれ、なんたっててまひまのやつめ。
1弟子体質改善お灸すえてから坐る。2お経の声だって、ちらっとも悟らにゃ様ならぬ。3弟子五年かかってどうやらクリアする。4どう悟ったって生活護持教じゃしょうがねえって、すけべ坊主。
1デズニイシー行こうって恵美子ちゃんが云った、デズニイランドは恵美子ちゃん他何人かと去年行ったんだ。2ようし行こう花嫁置いて結婚式の翌朝ってすけべ坊主。3新弟子も行きたいっていう、交代運転美穂ちゃんも誘ってさ。4あたしデズニイ行ったことない、それ乗ったって由紀ちゃん。
1駄目だよ新婚さんは子ども作るの。2なんであたしだけ村八分うえーん泣く。3なに云ってんだ、ベトナム新婚じゃない婚前旅行行くんだろうが、だってえ。4ちえ一波乱ありゃいいのにってすけべ坊主。
1今日はたこ焼き屋のおっちゃんとこ最後のお務めって由紀ちゃん、ちょっと行かなかったらまた変なもん増えてた。2由紀ちゃんいなくなると、きっとごみ屋敷んなるぞ。3しばらく忙しくって行けないからって云っておいた。4十年後おっちゃんに会ったらなんて挨拶する。
1おっちゃんの作った歌ある、岩崎宏美が好きで、自分の作詞作曲の歌。2あたしが譜面に書いて歌詞もパソコンで書いてあげて、岩崎宏美さんとこ送った。3「山桃の古木嬉し町並みに、和む笑顔行き交いて、愛を信じ昔よりしるべ深き公智神社、花が歌う宮通り、いついつまでも咲き映えて、喜び人や誉れなれ。」といって、4白髪ふりかざして泣いて歌って上げる。
1うちの親父はやくざです、相手にしないで下さい。2披露宴のことや結納や場所や人数のことで、彼の両親に電話で怒鳴り込んだそうです。3わたしは死にそうです。4こんなときこそ坐ろうと思ってもとっても坐る気になりません、悲しいですって由紀ちゃん。
1親父が正しいんだよってすけべ坊主。2常識なしは弟子の両親のほうだぜ、北海道ってそういう人多いけどさ。3結納のことそりゃ貰うほうが一言あるべき、また場所の件はわし云ってやってもいいけど、弟子責任持つさ、本来向こうのお寺ですべきなんだよ。4まあさ、うまく持ってくからここは親父と仲直りしろ。
1それからもういろんなの、身内みんな、式前にベトナム行きも反対だし、なんというかわたしには、形式にこだわって本質を見失っているとしか思えないです、一闡提と云うんですよね、仏に会わず仏法を求めようともしない人。2彼からさっき「私のことはどうでもいいですから。」というメール貰いました、ハッと気がついたんです。3我がこと終わった人になる、そうですそういうことです。4坐りもしないでただもう文句ばっかり云って恥ずかしいです。
1ちえ犬も食わねえ勝手にさらせ。2慎太郎親父が正しい、そりゃ当然だってすけべ坊主云ったって伝えとけ。3キャハハッ親父と娘の泣き別れ。4はい逆らわないよう細心の注意を払って式までって由紀ちゃん。
1由紀ちゃんの親父すけべ坊主に電話かけて来た。2割れ鍋に閉じ蓋願ってもない花嫁さんですな大喜びとか。3今の若いもんは常識がなくってって親父云えば大賛成、式前にベトナム行くなんてけしからんて怒ってみたけど、そりゃもうわしらの世代用無しっていうかもうそのなーんて云ってる。4はいなにとぞよろしくって慎太郎親父。
1弟子の親父からもよろしくって電話来た。2なに慎太郎親父お寺にいくら納めりゃいいって聞いてるって弟子、挨拶に来たいって。3挨拶いらんゼニ貰おう、新弟子の親から50万ふんだくったから50万。4坊主まるもうけ。
1弟子の親結婚式費用出すっていった、ならゼニ二つわしのんもんだあ。2庭普請のゼニねえからそれにしよ、工面すんの厄介だもんなあ。3また年金で旅行できるかも、ゼニの亡者だ、かあちゃんの為ならえんやこら、4なんであたしが守銭奴なの
よってかあちゃん。
1ありがとう、うまいこと行ってるみたいです。2でも八日の前夜祭出席できなくなりました。前日は親もとに泊まるもんだって云います。3式終わってデズニイ行くなんていったらどうなるんだろ。4あと一カ月の辛抱、「たとい何あろうとすべてが是となるように。」そうです、自分に都合の悪いことでもマル。
1引き出物はおいしい手作りハムですってね、2わたしたちの為にしめられる豚さん。3デズニイシーは涙を飲んで和尚さまに「ざまあみろ。」を譲ります。4でも次回からは行こうっと。

1讃岐うどんはしごツァーというのに行って来ます、2もう行けないから思い切って、エヘヘ帰省ラッシュをものともせず。3さて私たちは結婚しました、つきましてはという弟子の案内状、ちっとは色付けりゃいいにって、すけべ坊主大笑い。4格好な夫婦になるかなあそれともー
1本日無事に帰って来ました、ベトナムは思ったよりきれいな所でした。2海外へ行くとお腹をこわすのに、そんなこともなく元気で過ごしました。3彼は熱を出してグロッキーになって、でもメコン河でボート漕いだり、クチトンネルというベトコンゲ
リラの蟻の巣のように深い狭い穴ぐらに入って楽しかったです。4ベトナム人の友達できましたよ、24歳日本に来たいんだけどとても難しいと云っていました。
1あんなタフな嫁さん心配するこたねえのにって、弟子写真見せてくれた。2これは悟り切ったお顔。3そうさ女ってこうなる、男もセックスもてめえ人生も一瞬卒業しちまうんだな。4OてえばO、まあそういうこったな。
1ベトナムから帰って、実はマリッジブルーとかにかかってふさぎ込んでいました。2何がなんだか訳が分からなくなってしまいました。3新潟へ行ってでっかい田んぼ見たら落ち着くかも。4和尚さまに会ったり坐禅したり。
1人生過ぎ越すってことあったら、当然そうなる。2でもさ、何がなんだか訳が分からない=正解。3至り得帰り来たって別事なし。4柳は緑花は紅。
1引っ越しの準備で忙しい、うつになってるの止めます。2何がなんだか訳が分からない状態は続いています。3残暑が厳しいです。4お寺へ入って朝五時に起きて坐るのが楽しみです。
1八月恒例の接心が終わって、恵美子ちゃんも来て30人もよったくって打ち上げパーティやって、2そういうことするからすけべ坊主は高名の僧にはなれん。3出家したいという人あって承諾する。4大学院に受かった三太郎が、こっちは学資の関係から取り敢えず手続き出家。由紀ちゃん恵美子ちゃん旅行仲間。
1新弟子と三太郎とで草刈り草むしり。2半人足の尻ひっぱたいて内外ぴっかぴかに磨き上げる。3荘厳道具揃えて、どんなもんだい世紀のイベント仏式結婚。4花嫁行進はk614第二楽章、兄弟子んときもそうしたし。
1芸能部長の兄弟子がいて式披露宴を取り仕切る、2すけべ坊主の娘と恵美子ちゃんと、いっしょにタイへ行ったときのタイシルク着て数珠かけて、三三九度の盃、サザーランドの埴生の宿。3すけべ坊主声名の三帰礼文。4弟子どもみんな寄って前晩リハーサル、でもって飲めや歌えや前夜祭。
1芸能部長宿酔い。2なんとか御詠歌もそつなく行って、3うわあきれい白無垢花嫁。4いまいち乗りが悪いすけべ坊主。
1いい感じの披露宴。2美穂ちゃんすげえ声張り上げてウクレレ弾いて歌津う、ギャアこりゃ思い込みとちゃうぜ。3婿どんけっこう歌える、飲めるんだあってちっと危険。4二次会三次会まで盛り上がる、おしまいしんみり昔の歌歌ってたってさ。
1和尚さまこの度びは本当にありがとうございました。2おかげさまでいい結婚式ができたと思っています。3一遍の名に恥じぬよう一生懸命=一遍という戒名を授けた。4明後日にはお寺へ入ります。

1一遍さんに授けた数珠は、美しい二重のふくさに入っていて、2それは仏さまのもの、3へんくつな父の生け贄になって夭逝した娘の、4ごめんよ日の目を見せてやりたかったんだ、輝くような由紀ちゃんの幸せを。
1すけべ坊主は弟に会いに行く。2アルツハイマーでもう寝たきりになった弟の、最後の別れ。3式の前日に連絡が来た。4ノーブルな面立ちは変わらず、澄み切った目をして弟は、そうだ常にわしより一歩先を歩く、これよりはわが心に。

2019年05月31日

ショートショート1

2010年05月25日 08:13 せっちゃん ショートショート・金色てん
 修那羅の石仏は松茸で有名な別所温泉の裏側にある、350の神仏や布袋さんやきつねたぬきの像もある。急坂道登って見に行ったら、帰りにてんに会った。見事な金毛の大物、のこのこ登ってくる、しのびあいの二人ただずむ、二三メートルに来て気がついて見上げ、とっこと山へ行く。
「てんも化かすってえけどほんとか。」
 聞いたら
「女の顔見てみろ。」
 ふうと笑う。なんと彼女の鼻がのーんと伸びて、
(うわ象だこりゃ。)
 と思ったら、どうなったのか、
「なんで落っこちたの、怪我はない。」
 彼女が聞く。道からずり落ちて、松の根っこにひっかかる、
「まつたけが生えていねーかな。」
 そこらへんうかがうと、
「こりゃまつたけ泥棒。」
 石仏のまあしょうきさまが突っ立った、とっつかまって罰金を取られ、ようやくに放免、
「いくら取られたの。」
「木の葉っぱ三枚ばかり、へっへ。」
「なんのこと。」
 彼女の鼻が長くなる、ありゃまだおかしいぞって、帰って来て写真を見たら、一枚だけ変なのがあった、お地蔵様がにやーり笑っている。

 ひらちゃんは真面目なお役人で、写真の編集を頼んだ。せっかくの休みをいわな釣り行って、かじか三匹釣って100キロ走り、でもって写真に五時間もかけて帰って行く、
「一枚変なのあっただろ、お地蔵さまのさ。」
「いやそんなことない。」
 そうかなあって、それが三日間行方不明になった。
 道っぱたの田んぼに突っ込んで、半死半生で見つかった。
「どうしたんだ。」
 いや黄金の服着た、真っ黒な顔のおっさん現れて、いわな釣らせてやるといった、ついて行くとみたこともねー山谷で、それっこそうなるほど釣れた、こーんな二尺もある大物からと云った。
 ぴょーんと跳ねて、朱鷺を食ったのにはわけがある、米軍基地は佐渡に持ってこい、日本は占領下にある、それに気がつかにゃならん、佐渡を朱鷺とともにアメリカに売ってと、わけのわからん演説を始めた。興奮してろれつがまわらなくなった、もう一ヶ月も入院している。

2010年05月26日 08:42 せっちゃん ショートショート・宇宙燃料
 みずばしょうと雪と,あんまりの美しさについたとたんに万歳、東電小屋に泊まった、明け方不如帰が鳴いて、昨日は夢のような浮島を見て、白骨化した大木や冬を越えた魚や、さかしまに影を宿すひうちの峰を仰ぎ、今日はなにしろ旅行く、
浮島の月に浮かれて梓弓春たけなはの行方知らずも
白骨と化すらむものは青春の巨木にあらむあららぎの木よ
降りしのふ雪はもいかに湖の底なる魚と眺めやりつつ
 もう一首できそこない詠んで行くと,ついたばかりの女の子が二人かがみ込む、写真を撮るらしい、おしっこしてるんかと思ったらさ、ではあいつをひっかけてー
 何か声が聞こえた、
「ふーん歌を詠む男が来たか、こっちへ来い。」
「なんだい。」
 ふりかえると、ようもわからん男が立つ。
 絶世の美人にあわせようかという、
「ぶすい山女か。」
「天女さまだあな。」
 ほんとうに天女さまだった、わしは気絶して、みずばしょうの中にふん伸びていたらしく。
 十万年前に宇宙船が不時着して、尾瀬沼ができた、ひうちの山はしばらく火を吹く、われらは冬眠装置で眠っておった、たったいま声が聞こえてよみがえった、はるかな尾瀬じゃなくって、おまえさんの歌であった、ついては命が欲しい、人の命十人分もあれば宇宙空間を飛べる。
 たしかにそのように聞こえ、なぜか30年もたってふいに思い出した。
支店長が消えた、ネオちゃんが消えた、どろちゃんもっほちゃんが消え、なぜだ、
「うとうとっとしたら30年たっていた。」
声がした、
「天女さまの思いを尊重する、十一人めの命の卍はおまえだ。」
 たしかにあれは気絶するほどのー
いついつか流転三界白鳥のしのび廻らへ神の田代を
 死んじまったかな。

2010年05月29日 08:41 せっちゃん ショートショート・グルメ
 清彦はグルメだってんで、浜で釣った魚をぶっこんで味噌汁にして食う、そりゃうんまいときはぞっこんうまい。釣った魚を三枚に下ろして鮨に握って食ったり、山へ入ってきのこを取ったり。こうたけのチャーハンがすんばらしかった、うしびてというきのこを焼いて食うのが最高、野蛮人やっていたら、あるとききのこに中って全員討ち死に、清彦もトイレに三回行って黙っていたら、一家みんな腹下し、それ以後きのこを取って来ても人みなそっぽ向く。岩牡蠣取って来いといって五月初旬、生で食ったり酢牡蠣にしたりフライにして、こいつが全員中った。時期が早かった、普通の食中毒と違って日が立つにつれて悪化する。ところが本人だけ、人三倍食っておいてぴんぴんしている。ふーんこりゃどーゆーこった。もしや人間じゃない、ではエーリアンだ。
どーゆーこったって一人グルメやっていたら、
「あたし生まれつき声帯に欠損があって、耳は聞こえるけど声が出ないの、こんなわたしでよかったら付き合ってくれない。」
 という女の子がいた。
「いいよ。」
 といって、身振り手まね筆談して、音楽を聴きそれからグルメして、ろくでもないもの食わせて、楽しんで仲良くやっていたら、
「処女のあたしを食べて。」
 と、ある日突然云う。いや書いた。
「グルメでしょう、げてもの食いの。」
 ふーんそりゃ問題だ。
 三日三晩考えて、
「うんいーよ。」
 と云って、とっときのワインを買って、いっしょに飲んだ、
「処女喪失に乾杯。」
 甘いおいしいワインだった、彼女はどーも飲みすぎた。さあとというときに失禁して、身振り手振りがよーもわからん。
 あんりゃろれつがまわらんてやつ。
「アルコールに弱いの、あたしはエーリアン。」
 と紙に書いて、そのまんま逃げ出す。
 それっきりわからない。
 清彦はなぜかむしょーに悲しくなって、さがしている。

2010年05月30日 08:28 せっちゃん 「この桂はそのむかしこの地を訪ずれた覚鑁上人が、」
 うぐいす嬢がいう、なんのなにしてなんとやら、ありがたーいお話の、
「説教のしるしに杖をつき立てた、その杖が茂って桂となった、月の桂と同じだそーです、千年たって大木になりました。」
 覚鑁上人は宇宙飛行士のさきがけで、月に往復したってわけだ、なーるほど、二郎が桂に手を触れると、ふーいとそやつが一本の杖になった。
 杖をとって歩いて行った、桂の大木も三宮市も観光バスも、はーて自分も忘れて歩く。
 戦の跡のような、半ば腐って鎧を着たむくろが転げる、阿鼻叫喚のちまた、どういうこったこれは、家など一軒もない、森があって川があって、もやいかかる。
 祠があった、杖で敲くと、へんてこなばばあが出た。
「お上人さまだろーがの、ここはわしの仕事だで、いんでくれ。」
 という。
 あばらが浮き出てたらちねの、口は耳まで裂けて、ほーこりゃ小気味いいや。
 亡者の行列だった。
 ばばあは見境なく着物をひっぱぐ、もちものを。
「奪衣婆か。」
 興味が無いから先へ行った。
 裾を引くやつがある、
「三の宮三之丈だ、敗戦は仕方が無い、生まれ変わって仕返しじゃ、お上人どの、またの世を都合してくれ、これは寄進の大枚じゃ。」
「あほくさ、せいぜいばばあにめっからんように泳ぎ渡れ。」
 杖に敲くと、川の辺に衣だけになってふんのびた。
「つまらん。」
 帰り道がわからん、ばばあのところへ行く、
「だめじゃ、順番待ち。」
 ひっぱたいたら、ふいっと元へ戻った。
 警察がいた。ふんずかまった。豚箱に三日いて放免になった。
「たしかにおまえさんだというのがいたんだ、車三台川へ突っ込んで、神社に火つけて、お宝の桂が燃えたんだ、さっぱり証拠もなくってな。」
 どーいうこっちゃそれは。
 わけ知りの神主が云った。
 千年めに覚鑁上人が目覚める、へんくつ、時流に外れた人がとっつかれる。まあそういうこったな。なんだいったいそりゃって、わからんわけでもねーよーな、二郎は思った、ふわーい欠伸。

2010年05月31日 08:26 せっちゃん ショートショート・くまがいそう
 クマガイソウ群生地、熊がいそうってなにもう一回読み直して、じゃ行こう平家なり太平記には月も出ず、くまがいそうまだ見たことない、走り出したら行けども行けども、止めとけってえと標識が出る、十三キロ走ったら人だかりわんさかたかって、くまがいそう祭り300円也。ぬかるみどろんこ登りつめたら、あった、こりゃすげえ数百いや千もの花、十六歳の敦盛切っちまった、血染めみたいなたっぷりくまがいそう、二つ花をつけた珍品もある。
 なーんまんだぶと云って見ていたら、おまえさん告発されているぜって声が聞こえた。
「だれだ。」
「いいかげんという恐ろしい神さまさ。」
「ふーんなんの罪だ。」
 とにかく聞いた。
「そーさな、おおかた四つばかりあるか、一真実を云う罪、二歌を詠む罪、三、とんとむかしを作ったた罪、四仏教を広める罪、どれ一つとっても死刑だな。」
「なんでさ。」
「一は、敗戦の腰抜けがみんな仲良く平和にって頬被りしているの引っ剥ぐこと。二は日本人の心を訴えるというはねっかえり、三はなつかしく悲しいという劇薬、四は仏教はこりゃもうもってのほか、酌量の余地はまったくなし。」
「どーしたらいーんだ。」
「見ざる聞かざる云わざるの、むかしの美徳を守りゃいい。」
「そりゃだめだ。」
「では逃げろ、じきつかまるがな。」
「しょうがねーなあったく。」
 熊がいそうじゃなくって絶滅危惧種さな、おまえさんはえーっと絶滅種かわっはっは。てやんでえ


2010年06月01日 08:37 せっちゃん ショートショート・いつかし
草をむしって落ち葉を掻いて、樫の葉っぱわんさか、ばけつにいっぱいにして捨てに行く、わっこのついた椅子を尻にして、年寄り仕事は疲れたらよす。
 お屋敷のわしはいっときは持ち主だった、人手にわたって、三代のちに空き屋になって、空き屋の草むしりをする、ホームレスのさ追っ払われないだけましだ。
 羽振りもよかったな、一晩にキャバレーで百万円も使ってみたり、ぽんこつヨットに乗ってかじきを釣る、ヨットじゃかじきは揚がってこない、あれは面白かった、ふだらくや人の方が投げ出され。十万円のワインを開けて、占い師に頭からぶっかけてきちがい騒ぎ、あほうなこと抜かすからだって、当たっていたわけだ、振られておしまいわっはっはすっからかん人生。あいつはどうしたかな、永遠の恋人は、なんしろそういう渾名を付けたんだ、わさびを効かせすぎて悶絶しちまう、腐らないから永遠の彼女だ。ふん思い出ってば性懲りもなく同じパターンの、わしももう永くはないな。
 草をむしってはトランプをする、ひまつぶしって。
 ほかのことなんかなんにもできねえのさ、
 昨日奇跡が起こった、七つのスートが完璧に開く、トランプを並べ出して以来こんなのは始めてだ。
 わしにもう一つのチャンスがあれば。
 そんなことありっこねえっての。
 あると出たんだ、もしやせがれが生きていて、お屋敷の樫の木はせがれの物さ、樫の木からお宝が出る、うっふそんなんじゃねえ、そんなんじゃねーけど、なぜか気に入って、家追ん出るときに、樫の木はおれのもんだと云った、
 お稲荷さんといっしょに登記しておいた。
 せがれは一度無心に来て、あとはそれっきり三十年たった。
 お屋敷が売れるってこと聞いたんだ、二束三文にしろ一千坪はある。
 なにを考えているんだおれは。
 抜け出して飲みに行った。
 あそこに占い師が立っていたんだ、
 なけなしはたいて見て貰った。
「せがれさんは海の方。」
 占い師は云った、
「樫の木が呼んでいる、若しやきっと帰ってきます。」
「どういうことだそれは。」
「おまえさまとせがれどのとその母親を結びつける因縁。」
 三日たった、十日過ぎた。わしは忘れ呆けて寝たきりになった。
 ふいに海のにおいがした、
「なんだいたのは親父だったんか、ワインをぶっかけて孕ました占い師がおふくろだとはな。二人揃ってお屋敷の内外にいたんだ。あほみてえな話。」
 樫の木に金冠があった、縄文の金冠だ、海の向こうにも同じのがあった、、お屋敷には、百代めの樫が育つ、一儲けできるぜ、そーしたらおふくろを呼んでさ、わしに似て嘘とはったりがさ、ふうっと息が絶えた。
 縄文の金冠はほんものだ。
 世界遺産的代物らしいぞ、死んじまっちゃおしまいか。

2010年06月02日 10:29 せっちゃん ショートショート・竹の高地
 昭和十二年になにやら噂を聞いてお役人が尋ねて行ったら、異様な人物が飛び出して来て、
「源氏は滅んだか。」
 と聞いたっていう、竹の高地だ、ずっと山道のどんずまり。
 和紙工房があって雪消えに尋ねた。
 竹の高地の、それがやっぱりどんずまりだ。
 和紙と短冊買って来た。
 こけぐま出版が本売れたってなにがしかくれた。
「では飲みに行こう、八石山ステーキだ。」
 車は四人だな、もっほちゃんにどろちゃんにもう一人ったら、野郎が一匹葬儀屋練習生だとさ、
「あほか安月給。」
「いえ里へ帰って葬儀屋開く、ぼろもうけです。」
「ふーん。」
 ボトル一本とって、ステーキはミディアムレアーがいい、ちえわしは知らんでミディアムにした、山菜の付け合せピックルス、乾杯うわーい、こけぐまちゃん短冊売れったらこーんな目した、きしょうめってんで、ステーキのあとへ飯のっけて食うとうまい、みんなまねして野蛮マナー、
「口蹄疫なったらたいへん。」
「食うときそんな話するな。」
「竹の高地へ和紙買いに行こう。」
「うん行こう。」
 小国から小千谷へ入る。
 いいかげん行って、
「あんれ道間違えたかな、えれえ山ん中だぞ。」
 まだ雪が残っていた、倒木が道をふたぐ、雪を踏んでずるり、スノーなんかもう履いてない。
「わー。」
「きゃー。」
 ずり落ちてストップ。
 うひーどーする、死ぬって誰か来る、助かった、
「はたやまは滅んだか。」
 異様な風体のまあ、空色をした迷彩服。
「平家の落人か。」
「しゃかいとうだ。」
 社会党がなんで迷彩服、
「うっさい、北朝鮮の魚雷はCIAが仕組んだんだ、はたやまにさっさと基地作れってえサインだ、」
「うんでなんでしゃかいとうだ。」
「口蹄疫流行らせたってえことになって、人も感染したってんで隔離された。」
わっはっは、思わず噴出しちまった、
「笑うとはなんたる、我らはここに理想郷を築く、しゃかいとうだえいえいおう。」
 まわり中空色の迷彩服になった、
「じじいはいらねえ失せろ、女と若いの置いてけ。」
 気が付いたらそこら走っていた、しこたま飲んだけど、それっきり三人の消息はない。
 へんだぞ口蹄疫んなったかな。

2010年06月03日 08:25 せっちゃん ショートショート・入れ歯
 あっさりしたいい歯医者だった、申告しなけりゃなんも診てくれん。ちゃんちゃかちゃーんやって貰って入れ歯した、そいつが焼き鳥食ったらひっかけた。なんこつとか食ったせいだ、でもってまた入れて貰った。
 はてなまた焼き鳥食ってぼっかけた、しょーがねーなあって15万出せいいの入れてやるって、清水の舞台15万、金属性の別誂えが入った。
 なんとまあ調子いい、口笛でホーホケキョと鳴ける、得意技だ。
 うわこりゃりがてえ、うぐいすと競うと彼は必死になって鳴く、悪いことしてせっかくの彼女取っちまう。せきれいの鳴き声したら、せきれいのやつふわあと襲い掛かって、挙句の果て子供おっぱなした。しゃーない巣こさえて置いておいたら、餌付けしたらしく無事巣立った。
 そのいい歯医者、どうしたんかぽっくり病で死んでしまった、五十だった、歯医者死ぬと病院もナースも奥さんもおしまい、ふーんそーゆーもんかってわしもおしまい。
 でもなんしろ歯医者行かんきゃならん、女歯医者だった、ブリッジしてあっちこっち診て貰って、診療台ってせっかく彼女の股間にニアミス。けっこういい女だった、離婚訴訟中と聞いた、気を入れたらむーんと女の匂いする。
 彼氏になってくれる、奥さんいるのわかってるけどと云う、うんいーよでも。
でもなーに、いやなんでもない。
 彼氏してなんとはなし云っちまった。
 一生にいっぺんでいい、モーツアルトが好きな女を恋人に欲しいと思って。
そんな女いるわけねーやな、四分の一音程がわかる小沢せいじだってモーツアルトはさっぱりだったんだ。
「あらあたしピアノとハープできるわよ。」
 聞かせて貰った、どこがモーツアルトなんだ。
「うんうん。」
 感心してからに、二度と聞かなかった、鶯と鳴きあわせして、しばらく歯医者も行かなかったら、来てっていう、今夜来てという。
 行ってみた、彼女はバスタブにつかっている、鱗が生えて人魚になっていた。
 モーツアルト、なぜか痛烈にそう思った。
 美しい人魚だった。

2010年06月04日 08:28 せっちゃん ショートショート・松代うさぎ
谷を超えピーヒャラドンと笛太鼓月に浮かれて松代うさぎ
 のこのこと親子のうさぎが道を過ぎる、あっちにいたと思ったらこっちにもいる。山へ入ろうと思ったら野糞踏んずけてえらいめにあった。人のうんちはぐーわ車中臭う、水溜りにこすりつけ山を歩いて何の因果だ、ようやっとこさど無罪放免。このあたりは地滑り地帯だ。たらちねじゃなくバズーカ砲ぼいんのフランスかーちゃんの旦那は、親父の特許でもって地滑りの計測をしていた。地滑りは大変、人身御供を建てて祈るんだそーの、
「いや女は貴重品さ、そうそう行き倒れは転がってねえしな、ふんどしの汚いのから択ぶって話。」
 だっていう。そりゃ大きにありうる、学生のころパンツ貸してくれえ、いやだ、しゃーねえ敗者復活戦とかやっていた。あのころ惚れた女の子がいた、そりゃもう美しいのなんのいって、思っただけでふるえが来る。
 若しや人身御供っていうのはあんな娘を。平家物語風美談にしなけりゃ、日本人は収まらない。いやさ純情だもんで、言葉一つ掛けられない、待てど暮らせどってのは向こうのこったか、しまい逃げ出した。それでいいのかっていうと、なんせ頭剃って坊主になっちまった、女口説くほどの甲斐性もなかったんだ。
 そうしたらそっくりの子がいた、百年たってさ、綾子舞会館で踊っていた、高校生ー中学生かな、きれいだねって声を掛けた、すてきだね。
 そっくりの笑顔。
 あしびきの雪ふり袖の如くして出雲の阿国はいつ問ひ越せね
 出雲の阿国が名護屋三郎と、佐渡を追われて行き倒れになったのは、黒姫を挟んだの向かい側の鵜川上流だ。室町の踊りがそっくり伝わっている、なんかすばらしーんだな。名護屋三郎のほうは、ふんどしごと人身御供にされたって、わっはっは聞かねーか。
 谷を超えピーヒャラドンと笛太鼓我れも人の子風立ちぬべく

2010年06月05日 08:19 せっちゃん ショートショート・地震
 釣りがしたくなって、道具一式買って二三時間釣った。そうしたら眠くなる、歌ったりがなったり、はっと目を覚ますと対向車線に入って、ガードレールにぶち当たる。うしろ振り向くと、でっかいトラックが停まる、ワゴンが停まる、セダンが停まる、
「なにしてたんだ余所見運転か。」
 ワゴンから飛び出して来て聞く、
「居眠り運転だあ。」
 何事もなかった、みんな行ってしまう。
 命拾いした。
 わしの寿命はまだ尽きなかったか、つくつく思った。
 そのちょうど同じところから地震が来た。
 中越沖地震だ。
 ふえーわしの命と引き換えになと、どーもこーもならん。中越地震ではもろ喰らった、震度五強がそっくり四回も来る、ひどいことだった、恐怖症になって、しばらくは風が吹いてもヘリが飛んでも地震だった。
 中越沖のほうは家屋の全壊するのがめだった。雪の倒壊と同じものの見事にめちゃんこ。
 わしんとこだってまだ完全には修復していない。
 新潟地震の時にも新潟にいた、これはどかんと来て一発最大だから後の恐怖はなく。津波が美しかった、信濃川を逆流する。目の前に昭和石油があって、一ヶ月間燃え続けた、ナフサが爆発するときはものすごかった。いやガスも水道も止まった何十日間。
 あれは国体のあった年だった。共産党は大嫌いだったが、てんちゃんなど云って不敬罪が、天皇皇后のお車にむかって、知らず万歳を唱えていた。皇后様のあでやかな笑顔が忘れられぬ。
 若しや昭和天皇に殉死すればよかった。地震も北朝鮮も温暖化も株価暴落も、理不尽悲惨陰惨なことは、むかしでは思いも及ばぬ。
 日本人の行く末もわからん。
 てめえ仕出かしごともめったくさ。
 良寛さんのころの三条地震がもじき来るとか、いやもうこりごり。
 なんの因果か寿命があった、浮世の業がまだ済んでいない。
 業が尽きたら殉死ではなく、月山に行ってミイラになろう、雪消えぶなの新芽吹く、一生の垢を落とすにはよし。

2010年06月06日 09:34 せっちゃん ショートショート・雉
 田んぼにでっかい烏と思ったら雉だ、立派な尾羽が見えず遠目には烏そっくり。お寺には雉はいない山鳥ばかり、雪が積もっておっこうが頭を出す、山鳥の一家が啄ばみに来る、そっと窓から窺う。お寺の山は休猟区だった、来年は解禁というと雉山鳥を放すらしい。雉の鳴き声が聞こえる、雉も鳴かずば撃たれまいとさ、けーんけーんと山を鳴き歩く。なんだか切ない。
 車屋が鉄砲撃ちで二三獲物を持ってきた、そりゃおいしい、鴨は庶民の雉は殿様の食い物なと云う。弟子二人と出た車に雉が飛んできてぶちあたる、雌だった。半殺しじゃいかんといって、弟子がスタンピングする、そこに警官が突っ立つ。向こうの曲がり角に見張ってた制服だ、とっつかまるかと思ったらなんにも云わぬ、雌雉拾って逃げ出した。
 マニュアルねえからなんにもできねーんさと、空手馬鹿の羽賀が云った。
 魚三枚に下ろすようなわけにはいかん、四苦八苦して
「いた! 」
 指を切りながら料理した、おいしかった。
 夏なるともう食えた代物じゃねえと、羽賀が云った。
 解禁になる冬のものらしい。
 関わりのないことを思い出した。若いころ年上の女を愛して、例によって鳴き声を上げて、そのあといじめられた子供のような顔、いつもは仏さまのようなニールバーナが。やがてもう会わないという、どうして、上がっちゃったから、へーえよくわかんねーけど、上がったら純粋に愛欲だっていうけど、ふーと笑ってありがとうと云う、それっきり。
 ぶんなぐられたようなショックだった。
 マニュアルがあれば気が利いたことも云えたんかな。

2010年06月07日 08:55 せっちゃん ショートショート・ふぇゆとん
 フェユトン時代三百年のフェユトンとは文芸欄のこと、詩と真実なく噂とパロデイの時代が続くという、そうしてガラス玉演技という文芸復興が興る、ヘルマンヘッセのSF小説。二十歳のころ読んで感動した、三百年も待てない、今この手でルネッサンスをと思ったのはいつであったか、ガラス玉演技の心の担い手は禅マスターだ。では仏になろう、正師について十年二十年、無心の如来になる。山本健吉の芭蕉を熟読玩味した、俳句はできぬが、和歌ならなんとかなりそうだった、二十年してものになる。人が立ち上がって歩いてくる、声を聞く幸せ、うったえる不思議。ついに二できた、人みなそっぽを向く。孤軍奮闘もまったくまったく問題にならぬ、なんだこいつは、これが現実だ、三百年早かったのさ、そーかそりゃそういうこった。
 修行は身についた、歌は一千首。
 一人きりでもかまわない、
 良寛も一休も一人きりではないか。
 たわむれに手相を見て貰った、生涯終わったようなもんだでと云うと、その手をとって、こんないい手相は見たことが無いという。、志すところの詩歌芸術はすべて完成し、仏眼が広大に見開く、人の師たるべき上々吉、宗教性あり予知能力あり云々、九十一までは生きられますと。
 へーえそうか、なんとまあわかる人がいた。
 あれもまた花でありしか深山木の六十を過ぎて初に知れりとは
 ほかになし、日々新たに朝打三千暮打八百していたら、受け継ぐ者があったた、忘我してこれを得る、再度脱して仏になる。
 美しい女性であった、
「わたしは天人の末です、しばらく自分を見失って、目は彩りさえ見ず、耳は声を聞かず、死のうとして死ねず如来に出会った。」
 二人寒山拾得。
 この上なし、歓喜をもって暮らせば、天人は天人を取り戻す。
 鼓をうって花の雨を降らせ、伎楽天となって舞い踊る。
「おまえさまは何故空を飛ばぬ。」
「もとは毛なし猿。」
 心は虚空にあるのに、さあおいで、舞い踊って歓を尽くそう。
 フェユトン時代は終わった。
「さあおいで。」
 と引っ張る、
「だめじゃ。」
 そんなはずはないといって鞭打つ。
 ぎゃあこりゃあたまらん、喚いて目が覚めた。
 なんにもなく。
 なんという雲の美しさ。

2010年06月08日 08:56 せっちゃん  ゆーしんは遠くへ行ったってせいぜいいじめに出会うきりの、同じだといって地元の僧堂に行った。悟があったし間髪を入れずの対応が、さしも見込まれて師家にと云われて、年が明けるとさっさと帰ってきた。
「やだー面倒見られそ。」
「あっはっは三十年辛抱な。」
 ゆーしんのしゅーかんを連れて来た、渋谷で商売して成功したんだそうな、思うことあって出家した、僧堂に半年いてあほらしくって逃げ出した。
 熱心に坐ってほどなく見る、庭を歩き回って、わしのいうことはほんとうだった、身心なものみなあると感嘆する。
 風来坊して行く、だれかれ親しくなる、不思議な男だった、二三はわしも付き合う。ベトナムに行って冬を過ごす、一日百円ですむんだとか云っていた。 こーせいは僧堂でふてくされていたのを連れて来た。
「すべての書は読まれたり、肉は悲し、若しやそういうことか。」
 と云う、
「ちがうけんどもさ。」
 と云って聞いてやると、涙を流す。
 求めているものに僧堂は答えぬ、お布施と猿芝居のいじめしかない。
 弟子にしてくれと云えばしたんだが、云わなかったからそれっきりになった。 しゅーかんはホームレスになった。
 ゆーしんが東京で出合ったという、一杯飲もうといったら、飯食わせてくれという、それが最後になった。
 宗門には仏教がない、坐禅では草むしりもできませんなど平然という。達磨さんに毒を盛り、道元禅師に後足で泥をぶっかける、まあさそんな元気もなくなったか、坊主と付き合うとは、うそをつくこと。
 らごら(お釈迦さまのせがれ、お寺の子の蔑称になる。)四代、先人古聖のせっかくの伝統を食いつぶした、
 わしは宗谷岬まで行って、小樽のホテルで最後の一泊、稚内がおんぼろけで、ちっとはおごるかといって、こけちゃんやもっほちゃんや弟子どもと、出来立てのホテルに泊まった。
 僧堂の坊主どもがいた、北海道に托鉢に来る、しゅーかんはその途中に逃げ出した。若いのがすくみあがった、よったり自信のなさそうな大坊主ども。
 空威張りらごら坊主の世は墜へ割を食うたか月見に一杯
 さーてあといったいどーなるって。宗谷岬は牧畜だけで暮らす、厳しいってなんにもない、小樽宮平の洞窟に壁画があった、人もけものも舞い踊る縄文の月。ものを変革して面倒ことより、ことを伝えて死ぬまで生きるさ。

2010年06月09日 11:14 せっちゃん ショートショート・山のうてさ
 お寺の心字池は蛙合戦の池で、げこげこがあこやっているうちに、あっちもこっちも卵塊がとぐろを巻いて、じきに真っ黒けになって子がきが山へ上る。踏みつけぬよう歩くのが精一杯。せっかくの蛙合戦を気味が悪いといって、ばあさんが世話人に頼んで駆逐した、女のやることはそりゃばあさんでもわからない。
 夏になる間に蛇の特異日というのが三回あって、むし暑い曇り空、辺りかまわず蛇がのったり出る。蛇寺もいいところで、青大将の抜け殻が開山堂に三つもあったりする。蛇なんざなんのその、わらび取りに行ったら、竹やぶうらにうわばみがいた、劫を経て紋柄の失せたやまかがしだ、茶碗の太さがあって三メートルを優に超える。ぞーっとした、ありゃ大の男がぞーっとする。逃げて来た。
 山の主だろうが、どうなったか二度と見ることはなく。
 山は杉を植えさせられ、公舎造林だといってせっかくの松山きのこ山が台無し。まつたけもだがだいこくしめじが群を抜いて立派であった、はやそれっきり。残った松には、まつくいむしがついた。
 若い松が生え出して、香茸が復活した、そりゃあもうどっさり出て、シェフが来てチャーハンにしてすこぶるつきをみんなして食べた。でもっておしまい、まつくいむしは松がいくらか生長すると取り殺す。どうしてまあこうなるんだ、中国のせいだと云って、わっはっは。
 もののけひめが自然を復活すりゃいい、蛙退治のばあさは、岩倉具視のせいで偽官軍にされた、赤報隊の孫で、山へこもったから、山のうてさと云われた。三つ目が通るの三つ目みたいに頭が切れた。教育さえありゃいっぱしになったんだろうが、せがれが馬鹿で台無しになった、隔世遺伝というと、内孫も外孫ももののけひめってふうで、そいつが育ちそくない、やっぱり親が間抜け。
 多摩川は復活した。若いころ川が全滅して、人の心が消えたように思った。
 川に船を浮かべて下って行ったら海へ出た、竜宮の使いが来た、虹の冠を振り立てて、山のうてさのせがれ、赤報隊のせいで山へ篭って、竜宮へ来いといった。乙姫さまとつがってもののけひめを産めとさ、よーし行こうってんではーてまだ夢の中。

2010年06月10日 08:20 せっちゃん ショートショート・西塔
西塔は飛天になりて鳴り響み見れども飽かぬ月を廻らへ
 薬師寺西塔の建立にあたって、越後からも大工や左官が呼ばれて行った、腕達者のその一人が、ふと見るとブルーシートから石が転がり出ている、西塔のいしずえの土を盛り溜めてある、なんとはなし記念に失敬したらしく、いまわのきわにこうこうだと仲間に託した、ずっしり重い変わった石だ、博物館に持ち込むと、
「ああ、それは地球最古の岩石ですね。」
 と、見るなり云った。
 カナダに一箇所どこそかに一箇所、四十五億年たっている、
「これはは変成岩になって、三十六億年ですか。」
 と。彼はぶったまげてお寺に持ち込んだ、どうしたらいいって、そりゃ薬師寺に返すよりなかろう。
 五重塔は仏舎利を奉り、いしずえには四十五億年の石か、そりゃどういうこった、地球最古の石って、そんなん当時の人が知っていたんか、うーんと坊主がうなるから、彼はまたどっかへ持って行った。
 仏舎利の代わりに瑪瑙や玉髄を奉るのは聞いたことがある。
 仏は永しなえ、いしずえに地球最古の石もそりゃ
「ぴったりかな。」
 知って用いたのか、単なる偶然か、気まぐれも人知の及ばぬ何かしら。
 宇宙空間をせんざんこうのように丸まって渡ってきたエーリアンが、奈良時代の大空を走って、あんれ平安時代だったっけか、いやその歴史はさっぱり。
「大徳のゆえに加担申し候。」
 どんがらぴっしゃ稲光。

2010年06月11日 08:40 せっちゃん ショートショート・朴柏
 よく見れば薺花咲く垣根かな
 膨大な俳句歳時記を見て行くとふっと人声、ささやきが聞こえる、決まって芭蕉だ、では余後のものはいったい何か、声の聞こえぬとは言葉になっていない、ひとりよがり自堕落、そっぽ向いてオナニーにふける、いぎたなく醜悪の、定型あれば後は野となれ山となれ、役人みたいなずずうしさ。マラルメもランボウーもなく、日本の言葉も知らぬとはなんていうまあ。
 小林秀雄を読み山本健吉の芭蕉を読んだ、熟読玩味した、日本語の伝統が実に明白記されている。
 俳句を作った。
 出来なかった、どうしても駄目だった。
 出家して禅宗無門関、初関を透ってから、俳句はできないが若しや歌は詠めるかも知れぬ、そう思って挑戦した、なかなかに難しかった、語学の才能がない、本歌取りというそっくりに真似る。
 守門なる刈谷川辺に郭公の鳴きわたらへば時過ぎにけり
 同じのを地名だけ変えた、
「時過ぎにけり。」
 の意味がわかった。
 いにしへは飯を盛るとふ朴柏おほにし咲けば人恋しかも
 法を得たのと朴の花咲くのをひっかけた、仏の道は人の食う飯であった、おほにし咲けば、悟りという一箇を出て、たれかれともにという心意気。田植えも終わって人っけなく。
 さまになりかける、返しは、
 朴柏おほにし咲けばいにしへゆつばくろ問へり四天王門
 四天王を安置して、蒲原郷いったいの豊年を祈願する、つばめはそのお使い。
 かれこれ一千首作った、一首あて二十回は推敲する、何度見直しても大丈夫というのがわしの歌の心得だ。言葉の復活を願う夢があった、はじめにとんとむかしという物語を書いた、これもまた二三十回は書き直して、ようやく納まる。
 次には歌だという。
 うまくできたかどうか、たまたま出したNHKの短歌大会に、
 門付けて我れも行かめやじょんがらの津軽の郷に雪降りしきり
 というのが入選した、取って貰えなかったこっちの方がよいか、
 あしびきの雪ふり袖の如くして出雲の阿国はいつ問ひ越せね
 佐渡を追われた出雲の阿国が、鵜川の地に行き倒れになって、綾子舞が伝わったという伝説。
 歌はそういういきさつが付き物だ。
 現代俳句や歌と袂別する。

2010年06月12日 08:21 せっちゃん  ショートショート・釣り坊主
釣りがしたい、坊主頭になっぱ帽かぶって川っぱた、鮒を釣り鯉を釣った。殺生するなってよ、汝殺生するな、わっはっは生臭もとっから女好きも止みそーになく。鯉を釣って二匹めに、68センチの大物釣って、はたしてこんなもの釣ってもえーんだろうかって、たらいに折れ曲がって入るのをためつすがめつ。法事忘れて釣っていて、かあちゃんが迎えに来たり、その他無慮無数あってかあちゃんに頭上がらない。
 河童川流れで海に出る、ちぬ釣り名人になった。
 竿の林ん中でめえだけ釣ったり。大漁は、掌ちんに三十センチに四十センチに五十センチと山盛り釣って帰って来ると、いかにも達人風が尺物これみよがしにする、
「どれ釣ったか見せてみろ。」
 止めときゃいいのに連れが差し出す。
「ふん小さいなどれ。」
 次第にでっかく、真っ青になって押し黙る。
 あれは雪代の消えた日だった。
 いっぺんに乗っ込みになる。
 ちぬは五十センチが最大、ものすごい面構えだ、まさにもって黒鯛。
「これって二十年生きていたんです。」
 だれか云った、もう止めた。
 そんなもん釣ったらいかん、いやさ礒荒れ釣り荒れして、さっぱり釣れなくなった。
 空手の羽賀がニュージーランドに行こうと云った、うん行こう一も二もなく。釣りならいい、観光なんかあほくさ、やつめ煙草止めろといった。
「煙草吸いはレンタカーのましなんない、民宿すると家高く売れない、ぽい捨ては三十万円の罰金、空港も飛行機もそりゃあ禁煙。どうだ。」
 ちええおどかしゃあがる、わしはヘビースモーカーも、一本くわえてまた一本点ける、こりゃチェーンスモーカーだ、煙草吸わないと脳味噌が開かない。
「わーったよ止めりゃいーんだろ。」
 煙草止める方法は煙草止めること、理由くっつけりゃ反対理由も同じだけある。
 ぶりきの棺桶に乗ってフィージーに着いた。
 ハイブリットのすんげえ美人がいた、
 竜宮城ってここだったんかぽけえ。
 はあてそのあとのことはよーもわからん。
 ニュウジーランドのぶよはひどい、帰って来て発熱。日本のは蜂に至るまで免疫だってのにさ。
 なに禁煙成功したかって、とたんにメタボ腹なって今に至る。

2010年06月13日 08:22 せっちゃん ショートショート・故郷
 故郷は遠くにありて思うものと、小学校三年から五年まで中仙道長久保の宿がにいた、生涯の我が故郷となった。大学に入った年に行った、なにしろ行きたかった、山川のありようを夢にまで見た。まだまったく変わらずにあった、みーちゃんはーちゃんで他人行儀のない、なつかしい仲間が、若人組になって村を作る、立派であった、光溢れるような。がりがり亡者の受験勉強とは違う、恥ずかしかった。クラス一美しい子が二人して待っていた、月明かりの川原、なんにも云えず。
 それっきり二度と行かなかった。
 なにをやらかしてもめっちゃくちゃ、ついに出家して足は遠のく。
 七十を過ぎて傍らを通りかかった。疎開はいじめられたが、山のうてさと云われたおふくろの力で、下の石合という脇本陣に宿り、ついで上の石合という本陣に移った。八人手をつないで抱える巨大な五葉松があった、でっかい松毬に松の実がある、おいしかった。松のお庭は芝生に牡丹が咲いて、まんねんたけという霊枝が生えた。
 上の石合が残っていた、門構えもなく五葉松もなく。
 成功していたら、本陣を復活してと思う。文無し坊主はなんにもできずの、出たきり雀。
 村を外れて大きなかもしかがいた、のっさりのっさ歩く。いつかあいつになってまた来ようと思う。
 単の上だけが故郷の禅坊主、身心という形骸を脱して世界宇宙ぜんたい。
ない部屋ドアのどこでもドア、いつでも同じ故郷の。
 道の駅にかしぐるみがあった、盗んで食っちゃ怒鳴られた信州特産のむかしは貴重品。
 美ヶ原へ行くといわなを手掴みにた谷があった、一方ふさいで水を干す。だれかれ達者であった。火を燃す名人、まつたけ取り博士、草刈り上手に、ぼや取り上手に、なにをしたってかなわなかった。
 いたずらだけは天下一品で、ぜんたい責任だといって雪の辺を走る、切ないといってみんななんにも云わず。
 美しヶ原には若い鹿がいた、神さまのお使い。

2010年06月14日 08:14 せっちゃん ショートショート・蜂刺され
 草むしりは草と競争で負けそうになって、どうやらこうやら頑張って彼岸になったらおしまい。冬は雪だからお休み、このごろの雪は暮れにどかんと降って、杉も竹もへし折れるなんとかせにゃならん。かめむしがわんさか入って冬眠する、これ男性用香水になるってまさか、ひでえにおい。
 蜂に刺されたら
「痛くないっ。」
 ってやると痛くなくなる、たいてい腫れもしないで収まる、むかでもさ。
 がきのころさんざ刺されたからだ、殺虫管に入れて、死んだの並べていたら、いっちでかいのが生きていた。5センチもあるオオスズメバチ、氷嚢に指吊って一晩中うんうん唸っていた。
 刺されない蜂はまずなかった、わるがきは鍛えられる。
 弟子がすずめばちに刺され、二度刺されて、三度めには死ぬと医者に云われた。もう一人は蜂なんぞと云っているうちに、むくみが上がって来た、救急車で入院。まあ死人が出ぬだけよかった。去年は山師がやられた、まむしの焼酎塗ったら腫れが引いて、医者が不思議がっていた。
 ぼんのくぼの近くぶすり。
 ばあさんが死んで葬式の朝、ろくなこたしてやれなかったから葬式を盛大にって、そんなこたないお寺だで。起きて天気はどうかと首突き出したら、あしながばちの巣があって、ぺったんこ何十匹。
 ばあさんも云いたいことあったんだろうが、痛くないってやったらそれっきり、ぶつくさーでこぼこの跡が残った。
 みんな引き上げた朝、みやまからすあげはが飛んで来る、おふくろだなまわりを離れない、
「いらん行け。」
 追っ払った。
 さっさと成仏しろ。
 昆虫採集ばっかりの少年時代、まっくろけの足をからすあんよと呼んで、わるがきをかばい続けた、号泣のほかないのに、くそたれあげはになんかなるなと、いいや縁を切ったのだ。

2010年06月15日 08:06 せっちゃん ショートショート・北見1
接心終わって北海道へ行こう、北見に金石先生を訪ねてといって、九月三日、弟子穴井と美緒ちゃんともっほちゃんと夕方七時半に出発。夜どうし走って下北半島大間岬からフェリーで函館に入る。こけちゃんがあとついてきた。先生は売れっこないわしの本を出版した。こけちゃんは私本みたいのを出して、先輩のつてで信濃毎日新聞に書評が載った、旅行のたしにって5万円ばかり出た。こけちゃんは村上で引き返す、駅前の海鮮酒場でかんぱーいお別れ。
 酒もうまかった、わしと美緒ちゃんと三人飲む。
 もっほちゃんと穴井運転。
夏過ぎてともに食らはむ岩船の荒磯が幸を汝は忘れしや

 勝木のやっじーのお寺に風呂を貰う、独身組合めくっさー洗濯物の山。
ここにして弟が湯にも浸れりし潮鳴りせむ粟ヶ島山

 若いころはぶっ飛ばしたけどこりゃけっこう強行軍、美緒ちゃんのヘンな歌に穴井の浪花節にもっほちゃんの突っ込み、わしはおじんギャグしちゃしーんとなって、いやもう秋田までは長い、秋田県はもっと長く、途中たいして休みもしないで、
たが妻とよもすがらせむ陸奥の国出羽の浜みを夢か現つやか

 うっすら明けて運転を変わる、下北へ入った、なんとガス欠だ、7時過ぎないと開かねえ、下北を甘く見た、大間港までは無理。美緒ちゃんが看板を見つけた、横町へ入って一軒だけやっていた。
なんにしやガス欠ならむ下北の風車の道は今明け行かむ

 大間港へつくとフェリーは15分前に出たという、次は11時半だそうな、ホテルを見つけて交渉したら一日分払えとさ、けち、食堂もない、ようやく見つけて、時間前に店して貰って食う。でっかいまぐろとてぐす引いてる手とモニュメントがあって、その前ふらついて公園へ行く。九時に温泉施設が開く、温泉につかっていっとき仮眠んだ。
 美緒ちゃんと松林にきのこを取る。
うち上げし昆布を拾ひ湯に浸り眺め暮らさむ津軽の海は

2010年06月16日 07:58 せっちゃん ショートショート・北見2
フェリーに乗った、雑魚寝部屋には枕と洗面器が置いてある、2時間ほどで着く。ちゃっかりカップルがちょっと荷物見ててねと云って帰ってこない、なんだああいつら、海んなか飛び込んだんじゃねーか、こっちもそこらほっつき歩く。貨物船やら漁船やら、フェリーにもすれ違う、今年の12月で大間函館間廃止だという、そんじゃ下北の人が困るってさ。
客さへに空ろ荷ならむカーフェリー波風荒れて函館に着く

 函館には兄弟子の明慧がいた、美緒ちゃんのいとこだ、お上人と人呼んで夫婦して函館暮らし。お土産だといってきのこを渡し、きのこきらいだっていうのにさ。至れりつくせりの歓待。名所案内は、お墓から見える函館湾の絶景、霧がかかって岬あり山あり船あり塔あり。大正ロマンの名物銭湯へ行く。バスに揺られて函館山は百万ドルの夜景。ゴージャスな海鮮料理。穴井にわたした金がそっくり返ってくる、すべて上人のおごりだ、いやまあそりゃご馳走さま。
函館の揺られ揺られて哀しとや百万ドルの烏賊釣り明かり
夫婦してけなげに暮らしささひはての賑ひの地に客をもてなす

 翌日函館の朝市ぶらついて朝飯を食べ、穴井ともっほちゃんと三人で出発。美緒ちゃんは起きてこない、明慧夫婦と後発。
 釣具屋へ行った、ケータイすると美緒ちゃんが今起きたという、しばらく大沼公園に向かう、今お茶してるからと云う、仕方がないこっちも駅前の喫茶店に入って、コーヒーにアイスクリーム。
 いいとこだよ、まだお茶してんのっていう、うっさいもう置いく、待ってすぐ行くから。穴井が運転して大通りへ出たとたん、パトカーがいてポリ公がいてはい12キロオーバーだとさ。
パトカーに切符を切られ長万部やまべは釣れじ雨にそほ降る

2010年06月17日 08:09 せっちゃん ショートショート・北見3
 みんなと合流して林道から川へ入る、やまべという、山女の十センチほどがひっかかるだけ。また沢へ入り、フライの練習にはなったがどうもいかん。雨が降って来る。夫婦に別れて、上人の予約してくれた洞爺湖ペンションに行く。夕暮れて延々。ペンションは老夫婦、はて受けた覚えはねーが、おじいさん忘れたんでしょうが、悶着あって、部屋は空いてるよ、温泉はいい温泉だよって晩飯なし。
 仕方がない食いに行く、灯りは見えて遠い、すてきなレストランがあった。ワインで乾杯、なにしろ宿は取れた。
洞爺湖は夏の宴ぞ乾杯のよせあふ波に砕ける月は

 朝見ると湖の辺りは風景よし、なぜか白鳥が二羽。遊歩道があってるんるん気分。美緒ちゃんを忘れたって、寝ていて起こさなかったんだ、置いていかれたと思ってパニックになっている、なんでさ車あるのに。
白鳥はなんに残れるペンションは老夫婦して部屋数いくつ

 どこへ行こう、ニセコに温泉ある朝湯しよう。雨になった。朝市は野菜にメロンを売る、もちもろこしはないか、流行りの糖度の乗ったのしかないな。羊蹄もにせこも雲の中。なんとかいう歌手の銅像が立ってる、
「どれ。」
 もう向こうへ行っちゃった。
羊蹄は雲井かくらへ朝市のかつて食らひしもちもろこしは

 雨と霧で視界ゼロ、自衛隊の研修宿舎があった、
「新兵いじめるんだぞ。」
「虫けら人間神さまっての体育界系。」
 温泉があった、二つあるうちの一つは改装中、まるっきり見えない展望台に登って、それから朝風呂。
朝湯には朝酒食らへ霧らひこもにせこの花をつゆさび咲かね

2010年06月18日 08:30 せっちゃん ショートショート・北見4
 それからどこへ行こう、登別といって走る。土砂降りに道の駅があった、濡れて突っ走る。もちもろこしはなかった、かしぐるみがあって買った。信州のとちょっと違うか。
 晴れて霧もやふ山々、可憐な花が咲く。
 登別温泉格安プランというのを、穴井ともっほちゃんが探し出す、ケータイだけで予約からなにからまかなう、じっさにはお手上げだ。
 地獄めぐりをし熊の牧場を見て、アイヌ村に行く。ひぐまのオスは二メートル30センチもある、こんなのとは喧嘩できない。
 ひえー頭だけでこーんなにさ。ふてくされて寝ているひぐまいた、あいつが本物だ。
見晴らしの久しくありて登別名もなき花の霧らひ美はしき
我が見しは檻の外なる大熊のひょうきんぶりもご免被むる
我もまた買ふには買はむ笹笛の奏で美はしアイヌ乙女を

 翌日は快晴大雪山をめざす。旭川の郵便局で違反切符振り込んで、ラーメンを食おう、うんまいのが食えるぞといって、ラーメン評議会なる一廓に入る、行列を作っている、行列やだといって入ったら、あたしたち別んとこするって女ども、穴井と食ったラーメン外れ、ねぎばっかり多いってだけ、美緒ちゃんももっほちゃんもうまかったって。
 美緒ちゃんはマニュアルで取ったペーパードライバー、旭川のまっすぐ道路でトライする、
 やめてくれ後ろ見ないで車線に入る、走行中しだい左による。
 まあやめとくはご愁傷さまだから、半日やりゃ取り戻すさふわーいえっへん。大雪山のロープウェイへ、すでにすっかり秋の、三日後には初雪と聞く、少年のころ夢に見たヌタクカムウシュッペ、こけももが赤く。
神威かも神威遊べる大雪のうすばきてふやこまくさの花
見よやこれ神威遊べる一夏の花のさ庭に初霜ぞ置く

2010年06月19日 08:02 せっちゃん ショートショート・北見5
 夕方川へ入ってフライを振る一尺ほどの鱒がかかった。
石狩の川面を知るや行きずりの我が釣り揚げし鱒はも悲し

 旭川から北見まで三時間半だという、北見っていうのはそんなに遠くだったか、高速道路が無料だからって、金石先生がいう、そりゃとつぜんのことでって、一言も云ってなかったっけ、いいかげんな連中だ、いやさわしのことか。高速道路に乗った。以前来たときは作りかけだった、岩内でひぐまのうんち見て釣ったっけ、丸瀬布の川でイブニングライズ、うーんいやこの川も釣れそうだって三時間半、なにしろ走った、いいお天気。
この駅も様変わりせむオホーツク我が言問ひし雪消え春は

 ほんとうに三時間半、金石先生は新居にお住まい、親父さまが九拾五歳という、奥様がリハビリに伴う日。近所の地ビール屋へ行く、ビールもうまかったが塩やきそばというのが絶品、ほたてやえびや入っている。北海道では牛乳とソフトクリームと、この塩やきそばがおいしかった。
初秋は北見にあらむ地ビールや塩やきそばに名代の昼餉

 釣れるところ案内してくれったら、はいいいですよって三時間、ふえーそこらの川じゃだめなんか、いえどこでも釣れることは釣れるんですがねって、mou
じき知床に入る谷へ、そりゃもう釣れた、感動の先ずはフライフィッシング、初体験の女どもも悦に入る。
笹の葉のおしょろこまいてやまべいて坪ごとにせむ神威知床

 次ぎの日穴井は教区坊主の晋山式の練習が二日後にあって、どうも間に合いそうもない、ケータイしてさぼった。でもって金石先生と網走刑務所に行く、先生の初代さんは網走のお役人だったそうの、このあたりでは土地持ちの名門であった、弟さんが農業をする、さとう大根が欲しいと穴井がいう、そんなもんどうするのって笑われながら一本引っこ抜いた。煮ても焼いても食えんよ、砂糖取るだけってさ、ためつすがめつ。刑務所はたしかに今も刑務所だが、立派な観光地で秋の花に乱れ咲く。蓮池にはやんまが飛び、とうすみとんぼがいて美しい、やんまの百分の一のとうすみが大威張りして、やんまを追っ払うから面白い。
乱れ咲く花にしあらむ網走の檻の外なる何をか云はむ

2010年06月20日 08:20 せっちゃん ショートショート・北見6
 鮭の上る川を見た、一メートルもあるのが行列で上っている、ここで雌雄合同するんですと先生、海岸に竿を押し並べて何十人、何百人釣っている、昨日あの人が釣ったとか気の長い話。帰ってからここでひぐまに襲われたというニュース、だってまあひぐまの餌だ。知床へ行こうというのを、さすがに遠慮して近くの川に入った。先客がいてさっぱり釣れず、どでかいのが見えた。先生にお別れして、美緒ちゃのコネで層雲峡に宿を取る、暮れ落ちて道に迷う、
知床は遠くにありて山を越え川をめぐらひ日は暮れかかる

 層雲峡の山のホテルといった、美しい写真が並んでいた、蝶や鳥やえぞしかややまねや、ひぐまの親子に山の風景に。
 教えられて翌日釣りに行くと、なんにも釣れず、ひぐまの骨があった、頭蓋骨からあばらから脚から一式ある、頭骨とあばら二本を失敬。
絵葉書は山のホテルの名にしおふ蝶よ花よの夢物語り
親しくもつましくありて栗鼠や鹿初霜を置く紅葉まにまに
示されてその激たんにますは釣れずひぐまの骨を拾ひて帰る

 帰りは小樽から新潟行きのフェリーに乗ろうと思ったら、翌日苫小牧からの便があるという、一日余計になった、札幌へ行こう北大キャンパスを見て、札幌ビールでジンギスカン食い放題しよう。
 また釣ろうってのは却下になった。
 結局小樽にも行く。
 若者通りを行き、にしん御殿を見る、どうやらみんな穴井の差し金だ、北大でひぐまの骨格を見て、うんこれだとうなずく。
 美緒ちゃんとわしは道っぱたに腰下ろして、ぼりぼりなんか食っていた。
 クラークの像があった。
クラークの像を仰がむキャンパスの何を見むとや猿の腰掛
年寄りもジンギス汗の食い放題ビールを呷り札幌の秋

2010年06月21日 07:57 せっちゃん ショートショート・北見完
娘には本間さまより豪華なるにしん御殿の秋明菊も

 支笏湖を廻って苫小牧へ行く、さわやかに晴れて美しい、
神威なす双びみ山を秋長けて支笏の湖は見れど飽かぬかも

 苫小牧東港という、石油の備蓄タンクを廻って行ってぽつんと離れ港、カーフェリーの発着だけがある、陸送トラックの行列。出航まで時間があって、穴井と二人さびきでもって釣る。釣り客が二人いた、あじやさばを釣る。餌がない、ソーセージをちぎってつけた、そりゃ釣れんわ。
 きたきつねがやってきた、ソーセージを投げたらぱっくりすたこらさ、藪の前で食う。
狐して外れ港にさ引きする客とか見らむ旅行く我れを

 一晩船に寝てあくる日の昼下がりに着く。美緒ちゃんの誕生日だった、ワインをおごってバイキングの船の食堂でかんぱーい。秋田土崎港に立ち寄り、飛島を過ぎ粟島のあたりはやっじーの勝木、ケータイしたらうん見えるよフェリー、よーく見えるみんな見えるみたいだと、そんなはずはないな。
 お寺に帰ったら萩の満開。
鳥海の庭よくあらし飛島や粟が島山根を辿り我が行く
しだれては咲き満つあらむ萩の花北見の空は今夕三日月

2019年05月31日

ショートショート2

2010年06月24日 08:08 せっちゃん ショートショート・片雲
美食家で名を売った蜀山人という人の看板文字というのかな、片雲という額が500万円、お宝鑑定団の付けた値段だ、今後とも五百万以上にはならんだろうな、すばらしい迫力のある形のいい文字とさ、でもあれ文字になってないな。一休でも良寛でもへんてこりんでたらめであったりするのが文字になっている。大灯国師の梅渓の書はすばらしい、でもまるっきり子供のようなただもう糞真面目な書がある。わしはそれを見て感動した、ほんとうにこの世の中子供の心で生きたんだ、十八年間乞食をしてうっかり瓜に釣られて引っ張り出された。法難に対処する、死ぬるとき坐禅をするといって骨が突き出た人。
勝海舟の書もいいでたらめめったらみたいのが、上古の風がある。
書は人なりっていうんだな。
蜀山人は生まれが悪いのか、育ちがいいかげんなのか、白州次郎の奥方にひっぱたかれるだけのことはある。日本文化の伝統に背く。無心には程遠い。ピカソが認めたからといって、ピカソの思想にも届かぬ、卵の殻を破ったアルルカンの迫力を知らぬ。美食家だという一級品の美食を知らぬ、ものを食えば作った人の身心その思いが掌する、美食飽人底の喫する能はずと、茶碗も皿も本来のものにとっついたできもののような。
酔ひどれやアルゴー船の舵を取り手足を鍛えのピカソと云ふぞ
また見つかった水死人、ランボーとモーツアルトを引っ張り出して天才ピカソっていう映画があったな。あんなに儲かった絵描きはない、ゴッホもモジリアーニも文無し野垂れ死にだっていうのに、愛した女の手切れ金が絵一枚、それでも高すぎるってくらいの、わっはっは笑いが止まらんか、ふられてきちがいになった女もいれば、ついにピカソを袖にした女もいて。
つゆの玉ベッドの辺の灯りにてスペイン戦争ゲルニカ万歳

2010年06月25日 08:39 せっちゃん ショートショート・蓮
 死んじまった板垣百十治が、農地解放以来耕した山門内の田んぼを返してくれた。墓地にして駐車場にしてそれから蓮を植えた。蒲や葦がはびこったりざりがにが蓮の芽を千切ったり、さんざくたしたがどうやら咲く。
五百生野狐身を脱し蓮す花思んみれば田は夕映えすらむ
 ちょうどお盆には真っ盛り。
 一別以来不義理をたかしっぱなしのわしの師匠は、お元気で托鉢暮らしをしている、じきに会いに行けるかも知れない。
能無しの我れもとぶらへ蓮す花師は托鉢に暮らしつくして
 山形から小国に入る、花の越後という街道があった、通ってみた、むかしのおもかげがわずかに残る、老松の林があった、まつたけが取れたんかな。
見よやこれ花の越後のいにしへゆ月に竿させ松老ひ茂み
 なつかしいものは消えうせ、観光名所が生き残る。
 通称禅師どのはわしの一番弟子だ、貧乏寺に住んでいる、いじめられさんざくたのめに会って、わしはなんにもしてやれなかった。
 大悟している。
 何十年して、檀家が百万円ずつ寄進して、晋山式をして本堂を建てることになった。
 よかった。
形も悪し言も行かずは禅師どの仏なるかなや本堂を建て
 坊主仲間の爪弾きわしらの難行は、はあて終わるわけもないがな。

2010年06月26日 08:17 せっちゃん ショートショート・猿のはくせえ
 窓を開けたらだめって、へえたしかに爪あとがある、猿の群れだ、見る間にそこへよったかる。赤ん坊を抱えた母猿もいれば若いのもいれば、飛び跳ねるがきも大ボスもいる、十何匹。ふーん可愛いたってそりゃ可愛いんだが、テレビを見ると、フレンズだのラブだのなんだの猿が歌っている。いつのまに猿の惑星になったんだ、智慧足らずの歌詞にしょうもねえったら猿真似歌に、てなこというとぶっ殺されるで、猿の惑星で猿の悪口云ったら一巻の終わり、へーい。
 でもあいつは傑作だったな、SFの十指に入る、映画はダサいって猿がこさえたんだ、ちえなんでたけしのやつ三文映画作ってんだ、アカデミー賞だとさばっかじゃなかろか、そうかあいつも猿になったんだ。
 数の論理って云うのは人間で、猿は数の倫理ってー
 ぐへーかなわん屁ひって死ね。
 あのSFは、人が猿になったってことか、間が抜けてらあな、始めてわかったってえと、こっちも猿かげそ。
 だれのが臭いって、猿のはくせいうはは。人の剥製はどーなんだ、ガンジス河に毎度浮かんでるやつをー
 また見つかった永遠がってさ、人体模型の断末魔。

2010年06月27日 08:19 せっちゃん ショートショート・藁人形
 芦の尻というところに、ものすごい藁人形があって、道祖神だそうの、正月七日にこさえて、暮れのどんど焼きに燃やす。道祖神のお祭りは成人式というより、男の子のお祭りで、男根をまつったものか、セックスの和合神か。
 でもこの藁人形やぼったいったらど迫力。縄文時代が続いてるような錯覚を起こす。
 なにさ人間のやること石器時代に毛の生えたほどに、薄片石器で髭を剃ったといううっふう文化。どぶ溜めに落ちて伸吟する人間、はーてなパソコン電子文化。
 わっはっはじっさの出る幕じゃねーや。
 丸子には賽の河原の石積みのような結界がある、安曇野には百体観音、青木村の修那羅仏や、信州というか、どうも山に入るともう別世界があった。
 人の世界とはちがう浦島伝説か、それとも姥捨て山か。
 帰ってこない魂。
 キャンプしたら川音が甲高い女の声になって来る。どうしてもそう思えて、
「テントから手出してみろ。」
 と云ったら、だれも出せなかった。
 一人きりならどうなった。
 厄病を払ったという道祖神。道という大昔首にしんにゅうという白川静の説。
 いつでも化け物はいる。
 民俗学の柳田邦夫はエリートの頭脳明晰で、宗教民間信仰にはおよそ無縁の人で、もっと頭のよかった南方熊楠は、自分の息子を狂人にした。
 伊藤一刀斎も二人のせがれを廃人にする。
 化け物は彼自身だった。
 そういうの何人か知っている。
 やぼったい藁人形がおまじないになりゃいい、物心つくとはどういうこと、
 どんど焼きで燃してしまうすっきり。
 信州の自然はきびしいし、ホームレスってわけにはいきそうもねーか。

2010年06月28日 08:40 せっちゃん ショートショート・もりあおがえる
 杉の木に白いものがぶら下がる、もりあおがえるの卵、水っけもないのにさ、空梅雨で消えたか。笹倉温泉の露天風呂に蛙の置物がある、10センチはある、触ったらぐにゃすっとんで逃げた、もりあおがえるだった。お寺にも卵塊ができてほったらかし、秘湯の会の高峰温泉は標高1500メートルで、しゃくなげが咲いてうぐいすが鳴いて、かもしかがいて高山植物が咲く。鳥の餌場があって、赤げらのつがいとるりかけすが来た。どこでもまあさ烏がよったくる。都会人は随喜の山菜料理も、わしらにはペテンみたいな。
 混浴だってんで入ったら、男女別になっていた、すんばらしい料理は、板前が引き抜かれて駄目になったあれこれ。
 いけねえそんなこと云ってる場合じゃねーや、横尾忠則全ポスターっての内覧会招待状貰った、三回もすっぽかしたから行かにゃ義理が悪い。大阪中ノ島だって。
 大阪なんか行ったことない、あっちだろうな物騒だろうな。
 とにかく行った、盛大華やかなえーとあのよくわかんねー知的レセプションで、あんれ坊主頭のわしに一席ぶってくれという、
「忠則卿と同年だっていうじゃねーか、ぼけねえ長生きってのどだ。」
「へい。」
 と云って演説した、
「米軍基地は大阪にもってくりゃいーのだ、朱鷺と同居の佐渡も捨てがたいが。」
 いやちがった、何しゃべったんだっけか、大いに受けて、坐禅をしなさい悟りを開けば、女なら三十は若返るよ、男なら忠則郷のようにガス爆発じゃない、生ける屍いえよしあしの生長点、かく申すわしもこのとおりむなんまんだぶ。
 お開きになって秘湯の会、いやどっかホテルをって電車間違えた、ふらり歩いていたらずべ公が二人よったくる。
 いい鴨じゃない、
「どう二人面倒見る元気ある。」
「えーよ。」
 なんしろわしは若いんだ。
 どっか時化こんで、はてな、
「腹減った飯を食おう。」
「いいわよ飲もう、ここよ。」
 酔っ払ってトイレへ。
 用足すうちに、トイレが倒れこんで棺桶になって引き出され。
「一丁揚がり、二人だから三万あておくれ。」
 女の声がする。
「だめだこんなじっさ、薬にもアラブの奴隷にもならん、二人で三万。」
「ふーんでもなんかがんばってたけどな。」
 ふわ目が覚めた、大阪止めてやっぱ秘湯の会にしよ、もりあおがえる見て風呂に入ろう。

2010年06月29日 08:42 せっちゃん ショートショート・釣れない
浄土ヶ浜は宮古にあって、浄土ヶ原は裏磐梯の活火山、仏ヶ浦は下北半島祈願絶壁、現代人はさっぱり有難がらない、お賽銭も上がらない、観光観光かんこどりはてな。むかしの人は衝撃を受けたんだ、死にかけてて極楽浄土を垣間見た、死んでから恐山を見たふーん。臨死体験という、断食すると血液が澄んで、ものみな清らかに見えるてのなら体験したがな、喉元過ぎれば熱さを忘れ。
 見るもの聞くもの極楽浄土って、花鳥風月みな仏。究極の世界とは、自分というフィルターを外して見ればいいって、わっはっは実も蓋もない事実。
 なんにもないを説く難しさ。
 面倒は止めとけ、唯我独尊野垂れ死に。
 そういって歩いていたら変なばあさま来た。
 宮古から遠野へ、ついこないだ熊が出た。
「わしはおしらさまやってる、托鉢のえらーい坊さま聞いてくれ。」
 なんで托鉢だと見りゃ、墨染め来て上げ手巾して良寛さんだぜこりゃ。
「えらいってことはわかるが、なんだ。」
「わしはおしらさまして結界して、三途の川のそーずかばばも兼ねる、たいへん忙しいんだ。」
「そうさ、下っ端は忙しいんだ。」
「いえな、このごろは浄土も地獄も知らん、閻魔様も知らん、たわけておる。」
 世の中ややっこしい限りだ、
「うんだで、地獄草子現代版てのこさえてくれ、一目でぞっとこうなまなましいのをな。」
「引き受けた。」
 安請け合いしてぞっと考えた、ナチスドイツのホロコーストに、ユダヤなんぞ生かしておくから新地獄がさ、いや原爆広島のケロイドに、ロシアのシベリア送りに、東京絨毯爆撃に、こりゃとんでもねーこった。
 どれ一つ取ったって地獄なんてあの。
 ベトナムの枯葉剤に、金正日だの中国共産党の拷問。
 閻魔大王もひきつけ起こすぜ。
「こればーさまおしらさま、だめだあ難題。」
 おしらさまもういなかった。
 無差別殺人で一瞬人間になって、そのあとはぞっとムイシュキン公爵の。
 ふわーい欠伸、脳味噌超えると欠伸が出るんだ。
 きしょーめ托鉢止めた、釣りしよ、あんれ一匹も釣れねーやこの川。
 つれない話。

2010年06月30日 08:18 せっちゃん ショートショート・赤い茗荷
 がきんころねぎとにんじんが嫌いだった、お呼ばれしたらにんじんが出た、おまえ食えって猫にやったら、卓袱台かたしたら丸ごとある。
 猫はにんじん食わないってさ、はーい。
 山の谷間で、
「これがまたたび。」
 と、おふくろに云われて、熟れたまたたびを食った。どんな味か忘れてしまった、柿のようなオレンジ色。家にまたたびを植えると、そこらじゅうの猫がよったくる、金網張っていやたいへんだったとだ人が云った。この男赤い茗荷の花が咲いたといって、地方テレビに出た。
 たいへんに珍しいものだそうな。
 美緒ちゃんとわしは寒山拾得で、どっか行こうというとうん行こうといってついて来る。車に乗ってる中ジュース飲んで煙草吸って、おしっこっていう。ちっともう飲まんでいれたって、強い薬飲むから喉渇くんだとさ。しょーがねえどっか藪ん中ですませ。あいよー、見てやろうか、だめ。わっはっはあっけらかん。
 その日は、去年生まれて初めて舞茸取って、そりゃもう天にも舞う心地、出たかなあと思って行く。
 舞茸もなく、いちめんあったすぎひらもなく、赤い茗荷が咲いていた。
 紅よりも紅いという、黄色い茗荷と形同じで、
「てんで馬鹿で名前も覚えられんで、背中に背負って歩いたから、茗荷ってんだよ、知ってるか。」
「知らないけんども、だいたいあたしと同じ。」
 それ取って帰って来た。
 おそば食べようという、どっかでワインとなんか買ってお寺でやろう、飲めねーよ、じゃそうするって、十日町川口少千谷通って長岡で、ようやくた店めっけて買った。。
 あくる日中越地震が来た。とんでもない揺れで、震源地は川口という、なんでおらーとこ震源地って云わねーんだ、憤慨したら、あとで聞くとそりゃもうそんなもんじゃなく、舗装がそっくり裏返ったり、八百戸のうち三戸残して全壊、
家から出るのに一日かかったなと。
 赤い茗荷のしらせ。
 美緒ちゃんは山姥の血筋で、上田の雲洞庵にある山姥の木像がもうそっくり。
 鉢の石仏という、真ん中に女陰があって、周り美緒ちゃん顔の十三仏さまがある。江戸の石工が同じ顔こさえた。
 お不動さんが地震から守ってくれた、二人で行ってみたら無事だった。道の復旧には三年かかった。
 美緒ちゃんは、東京都の障害者手帳を持っている、阿修羅展を見に行ったとき90分待ちを、つきそい一名さまともはいどうぞ、並ばずにただで入る。
 美緒ちゃんにはだれかれ話しかける、拾得だなあやっぱり。


2010年07月01日 08:59 せっちゃん ショートショート・ライセンス
夜中に起きたら、鳴り物入りだ、鳳凰が飛んでいる、梅雨空の満月、松柏も手の舞い足の踏むところを知らず。面白くって眠れない。
 浮世に用無し、捨身施虎。
 くそったれのわがまま三昧、失笑物云うに疎く。
 1950年代のフィガロの結婚を手に入れた。堪能してCDが風邪引いた、諦め切れずもう一回聞く、復活した。うわーい涙のちょちょ切れる、もう飛ぶまいぞやっていたら、ポリ公が手をさし招く。
「すみませんねえ三条の方ですか、ここが40キロとは気が付かんかったでしょう、無理もねーです。」
 なぬ13キロオーバーでとっつかまった、
「あ、お坊さんですかいえお若いですなあ、ひひひ。」
 ゼニさえ払えばー下手に出やがって、怒鳴るわけにも行かん。
 一ツ橋出のおっちゃんが、カラオケたって歌詞知らんきゃ歌えんでしょうという、自慢じゃないが百回聞いたって覚えるもんか。
 ドイツ語やらねーんなら卒業させてやるって、軽蔑おくあたはざる手塚先生さまがいった、ふんなもな死んだってやるかといって、追い出されて来たはいーが、専門駄目ってこれ、世の中ナンセンスもいーとこ、しばらく困ったな、そりゃ今でも困るわさ。
 ドイツねーちゃんのメル友できて、フランス旦那に翻訳して貰う。
 ふっふっふ、ライセンスがないとあっぷあっぷ。前科八犯せっかくゴールドカード取ったてーのに、車の免許もこれだ。
 坊主免許あるってさ。
 坊主仲間の食み出し者、道元禅師の曹洞宗が、坐禅を蛇蝎の如く忌み嫌う。坊主と付き合う=嘘をつくこと。くーわあほくさ。
 禅のライセンスわし一人。
 もう一つ和歌を復興したな、人が立ち上がって歩いて来る大ルネッサンス、わっはっはこっちも坊主と同じ爪弾き。
 歌詞なしの魔笛は、ひとりっきり車の中。
 托鉢しない良寛さんは生きて行けない。
 一人遊びぞ我れは勝れるって、なにをやって来たんかなわしは。
 とんだ場違い。
 三つ目が行くってな。
空威張りらごら坊主の世は終わり割りを食うたか月見に一杯
 息してりゃまいーか。
 死ぬことだってできるんだしさ。

2010年07月02日 08:23 せっちゃん ショートショート・はるぜみ
芍薬の咲くころみーんみーんとかったるい声で鳴く、なんだありゃあ春蝉だってんで、名前を知って姿を見ることがなかった、
まくず生ふる山の間にして春蝉の長鳴きつつに日はも過ぎぬれ
春蝉の長鳴きつつに山を越え風の便りもうらみ葛の葉
 山は葛のはびこるころ。
 玄関わきのかえでに二匹いた。
 青い透明な蝉でそれは美しい。
 ようやく姿を見たと思ったらそれっきり。地球温暖化で絶えた。最後に挨拶に来たんだ。
 糸魚川の天然記念物ひめはるぜみとは違う、銀山平に鳴く茶色のきたはるぜみとも違う。
 なんていうんだろうあれは。
 それから地震があって、何年かして、庭にあったとげのきつい、草むしりには困りもののりゅうぜつらんが、もこもこと株を増やす。引っこ抜いたりしていたら、とつぜん花序が伸びて花が咲く。
 君が代蘭だという、センチュリイユッカといって百年ものの花を開く、百以上の花をつける。
 二年にわたって六本咲いた。
 いいことあるぞうって、はあてな、さっぱりいいことなかった。
 君が代は昭和天皇だ、千代に八千代にさ、殉死してりゃあよかったと思う。二・に六事件も、終戦のマッカサーサーに対するさえも、そのあとの御幸行脚も、ただもう涙するしかない。
 そうして日本は滅んでしまったのか。
 野球賭博なんて天皇の相撲じゃない。
 サッカーが惜敗してようやくに面目を保つ。
 わしの出る幕ではない。
 絶滅したはるぜみを呼び返そうか。
 はるぜみが云った、どこかで仲間に出会うことがあったらよろしくと。
 またユッカが咲いた、すごい、花の海になる。
 花序でもってテキーラをこさえた。飲むほどに酔うほどに雲の辺を行く。
 月がさやめく。
「地球に落下しているのわかるか。」
 そりゃ破滅だ、
「どうにかならんか。」
「マヤの呪術師を呼べ。」
 うっふっふなんとかするかも知れん。
 呪術師は岡田監督の首を切った。真っ赤な八つの蛇になって血が迸る。
 月は笑った。
「そうさほんの一二年云うことを聞こうか。」
 はるぜみが鳴いたらそれでいいよ。
 おかしいな百年たっているのに、そうかわしは月山のミイラだった。

2010年07月03日 08:15 せっちゃん ショートショート・恐竜刀
 学者の云うことは三年ごとに変わるって、恐竜世界は三日でころりと変わる、いまに恐竜なんていなかったって云出だしたり、人間が恐竜になって、恐竜おかまになって、おかまバーになって、止まり木に居眠りして涎たらして鳥になって、間延びしたてめえの顔を見ていたんだ、はーてな科学者っていうのはわかんなくなんねーんかな。
 李白研究家の花井先生が、むかしはわかっていたと思ってたのにっていうと、ジャリンコ知恵の猫がにやあと笑う。
 ノーベル賞だってさそれってがきっぽいな。
 恐竜と人の交歓土偶ってのあるよ。
 春の突風で物置がずんでんばらり、戊辰の役のを免れて、らくだの背みたいなってたのが、一場の漏羅。
 建てなおしてたら、教え子であった刀鍛冶が来て、なんで知らせなかったって、目こーんなにして捜す、三角釘だ。
 そーいえばやたらにあって、車パンクするで大苦労して、えっとどこへやったっけか。
 鉄が違うんだとさ、砂鉄が出て、加茂にはでっかい塊が出る、かたつむりみたい渦巻くんだ、ふーん。
 いえね古刀は一千万円の余する、四千万てのがお宝鑑定団に出た、人切り包丁たって、使ってないほどいい、殿様ご佩料みたいそりゃ貴重品だ。新刀になると秀でのでも百万円が限度。
 おれの四十万円で売れた。
 それじゃ食えねーだろ、アルバイトしてます、フランス旦那の地滑り測量に雇われたって、あいつ働きわりーんだけけけ。
 備前長船みたいな名刀が出来ないか、ノウハウも鉄も炭も調べ尽くして、次なることがわかった、今様は純粋過ぎるんだって。室町はいいかげんで、野放図で、たとい神仏の加護あって、単に為にす。
「そんでいい刀が出来たんか。」
「出来ない。」
「そりゃ当たり前だな、ろくな人間いないのにろくな刀できるわけねーが、けけけ。」
「まそーです。」
 とんでもない刀ができた。なまくら鈍刀不細工、牛刀ってのかぶっ殺すたんびに冴える、けだもの血吸ってばくやの剣になった。
 吉田兼好の名刀、
「つれずれ草」
 に匹敵する。
 平成の名刀これ。
「鍛えたやつ連れて来い。」
 うわやって来た、恐竜人間だ、ユカタン半島で生まれたんだとさ、もうろうのそっそり、力だけはやけに強い。
 そいつがあんまり賢くない教え子の云うこと、鵜呑みにして聞く。

2010年07月04日 08:10 せっちゃん ショートショート・ひぐま
 むかしもちもろこしっていうのがあって、それはおいしかった。白と青のだんだらで、ただもう甘いだけの今様品種改良とは、そーだなあ、別人種の工夫か。北海道に行ったらあった、道っぱたの出店で売っていた。次に行ったらなかった。もうどこにもなかった。こけちゃんが捜したら、ホテルのじっさが目を輝かして、聞いてみしょうと云う、農協に電話して問い合わせた、なかった。
わしが行くと憮然。若い女の子が
「もちもろこし。」
 って頼む、奇跡かな。
 ひぐまの牧場は登別でも見た。ひぐまが檻の中へ入って、一頭二頭ふてくされて寝そべっているのがいた。これが本筋だ。ひぐま神威が、餌欲しさに芸当をやるなんざ愚の骨頂。高村光太郎が悲惨=動物園の詩を書いて、世の中相変わらず動物園。
 檻の中にいるのが人間さまだってのが味噌。
 猿回しの好きな日本人は、檻より物真似。
 ゴリラが面白いってんで、日んがな見ていたっけな。人間は一万年進化したらゴリラになる。シルバーバックはなんでも見透す目。
 鯨取るなの野卑な一神教。毛唐ってんだなあれ。
 象は神さまだな。あんなにすばらしいものはない。はぐれ猿だって荘厳の大往生、うちの永久欠番ナムという猫も、荘厳死だったな。
 でもって評判の旭川動物園見なかった。
 山頭火でラーメン食って、わしはずっと醤油できたからといって醤油ラーメン食った。わっはっは塩ラーメンのほうがうまかった。
 いじけたじっさはかくの如し。
 いじけないじっさもたいてい同じ。
 短冊一枚一億円だあ、早く買え。
 四百枚で四百億、弟子からみんな夫婦がきとも丸抱えして、僧堂建てて、うっはあ新興宗教みたいなって、仏を復興するんだ、仏の教えを、日本の詩歌をさ、一大ルネッサンス。
 えーと死んでから百年したら、一万円になるかも知れんーかな。
 檻の外も奈落の底。

2010年07月05日 08:32 せっちゃん ショートショート・山百合
 共産党の志位委員長っての気味の悪い面してるな、ほっときゃ必ず金正日なるんけど、わかっちゃいるけど止められねーって、人間止めておかま恐竜なって、どっかへ卵産もうってのかな、性転換手術して、ーこれさ殺されんぞ、高倉テルのころから共産党って人殺してたな、主義主張ってのは殺人鬼だで、どーしよーもねえけど、そんなことして何になるんだべ。金正日なって、ポルポトになって、うわ最低。
 鬼やんまの羽化するのを見て、母と子と感動する、感動の瞬間をさ、美しいったらまったく無防備の。
 鬼やんまはかぶとむしやすずめばちと同じ大威張り、テレビに衝突したり、人の鼻先でホッバーして扇風機したり、乱暴で微笑ましくって、お寺のアイドル。
 選挙の間は無防備の羽化って、わっはっは世の中面白くなるか、政治家=まあさ嘘ばっかり。
 菅直人が最後の切り札か、しくじったら日本おしまい。
 山百合の咲くのはもっとあとだ。
 人がいるかと思ってはっと振り返ると、十も花をつけた山百合だ。杉を植えるといって、山を伐採したら、そこいらじゅうに咲く。
 それはもう一年こっきり。選挙運動だったら面白いのにさ。
守門なる笹み小百合のゆりあへのあひ見し君が忘らへぬかも
守門なる笹み小百合のゆりあへの人の姿にあどもへにけり
 英霊の塚に山百合が咲き乱れ。
 二階級特進陸軍伍長とか、年金の受取人が生きているかぎり、慰霊祭があって、県知事挨拶代読、なんとか代読なんとか代読やって、坊主のお経があって。菓子折りと赤飯貰ってー
 人類から戦争がなくなるって考えられんな。
 主義主張のあるかぎり、宗教だの思想だのあるかぎり、ー
 憶う良寛詩。
夫れ人の世に在るは、草木の参差たるが如し、共に一種の見に執して、到る処互いに是非す。
我れに似れば非も是となす、我れに異なれば是も非と為す、唯だ己れの是とする所を是とし、何ぞ他の非とする所なるを知らん。
乃至、遙夜熟ら思惟すれば、涙下りて収まること能はず。
 笹川の流れはそれは絶景で、石英砂の啼き砂はまっしろけ、百もの花をつけた山百合の行列。教え子の一隊連れてキャンプに行った、わあきゃあ大騒ぎ、どのテントもカレーライスを作る、
「先生おらあのうんまいぜ食え。」
 わっはっはこりゃ共産党じゃねえか、でも味違うってば違って。
 二十年して行ってみた、車が通って見る影もなく、
「笹川の流れってどこですか。」
「ここだけんども。」
 そうか、タイムマシーンに乗ってー

2010年07月06日 08:26 せっちゃん ショートショート・奄美
あだん咲き三千世界一村の涙溢れて極楽浄土
 奄美大島から嫁を貰った人がいた、美人だよって、挨拶に行ったら親父が釣り好きで、ここは毎日釣れるんだ、支那海が荒れるときは太平洋がないで、太平洋が荒れりゃ支那海が凪ぐ、どでっかいの釣れるぜ、かっぽれに石鯛にってさ。そっかホームレスに行こうか、なんせ東京から片道七万だって、行きはあっても帰りはねえ、はてなはぶがいて、玄関わきにはハブ取りの道具がー止めた。
 島は、佐渡へ行く馬鹿四度も行ったけど、他には八丈島だけ。甥っ子のしんちゃんが全日空へつとめて、家族パスを貰って四枚くれた。空手の羽賀にやって、もう一人は自前して、三人で八丈島へ行った。SY11機というのは狭い、チュワーデスはぶすでって、それがさ、帰り釣りあぶれた酔っ払いをあしらう、すばらしいって感心した。
 飛行機初体験で、どきわく、45分のフライトってのは最適の時間かな、三原山と八丈富士とどーんと見えて着いた。土底浜という処で釣る、うまずらはぎに無毒のフグににざだいに、雑魚もでけえ。ひらまさの小型のをこまさという、そいつはなぜか隣にだけ釣れる、すげー引きだ。
 タクシーに乗って島めぐりした。流人塚や丸い石垣や密生した笹薮ん中に家があったり、あれこれみーんな上の空で聞いて、ここがいいといって石ばっかりの荒礒に出た。
 狙い定めて何投めにか来た、ぐわんと引き入れてぶっつん。
 何かおかしい、避難だ、そうだ引き上げろ。道具をまとめて、30m上へ、同じ速度で水が来る、魂消た。
 しょうがない昼飯だって、歩いて行くとホテルがある、羽賀が手にした風呂敷を解く、なんと背広一式出てきた、靴もある。向こうじゃちゃんとしてねえとホテル入れねえ。なーるほどたって、こっちはオキアミまるけのどさくさ、まあさ、羽賀のおかげかなんか飯は食えた。
 羽賀の足くびがくーるり廻る、
「どうなってんだこれ。」
「一隊組んで、タクラマカン砂漠へ行ったとたんに、らくだの野郎人を乗せてること忘れやがった、ぽーんと放り出されて、捻挫してこーんなに腫れてさ、日本人医師の薬効かねえ、中国人がどっか行って草とってきてもんで貼りつけた、それが効いた。」
 十五日間歩きっぱなしで、マイナス15度の砂漠だ、それがさみーんな次第にいい顔なって来るんだぜ。ただもう砂漠だ、わしの一の弟子だと云っていた羽賀は、お寺に来て説教した。
 話はうまいし、冒険家として彼ほどの男はざらにはいない。
 タクラマカン砂漠終わって、三日も帰ってこない。京大のおねーちゃんと時化こんでいたんだって、おれももう最後だと思ったしって、うっふふ。
 羽賀はすっかり有名人になって、お寺には来ない。講演年に150も頼まれるとさ。
 孤高の画家田中一村の絵は、最後の三十枚が絶品であった。
ふだらくやミイラになりて漂ひにあだん花咲く奄美の島へ

2010年07月07日 08:17 せっちゃん ショートショート・野糞
 イヌイット、エスキモーの彫刻は本当にすばらしかった、彫刻家なんかなしでだれでも彫る、木の中にあざらしがいたらそれを彫り出す、しろくまがいたらしろくまをってふうに。人間も生きて動物も生きて、みんな神さまのもの。オーロラのきらめく天と地と。昭和三十年までは残っていた。今はただの観光業かな。アフリカの仮面も彫刻もよかった、森の化け物がゆーらり歩く、消えりゃ茂みと風と。まんとひひが吼え象の叫ぶ。キリスト教是非善悪のひとりよがりなぞ止めとけ。復活しようと思ったら、いったん死んで生まれ変わる何世代、民族のルネッサンスはあるのか、スタイルの復興は。
花嫁は仙納を行き山野田を行き千代に八千代に松代清水
 中越のこのあたり道がつらなり、十戸とか二十戸の村から村へつなぐ、地滑り地帯で、人身御供を建てて祈願したという、
「そうそう行き倒れは転がっていない。」
 地滑り業の、フランス旦那が云った。
「ふんどしの汚ねーのからとっつかまえてさ。」
 美しい娘なんてそりゃもう貴重品。
 にごり水しか行かない、山のてっぺんまで田んぼだ、うんまい米が獲れる、じっさどもが高級カメラ抱えて、棚田を撮る。
 なんせわしのドライブコースだ。新道発見は冒険だったが、上越まで行かねばもう発見はなく。あんまり行くと日帰りが出来ぬ。
 秋にはきのこを捜す、ろくなもんは採れん、すぎひらたけが毒きのこになって、なにしろ上がったり。
 ひーえ野糞を踏んずけた。
 臭いことものすごいこと、どーもこーもならぬ。水溜りにこするつけ山を歩いて免れた。
 ある年大地の芸術祭といって、変なものを展示する。野糞の垂れ流しは、臭いも迫力もるがさ、こりゃいったいなんだ、よったくってだれか薀蓄する、ぐえ吐きそうになる。
 くもの巣張ってかび生えて、国宝の展示は不可になる、そうだよなあって思ったり。ちっとは村のためといって、忘れられるだけが取り柄の。ごみあくた。
 くそ人のドライブコースをさ。
 もし何物か生み出そうとするなら、
「諸縁を放捨し、万事を休息して、」
 ものみな忘れ呆けることから、そう今はなんにもしない時だ。
山を越えぴーひゃらどんと笛太鼓月に浮かれて松代うさぎ

2010年07月08日 08:23 せっちゃん ショートショート・あさぎまだら
年ふりてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり小夜の中山
 あけみちゃんが案内してくれた、小夜の中山が静岡にあるとは思わなかった。ゆかりの寺がある、密教系の無住で古さびて、住まうには全面改築が必要だな。木戸銭取って暮らして行くかって、寺は坊主の私有物になって、そのまあ強欲たかりのどーしよ-もなさ、おいそれとは入れぬ。あさぎまだらが無数に飛んで、花にとまるのをつまんだりする。
 あけみちゃんは、四人の子を持つおっかねえ年増で、なんてえお寺だったか忘れちまったが、案内する。近くに川が流れて、川土手に石がにょっきり生える、そいつが成長して卵塔の形になってぽろりと落ちると、住職が死ぬ、七不思議だそうで、自然石の卵塔が歴住の数だけあった。総持寺輪住の一世はずばぬけてでかい。今の坊主どもたといそうあったって、生死を明らめねーなあ。それから清水の次郎長に行って、スペイン料理店サングリアに行って。
 あさぎまだらは海を渡る、有名なのはおおかばまだらという、メキシコの森に何十万も越冬する。モナーキーといってニュージーランドにも渡るらしく、ニュージーランドの16種の蝶の中に入る。日本は200種台湾は300種、ニュージーランドって、神様が見放したような島で、哺乳類なし、しじみちょう取ったらできそくないの、柄も一定せずのなんだこりゃ。
 そこへ毛唐どもが来て、鯨取るなって喚く、お笑いだな。太地のイルか取りがアカデミー賞なら、宮崎の口蹄疫二十五万頭の牛ぶっ殺すの映画にすりゃ、そりゃもうノーベル賞間違いなし。みんな仲良く平和にああ原爆は許すまじの、人間は虐殺と理不尽の上に成り立っているのさ、牛や豚は神さまが人間の食うためにこさえたんだって、なんてえ身勝手。
 信州はあさぎまだらは貴重品で、蝶仲間が採った、しつこく聞きいて採りに行く。いた、あでやかなに優雅に飛ぶ、手がふるえて取り逃がす、大空高ーく飛んで行った。
 ゆーじさんとドライブして、きっと松茸が生えると云って、山をかき上る。松茸もなんのきのこもなく、引き揚げたらゆーじさんが来ない、動くよりは待っていたらあさぎまだらが舞う。
 越後で見たのは初めてだった、そのうちお寺にも来た。
 川に橋があった、にょっきり手がかかる、
「どうしたこら。」
 沢へ落ちて、ずぶ濡れんなって出た。
「わかんなくなって、死ぬとこだったです。」
 登って下りるだけの山をさ。
 だれかれわしにはひどいめにあっている。
 でもあいつは悟っている、今にものになる。
ここもまた我が住み憂くてお去りなば少松は一人にならんとすらむ
 悟りを去って本当になるとは、悲しく辛いたったこれだけだ、なにをしようが真正面、まっ赤な血が流れる。蝶を採らずば蝶も寄って来る、囀れば小鳥も囀る、ものみな仏、早くなんとかして跡を継げ、引退だあな。
 静岡にながさきあげはがいた。
 越後につまべにちょうは来ないか。
 千日回峰なんてめじゃねーなあ。

2010年07月09日 08:08 せっちゃん ショートショート・杉
 杉起こしも馴れりゃ面白いって、わしはえらいめして一丁前にもならず終わった、雪国のしんどい大仕事。機械を使ってまっすぐしにしたと思ったら縄がぶっ切れ、一山すませてやれ嬉しや、たいていもとに戻っていたり。
 大工っけのない男はいないって、本棚作ったら、板一枚足らない、間に合わせめっけて鑿を使うと、なんだあこれ豆腐みたい、地物じゃなかった。
 雪に折れしだえてがっしり、家を建てるんなら贅沢にー地元の杉。
 溜まり池に春先さんしょううおが卵を産む、たのじょうというのかな、幼生はえらが飛び出してアホロートルだ。
 親はいなくなる、落ち葉の中にいた。
 なまけものより省エネで、冬眠して夏眠して、でもってなにしてるんだやら。見習う気はしないな。先代の奥方は疳の虫に効くって幼生をぺろり飲んだ。どっか頷けるかな。
 それもまあ滅びちまったみたいだけどな。
 林業組合はどうやって税金をぱくるかが問題で、あとは二の次三の次、ひっかかってえらいめに合って、訴えるぞど脅したらしゅんとした。
 入広瀬なんか、何百年のけやきのを伐採して杉を植える、豪雪地帯だ育ちっこない、みんなひんまがって変なふうになった、けやきはなめこが出て二三年取れた。
 山菜取りもいじましいな、ハングリー世代のあくせく、空き缶弁当箱ほったらかしに山荒し。むしろ敷いて干してあるぜんまいまで持ってきちまう。ぜんまい取りが遭難して、ヘリコプター出したらそいつが墜落、大事件になった。どこもかしこも入山禁止になった。国有林もおらあもんの、ようもわからんけどまあそーゆうことさな。
 大雪村の冬は交通途絶になって、失業保険を貰って鉄砲をぶって歩く、天然記念物のかもしかが落っこちていて、
「あいつは口の軽いやつにはやれん。」
 てなわけで、わしとうとう貰えずじまい。
 足るを知るって、禅門の手水石みたいなさ。
 山村もまあ、ダムを作りそこらじゅう削っていつか不毛の地、開発の浅知恵は山も川も駄目にする、土建業者と政治家が儲かるだけだ。
 さんしょううおの省エネを見習ったほうがいいか。
 ダムを撤廃すりゃいーのさ、
川を越えここはもいずこ十日町山杉しだえ人も老ひぬれ
 杉を育てる人がいなくなった、苦労して育てて二世代三世代と受け継ぐ、山仕事というのは、神聖なって云いたくなるほどに、どっか人間に似合っていたけどな、なんせ杉売れない、いやさ買うとけっこう高いけど、売ると伐採して出すほうが却って高くつく。
降る雪に植えたる杉の折れしだへ愚かしき我が宿世の如く

2019年05月31日

ショートショート3

2010年07月10日 08:12 せっちゃん ショートショート・宗谷岬1
 美緒ちゃんが行くと荷物が二倍になる、フライフィッシングの道具にウエザー五人前積んでどーも窮屈、みなしてかめちゃん車説得して二台行くはずが、急にけいちゃん恋しい帰ると美緒ちゃん、かめちゃん車もキャンセル、
「越の寒梅に焼酎もつけるで勘弁しれや。」
「ばあちゃんだめって云ったし、すんじゃ行かね。」
 あっさり云って、美緒ちゃん乗っけて東京経由で帰る。
「美緒ちゃん調子悪かったから。」
 さまやんに煙草止めれって云われたのが原因だってさ。こけちゃんもっほちゃん天呑とわしと四人、去年買い換えたカローラに乗って出発。マリノで祝杯挙げて、飲まされなかったもっほちゃんの運転で、新潟港のフェリーポートへ、23時半出航翌夕方五時に苫小牧へ着く。
 なんせこれは長かった、麻雀を車から出し忘れてふわーい退屈たって、船は揺れ出して、もうはやベットに転がっているほかなく。
この秋もアイヌ神威に入らんかな揺られ揺られて夕苫小牧

 ナビを北海道仕様にしたら、どっかボタン押し忘れて不備、てんやわんやを千歳のホテルルートインに泊まって、こけちゃんお奨めのピザ屋へ行く。ふーんナビ取っ替えなくってもよかったんだって。
ウトナイに廻らひ行きて夕暮れてピザで乾杯名代のビール

 こけちゃんの哲人頭は、次の日は白金温泉、ここをこー行ってあー行ってバジリスク。なんせ川へ入ろうてんで、宿を行き過ぎて川へ入る、どたばたウエザー着込んで、フライ手に手に笹薮をこぐ。釣れた、こけちゃんももっほちゃんもさ、天呑さんはサービス業に徹し、雨降って水が増していて引き上げる、思うさま釣れたのはでもさ初っぱなばかり。
せせらぎはおしょろこまいてやまべいて神威肥やさむ笹あひ深み

 宿の下に滝があった、真っ青な水に泡を噛んで落ちる二流れ三流れ。美しいといえば写真の方が美しく、魚の住まぬ硫黄泉。
黄金の滝にしあらむ吹き上げて我を迎えむホテルの底を

 こけちゃんが歌集二の表紙にした青い沼へ行く、写真はこれも絶景、クレー射撃場があってひぐま避けならぬ、ばーんばーん。
十勝なる沈む林をうら悲し魚さへ住まぬ碧玉にして

2010年07月11日 07:21 せっちゃん ショートショート・宗谷岬2
 次の日は層雲峡温泉に泊まって函館の明慧上人夫妻と落ち合う、そうしてこけちゃんは、その車に乗って恋しい旦那様のもとへ帰る。旦那は猿の脳味噌をいじくってノーベル賞へまっしぐら、みんなで押しかけて食い潰してもって、代わりに天呑に明慧上人にえーとお猿の代わり、おうさ精妙な研究が。はあて美瑛の丘はこけちゃんが運転、人呼んでジェットコースターというアップダウンの道、わーっ助けてくれえってすごい。
耕して美瑛の丘をジェットコースターつぶれ屋敷も一つや二つ

 ほんにあっちこっち廃屋、西部劇の町のように郵便局となんでも屋とあって家並みが二十軒、びばうしの駅は小じんまりしていて記念撮影、アイヌ語はへたな漢字しねーでかたかなで記しゃいいって。
びばうしの駅舎を小さき君若しやアイヌ神威の忘れ形見と

 こけちゃん天呑にてっちゃんが岩内川を教えた、せがれてっちゃんは自衛隊大尉殿の天呑とこけちゃんのおかげで口を聞く男になった。本山病なあ。石狩川の支流いわながわんさかいたんだが、はあてさ。
 アイヌのkら強奪した北海道は、ついにはますの川も死に絶えて、路には車にひかれたもぐらが二匹。
石狩の岩内の瀬をふきの門の清やけくもあるか神威廻らへ

前の旅には北見から来て、美緒ちゃんアルバイト体験の山のホテル層雲峡に泊まった、今度は旭川から来て、はあてトンネルを通り越して、
「ここひぐまの骨を拾ったところ。」
「いらくさにやられてさ。」
 とか前もそこへ、案内を終了しますってナビが云う、
「やっぱし変だあこれ。」
 仕方ない大雪湖を通って戻る、
層雲峡名にしおふなる大雪の天下りせむ行方知らずも

 ホテルの晩飯はバイキングだった、明慧上人夫婦は七時過ぎに来るという、函館で納所坊主をしている、貧乏人のくせにえらいご馳走するから、函館は避けて通ってと、
「あれこんなに時間かかるんかなあ、えーと八時間?」
いまさら気がついてもってこけちゃん、なにしろやって来た、
「かんぱーい。」
 がっちゃん。飲んで食って話してわしは引退、十二時過ぎまでやってたらしい。
層雲峡ビールを呷りバイキングなんに寄せあふ我らを六人

2010年07月12日 08:21 せっちゃん ショートショート・宗谷岬3
 今日一日は大丈夫だと明慧上人は云い、層雲峡のこの辺りいい川があるって、釣りをしようと、釣りしか知らぬじっさに肩入れして、
「大雪山から下りてとこで尺物を釣ったんだ。」
 そこへ行こう、そりゃ反対側だ二時間かかる、
「へえそんなもんか。」
 といって谷川へ入る、ぴっと来たのにそれっきり。また谷へ入る、きたきつねの子が二匹、可愛いいったら逃げもしない。
 釣れなかった。くじゃくちょうときべりたてはがいた。
初秋は清やけくあらむ孔雀蝶流らふ川も神威古譚ぞ

 本流ははあて信濃川と同じにおいがする、こりゃもうだめだ、そうだよなあ、まだ澄んではいるんだが。
見よやこれ石狩川を二別れ行きて帰らぬ神威古譚の

 ガソリンスタンドでガソリンを入れて明慧上人が聞いた、昼はルアーでなきゃだめだ、いくらつけりゃ入れ食いだ、フライは効かないって、朝夕なら釣れるとさ。夕方にはだいぶ間がある、旭川へ行って飯を食をう、旭川動物園へ行こうか。昨日ひぐま牧場っての見た、あれあーゆーの二度と見たくねえってわしはごねる。
ふてくされひぐまの檻をいたましや人は何故かくの如くに

 旭川のラーメン村で昼飯、山頭火という店の、塩ラーメンがお奨めだという、五十年醤油で来たんだとまたじっさごねて、塩のほうがうまかった。
四十年わしは醤油と押し通し恨みがましく塩ラーメンを

 帰ったほうがいいっていうのに、ホテルの無料コーヒーを飲んでいつまでもやっている、こけちゃんが札幌に着いたのが10時、明慧上人が函館に帰ったのが真夜中の二時だって。
大雪は紅葉しつらむ鳴きうさぎ秋の夜長をルートインなる

2010年07月13日 08:20 せっちゃん ショートショート・宗谷岬4
 台風12号が北上する、旭川は真っ赤な夕焼け、知床は雨だ、晴れるのは稚内では稚内へ行こう。北見の金石先生訪問が目的であったはずが、層雲峡を引き返すのは億劫、
「こけちゃんにお土産やる、先生とこは新米出来たら送ることにする。」
 なんせいい加減な話、
「金石先生ちょっとそこへっちゃ三時間。」
 帰れなくなったりとかさ。
 宗谷岬だ、別ルートを取って旭川士別名寄美深と行く。
名寄岩大関なりきいにしへゆ何変はらずや牧場と村と

 蕗といたどりと菊芋の花、天塩川に行きあう、堂々たる大河だ、河川公園に下りて行って物は試しと釣る、地の人に聞かないと無理か。水草の見える清流、わたり鳥の群れが行く。鶴のように大きな鷺。
天塩川万ず浮世をみそなはせはぐれ雲なむ棚無し小舟

 道の駅があって昼飯を食べた、もっほちゃんはこけちゃんお奨めの豚丼、天呑はいつだってラーメン、わしはカツ丼を食って、けっこういけたんだが豚丼の垂れがきつくって、もっほちゃんは三年食わなくっていいってさ。
嵐さへ避けて通ふか幌内の道の駅なるシシカバブーと

 支流に入って行くとやまめの川だ、釣れるには釣れ、大きなのがいて見向きもしない。釣れないでくれえ、釣れたらどうしようといって、
「目が合ったら向こうへ行った、はーあ。」
 と、もっほちゃん。
 アンモナイトが出るらしい、ぬーっとひぐまが出たらー
魚釣りやまめの川の入りあへに大物を見ししいたどり茂み

2010年07月14日 08:28 せっちゃん  北海道は自衛隊の天下、なんせロシアが攻めて来るんだ、トラックが行く301部隊、
「あれは利尻島だな。」
 と天呑がいう。
 そういや新潟は北朝鮮中国が襲う、なんとかしなけりゃ。てめえ死ぬより国滅びた方がいいってえ若者、いや中年年寄りの尻ひっぱたくのは、
「うひゃむずかしいわな。」
 利尻富士が見えた。稚内へはもうまっしぐら、
心映え利尻の富士を仰がむは海のへ見えずさろべつ原野

 のさっぷ岬は知床でのしゃっぷ岬が稚内、へーえそうかねどっちも同じ意味でねーんか、なことねえって択捉国後がのさっぷでー
 利尻富士のとなりに礼文島が見える、小学校のころ金環食があった、鳥がかーっと鳴いてまっくらけになったな、信州の土田舎も、すすのガラスで三日月の太陽を見た、今はそれだめなんだってさ、欠けた木漏れ日をさ思い出す。
さひはての夕波荒れて礼文島我らは何を土産を買はむ

 たらばが取立てだってさうにも。うちへ送った三日かかる。

 宗谷岬は稚内から二時間近くもかかる、ふえーい遠い、北へ来るにしたがい蝶もほとんど見ず、北緯45度線を過ぎると牛を飼う以外畑もなく、こりゃきびしいところだ、冬はどえれーこったぞ死ぬ。うっすらとサハリンが見える、じーんと感激はやっぱり戦前生まれ。
へに立ちて我が感動は樺太とかつては云ひしサハリンならむ

 山へ上って行くと肉牛の巨大な牧場だった、黒い牛がたむろする、車を停めて眺めていると、だれか話しかける、景色のいいところがあると云う、行ってみるとまさにこれは絶景、なんともたとえようのないさいはての丘、これがほんとのジェットコースターだ、大空と夕暮れと海と。
 牛が帰って行く。一列縦隊、走って行くのもありゃあ、まだ草食ってるのもいる。
さひはての宗谷岬の夕映への廻り廻らひ牛の行く見ゆ

 天呑の予約したホテルはうわこりゃ自衛隊御用達、駅前旅館のまあさしっくなことは、シートも替えてない、もっほちゃんがクレームをつける。
 居酒屋の夕飯はぞっこん食わせる、いかにたこにほっき貝によくわかんねーの鱈腹。おしりのでっかいおばさんにおねーちゃんにいて、さいはてに乾杯。
さひはての居酒屋ならむ駅前の鱈腹食へば三人酔ひたり

2010年07月15日 08:28 せっちゃん ショートショート・宗谷岬完
 雲一つ見えぬ快晴、なんにもなしの北海道もこりゃもう満喫、七時半出発、ふーんフェリーに乗って利尻島に渡りゃよかったか、いやきっといい川がとか、あっちへ向きこっちへ向き、なんにもなしのごり押しじっさ、
さひはての宗谷岬を天下り仰がむものは利尻の富士ぞ

 利尻富士はすざまじい山容で、海には漁船が三艘マイクで世間話をしている、左側は牧場があったり原野だったり。
さろべつに沼地ありとふ我が思ふ風車の列をダンプが行くぞ

 バイクに車がたまに行き交う、あとは自然破壊のダンプの行列か、たまに町があり、かっこうの川は行き過ぎて、あとは泥川ばかり、初山別遠別と、利尻富士は富士見橋にてお別れ、焼け尻島天売島が見え。
遠別に利尻の富士とあひ別れ二つ島根を天売の海や

 小平という町ににしんの花田番屋を見学、よく保存されていた、にしん漁場を四百円で買った、米100トンの値段だそうな。車停めたらサイドブレーキを忘れてもって、じっさの運転は二十分でお終い、ちえ前の車はだいじょぶだったんにさ、顰蹙。
若乃花花田といふを覚へしやにしん御殿は明治の名代

 午後二時には小樽に着いた、明日の乗船手続きをして、宮平洞窟というのを百円で見学、洞窟にうさぎやしかや宇宙人のような像を描く、見えねえわかんねえと云ってら、だれか教えてくれた。縄文の北海道生え抜き、かってに決めんだ、宇宙人。
宮平のアイヌ神威はしかやくま宇宙人なる百円の洞

 初の鉄道が来たという鉄道博物館を見て、小樽へ行く、親父さま預かりますと看板のぶら下がる若人の町。もっほちゃんはわしを恋人にして腕を組んで歩く照れくさ、ガラス細工を冷やかし、すし屋を覗き、お茶を飲み、夕方にはこけちゃんがやって来る、こけちゃんなら豚丼だべ、いやよ三年は食べない、では居酒屋をさがそう。
 お土産を買い、わしはかーちゃんにネックレスを買った、もっほちゃんが値段を交渉、
「だめよ二百円しか負けない。」
 ひえー恐れ入り。
ランデブーなんの因果か親父さま預かりますの腕を組み

 稚内を取り戻そうとて、天呑がやっぱり駅前の、できたての温泉ホテルを取る、温泉もゴージャスで値段は、
「へーえ稚内とあんまり変わらねえ。」
 やーれと思ったらもっほちゃんが怒り出す、生理の女は洋ナシってわしが云ったんだそうの、変な付き合いしてないってえらい剣幕。うーわ。こけちゃんは面白がる、女には平謝りしろって天呑。
 へーい。
 四人で小樽の町へ繰り出す。
 居酒屋へ行ったら、ここはあたしのおごりってこけちゃんが云う、そりゃ御馳走さま。稚内のほうがよかった、はしごしてビアホールへ行った。
 青春再びって、青春してるじゃないのってさ、そうかな。
七十の青春ならぬ酔っ払ひさひはての地をうそぶき歩く

 ホテルに坊主の集団が泊まった、改良着を着ている曹洞宗だ、そういえば
「坐禅では草もむしれません。」
 と堂頭が宣うた僧堂が北海道を托鉢する。
 ふーんまだ空威張りやってやがんのか、一睨みですくみあがる。
空威張りらごら坊主の世は墜ひへ割りを食うたか月見に一杯

 もっほちゃんのご機嫌は治ったんだけども、帰りのフェリーで麻雀の三人うちをやって、天呑にこてんぱん、ふえーやつめ旅のかたきを船で取る、きしょーめ。


2010年07月16日 08:23 せっちゃん ショートショート・幽霊
 消費税で菅直人はしくじっちまったけど、話し合いってのも受けず、一般受けしない無色無臭は不可。正しいこと云ったらアウトかな、国も国民もない党利党略だけっていうのが政治家、野党てのはまあどーしよーもねーかな。
 大衆におもねる、お客さまは神さま、ふーん民主主義ですとさ、日本人みんなが金正日ってことかな。
 岸伸介の時ももそうだったな、為すこと実に正等で、どう考えても最良の方法だった。それが安保闘争になって死人が出た。国民がばかなのは今に始まったことではなく、提灯行列の日露戦争から、そうさなあまったく変わらず。
 岸伸介の、銀時計をやっかんで教授どもが総反対した、授業は休みになって学生どもを呷る。わしはまだ学校にいた。だれかれ演説する、わしも云ってやった、
「てめえのこともよくわかんねーのになんで安保反対だ、政治は政治家に任せりゃいいじゃねーか。」
 それともなんだてめえ賢いとでも思ってるのかったら、そうだというやつもいた。教室にきれいなおねーちゃんが来た、あじ演説をしながら目が流れてわしを見る。
 そうか、安保闘争じゃない行き場がないんだな、こっちも行き場ないけど、止めたがいいよ。止めたがいいよって、樺美智子は死んでしまった。
 日本人の心が激変する、なつかしいものと彼女は心中した。生き残ったほうが地獄だった。無惨やる方なく。
 彼女が正しかった。でもとにかくわしは生き残った。
 頭を剃って坊主になったんなら、そりゃ死んだと同じだな。
 この間美緒ちゃんともっほちゃんと支店長と、たわむれに学校に行く。研究室に入り込んだら、若い子とばったり目が会った。
 樺美智子と同じだ。
 今の世の純粋培養。教授も人もそりゃあ信じられないさ。
 わしは幽霊か、浮世には住んでいない。
 ドクターコースか、つぶしが効かねえって、じきにたくましくなって、なにがし様になるさ。
 タレント画泊みたいにめえをすりかえて、小器用に生きて行く。思い込みだけの世界を、かたつむりのさ、その殻を破ることができないで。
 坊主で云やあ、坊主の三種の神器は嘘とはったりと空威張り、禅宗のくせに坐禅をしない、それじゃ人格の形成がない。
 世の中2チャンネル人間の、おれおれ詐欺さ。
 火中の栗を拾うか。
 依怙地ひとりぼっちのじっさでないだれかを、愛するって、ふん。
 仏は失われず。

2010年07月17日 08:14 せっちゃん ショートショート・幽霊2
 坐るってことは、ないはずの自分があるとうまく行かない、腹膨るるわざがついに激痛は、腹をよこしまにするからだ。あっちがどうのこっちがどうの、気にするってだけおじゃんになる。よこしまにするんです。邪なきときは自受用三昧これを標準とすと、かすっともかすらない。
 なんにもないがなんにもないを坐る。
 無自覚の覚これ。
 仏教という何かあるんじゃない、坐るただこれ。
 坐らぬほどに三百代言、学者だの布教師みたいの、よくもまあ仏罰が当たらぬもんだと、仏罰が当たらんてことねーわな、あほくさ。
 胸元がへっこんだのがいて、悪魔に食われた、こんなんじゃ坐ってどうもならんと、そんなことはないです、お釈迦さまは必ず救って下さる、救ってくれえとすべてを差し出せ。
 自分の持ち物なんぞもとない、不都合欠陥あれば、そっちで責任を持て、おらあ知らんてさ、虚空におけば虚空です。
 死ねばない。
 苦痛なく喜怒哀楽なく、はいこれ坐禅、面白くもなんともないといって、面白くないのさ。
 面白いつまらないを云うものがいない。坐ることができる、なんという無上楽、身心によらぬゆえに成道無上楽。取り付く島もない、自分というもと取り付く島もないんです。
 なんとか取り付こうとして、
「坐禅はどうの悟りはどうのだからおれは。」
 やってる間は不可。
 飯田とう(木に党)陰老師は坐中に痛烈に悟る。無字の公案であったですか、そりゃ数息観でも、隻手妙音でもなんでもいい。ノウハウを脱するぶち抜くんです。
 それを南天棒という坊主に、無と言わずに何と言うと云われてぐっと詰まった。由来十八年南天棒に就く、ある日高足の一人が、飯田居士ももう長いからそろそろ許してやったらどうかと、うんそうしようかと云うのをたまたま漏れ聞いて、憤然袂を分つ。
「自分が自分を許されぬのになぜ他人が許されるか。」
 これもっとも大切です。お釈迦さまは、おまえもわしと同じになった、いっしょにやって行こうと、そう云われるたんびに、初発心未だと云われた。ついに菩提樹下に於いて大悟す。
 とう(木に党)陰老師は独力で只管打坐を復活する、始めの悟でよかったと知る。
 悟がなきゃどうにもならんです、悟らずして仏教はないです。悟ってそのあとがもっと大切です。お釈迦さまには仏教がなかった。標準まさにこれ。もういっぺん悟ると不思議に落着します。正師にも惑わされ邪師にも惑わされと、なにゆえか、人の証明を必要とせんです、まるっきり他なしです。若し印可が欲しいんなら、印可しうる弟子をこさえりゃいい。

2019年05月31日

ショートショート4

2010年07月18日 08:49 せっちゃん ショートショート・うつぼかずら
人間はチンパンジーがサバンナ生活をして二足歩行になったんじゃなく、440万年ほど前に、まっぱじめから二足歩行だったんですとさ。獲物を持ち運びできる、犬歯などいらぬ幸せな家庭生活を雌が望んで云々、科学者どもの何十年にわたる研究の末、ダーウィン以来の思い込みが覆されたーやれめでたや。ちえ糞喰らえ、進化論なんて眉唾信じるのは、小学生と科学者しかいねーわさ。
 鳥もけものも美しいのに、進化論人間だけ醜悪。
 科学者がまじーのとキリスト教がわりーのと。
 思い込みから思い込みへの輾転反側、桃の窈窕たる、この子ここに嫁ぐ、その家室に宜しからん、あれどっかで脱線。そんでもって厳密に実証計測、へーいてめえ真相ってことは、思ってもみない奇妙奇天烈、
 世の中は科学の発展のためにあるのだ、頭の悪いのはお呼びでねーの。
 理論物理学っていう花形は、早く大人の答え出さねーかなかな。あほくさ。わかんねーことしか云わねーよ。大統一理論だってさソフトクリームにして食えるかな。
 面抱して突っ走る馬車馬だあな、水爆作ってどっかんたって、世界平和唱えりゃ免罪符って、細菌部隊も立派な科学であって、ノーベル賞貰えばもう云うことなし。
 わかんねーなどーも。。
 科学は、じっと我慢の勝つまではっての、なんの満足もない。
 高校生のころ湯川秀樹博士の講演聞きに行って、世の中こーんなにって、まあ死ぬほど退屈した。
 えらいってことはたいへんなこった。
 マッドサイアンティストって面白いんだってさ、なーるほど。
 エイズウイルス作り出した博士とか、エボラ出血熱もさ、狂人って面白いんだな。狂ってねえんなら、わしらのほうが狂ってんだ。
 科学者は科学者しか興味がないのさ。他は人間じゃない。
 美しい女の科学者がラフレシーアになったんだ、科学者の女王さまは、わぎなだけになって、猛烈くさい花咲かせて、科学者という無数の蝿をとりこにする。
 惜しいかな三日の命。
 ではうつぼかずらになって、ぼうふらを飼ってもうすこし長生きしよう、理論物理学の二度と外には出られない、てめえの大風呂敷の袋小路。
 ふわーあ欠伸。

2010年07月19日 09:18 せっちゃん ショートショート・あかのまんま
 ねずみいるで猫欲しいったら、ひょーろく旦那が持って来た、ほれったら、がきねこさーっと逃げてそれっきり。暮れだったな、雪降って三元日、雪がもっくりもっくり動く、飛び出してとっつかまえた。法事の鮭かざして、手指傷だらけにして手懐けた。ばーさんんがナムと名付けた。
 黒虎の可愛い子猫、重力を無視してすっ飛ぶ。鮭しか食わんのには弱った、そうそう法事はない、猫フードもかつおぶしまんまも見向きもせん。山猫になって、小鳥だの兎だの取った。わしの枕元に兎の足がぬーっと、止めとけったら、本堂拝敷きの上にどたん血まみれ兎、ここも困るといったらそれっきり。何ヶ月して須弥壇裏へ行くと、山鳥の羽がふわーっと何羽分か。山鳥なら法事の鮭と替えてやるってーのにって、後の祭り。
 ナムもお年頃だ、どっかの雌猫がやって来て、石の上にのっかるのを、回りりめぐっちゃわしを見上げる、なんとかしてくれーって、ばーたれてめえのきんたままで面倒見れるかったら、なんとかした。どっきたねえざまして帰って来て、がーおと鳴く。なんだこのやろうって、喝入れたらしゃきっとした。
「当家の猫は虎の如し。」
 と、どっかの坊主が云った。
「当家の坊主は猫の如し。」
 と応じて、なにしろ堂々たるナムになった。子供が取り囲んで、
「でっけーねこだ。」
 と云う、寺ん子はナムの次がせがれ、喉へ牙立てるのを押し止め。年子の妹の時はしなかった。
「お母さんはお父さんを生んでおばーちゃんを生んで、ナムを生んでお兄ちゃんを生んであたしを生んで、それから鶏を生みました。」
 って、酉年ばーさんの鶏を狙う、ひよこ一匹だけだよったらそーした。迷い鳥が入る、逃がしてやろうとして、ナムだと思ったらもう取っている、家庭の猛獣ってまあさ山猫だな。
 ひどい甘えん坊のくせに、山門を出たら知らん顔をする、どーなっているんかな、法事に行くと白い大猫がいて、またあいつが来た、うちのちじんじまうと云いう、見たらナムが歩いていた。お寺の猫戸棚開けやがる、鮒のすずめ焼き手つけず、かれいの煮たのとってきゃがったとか、のし歩いて4キロ四方のめすねこ孕ませた。
 えらいめにあってどぶんどろで帰ってきた。洗ってやると心地よさそうにふっさり。いやがるくせに洗って欲しいんだな。
 夕方消えて真夜中ご帰還だ、にゃーお帰ったぞ、うっさいほうり投げる、さかりがつくと猫の運動会だ、やってられん。
 それが冬はお寺にいない、始めのくせか、ものすげーや山へ修行に行っている、二メートルほどが雪の中。年寄ったら駅でストーブにあたっていた、
「この猫めざしやっても食わねえ。」
 駅員が云う、知らん顔だもんで助かる。
 山へ行くと犬のようについて来る、とこっと走っては待つ、きのこを取って近くへ来ておっ放したら、三日もいた、縄張りの外はかん狂うのかな。
「こやつも大明神に三回お参りしたから、立派な猫又だ。」
 とだれか云った、耳が三つ裂けていた。
 武勇伝ははしょる。
 つやつやの黒虎の、すだまとってやってたのがけだまができた、どーしようもないのを、ナムの天敵の娘がばりっとむしる、なーるほどむしれる、スマートになった。人の膝の上で漏らすのには参った。熱くなってうは放り出す。
 美人猫が来た、しゃむねこかなんかのあいのこだ。最後の彼女になった、意のままに行かないのを、じっと待っている、ふーんボスはボスなんだ。
 何日か消えていて帰って来た。
 ダンボールにふとんしいて入れた、水だけ飲んだ。飲まなくなって三日、
「もう仏になってらあ。」
 大往生だった、
「わしもこんなふうに死にてえ。」
 とばーさんが云った。
 ナムのお墓からゆーらりあかのまんまが生えた。
 もう一匹猫を葬ってある、水頭症の猫で、猫好きの姉が拾ってきて、獣医に診せた。
「安楽死ですか。」
「たとい短い命だって死ぬまで飼う。」
 獣医が感動して診療代ただにした。
 じきにもう死んだ。

2010年07月22日 08:23 せっちゃん ショートショート・燕雀
 雀は強い、改築した棟に住んだら、雀のつがいが来て出て行けという、そういえばここ屋根だった、巣作ってたなあやつ、
「やだよ、わしの部屋だ。」
 云ったら、くそびいっとひって行く、部屋のしみ一番は今もついている。でもってすぐそこの鬼瓦に住んでるな。
雀らが縄張りすらむ軒のへに人も住まへばこは騒がしき
 車庫へ来たつばめを、雀のつがいが追っ払う、七羽のつばめを物ともしない。鳩に餌やったら、雀がそやつをのうのうと食う。めじろと花の蜜を吸って、くちばしがでかいから花をむしっちまう。
 長野県飯田市のみずひき会館は、みずひきでおめでたの他にさまざまなものを作る。
 紋章をこさえてやる五万円。
 作りながら講釈をする、それが堂に入っている、
「あ、上杉の家紋ですか、あれだけはくわしく書いて送って下さい、みなちょっとずつ違います、丸竹に対い雀の、葉っぱの数や竹の節から、雀が口を開くか閉じるかなど、みないわれがあります、関東管領上杉家を長尾影虎が継いだんです、えーそりゃ古いですよ、そもそも雀は、弥生時代に稲といっしょに大陸から入って来ましてー。」
 すんでに五万円取られるとこだった、みずひきで家紋こさえたって、はあてなあんまり。景勝公家来丸太伊豆守、東山寺院殿一泊宗賢大居士というのが、つまりお寺の開基さんだ。上杉のゆかり。
 ある日新潟市長のでっかい車がきて、市長秘書と貧乏サラリーマンみたいなおっさんが挨拶、名刺を見ると、ふえ札幌市長板垣なにがしとある。
「わたしが丸太伊豆守の子孫です。」
 と名乗った。
 弱った、子孫さまはとっくに所在が知れて、景勝公とともに移封されて行って、何代かのちに帰農した、れっきとしたじいさんばあさんだった。
「はい調べて置きます。」
 といったら、過去帳のコピーを送ってきた、たしかに繋がっている。さても屋根普請があって、三十万がとこ寄付して貰った。坊主まるもうけ。
 最近伊豆守子孫の別口が現れた。二反の白やっときゃいいのであってはーてな。
 雀は激減したという。今の屋根には隙間がない、巣作りができない。あんな可愛いのにさ、舌切り雀のむかしから、ほっぺたに丸のある隣人。
 燕は縄文時代からいたのかな。これもよーく人間に馴れつく。家の中に巣を作ると、戸の開くのを待って飛んで行く。うんこしょんべんひりっぱなしは、猿と鳥はどーしよーもない。
 秋になって、信濃河に釣りに行くと、無数のつばめが河面すれすれに飛ぶ、どういうこったと思ったら、いっせいに大空へ駆け上がる、数千数万そのまんま消え去る。
 感動の渡りだった。
 一羽遅れるといくつも応援がきて、巣から連れ立つ、なるほどなあって、雀のほうが好きかなわしは。

2010年07月23日 08:20 せっちゃん ショートショート・わるがき
 裾花川は戸隠の裏から流れて行く。中学のころ長野市に住んで、蝶を採集したり、りんごを盗んだり、外灯をパチンコで狙ったり、勉強はさっぱりしなかったが、そのほかのことはたいていやった。ひめぎふちょうが採れると聞いて、裾花川で死ぬところだった。洪水になって、わるがき三人で雑魚取りに行った。田んぼ川に魚がごっそり溜る、泥んまるけになって、たらいに一杯も捕った。
 つい最近裾花川を最上流に遡った。有料になっていて、1人四百円ほどふんだくられる。
 にりんそうが群生する。初めて見た、一つ咲くのがいちりんそう二つ咲くのがにりんそうって、三つ咲いたり四つ咲いたり、わっはっはけっこうでたらめだ。 シャトルバスが出る。
 広い沼地になってみずばしょうが咲く。いわなの群れがいた。
 やっぱり有料化はいい、でないと踏み荒らされ、魚は釣られ、見る影もなくなる。
 いもりの池があって、久しぶりに卵塊を見た。
 秋もう一度行ってみた。
 もう番人はいないと思ったらいて、しっかり取られた。シャトルバスはなく30分も歩く。
 老夫婦がきのこを取っていた。
 舞茸にならたけとすぎたけにわんさか。
 なるほど車制限すりゃ舞茸も生えるか。
 巨大な岩盤が斜めに走って、すずめばちのでっかい巣がぶら下がる。
 化石が出て、廃校になった小学校が博物館になっていた。
 北朝鮮みたいな国を、世界中よったくってなんにもできない。
 なんでだろう。
 拉致されて泣き寝入りや、魚雷ぶちこまれて45人いっぺんに轟沈も。答えは明白だってのに有耶無耶になる。
 なんでだろうなあ裾花川。
 人をないがしろにし、おれおれ詐欺も罪悪感なし、無差別殺人もてめえ死刑になる段取りって、ー
 あほらしいなあ裾花川。
 だれにだって理由はあるという、人間にしかない理不尽。
 鬼無里村って鬼がいないから、住民みんな鬼だからって、いやもう寒村になって猿の群れ。
 いわなのひれの白いのは、みずばしょうが咲くからか。
 平和ってあやふい平衡の辺に成り立つ。
 年金貰っておんぼろ車の旅も平和をむさぼり。
 わるがきの束の間のほうが楽しい。
 どっかに罪の意識があってさ。

2010年07月24日 07:03 せっちゃん ショートショート・草むしり
 草むしりも億劫になって、二00円で椅子買ってきてけつ置いたら三度めにぽしゃる、もう一つ買ってきたらやっぱり同じ。メタボで重いんだ。久延寺行ったら老和尚が農業用の車椅子くれた、物欲しそうに眺めていたんだ。真っ黒い車二つ回転式の椅子がつく、きこきこ軋むけど便利だ、ぶっこわれそーにない、夏を今んとこ草に負けずに頑張る。
 うぐいすは鳴き終ったが、せきれいやひよどりと鳴き合わせて、寄って来たり警戒するのを、わっはっは我が世の春じゃなく、次第にまあどえらい暑い夏。
 松食い虫で松が枯れて、あとがまはまだ若い、樫と楓と、なんしろさつきの坊主刈りしかない、植木屋高いしもっぱら草むしり。
 どっかの親子やって来て、うわあトトロの森だと云った。
 海水温が0,04度上がってパニック状態だって学者が云う、ようもわからんけどわしら旧世代人はもうパンクだ。
 ミイラになって月山の雪景色を荘厳てなさ、悠長なことは云ってられん、ふわーい暑い、汗みずく。
 エミールガレの展示館でワイングラスを買った、うっふう本物のはずがない、でもよくできで2450円で買ったら、ここにぽつっと気泡が入って、
「4600円を半値にしたんです。」
 よろしいかって、
「へーい。」
 と、買ってきた。
 ペアの片方は完全だ。
 七十の、飲むしか楽しみないってのに、大切にしていた江戸切子を雲水に欠かれた。
「あのー作り物は壊れもの。」
 と、こきゃがる。こやつ新興宗教を企んで追い出され、借金踏み倒しのまんま、わしの許しを得たと云いふらす。隠れキリシタンの末裔だってさ、しょーがねえやつだ。
 グラスは大きい方がいいって、おかまのソムリエが云った、なけなし五000円はたいて買ってきたら、次の日せがれが割った。岩原ワインのワインというより、なんだべーなああれは、そやつは買わず干し葡萄とグラス買ったのに。
 えーともう一つだれかに割られた。
 とんちきめ修行がわりーからだって、とうとうてめえで割った。
 最後の江戸切子を、ボトルの底とがっちんこ。
 草むしり終わって一杯飲んだ。
 あっちー夕方。
 ワインは安物でもグラスがいいや、あっちーのもしばらく遠のく。
 でもって飲んでさ、熱中症であの世行き。
 これがまあ終の棲家か雪五尺、むかしはそのぐらい降ったが、今は毎日35度の夏。
 これからは金持ちだけ生き残って、良寛さんは無理ってさいっひっひ。
 クーラー15万円どうすべえか、わしの部屋。

2010年07月25日 08:43 せっちゃん ショートショート・こぶし
 ドライブに行く、新しい道発見といって行き止まり、曲がりくねった坂道をバックしたり、方向転換したり。冬期間通行止めをさ、残雪があったり、倒木がふさぐ。
 地震はひどかった、道ごとがっさり落ちたり、ひびが入ったり。
 馬鹿は死ななきゃ治らないったら、命がけの。
 ゲリラ豪雨にを行く、えーい行っちまえ戻るのはいやだ、降雨時は通行禁止って書いてある。
 行きて返る心の味は芭蕉、行ったきりの禅宗無門関。
 いっひっひ。
 じっさのこれが唯一趣味。
 山ん中を縦横に道が走る、用もないってのに。バブルで作っては放置の、事業仕分けもどこ吹く風の、自然破壊。
 ガソリン使って年金はたく、そりゃ優良年寄りだって、えーと関係ねーか。
 道を作らせて、地区の者以外立ち入り禁止、山菜取るなの赤い看板。
 みっともねえったら、さもしい日本人。
 そーさなあ、歩くことができない日本人。
 哲学的ってのも感心しねーけどさ、なんだろな人格のない不細工、兎やカラスにも劣る。
 すたすたやって来た金毛の、うーんありゃテンだ、朱鷺食っちまった立派なおっさんだ、ど近眼か、鼻先へ来て人を見上げ山へそける。
 一本の木に二00も蝶の群がる所があった、百体観音の道や、摩崖仏の村。山百合の咲き乱れる間道。
 モーツアルトと二人ドライブしてたら、相手してやってもいいっていう子がいた。
「わしなにするかわかんねーけど。」
「警察に親類いる。」
 こぶしの花のような、かそかな優美な感じのやることは強烈。
 ちきんレースってやってみない、ぐわ止めとけ。
 塩の温泉だってさ、死海のように浮く、すっぱだかになってぽっかり、まっしろで黒いものが見えて、わしはたいてい真っ黒だどぼん、わーきゃあきゃあ。
 飲んでもいいよっていう、飲んだら、あたしペーパードライバーやってみようかって、うわ後ろ見ないで発進、路肩に幅寄せ、
 まああの映画見よう、なんの映画か忘れちまった。
 外へ出たら夕焼け、彼女は大粒の涙流す。
 へえそんな映画だったか。ちがう夕映え見ると悲しいの。
「お寺へ行ってみたい。」
「かーちゃんいる止めとけ。」
 塩湯に浮かんでなんんもなかってにはー
 行って来たよっていう、むちゅっとキスして、坐禅蒲団のほかなんにもなかったって云う。
 車幅きりの道があった、あたし練習したからって、これさ止めとけ、うわジェットコースター。
 でも運転したな。
 また行き止まりがあった、方向転換七回切り返し、彼女外に出て示指する、
 もうこういうことしたら置いてくって、かんかんに怒る、置いてくったっておまえその。
 彼女がいない、うんまさか。
 谷の底に季節外れのこぶしが咲いていた。

2010年07月26日 08:17 せっちゃん ショートショート・どあほ
 葬儀屋1お寺1お経読むの1だとさ、東京相場な。葬儀屋が絶対権力でお寺はゼニさえもうかりゃいい、お経読み抱えて贅沢して暮らす。お寺さんはかっこうつけて衣お袈裟目ん玉の飛び出るほどご立派にして、高級車乗り回す、ただもうそれだけ。
「あんなんでどーなんのかなあ。」
 お経読みの弟子が云った。
「あいつら食えなくなりゃ反省すっか。はーてな。」
 仏教のぶの字もない。
 本山もなあー情けねえったら。
 明治政府の肉食妻帯勝手たるべしから、世襲四代五代めに入る。御開山禅師、いえお釈迦さま以来の伝統を食いつぶした。坊主の三種の神器は嘘とはったりと空威張りってのもとっくに色褪せて、だらしなく常識なく人前にまともに面も出せない。
 禅宗なのに坐禅がきらい、かっこうをするのはいい本当にやったら共産党扱い。
 臨済の雲水に軽蔑された、
「鼻にしわ寄せて云うなあ、こっちだって僧堂のことはよく知っているのにさ。」
「あっはっはそりゃま、曹洞宗なんてただの信仰ってえか、問題にならんのさ。」
 大徳寺の姪っこが参禅に来て、それが相度脱することあり、仕上がったお兄さんこと次期道頭と一言二言して、彼はかなわず逃げ出して九州落ちだとさ。
 道元禅師の悟、臨済などとっくからものともせんのさ、でも彼らは対面を保っている、大法だ仏だ、老師というと本当に大切にする。
 ご詠歌に法式猿芝居の、まあさこれ達磨さんを毒殺し、御開山禅師に後足で泥をかける。なんていうこったかさ。
 最近にっちもさっちも行かなくなって、録陰禅だのとパンフレットを送って来る、そりゃ同じこった、らしくしよう、物売ろうってだけの、嘘とはったり悪あがき。
 滅んだ。
 宗門はお終いだが、道元禅師は永遠だ、お釈迦さまも達磨さんも露一つ変わっていない。
 でなきゃこの世に救いはない。
「おまえ、そりゃ食ってくのたいへんだろうが、出家したらやることはたった一つ。」
 悟りのない仏教なんてない、身心脱落来脱落身心底、自分というもののあるうちは仏ではない、坐っても坐禅にならない。
 曹洞宗は、お釈迦さまの即身是仏、ほかには一遍上人があるだけだ。
 一人これを継ぐ、すなわち全世界宇宙。

2010年07月27日 08:40 せっちゃん ショートショート・あほう
いやひこの蒲原田井を夏なれや朝な夕なにかなかなの鳴く
 まだ明けきらぬうちにかなかな、身を切られるような辛さ,何で辛いのかと、たいてい辛いことばっかりさ。てめえというこのもの無いがよく、人生生涯とは心底これを観ずることか、親しいものを裏切り、何をどんなことやってもてめえ生き残る金正日、というのが若しや現代人。
いやひこの蒲原田井を住み憂くやまだきをさへにかなかなの鳴く
 身心脱落来、身心脱落し来る=やったあやりましたあと、道元禅師が如淨禅師のもとへすっ飛んで行く、脱落身心底、脱落せる身心底=ちがうよもとっからこのとおり、なんにもないんだよと示す。
 なんにもないという驚天動地、仏教だ悟りといういくら説いてもやってみなきゃわからん。我れと有情と同時成道、お釈迦さまの悟りも道元禅師の悟りも、そうですてめえの、お前さんの悟りもまったく同じ。でなけりゃ救いなく、悟る価値もない。
 悟り終わって悟りなしは、もとまったく自分というもの不要、捨身施虎、身心飢えた虎に投げ与え。
 打睡一下の現状公案。
 ないものをどうやって説く。大小無数の悟ったさん困ったさん、うるさったいのをぶんなぐると二度と来ない。坐らないで仏教のなんの布教坊主の罰当たり、師家という未だ許されぬ何人か。これを知って得ようとする、なんとかしようという未だ急転直下を知らず。
 絶海の孤島は、島流しの、なにしろ飯を食うための日送り。
 物云わざるは腹膨るるわざなり、只管に打坐して癒すには癒せ。
 良寛一休とほんとうに何人もいなかったんな。
人はいさなんに淋しえいやひこの蒲原田井にかなかなの鳴く
 早く自未得度先度他の心を起こすべし、たとひ七歳の女流なりと雖も、この心を起こせば、すでに一切衆生の導師なり、衆生の慈父なり、男女を論ずることなかれ、これ仏道極妙の法則なり。
人はいさなんに苦しえ米山の蒲原田井にかなかなの鳴く
 従来の光陰はたとひ空しく過ごすといふとも、今生の未だ過ぎざる間に急ぎて発願すべし。ただこれ正法眼蔵のみあり、救いこれあり。

2010年07月28日 08:22 せっちゃん ショートショート・カラヤン
 白鵬になぜ天皇賜杯をやらねーんだ、心体一如独りよく相撲界を支えたってのに、賜杯なしとは日本人の恥の上塗りだ、昭和天皇ならば必ずって、天皇は若しや不可能なんだろうか、だって天皇の相撲なんだ、モンゴル場所じゃねーんだったら。
 外野は事情知らねーからきしょーめ云いたい放題。スイスの観光鉄道殺人しやがってけろんぱ営業しやがる、日本人なんて黄色い猿かまわねーのさ、今は儲けどきだあぶくゼニふんだくれ、北朝鮮に云いなりなってる腰抜けども。ちえスイスなんて最低、いけすかねえけちども、いいかげん国日本よりゃ、いいかげんにのしつけたイエスキリストさまの選良、申しつけどおりやっときゃいーのだアーメン。
 このくそあちーのに世の中ろくなことはねーや。
 ぐわーくさくさドライブ行こう。
 山百合と鬼百合の咲く、自然破壊も民主党なんでも反対党もくそくらえ。だーれが殺したククロビン、蓮華寺街道花1文目。
 カラヤンの魔笛はまだ色褪せねーな。
 カラヤン初期のモーツアルトって到底聞けた代物じゃねー、帝王カラヤンのこうあるべきっていう、アーメン国の強引、モーツアルトもなんもない、自己主張のめりはり。
 でもエーリッヒクンツのパパゲーノは絶品、三重奏五重奏とうっふー極楽浄土、みーちゃんはーちゃんの奇跡ってんだ、半分はかったるいけんど。
 さすがに五味康介はカラヤンの魔笛をさー、柳生十兵衛の生みの親。
 カラヤンの初演は生き生きと、再演の魔笛は断末魔の辺に土をぶっかけ。
 音楽という最後の砦が失墜。
 モーツアルトが消えた。
 ふーんなことわしにゃ関係ねーや。
 山百合が美しいように、雲が流れるように、本阿弥光悦は刀の目利きで、俵屋宗達は不出生の絵描きだし、雪舟は無心そのものを表す、不思議なことに人類史上雪舟だけという。
 一休あり良寛あり、即ちこれを知れるあり。
 わっはっは死ぬまでは生きるかって、そんな約束はしないのさ。
 みみずのぬたくった歌書こう、一筆全世界。
 物云わざれば腹膨れるわざなり、文句百万だらするはずがさ、忘れちまったぞ。
 新しい道発見だ、どこへ行くんかな行ってみよう。

2010年07月29日 08:31 せっちゃん ショートショート・まがたま
この夜さは寝やらずあるに萩を越え一つ舞ひ行く残んの蛍
 熱帯夜の寝るには寝られず、八月だっていうのに蛍が飛んで行く、生きていくのも楽じゃないって、六十も半ばを過ぎりゃ思うはな、年金を貰ってから青春といって、オーストラリアへ行ってろうにんあじを釣ってと、耳は遠くなるしょんべんは近くなる、ものは面倒臭い、人事飽き飽きしたってわっはっは、むかしだったら大半死んでら。
名にしおふる翡翠の里と聞き越せどしの降る雨を青海川波
 やまめを二尾釣って上流へ行ったら、ひすいを堀り出そうとして、スコップ投げ出したまんま人間いないしょーもないやつ。いつかとっつかまってテレビ出たのは高校教師だった。青梅川の最上流は小屋ほどもある翡翠が物の見事に並んでいる。海へ出たのは持って帰れる。一つ見つけて帰りに思ったら見失う、尺物だいくらぐするんだ重たい。
 こしの国のこしは、あちゃらか語で玉をかしゅという、なまってこしになった、世界中に隠れもない玉の国だったんだ、良寛を世に出した人が、同じく翡翠の里を再発見した、そりゃ二千年来の大発見だった。大国主命と奴那川姫の因縁、名実ともの浮世の支配者になったんな。
 まがたまに穴を開ける方法って、いつかテレビでやってた、竹の錐と雨露で穴が開く。
 だれかやってみたんだな。
 山一つ向こうに大正時代の金山跡がある。銭湯に学校に映画館もあり芸者もいて大はやりした、廃屋が二三軒見えるきりだ、
橋立の金山堀の跡を問ふに久しき夏をま葛生ふなる
 わしは無駄遣いするだけの、だらしない男でゼニ金に縁がない。でもゼニいらんていう良寛の心がやっとわかった。楽ができるなんでもできる、400億もあったら祇園精舎こさえて、ひどい苦労する連中丸抱えしてってわっはっは、大きにお世話ってこと。
 人の為になんかなりゃしない。
 まがたまに金のネックレスか。
 えーですなあ魂と永遠のしるし。
 なんにもねーのが金剛不壊。
 お寺追い出されたら行くとこねーし、年金は使ってしまうし。
 ホームレスになるのはしんどいな。
いやひこの茂み田浦の百日紅七十夏も過ぎにけらしや

2010年07月30日 08:31 せっちゃん しょーとしょーと・蒙古弓
 暑い日に烏が数十羽道路に群れている、なんだこやつはってほんとになんだこやつは。暑いと口開けてふーふーして電信柱にとまって黒ずくめ、よくまあ落っこちて死なねーもんだ、わしの仲間だでなああいつ性悪で、一五0年から長生きする。
 下田三千坊ってのがあって、山のてっぺんがそうだって、ただの藪っ原。研究していた校長先生が鏡を一枚拾った、それを持って戦前韓国に赴任して本人もそれっきり。三千坊とは坊が三千あった、坊とは坊守、僧が住んだわけだ。
 寒河江の慈恩寺は一五0戸の村で、むかしは一五0戸ぜんぶ坊、つまりお寺だった。一五0もあって何をしていたって、葬式稼業というより、ご祈祷や占いや病気を治したりの、まあさわしにはよーもわからん。
 今は三ヶ寺か、蔵する仏像は奈良時代から江戸末期まで、重文国宝級のものがずらり、たまに御開帳がある、わしは十二神将を見た、すごいぜあれ。
 下田三千坊も、ふーん黄金のもあいとか埋まってたり。
 五十嵐神社がある。
 五十嵐小文路は皇室より古いと云われ、那須家の親戚筋で、那須与一の扇を射落とした弓は、蒙古直伝のものと実証した人がいる、つまり45度に射る強弓だ。
 裏日本がむかしは表日本であって、五十嵐家は大陸と交易があった。日吉丸がみなし児になった如く、皇室によっておそらく抹殺された。
のさばるは夏の烏か三千坊悲鳴を上げたる五助のばあさ
 三千坊もありゃ加茂川の水と賽の目となんとやら、そりゃのさばっていたにちがいぬ。
 鏡一枚ではどうもならんな。
 秦の始皇帝が遣わした方士の一団、いやさモンゴルの軍団が衣を着て、坊主の名をかたって、若しやジンギスカンの墓がー
 そうではないぞ、六祖禅師の会下が道元禅師より何百年も前に真法を伝えた。ゼニカネに縁がねーし、病気も治さねーし、なんにも祈らねえわっはっは自然消滅。
 ここ掘れわんわん大判小判がざっくざく、どっかに大陸の黄金でも眠っているか。
 土器やかわらけなんてつまらんぞ。
 上杉謙信のころ、お寺のまん前まで海が来ていた、大きなもみの木があって、春の嵐で倒れたが、舟つなぎの木と呼ばれていた。
 池浚いに池掘ってみたけど、半欠けの木片が出た。
 あれわしのお寺のこっちゃなかったか。
 鏡一枚故郷に帰った。
 めでたしなんにもないのが金剛不壊。

2010年07月31日 08:26 せっちゃん ショートショート・しのぶずり
もののふのいにしへ垣のいつしばも紫にほへ雪割桜
 雪割草はお寺の山には咲かず、向かいの山に咲く、上杉影勝家来丸太伊豆守のお城のあった山だ、この人がお寺の開基さん、大面城址といって石垣のあとが残る。白から青、紫にかけていちめんに咲く、人に云うと取りに来るから云わない。
雪割りの花を愛ほしといつしばのしのひ行きしはたが嬬として
 雪割草はこの二十年世界的に名が売れて、さまざまな変り種が出来る、一鉢四十万のが出た、いや三百万になったとか。たしかに可憐な美しい花だ。
 十日町の温泉に泊まったら、雪割草のカレンダーがあった、鉢植えも売っている、まだスキーも出来る季節だった。色とりどりの花がこりゃまた一年中雪割草だ。
 山から取ってきて植えた花は、一年でおしまいになった、それ相応の手入れが必要っていうけど、わしは末寺から貰ったさつきを毎年枯らして、申し訳ない話、呆れて持ってこなくなった、なんの花だってだめだ。
 カレンダーのわきに色紙があった。
 板橋興宗禅師の書だ。
 大先輩だ。
 老師会下の接心に、坐ったら坐ったっきりの、飯から飯までという、のちの禅師さまは大親分だった。
 何年か前に禅師を辞す、前代未聞であった。
 北野元峰禅師は悟があり不出生の大、不生の人であった。そのあと仏教と云えるほどは板橋禅師のみ。
 なんとも情けない、
「眼蔵のどこにも悟れとは書いてない。」
 など云い触らして、犯罪にも等しい、嘘とはったりと空威張りとらごら坊主ども、よったくって宗門をつぶした。
 板橋禅師が辞したのも頷ける。
 芭蕉の句碑のある信夫文字刷り石を尋ねたら、宝物館の扁額が板橋禅師の書であった。立派な風格がある。
 坊主どもはさっぱりだが、世間の人はちゃんと見ているってこったな。
 悟はないが悟のありようを知る。
 禅師のおかげで宗門も面目を保ったが、今後はどうなるかわからない。
 しのぶもじずり、ねじばなも可憐な花だ。
 大好きだ。お寺にいっぱいある。
 せがれが総持寺に安居したとき板橋禅師であった、目をかけてくれて有り難かった。わしの一番初めの弟子は、せがれが三つのころお寺にいて、なつかしがってせがれを呼ぶ、さっぱりそりゃ覚えてない。まあよく面倒を見たのにさ。
 この男とんでもない秀才で、逃げ出してアメリカへ渡って宗教を興し、大学まで建てた。
 禅師を尋ねてきて激論を交わしたそうの。
 挨拶もしねーで行っちまった。
 なんのいわれか大岩の、
早苗取る手元やむかし信夫摺り。

2019年06月02日

ショートショート5

2010年08月10日 08:07 せっちゃん ショートショート・尾瀬の花旅
アルバイトのお金が入ってどっかへ行こう。山歩きがいいさあ行こうといって、詩人は行方不明、小説家は不在、論敵も取り巻きも現れず、風月堂の大ガラス、柳かげの待ち合わせは、弟と腰巾着の英也しか来なかった。
尾瀬がいいと弟がいった。電発でダムになっちまう、今のうちだ。なんでもいい行こうといって、夜行列車に乗った。
弟は登山靴を履いてどでかいのを背負い、たいしたもんだと云って、わしと腰巾着の英也は、わけのわからん格好して、ポケット瓶を取り出す。二人してたいして飲めない酒を飲む。

【歌】青春の何を苦しみ酔ひつつに夜行列車はカザルスの鳥

 だれ彼ひどい目にあったが、腰巾着と弟はさんざくた、借金は踏み倒し、大切な青春をひっかき回し。真夜中沼田の駅について、明け方山行のバスに乗る。満席の列車が空になる、みんな尾瀬へ、
「ちええなんてえこった、せっかくなけなして― 」
 東京と同じだといって弟がぼやく。とにかく下りよう、一歩踏み出すと、濃厚な夜気にくうらり。

【歌】いにしへの月を知らじや上毛の武尊の山を仰ぎ見なむか

 寝静まる夜を砂ほこりを巻いて走る、蛍光灯が不気味に、
「こりゃなんだ。」
「バスの順番取りだな。」
 にひーと英也が笑う、いつもそんなふうに笑う、
「そうかそんじゃこっちも。」
 といってのっそり。頭上は満天の星、絹の布にちりばめるという、古代ギリシャの形容に似て、たとえようもなく美しく。
 とつぜんその一片が墜落。

【歌】上毛の天夜星天降り来る我れは妹思ふ置きて来ぬれば

 帰ったら必ず会おう言葉を掛けようと云って、身を立て直す、背骨がぎりっと音を立ててきしむ。
 バスの八百何番という札を取った、いっちしまいかと思ったら、夜行はもう一列車来た。
 なにしろ大騒ぎだれも人っことは考えず。なんだあこいつは、明け方を待って駅のベンチに眠る。

【歌】ぶっこはれタイムマシーンに乗りて来ていついつ我れを恐竜の世ぞ

二人はまだ寝ていた。水を飲む、山清水か、わななきふるえて目が覚める。 いちめんの星空だった、そいつが闇に食われる、山がせり上がる、
「どうなってるんだ。」
 雨雲だった、すっぽり覆う、雷が鳴ってはらついたと思ったら、ふうっと晴れた。

【歌】一千の宿らふ辺り明け行けば上毛の野に鳴る神わたる

2010年08月11日 07:51 せっちゃん ショートショート・尾瀬の花旅2
 まだ寝ていたり、一晩中起きている者。女のパーティがあった、とりわけ美しい子を真ん中に、、
「オリンピックはあなた、でもなんで代表。」
 失敗じったらぱっくり食おうか、はてな。
 木造トイレに穴が開いて、生まれてはじめて見る、けだるいやるせない。
「女の密室を描くドガ」
 という言葉が浮かぶ。
 入れ代わり来て、外に二人示し会わせてる。
 どうでもしろと出て行く。
 えっと叫んでそっぽを向いた。

【歌】乙女らが清やけき月と仰ぎ見し何におのれがカタストローフぞ

 透明な夜が一瞬かきくもって朝が来た、柳が姿を現わす。
 十何台めか、満員バスに荷物を叩き込んで出発。

【歌】鳥の鳴く何もなふして沼田夜の柳影とぞ明け行きにけり

 夜中騒いでいた連中は寝入る、明け方はすばらしかった。闇からくず屋根の家がぬっと現れる、桑の畠に光の矢が届いて、上毛の広大な山てんに朝日が射す、モーツアルトもバッハも顔負けの大演奏、神さまのたしかにこやつは日本の夜明け。

【歌】十七年かくの如くに明け行くか我が敗戦のくず屋根の家
【歌】ちはやぶる神の戦と知りぬべし桑の畑に日はも射しこも

 栗の花が咲いて、岸辺には藤が咲き、村々を縫って片品川をバスは行く。尾瀬は花の田代、神の田代と云い、牛と云うと山は荒れるんだそうの。

【歌】栗の花の咲き満ちつつに梅雨に入る物はな言はじ神の田代ぞ
【歌】君もしや恋ふらむあれば片品の藤江の浦を過ぎて廻らへ

 バスを下りてぶなの林に別け入る、さしてのこともないのに息切れして、日々のだらしなさを反省、とつぜん涼しい風が吹いて、夏をなを新芽吹く木々。

【歌】未だ見ぬ妻に恋ほつつあら芽吹く尾瀬の田代の風の清やけさ

 ひばの大木が真っ黒に茂って、ぶあつい万年雪。てんでに寝ころがって歓声を上げる、太古の息吹のような、なんなんだこれは。

【歌】うつせみの身を伏しまろび大杉の万ず代かけて思ほゆるかも

 金色のみずきんばいにみずばしょうと残雪。

【歌】神からか神さびおはせしのひふる雪の田代に人は踏み入れ
【歌】百伝ふ磐れはあれど降りしける雪の辺べの花にしあらむ

2010年08月12日 08:09 せっちゃん ショートショート・尾瀬の花旅3
雪とみずばしょうとひばの大森林、湖は燧の峰をさかしまに。ここで一泊しようと東電小屋に泊る。ぽっかり浮島があり、岸には白骨化したひばの巨木。水底には鮒のような、もっと大きな魚がじっと動かぬ。

【歌】島影も月に浮かれて梓弓春たけなはの行方知らずも
【歌】白骨と化すらんものは青春の巨木にあらむあららぎの木よ
【歌】ふりしのふ雪はも如何に湖の底なる魚と眺めやりつつ
【歌】白鳥の流転三界春さらばしのびわたらへ尾瀬の田代を

 ホッキョカケタカと聞こえる、時鳥に目覚め、朝を明け行く。快晴。みずばしょうの咲く前に、若い女が二人。なんのかんの声をかけてとっつく、旅は道連れ。

【歌】神さびて花の田代は杖を取り白髪を丈にわたらひ行かな

 杖をこさえてやろう、いらない。二人はすっかり嫌われて、ひばの森を息が上がって、突っ走ってはおい休もう、そんなんじゃ行き着かないよと、弟は女たちをがっしりエスコートして、残雪を踏み分けて行く。鳥が群れて鳴き行く。森が開けて沼が見える。

【歌】春さらば萌ゆる浮島うたかたのたが客人か舟に棹さす

 燧の峰は雪、昼飯を食って登って行く、猛烈なガスがかかる、とつぜん真っ青な空が覗く。くわーい死んでもいいやといって見上げ。
 長い雪渓があった。足スキーして一気に下る。英也が真似してそのまんま崖へ、すんでに受けとめた。さんざくたの目に会わせて、彼の為にしたのはこれっきり。

【歌】しかすがに霧らひこもせるひうち嶽晴るる間をさへ命なりけれ
【歌】しかすがに霧らひこもせるひうち嶽過ぎにしごとはな思ひそね

 登りはあはあ息せいて、下りはほうっと走って行く、ぶなの林はいちめん新緑。
 弟は女たちとゆっくり下る。
 長蔵小屋であった。ほぼ満員であったか。まだ山小屋と呼ぶにふさわしく、てんや銀狐の毛皮を売っていた。

【歌】長蔵の新萌え出る満つ満つし尾瀬の田代に人の住むとふ

2010年08月13日 06:14 せっちゃん ショートショート・尾瀬の花旅4
女の子の一人はすっかり弟が気に入って、どうだいいっしょ泊まろうぜ、兄が無責任にいったら、とろけそうな笑顔の、もう一方が慌てる、弟はまともだって、あとの二人へーんな人、もうどうでも次の小屋まで行くといって、連れを引っ立てて歩き出す。
悪いことした夕日を仰いで、ひえー嘆息。見りゃ健脚のようだし、ほっとしたのが弟だったり。
風呂へ入って飯を食って、酒も飲まずに歌う。荒城の月に菜の花畑にってもんの、隣パーティーの女たちが笑ってのぞく。

【歌】長蔵の芽吹かひ行くも花にしや手振り歌はむ鳥刺しアリア

 三丈の滝を見てから、尾瀬ケ原を歩く。
 滝まで三十分、豊かな水量が常舐というまっしぐらに流れて行って、大落下三丈の滝。
 ものすごいったら。
 鎖をと取って滝壷へ下りた。今は下りること不可。
 昨夜の女たちが、
「きーわー。」
 見守る中、さっそうと下りるはずが、手がふるえ。ただもうただしぶきに濡れて。

【歌】ふるへつつ鎖を取れば満つ満つし青葉若葉を三丈の滝

 花の田代といわれる尾瀬が原を、人っ子一人出会わさず。たった一人釣りをしていた。さまざまな花を見た。覚えたのは、ながばのもうせんごけというのだけ。なにかもう満喫すると忘れ呆ける。夕方に橋をわたる。楊の並木があった、大小のいわなの群れが行く。

【歌】浮世さへ忘れ田代の花にしや思ひおこせば魚の行くらむ
【歌】吹く風は夏にしあらむ尾瀬ヶ原今生この世と立ち止まりつれ
【歌】千秋のつゆ霜さへや枯れ果てて神の田代を回らふは誰そ
【歌】万雪に押し照る月の束の間のもがり吹くらむ長蔵小屋も

至仏小屋に一泊、一日もう余計に過ごしたから、明日は山を下りる他になく。全天またたかぬ星、手を伸ばすと届きそうだ。

【歌】至仏には流転三界人みなのなほ天降らはぬ星の如くに

 花は至仏のほうが有名だという。ざぜんそうやえんれいそう、みやまおだまき、世の中美しいものがあるんだと云っていたら、女子大生の四人組が行く。
 花より団子、大慌てに呼びかけが返事がない。
 リーダーは美人で、スタイルも申し分がないのに、うっすら口髭が生える、むらさきにおう処女のひげ。

【歌】しずやしずみやまおだまき繰り返しむかしを今になすよしもがな

 あとになり先になり、菖蒲平らを過ぎ、三人はむずむず、美人はかたくなに沈黙。
 ひげをまじまじ見ちまった。

【歌】年老ひてくしくも思へ咲く花に神さびおはせぶなの田代を


2010年08月14日 06:00 せっちゃん ショートショート・蓮す花
 台風が、発生したときと同じ勢力のまんま北上して抜ける、こんなこと未だかつてなかった、台風一過も炎熱地獄、なんか容易なこっちゃねーな。
 わっはっは年寄りは死ね、貧乏人は万事お終い。
 穏やかな二万年が過ぎて、予測不可能な世界は、あばずれほうけ突然変異の新人類さな、詩歌や書や人間の微妙さはぶっこわれて、多数決といいかげんと必死にてめえだけ生きる、いやさもーとっくに始まってるか、
 ではどーすればいーかって、仏の道に邁進するだけ。
 パンツで寝ていたら急に涼しくなる、蚊に食われて窓を開け放ったまんま寝て星空だ、オリオンの三ツ星にプレアデス星団に秋だ。
 とつぜん自由になった、全宇宙おらあがん。
 暑さ寒さのない国に行けば、自由になるって、浮世のしがらみのまんま死んだら、地獄も極楽も不自由さな、手鏡してさよならすりゃしがらみも消えるか、生まれおぎゃあと手鏡してをしがらみの始まり、生まれるのと死ぬのとはまったく同じ逆方向。
 身心という仮の浮世はどーなるって、大金持ちになって原子力潜水艦を買え、サブマリーンの生活が快適。ノーチラス号のネモ船長して、海に牧場作って優雅にマッコウクジラの競馬でもして。
 貧乏人はホームレスしかないか。冬は奄美大島夏は礼文島へ、歩いて飯も食うってことになると、はーてな、大金持ちになるほうが手っ取り早いか。
 良寛は墨染めに鉢の子だったが、坊主が坊主社会ぶっこわしちまったからもうない。
 消防士がいて、大農でもって、弥彦さまのお初穂講員で、村のお地蔵様の額書いてくれってやって来た、へたくそな字書いてやったら、へたくそな人が彫りこんで、今もかかげてある。
 消防どのは、芋取れたたまねぎっちゃ持ってきて、消防は酒だ、何本か持ってけって付き合っている。火事と喧嘩は江戸の花、いい男で、警察を八丁堀の旦那と呼ぶ。かーちゃんとっかえてできたせがれを育て上げりゃ停年過ぎるか。
 地震に中央のベテランが来て、大岩の下から赤ん坊を助け出す。
「ちがうぜやつら、わしらの出る幕なかった。」
 という。いやいつだって馳せ参ずるとさ。
 消防どの、お寺の蓮を取って行く。
 蓮の花は一日しか咲かない、ほんに美しいのにさ。
 十日咲かせりゃ立派に一儲けできるか。ゲゲゲの鬼太郎の俳優みたいに遺伝子の研究してりゃなんとか、水木茂の戦争物もすざまじい、戦死した魂をさ、浮かばれるようにお経読むのは、今の坊主じゃ無理だ、そうさなあそうゆうお経を読んで。

2010年08月15日 06:18 せっちゃん ショートショート・能面
 早く秋にならんかな、秋になっても狂い天気が続くのかな。鮒釣りに始まって鮒釣りに終わる、用無しじっさそこら河っぱたに浮きを見つめ暮らし、世の中だれもいないなそんなの。高級カメラ抱えて写真撮りまくったり、徒党を組んでろくでもないパーティよりゃ、一人きりが人間らしくっていーや。きのこ取りもきのこは出ないし、ハングリー世代の山荒らしは大人げないし、ドライブもガソリンがもったいないってさ。
 涼しくなりゃ筆もってみみずぬったくろう。
 世の中仏教流行りだとさ、わっはっは肝心の大法はひまをもてあまし。
 ピンクパンサーがとっつかまって、日本に護送されて来た。世界を股にかけて三百五十憶ぱくったとさ、黙秘して無罪を主張するってうっふ、どんなに粋がったろうが洒落のめそうが、ただの泥棒だ、100憶超えたら死刑が妥当。
 ルパン賛成もどっか真面目じゃねーわな。一神教我田引水の、てめえさえよけりゃ人のことは考えない、ふーん詩と真実だってさあ、悪魔がいて神様がいる、うざいってえの。
 お宝鑑定に平田郷陽という人形師の作が出た。四,五百万と踏んだら五百五十万ついた、重要無形文化財だか文化勲章だか、なんしろ偉い人らしい。。所有者の母親が、嫁入り道具に持参した、娘、つまり孫が三人いて、こわいといって近寄らぬ。どこがこわいのか、生きている人のように話しかけてくる。
 生きている人間が世の中払底しているから、そりゃこわいわさ。
 真龍を怪しむことなかれというやつ。
 物質をかたどるんだけど、心のこもったものをという、平田郷陽の言葉があった。心の失せた人間より真だ、いくつか紹介されるのを見てい涙溢れる。
 嘘とはったりと空威張りは、坊主の三種の神器だが、うそにもはったりにも気がつかぬのは世間人。
 だもう淋しい。
「菩提心というは、おのれ未だ渡らざる先に、自未得度先度他の心を起こすべし。」
 と。
 若し仏法僧のうちの僧ならば、無位の真人これ。
 たとい郷陽の人形に届かぬようでは落第だ。
 人間が人間に帰るだけのこった、作為の粋を集める必要はない。
 こわくない能面こわくない浄瑠璃人形、これまさしく日本人の工夫。
 演技すればこわさも底無し。
 生きている上は答えを出すこと。

2010年08月16日 06:31 せっちゃん ショートショート・たらちね
たらちねの母が飼ふ蚕の繭篭りいぶせくもあるか妹に会はずて(万葉歌)
 なるほど万葉人の云い回しはふるってらあ、珍しみ覚えただけだが、野球の野村監督の云うには、男なんてものは一生、おふくろからかーちゃんへの飼い殺しいぶせくもあるかって、野村はいい仕事をした。出張して大リーグの素人野球みたいなのをなんとかせーや、思い切って明徳の監督だアッハッハ、プロと対決して勝った、なーんてことはあるまいが、野村のいない世の中は面白くない。
 長島野村とわしは同年だ、神宮に二度観戦に行った、キャンパスがうわーとどよめいて明治に一勝した、それ行けってんで見に行くと、あまりのレベルの違いにもうそれっきり。
たらちねの母を恋ふらむ信濃路や浮世のはてを金木犀の
 信州はおふくろの里だ、疎開して小学校から中学まで過ごした、何十年ぶりに行ってみたというより通過した、こんな歌になる。
過ぎし日をもやもや思ふ信濃路や浮世のはてを銀木犀の
 いぶせくもあるか繭篭りで、ろくすっぽ女も口説けず、成長半端でなにをやっても遅れを取って、破れ呆けの坊主になってまでこんな歌を作る。
 お盆の檀経に行って車がつんとやった、稼ぎぱあになる。この家はせんにも事故に会う、前世の因縁が悪い。
 そんときは一歩通行になったのを知らず、停車トラック追い越そうとして追突された。トラックに突っ込む、追突車へっこむ、みーんなわし悪いんだって、右保険屋と車屋道の両側にあって、引っ張りこまれてお茶飲んでいた、きしょーめ。
 あんときはおふくろが生きていたな、だでおふくろが悪い。
こんどは間違えて入ってバックしたら、わけのわかんねえブロック塀あってがつん、かーちゃんが、
「あら三条って一軒きりしないの。」
 って云う、
「四軒あっけど、行かにゃなんねーのはわかってんけどむにゃむにゃ。」
 そーいや一軒行くのに往復一時間、四軒やったら実入りもあるむにゃむにゃ、繭篭り気が進まねーったらげんが悪い。
 きしょーめ。あったりきかーちゃんが悪い。
 車屋盆休み、修理しねーでもそりゃ動くけんどさ、ふーんデートもできねえ。
空しくは塩の花なむかもめ鳥由良の浜廻のきぬぎぬをかも
 勝木の弟子んとこで岩牡蠣食えるのにさ。

2010年08月17日 08:16 せっちゃん ショートショート・破三関
 しゅうしんは新婚旅行だっけか、沖縄に行って、でっかい魚突いて揚がって来た。うみんちゅになれると云われた、うみんちゅの長い槍だ。馬鹿は風邪引かねえといって、シューベルトにいかれて、にっちもさっちも行かなくなって、しまい海にどぼんと潜ったという先生。婿どんに行ったらとたんに風邪を引いた。大熱出した。水が変われば馬鹿もやってらんねーってさ。
 しゅうしんにすもぐりを教わった、シュノーケルをふっと吹いて水を抜いてと云われ、ふっとやったらまだ水の中、どばっと飲み込んで、大慌てで掻きあがったら、ムール貝みたいのにすぱっと足切られ、血いだら真っ赤。
きしょーめ大笑いされて、それっきりもぐるの諦めた。
 しゅーしんだったか、だれだったか碧眼のこういうのある、如何と。
挙す、良禅客欽山に問う、一鏃破三関の時如何。山云く、関中の主を放出せよ看ん。良云く、いんもならば即ち過ちを知って必ず改めん。山云く、更に何れの時をか待たん。良云く、好箭放って所在を得ずといって便ち出ず。山云く、且来じゃ(門に者)黎。良頭を回らす。山把住して云く、一鏃破三関は即ち且らく止く、試みに欽山がために箭を発せよ看ん。良擬議す。山打つこと七棒して云く、且らく聴す這の漢、疑うこと三十年せんことを。
 欽山文遂は洞山良かい(イに介)の嗣。一矢でもって三つの関をぶち破る、さあどうだというんです。
 一句に三つの意思がある、生きた言葉っていうものはそういうもんだ。
古池や蛙跳びこむ水の音
 一は情景そのもの、二は古池という日本詩歌の源流にこっけいな蛙が飛び込んだというもの。三はその水音が聞こえるかっていうんです。
 三つの関なくばそれは死んだ言葉です。
 ト書き能書きだけの今の日本語です。
 三関を一矢にぶち抜くという、では関中の主をそこへ出してみろ、見てやろう。
 思い込みは放出せいってもとないんです、もとないものは知らんのです。
 思い込みこれ、いんもならば即ち必ず改めん、どっかまちがっていたか、では必ず改めようって、そりゃ三十棒だ。
 ないものを0×する、百人が百様これで。
 虎に食われろ。
 方法以前の問題だ。
 更にいずれの時をか待たん。わっはっは良云く、
「せっかく箭を放ったのに、どこへ行ったかわからん。」
 と云って立ち去る。
 どいつもまあこんあふう。
 おいこっちへ来い坊主。良首を回らす、山とっつかまえて、一鏃三関はしばらくおく、おれのために矢を放て見ん。良擬議す。山ぶんなぐって、そうやって三十年疑っていろというんです。
 もう一度挑戦すりゃ、シュノーケルですもぐりができるってのとどこがちがう、同じっちゃ同じよ。
 わしのの云うようにはなった、ほんのもう同じ、これこれだどうでしょうと聞く。わしなんにも云ってないよ、らしいようになるという、てめえこっちにいてもう一人のてめえを見ている。わっはっはぶんなぐるよりない。
 百棒たって、一つぶんなぐりゃもう来ない。
 なーんじゃこりゃ。

2010年08月18日 07:00 せっちゃん ショートショート・まつくいむし
 木を伐らねばならん、場違いの樅が大木になって、一昨年あたりからまつかさを沢山つける。そこいらてんぐだけが生えて、ネット販売すりゃ儲かるってさ、幻覚あり酩酊状態になって、ぐっすり寝りゃけろり治るという。
 張った根がしっかり土手を支えている、どうしたもんか。
 もう一本は、先先住の倅が戦争から持ち帰った、どろのきというものらしい。くわがたがついて、毎日子供が取りに来てほっといたら大木になった。倒れりゃ庫裏を直撃。
 晩秋には穂綿を雪のように飛ばす。
いやひこの蒲原田井に舞ひ行かな汝は満州のどろのき穂綿
 まつくいむしが流行って松が枯れた、山内の松は、薬とホルモン剤うって、えらいめんどうみたのに枯れちまった。松がないとさまにならぬ。
 しょげていたら、明治時代の晋山式の写真があった。松がなかった。百年たってたいそうに茂ったんだ。三抱え四抱えもある七八本。
 庭で野球をやった。ビニールボールを打つ、二本の松が守り手になって、ピッチャーと外野とキャッチャーとで成り立つ。面白かった。ビニールボールの変化球が過激で、わあきゃあ本気になる。
 ソフトボールをやっていた黒岩がうまかった、ホームランバッターだ。あるときぺかっと変な音がしたら、わしの目ん玉に貼りつく、まっしんに当たるってことあるんだ。スピードはてっちゃんがいちばん、すなおでどっかん打たれ。
 宮部がバットを持ってぐるぐる歩く。
「おれがいない、どこへ行ったんだ。」
 という。心理学にいて、脳波のベーター波を出すのが得意だったという、こ数息観や無字と同じに有効かも知れない。ぴったりやった代表。
 松が枯れ、雲水も去り野球は終わる。お蔵の壁板に証拠の跡が残る。
 あとがまがの松が育っている。
 どろのきにもみにかしの大木があってうっそうと茂る、親子連れがきてトトロの森だねって云った。
 植木屋べらぼうに高いしセンスが悪い。
 松が大木になるまでほっとけ。
 まつくいむしが残っている。
 山の松林にせんぼんしめじが出て、香茸が出て復活かと思ったらそれっき出ない。

2010年08月20日 08:36 せっちゃん ショートショート・和紙
 和紙に歌を書くとなんだかうまく行くような気がする、みみずののたくった手前味噌は、見も蓋もなく手前味噌しかないのさわっはっは、ただもう書いて楽しくもなんともなく、何枚かしたらぽかっと放り出す、今は暑くって秋までは筆を持つ気にはならん。
西塔は飛天になりて鳴り響み見れども飽かぬ月を廻らへ
 いろんなところで和紙を漉いている、あっちこっち行ってみた、高いことは高い、大きい一枚紙やできそこない買って来て、短冊に切って使う、三分の一ほどの値になる。
 まあ道楽っちゃこーゆーこったな、
 死んで百年たったら一億円だあ、今のうちに買っておけ。
 売れたこともないし売ったこともなかったな。
 西塔のいしずえには地球最古の岩があった、四十五憶年前の石。不思議な因縁で手中にした男、階段から落ちて今リハビリやっている、長くかかるらしい。
 薬師寺へ返して来るんだな。
東塔は伎楽になりて鳴り響き見れども飽かぬ月を廻らへ。
 こけぐま出版はちゃっかり屋で、本こさえちゃ接心客に売りつける、こないだは売り上げ二万ほどあって、みんなで八石山ステーキ食べ行った。山ん中に牧場があって、ステーキにワインが飲める。
 けっこう人気の山で、登山客が多い、てっぺんのあずまやが見える。今は珍しい蝶の群飛する、なんとか現状維持がいいけど、じき開発だあってめちゃんこ。
 怨みつらみの宗教でもって、徹底的に破壊してから、鯨取るなだの自然保護だのって、仏教国の仏教は地に落ちて、なんしろ物真似らしくの曖昧大国は、貧乏人のゼニ失いで結局は駄目だな。
 こけぐま出版で一度売れたことがあった、こけちゃんこねで先生様に信濃毎日新聞に紹介文を書い貰った。一00冊売れた、エッケルト財団というところから一冊送れという、、うは四00億の手始めかと思ったら、一冊図書館に入ったみたいでそれっきり。
 どうやらわしの命運だな、和紙の命運も同じとわっはっは。涼しくなったら歌を書こう、うん。

2010年08月21日 08:22 せっちゃん ショートショート・郷別け
郷別の中なる川に橋かけて渡らふ月は清やにも照らせ
 郷別という地名があって、川を隔てて郡が変わったりする辺りを云った、今はなくなった、傍所なんて村がある。
田を植えて早に舞ふらむつばくろや郷別け中に大凧揚がる
 今町と中ノ島の大凧合戦は今も続く、月遅れの節句で法事があって見られなかったが、今年かぶりつきの料亭に招待された。堪能したかって風がばったりで今一つ。
 大凧合戦は頭のてっぺんに落ちてくる、百五十年前に死んだのがいて、信心が足りねーからだってけり。凧のことをいかという、卑下して云うんだと思ったら、江戸時代を通じていかが正しく、そりゃ蛸というより烏賊だあな。
 地震の前に洪水があって、ようやく後始末して、壁を塗り終わって左官が一服したらどかんと来た。いやもう踏んだり蹴ったり。
 洪水も前代未聞の規模だった。
 川の流れを変える大工事があって、檀家三軒火事肥りじゃなくって、全額保障で移転した。
 たいていは七割保障がいいところ。山古志村は莫大もない寄付や国の金が出た。わっはっはおっさんが毎日十万懐パチンコしに行く。
 まあものすごい工事がしてある。国は赤字になるわけだ。個人的意見とすりゃ、みんな移転して地震観光ってのやって、文無し儲けでよかったのにさ。ふわ殺される。
いにしへの人に恋ふらむ椿花古志の小国は長岡につき
 山古志郡というのは完全になくなった、町村合併しても地方は食えん、物真似ばっかりのあぶく思考。東京サラリーマンに稼がせてゆすりたかりのなんまんだぶ。
 食いつぶしてはなつかしさも失せ。
 月は良寛さんでおしまい。
郷別の中なる川に橋かけてわたらふ月は池島に行く

2010年08月22日 07:08 せっちゃん ショートショート・一夜漬け
 甥っ子のしんちゃんは猫が大嫌い、親父はもと海軍少尉どの、グライダーに乗って片道爆弾やってて終戦になった、敗けるとは何事だ天皇はけしからんといって、共産党になった、でもって飲み屋に行くと、海軍少尉ってんで大威張りがさ、どうも猫がこわいらしい、ぶるぶるふわーとほっぽり投げる。しんちゃんは山岳部ででっかいリック担ぎ込んで、ぐっすら寝ている。起きてこない、ねこを突っ込むとうわい出てくる。
 せがれと娘が二つ三つだったか、きゃっきゃわめいている、行ってみると猫を池に投げ込んで遊ぶ、かわいそうに溺れかける、助け上げて二人を叱ったら、なんで叱られたかわからない。
 しんちゃんが池へ投げて泳ぎわたるのを、三回が限界だなといった、それをまねして二人でやっていた。
 不幸なねこだ、大猫にはおどしあげられがきどもには玩具にされ。
 わしはしつけゼロだった、叱ったのはこれだけ。
 お寺の障子貼りは大仕事、あと二三枚になって振り向くと、二人指つっさして穴開けくる。白土三平の忍者武芸帳大切にしてたのに、二階から投げる、はらはら落ちるのを面白がる。そういえば碁石もぶちまけたな。
 子は親の恩を三年で返すという、ほんにその通りだった。
 てなもんで、高校受験のとき、親子面談で呼ばれて行ったら、兄はどこも受からんという、できたばっかりのなんとか高校って、そんなん遠くってだめだ、「なんで受からん。」
「成績悪い、体育なんか10点評価の1と2ばっかりだ。」
「どうしてだ。」
「喧嘩して相手ぶんなぐった。」
「でもうひょろひょろ体質を、走りこみやって立派な体にしたけど。」
「そういうのは評価されません。」
 てやんでえもう頼まねえ。高校の先生に聞いたら、内申書は試験の成績がすれすれんとき見るだけだって、三ヶ月特訓した。ナンバー校さえ充分受かった。
 きしょーめ先公野郎。
 年子の娘も、一ランク下げろと云われた、わしもそうしろって云ったんだが聞かぬ、三ヶ月特訓したら、これは頭がよくって詰め込み過ぎた。高校受かったらもう勉強せん。
 先生雁首揃えて謝ったな。
 高校受験なんて頭に関係ねーの、適当な参考書買ってきて三回やる、一回めはすみからすみまでやる、二回めはざっと目を通す、三回めはたいていもう覚えているのさ。
 満点取れるよ。
 一夜漬けみたいとするからだめなんだ、大人になった兄が云った。うっふまあ大きにそーゆーこったな。
見よやこれ親の因果が子に報ひ二人参うでぬ山百合の塚

2010年08月23日 08:39 せっちゃん ショートショート・江ノ島
大磯で生まれ藤沢で育って戦争だあ、小学校三年のとき疎開して、信州は中山道長久保の宿というのが、魚とりに栗拾いにわがなつかしの故郷になった。めったくさいろんなことあった、わっはっは面白かったぜ。戦争の悲惨だのああ原爆は許すまじっての、わしには関係ねーかな。
 進化論とか歴史とか理解できねー人です。
 おふくろの里は山のうちといって、隣大門村の山の中にある、赤報隊の親分して岩倉具視に悪者扱いされて、山ん中へ逃げ込んだ。村の面倒をよくみたらしく、疎開者はいじめられても、わしらは本陣に宿を借り、弟は優等生で兄貴はとんでもねえいたずらがきで、姉は大苦労して、まあさ六年の春に、復員してきた親父の就職が決まって、長野市に移転した。
 転々七十年。てめえのことかどうかもよくわかんねーかな。
 ろくなことはしなかった。
江ノ島に夕を仰がむ富士の嶺やわたつみ海に思ひうちよせ
 去年江ノ島へ行ってみた、住んでいた鵠沼はすっかり変わって、どこでも見えたな、同じものは富士山ばかり。
 桜貝を拾った浜に、予科練が四列縦隊で走って行く、先頭の教官がわしら親子に挨拶した。そりゃもう天にも上る心地。予科練藤沢航空隊の多いときは十人も泊まりに来た、民宿ってわけがそのいきさつは知らない。
 半分は日本刀をひっさげて特攻に行き、敗戦になってもうわからない。何十年もして連絡があった、加藤さんという人であった、だいぶ面倒をかけた、捜し当てたんだ会おうといって、手はずしている最中になくなった。
 ほんに気のいい人だった。
遊行寺に一遍上人をとむらふは早に忘れし幼な心ぞ
 遊行寺幼稚園に通った、つむじ風に巻き込まれておでこを打った、くるくるっと廻ってきたと思ったらどかん。第四小学校という学校はなかった。ちびの先生をこーやってからかってえらいこったとおふくろが云った、戦時中だった。毎日防空壕だ、防空頭巾かぶってなにをしていたんやら、B29が往復する、そいつが煙を吹いて落ちて行った。高射砲のむだ花が咲いて青い空。
 一遍上人は道元禅師と並び仏教を伝えた人、門徒や真言や難妙法蓮華経やと、仏教とはほとんどなんの関係もない。
 一遍さんのあとを継ぐものもない。
 よくこれを伝え次の代につないで行く。
 他にはない。
 戦争だの平和だの恐竜の進化だの、わっはっはそりゃ二の次三の次。

2010年08月24日 07:50 せっちゃん ショートショート・椰子の実
椰子の実というのを一度食ってみたかった、ぽかっと穴開けて中身を吸う、冒険ダン吉のころからの夢だったかな、熟れるとコプラという油になるって、ふーんなるほどってわけ。そいつはあんまり食わなくっていいか。
「名も知らぬ遠き島より、流れ寄る椰子の実一つ。」
 島崎藤村のこの歌は知多半島という、めったに椰子の実は流れ寄らんてさ。
「我れもまた渚を枕、一人寝の浮世の旅路。」
 とさ、身の上を歌うほどの贅沢はわしにはなく。
「小諸なる古城の辺、雲白く遊子悲しむ。」
 遊子というには、ただもうめっちゃくちゃ。
「我れは歌えども破れかぶれ。」
 だったらそりゃハッピーだ。
 振り返るとユーリケーは冥府へ戻ってしまう、ホメーロスはなきがらをかき抱く。腐れた皮っつらを貼り合わせ、どうしたって元に戻らない。
 それをむりやり浮世へ担うて帰る、命の息吹をを分け与えって、それができたのは自分も死に絶えていたからではないか。
 それじゃなんにもならん。
 歌うとはどういうことだ
 無から有を生ずる。
 人をまったく新しくこさえる。
 サイボークかゾンビーか。
 科学者のロボットか。
 歌は訴えるという、感動があるのか。
 心とはモザイクがなんとしたら動き出す。
 そうさなあーわしの問題はこんなふうであった。
猫魔なる冬の宿りを摩訶不思議月押し照りてぶなの林を
この湖にわかさぎ釣らむ人をかも道は閉ざして雪降りしきる
ふたたびも蔵王の山を廻り行け雪の追はれて雪なき里へ
空しくは塩の花なむかもめ鳥由良の浜廻のきぬぎぬをかも
 そのように蘇る。
 作られたものではない感動が。
 釈尊によって救われた=ではその証拠をも。
 完成してもって見向きもされず。
 ということは失敗の。
 すると正しく本来本当が始まる。

2010年08月25日 07:41 せっちゃん ショートショート・習庵序
 道は無門と説けば、尽大地の人得入せん、もとなんにもない得入する要なし、人みな200%です、自分という囲いがない、自覚のしようがない。だのになぜという、なぜなんだろう神変不思議、奇妙なこったな、かつてわしはだれ一人許したことはない、会う者みな不可。それじゃ有門かといって、門があれば不可、坐るとは門の無いことを知る、知ればすなわち不可。不具合をまったく免れる、一人半分ありやなしや。
 無門関習庵の序という、習庵陳そん(土に員)は宋の寧宗嘉定年間の進士、科挙の試験に受かって天子の補佐となる、破天荒という言葉もある、これはたいへんなことで、累官して太常博士、枢密院編修官、国子司業に至ると、押しも押されもせぬ国家の枢要ですか、それが仏なんです、すばらしいことです。
 道は無門と説けば、尽大地の人得入せん。道は有門と説けば、阿師の分無けん。(おれの取りえないよってさ。)第一強いて幾箇の注脚を添うは、大いに笠上に笠を頂くに似たり。(せっかく盆に載せた餅の、味だの食いようだのあげつらう、邪魔になれこそ役立たず。)硬く習翁が賛揚せんことを要す。又た是れ乾竹に汁を絞る。(おれに賛辞を書けとせっつくんだが、そりゃ乾いた竹から汁を絞ろうとするが如く。)這些のこう(口に考)本を著得す。(だからこんなつまらんものが出来た。)習翁が一擲に一擲するを消ひず。(捨てるにも価しない。うっふなんにも書かないの大袈裟なこったぞ。)一滴を江湖に落さしむること莫れ。(人みなの修行道場に一滴も洩らすな、もとないものをあるように思ってしまう。)千里の烏すい(推のてへんを馬)も追い得ず。(うすいのような名馬でも追いつかない。)
 無門関を提唱する、いいわるいによらないその値を知ってあげつらう、はなはだ珍です。とらわれのものではないんです。
 若しこれなければ無明黒闇、光明がないんです。西欧社会はただもう闇だった、今の日本も、たとい光明あっても知ることはなはだ難です。
 理想社会とは何か。ものごとを弁えて下さい。
 人間らしいというひとりよがりを去って実際です。
 思いもよらぬもの。
 試験の答案が答えじゃないんです。

2010年08月26日 08:12 せっちゃん ショートショート・遠野
 遠野へ行って河童橋を見た、お寺の裏にむかしあった小川が流れて、観光開発というよりなつかしい、河童なんかどうでもいい、良寛さんなら、
「おらあがん。」
 と小川にそう書き付けてさ。
 遠野から宮古へ行く、熊が出て玄関先から上がり込んだと騒いでいる、国道何号線であったか山を廻る、村が一つだけあった。冬はもうどうやって暮らすんだろうと、せっかくわしの好みだってえのに、川は釣り荒れてやまめ一匹いない、車社会だからよそ者跋扈でしょうがないか。
 あっはっはそういうわしもリリースたって荒らしまくる。
 横審がまたもめてらーな、えらい人がいっぱいいて大関や横綱がいて、なんでって、みーんなどっかぼやけているんだな、良心というより真面目というより自信がないのさ。
 心体一致の白鵬だけがまるかな。
 まともな四股名もつけられない、日本語を忘れて、日本人を止めちまってさ、善いの悪いの、学者だろうが漫画家だろうがフアンだろうが相撲取りも同じ、
 やるせないとはこれ。
 まとまるものもまとまらないし、まとたって元の木阿弥だな。
 ねじ式のねじが外れ。
 宮古へ行ったら、なにがしというすし屋へ行けという、ずいぶん待たされて、さんまの刺身とほやと食べた。
 すんげえうまかった。
 肝心なもの=初秋がある。
 町はなつかしいような人でいっぱい。
 翌日北上したら、とんでもない山の中まで津波到達点のしるし。
 切なくなって、日照りの夏じゃないがどうろうろ歩く。
 わしは花巻には行かない。宮沢賢治で育って土足で歩きたくないって、奇妙なさ。

2010年08月27日 08:33 せっちゃん ショートショート・おじゃまさま
 瀬戸内寂聴っていう女の顔は、なんであんなに醜いのかな、文化勲章だっけか日本人はさなんかへーんなの、醜いとは骨の髄まで嘘八百ってこと、自分でも嘘だって知っているのにさ。仏とは無縁の人、仏に無縁ということはありえないから罰当たりの極悪人だな。
 仏教があんなにでたらめいい加減で、源氏物語がましなわけはない。醜悪と多数決がいっしょとは救いようがない。
 うはっはあ売れねー本作ってるのは発言権がねーか。
 戦争に負けてどん底の折り返し点か、うすら馬鹿の崩壊ってだけか。
 冬の青荷温泉に行ってみた。みちのくのランプの宿と、電気を引いてあるからやらせのランプ。
 雪上車で雪山を行く、うわど迫力、
伝へ聞く死の行軍の八甲田万分の一が雪の辺なる
 つららのと氷の窓が摩訶不思議。
 美緒ちゃんが売店を冷やかして、お邪魔様でしたと云った、おおきにお邪魔様っておっさんが返した、なんにも買わねーくせにさ、
「お客に対してなにごとだ。」
 かんかんに怒る。
 晩飯は食堂で、はーい雪女にかんぱーい、飲んでますます怒る。
 美緒ちゃん幸ちゃん恵美子ちゃんと、年増おねーちゃんは怒るほどに下がかり、わしと弟子は焚き付ける。
 隣に孫娘二人とじっさといて、
「ランプの宿ってんで連れてきてもらったけど、わしら戦中派には風情じゃねーです、苦しいってか切ないこって。」
 という、そりゃわしも賛成で、子供の手突っ込んでランプみがきしてと、話盛り上がるかと、瀬戸内さんの信者ですがって、こっちの女どものど助平に辟易して早々引き上げる。
 青荷温泉は混浴が大小七つあって、夏はニアミスだった、勢い込んでやって来たら混浴は一つだけ、何でそーゆことするんだくそーめって、三人女サービスだってんで混浴入ったら、どっかのおっさん来て大悦び。
 遅ればせに入ったら、もやーっと薄暗くって男も女もわからない。
青荷なるランプの宿をま悲しみ雪に問へれば雪はも深み
 ゼニ払うの忘れて出てきて、道の駅で気がついて誂えた。
 弘前公園のぼんぼり祭りを見た。
 ボランティアのばっさと肩組んだら、その手のけてくれって写真を撮った。
弘前の百万灯にとぶらはめ人の住まへる雪はも深み

2010年08月28日 07:50 せっちゃん ショートショート・古墳
 岩原ワインの差し向かいに古墳群がある、直径五メートルほどの円形で、草が刈ってあって、乳首のないおっぱいのように盛り上がる。上に乗ってってみたらといって、おねーちゃんが上った、ケータイに撮って、
「スカート履いてただろ、今晩豪族さまがお出ましになる。」
 千二百年の眠りを覚ますやつはだれだ、うらめしやーってのは江戸時代でー
 残念出なかったってさ。
 上越へ行くと、ぶなの林に六十幾つの古墳があって、春にはいちめんにかたくりが咲く。そのいわれのほどはよーもわからん、看板に書いてあったって、なーるほどと云ったら忘れちまう。
「秋来るときのこ取れるかな、あまんだれの雑きのこだな。」
 うそぶいて出て来る。
 結婚式が長岡のホテルにあった、ワインを頼んだら岩原ワインを持ってきた、別誂え、古墳ワインみたいんで残したら、頼んどいてなぜ飲まなねえって、ホテル女に睨まれた。駐車場のじっさが大威張りかく、田舎さあな。
 信濃ワインも十勝ワインも、日本人のシャンソンみたいで今一。
 苦味が足りないはてな。
 長野だったかプリンスホテルに泊って、ワインて云ったら一覧表持って来た、あちゃらか文字わからねえ、1030円うーん手ごろだ、おーいって呼んどいて見たら103000円、ぎゃあ生ビール頼んだ。
 2万もしねーとこ泊ってるんだ、えっへん田舎者。
 ワイン一本300万円のホストクラブだって、ひえー田舎者にのしがつく。
 プリンスホテルが日教組断ったてさ、そんなもん断る、坊主が常識なしの、先生はもっと破廉恥、ふーわ恐れ入るようなめにあったなあ再三。
「先生と坊主にゃろくなものがいない。」
 藤原こうたつの仰せとおり。
 プリンスホテルを訴えるって、裁判沙汰よりなんで人に嫌われるかっての考えたことねーんかな。
 お飯が食えりゃそれっきり。
 偉いんさなあ。
 坊主と先生の二股膏薬、うは根太腐る。
 いやさだれあって破廉恥非常識さ、かーちゃんに当たり散らすしかねーってのが男さ。
 千年も眠っている大王は、ちっとは世の中見ていたんかなあって、かたくりに聞いたら首を振る。
 春風も時に冷たいのさ。

2010年08月29日 08:28 せっちゃん ショートショート・とりかぶと
とりかぶとにまつむしそうにわれもこう、秋の七草に思っていたら、みちのくのは思い切って毒かな。
 釣ってくるで飯の支度しとけって、谷川へ下りてさっぱり釣れない、上がってきたらコーヒーを沸かしていた。パンにソーセージなど並べて昼餉。
「きれいな花だ、なんだこれ。」
 と穴井、
「とりかぶとだ。」
「うわや飯食えね。」
 ばーかぶすっていうのは根っこだ、花は人畜無害。
 花輪鉱山というのがあって見に行った、
「鉱山跡がごっつーいいんだ、ぜにねーからもうそのまんま。」
 穴井の趣味だ。
 まだ現役か、プールがあってへんてこな機械があって、
「何掘ってんだ。」
「そりゃ金に決まってらーな。」
「ふーん。」
 デズニーランドにこんなんあったな。
小屋の畑小屋の沢なむあしびきの去に行く雲の春遠みかも
 高速道路沿いが、さびれきってそんな地名がある、冬は閉す、山越えに鹿角へ入る。
 弟子二人に女ども三人のこれが初旅だった。
鹿角には若葉をさへや花の輪の雪し消ゆれば問ひ越せぬかも
 大湯環状列石という縄文遺跡、直径百メートルもあるストーンサークルが二つ。ボランティア田口良子さん秋田弁丸出しの説明する。例によって覚えず、
「土器とかやじりじゃなくって黄金伝説ってのねーですか。」
「YFO出るとこに教会とかストーンヘンジあるってほんと。」
 そっぽむかれて売店に寄る。土器せんべえとさ、ピアノ弾きの幸ちゃんがオカリナ買った。
 車ん中で吹く、ピアノのようには行かないらしい、雨が降ってきた、ぴーこーオカリナ気狂う止めてくれ。
 おうジェルソミーナしよ、能無しのわしが鎖ぶっちぎって、大道芸しよ二人で食ってこ。
 そーだ礼文島に年五00万出すって寺あった、そこへ行こうんそーしよ。
 いいかげんな旅は面白かったな。
 有名宿の蔦屋に泊まった。テレビに出たから満員で、旧館のファサードしか開いてない。タイムマシーンみたいにねじれひん曲がる、縄文なんてけちいのより恐竜時代へ、名人大工がぴったり建具を建てる、わし寝たまんま女どもの部屋に滑り込むぞ、高低差はげしーや。
蔦屋とう我が思へらくはいにしへゆ言の葉疎き奥の細道
 庭にぞっとりかぶとが咲いていた。

2010年08月30日 08:11 せっちゃん ショートショート・お経
 犬も歩けば棒に当たる、月夜に釜を抜くってよーもわからん、もしや忘れちまったなんかあるんかな。日本語忘れてわっはっは、忘れちまったことも知らんてさ、ふわーい欠伸こちとら関係ねーか。宝くじ3000円当たったって、へーてえしたもんだ、一億円当たるにはどーしたらよいか、数学博士に聞いたら、当たるまで買えばいーとさ。なーるほど。
 だぼら吹いてるのへ、お経出しちゃいかん。
 はーいたってもさ。
「仏祖憐れみの余り広大の慈門を開き置けり、これ一切衆生を証入せしめんが為なり、人天誰か入らざらん、彼の三時の悪業報必ず感ずべしと雖も、懺悔するが如きは、重きを転じて軽受せしめむ又滅罪清浄ならしむるなり、然あれば誠心を専らにして前仏に懺悔すべし。」
 毎日読んでりゃ忘れないって、忘れっぱなして身に就く、海の水のように元の木阿弥。クリスマス島の赤蟹は海に行こうが、人は滅罪清浄して帰家穏坐、誠心を専らにして前仏に懺悔すべし、知識のだからどうのの横すべりじゃあ赤蟹にもなれん赤恥、悟りなく生活なしただもう有耶無耶。
 末寺の和尚が死んで告げが来た。死んだと云わないで示寂だ遷化だ、年はわしと同じ、らごら坊主には珍しく坐る、沢木興道さんの無事禅をして、耳塞という病気になった。自分を開く方向にはなかった。
 正師につかなきゃそりゃ無理だ。
 見せることは見せたがな。
 坐禅になって始めて坐禅ということを知らん、哀しい。
 不都合であり危険だ。
 仏の道はたった一つ、お釈迦さまになること、身心脱落という、忘れる忘れないではない、箇の大海三昧。
 もとからどんぴしゃの宝くじ。
 接心が始まるのに葬式に行く、ちゃんと引導渡してやれって、死んだやつに引導渡してどーなる。
「うわっはっは、そーゆーこと云うと首。」
 葬式稼業めくら判、お布施稼げねーかな。
 てやんでえこのくそ暑いのに衣着るんだ。
 汗みずく。
 よそ者坊主が、このごろらしく扱われるぜ。
 関心がねーからたいてい忘れる。
 侍者の云う通りすべえ。
「其の功徳法門普ねく、無尽法界に充満弥綸せらん、哀れみを我れに分布すべし、仏祖の往昔は吾等なり、吾等が当来は仏祖ならん。」
 我昔所造諸悪業、皆由無始貪じん(目に真)痴、従身口意之所生、一切我今皆懺悔。

2010年08月31日 08:12 せっちゃん ショートショート・戸隠
 あれはもう十一月であったか戸隠の中社に泊まった、古くからの宿坊があって神官がやる、学生一人だけど、いいよ、蕎麦にしますかご飯ですかと娘が聞く、蕎麦だといったら馬の食うほど出る、おれも男だって頑張ったけど、三分の二食ってふん伸びた。そばのにおい横溢もうそりゃうんまかった。
 庭は絶景、霜さびてたけなわの紅葉が五葉松と、夕陽に今皆懺悔、とつぜん降るような星。
 あしたはいい天気だった、あてもなく歩いて行く。
 少年のころ蝶を採集した飯綱原、叢に泉が湧き出す、何箇所も湧き出す、砂を巻いて底知れず。
 茶屋が二軒あった、長野市から四時間一の鳥居を過ぎて茶屋までがコースだった。まわりは蝶の宝庫だった。落葉を踏んで歩くとなにか転がり出る、ぼけの実だった、信州では地梨という、金色に熟れて光のような、六つも七つも拾った。
 そうしたらきべりたてはが行く、夢中で追いかけた。
 雪消えの五月に来て初めて採った、越年のおんぼろだった、手が震えてとまらない。美しい亜高山種であった。
 同じところにいた。
 悠々飛んで行く、枯れ落ちたぶなと青空の間に消えた。
 宿坊の娘がぼけを一つ欲しいといった、机の抽斗に入れておく、いいにおいがするのだそうだ。
 しめじとくりたけを取ろうというと、案内してやるって、すんでに遠慮した、550円で泊まってあとは交通費しかない。
 うっふ申し訳ないってわけの。
 笹ヶ峰から黒姫山のふもとをめぐる。
 古池と溜め池という池があった。お水取りといって、百姓どもがやって来て宿坊に泊る、戸隠の蕎麦を、そりゃ青二才がいくら頑張ったって平らげるわけには行かぬ、野良仕事はきつい、飯はめんぱで仕事は半端なと、めんぱはわっぱでこさえた弁当箱が、四合飯が入る、梅干に塩引きのしゃけと、わっはっは豪快そのもの。
 溜め池は不気味に静まり返る。黒姫は哀しい伝説そのものの、古池は紅葉の絶唱。
 蝶を追う少年と併せ青春に決別の旅は、そうさななにもかもとち狂ってなんにもならずは今に至る。
 だが風景はまったく色褪せず。

2019年06月02日

ショートショート6

2010年09月01日 08:00 せっちゃん ショートショート・本
本を読むのを止めてもう何年になるか、新聞もま見ない、原始野蛮生活じゃなくって幼稚園以前かな。疎開したらなぜか美術全集があった、小学館の全集本が揃い、小説物語から科学から歴史からあって、大学受験にまで役に立った。分厚い童話の本があって読んでも尽きない、がきの理想みないな本、むかし贅沢な装丁のであんなに楽しいものなかった。なにしろ本の虫、宮沢賢治を姉と弟と三人で読んで感動した。
 大学に入って授業を放り出してモーツアルトと本だった。ドストエフスキーは三遍あて読んだ、シェークスピアが面白かった、カフカもニーチェもリルケも学者どもよりは知る、小林秀雄や山本健吉ーあっはっはどーもよくわからん、なんの足しにならず、貧乏人の銭失いというんかな、ただもう笑える。
 お盆の檀経で稼いだのをSFと推理小説に注ぎ込んだ、気が付いたら根太が弛む、うちぶっこわれらてんで、倅の高校で本を寄付してくれと云った、軽トラ借りてきて持ちこんだ。
 校長がお礼の電話よこして、せっちゃん文庫作るという、
「そんなもないらん。」
「いえあの山田風太郎とかO嬢の物語家畜人ヤフーとかいうの、高校生にはちょっと。」
 という、
「へーい。」
 てやんでえ、高校生の頭ん中身90%がセックスだってえのに。
 図書司の女先生が釘を刺して、廃判になるものもありますがいーですかっていう、持っていればけっこう高く売れたかも知れぬ。
 どだいわしは物持ちが悪い、大切なものでもみんなぱーにしちまう、こりゃ前世からの因縁だな。
 読むもの正法眼蔵しかない、そうさなあまったくに、良寛のように涙ぽたぽた落として、読むというより見るんだな。
 身心と正法眼蔵が同じになる、
 ちらともあればかなわぬ。
 人は知らんのだな。
 自分なぞこれっから先もいらん、道元禅師お釈迦さまがあるっきりだ。
生活とはまったくこれ。
 読書とは何か、知らんよそんなの。

2010年09月02日 07:27 せっちゃん ショートショート・竜宮の使い
 じゃりんこ知恵ちゃんもあられちゃんもさ、面白かったのに、そのあと漫画見てない、漫画の世の中終わったかというとそーでもないらしい、ゲゲゲの女房の朝ドラ流行ったり、新潟は漫画王国だといって英才教育したり、うっは漫画、世の中人みな漫画になったら、そうさなそれでまあ一巻の終わり。
 じゃりんこ知恵が四コマだったら長続きしたのに、はあてさ、さざえさんは国定教科書だった、さざえさん見て行くとさざえさんの会話。面白かったな、そういうことはもうないか。
 96歳のばーさんの詩が流行ると、おまえさんだってまだ間に合うぞだって、うっふふ。
 日本右翼はだらしがねえ、命を捨てるなんてねえ連中だな、金正日ぶっ殺したら漫画ネタになる。世のため人のためだあ。マスコミをぶん殴るにはどーしたらいい、詐欺がいい、昭和年号スクープに匹敵するのは、金正日の馬鹿孫に水爆持たせる、うっかりぼっかんてスクープ。魚雷はCIAの悪ふざけ。戦争がなきゃアメリカは成り立たない、儲からない円高になる、アラブの次はわっはっは日本マスコミってのどーだ、フセインよりもカダフィよりもお頭弱いぜ、弱いとこをめちゃんこにする、骨までしゃぶってイラクだアフガニスタン。今のもいつの世の中もそーゆーわけだな。
弱いっちゃ坊主がいっちお弱いから、漫画にしろって、坊主頭お袈裟着せて猿芝居はいおしまい、うっはっはなんにもはじまらねーや。
 三つ巴のアラブにユダヤにキリストにって、地球の癌だね水爆一発。
 つまんねーことしゃべくってねーで、このあっちーのなんとかしろ。
 みーんな気象予報官のせいだ、憎まれ役徹底やるには、金正日をじゃなくってさ、池の水が細い、えさがやれない、鯉がひものようになる、フロリダの地下水脈かっぱらって来い、おーいどらえもん、弥彦山の向こう日本海へつなげ。
 湧き溢れる泉。
 竜宮の使いが来るぞ、わっはっは今んとこわしの漫画
 夢に見よう、夢なら鰓つけないで潜って行って

2010年09月03日 08:05 せっちゃん ショートショート・がっこ
 長野から秋田に引っ越して、秋田のわるがきどもと遊んでまた所変わって面白かった。秋田犬にそりを引かせて四人乗り込んだり、わだち跡が凍結してスケートしたり、スケートリンクぬるんで係員が陥没したり、
「だから今日は止めとけ。」
「はーい。」
 帰って来た。
 山の洞穴につららが下がってその下に石筍じゃなく、氷旬が出来ていた。円いつるつるの。
 雪は真横から降る、長いケットを被ってちょこちょこっと走っては軒から軒へ、かーちゃん連中は巧みなものだった。
 高校の生物部へ入った。ちょうちょ採りの延長で、ひめぎふちょうをお初に見て、きちがいになって採りまくるものを三年の先輩が、
「可哀想なことをするな。」
 という、ぽけえつ突っ立った。
 そういうものかと心のどこかで聞こえ。
 祠のわらしべにつるした餅を取って、焼いて食う、凍み餅だった、それはうまかった。
 仁別というところへ森林トロッコが行く、太平山のふもとで、秋田杉の産地だった。村はあったが道なんかない、だれかれ森林トロッコで行く。
 乗り込んで、このあたりってんで飛び降りたら、しくじって二回転半、ばっさの心配そうな顔、我が子を見るような、なぜか一生忘れない。
 清流があって、やまめを三0も釣っているおっさんがいた。春先へびがうじゃらけて、一匹に噛まれたという蛇採りがいた。太平山には一度だけ登った、白い石があって割ると水晶が出た。
 トロッコは帰りは杉丸太を積む、みんなで乗り込んで帰って来たてたら、
「わっ。」
 と声がして、トロッコが止まった。ケーブルが張ってあった、そいつが首にはまって、外れずに落ちる、十メートルの谷底だった、奇跡的に岩と岩の間に落ちて、かすり傷で助かった、ひめぎふちょうの先輩だった。
 どうしているかな。
 すべてがなつかしく、てめえ悪たれの分だけ余計で、だからこうやって物語るのも、隠して置きたい分が多い。二度と戻らない、時空間とはよく云ったもので、たとい山川の姿は変わらずとも、もう二度と行きつけない。
おくの我が物思ひせむは大杉の太平山とぞただずまひけれ
 弟子が秋田に縁あって、わしは何十年して行ってみた、覚えのある所なぞなかった。当然だ、立派な道路が出来てビルが林立して~
清やけしや早稲の田浦を雄物川浮かべる瀬瀬に思ほゆるかも
 きりたんぽに鉈漬けにいぶりがっこにはたはたずしににしんにひろっこに、それはみんな家庭料理だった、商品とはぜんぜん違う。

2010年09月04日 07:48 せっちゃん ショートショート・はげたか
 ちえ坊主組合かどーしよーもねーな、禅宗が坐禅もしないで空威張りお寺さまやってる、越後は仏教国だって、越後こそは長く仏教のぶの字もなかった、
「我が道首を回らせば実に嘆くに耐えたり、天上人間今幾人ぞ。」
 と、良寛の云うとおり。
 巨人阪神のテレビを見た、真剣命懸けみたいなバッター、こりゃ人間だあほーっと一息。
 なんでおれんとこ呼ばねえって、偉そう坊主がいう、先住はなにがし因縁でだからおれはって、張ったおしてくれよーかまったく、おまえさんを呼ぶなんの価値がある、嘘とはったりの猿芝居、よくそんなんで生きていられるーだめだこりゃ通用しねーや。
 金持ち坊主が痛風になった、ワインしか飲めねえってさ、仏罰の当たるのが遅すぎた、なんせ法堂博士の、血の一滴もないしろうるり、子供さえ逃げ出すなーんだこりゃ、食えてりゃ反省もしねーのは金正日と同じだが、くわけったくそわりー。
 暑いんで夜中も明けっぱなしの窓から、月が上り雲が浮かんで星が見える、無上道の月、雲の千変万化は妄想の数ほどあっはっは、絵なんかよりゃ面白いなあ、百物語も及ばない。
 テレビでニューギニアのごくらくちょうを見た、滑稽で哀しいダンスはまさにこれ極楽。こんな不思議なものがあるのものか、天才の発明なんぞ足元にも及ばぬ、三千年もの間ニューギニア人が真似る、ごくらくちょうになりたいとさ。それは嘘だ、嘘だと知って進化すべきだ。
 極楽鳥の絶滅を防げ。
 人間一匹生きて行くのに、何百何千の生き物も、生き物でないものもぶっこわす、破壊する、くそひったって還元しない、死んだってCO2増やすだけだ。
 こりゃ人間もとっこ用なしってこったな。
 良寛さんがまずはもっとも無難。
 至道無難唯嫌けん(棟のてへん)択、ただ憎愛無ければ洞然として明白なり、洞然明白はなんにもない、なんにもないを知るものさえないこと、少しは無駄使いせずにすむ、いたずらを止める邪しまを擲つ。
 人が極楽の踊りをする、木人正に歌い石女立って舞う。
 物真似では断じてない。
 坊主なんていう禿げ鷹役立たずの唾棄すべき、ああそんなこっちゃないのさ。
 記録破りの猛暑は思考力を麻痺させる、
 秋になったら反省するか。
 人類曲がり角。
 いえさもう遅すぎるかどうかってことをさ。

2010年09月05日 07:38 せっちゃん ショートショート・釜茹で
 見たこともない冬の街の夕景がとつぜんになつかしく、号泣するには声も出ない、なぜかといってなぜかわからん。霜柱の枯野で涙ぽろぽろ、初秋の風の音など、自然と人間の関わりはめったになく、失禁の涙や、そけっぱなしのデザインだデフォルメの、情感を搾り出すには、馬のけつがぷっかり茶釜になり、芝居のはねたあとの杓子定規。
 台風一過底無しの天、ようやく秋が来たと思ったらまた台風だ、でも萩の花が咲く、なんとも爽やかな。
 人類曲がり角も絶望もさ、秋が来て冬は雪降る。
願はくは花のもとにて春死なんそのきさらぎの望月のころ
 西行はその歌の通りに大往生したという、心なき身の苛烈極まりない生涯を、日本史のなかにこんなやつは二人といなかったか、つれつれ草のあやしゅうこそもの狂ほしけれは、一人二人そんなのがいたか、傷ついた獅子のようなとてつもない兼好法師、ゴッホは西行のほうか、ピカソも地下室の手記もあやしゅうこその室内楽か、リルケもカフカもどんずまり、オドラデックか腐ったりんごか、なぜかもう帰ってはこない。
年をへてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり小夜の中山
 西行はどこへも行かず、新鮮で不思議な命を。
ここもまた我れ住み憂くてお去りなば小松は一人にならんとすらむ
 号泣するものこれ、更に心の幼びて魂切れらるる恋もするかも。女なんていうもの消えた世の中という、せせら笑と肉と物、いやそんなことあるはずがない
心なき身にも哀れは知られけれ鴫立つ沢の秋の夕暮れ
 おのれが許されなかった男の行状記、おのれが許される者今の世いるか、頭なでなでお役人さまいいことし阿呆、断然不可。
 いくたび野垂れ死んで、腐れほうけて蘇る。
 無心もと心の無いことをしる、無いものは金剛不壊、決して損なわれることはない。
 釜茹でになった石川五右衛門は、てめえの子をつっさし上げて煮えくたれ。 俳句にも歌にもならぬ事件だ。
 わしは五右衛門風呂の底を抜いちた、坊主ども十日も風呂へ入れずえれこった、大展三謝、そうさなわしにできることといったらわっはっは。

2010年09月08日 08:34 せっちゃん ショートショート・古墳
 今は長野市になった松代に大室古墳群というのがある、古墳が500も見つかっている、墓と同じに二代三代と使うらしい、先代のを押しのけて安置するなど、千曲川の向こう山ぜんたい古墳群で、円墳方墳前方後円墳さまざま、その上に江戸時代の墓地があったり、ぜんたいの発掘はこれからだそうで、なんせ入り口が人の軒先を行く。
「鏃だの埴輪なんてつまらねえ、ツタンカーメン黄金尽くしみてえな金目のもんねーんか。」
「いやあのそーゆーもんは。」
「さばよんで世界遺産にしれや、年三000人の見学を二十万にして。」
「県も市も努力しております。」
「お役人じゃなくってさ、商売人雇え、イギリスのストーンヘンジだって詐欺まがいのいいかげんだって話だぜ。」
 すっかり嫌われた。
 おねーちゃん達に鼻の下長くして説明してた学芸員さま。
 じっさも発掘作業に雇ってくれっかな、時給八00円でかんかん照りうわー止めた、時給万札何枚かくれりゃ、ネイルアートでも埋めといて、掘り出してやるのにさ。
 ボランティアだってさ。
 雲がなびいて龍人の里ってのいけるかな、古代人だってなにか壮大なわかりやすいイメージ持ってたんだろーがさ。
「あのよ。」
「ばーか。」
 わっはっはわしの知ったことか。
 大室古墳も仏教伝来までか。
「閻魔さまってどんないわれの人かわかっか。」
「そりゃやっぱり裁判員裁判のはーてな。」
 亡者一号だってさ、どえらく貧乏くじ引いたわけの。
 ずーっとやってなきゃなんねーんか、なんてえ理不尽な。
 世の中理不尽。
 裁判ておかしなもんさ、因果必然=ただそれだけって知るには、人類はまだずいぶんかかる。
 知る人は知ってるのさ。
 閻魔大王くじ引いてっと、わっはっはおっぱいのような円墳がいーか。

2010年09月09日 08:29 せっちゃん ショートショート・さそり
知床の花の岬を今日もがも神威肥やさむわれ他所に見つ
 ひぐまの牧場で見たひぐまは顔だけでこーんなにある、
「逃げたらいかんです、向って行けば向こうもこわいから。」
 先生さまはそう云うんだが、あんなの向うとかなんとかの問題じゃなく、白熊のほうがもっとでかいって、なんたってこりゃ別世界。
 幸いニアミスもしなかった。
 せがれが高校生で弟子と、わしは北海道初体験。
羅臼らは今夕しくしく舞へるらく笹にかんばの衣着けながら
 おしょろこまを釣った、リリースするのって云われて、でっかいの二三匹ポケット入れたら、そいつが十二三匹になる、
「だからハングリー世代はいやだってえの。」
 こっぴどく怒られて、
「釣ったら食わんけりゃ申し訳ねー。」
 他で釣ったいわなやまめと、若いの二人健気に燻製器に載せる、外でやってくって云われて外灯の下。わし一人宿のご馳走食って酒飲んで、
「なんだ遅いじゃねーか。」
 ふーらり行くとまだ半分がとこ。
「申し訳ねー。」
 酔っ払って寝ちまった。
かき暮れて宿を借らむに白糠の鮭の遡上るを眺めやりつつ
 次の日、どこでも泊めてくれたのが、なぜか断られ、坊主頭をオームと間違われたってふーんもしや、
かき暮れて宿を借らんに馬主来の右に問へれば左にそける
 バシュクルって地名だとさ、三軒四軒断られ、真っ暗になって公園に来た。水道もトイレもある、テントを張ってランターンがこわれている、車のライトを点けた。
 食い物も買ってない、十勝ワインと、
「そうだあったぞ、いわなとおしょろこまの燻製だ。」
 骨もまるごと食えておっそろしく美味い。
「お寺のあとを継ぐのか。」
「うん。」
「ふーん。」
 らごら坊主なんてしょーがねえけど。
 はか行かぬ話して、さそりがばかでっかい満天の星。
秋長けて神威廻らへ音別の怒涛に洗ふあれはさそりか

2010年09月10日 08:00 せっちゃん ショートショート・心経
無所得の故に菩提薩た(土に垂)ボーディサットバ修菩薩行は、これをだれも知らない。自分のものもとっからなんにもない、仏を我が物邪にしない、だから坐禅が出来る。どうしようこうしようだからという間は坐禅にならない。なんにもないもの観察すること不可能=彼岸にわたる=般若波羅蜜多の智慧。故に心無け(罫のトなし)げ(石に疑)まっさらなんの疑いもない、ちらともかすらない、無有恐怖まったく投げ出して恐れなし。飢えた虎に食わせて、なんにもなしは金剛不壊、傷つかず損なわれず。細には無間に入り大には方所を絶す、大自在を得る、ものみなを涅槃という。究竟涅槃ニールバーナ自分が風景が自分になってこっちを見る、転ずるんです。コペルニクス的転回いやまあそんなものの比じゃないが、遠離一切顛倒夢想です。流転三界夢のあぶくと消える、六道輪廻を一歩抜けて天上天下唯我独尊です、世の中顛倒夢想です、不成立で成り立っている、三界擾擾事麻の如し、まずもって痛切に気が付いて下さい、にっちもさっちも行かんと知って、依般若波羅蜜多です。依般若波羅蜜多故得あのくたらさんみゃくさんぼだいです。忘我をもって根本となす、自分を知は忘れること、世間の云う平和と愛の因果必然、棄恩入無為真実報恩者人間の基本わざです。
 世尊因みに外道問う、
「有言を問はず無言を問はず。」
 世尊拠座す。
 外道賛嘆して云く、
「世尊大慈大悲、我が迷雲を開いて我れをして得入せしめたもう。」
 乃ち作礼して去る。
 阿難仏に尋ねて問う、
「外道は何の所証有ってか賛嘆して去る。」
 世尊云く、
「世の良馬の鞭影を見て行くが如し。」
 心経の具現まさにかくの如し。
 無門日く、阿難は乃ち仏弟子、恰も外道の見解に如かず、且つらく道へ、外道と仏弟子と相ひ去ること多少ぞ。
 外道いまだ本来を知らず、行って袖を取って示せ。

2010年09月11日 08:32 せっちゃん ショートショート・山月記
 若狭湾はいわゆる湾岸気候で、ぽっかり晴れるとあくる日はどうっと風、吹雪になってしくしく雪降る、うすら寒く曇りになって晴れてと冬中繰り返す。
 鉢の子、応量器はお釈迦さまの頭蓋骨と云われ、地に落としたら即刻下山。三つ指に支える、その指に唾をつけて凍みつかせて行く。足のほうはずぼらで雪じきに馴れつく。指は鉈でぶっちぎられるようで、映画にもなったなんとか楼の辺りまでもー
「ほう。」
 と声出して行く、法というのと鉢がなまってほうとなったというのと。
 寒行托鉢は寒三十日二月四日の節分まで。
 ほうと呼んで行く、一つになろうとすると却って外れる、ほうほうと声ばかりが澄みわたる、若狭の海に吹雪きをたきこんで、これは雲水名利に尽きる。
 小浜の人は毎日出迎えて喜捨する、そっちのほうがすげーやなと云って行く。
 わしの得度の師は断食と托鉢だけで暮らしている、岩船のど田舎で神様の右隣みたい、行い清ます聖僧でもって、逃げ出しちまったわしは、せがれにお寺譲ったらはーてなどうやって暮らしたらいい。年金だけの肉食妻帯、うんまいもの食っておねーちゃんが大好きで釣り坊主で、てんでいーことなし。今更うらやむわけにもいかんし、托鉢なん忘れてしまった。逃げ出して托鉢したら、米ばっかり貰って動き取れなくなった、月の夜中よっぴで歩いたらり。電車に乗って八王子の友人のところへ転げ込んだ。新婚早々へ泊まり込んで、おまえも出家しろって云ったらしい。
 八王子から小浜まで行こうとして、草臥れる死んじまう、師のもとには帰らず、庵主さまんとこへ転がり込んでもって、発心寺へ安居。
 わっはっはぶっ倒れそうになって抱え上げられた。
 あとは省略さんざくた。
 今弟子が二人行く、この年の猛暑にもめげず、むかでに咬まれ蚊に刺されがんばって、一人はなんとか行く、一人はドイツ語の勉強だあな、本末転倒。
 そのずっと兄弟子は悟り終わって托鉢に出た、開聞岳から年頭の挨拶なんてやってきたが、あるとき托鉢したら、そんなことしてないで早く正業に就けと、どっかのばあさに云われて、それかあらぬか婿養子に入った。じき晋山式だ。発心寺にいる一人が立職する。
 山月記の虎みたいな、ひぐまの檻の不貞寝するひぐまみたいな、えーとそんなわしの法を継ぐわけもねーか、お達者でな。

2010年09月12日 08:21 せっちゃん しょーとしょーと・万国屋
上古には人もありしを明治には志士も出でしをつらつら椿
 十二月何日であったか酒田の本間屋敷はお休みで、本間美術館と大正天皇の御幸に建てたという別邸を見た。藤原せいかの書があった。さすが上代のものは違う、江戸時代の書は面白くない、西郷や山岡鉄州が品位もあり迫力もある、勝海舟のようもわからん字が、藤原せいかに匹敵する、そんなもんかなあと見て雪の降る別邸に入る。
 大正時代のガラスですといってゆがみぼやけてなつかしい。贅を尽くした杉や檜や大欅、見るもの聞くもの忘れちまうのが年寄りで、宝物あって覚えているのは庭の雪景色だけ、なぜか花の栞を売る、買って来た。
戦にもつつがなしやと思し召せ飯塚邸は地震に倒れ
 新潟の飯塚邸は昭和天皇をお泊めした由緒ある家だが、中越地震で半壊した、別邸も地震にはどうか、旧木造は弱いとだれか云っていた。
代々の松せめてなりたや殿さまの本間屋敷に雪降りしきる
 本邸は門構えと松を仰いで行く、もうじきお雛様を飾るんだそうの。
御幸には本間屋敷の別邸の花の栞はたが為に売る
 温海温泉万国屋は田中角栄嶽山会の定宿で、新潟人にはおなじみだ、なぜか知らんがかーちゃん慰労でもって三回も泊まったか。酒田に行ったときは、係りが車のキーを雪の辺に紛失、客あしらい絶品の万国屋には珍しい、江戸時代からの老舗で、フランス万国博覧会の因みに万国屋にしたそうだ。酒田まで電車の旅は吹雪の海岸がいい。
 おすすめの酒田の鮨は江戸前でなく、なんかもちもちして面白い。
 次の年も泊まったら支配人がすっとんで来た。
「申し訳ありません。」
 なんだと思ったら、やくざが泊まっている、いえコンパニオンを三十人と聞いて初めて気がついたんですが、酒田の大親分の襲名披露だそうでして、
「大浴場は入らないよういってありますし、出会っても知らん顔っていうか、普通に。」
 へえやくざかってんで大浴場に入ったら、くりからもんもんの若いのが三人いた、わしを見上げて眼を飛ばす、ふんやくざなんぞにって、腕力じゃかなわねーか、メタボ腹叩いてのこり。
 ロビーにいたら客が親分扱い、ふーん頭剃ってるしな。どうだったって仲居に聞いたら、やーさんは面白かったってさ。
 花のころ行ってそれからあと行かない。
万ず人いずはたよりは押し寄せて流転三界塩の花咲く

2010年09月13日 09:00 せっちゃん ショートショート・水母
 鶴岡の由良の浜には水母の水族館がある、加茂の水族館といって発光のメカなんかようも知らんけど、だれかさんの研究で名を売った。見ていると面白い、ふーらり自由自在、水母こそ我が命ってわっはっは中枢神経のない、唯我独尊永遠回帰。
二人して水母の海に吸い込まれ広大宇宙が檻の中なる
深海艇に乗って行って、発光くらげにうるくらげにくしくらげに猛烈毒のふーらふらに大行列にって、心行く我が浮世ってのを味わってみたい。
 わっはっはじき飽きてろくでもないことを考えるか。
 北朝鮮開発のレビュー水母ご存知喜び組、水母の宇宙服はナサのえーと、イオンロケットでもって虹の七色ふわりふーっと全天に覆いかぶさる宇宙船、水母内視鏡は究極の日本医療、排泄してもけっこうけだらけ、CIAの拷問水母とか捕虜収容所向け。
 はてなあ貧相品薄。
 水母で見たことのあるのは、あんどんくらげみずくらげ泳いでいてばちばちっと刺す細長いのや、三メートルもある越前水母ってのこりゃもう化け物。
 磯に透明な帯が浮かぶ、一メートルもあったなんだと思ったら動く、これも水母だってさ。
 真水水母っていうのもあったなあ、ほんの親指のほど。おねーちゃん二人大喧嘩して、釣りしていたがきんちょが親にしがみつく。うははあの沼どうなったか。
 加茂の水族館の手前に八乙女温泉というのができて、冬一泊した。
 吹雪に荒れて塩の花がふーわり。
空しくは塩の花なむかもめ鳥由良の浜廻のきぬぎぬをかも
八乙女の由良の浜辺に雪は降り鷲にてあらむ島に宿仮る
 鳶だってさ、それでも猛禽。
 地上を歩くにはナイフがいると、どっか詩人が云ってたな、ナイフは知らんが銭はいらーな、わしみたいぐーたらは一人じゃ旅も覚束ない。
 水母って何が面白いのかな、摩訶不思議。
荒城の月とは聞こえま悲しや誰れか命の茶を喫し去る
 大回りして会津へ行った、鶴賀城には荒城の月の歌碑が建つ、その前に茶室があった。
 白虎隊よりは若しや水母。

2010年09月14日 08:11 せっちゃん ショートショート・奥社
女プロ棋士の草分け木谷門下の庄司和子さんが、妙高のサンライトホテルにいて囲碁の指導にあたる。新企画の囲碁雑誌に、太田医者の口利きでもって、娘のおたえが漫画を描く。太田医者の先代はアマ六段で、地方じゃ随一だった。そりゃもう日本棋院には足向けて寝れねーやと云ったら、おたえのやつ編集者と喧嘩してあっさり止めちまった。責任者が庄司和子プロだった。わしは謝りに行った。
 ついでに同寮会しようといって都合つくのを誘った。
 さすがプロで、強いのもいたが碁盤二枚並べて、
「あらお強いわね。」
「困った負けそう。」
 なとおっしゃって、わっはっはだれ一人勝てなかった。
 わしは弱いし遠慮した。
 妙高までは二時間で行く、そのあと行って打ってもらった、ついに六子を越えず、彼女は接心にも来た。
 プロで食えるのは十五人ほどだという、厳しい世界だ、あとは指導碁をうったり余力で稼がにゃならん。
 いっしょに奥社まで行った。
「あたしは歩くの強いのよ。」
 のたのたするわしを尻目にさっさと歩く。
 戸隠は中学のときに蝶を採りに行く。
 たいていは一の鳥居から二軒茶屋まで、奥社は朝四時起きのとっぷり暮れて八時ごろ帰りついた、すっからかん勉強もしねーで親父に怒られて、そんなこたお留守で、すいみつとうかっぱらって弁当の代わりにして、辛い大根抜いて食ったり、きべりたてはやおおいちもんじやうちむらさきしじみや、手もふるえて採って歩いた。
 奥社にはすずめばちの巣が三つもぶら下がって、その裏を登って行くと高山蝶のべにひかげがいたが、時間の余裕はなかった。
 庄司プロは参拝客と元気な挨拶を交わす。
 川にいわながいた。
「へーえ復活したんか。」
 死んじまった同寮生といわなを取ったっけ。
 惜しいやつは死ぬんだ。
 すずめばちの巣はなかった。
 三四年して庄司プロとも同寮会とも疎遠になった。
 同寮会はお年のせいだな。
 つい先日参道さしむかいの忍者屋敷に入った。美緒ちゃんもっほちゃんと三人、入ったら出られない仕掛けで、こりゃもう入り口からだなって、人の入るすきにさっさと出て待っていたら、どえらいめにあって二人ぶうぶういって出て来た。
「蝋燭の棚を横へ動かすとぽっかり開いて。」
 それからがたいへん、
「そっか。」
 わしは何でも省略するで碁も強くならねーんだ。

2010年09月15日 08:10 せっちゃん ショートショート・シタール
 ゲリラ豪雨が来た、あと三0分も降るとやばいかな、築山が川になって流れる、池は茶色になって溢れそう。いつだったか恒規大般若に降って、お参りが三人しか来なかった、山になるお寺はどんざん流れ、池の鯉ごと流れて、山門の向こうの前谷地が水びたし、信越線がせき止める。
 行ってみると中ノ島は、わしは野次馬で必ずすっ飛んで行く、いちめんの海だった、田んぼが何百枚も水につかる、十日もつかってとうとう駄目になった、小沼大沼赤沼という水はけの悪い村だ。
 大竹貫一が私財をなげうって、分水をこさえる以前、中ノ島は三年に一回米が獲れたという。信濃川とあばれ刈谷田川のデルタ地帯、洪水の伝説は今も残っていて、何代も聞き伝えて、うわーったらあっというまに水につかっていたなど、大木に人が乗っかって流れて行った、家ごとぽっかりとか、単純でものすごいのを目の当たり。
 わたしさんという人がいた、綿引というらしい電話じゃわたしさん、山門の四天王を見ていた、
「仁王さんがなんで四つあるの。」
「これ四天王ってんでな、仁王さんみてえ褌一丁じゃねーのさ。」
「あらそう。」
 東山寺と与板の別院に二人坊主が来て、さし向かい安堵しようという、いやそういう伝説。
 四天王は四つの柱、黒青赤白と東西南北を表して、白が北方毘沙門天、上杉謙信公の守り本尊、五穀豊穣をみそなわす。
 わたしさんはわしみたいにはいよって云ってさっさと忘れ。
 彼女は若かった、ホスピスの看護師でもって、インドに旅して恋をした。彼はシタールに入れあげて、シタールこそは楽器の総元締め、使わない絃が十三本もある、練習して指の骨がむきだすってえ人もいる、尊敬します、とか。
 わたしさんが彼をお寺に連れてきた、何人かよったくって演奏を聞く。かぼちゃくりぬいた共鳴器、軽いことは軽いんだが、珍なのがよく、聞き終わって旦那が、フランス流の批評つまり悪口だな、フォロウしたが間に合わず、わたしさんはかんかんに怒る。
「わたしの悪口なら我慢します、彼は真剣なんです。」
 シタールってのどうもいまいち、のちの楽器に発展した若しや抜け殻、
「わたしさん貢君の一生かい。」
「そんなのいや。」
 何とか云ってそれっきりになった。
 その彼氏、古くからの大旦那伝兵衛さの甥っ子だった。
 そうか世間はせまいな、わたしさんは津川の名物狐の嫁入りに応募するって云った、嫁入り道具一式貰える。
 大洪水になった。お寺もやられたが、伝兵衛さとこは危うく免れた。
 あとを追いかけて中越地震が来た。
 収まって大凧合戦のとき伝兵衛さに聞くと、
「あの二人離婚しちまった、今の若いのは辛抱が足りねえ。」
 と云った。
 わたしさんのせいか彼のせいか、わしのせいじゃねえぞ旦那のせいだ。

2010年09月16日 08:13 せっちゃん ショートショート・すずめばち
 すずめばちが巣作った、きいろすずめばちだ、天井裏だどっかはぐらんきゃ取れねーか。去年は山の上り口におおすずめばちがでっかいのこさえてた、ぶんぶんうなっているところへ、業者が木を伐採してぶん投げた。危なかった、ぼんのくぼのあたりやられて、かーちゃんがまむし酒つけたら、腫れがひいたって医者にすっ飛んだ。
 ここ何年来やられている、弟子が何人もやられた、若しや二度三度刺されると死ぬって、まむしの毒より強いんだそーの、ショック死だ。なーにこんなんて云って、放置した弟子が足むくれて来て、医者へ行って一泊した。
 思い出した、きんたまのあたりもぞもぞ、布団はぐると10センチもある、これはおおすずめばちの女王だ、五月だったな。
 住職さまは偉いから刺さない。
 みつばちはお墓へ巣を作る、ちょーどいいらしい、二つ三つあって殺虫剤で始末する。みつばちとすずめばちの戦争も見た、なんせ熱で焼き殺すってえからみつばちもすごい。
 その巣取ろうっていう檀家がいて、立ち会った、墓石下ろすと真っ白い蜜蝋に黄金の蜜、ふわーきれいだって感激。雪の降る直前だったな、野郎めこわがってわしが手突っ込んで掻き出した。
 一斗もあったってえけど持ってこねえ。
 お寺なんて間尺に合わん。わしはなにしたって行き当たりばったりのその日暮らし。
 朝のまだきからかなかなが鳴いて、切ないようなもの蒲原のさ。
 蛙合戦の池に、まむしの棲家にすずめばちに、うわばみみてえなやまかがしがいたり、たぬきの溜め糞にはつたけが生えて、いやさすんげえ門前にろくでもねえ坊主どもに、うっふう四十年の歳月が過ぎた。
 そうしたら龍舌蘭という、先住が植えたんか、草むしりの邪魔してひでえ棘の葉っぱが、もくもく株を増やして花序がすーるり伸びる。
 百もの花をつけて見事に咲いた。
 センチュリーユッカというらしい、百年にいっぺんの花。
生死さへ忘れ呆けて八潮にぞセンチュリイユッカの花咲きにほふ
龍像の伝への如く閑そけしや百年古幻の花咲きにほふ
 テキーラの材料だとさ。
 応募した歌がNHKの歌壇に出た。
 いいことあるぜえって伝兵衛さが云った。
 歌は二つ三つとって貰っておさらばした、あほくさ。
 龍舌蘭は三年にわたって咲いてもとに戻る。
 ぼけの実が落っこちていた。
 彼岸になる。
 草むしりして、水の出たあとをかたずけて、
「ばかめ寺継ぐってのか、うっふ。」
 てっちゃんは禅師を招聘に行く。
 来年の十一月五日六日と禅師のほうから決めて来た。
 ありがてーこったな。
仏達失われずありし感激は我が美はしき若き阿修羅も
 美緒ちゃんの身障者手帳で薬師寺展を見た。
 仏の他になんにもありはしないのさ、ふうっと楽しい。

2010年09月17日 08:25 せっちゃん ショートショート・天人
 北原白秋の二度目の奥さんが離婚して、利休の菩提寺である聚光院に転がり込んだ、坊主丸め込んで勝手放題、一千万だ一億する茶碗だのふうっと消えるどえらい話、あと釜たいへんだったって、お偉い人から聞いた。白秋先生は趣味悪いってより女ならもうだれでもよかった、ビートたけしもその口だな。ベートーベンの恋人の写真じゃない肖像画か、人は変わっても同じ顔して、同じ風で、なーんていうんだろう、女にはなくなった品位かな、わっはっはなんせもうがきみたいにまっしぐら。
 めかけ五人持った成金が、まるっきり同の寄せる、目ん玉でんぐり笑っちまう品の悪さ。
 ゲーテの恋人は千差万別、各別個に愛したってえやつの、也太奇也太奇わっはっはお疲れさま。いや男ってのは女がないとつぶれ狸、つれそうこともっともよし、クサンチッペも野村夫人も、はーてわしは知らん。
ここのまり十まりつきてつきおさむ十つつ十を百と知りせば
君無くば千度び百たびつけりとも十つつ十を百と知らじをや
 貞心尼の良寛どのは、幼いから大好き人間、惚れたはれたの数知れずかどうか。
 流転三界中、恩愛不能断、棄恩入無為、真実報恩者。そうやって出家して愛とはなんぞや。
 二十三の娘が死に化粧する、棺桶の蓋開けたらはあて天女様。
 色欲はとうに失せて、たとえようもない美しさ。
西塔は飛天になりて鳴りとよみ見れども飽かぬ月を廻らへ
 天女に惚れたって、永遠の恋だって。
 見たふう聞いたふうなこと云ったってしょうがないやな。
 テレビで白神山中の秋を映す、紅葉に霜を置く、くりたけが生える、心なき身にも哀れはと、物申すだけ余計だな。
 ここのまり十まりつきてと、自分が失せてきって風景だけの、たとい天女に恋するたって、そのものずばり成就する。
 天竺へ行かなかったいって耳を切った明恵上人は、風景と一つになってはいない、何故か。
 無心とはすべてを所有する。
 梅渓という書がすばらしい、他のへたくそ生真面目な書も大灯国師。
 十八年間乞食をしてうっかり瓜に釣られて、死ぬる時は骨が抜きん出て只管打坐。
 そうだよう究極の恋愛上手。
 真珠庵の一休みたい、うっふう大騒ぎしないのさ。

2010年09月18日 08:04 せっちゃん ショートショート・象潟
田口なる廃村にしていくつ軒けものを追へば猫にしあらむ
 スキー場や豪華なリゾートホテルの隣り合わせに廃村がある、なぜか不思議な気もしない。手つかずの自然なんてもうない、廃墟と化した東京なんて正に冒険野郎のねらい目だ。ホームレスは暑い夏で消えて、金持ちが生き残って、うまいもの食う遊ぼうってしかなく、山川買い漁る中国にそそのかされて、金正日がお祝いの水爆をぶち込む、あとつぎばんざーいだってさ。ふわーい欠伸。
のみしらみ馬のばりこく枕元
 人間不在の荒廃は、俳句もできねーかな、
 ばりじゃなくってしとにして、歌碑は最上川の上流にあったか、待てよ川が変わって鳴子の郷の方だったか。
 芭蕉は越後に入ってえらいめにあった、越後女は詩人といううさんくさいものは認めない、わしもかつては詩人のはしくれであって、それ相応にどえらいめにあって、うっかり弟の嫁にした、この世の終わり。
一つ家に遊女も寝たり萩と月
 交番に突き出されるぞ、いやさもくもく分厚い手して草むしり。
 芭蕉は曾良という上の空引き連れて、五00両という豪華な旅、
 わしらにはコメントの仕様もないか、
 ホームレスで歌人もいいけど、猫のほうがぞっこん。
 なんで人間は毛皮捨てたんだ、なにもうじき生えるってさ。
 弟子とおねーちゃんどもして、大間岬からフェリーに乗ろうってんで、真夜中鼠ヶ関から酒田へ。ぽっかり満月だ、中秋の名月。
 風流心を起こして、鳥海山へ行こうったらだれも賛成しない、
「だれか熊に食われたって。」
「月でもって逆さ鳥海をさ。」
「あれ夕陽なんだろ。」
 登るにつれ霧がかかる、行ったら戻らぬ主義、一寸先も見えぬって五メートル先駄目だ。そろーりそろーり一どうにか下りてきた、みんなふーんと黙っている。
 象潟の道の駅は、夜寝るところが作ってあった。
象潟や雨に西施が合歓の花
 なーるほど眠いから眠るんだ、寝ずが関ってのキーンとトラック野郎。。
「うんでもってせいしってなんだ。」
「うん何回聞いても忘れっちまう、いいかげんな野郎さな。」
 女でねーんかはてな。
 松島は恨むが如く象潟は笑うが如くって、いや奥の細道のあと隆起して陸地になった。
 眠れずに走る。
 田んぼの中にいくつ松島。
「笑うが如くって。」
「いやそういうわけじゃー」
 ほんにこれじゃ風景にならん。

2010年09月19日 08:27 せっちゃん ショートショート・江ノ島
 何十年ぶりかで江ノ島へ行く、さくらがいがあるよって、どろちゃんが拾って見せた。
「ふーん。」
 はんかけのさくらがい。
 木の桟橋にかきがいっぱいくっついて、弁天様は池にーむかあしむかし。
 立派な橋ができて人も車もひっきりなし。
 どっ汚い水に釣り人、ごんずいが釣れたってさ。
 参道は変わらず、弁天小僧ゆかりの宿もあった、どろちゃんがその宿取ってくれた。どろちゃん一家は善行に住んでいて、兄弟だーれも家を出て行かない、この親不孝ものめってさ、なんせ善行でもって住み心地がよくって。
 わしは鵠沼にいたな。工場と畑とさ、小田急のレールに石を並べて電車が急停車。工場のモーターを押さえ込んだら、うわっぱりが巻きついて死ぬとこだった、わるがき。
江ノ島に仰がむものは富士の嶺わたつみうみに思ひうちよせ
遊行寺を行き過ぎがての思ほゆはつとに忘れし幼な心ぞ
 由良の浜に奥の江ノ島という所がある、島を一回りできて赤い鳥居もある、磯っぱたに禿げ頭のおっさんが竿を出す、
「何を釣るんだ。」
「いいや。」
 蛸を釣り上げた、こりゃ名人だ、
 奥の江ノ島は水が澄む。
 八乙女温泉というでっかいのが出来た。坊主どもがよったくった。わしんとこと秋田のさまやんと同じ距離だという。村上から二人勝木から一人、うちにいた弟子と、うーんなんせ師匠が悪い、一杯飲んだら麻雀だ。
 卓球だ野球だ釣りしたり海にもぐったり、わっはっはだれかれ文句も云わずって、聞こえずってだけのさ。
 五月の接心にしゅうしんとさまやんに、牡蠣を取ってこいと云った。
 岩牡蠣だ、生でも酢も焼いて食うもいい、フライがなんせ美味しい。二人もぐってぶるぶるふるえて、ちんたましぼむといって取ってきた。
 食ったら全員中った、多少早かった、食中毒とちがって次第にひどく、接心初日二日と討ち死にだ、ぶーたら寝ている。しゅうしんは二度と牡蠣は食わんと云った。
 わしは人の三倍食ってけろんとしていた。
「修行がわりいからさ。」
「ぐわ人間じゃねーや。」
 さまやんは寺の婿養子になった。ばあさが先生上がりで、娘大威張りの、すったもんだとち狂う。
 悟りのわりいせいだな。
 収まってみりゃ、こいつお寺様になりたかったらしい、そんなみっともねーやつ弟子にゃいねーけんど。

2010年09月20日 07:46 せっちゃん ショートショート・円空仏
 円空仏はロシアのなんとかさんが発見しなけりゃ、何百年ごみあくたのほったらかし。日本人はてめえの目で見ない、今は文人写真屋評論屋だれあって円空仏様さま、あほくさ廻ってごみあくた。知らんけどあいつたしかに成仏してニールバーナ、仏の幸せを200%表す。彫刻が手段で、肝心要の仏が鑿を手に一所不定住で歩く。仏師の技能より仏を示ししたい。ニールバーナを無上の喜びそれ自身。
「有言にあらず、無言にあらず。」
 荒削りしてそっくり自然になる、仏のまわりに全世界が躍り出る。
 こんなすてきなことはなかった。
 庶民は円空仏を削って、薬の代わりに服用する。
 あっはっは効いたかも知れんな。
見よやこれ巨大なる木はひび割れて新紀元なる円空仏は
 死期を悟って断食してミイラになった。
 たいしたもんだ。
 今年の夏は暑かった、とんでもなく暑く草むしりもお手上げ、草も暑気あたりと思いきや、日影や水のあたりわんさか生える。どうにかむしって彼岸には間に合った。
 葬式稼業の生臭草むしりだけが命、
楽しさは草をむしれば様変わりつゆ咲く花の珍しみ秋
七十の光陰空しく草むしりあったら日差しを我が心栄え
 浮世のやぶれ釜踏み抜いて出家して、すったもんだなんにもできず、せっかく法を継ぐもの一人半分未だし。
 わしはなにをやって来たんだ。
 親不孝のかぎりを尽くしてさ。
 うっさい食って飲んで歌って、おねーちゃんどもでいーじゃねえか。ふん鑿一丁に人生のピラミッドだと、くわーすげーやわっはっは。
 たとい名は知られずともさ。
飯山の正受庵とふ花をねんじ白隠さんにはなで伝はらず
 有名人白隠どのか。なーんだなこりゃ。
 花が咲いていた、わしんとこにもさ。
 花一輪たとい我が生涯。
 はーてなホームレスになるよりミイラだぜって、難しいってよ今の法律。

2010年09月21日 07:37 せっちゃん ショートショート・田中一村
あだん咲く三千世界一村の涙溢れて極楽浄土
 田中一村の絵は十年まえ横浜のそごうで見た。すでに人がわんさか寄ってたな、孤高の画家ってんで向こう受けしたんだ、最後の三十枚ばかりもう動けないってふうの、絵というよりもって絶句。奄美大島が神殿になった、世界宇宙あるいは人生になって、清清しく他なんにもし。漫画と化して行く画壇に追っ払われて、どこへ行こうって奄美は偶然だ、必然はてめえだ。自分という出世作を失い去って、初めて道ですか、失い失い去ってかつかつ現実です。
 絵になるとは何か、東山かいいもすんでに絵にならず、百年三百年のちの田中一村です。よくまあこんな世の中にさ。
ふだらくやミイラになりて漂いにあだん花咲く奄美の島へ
 おふくろが死んだ朝からすあげはが飛んできた、
「いいから行け、もうおれにはかまうな。」
 と云ったら、めぐりを舞い飛んで去る。
 蝶に夢中になっていたがきを、からすあんよと呼んだ、まっくろけな足にひっかけてさ。
 親不孝のまあさ仕放題。
 弟はアルツハイマーで死んだ、姉は今施設に入っている。
 云うことはないのさわしは。
 地獄も極楽もなく、雲の踊る大空があって、日月星辰があって、花が咲いて、水が流れて。
 過現未なし、一村の絵をもう一つ他愛なくしたらそうさなあ。
 悲痛すざまじいことは、ふーっと吹けば三遍も死ぬか、笑うこと底抜け、思想なく宗教なく。
各々の方面に知覚を遺さず、群生の長しなえに此中に使用する、各々の知覚に方面露れず、是時十方法界の土地草木しょう(薔のくさかんむりでなく状の犬なし)壁瓦礫皆仏事を作すを以て其起こす所の風水の利益に預る輩、皆甚妙不可思議の仏化に冥資せられて親き悟を顕す、是れを無為の功徳とす、是れを無作の功徳とし、是発菩提心なり。
 腸のうして断腸の思いは、菩提の心よもに長ずと。

2010年09月22日 08:28 せっちゃん ショートショート・角
 温泉津温泉ゆのうず温泉と読む、島根だっけか温泉のそりゃもう古株、飛び込みで泊まった宿の前に、角の生えたおっさんの像がある、浅原才市妙好人とあった。
 こんなふうに記す。
如来の御姿姿こそかかるあさましきわたしのすがたなりなみあむだぶつなみあむだぶつ
角のあるのは私の心、
合掌させるは仏さま、
鬼が仏に抱かれて、
心柔き角も折れ、
火の車の因作っても、
みな消されて其の上に、
歓喜心にみちみちる、
嬉しはずか(りっしんべんに鬼)し今ここに、
蓮の台が待っている。
 妙好人とは在家の門徒だな、これだけ修行して歓喜を得蓮の台はなみたいていじゃないんだけど、仏教とは云えない、もう一歩進めないとそりゃなんにもならない。
 ぶんなぐって父母未生前。
 妄想教の門徒物知らず、どこまで行ってもらちあかん。ないはずの心をもてあそび、いたぶりいじくる。
 車座になって大きな数珠をくって、なんまんだぶつ百万べん唱えるという、法悦忘我あるを是。
 だがもとそれっこっきりを知らない。
 今の世なおさらとち狂ってどーしよーもないな。エログロナンセンス、救いようもな真っ黒け。
 小説作法書いた丹羽文雄ってのが、今様ページ開いたやつか。門徒坊主が悟ったんだといって狂いなって、日本刀振り回して豚箱へ入ったっけな、妙好人が悟ったらどうなる、ただの人になれるか、狂うほうが大。
 仲居のばあさは人物だった。
恋患いひいっひっひいとて温泉津の角に生ひたるばあさま椿
 よく練れて修行というあとかたもなく、萩の北門屋敷の弓道三段という仲居とは格段の差があった。てめえを押し付けることをしない。
 鍵かける風呂あったんにさ、恵美子ちゃんに振られた。きしょーめ頭来た。あとになってなんでアタックしなかったのって顔する、わーお修行不足で口説けない、てっちゃんに遺伝したんだ。

2010年09月23日 06:50 せっちゃん ショートショート・生死
生を明きらめ死を明きらむるは仏家一大事の因縁なり、生死の中に仏あれば生死なし、但生死即ち涅槃と心得て、生死として厭うべきもなく、涅槃として欣うべきもなし、是時初めて生死を離るる分あり、唯一大事因縁と究尽すべし。
 坐禅のノウハウはこれです、生死とは起こってくることすべてです、妄想も真実もです、明きらめるとはまったくの手つかず、生死の真っ只中に身心を置き放つこと、まさに飢えた虎に食らわれる如くです、是非善悪の判断=こうあるべきだからどうなるごと食われる、そのまんま涅槃です、坐禅とはこれです、生死を離れるとはお釈迦さまあって自分というまったくなし、仏あってよこしまなし、救われるとは一大事因縁と究め尽くすことです、究めるものが消えている、尽くすものなし無上楽これ参禅です。
 きす二匹釣ってふぐばっかり、引き上げて帰って来たら眠くなる、モーツアルトも駄目だ、声張り上げて歌う、気が付いたら反対車線のガードレール、タイヤパンクしたけど停めた。振り向くと普通車にワゴンに大型トラックがいる。ワゴンから飛び出してきて、
「どうしたんだ、余所見運転か。」
 という、
「ちがう居眠り運転だ。」
 なんにもなしで、みんな行ってしまった。
 よくまあ助かった、国道だった、三台も名人運転がいたんだ。
 まだ寿命があったってことか。
 てめえもうない、大法のためにしなきゃと思い、そうだって決心したら忘れている、ぬかにくぎかな。
 柏崎だった。
 そこから中越沖地震が這い上がってきた、三日後わしの命が助かってー
人身得ること難し、仏法値うこと希れなり、今我等宿善の助くるに依りてすでに受け難き人身を受けたるのみに非ず遇い難き仏法に値い奉れり、生死の中の善生最勝の生なるべし。
 彼岸に雨降ってきのこが出た、見たこともないのがどっさり、取って食おうかって前科一犯、晩秋取って食ったらトイレへ三回、黙っていたら家中行く、それからはきのこ禁止令。
 でもあいつ苦味があったのに、これ苦くないぞー
 たとい国難の時にあたって、わしのような路傍の石っころも若しや役に立てば。

2010年09月24日 06:52 せっちゃん ショートショート・マリノ
 マリノというイタリア料理店があった、建物もしっかりして洒落ていて粋な絵や中国の玉を飾る、いつ行ってもがらんどうで昼は流行る、料理はいける、一品取りゃ腹いっぱい、サラリーマンの食堂になる、年百年中変わらぬメニューだったな。
 運ちゃんがわりにかあちゃんと行ったり、客連れて行ったり。
「今日はまただーれもいねーなあ。」
「はいだーれも。」
「熊が出たせーかな。」
「ぎゃはは。」
 お世辞もないマダムが笑った、どんぐりが不作で熊が出た年。
 この九月で止めるという、年寄りが認知症になったんでっていう。
 最後になった、せがれの晋山式の相談があって役員ごと行く。
「ここは第一産業道路だし、ずいぶん盛ったんね。」
「新幹線と高速道路できでばったりか。」
 熊の出るところじゃねーけど。
 ワインもちゃんとあったし、わしには手ごろだったのにさ。
 田舎は車、一杯呑むたってそりゃ億劫だ。
 マダムがわしの手とって、長生きしてくれと云った、うん死ぬまで生きるよってお別れ。
 北極海にポリニアという凍らない海ができる、強風が吹いて深海の水を盛り上げる、なんかようもわからんが、栄養満点で夏は15度にもなる。
 鯨やいるかやあざらしに白熊のオアシス。
 くらげだのクリオネにおきあみやたらがわんさか。
 珍らしい一角獣の海なんだだってさ。
 角の長いのがメスを得る、海から突き出してみせる優雅な角比べ。
 歯の変形らしいが、なんのメリットがあるのか、無用の長物の長い方が偉いってのは拍手喝采。
 角突き合いもせず、突き刺して魚を取るんでもなく。
 勝ったのがメスの背中を撫でるってだけの。
 角の消えた一角獣ってのはどーだ、ナンセンスそのもの。
 わしも無用の長物だ、わっはっは角のない一角獣か、せがれにあと譲ったらホームレスだな、人間はゼニがないとオアシスにも行けねーしな。

2010年09月25日 07:40 せっちゃん ショートショート・禁煙
 禁煙できねーなんてあほだ、わしなんか七回もやってるっていうと、みんなげらげら笑う、次は八回目かってわけで。わしは一年は止めて、また吸って、今は止めてもう15年になるかな。空手馬鹿の羽賀がニュージーランドへ連れてくといった。空港もだめ飛行機もだめ、向こうは煙草ぽい捨ても野糞しても罰金30万円、レンタカーのいいの借りられん、民宿するとその家高く売れんという。仕方なし止めたら、なんのことはない、ニュージーランド人煙草ばかすか吸う、どでっけえ野糞ひってある。
 まあさそれっきりだで腹ヤニも消えたか。
 煙草止める方法は、煙草止めるってことな。理由つけたら必ず反対の理由がある、ノウハウしには逆ノウハウがある、体に悪い命が惜しいってんだら、死んでも煙草吸うとか、一つ二つ数える、吸いたいおのれを見据えるって、うざいほっとけ数わかんねーとかさ。
 わっはっは100%成功してかくの如く、きしょーめメタボ腹になった。
 むかしは布袋腹といったんだ。
 わしの倍は膨れてるのが参禅に来た。若いみたいだしこーゆーのろくでなし、このくそ暑いのに、借金たけて道っぱたで立ちん棒してるやつ。聞いてみたら理論物理学だとさ。世の中にまだそんなもんあんのけといったら、口をぱくぱく科学を擁護する、純情だ。
 女の子に絡んで振られてばかりの数学博士いた、嫁なしで五十になったか、頭よかったらおれ物理学やってたんだとのたもうた。
 そんじゃ頭いいんだ。
「独身だろ。」
「結婚してます。」
「そんなんでよく相手あったな。」
「以前はすっきりしてたんです。」
「うんじゃ詐欺だ。」
「あの奥さんのほうも膨らんで。」
 せっかくの脳味噌でーじょぶかよ。
 中国共産党め尖閣諸島だとさ、因果必然のほかに仏教の武器なし。日本がつけ払っているのか、中国がダライラマや諸悪の落とし前つけるのはいつか。腰抜け日本が領土失ってめ見るのが先だな。
 理論物理で計算してみてくれ。
 わしにゃ煙草吸いの因果必然しかわからんでな。

2010年09月26日 07:30 せっちゃん ショートショート・自殺
 癌はかびだって教養のねーのが云ってたけど、人間のはびこった処って地球の癌だな、コンクリートとごみあくたと心身症で覆って栄養もない、詐欺と喧嘩とゲームと炭酸ガスしかない、住めば都とわしも癌細胞になって行くか、ゼニあったらなふわーい欠伸。この年して立ち上がれ日本のたすきかけて托鉢して歩くか、共産中国にぐうの音も出ねーでさ、うっふう漫画にもならねーされこーべ。
 暑い夏が急に冷えてへんてこきのこが出る、さしものきのこ博士も諦めるよりないか、まつたけしめじ山だったの。
 成上がり中国の毒ガスで松が枯れ、しめじも香茸も死に絶えた。
 わしは九一までは生きると手相見が云った、しんどいなあと二十年。
 八十歳仏寿、お釈迦さまのお年までは十年足らず。
 大恩の万分の一ほども返してと思うんだけれど。
 こんな手紙が来た、
「里親になって育ててきた二十歳の若者が、職もなく将来の希望も持てず自殺した、責任を感じて夜も寝られず、可哀想で辛くて、今となってはどうすることもできず、血圧も上がり体調を崩しています、人生とは何か、人一人救えなかった自分がみじめでー。」
 なんとかしてくれってわけだ。
 はーてさっさと死んじまえとも云えず、わしにゃ坐禅しかない、殺し文句の新興宗教、儲かる手立てはねーのさきしょうめ。
 どーもこやつらちあかねーみてーだし、ありがたーい普勧坐禅儀と、
「この橋渡るべからず。」
「曲がった道をまっすぐ歩け。」
 一休さんじゃだめか。
 真正面に向き合え、面と向えばない、逃げれば追いかけてくる、追えば逃げる。どんな問題も同じだ、自殺も殺人も国家腰砕けも一億円詐欺もさ、妄想に多種あったろうがおまえさんは同じ。器は一つ。心は一つ。
 無心=心が無い、ないものは傷つかず病まず、金剛不壊。
 そーさわしはこの一本さ。
 あほんだれめが。
 注意一生怪我一秒、脇見運転してやがって。
 地球の癌だろうが生死の問題しかないのさ。
 弱り目に祟り目でゼニカネ吸い取る宗教に、わっはっははまりそうだな。
 金正日もおまえさんもいいことしい、あいつ可哀想だ根も葉もない乞食根性が。
 てめえが救われんけりゃ、人を救うどころか足ひっぱるだけだな。
 くもの糸に群がりたかる亡者。

2010年09月27日 08:12 せっちゃん ショートショート・まつたけ
坊主というものは遣唐使船に二人三人乗せて行って、海が荒れると投げ込む、なんまんおだぶつ役に立つか、飯食わせて飼ってりゃ当たり前。お経読んでお布施払ったら、即ちこれ越後坊主の伝統かな、嘘とはったりと大威張りの、ありがたーい法要だ随喜の涙流して、なんか情けねーんだかほかに人生の意義がねーんだか笑える。
「坐禅では草もむしれません。」
 とは、越後師家の言い種だ。
 禅宗だってのにさ。
 お寺さまになりたいってのが、教区御寺院さまに出家した、石ころみたいにこき使われて逃げてきた、なんとかしてくれって、なりわい坊主いらんおっ返した。法式博士の和尚は、血や涙の一滴もない、坊主パイはおいそれと食わすわけにゃいかん、偉いのは先代さまでたっといのはてめえの寺で、ほかにゃなーんにもない。縁のあった子まで逃げ出した。彼は務め上げてお寺さまになって、お礼奉公に来た、ながーい法要に随喜の涙流していたっけさわっはっは。
 こりゃあもう別世界だな。
 間違っても坊主にゃならんこった。
 そいつが坊主になってさ、托鉢して歩いてたら日が暮れた、泊めてくれんかと戸を叩くと、
「うちは今病人がありますから。」
 と断る。
 次の家も病人その次の家も病人、こりゃ流行病か、しょーがねえお宮に泊まると云ったら警察呼ぶとさ。
 ぽっかり月が出た。
 十五夜お月さんだ。
 そんでは一晩中歩いてやれって歩いていると、うしろから自転車が来た、
「ぼんさま泊まるとこねーのけ、だったらうちに泊まれ。」
 という、地獄に仏だ、月夜に仏かついて行った。
 蚕を飼う家だった、そこいらじゅうに蚕の棚、
「風呂へへーれや。」
「はい。」
 かあちゃんタオル一枚で出てくる、なけなしのご馳走をさ、赤ん坊と夫婦と坊主と川の字ならぬ並んで寝た。
 ありがたいったって苦しいほどにさ。
 お経読んで出てそれっきり。
 養蚕業は仏教ってこった。
 今年もまつたけが来た、年々高価になるまつたけ、車椅子になって、そうして今は入院したっきりのばーさまが送ってくれる。
 心苦しいたってなんたってこれ。
 お釈迦さまは如来応具正遍知。
 このばかたれはさ。
 弟子から岩牡蠣が来た、うんではこっちが先だ、そのまあうんまいこと、ポン酢つけて赤ワイン。
 うわーい堪能あしたはまつたけー
 どうしようもねえなあ、投げ込まれるか荒海へ。

2010年09月28日 08:37 せっちゃん しょーとしょーと・こぎん刺し
じょんがらの津軽三味線これなんに飲めや歌へや雪に寝ねやれ
 津軽三味線の山上進をお青森に尋ねて行ったら、有名なったからもう出ないって民謡酒場が云った。黒まぐろに青いほっき貝に生きた蛸にかぶと焼き、飛び切り贅沢食って田酒飲んで、お寺で山上進とジャムセッションしたピアノ弾きの幸ちゃんは、どでんでん太鼓をひっぱたき笛を吹き、助平親父がともに踊っておしりさわったり、はあてな酔っ払ってあとはようもわからん。
 雪に歌いながら歩いたっけ。
 冬の青森は迫力があった、凍りついた滝があって、海ではほっけ釣ったりのりを摘んだり、雪がなくっても40キロでびったり走るなぜだ、三代丸山は夕景浮世の終わりか始まりか。バッハだっていう思い切ってろくでもないのを聞くバーとかさ。
吹き溜まりバーとは云はむ底なしやロートレックの風にしも聞け
 山上進は申し訳なかったと、お寺のために作曲してくれた、ありがたいんだけどモーツアルト頭にはだめか。シャンソン歌手でデビューした人がいて、女どもが講演会しようっていう、聞きに行ったけど今一。
 いやうまいんだそーの。
 山へきのこ取りに行ったら、どこもかしこもきのこずらない、そだ取らぬ林は荒れて、暑い夏でもって菌も死に絶えたか。
 今年の冬は寒いってさ。
 わしはへんくつで、わけもわからん山歩きが好きだ、茂み葉を見上げても、草の穂もよし、日が当たったり、ぽっかり雲が流れて行ったり。音痴でも歌うのは好きだが、野っぱらじゃ歌わんな。
 音楽が生み出せりゃハッピーだろうけど、田中一村のように絵が書けたらって、無能のでたらめもハッピーかな。
 山菜取りはしんどいし、きのこは絶滅、あっはっは坐ってりゃいいか。
願はくは花のもとにて春死なんそのきさらぎの望月のころ
 西行の希望はない。まだ娑婆のつとめが終わってないか。
 一人でも二人でも無心を授けたい。
 なんにもない無上楽を。思い凄まじと良寛の云う、わしも寒晒し野晒しの、身を守るすべもなし守る身もなし。
 ハッピーとは正にこれ。
 一人二人救いえてどこでもかまわんぽっくり。
吹雪して津軽女がしくしくのこぎん刺しとふこれな忘れそ
 こぎん刺し四万五千円なんとかなる、母ちゃんにお土産おうってもう一度みたら四十五万、うわああの一万年のザック買った、地味でいてぱあっと目立つ。


2019年06月02日

ショートショート7

2010年10月01日 08:12 せっちゃん ショートショート・白神
秋になったら旅に出よう、津軽へ行って北海道へわたって、鱒も釣ろう、きのこも取ってと云うと、そんなひまはないと小林のほかには矢島、

【歌】いずくにか食す国おはせ白神の追良瀬の瀬の風の清やけさ

十和田湖からは奥入瀬川と白神山中からは追良瀬川と、どちらもおいらせ。ぽんこつをフェリーに乗せて、秋田の矢島と土崎港で待ち合わせ。ごーがらん一晩中エンジン音と雑魚寝。

【歌】ぶっこはれタイムマシーンに乗りて来て思ひ起こせば波の辺なる

矢島は四日しか付き合えんという、北海道は小林と二人きりか、弁当を買って飲み物を買って、まずは出発。
彼は磯っぱたで足を切った、貝を踏んづけたそうの、抜糸がまだだ、
「昨日だったんだぜ、医者が忘れてどっか遊び行った。」
八郎潟で鯉釣りのほうがいいという、べったり座ってさ。これは八郎潟の残骸といおうか、田んぼの真ん中に大沼、米余りがわかっていて干拓した、ゼネコン日本の草分けかな。

【歌】八郎のいにしへ知るや雀らや早稲の田浦は刈らむとすらむ

能代市の風の松原は、美保の松原と天橋立と日本三大松原だという、いうだけのことはある。どっしり見事な松が何千、いや何万本。トイレに水道のある公園でもって、朝飯食って用足して、
「こういうところは夕方おねえちゃんとさ。」
「能代美人な。」
「美人から先に東京へ出る。」
「かもしか出るってよ。」
目が青いんだぜ、日本人とちがう、秋田犬のDNAがヨーロッパ種だって、つまりロシア人かな、キリストの墓ってのもどっかあったぜ。

【歌】みちのくは風さへ白き松原のへにも廻らへ妹が袖振る

川へ入った、まだ紅葉には早い山の林。何匹釣り逃がし、よくみたら針がかけていた。おしょろこまのような、黄色いいわなを釣る。まだネイティブがいるんだ、川ごとに違うんだリリース。このあたりはもう白神山中か、

【歌】白神の社の旗代吹きなびき別れし妹を思ほゆるかも

白神十二湖の絶景、三百年前の火山の噴火でできたそうの、原生林の中に大小三十あまりの池、三つ四つは見たか。いとうを養殖する池がある。なんせ観光開発。青池はほんに青く、たしかに魚がいたんだと小林が云った。森の遊歩道を歩く。

【歌】白神の十二の玉と聞こえしは津軽乙女が命を碧き
【歌】津軽なる青き水底に住まへりし伝へはぶなの空洞にも聞け

2010年10月02日 07:49 せっちゃん ショートショート・白神2
【歌】白神の夕の下代吹き荒れて二十一世紀を我は知らずも
【歌】白神の夕の下代吹き荒れて湯船にひたる蛸の八足

追良瀬川は十三湖へ出る長い流域を、ベテランのカヤック、カヌーというのかようも知らん、冒険家が挑戦して、助けてくれえと泣きわめいたとか。けわしい上流と激しい水。釣り人の夢は、釣り荒れてやまめが一匹。さけますの禁漁区があった。車が何台もいた、ずんと歩くらしい。

【歌】白神は追良瀬の瀬と夢に見え今うつせみの滝のしぶきぞ

殿様が難儀をしたという大間越えから、車力村へ入る。昼食は貝味噌定食と、よっぽどのご馳走かと思ったら、帆立てのでっかい貝殻の辺に、卵御飯と煮干しが一本。ひえーと思ったら、そいつがなんぼでも食えるから不思議、

【歌】潮騒を荷ふて越ゆる平らには車力村なむ貝味噌の味

十三港の十三湖は、中世に大地震があって、一夜にして滅んだという、日本のアトランティス、推定安藤氏館あとと看板があって、発掘跡がわずかに残る。
しじみが取れる、でっかいしじみ。
「ちがうったら、ジパングのさあ黄金王国があって、世界中と取り引きして、逆転海流でもってこっちが中心、表日本だあ、ムー帝国と通じて、サブマリンがあってUFOがあって、美しいお姫さまが。」
力説したって二人聞かず、

【歌】しじみ貝夢に見えむうたかたなほ黄金のよしやあし草

小泊村竜泊温泉、日本海の夕陽の見るという、残念ながら雨。島が見える、大小二つ、道路マップにはない。
「あいつら夜中に襲って来るぞ。」
そいつはこわいといって、働きもんのかあちゃんに聞いたら、
「あれが大島と小島、天気よけりゃ青苗地区さ見える、こないだ津波あった、そう、ここらへんテレビも北海道。」
と云った。
「そうよ、雇われマダム。」
珍味食べて一杯飲んで、トイレ行ったら、となりへ来たおっさん、
「定めし名のあるお坊さんでしょう。」
と云った、
うわ、いわな釣りだども。
翌る朝かあちゃんうっすら紅さして。

【歌】草枕旅路のはてを大島の流れ寄せぬか夕陽が沈む

2010年10月03日 08:00 せっちゃん ショートショート・白神3
雨は上がったが霧と風と、木や草っぱがぶっとんで、道は竜飛岬の展望台へ、ふわっと晴れてどえらい絶景、真下には北海道、
何百という蛾が落ちていた。
逃げもしない烏。

【歌】岬にはいにしへ竜の天飛ぶや人も草木もうちなびき見ゆ
【歌】見よやこれ凡百の蛾の散らへるは竜飛岬に生けるしるしぞ

岬には青函トンネルの記念館や、自衛隊に測候所に民間ホテルに、どやつも取っ払ったらすてきな岬。日本三大潮流という、渦潮はなんとも豪勢な見ものだった。
なでしこに似てそうではない、われもこうのような白いのや、エーデルワイスみたいのや、まつむしそうでもなくってと、固有種かも知れないお花畑。
引っこ抜こうというばあさ、
「そんなん植えたってさ、つかねえから。」
よしなよって、日本人へんだしな。

【歌】珍しみ咲ける花草いくへありし渦潮巻ける竜飛岬に
【歌】身のたけは丈の白髪になんなんに魚釣り暮らせ竜飛岬を

味噌垂れのおでんを売っている、そいつをみんなで食いながら三厩町へ

【歌】味噌垂れのおでんを食らひ三厩の西部劇とぞうそぶき歩く

津軽半島からのフェリーはだれも乗らんで廃止になったってさ。
矢島はあと一日の、
「いいよおれ五能線で帰る。」
「どっか行きたいとこあっか。」
「酸ケ湯まだ行ったことねえ。」
じゃ行こうとて、今別町から鉄道沿いに入る。雨が降って山深くなって、濁り水ではフライは効かない、矢島がみみずと竿と買ったが、どうやら使い道なし。
でっかいとんび、いやあれはわしだなぞいってしばらくは晴れる、蟹田というところへ。

 歌 若しやして岬にあらむ大鷲の舞ひ立つ方に霧らひ晴れ行く
【歌】昼下がり雨は降りつつ大平の蟹の田んぼと横這ひ行かな

左折して海へ出て、瀬辺地郷沢橋内真部と下って、いや上って行くのか。
池田せいさんは青森の人、先年つれあいをなくした、
「みやこぞやよひのくもむらさきに。」
と歌ったら、主人の好きな歌だったといって、涙流す。

【歌】潮寄せ陸奥の国なむ一つ松池田せいさの家はもいずこ

では人並みに観光しようといって、八甲田山のロープウェイに乗る、一五〇〇円日本一さ、値段も高いんとちがうか、紅葉と青森ひばとふーわり霧が。てっぺんは八甲田の七つ池。

【歌】みちのくは飛天になりて鳴りとよみ見れども飽かぬ月を廻らへ
【歌】八郎の月を呑まむと今宵かも廻らひ行かむ笹あひ深み

有名な酸ケ湯へ入った、真ん中にあっち女湯こっち男湯と記すきりの、これはでっかい木造風呂、かあちゃん若い娘けっこう入ってるぞ、ひーうわ絶景の、強烈おしり向こう向いてちらっとあの、
「オリンピックよりよっぽどいいや。」
もと本来の清々。

【歌】はねかずら今する妹が奥の井の酸ヶ湯にあらむ染め出でにけれ
【歌】はねかずら今する妹が奥の井の酸ヶ湯にあらむ萌え出でにけれ

酸ケ湯を出たら、指一本立ててヒッチハイクの子、
「きったねえ車だけどいいか。」
「ソーユーコトカマイマセン。」
シニエちゃんというドイツ娘だった。
「酸ケ湯入って来たか。」
「ハイッテナイ。」
十和田湖畔へ送って行った、そこでビバークするんだという、でっかいザック背負って、北海道の山を七つも上った、八甲田も登った、しまいは富士山へという、元気いっぱいの二十四歳、
「富士山で飛行機ヒッチハイクすっか。」
「ソレデキマセン。」

【歌】金髪のメーツヘンとふうら悲し十和田を廻りなんぞ雨降る
【歌】舞茸のメールヘンとふ物語りぶなに乾杯あひ別れなむ

2010年10月04日 08:21 せっちゃん ショートショート・白神完
シニエちゃんはお寺へ寄って行く、帰ったと思ったらいっときして、玄関にお菓子がある、お礼に買って来たらしい、歩いて行ったんか、
「そんなかたいことして、嫁に行けんぞ。」
といって、しばらくはメル友していた。
その晩矢島は、抜糸の糸を引っこ抜く、
「あっちー。」
パン一になって奮闘。
流行らないユースホステルに泊まった。
「ようしおれ田沢湖案内する、岩手もさ、じきだぞ。」
という、彼は秋田へ来て二年。
翌日は晴れて、爽やかな風が吹いて、あっちこっちりんごのなる道を、大館鹿角のストーンサークル見学。
相当大規模な同じようなのが二つあって、小屋が四つ五つ建って、
「UFOが出るとこへ作ったんだぞ。」
なんてさ、がせねた。

【歌】鹿角にはストーンヘンジを荘厳のりんごは赤く秋風のとき
【歌】UFOのいにしへ今に恋わたり二十一世紀は縄文の世ぞ

田沢湖を一周、矢島がその伝説を話す、
「うんでもって、水飲んで竜になってお姫さま争ってさ、なんとかって坊主がやきもちやいて、あれおれ買った本忘れて来た。」
ヌードの像どっか立ってるんだがなって、
「松があって、そんで。」
通り過ぎたか。
そこらへん松林できのこ取り、小林は名人だった、
「あいつきのこの親類だで。」
と云って、少しは取った。
矢島は買った竿とみみずで釣り出す、玉川の酸性水が入って魚はいない。

【歌】坊主してなんの伝へぞたつこ姫松の影だに言問ひ忘れ

角館の武家屋敷を見る、粋な黒塀見越しの松って、お古い歌いやさお富、現実は映画のセットよりもくすんでたけ低く、でもどっかシックな感じ。

【歌】嫁ぎ行く小さ刀をしずやしずむかしを今につらつら椿

もうわしらも帰ろう、村上の黒岩んとこでいっぱいやろうか、きのこも取ったし、じゃわしも行こう、帰り四時間、間に合うといって矢島、スーパーでねぎと牛肉買って。
「すきやきだあ。」
土崎港へついたら、抜糸に脱いだずぼんをユースホステルに置き忘れ、車のキイもアパートの鍵もない、
「しょうがねえ。」
「うん。」
管理人呼んでアパートを開けてもらい、ここでお別れ、
ずぼん盗むやついねーからって。

【歌】萩に咲く月は今宵も出羽の国三人をのみぞ別れ来にけり

四時間をぶっ飛ばした、国道七号線、むかしのように一〇〇キロてわけにはいかんが、なんせ仲秋の名月だ、スーパーのスナックとコーヒーでもってさ、ようやく三面川はすすきさんさん。

【歌】名月やすすきなびかふいはふねのたが住まへるか同行二人


2010年10月05日 08:28 せっちゃん ショートショート・本寺
 板橋興宗禅師をお迎えして、てっちゃんの晋山式が来年の十一月四日、五日に決まった。総持寺安居のときの禅師さまで、目をかけてくれたそーの。新到にはありがた迷惑だったってさ。禅師はわしの大先輩で、海兵で終戦を向かえ、東北大に入りなおしてのちの出家、筋金入りの戦前派かな、
「ねこは悩まない。」
 というカレンダーを出して大流行する、いやそいつが面白い、並みの人間ではないな。テレビのも出ていたな。
 でもって本寺に挨拶に行く、本寺さまお大切。同末から電話があって、本寺はオーム真理教に入っていた、今でもおかしいという、
「ふーんそりゃあかん、止めちゃえゼニ助かる。」
 といったら、
「同末か知らんが名前も云わん、聞かなかったことにする。」
 とてっちゃんは云って、世話人連れて今日本寺に行く。
 若いのがオーム真理教に入れあげた、麻薬と同じ宗教体験、イメージングの世界だな空じ切らん。
 皮かむりの包茎みたいのって云えば、今時アートだの詩歌文芸もご同様で、外気に触れない、空間を知らない。
 良寛さんのように一人では生きられない。大勢よったくっていいからいいんだの世界、集団自閉症は恐ろしい。ポアだのサリン事件だの。オリバークロムウエルだのバーソロミューの大虐殺だの、宗教はそういうものさ。共産党もポルポト派も右へ倣え。
 カソリックは老獪で平和と博愛もわっはっは、エイズやエボラ出血熱を発明する、いいものはいいんだ選良だけが生き残る。
 そりゃ一神教は必ずそーなる、恨みつらみ包茎と皮むいたのと絶え間なしの喧嘩。
 オームが宗門を食い荒らす可能性はある、法式猿芝居のほかにない、皮かむりの皮ばっかり、そりゃたまったもんじゃない。
 がきっぽいオームの宗教性、麻薬に持っていかれる、てっちゃんは心配ねーわな、身心脱落なんてねーんな、立派なお寺の子ってわけの。
 なんかあほくさ。

2010年10月06日 08:12 せっちゃん ショートショート・冬虫夏草
雲の峰幾つ崩れて月の山
 月山は美しい一目で惚れこんだ、めったには拝めない、神々しい山容で月が出たらそりゃもうって、なんせ曇ったり吹雪になったり。
 雪消えぶなの新芽吹く、わしがミイラになる所ってわけで。
 月山和紙を買うんだと云って、冬行ったら猛吹雪でホワイトアウト、この秋行くと和紙工房とものみな展示館といっしょだった。冬虫夏草の陳列があった。気味が悪いってのが感想だ、中国に400種日本には150種ほどある、蝉から根っこが生え出したり、蜂から芽がぬうっと出たり、かぶとむしもあったな、一つわしも捜してやろうっていう気にはならん、奇怪至極。
 月山でミイラになって冬虫夏草になって、死んで花実を咲かせようか。
 あっはっは。
 上村松園をテレビでやっていた。
 ありゃほんとに生まれついての化け物なんかなあって、がきんころの絵が大人顔負け、すんなりデビューして垢抜けして行って、冬虫夏草のようにさ、まるっきり人間離れ。
 炎という絵。呆れかえって涙溢れ、絵の上にもう一枚。
 序の舞は皇室お買い上げ。
 皇室所蔵は日本歴史の証拠品だ、若しや千年後にも新しく。
 もう一つテレビで見た、ポアンカレ予想という数学の難問だ、これも化け物みたい天才が次々挑戦しては人生を狂わされ、ついに答えを出したら、人生そのもを破壊され。
 白昼夢みたいな、こやつも冬虫夏草ってさ。
 ど迫力で面白い。
 数学ったら足し算引き算も間違える、トポロジーも微分幾何もなーんもさっ。
 なぜだ、わしの予想にぴったり。
 理論物理のデブチンスキー博士に聞いてみよう、聞いたってちんぷんかんぷん。
 わかるんなら始めっからわかってるはず、という答えが出たら狂うかな、なんの答えにもならんでさ、数学の満足ってうっふーいやさご立派。
 上村松園は美しい、ポアンカレ予想の失敗も想像を絶して美しいのか、どっ気味悪い冬虫夏草だろうが、門外にはわからん、門内にはわかるんかな。
 解決したらはーて立派な化石人間。
 人生ってまあさおんもしれーやな、わしの知ったこっちゃないが。
 月山のミイラよりお寺でミイラなって、お参り増やすか、年金ねこばばのほうが先か。
 ちーんなんまんだぶつ。

2010年10月07日 08:29 せっちゃん ショートショート・ミデアムレア
 暑い夏が過ぎてようやく歌を書こうって気になった、短冊高いから和紙を買って形に切って、うすっぺらいの書き古しに貼りつける、三分の一のなるかなゼニ。
 昭和12年噂を聞いて、念のためと役人が入って行ったら、異様な風体の男が飛び出して、
「源氏は滅んだか。」
 と云ったそうだ。地震で全国版になった山古志のむこう、竹の高地という所だ。紙漉き工房がある。雪消えに行ってみた。じっさとばっさ二人きりでやっていた、まずは手ごろな。
 五月の接心終わって、こけちゃんが本の儲けといってなにがしかくれた、よーし行こうって、そこらどろちゃんにもっほちゃんに葬儀屋見習いの若いの乗せて、八石山ステーキを食いに行った。
 ボトルワインをとって、ステーキは牧場直結の番号がついているなかなか、山菜のつけあわせがある。
「葬儀屋かあ、ぼろ儲けしてるのに給料安いぞ。」
「いえうちへ帰って店出すんです、一年で見習い終えるから。」
 ふーん大学出も仕事ねえんでたいへんだ。
 乾杯どろちゃんこの若いの誘惑しろ、わし飲むでもっほちゃん運転だ。ミディアムレアがおいしいって、ほんにおいしい、ステーキのあと飯にぶっかけるの最高、あらほんと、お行儀悪いけどって、ナイフとフォークなと殺人道具使いやがって、フランス野郎は野蛮。
 ごきげんになって、
「源氏は滅んだかってまゆつば。」
「うそじゃねーったら。」
 って、竹の高地へ和紙を買いに行った。
 山越え行ったら雪で通れない、連休過ぎても残る、杉が倒れこんだり、わあきゃあ雪いじりして引き返す。
 はーてさて十枚ばかし歌書いて、本堂で坐っていたら、がらっと戸開いてじっさとばっさのお参りだ、がっちゃん賽銭を投げ入れる、はいどうぞってなもんで退散。
 禅堂なしの、なんとか一億円ばかし溜めりゃ建つか、宝くじは買わんと当たらん。買っても当たらんとさ。
 じっさばっさ檀家しか来ない、近頃お布施も半減して食って行けねーか。
 わしはなにしろがらんと一人坐るだけだ、てっちゃんとおっかさんとあとのことはまあよろしく。
 ぐうたら遊び呆けることしかねーから、自業自得だな。
 今年の夏の暑さには参った、あれじゃホームレスもできん。
 いやさ八石山ステーキはどうしたか、山ん中にあって、冷房ったら天井に扇風機が廻っているだけだ。
 行ってみたら潰れていたなんて。
 はてな一人じゃ飲めねーしだれか来ねーか。

2010年10月08日 08:28 せっちゃん ショートショート・どくが
 中学のころだった、なみどくがという黄色い小さな蛾で、触れると火ぶくれのようなかぶれを起こす、だれかれさんざんにやられて、二三年して収まった。その後聞かないが、寝取られ男が、かーちゃんと野郎のベットに毒蛾を放つという小説があったな、思い切ってまあ残酷シーン。幼虫に毒があって、さなぎが破裂してりんぷんにつく。成虫にはないのだ。
 学生のころだった、一日山歩きして電車に乗ったらなんかおかしい、そこらかゆいし熱もある。さしむかいきれいなおねーちゃんが乗っている、きんたまのあたり猛烈むずい、弱ったうーわ死ぬかって、たしかに毒蛾だはてどーしたってー覚えがない。
 ノーベル賞だってんで日本中湧いている、おめでたいこったさな。ノーベル賞がなんだと云った小林秀雄はあの世行き、ノーベル文学賞ってあんまり面白くない、宮沢賢治も西行もそうさな徒然草も、どだいノーベル賞なんて貰えそうもない、わっはっはへーんなの。
 科学者は五十年も前から待ち望んで、芦の隋から天井を覗く式、フィールド賞って数学だが、賞貰えないと人生はないって、なーんていうんだろ、ポアンカレ予報解決しおっちゃんは破滅する、破滅もしないんじゃ問題にならんかな、自殺しない哲学者と同じにそりゃ信ずるに値しねーわな。
 面被つけた馬車馬は必死こいて走らんけりゃゴールは至難、大発明したのが一日違いで人にさらわれたどうしよう、じゃ次したらって坊主の思惑通りにはいかん、若い断然たるいっときのこったとさ、なーるほど。
 親不孝のわしは留年してふーらり、ねぎという渾名の喫茶店に入びたり、フランスのおっさんがいいですかって隣に座った、英語もフランス語もできる、日本語まじり話す、なに云ったか覚えていない、ユーアーシアリアスボーイとそやつが云う、べつにそんなつもりはねーけんど云々、とつぜん腕を腕にこすりつける、ふるえている、ひやこいつはおかまだ、なんとか逃げた。
 そのころは一つきゃないトイレ開けたら、おねーちゃんのおしりがどっかり、さまざま微妙な色合いする、日曜画家ゴーギャンの写生みたいな、
「いけません。」
 と声があった、きれいな顔がおしりの上にあった、そーゆーこった逃げ出した。
 えれえ面していたぞと連れが云った、きっとそーゆーこったな。
 あれまこれがわししのノーベル賞か、待てよ毒蛾の話だったんだ、どくか。

2010年10月09日 07:58 せっちゃん ショートショート・へのこ
 水もしたたるいい男、いい男はなんで水がしたたるんだ、丘に上がったアマゾンの半魚人だからから、ふーんそーなん、地上じゃ金も力もないって、えっと一枚も二枚も鱗が剥げ落ちる、はーてなやっぱり落語にゃならん。
 アメリカに大物主がいた、人間さまじゃ到底無理だ、牛や羊でもってもーうめえって、いやどうしても思いを遂げたい、日本にすまたという技があると聞いて、今では飛行機で一っ飛び吉原に上がった、でどうなったって、大物主は莞爾と笑って、さすがに富士やま芸者の国です、奥に畳みが敷いてありましたってさ。
 せっかく一つ覚えを披露しても、それなによ奥に畳みってぽかん、どーもいけねえ。
 狂い天気もどーやらおさまって秋だ、ぽっかり晴れて山へ行った。松くい虫で松が全滅、復活したかと思うとまた枯れる。
 あみたけが洪水のように出ていた、いいきのこなんだけど取らない。
 きのこ食うのはわしだけ。
 ししたけが三年出てばったりになった、ししたけは大はばけつほどもあって、半径五メートルほの円を描いて出る、大盤振舞いだ、シェフが来てチャーハンを作ってくれた、そりゃおいしかった、また出ないかと思って見に行く。
 たぬきの溜め糞があった、はつたけが二三本。
 やぶっぱらかきわけてあかんぼうがある。
 さくらしめじという、ほんのり桜色したしっかりしたきのこで、茹でて大根おろしと醤油と、ほろ苦い酒の肴にぞっこん、四、五十も取ったぞ。
 これが出りゃ山は復活だ。
 だいこくしめじもまつたけもじき。
 大根もねーやなふん。
 在原の業平がお庭をそぞろ歩きに、用足しと思ったらお女中が来る、塀に節穴があったんでとっさに突っ込んだ。そーしたやんごとなきお方が表を行く、
「あれはなんじゃ。」
 とお付きに聞いた、
「はい、あれはへのこでございます。」
 ってのは、女子大の先生から聞いた、
 先生さまっての、へたな下げ話がお好きだ。
 なんで大根役者って云う、大根は中ることがない。きのこ汁に茄子を入れる、毒なしの洒落だって。もっほちゃんにおじんギャグがうつって、女部屋追い出されるってさ。美緒ちゃんのおはこは、天気予報とかけて親父のふんどしと解く、その心は、たまにあたるというやつ。
 続編考えたけど、うまいのが思い当たらん、目下募集中。
 狸の溜め糞とかけて、はつたけと解く、その心は、においがよろしいよーではてなあかんか。
みちのくのしのぶもじずりだれゆえにみだてそめにしわれならなくに
 信夫の里へ行ってみた、でっかい苔むした石がどかんとある、なんだ洒落にもならねーやって、虎女伝説やら、
早苗取る手もとやむかししのぶ摺り
 芭蕉の句碑やらあった。宝物館に板橋興宗禅師の扁額がかかる、へーえって、あのこれはおじんギャグではなくって。

2010年10月10日 08:11 せっちゃん ショートショート・すけかん
 二年後輩だった、すげえ秀才が入って来て、そのころは慶応の経済は医学部より上で、理科一類はいっち難関を、両方とも受かってやってきた、そいつにすけかんと渾名くっつけて可愛がっちまった。いいとこ行けずに土木へ行く、土木に鉱山に独文てのが最低点で、わしは独文、わだくそってのが鉱山へ行った、いいやつだったなあいつも。
 すけかんには顔向けならぬ、うっふうだれかれあいすまんこっちゃが、六十過ぎてとつぜん電話がかかって来た、
「田中正彦です、ずいぶんさがしました、お名前も変わってお坊さんになっておられたとは、おなつかしいです。」
 田中正彦ってそんなはいからなん知らねーぞ、
「はいほんとになつかしいです、よろしく。」
 電話を切ったら、何日かしてまたかかってきて、
「あの恥ずかしいながらすけかんです。」
 すわこそパニック。
 それが、ちょうどゼネコン真っ盛りで土木が大流行り、大林組に入ったという、タイにいる期間が長かった。わしの薫陶よろしくって、嘘とはったり手前味噌でのし歩くはーてな、タイの王族相手に裁判して勝った、ゼニは戻らんがなという、あの暑い国で汗を拭ったことがない、なにがしのものはなにがしかの人を雇うべきで、タイの言葉も使う、でないと問題にならぬ、よく行方不明なる日本人いる、てめえ風吹かせるからだ。
「ホテルでおねーちゃん註文したら、毛が生えてねーんだぜ、なんだこりゃって云ったら、病気の心配がねえって。」
「ふーんそんでやったんか。」
「まさか。」
 どーだかな。
 大林組のOBが坐禅に来て、
「田中っての知ってるか。」
 と聞いたら、
「田中なんてのいっぱいいる。」
「田中正彦ってんだ。」
 田中正彦かあいつは切れる、そりゃ優秀な男だったと。彼はオームで名を売った上九一式村の出身で、親父が酒を飲まず、そのせがれでもって土建屋のくせに一滴も飲まぬ。
 わしんとこで坐禅するんだといって、二三年頑張ったが、ぐうたらの朝倉と二人で山登りするうち癌になった、半年で死んでしまった。
 風呂へ入ったら若々しい体をしている、田舎坊主は格好が悪い。車乗るからさって。レストランなどで話すとでかい声で、若いのがふるえ上がったり、政治家とわたりをつけておいて、やくざが来るとだれさん知っているかというと、引っ込むんだ、走っていると、この道はたいしてゼニかかってねーなとか、わっはっはやらせ道路だとか。会社に残るはずのを引いた、後ろに手が回りそーだったんでなと笑っていた。
 会社辞めて、医者にぼったくられて三百万の健康診断をした、まっさらなんにもなしが三年後だった、じじいの癌じゃなくって若い癌だったんだ、きしょーめ朝倉が代わりに行けといったら、どっかで聞こえたかな、年賀状来なくなった。
 いいやつから死んでしまう、憎まれっ子世にはばかる。
 吉川さんという一年先輩も死んだ、ほんにすばらしい人だった、わだくそも死んだ。
 田中は、信玄煮貝というものを送ってくれた、桐の箱に入ったあわび二個。

2010年10月11日 08:28 せっちゃん ショートショート・ばん
車で出たとたん、田んぼから山鳥が飛んで来て、ぶっかって交通事故、一思いにって黒岩がスタンピングしたら、警官が突っ立つ。曲がり角でスピード違反見張ってたんだ、なんにも云わない、拾ってさっさと出発。あいつらマニュアルねーとなんにもできねーんだと羽賀が云った、空手馬鹿だ。山鳥スタンプってマニュアルはねーらしい。
 お初の山鳥料理指切ったが、そいつがうまかった、山鳥は殿様の食うもの、鴨は庶民の食うものってさ、品がよくって絶品、冬じゃなきゃ食えた代物じゃねえ、なんでも取って食う空手馬鹿が云った、春先だった。
 信濃河で鯉を釣っていたら、対岸からばんが飛び立つ、もぐったり飛んだりして来る、分水の上の広いところだ、八百メートルはあるか、竿を見ていたら目の前に来る、岸に上着いてふんのびた。
「なんだこりゃ。」
 珍現象かな、とっ捕まえて魚は釣れん持って帰った。
 体こげ茶っていうか真っ黒で、足がピンク赤いとさかと青い羽先、えらくきれいな鳥だ。
 酉年のばーさんの鳥小屋に入れて飼おうって、餌も食わず水も飲まず。
 野生の鳥は餌付け不可能って聞いたっけか、とんがらしの水飲ませて、
「ふえー。」
 殺人じゃなく殺鳥しちまった。
 きれいだ可哀想だ。
 剥製の好きな内科医にやった。
 あんときはふくろうの子も落っこちてたんだっけか、大将大喜びで剥製屋を呼ぶ、電話があって、
「あれどこで手に入れたですか。」
「二羽庭に落ちて死んでたです。」
 そうですなって、先生は警察医だった。
 禁鳥剥製にしちゃまずい。
 なんとかしたと見えて、診療室に行ったら、二羽とも立派な剥製になっていた。
 やぶ医者で、写真や絵を描くのが好きで選挙が大好きで、選挙違反で挙げられた。
 どうしたらいいおろおろ、そんなもん証拠がないうんと云うな、ばーさんが云ってその通りして出て来た。
 ばーさんは親父のまあさ役所ぐるみを無罪にした、裁判官や検事相手取ってやりあう、
「悪いこともしないのに、なんで高いところからおまえ呼ばわりされるんだ。」
 って、たんか切ったらしい。 
 わっはっは、わしにはそーゆーの遺伝してない。

2010年10月12日 08:15 せっちゃん ショートショート・鳥
 明治の遺物庫裏を改築して、庭に面して二重張りのガラス窓になった、せっかくのお庭を見せなくっちゃと大工どんの心意気、そりゃよかったんだがさ、萩が咲くと紅白満開の萩、紅葉もけっこういいし、はーてな池のかわせみがぶっ飛んで来る、猛スピードだガンお陀仏。どーしよ-もねーなカーテンしよ、きれいな羽だひすい、翡翠と字同じなんだ三羽もやっちまった。
 性懲りもなく巣食うでいいかったら、あかひょうびんが落っこちた。
「ぐわこりゃたまらねー。」
 とんびのぴ-とろろみたいに鳴いて、つがいの片方が本堂に入っちまって呼び合う、出してやろうって二時間もかかった、そののち二三度来たっきり、どうしたかと思っていたらこれだ。
 情けねえ。
 わたりは月日星ほしほしの三光鳥も見た。
 鳥って超能力あるのかな、知れわたったと見えて、ぶっからなくなったいい按配だ。
 超能力あるんだったらさ、烏においってやると、車ん中だ聞こえるはずもねーのに、きょとっと見る、はぐれ烏がびくっと、群れは無反応かな、電線の七羽ほどに、わしの仲間だ挨拶ったら、車の辺にべとっと糞ひった。
 仲間はやめた。
 つがいが巣作りしている、ほんにむつまじく嬉しそうで、交差点の信号機の上だ、あんれと思ったら帰りにはなかった。
 烏害ひどいからたいへんだとさ、ふーんいい感じだったんに。
 空の雲に空の色。
 死んでもいいって、死んで見ているんさな。
 さえずると小鳥も応ずる、人情なしに鳴けばいい。
 風や水のように。
 花のようにさ。
 せきれいに鳴いたら、ふわーっと襲うほどに。
 巣があった、うぶ毛の三羽ほったらかす。箱を工夫して容れておいたら、死にもせずひっからびもせず、何日かして巣立って行った。
 知らぬまに親が面倒見ていたんだ。
 うぐいすと鳴き合わせは、相手も必死こいて鳴く、雌の取り合いだ、わしにかなうはずもなく退散て、そこまでやったらいかん。
 小鳥と庭を歩く、二メートル先をついばんだりうかがったり。
 あほかおまえら。

2010年10月12日 20:07 せっちゃん ショートショート・馬鹿
 がきのころおふくろに連れられてどっかへ行った、線路脇歩いていた、鉄橋があってとっとこ先へ行ったら電車が来た、間に合はん、見るとレールの下が開いて、ケーブルがあり河の中洲に電柱が立つ、伝い下りてやり過ごした、おふくろは覚悟を決めたみたいな、のっこり現れた。
 とんだ馬鹿だつくずく。
 つい最近だ、運転していて眠ったくなった、でかい声で歌ったりして、ふわっと気がつくと、反対車線のガードレールだ、ブレーキを踏んでタイヤ一本パンクして停まった。振り返るとセダンとワゴン車とでかいトラックが停まっている、ワゴンからだれか飛び出してきて、
「脇見運転かあ。」
 と聞く、
「ちがう、居眠り運転だあ。」
 そうかと云って、事故もなかったし三台とも行ってしまった。
 三人名人運転で命助かった。
 国道8号線だ、そこから中越沖地震が来たんだ。三日後だった。
 まさかわしの命と引き換えにって、ふう。
 わしの命はそりゃもうわしのもんではない、
「たとい世のため人の為。」
 と決心したって、はーて糠に釘、どーしよーもないそりゃもう馬鹿だ。
 わしより馬鹿が金正日だし、中国共産党ってえ馬鹿に輪かけたのもあらーな。
 えーいくそ八つ当たり。
 はた迷惑のまあさひとりよがり、マンガだってのをてめえだけ気がつかない。
 なーんなんださ。
 ベトナムだイラクだ戦争ぶっかけちゃ惨敗っていう、世界中の笑いものアメリカ。
 見ても聞いてもいられん馬鹿。
 曼珠沙華が咲いている、世にあんな美しい花はない。
 毒が有るから日本人は尊重しない。そーかなあ。
 坊主なんてものは、馬鹿丸出しってだけの可愛いもんだ。
 うそと人形芝居に現を抜かす。
 道元禅師に後足で泥をかけ、達磨さんに毒を盛る連中。
 仏の芽を踏みにじって。
 仏飯を食らって罰当たりめが、そーさなあ最悪。

2010年10月15日 09:35 せっちゃん ショートショート・自画像
 ウフィツエ美術館自画像展を見た、横尾忠則もあった。マリーアントワネットの肖像画家ル・ブランのあどけない、いたずらっぽい少女と、レンブラントの自画像がよかった。
 自分という世間噂のどうひっくりかえしたって嘘八百、てめえのふりをする以外にない。
 すっきりしない疲れる絵かな。
 百枚も描いたというレンブラントは、自画像の虚偽を見抜く寸前まで行く。
 横尾忠則どのは云うことだけはなーるほどって、デスマスクならぬそれ、眠っているときも客気を免れぬ。寂を示す本来自画像にはほど遠い。
 自画像右代表は上村松園だ。
 自分を描く必要のないことまさにこれ、残念ながら「炎」は見られず、「序の舞」の大画面を仰山人だかりに見た。すべてモーツアルトに匹敵する、人間なんてものもういないのさ。心というこれ、世間噂を抜きん出る。
 もう一つ上の自画像は雪舟だ、天橋立であり山水長巻だ。
 自分という上っつらが消える。
 我と有情と同時成道=これが自画像だ、ほかはすべて嘘だ。
 西欧には解らない、ちらとも知れば世界平和への道。
 店長と支店長では店長の方が格が上、マリーナちゃんのお店は幡ヶ谷にあって流行っている、他愛ない女の子だと思ったらマダムの貫禄。支店長は給料の上がったの二年間黙っていて、かーちゃんに大目玉。
 三行半貰ったら真剣に口説くからってまりーなちゃんに云う。
 横尾忠則に頼んで、店長支店長の喝采の図ってのを描いてもらうか。あみちゃんにデブチンスキー博士と理論物理のがちゃがちゃ作って貰うか、わっはっは400億円の夢。
 シーシェパードが太地町で旗揚げしたとさ、野卑でいいことしいのぐはあなんてえ自画像、キリスト教の犯罪だって法王が謝ったって、キリスト教そのものが邪まだってえのに、そりゃもういつまでたってもシーシェパードだわな。
 金正日や中国共産党といっしょに自画像額縁入り。

2010年10月16日 08:37 せっちゃん ショートショート・送り人
送り人だの究極のセレモニーのと、むかしは金は唸るほど有るのしつけるで娘を貰ってくれと葬儀屋稼業、なんでかそれがいっときあぶくゼニが入って、どっと押し寄せてついには閑古鳥が鳴く、人間てどうしようもないってのの見本かな。
 坊主が嘘とはったり大威張りなら、嘘とらしくとてめえ酔っ払い、どっちも化けの皮はがれて、死人とはぜに儲けっていう身も蓋もなし。
 死んだら浮かばれねー。
 猫さえ大往生なら、象の方が百万倍もすばらしいな。
 ネアンデルタールが死者を埋葬して、人間らしくとはよろず厄介事、宗教を卒業したら、ちったあ人間も大人になれる。
 地球を平和にする、簡単だ人類抹殺すりゃいい。
 五百年もすりゃ大繁栄の地球さ、ピラミッドやスフィンクスがしまいまで残るってさ。
 世界が平和でありますようにってのが、宗教家のモットーで、宗教家は葬式が生業だ、ペンタゴンに頼んでエボラ出血熱にエイズに、その千倍ものウイルス兵器かな、先進国は水爆と同じに大競争、中国ロシアは細菌兵器かな、必死の殺人兵器総動員すりゃ、二三年で人類絶滅。
 いやさ平和。
 核の冬たって百万年もありゃ地球は甦る。
 嘘とおためごかしの葬式しなくってすむさ。
 花を飾って音楽葬だってさ、死の荘厳をおひゃらかしゃがって。
 生きてるやつになにが云える。
 どあほう。
 東京は歩きにくい疲れる、地球の癌もクライマックスシリーズかな、コクーンだのスカイタワーだの、迷路駅だの、一日半日いたら足首が激痛。
 そーだケータイ殺人考えて、いっぺんにあの世行き。
 生き残ったのはわしとばーさんかあ、そりゃどーもならん、魚になったほうがましか。
 二十三の娘が死んだんだった、海外旅行も何も二00%ハッピーってのに狭心症でばったり。
 愛と恵って戒名に入れてくれってさ、はいよう心愛淨恵信女。
 まったくにもうないんだって早く思い知れ。
 他に生きるすべはない。
 仏。

2010年10月17日 08:13 せっちゃん ショートショート・竜巻
山古志村は地震でがっぽり入って、道は縦横無尽に新しくなる、どこへどう行こうがあっちこっちで呆れ返る、地震のまんま観光地にすりゃいーのさ、なけなしのゼニやたら注ぎ込んで何がどーなる。医者にかかって薬漬けのかーちゃんさな、賦活の力失せてべったり太って、病こうもうってのはまったくそーゆーわけだ。
 共産主義だの紅衛兵の、恐ろしいったら脳味噌破壊されて中国だぜ、経済発展と軍事力のロボットは世界支配しかないのさ。戦略的互恵関係だとうそをつけ、毒きのこ販売みてえ生ぬるいんじゃねーのさ。狂っている、国民の信頼がないんじゃしょうがない。
 竜巻だな。
 幼稚園のころつむじ風に会ったな、くるくるっと来たと思ったら巻き込まれて、石垣に頭がっちん、血流れてたんこぶできて帰って来た。
 十一月釣りに行ったら、直江津の海に上と下から黒雲が巻く、そやつがつながったら竜巻だ。七本のうち三本がつながった、二本はじき上下に離れて一本だこっちへ来る。
 若しやしてって、高速道路を走りっぱなし、あわや上下が別れて、見上げる頭上を巻いて行き過ぎる。
 帰ったらテレビ見ようってさ、テレビにもラジオにも出ず、被害はなかったんだ。胎内の写真もあんなふうだった、海から十キロほどが危ない、電車さえも巻き上げる竜巻。
 天災も中国も同じだ。
 地下シェルターでも作らんきゃだめか。
 縄文人がよかったか、家つぶれりゃ建てる、洪水ならよける、きのこも間違えねーよーだし、土器に勾玉にって、三十過ぎりゃお迎えだ、老害にゃ無縁の。
 はーてな一00万年前はどーだ。
 神さまだったんかな。
 今様人類生まれ代わってもう一回ったら、みんなごめん被るわな、ダライラマでさえとんでもない人生だ、クレオパトラは自殺楊貴妃も首切られ、小野小町は賢すぎて婿ができない。
 風来坊主八十年のお釈迦さまが理想か。
 一日働かざれば一日食うべからずの百丈か。
 ロボトミイの中国とはえらい違いだ。
 わっはっは能書き垂れてねーで、しょーたれ坊主かーちゃんストライキの、てっちゃん稼がせて、はーていっぱい飲むか。

2010年10月18日 08:31 せっちゃん ショートショート・柿
 柿の皮をむいて干す、秋は雨ばっかりの越後では無理だ、焼酎にさらしたおけさ柿かな。むいた皮まで干して食ったな、けっこうまかった、白い粉を吹く前の、半熟盗って食って怒鳴られたっけ。
 がきは食うのが商売だった。
 今は柿など取る人はいない、どこへ行ってもなりっぱなし、葉っぱが落ちてさんさん柿もみじ、むかしは一つだけ残して鳥にやったが。
 やったというより捧げ物。
 年が明けて雪が降る。
 鳥がむらがる、めじろやすずめやむくどりやからすやおなが、三日で空っぽにしたな。
朝柿を取り焼死人
 これは坊主の句だったな、柿は折れやすい。梅はしなやかだがな。
 いちだ柿というのがある、天竜川の辺り、天竜の霧でもって名物の干し柿が仕上がる。小ぶりのそりゃもう絶品の味。二つ美緒ちゃんに貰った。
 おばあちゃんが飯田にいて名人だ。
 接心が終わったら、みんなで柿の皮むきに行こうってさ。なんせ美緒ちゃんただ飯食らう、いちだ柿で払えいーよだってさ。
 浜松接心には本場のうなぎが食える、こっちでは食えない代物。
 信濃河にだってうなぎはいる、黒岩がどを作って仕掛けた、パイプを切って蓋をつけて、てっぽうみみずをぶちこんで沈めた。明日行ってみるとテトラポットの上に載っている、水位が二メートルも変わる、JRの不法取水だ、あいつらばれるまで何年やってやがったか。
 黒岩は四万十川の出身で、そりゃもう気のいい男で、がきのいたずらならたいてい知っている、センスはあるし一風変っている。あるとき不細工な面した男が来て、東大出の司法研修生だ、心の修行というのがあってお寺周りをしている、山門を見ていて、気がついたら電車の時間だ、慌てて吹っ飛んで財布も学生証も忘れた、戻ったらない。
 いくらか貸してくれという。
 家は四万十川の中村だという、黒岩の家はその上流だ、そりゃもうまったく同情して飛行機代五万円貸した。
 じきとっつかまって警察が来た。
 心の修行なんてあほらしい、そのまあ不細工な面にひっかかった、
 わしのせいなんだが、五万円出したのは黒岩だ。

2010年10月19日 08:32 せっちゃん ショートショート・スフィンクス
 秋田に弟子がいて、エチオピア料理を食わせて貰った、サフラン入りのカレーとナンにメインディッシュは鰐のステーキ、ぞっこんいけたのは女将、すこぶるつきの美人が、皇室に限りなく近いエチオピア女で、シバの女王の直系かな、わっはっは恐ろしいスフィンクスの微笑み。
 日本には滅びたすなおさ。
 市会議員が嫁に貰ったんだってさ、じきに離婚した、
「そうさわしに出合ったんだ、無理もない。」
 またもとの鞘に納まった、
「わし行かなかったで。」
 病こうもう。
 秋田美人は、いいのから先に東京へ行くという、中学のころは何人かほろっとするようなのクラスにいて、目が青ずむのを不思議に思った。秋田犬のDNAはヨーロッパ種だという、シベリアをわたってやって来たんだ人間も。
 秋田か岩手にはキリストの墓があるって、ユダヤっての何人かな。
 高校受験だ、親父と二人呼ばれて、そんなんB級高校でいいったらえらく怒られた。
 生まれて始めて勉強した。二ヶ月めにはトップとおっつかっつ。なんだこんなもん。勉強できて背が高くってかけっこ速い、ふーんそーゆーのはもてて、わしみたいちびでまっくろけは爪弾き。
 受験は八科目もあって、選択問題三つ解いて、なんで家庭科なんてって、とにかく受かった。大学受験も数学全問解いて、2たす5みたい単純計算万遍なく間違って、青くなったら受かってた。
 世の中上っ調子でわたってきた、鍋底抜いて冷や飯食い、あばずれ呆けて頭剃った。栴檀は双葉から香ばし。そーいえば駒澤の校歌
「おう栴檀林。」
 とかいうのだったな。てっちゃんの国学院はものすごい校歌で、とってもついていけねえ。
 山へ行ったらせんぼんしめじ四株もあって籠にいっぱい、こうたけのおまけ付き。
 しばらくぶりだ、これがまあついの坊主がスフィンクス。
 美人てわけにゃわっはっは。
 江戸の玩具館ていうのがあって、のーんと笑う真っ赤な姫達磨。
 あれがわしのアイドルだーな。

2010年10月20日 08:11 せっちゃん しょーとしょーと・熊
 ドライブがてらきのこ取ろうと思ったら熊が出る、やめとけ。熊の胆は金と同じ値だと秋山郷の男が云った、熊の胆飲みつけると他の薬が効かなくなるとさ。彼はスキーを駅に預けておいて、冬は行き帰りスキーだった、ノルディックの選手になって、三十過ぎで運転免許規定内に取って表彰された、運動神経がいいんだ。
 若死にした。
 結婚式忘れてすっぽかしちまった、ほんにあいすまん。
平家らが落ち人となむ剃髪せりし汝がみまかりし夏
しましくは会えずもなりてみまかりし汝れに手向けの槿花一輪
 熊の牧場やれったら考えてたっけな、つまらねえ坊主よりゃいい。
 巻機山の登山宿で、味噌漬けの熊の肉食わせられた、やわらかいくせに噛み切れぬ。中学生の甥っ子つれて行った、ほったらかしにされて、
「なんだこりゃ。」
「いえあの娘が病気でして。」
 という、また来て、
「坊さんは縁起がいいんだそうで。」
 といって茶出す。ばーたれめ娘つれてこいったら、わっはっは挨拶に来た。 甥っ子は慶応の山岳部に入って、とつぜんテレビに出た。
 学生二人雪山で遭難。姉に電話すると、なに大丈夫よあの臆病者がまさかってさ。
 巻機山は沢登りがきつく、甥っ子はこわいこっちへ行くって行き止まり、どでかい一枚岩の下が道だ、カメラに撮って記念だあってやってたが、雪渓がとけていて一間跳んで向こうへ、若しや姉になんと云おうって、とにかく帰ってきた。
 まさかの山岳部へ行った。せっかく記念写真は宿におき忘れ。
 後輩を鍛えるのがうまかった、臆病転じてこわーい先輩。
 風にあおられてビバークしていたのを、連れのおふくろが通報しちまったという。OBが集結している所へ下りて来た、そりゃまあたいへんだったよーで、うっふ熊とは関係ないか。
 熊みたいにのっさりお寺へ来てぐーすか寝ていた、猫のなむを入れるとぎゃあといって出てきた。
 姉は猫好きで、甥っ子と義兄には恐怖の猫。

2010年10月21日 08:19 せっちゃん ショートショート・虹
イタリアへ行こうウフィツェ美術館、スペインだお姫さまが首切られたお城がいいって、なにしろ魚を釣りにオーストラリアへ行った。ハメリンプールという地球に酸素を提供した地衣類が生きているという、そいつを見てから世界三大釣り場だシャークベイに行く。空手馬鹿の冒険家羽賀が案内して、きしょーめえらーいお方だそうでゼニはこっち持ち。わっはっは頭へ来て喧嘩しちまった。
 ハメリンプールへ行ったらきれいな若いおねーちゃんが、日本人は二人めねってさ、泳いでいいかとしゅーしんが聞いた、いいですけど触らないでね、泳ぎ大好き人間のしゅーしんと二人もぐった、大小の岩がにょっきり、地衣類が砂を取り込んで成長するストロマトライト、小魚がいっぱいいた、つっつくと酸素の泡がぶくぶく。
「うほーい何億年前だあ。」
「赤い大陸オーストラリアのさ。」
 そーだなあって出て来た。
 タイヤの空気を抜いて砂漠を行くこと六時間、ゆっくりゆっくり砂がむきだしになると石英がにょっきり、バーストしたらスペア一個だ引き返すよりない。
 じゅごんで有名な海だった。
 知らなかったなあ、若しや見えたんかも。
 何グループか釣っていた。
 まぐろ狙うのもいた、風船をくっつけて沖に飛ばす、大仕掛けはかからず仕舞い。浅瀬にはへらやがらやぶだいやなにやらごっちゃり、岩場にひっかけておしまい。鮫がごってりいた。アオウミガメが泳ぐ、浦島太郎になって背中に乗ろうっていう。
 貝殻と魚の骨の浜。
 シャコガイの殻があった、だれか食ったんだ。
 入れ食いでかっぽれが釣れる、十メートルもある断崖だ、ようやく一匹引き揚げた、一メートル二十センチあった、刺身にした。
 刺身というものはお座敷で食うもんだ、きれいどころがお酌してさ、砂漠じゃどーもならん。
 常駐のレインジャーがいて薪を持ってきた、日本人を尊敬するって云ったな、スマトラで世話になったとか、中国人がヘリでやって来てそりゃぶっさいくのえれーめに会ったなと。
 塩田があったな、90%日本に輸出するってさ。
 一滴の雨も降らないのに虹がかかる、砂嵐のせいだな。

2010年10月22日 07:06 せっちゃん ショートショート・蝿
 漁師の船に乗って沖へ出た、しょっちゅう風が吹いていて波が荒い、まぐろにかつおを釣ろうという、七人いた釣り人のルアーを巧みに調整して、船長は船を走らせる、何しろ待った、向こうにかつおの群れが行く、すわてんで釣れず。次は底釣りですってんでにキャビンに入った、矢島が吐き戻しそー、見ているこっちがおかしくなる、矢島は治って、わしは釣り場についたとたん戻す、二度戻し三度して、でっかい灰色の赤いの釣り上げて、うわ釣りどころじゃねーや、
「体調悪いとわしらだって苦しいことある、帰りましょう。」
 といって船を戻す。
 丘へ着いて三歩ほんにけろりと治る、小笠原へ行っさまやんは、船では酔わず丘酔半日やっていた、それも困るな。
 あっちの刃物使って魚を三枚に下ろす、オーストラリアの漁師も見事なもんだ。
 頭やわたを若い釣り人が貰って行く、はーいグッドラック。
 手製の舟だぜあれ。
 オーストラリア米は腰がなくって、鮨に握ると他愛がない、それでも料理こさえて、キャンプしていたおねーちゃん三人呼んだ。
 十七だっていうスイス乙女二人、ほっぺたにピアスして可愛いいったら、
「シューベルト知ってるか。」
「知らない。」
 名前も知らない、シューベルト好きのしゅーしんがぶったまげ、
 年増がいて空手馬鹿の羽賀を口説く、
「あしたはもう行っちまうです。」
 シューベルトを歌い荒城の月を歌い、音痴のわしも歌い、楽しい宴か迷惑三昧か。
 羽賀は一人テントに這いこんだかな。
 ストロマトライトのかけらと、蝶を何頭か帽子でしゃくって持ち帰る。
 税関で重量オーバーだという、
「はい。」
 荷物詰め直すとおーけー。
 羽賀に云われた通りにさ、はーてどこへやったかな、そんなもん持ってくるなって羽賀がさ。
 オーストラリアのハエには参った、牧草の受粉に輸入した小型のハエだ、ガイドのおねーちゃんの顔に真っ黒にたかる、あいつはやってらんねーや。

2010年10月23日 16:19 せっちゃん ショートショート・もちもろこし
 かぼちゃって云うとそっぽ向くのは、終戦後芋とかぼちゃばっかり食わされたからだ、今のように上等なものはめったになく、ぐじゃぐじゃなんかよーもわからん代物、芋も沖縄百号なんてでっかいだけでまじーのがあった。
 ナプキンかけてかぼちゃのスープにワインを飲んで、メインディッシュがけちいステーキわはは戦後みたいだ。
鮭をとる信濃河波清やけくになんにおのれが突っ立ち呆け
 分水に鮭が上る、堰下の流れをあっちこっち漁師が網をかまえる、
「おーいそっちだ。」
 たって聞こえやしない、何人かわしみたいのいて、そこ行ったあ後ろだあなんてやっている、阿呆だ。
 洪水のあと行ってみると、なんか盛り上がる、逃げ遅れた鮒がたまる、ばけつみたいの拾ってきてつかみ取り。
 なんしろハングリー世代だ。
 人のものはおれのもの。
 最大は六0センチを越す、へら釣りには堪えられんな。心字池に入れた。
 池浚いして子供に掴み取りさせたら大喜び。
 池浚いは十年にいっぺんやらんと駄目だな。
 ばーさんが畑を作っていた、なんたって戦中派だ、うりやなすの取れたはうまかった、とうもろこしを作って二年目には、明日とろうっていう晩にたぬきがさらって行く。
 よく知っていらーな仕方がない止めた。
 そーさなあ忘られんのはもちもろこしだ、小ぶりの青と白のだんだら。
 北海道へ行ったら屋台を出して売っていた。
 もちもろこしと洋ナシだ、洋ナシは家畜のえさだってさまずい。
 もちもろこしは涙の出るほどに。
 次に行ったらもうどこにもない。
 こけちゃんがホテルのはげ親父に聞いた。
 目を輝かして、
「もちもろこしですか、さがしてみましょう。」
 という、農協やら電話したがからっきしない。
「もちもろこしあったかあ。」
 こけちゃんごしに聞いたら、はげ親父憮然、同じハングリー世代さな、おねーちゃんでなくってさ。
 こけちゃんは人妻だ。

2010年10月24日 06:34 せっちゃん ショートショート・おろおろ
 千日廻峰行も心の始末を知らんけりゃ無駄骨折だってさ。
 喉元過ぎれば熱さを忘れ。
 たいしたもんだえれえことをやり遂げたっていうんなら、仏じゃない犬畜生さな。
 千日廻峰行ののち、
「空しいわしはなんだったんだ。」
 と思うからに修行だな、はじめて仏の救いがある。
 臨済の碧眼終わった免許皆伝も右に同じ、首枷になったお悟り外すのは、わっはっはそりゃ今生は諦めがほうがいい。
 臨済も曹洞宗という猿芝居もほんにさ、百害あって一利なし、なんだろーなこりゃ。
死んで死んで死にきって思いのままにするわざぞよき
 捨てても捨てても捨て切れぬとは、捨てている自分があるからさって、なんにもなくなってちらともありゃどっかん新しく。
 毎日さ、生まれて始めて悟ったと云って、なんたらおれはと云って、お釈迦さまや道元禅師が仏であって、世の中他になく、てめえっかすひっかかるかも、はあてまったく知らん。
 朝に夕に坐って、飢えた虎に食われ終わって、虚空が虚空を坐禅する。
 お釈迦さまなく道元禅師なく、いぎたなく飯を食うてめえかって、光陰という影かって、雲の大激震、花の咲く痛恨、人と相対していると涙、お経を読むと涙、そりゃまあなんとも困るわな。
 坊主にだけは会いたくない、先生さまにもさ。
 今生のことなんか知らん。
 なんの責任も取らんのさ。
菩提心を発すといふは、己れ未だ度らざる前に一切衆生を度さんと発願し営むなり、設ひ在家にもあれ出家にもあれ、或は天上にもあれ、或は人間にもあれ、苦にありといふとも楽にありといふとも、早く自未得度先度他の心を発すべし。
 能無しのおろおろわしはてめえこっきり、ミイラになろうってさあてどうかな。
設ひ仏に成るべき功徳熟して円満すべしといふとも、尚ほ廻らして衆生の成仏得道に回向するなり、或は無量劫行ひて衆生を先に度して自らは終に仏に成らず。

2010年10月25日 07:05 せっちゃん ショートショート・凶
 弥彦神社の菊祭りは十一月三日から、一本の茎に800だの花つけたのやら、木みたいに育てたり管巻きあつもの、世の中には酔狂が多いんだな、美容師の卵と行ったら、おみくじ引いて大吉と出て跳び上がって喜んでいた、働き者でよく気が聞く、じじどもたむろしてるとこへ行って、
「なんでこんなふうに花咲くんだ。」
 わしが聞くとそっぽ向いて、大吉おねーちゃんにはほくほく大返答。わっはっはいいことありゃいーな。
 てっちゃんのご学友利恵ちゃんとあかみちゃんは、出雲大社で巫女さんした、すげえ高いバイト料だって。白い衣に赤い袴履いてそりゃ格好いーや。中社と大社じゃ箔が違うか、出雲大社の松の参道だけでびっくらこく。
 弥彦さまの十一月はわしはおでんを食う、一櫛百円おいしい。
 浅草で人力車に乗って、おみくじ引いたら利恵ちゃんが大吉で、これも大喜びした。わしも引いたら凶と出た。
御神籤は凶と出でなん坊守が花は上野か鐘は浅草
 そろっとお寺も紅葉する。
 山門から見るといい、中だと築山しか見えない。
 やまざくらのでっかいのがある、世に出そうという檀家の物好きが、まずもって変わり桜四本を植えた、花咲いて春は風景になるか。
 人の田んぼだった山門内が返って来た、ありがたや駐車場にして半分蓮池にした、ざりがにが芽を食う、よしやがまを刈ってわっはっはゼニかかる。
 蓮池にお堂をこさえて、わしがミイラになって入ろうったら、だれも賛成しない。法律上無理だとか、年金にする人いて外聞が悪いだとか、うるしに弱いから源のなんとかみたいにうるしのお化けになる。
 地震でもって六地蔵が半壊した、新調すると今様地蔵さっぱりだし、ようやく修理の目鼻がついた。
 でっかいお地蔵さんがあって、子供を三人抱いて、いいお顔の越後のお地蔵さん、排気ガスでまっくろになる。商売が薬で落とせるといった、
「ちっとでも削るなよ。」
「はいわかってます。」
 四十万もかけてのっぺり面のへーんなお地蔵さん。
 悲しい。
 わしのやることはたいてい凶だな。

2010年10月26日 07:08 せっちゃん ショートショート・たこげそ
たこげその揚げたのはうまいけど、いかげそまずいからないって、あんまり教養のねーおっさんが云った、世の中そうなんかな、世の中のことは日増しにさっぱりわからん。
 良寛さんの五合庵はなーんにもなしだったのに、なんせ観光地になった。吊り橋があって駐車場が二つもできて、大賑わいの売店でもってたこげそを買った。
 あったかくってうまい、むしゃむしゃ食って人を案内する。乙子神社から五合庵へ、大正時代に復元したそのものも場所も変わっていない。
 だいぶ前外人どもを数人案内した、国上寺の放生池に松があって、一人二人そこへかき登る、佐渡までも行こうって元気のいい連中、釣竿買ってのして行きゃよかった。
 日本人のわし担いでアメリカに僧堂建てようっていう、お寺もってまもなくだそんなひまなかった、糸の切れた凧やりゃよかったな、今頃ニューヨークでホームレスかそれとも~
 住職が出て怒鳴る、
「へい申し訳ねえこいつら常識ねーから。」
「そうか修行に来たんか、じゃお宝見せてやる。」
 といって、酒天童子縁起絵巻なるものを見せた。
 わっはっは酒天童子は近くの洞穴にいたんだ、でっかくってざんばらで酔っ払いのような赤い面していた、ふーん流れついたロシア人か、でもって源の頼光坂田の金時酒天童子退治の物語。
 本物は博物館でレプリカだとさ。
 あいつらどーしているかな、しょーたれ坊主がはーてそれっきりになった。
焚くほどは風がもてくる落葉かな
 五合庵があって碑があって、巧みな設計でもって、登って行くと吊り橋になる、じきに売店のある広場だ。
 吊り橋から西山連峰の電波塔が見える、南北朝時代の砦あとが巨木の森になる、蓮華寺という瀟洒な道がある。
 おねーちゃん案内して、
「次はあっちへ行こう。」
「あらあそこへ。」
 って、うっふひっかかること間違いなし。
 わしは良寛さんと同じだでそんなことはしない。

2019年06月02日

ショートショート8

2010年11月03日 08:28 せっちゃん ショートショート・きちがい
破家散宅
「支店長さん、皆さん、お久しぶりです。久延寺接心から帰ってきました。 陰の極みから生還しました。どうやら逝きました。和尚さんは遊んでいます(奥様TEL談)。皆さんで検証してみてください。一刻も早く確認したいので。
接心の垢を落としてうつろなるわがみのかろさそのかろさこそあか
さあ、早く問うてみてください。私が、敢無く敗退するかも。それもまた楽しみ。御用とお急ぎのない方(笑)。笑うという。なにが、どこが、わらうんでしょう。はら。はらが笑う。このやろう、というかんじですかね。ただおかしく、泣けるんですよ。うれしいとなくのです。ただうれしいとただ泣くのですよ。なにもそこにないのです.ただうれしいとなくのです。20時にはログアウトします.
それまでに問うてください。問わなくても別にかまいませんが(笑) 」
moch
「それダメだな~。」
「なんででしょうか? それ、ってなに。ダメってなに?」
「なんでって、認める自分があるから。」
「いえね、腹があるだけなんです。腹がヒクヒク動いて笑うんですよ.絶対的なんです。考えてないんです。だから、結局、自分なんてないんです。だから、おかしいんです。笑うんです。自分でなく、腹がね。本当です。」
「それはそれでいいけど、そういう事じゃないです。」
「もう、20時過ぎてますが眠たくありませんので、いきましょう。それはそれ、そういう事。「それ」とは、結局なんでしょうか? では何を? ということです。」
「なんにもないのに、貴方はあります。明日になるとまた全然ちがいます。」
「あるようなないような、というところなんです。明日は、ありません。」
「だから間違っています。」
「間違える。間違う。とおっしゃっている。むなしくないですか?」
「もと空しいに決まっています。」
「いや、まことにまことに、もとむなしい。むなしいことを知れば、むなしくない。なんともおかしく ありませんか? だから頭でなく、腹がよし、俺の出番だと 笑い倒しにくるのです。これ、絶対の笑い。空虚。いま私は、この空虚という言葉にさえ、大笑い指定し増します。くるったかな.ああおもしろいl というところなのです。」
「莫妄想。」
「妄想でないものとは何?まく妄想ではなく、皆妄想ではないのですか? と、逆に問うてみました。」
「坐って落として下さい。それでは使い物になりません。」
「使いませんよ。使うとか使えないとかそういうことではないんです。ああ、次の方どうぞ。」
「はいはいご勝手に。うふ。」
「ありがとう。 いひひ。」
こういうことがあったりします、気を付けて下さい。なんにもない無事禅よりゃましですが、気が狂うこともままあります。

2010年11月04日 08:28 せっちゃん ショートショート・寒い
 暁天坐雷が鳴って轟然たる、そうさな北国日和定めなきの十一月うら寒い雨が降ってさ。見れば築山は紅葉、こりゃなかなかのもんだきぱっと来る。
 はーてさて落葉掻きが大騒ぎ、天竜和尚がブロワーを一台寄付してくれたってのに、やっぱてっちゃんの云う通り、若しやそんなんじゃまったくどーもならんか、秋は干し柿も出来ないほど雨ばっかり。濡れ落葉ってのはわしのこったか。
 美緒ちゃんはお里に帰って市田柿を剥くってさ、十二月にはご馳走になれるか。
あかねさし月は今宵もわたらへど百代もがもな秋山の道
代々をしも隠れ住まへる秋山の紅葉下照る云はむかたなし
 平家の落人部落秋山郷は、紅葉の下に宝が隠されていると云う、食うや食わずどころではない物凄い暮らしが大正時代まで続く、人の本を盗み読みしたら、人間はこんな思いまでして生きにゃならんかって、なんだかうんざりする。熊と岩魚と栃の実を拾ってと、ほか何を食っていたんだか。
 アイルランドのほうが厳しいってだれか云った、岩だらけを耕してじゃがいものだけの、ケネディ大統領を生んだ不屈の魂は、生き残り第一の上にカソリックで生めよ増やせよ、わっはっはうんざりするほどはびこるわな。
 わしゃもう人のことなんかどーでもいーか、能無しのただもうはた迷惑してあの世行き。
山門をさわたるものは月にしや紅葉散らへば時雨るばかり
しぐれつつ雲井さわたる月にしや七十我れはさ寝もい寝やれ
 中国だロシアだ世の中剣呑だな、外交のない国か。
無惨やな兜の下のきりぎりす
 サムライの志持ったやつの一人二人、はてなあ昭和天皇に殉死しちまったか。
 困難な時代にさ、なにか残せるものはないか。
 必死になって伝え残して。
 美緒ちゃんと寒山拾得やって、人の物笑いになってさたとい生き残ること。
身障者手帳付き添い一名ただの展覧会見て、にったり涎たらしてしまいミイラに。
やんまらが襲へるなしや秋津島山茶花椿いたずらに咲く
 ふーん寒いな。

2010年11月05日 08:24 せっちゃん ショートショート・しもふりぼーず
 てっちゃんが草刈ったあとにへーんなきのこが二本、すぎのわかえがまっしろになって出ているんだけど、なぜか毒きのこに変化、右食用代表みたいして千年来たってのにさ。美人きのことって食ったらトイレに行く、三回も行く、黙っていたら家中しかり、由来きのこ博士返上、取ってきてもだれも食やがらん。
 枯れたくるみの大木がどっさん倒れて、材木屋が伐った、お墓直撃も被害なし、寄付金さぼって払わねーお墓にどっかん、悪運強いやつだぜ。枯れ木じゃきのこ植えても駄目だな。
 今年の夏はどえらい暑かった。
 横尾忠則全ポスター展に招待されて、暑いなんてもんじゃない七月十二日、大阪中ノ島国立国際美術館、内覧会開会式レセプションだってさ。
 坊主の面出すところじゃねーんだけど、忠則先生は一宿一飯の恩義を忘れず。このポスターときたら評論家どものど肝を抜く作品。わっはっはほんに面白いぜ。
 なんで流行ったかって、わしなんぞには預り知らぬ所以。
 酒がだめで病気の巣みたいな人で、ゼニカネしっかりしてる関西人が、人を逸らさぬ大親切、まあさいい人なんだな。
 それがさ招待をさぼって四回めに、横尾美美展、えーとなんて云ったかな、東京のこじんまりした美術館に、もうぜったい行かなきゃならん、はーてなどろちゃんと美緒ちゃんに代役頼んだ。
 美緒ちゃんは緊張しきって、後遺症が残ったぐらい、例によって派手派手きもの着て立派に代役を果たす。さすが寒山拾得だとどろちゃんが感心する。
 横尾美美どのは娘さんだった。チャーミングな絵を描く、一枚売れたってさ。
 忠則どのから礼状が来た。
 ウフィツェ入りした自画像の絵葉書だ、よく見るとけっこう半分は悟っているんかな。
 わしが唯一有名人とのお付き合いも終わりか。
 山門の四天王を塗り替えのとき、うっかり忘れていたんだ、1300万もかかってなんとも駄作、横尾どのにお願いしたらってさ、残念だったな。
 しもふりぼーずってきのこが出る、それとって今年はおしまい。

2010年11月06日 08:27 せっちゃん ショートショート・金雲
日に舞へや月に踊れや山門の阿吽の獅子は鳴る萱にして
 タイに行ったら獅子だかシーサーだか狛犬さんだか阿吽じゃなく、二つとも口開いてる、きゅうえんじの山門のもそーだった、日本だけが阿吽なんか、シーサーは一匹なんか、だれか物知り教えておくれ。
 遊びに行きてーけどかーちゃんは仮病のストライキ、てっちゃんはお経に飯の支度にってさ、こないだふらついてきたばっかりだし、雨ざんざか紅葉激変お寺もすんばらしーやふわーい欠伸。
禅家流、仏性の義を知らんと欲せば、当に時節因縁を観ずべし。之を教外別伝、単伝心印、直指人心、見性成仏と謂う。釈迦老師、四十九年の住世、三百六十会に、頓漸権実を開談す。之を一代時経と謂う。這の僧ねんじ来たり問うて云く、
「如何なるか是れ一代時経。」
 と。雲門彼のために紛々と解説せずして、却って他に向って箇の、
「対一説。」
 と道う。
 ふーんなんで倒一説じゃいけねーんだ、関じゃだめか。
雲門は尋常一句の中に、須からく三句を具す。之を函蓋乾坤の句、隋波逐浪の句、載断衆流の句と謂う。放去収来、自然に奇特、釘を斬り鉄を切るが如く、人をして他底を義解し卜度し得ざらしむ。
 雲門の法だといって何物かふりかざす、出してみろどあほ。
 そんなもんあるわけねーじゃねーか。
 逆立ちしてけつ舐めろ。
 門こんに足を押折せらる、レールのついた重い扉だったんだろうな、
「如何なるか是れ仏。」
 三たびめはどかーん問うめえが向こうへ行く、転ずるんだなあ、まったく容易なこっちゃないさ。
 一代時経っきりになったら、てめえの一代時経にしろって、たとい紆余曲折もまったく見えず、うわっと気が付くか。
僧雲門に問いう、
「是れ目前の機にあらず、亦目前の事に非ざる時如何。」
門云く、
「倒一説。」
 倒一説どはきれいさっぱり。
 ぽっかり金色の雲うわーい雲門だってさ、わっはっはあやついねーで命拾いしたな。

2010年11月07日 08:18 せっちゃん ショートショート・まーがりん
マーガリンとは油ぎっとぎと代用バターと思ったら、濃い牛乳を振って作る、そいつが美味しい。美ヶ原の見晴らし屋台で買った、牧場やってるんてさ。ごそっとしたいいパンが欲しいな。カサミンゴというドイツ風レストランがある、長野市郊外だ、ハムとソーセージとお菓子がすばらしい、野沢温泉にはかしぐるみが売っている、つでに野沢菜も買って。
 遠いしなあそーは行ってらんねーや。古墳見ツアーこさえて、この国難の時におねーちゃん寄せてぱーっとやっか。
 岩の原ワインのさしむかいに古墳があった。
 岩の原ワインてむちゃくちゃ苦労の末にはーてな、そーゆーのは勝手にさらせレーズン買って、径五メートルほどがおっぱい型古墳に登る。パンツ見えたって夜中むくつけき豪族が出たりさ。女の古墳てのもあったんかな。
 10キロ行くとぶなの林に六十基の古墳群がある。春はかたくりの花にいちめん。
 三つもそういうのあって18号線を信州へ、松代の大室古墳群は五百何十もある、千曲川の辺り、谷ぜんたいが古墳だ、三途の川を渡ってつまり墓場だな、一家に一基前の押しのけて納めたりってさ。
 ぜんぶ廻るのはしんどい、家混み小路を通って、山っぺたに立派な施設がある。ボランティアに学芸員にって、さっぱり流行らねーやな。
 近くには前方後円墳のでっかい模型がある、いや現物を復活したんな、送迎バスが出ていて、小学校の遠足がねり歩く。
 古墳てのは教育的効果しかねーんかな、エジプトの発掘みたい豪勢な金ぴかってわけにはいかん、石だの土器だの鏃に石斧にぼろ錆びた刀って、ふーん恐竜の化石のほうがよっぽどゼニ儲け。
 ナサ発明の無重力船にはーてそんなものあっかな、優雅な衣笠さして、とっときの美女乗せて王侯貴族、しょうしちりきにピーヒャラやらかして古墳廻り、うんいけねーどっか不具合で一000年ずれこんだ、こりゃほんとの古墳時代、さーてどーなるって戦争だあ、中国漁船にぶちかますこともできねえ大和民族の末は大敗。
 待てよするてーとあの古墳もしやわしの。
 ちえ冴えねーな。

2010年11月08日 08:00 せっちゃん ショートショート・どんこ
 どんこって知ってるかって天竜和尚が聞く、うんかじかの子分だろうって云ったら、しいたけだってさ。真ん丸く肥った開かないのを四日も煮込む。
 料亭三好の女将がどんこ弁当を作ってくれた、京王百貨店に出すという、
「あっちへ取られこっちへ取られ儲けは百円しかないのよ。」
「ふーん百貨店悪商売な。」
 どんこ弁当もってさしらびそ高原へ行く。南アルプスが真正面に見える、きっともう初冠雪。
 あいにく雨になった。熊と書いてくんまと読む、おばあちゃんの道の駅があって、そこからつつれ折を登る。かめちゃん車に美緒ちゃん、でぶちんすきー博士はかっこいいミニに乗って、がーやんはジープ、わしともっほちゃんとで車四台はた迷惑の行進。
 がーやんがおやきを食って、おやき嫌いなもっほちゃんに押しつける、
「あんこだよ。」
「わーやだ。」
 五平餅がおいしかった、お土産買ったりなんだかんだ、天竜川を行き支流を遡り、次第に紅葉まっさかり。どうやらはぐれず一時過ぎにはついた。わしがどんこ弁当三つ落として水溜り、
「うわ。」
 汚染なしだってばさ。どんこ六つも入っていた、そりゃうまかった。弁当っていうか鮨だ。ばんざーいってんで食ってお別れ。
 霧と雨で視界ゼロ、しらびその紅葉を行く。でぶちんすきー博士は東京へ、ノーベル賞取ったら賞金三分の一よこせって、わしが生きてるわけがねーやな。がーやんは茨城へ、介護士してる、九十でもおったつじっさがいるってさ。
 わしらは美緒ちゃんをお里に届ける。市田市だ、いちだがきを剥くのを手伝いに来たってさ。
 おいしい干し柿だ、まったく品種改良なしで来たんだってさ。
 元善光寺へよった。善光という人の創建で、牛に引かれて善光寺参りの本家だそーな。人形のうらに願い事書いてお祀りするっていうの、かあちゃんの仮病平癒に買った。胎内廻りは真っ暗がり、手すりにつかまって歩く。けーたいの明かりはそりゃ野暮だ。
 あくる日どーやら晴れて北アルプスの初冠雪を見た、感動だった。
 遊び呆けて帰って来てしーん。

2010年11月09日 08:12 せっちゃん ショートショート・余禄
善光寺は中学校に行くのに毎日通った、鳩をパチンコで狙ってみたり、城山を上ってりんごをぱくったり、ぽかんと突っ立っていて大道香具師になけなし持って行かれたり、終戦からまもなくの時代、パン助の青かんもいたな。
 何十年ぶりかで行ってみたら、むかし変わらずの大盛況、中国オリンピックをボイコットして人気が上がったぜな。マッカーサー指令で病気うつる触るなっておびんずるさまも健在、でっかい草鞋のある仁王門は修理中だった。
 市内は激変さっぱりわからん、くじびきで受かった付属中学は引っ越した、隣に刑務所があって笠かぶった行列もみたな。
マッカーサーも鬼籍に入らん信仰のおびんずるさま空ろ面寄せ
 台風が来たっけな、貸し本屋に本を返して、手塚治虫立ち読みして帰って来たらどーっと来た、風速三十メートルは向っているのに、一歩も行かぬ、がんと当たって雹だった、顔面血だらけにして風がばったり止む、台風の目に入ったんだ、りんご畑が真っ赤になって落ちていた、すぐりの生垣があってつまんで食って家に帰った。
 大家のせがれが同級生で、キャッチャーやっていたがてんかん持ち、丸いもの見るとひっくりかえって泡吹く、よくやってたな。つねちゃんという一級上のわるがきが隣にいて、喧嘩も強く、かっぱらうことを余禄といった。たいていなんでも余得した。うらにははかたという同級生がいて、喧嘩して仲治りして、はかたは文字や文章がほれぼれするほど上手で、はかたのほうはわしの描く絵をやっかむほど羨んでいた。
 嵐のあとくるみを余禄に行って、大ざるに山分け。
 三人で万引きしたらわしがとっ捕まって、警察と思ったら信大教育学部のアルバイトで、もうするなと云って許してくれた。二年間だったな。
 一別以来会ってない、はかたは東北大へ行ったと聞いた、つねちゃんも大家のせがれもわからない。
 弟を入れて四人だった。
 弟はアルツハイマーになってから、それも相当進んでぜがひにわしを連れて、むかし住んでいたあたりに行く。弟の嫁もいっしょだった、わしは逃げ出した。嫁と二人車が大破して助かったという。
 しばらくして死んだ。
門前の鳩を狙はむがきんたれ半世紀を過ぎて夢に見るかや

2010年11月10日 08:26 せっちゃん ショートショート・数珠
 また四人で旅に行こうっと云ってドタキャン、ゆきちゃん一人になった、駅で迎えて車に乗っけて出発、
「あらあたし一人なの。」
「なぜだかそーゆーことに。」
「困るわ。」
 はいよーってるんるん、どっかすし屋へ寄ったら阪神戦やっている、応援団してるゆきちゃんわーおがお、関西弁だ、関西人ってどこ行ってもそーだな。計画通り走って、夜明け青森に着いて一眠り、ふーわ男と女しようったら、弟子のべえと婚約したんだと。
「じゃしょーがねえ弟子呼ぼう。」
 野辺地ですし屋の弁当食って、海に足突っ込んで、おもちゃみたいなひとでいた、わらべ歌して散歩、
「北限椿ってのあるんだぜ、八百比丘尼が植えた。」
「人魚食べたっていう人。」
 それから恐山へ行った。
 風車が廻って地獄のここは出張所、ベンツのバイクだって自慢そうに乗って来た兄ちゃんがいた。青い格好いいやつ。はーてなあっちこっちにお賽銭、やだよーマリリンモンローの東北弁、すんなのご利益ねーやとか云って出さず。 奥薬研温泉は混浴だって聞いた、行ったら道間違えた。
 恐山の祟りだ。
 カーナビがおかしくなる、湖をわたっている、未舗装になって森の中を行けども行けども、北限の猿がいた。
 やっと出てきて腹へった、レストランねーかってご立派な介護施設がある。 あたしが運転するって、ゆきちゃんのこわーい運転、スナックに入って、
「ランチタイム過ぎましたんでカレーだけです。」
「カレーでいいくれ。」
 平らげてコーヒー頼むと出てこない、
「いえお客さんが来てから、豆から轢きますんで。」
 という、それがうまかった。
「はい、北限でがんばってます。」
 うっふっふ。
 弟子のべいが来たおもろくねえ。わざと外しといたのにさ。
 ゆきちゃんはピアノ弾きで、温泉旅館で酔っ払い相手に弾く。知らない歌でも伴奏つける、学校に就職なんぞの比じゃなかった、プロになるはずが大先生が自殺しちまった。
 わしらはメル友だった、関西弁メールがとんでも面白かった。
 お寺で結婚式をやった。
 明美ちゃんがそっくり写真ごと載せて、ブログナンバーワンになった。
 式師は数珠を授ける、まぶしいばかりの花嫁に、その数珠は父親のせいで死んだ娘の物だった。
 せめてものっていうと、二倍幸せになるからって。
 アルツハイマーの弟に今わの際に会いに行った。
 でたらめ法界の兄の生贄になったんだ。

2010年11月11日 08:18 せっちゃん ショートショート・ぼけ
 紅葉の真っ盛りだな、時雨降って雷鳴って、風もだいぶ吹いて葉っぱが吹っ飛ぶ、なんでこんなに美しいんだろ、わしのやることがさつでみっともないっていうのにさ。
今我ら宿善の助くるに依りて、すでに受け難き人身を受けたるのみに非ず、遭い難き仏法に値い奉れり、生死の中の善生、最勝の生なるべし、最勝の善身をして露命を無常の風に任すること勿れ。
 ふーん何をしていたんかな、わしの一生はた迷惑に無駄遣いばっかり、
これなんに嗚呼玉杯に花受けて初たけのこを防府に食らひ
 先輩は五十で旭化成の企画室長になった、一人きりの部屋にぽつん、まあさお払い箱になったんだ、理科頭の優秀も人を扱える懐がない、いやまあささわしにはわからん。防府のたけのこはごん太くってうまかった。同寮会して七人ほど寄ったくる、頭がいいってまんまぼけた連中な、絞られ粕か。
古墳つき蜜柑畑を受け継ひで先輩なれはやもめに暮らす
 生まれて始めての西国巡礼。
 秋の宮島は花の散りきわ、選抜で優勝した広島の高校がお礼参りをさ、すんでに間に合わず。昼飯食わずに駆けつけたあなご弁当はまずい、観光ばっさどもにむしられ鹿に囲まれ、うっふう潮干狩りでもすりゃよかった。
朱けにして阿鼻叫喚の波枕吹き入る花をうたかたの宮
源平は浮世の花とうつろへどこは納経の真面目ぞ
 長年坊主をやっていたら、平家納経のあのすんばらしい字が読める、感動。
 萩に行って、そりゃもういいとこだった、萩も笠島椿もさ。
 松陰神社にお参りした。
獄門の露に消えたる松陰の今しこの世を何変はらずや
いにしへゆ朝日射しこも松や松涙ゆすれて過ぎがてにせむ
 松陰のへたくそな字がわしにそっくり。

2010年11月12日 08:04 せっちゃん ショートショート・鬼門
 出雲大社の壮大さにぼっ魂消って、大昔はもっとでかかったんだ、バスでやって来た観光ガイドのあとついて行って、三三七拍子じゃなくって、えーと拍手打ってーあんりゃ忘れちまった、やっぱゼニ払わねーとご利益ねーか。
 本殿のきざはしに神主の人形が七つある、と思ったら本物だった、かしずいたまんま何時間を、はーてさ本物かなあ。
万代に伝へまつらむ日の本の大社なる松のまかり路
松の参道だけでど肝を抜かれ。
「ここでならあたしもう一回結婚してもいいわ。」
 恵美子ちゃんが云った。
 やっじーと結婚して子どもだけこさえて、式省略した、ふーん飲めねえ。
三界の花のあしたをいやひこの浮世わたらひ今しもうでぬ
 御神籤引いたら北北東は鬼門と出た、鬼門たって日出岬へ行こう、そこから松江にってのして行ったら迷った、浜から山からたらい回しの末に、気がついたら出雲大社の左裏手。
「きえーやっぱり出雲大社。」
 遅れ取り戻そうとて、できたての高速道路に乗った、
「なぬ。」
 真正面にどーんと富士山、いったいいつタイムマシーンに乗ったんだって鳥取大山だ、八百万の神さまたしかにこりゃ伯き(老に日)富士。
今生はつひに尽きなんはぐれ雲伯きの富士を目交に見む
 雪舟庭園を見ようと思って昼飯時だ、イタリアレストランの看板があって、廻りめぐって本日定休日。
 雪舟より腹減ったって見ずじまい。石見銀山もあって、柿本人麻呂のゆかりも、
「なによかきのもとって。」
 浜辺にレストランがあった、大阪で修行したんだっていう、薀蓄傾けるだけあって美味しかった。

2010年11月13日 08:14 せっちゃん ショートショート・天橋立
 とにかく泊らにゃならん、日は暮れるようもわからん走って行って、温泉津温泉ていうのがあった、
「なんじゃあこりゃ。」
「ゆのうずって読むんだってさ。」
 へえそりゃ老舗だあな、なんしろ泊めてくれりゃあって、泊めてくれた。
 宿の前に角が生えている像がある。
角のあるのはわたしの心
合掌させるは仏さま
鬼が仏に抱かれて
心柔き角も折れ
火の車の因作っても
みな消されて其の上に
歓喜心にみちみちる
嬉恥し今ここに
蓮の台が待っている
 浅原才一妙好人、ここで下駄屋してたってさ。
 なーるほどたいへんなこった、ここまでするにはわっはっはご苦労さん。
 宿のばっさがふるっていた、北門屋敷の仲居は弓の名人だって、おっかなかったけど、こりゃだいぶ格が上だ。
恋煩ひひいっひっひいとて温泉津の角に生ひたる婆さま椿
 喉がおかしくってひいっひひいと笑う、妙好人才一の弟子だな。
 鍵かけて入れる風呂あったのに、恵美子ちゃんにパスされた、ふられたあってゆきちゃんに云うと、和尚さまかわいそーにだってさ、きしょーめ。
 あくる日発心寺に寄ろうと思ったら、新道がどーんとできて、
「どこで曲がるんだ。」
「もう過ぎたみてえ。」
 雪渓大老師せっかく素通りして、天橋立に泊まった、遅くなってレストランで食事、最後の晩餐だってんでもって酔っ払う。
ほととぎす酔ふてもわたれ能無しや今宵満月天橋立
 股覗きの展望台に行く、なーるほどこうして見るとすっきり。土田舎団体がわけのわかんねことしゃべくる、礼儀はねーしいったいなんだと思ったら中国人だった、げそ。
今をかも花の盛りにこれあらむつばくろ舞ふか四天王門
 帰って来たら花の真っ盛りだった、咲いて散ってまた咲いて。

2010年11月14日 08:22 せっちゃん ショートショート。豪雪
 入広瀬を通って田子倉ダムを越えると只見町だ、このダム爆破したらそりゃ柳津まで水浸し、もっともちょっとやそっとじゃぶっこれねえってはーてほんとかな。すてきな阿賀野川取り戻すにはダムいらん。
 あれは口内炎激痛をなんとか治して、黒岩と釣りに行った。口内炎は歯医者の薬しか効かない、貼り付けるのは卓効だが一人じゃむり。伊南川という絶好の川があった。フライを振って黒岩は上へ、わしは下をさぐって行ったら、こーんなこまいの一尾見えて、いねーやってんで上を見ると、黒岩がおっさんと話している、なんしただべ行ってみると、釣れねえ川だってのにさ、遊魚券買えって、そこへ顔出したわしも取られ。
「なんで来たんだ。」
「ふんなもんまったく。」
 車に入って紅茶飲んだら、日差しでかんかん、くーわ口内炎ぶり返す、けったくそわりい。
ずくなしのくたちに山を深みかも道は会津へ伊南の川風
 口内炎はもう飽きたっていうと治る、いい治療法だろほんとだよ。
 がーやんが伊南川の辺へ引っ越すという、そりゃどえらいこっちゃ。夏はいいけど冬は地獄、馴れないやつには住めんな、三年我慢してはーてどーだべ。
 お寺は豪雪地帯のほんのはしくれだった。毎日時雨降って真っ暗がり、ふうっと晴れたと思ったらどんがらぴっしゃ雷鳴って雪。半年は雪の中。かんじきで踏んで道をつけ、あとは屋根の雪下ろし、三回めには雪上げだ。七年格闘したらどうにか馴れた。スノーダンプになった、速いけどやけくたびれ。
 雪の少ない10年甦る思いが、今年は大雪だとさ。
 雪下ろしも忘れた。
 只見町は天童よしみゆかりのさ、そーは降らんだろうか、どーだなんだろうか心配だ、降らないたって凍みることは天下一品。
 がーやんミイラ堀り起こしに行くか、梅干しばっさじゃねえアイスウーマン。
しましくに降り止みぬれば大面村松のしのだへ物音もせで

2010年11月15日 08:14 せっちゃん ショートショート・いい湯
 笹川の流れは新潟県一の景勝地で、でもしか教師やってたころ一クラス全員つれて行った、石英砂の鳴き浜だった、百もの花をつけた山百合の行列、もうまったく夢のような風景だった。がき二つできてかあちゃんと尋ねて行った、たしかにここらへんだはーてなあ、人に聞いたら笹川の流れですという、呆然つったった。薄汚れた海岸に車が通る、岩あり松が生い茂ってそーさなどこにもある浜だ。
 車が通ればこーゆーこったか、野積みの磯も同じごみだらけ。むかしは潮騒洗う清楚な道をったって、そりゃまはじまらんわな。
笹川の流れと云はむうねり寄せ春粟島の荒れ残りたる
 景勝には変わりなく、人の行かぬ春先には、荒波の道をドライブして一時間勝木に着く、じきに山形県だ。釣りは庄内ナンバーの車ばかり、そりゃ山でも庄内ナンバーだな、なぜかってそーゆーこったかな。
 勝木にはやっじーとかあちゃんと赤ん坊がいて、まむしとすずめばちと猿が来る。やまびるは朝日村の黒岩ん寺か。たんげんさんとこはどーしよーもない世話人がいる、ありゃさいてーだ。
 義経伝説のある鼠ヶ関は温海町で、あつみ温泉万国屋は、フランスであった万国博覧会の因みに名をつけた。田中角栄御用達で越後人にはおなじみ、
花の咲く春は千歳を若返りあつみ川なむ海へさし入れ
 花見がてらかーちゃん孝行は、温海温泉までずうーっと花のトンネルだった、そりゃ堪能した。一泊したら満員で追ん出され湯田川温泉に行く、延喜式の大むかしからという、温泉の質は最良、まあさわしはからすの行水だで知らん。
いにしへのもののふどもが足駄がけ花の山路の行方知らずも
 藤沢周平の執筆したっていう宿へ泊まった。
 海へ行くと由良の浜には、八乙女温泉というできたてがあって、すんでに波の洗う磯っぱた。
空しくは塩の花なむかもめ鳥由良の浜みのきぬぎぬをかも
 浜伝い水母の館がある、加茂の水族館といって有名になった。
二人して水母の海に吸ひ込まれ広大宇宙か檻の中なる
 はーてさてゼニがありゃいーとこだよ、一度はおいでどっこいしょ。

2010年11月16日 08:11 せっちゃん ショートショート・笑うが如く
鳥海山の五合目までは車で行ける、いつだったか青森へ行く途中あんまりいい月夜だったから上ったら霧、なーに晴れるからって濃霧になって五メートル先も五里霧中、それでも伸して行って秋田側へ行く、ぶーぶー文句云われたいひひ。
 晴れたら真昼間早稲の田んぼにまっしろい波打ち際。
鳥海を廻らひ行ける久しきに遊佐の松浦に出羽の風吹く
 まつたけ売ってたけどはーてな鳥海石ってのは取れる。ついこないだ熊が出て一人死に一人大怪我したってさ。
 鳥海山のあたりににしん御殿の本家がある、一介の漁師から身を起こして巨万の富を築く、大勢こき使っていやたいしたもんだ、わっはっは冬の荒海にぬうと突っ立っている写真がある。
 にしん御殿はえーと小樽にあって、
「本間様には及びもないが、せめてなりたや殿さまに。」
 の本間様より、立派なの建ててくれって娘にせがまれたそーの。
 はーいまったく。
娘には本間さまより豪華なるにしん御殿の秋明菊も
 秋田まではけっこう長い、青森も長い、東北はだだっぴろい。
「象潟は笑うが如く、松島は恨むが如く。」
 と芭蕉の云う、
象潟や雨に西施が合歓の花
 道の駅象潟には、市が立って食い物からなんでも売る、夜は寝る部屋もある。川が一本流れ込んでいて、もぐってあわびとったとさまやんが云っていた、さまやんは毎年鳥海山に登る、やっじーや宮部もつられて行った。こぶし大の石が風で吹っ飛ぶんだという、荒れたらそりゃ物凄い。しょっちゅう荒れるとさ。
 奥の細道のあと象潟は隆起して、せっかくの松島も田んぼの中、
「へえ、笑うが如くってこれか。」
 そりゃ違うってばさ、わっはっはほんに様にならんわ。
 酒田には舞妓がいる、本間屋敷はでーんと構えているし、おしんの山居倉庫もある。土門拳の写真館もなかなか。
 すしは名物だけど江戸前じゃないよ。

2010年11月17日 08:16 せっちゃん ショートショート・鱈祭り
角館の武家屋敷は粋な黒塀見越しの松の、いやさ桜の咲くころが見ごろかな。たしかに残ってはいるんだけど、映画のセットならもっと立派で、今の背丈に合わせてゆったり、こじんまり日本人の踏み石伝いわっはっは大女が歩く、わしより10センチは上背あるな、挨拶して食み出すのはこっち。
嫁ぎ行く小さ刀をしずやしずむかしを今につらつら椿
 昼飯は村松君がいなにわうどん、わしと美緒ちゃんがひないどり丼とって、1500円高いけどうんまかった、うまくねえって村松君がぼやく。あんちょこかび生えたそーめんの方がうめーや。
 じょーえとわしと村松君と美緒ちゃん四人で道南に釣りに行った。秘密の場所があって入れ食いで釣れる。
 それがどーにも三0センチを越えない、リリース止めて間引きしてでっかく肥らそうぜって、
「ようし百匹釣って燻製だ。」
 てなもんの。
 いわなやおしょろこまの燻製はうまい、丸ごとむしゃむしゃ。明美ちゃんが燻製博士だそーで、釣ったのみんな宅急便で送ってと云う。
 わしが五0、じょーえがドイツにいたから一0、美緒ちゃんが踏ん張って二、村松君は大学院ロシア文学で見事0。
「なんて小さいの。」
 明美ちゃん、
「小さいのが美味しいんだっって。」
 それが冷燻にする。こりゃ食えん。温燻ならうまいのに。
 秘密の川は禁漁区になった。
 しゃもが入ってどこも荒し廻る、一匹もいない川ばっかり。
 もう行けねーやな。
 秋田では、大鵬のかーちゃんがやっている旅館に泊まったな、どっちともいなかったけどさ。鶴岡では柏戸の弟のすし屋に入った、弟はいなかったけど。たらの白子の付け出しキャーうんまかった。
 鶴岡には鱈祭りがある、二月の接心終わったら行こうぜ。

2010年11月18日 07:54 せっちゃん ショートショート・すぎのわかえ
 黒岩がなんか買って来るって酒屋に入ったら出てこない、狭い道をトラックが来る、ぱーっと鳴らしたらすっ飛んできて、美人だという、
「もう坊主止めて婿になる。」
「かーちゃんだべ。」
「ちがう娘だ。」
 そのかーちゃん、いや娘が、この道は不備だで止めとけってのを行った。谷川で釣ったらさっぱりだ、うわって黒岩が飛んできた、
「どーした美人かーちゃん出たか。」
「くそひりに行ったらくそ引っ込んだ。」
 見ろってまあ杉の切り株が六つ、シャンデリアのような花びらになってすぎのわかえが出る。まっしろなきのこだ。
 みんなでうはうは取った。
 すぎのわかえはとつぜん毒きのこになる、なぜか知らん人は千年も取って食っていたのに。
 野生の梨があった、こぶりだけどまったく梨の味。
 峠をこえた水系はいわなで有名だった。
 もうまったくいなかった。
 川内川という夢のように美しい川があった、やまめがいた。
 その上流を、会津藩士が入植して不毛の地を切り開く、どんなに貧窮しても子弟の教育は忘れずと。
もののふはここに永らへみちのくの清き川内と笹鳴りすらむ
 陸奥湾には自衛隊の艦船が並ぶ、レーダーサイトがある。大きな基地だ、中国だったら立ち入り禁止だな。
 このあたりには稲が稔る。
国民の鎮守にあらむ露霜の忘れて思へや陸奥の稲むら
 大間からカーフェリーに乗ったらばーさまがいて話す。
 薬研には鎌倉武士が移り住んで、美人がいてつい最近まで門外不出だった、会津藩士は土地を貰って移り住んだ、今はいい生活をしている。わしかい、わしの先祖は能登から来た、漁師でさ、帆立やってたけどもう止めた、せがれが県警に入った、次男は函館で先生やっている、孫に会いに行くところさ。
下北は遠くにありと思へれど秋風しのひ野辺地を過ぎぬ

2010年11月19日 08:26 せっちゃん ショートショート・黄金
 行けども行けども高速道路の眠くなってふわあ大あくび、すんでにあの世へ行きかけてなにしろ遠野へ着いた。民俗学者の官員さまに取り上げられて、河童が住むという河童橋はお寺の中にあって、なんというんだろむかしの小川にむかしのまんまの橋がかかる。観光地でもってわんさか人がたかる。
 でもなんだかよかったな、では河童になるか。
 そこら熊が出たって騒いでいた、玄関に入っていたんだってさ。遠野から宮古へ行く。
 国道だってえのにすんげー道で、村が一つあったっきりすんでに途切れたりして、
遠野から宮古へ行けるこの道の冬を迎へむいくつ村字
 浄土が浜は美しい、ふだらくやの浄土が浜がどっか薄汚れて、
山川のはるけくも来たりふだらくや浄土が浜にかもめ舞ひ行く
 きのこがもう出ていた、取ったってしょうがないのに取って。
 ビジネスホテルに泊まる、どっかうんめーとこねーかって聞いたら、なんとかっていうすし屋教えた。えらい待たされてた客で満杯、さんまの刺身とほやが絶品。
 そりゃもう初さんま一番。
 あくる日は北へ向った、峠のあたり標が立って何年の津波はここまで来たと書いてある。
 たーまげたあな、日本沈没だ。
 鍾乳洞の一つに入った。
 岩にごっつん頭ぶっつけて久しぶりにたんこぶ。迫力あるんだけどぶるう寒くなって逃げ出した。
この洞の百メートルの水底には恐竜さへもなほ新しき
 山ん中に牧場があった。
 奥の正法寺は大心和尚ゆかりの地、行こうとして盛岡市を過ぎってどういうわけか秋田へ抜ける。
 宮沢賢治の花巻にも寄らず。
 走ってばかりはお話にならん。
 田沢湖の辺に泊まる、乳頭温泉の近くだ。
妻子らや黄金の湯に浸らむは秋田駒なむ吹き下ろす風
 いいお湯なんだなあこりゃ、秋田駒は登れるほどに見えて、まったくそーは行かん。

2010年11月20日 07:59 せっちゃん ショートショート・歴史
 司馬遼太郎の正体見たり白髪鬼、がきのころ白髪鬼っていうこわーい映画見たて夜も眠れなかった、がきがこわーいのは牡丹灯篭のからんころんていう下駄の音でも、ゆーらり影が揺らめいた、そこにだれかがいたってんでもさ。りん物というりっしんべんに在と書く、わっはっは心にあるんだな。
 司馬遷はきんたま抜かれて半分は幽霊かな、枯れすすき大丈夫は歴史の創始者になる。司馬遼太郎より文章がいい、漢文のせいか迫力がある。
 歴史の文章はそーさな高校の世界史でもどっかおかしい、うそばっかりてめえがかかわっていない、坊主のお経のように嘘とはったりと空威張り。
 平家物語の嘘八百もどーしよーもないんだがこれが歴史だ。
 目ん玉潰して琵琶法師にして日本中のし歩く。歴史とは日本人の故郷、涙し大笑いする心と行いとなんせもうそれっきりってやつ。
 ホメーロスの血湧き肉躍るは死んだ歴史ではない、教科書の空ろではない真実、すべての民族が持っている、心のひだである物語。
 正確だの真実というかす食っていると、頭真っ白になるのさ。
 鬼として語り継がれ。
 ボージョレ飲みたいと思ったら、教え子が持って来た、見附にいるってたのは知ってたが一別以来だな、ろくでもない先公だでわっはっは二、三のほかよっつかねーや。
 みんな六十を過ぎた、孫のあるのもいる、わしは孫いねーや。
 たんねーけどほんにいー子だったな。停年だ孫できて、こーいう連中にとってって、たいていの人にとって、歴史は必要知識というただ話題か、死んでも生きてもろくすっぽ見返りのない。鬼にもならん。
 自分史という、もったいぶってお茶を濁したって、なんにもならねーの知りゃちったあましか。
 五W一Hの問題、ナポレオンがワーテルローで信長が桶狭間でって、わっはっははーいはい。
 新聞記者しか育たねー。歴史に学んで同じことを繰り返し。大河ドラマという一億総白痴。はくちっていう言葉が出てこねーんだから呆れた。
 そんじゃ仏教の歴史はって、なんにもないのは歴史もないのさ。
 形あるものは必ず滅す、故にお釈迦さまを拝する。

2010年11月21日 08:33 せっちゃん ショートショート・野次馬
 火事だってすっ飛んで行くと、いつも同じ顔がある、
「好きだなあおまえも。」
「放火魔と間違えられるぞ。」
「そうしたらおまえがやったって云うから。」
「だな。」
 最近の火事は死人が出る、野次馬もさうっかり煙吸ったらお陀仏。
 地震雷火事親父、筆頭の地震にはどえらいめにあった。新潟地震は新潟にいて、がたっと来た、なーにしたんだって見ると、窓の外電柱が一間を行ったり来たり、下を見るとどーっと水が吹き出す、なんとか現象だ、この世の終わりと思ったら、青くなっていたって生徒どもが云った。さよう教師やっていた。教室行ったらもうだれもいない。教師失格だと思っていたら、何十年ぶりかで教え子が来て、そのときパンや飲み物買い集めて渡したんだとさ。だれかの間違いだろ、わしがそんな気の聞いたことするわけがねえ。
 幼稚園から小中高の作文や詩集めて、地割れの歌っての作った。文芸部の顧問してたんだな、生徒こき使って名が売れてさ、一冊県立図書館に入っている。売り上げ寄付するんだと云って、生徒と飲んで食ってぱあになった。やくざ教師だな。
 中越地震は同じ震度五強が四回もあった、いやもう冗談じゃなかった、震源地だってえのになんでテレビに出ねえって云ったら、震源地の川口は路のアスファルトがそっくり裏返って、一村三軒残して全滅、倒壊した家から出るのに半日かかった、大根がきれいに畑に並んでいる、なんか見事だったってさまったく。
 お寺被害の算段もつかぬまに野次馬で飛んで行った。
 あんときは弟子どもが出資した。
 有難かったな。
 川口へ行ったら、家建ったまんま崩壊、川っぱたに青テント張って寝泊りしている、震源地もどこへも行かれず、気がついたら前後パトカーに挟まっていた。国道も崩落している、家ごとすとんと落っこちてたり。
 山古志行ったら、どなたさんですか、何御用ですかと云われて、坊主で野次馬ですとは云えず引き返す。
 中越沖地震のときは、ぺっちゃんこの家も沢山出て、お寺も一つ倒壊した。
 地震男なんかな。
 出家するっていったら青天の霹靂、いやさめでたく大学受かって留年だし。
なんと云ふぞ帰り来たりて思ひがて夏の憂き夜を半月かかる
 わしが命拾いしたところから中越沖地震はやって来た。
 大欠伸の居眠り運転な、どーもこーも。

2010年11月22日 08:17 せっちゃん ショートショート・白鳥鍋
 佐渡の尖閣湾に夜釣りに行った、大昔君の名はで有名になったところだ、賽の河原のある林を抜けて岩場がある、だれかれの仕掛けこさえて、ようやくてめえの竿出したらもう逃がしてやがる、大物だ糸がぶっきれ。
 夜中蚊にさされっぱなしで、ちぬやぐれやめばるだの釣って明け方帰る、寺泊赤泊間二時間。今は高速船になって車は駄目だ。あいつ燕が十一も巣かけていたな、あっちへ行ったりこっちへ来たりし子育てしてさ。油断するとびちゃっと糞。
 三度行って大漁で、四度めに磯焼けして海草が消えた、魚も消えた、でもってそれっきり。また大物が来て逃がしてってのが心残り。
 人を案内して地獄の金山にも行き、朱鷺センターにも行き、一周するのにはお寺のある南蒲原郡のほどか。
 金山掘りの人形があってとつぜん振り返る、おねーちゃんがぎゃっと云った、わっっはっはよく出来てらーな。片手入る穴が開いて金塊を持ち上げる、持ち上がんないわーきゃーって、なにくそやったら持ち上がった。そりゃ持っちゃ来れねさ。
 朱鷺がわしらあたりにも飛んできて、じっさども高級カメラぶらさげて右往左往する。朱鷺ってえのうんまそーだ、みんなであいつ食っちゃったんだと云ったら、なんせ田んぼの邪魔で困ったそーだ。そー云えば人が白鳥が畔つっつきこわしてたいへんだったと云っていた、なりはでかいしそりゃたいへんだ。
「食っちまおうぜ、こしひかりの落ち穂食ってるんだうまいぞ、一羽で十人前の鍋できる。」
「えっへっへ。」
 オームでもなけりゃ白鳥は殺さねーとさ。
倭は国のまほろば、たたなずく倭し美はし
 日本武尊の魂が白鳥になって飛んで行く。
 白い鳥は食わなかったんだ。
 朱鷺は白くねーからな。
 白鳥は食ってもいいほど増えたけど、いったん絶えた朱鷺を野生に返すのはたいへんだ。

2010年11月23日 08:14 せっちゃん ショートショート・豪雪
 名月や北国日和定めなき
 雨が降って雲が流れて月がぽっかり、あんまり風情じゃなくって真っ暗けの毎日雨の降り続け、どーにかなっちまいそーなのがふうっと晴れる、地面が乾く、雷どんがらぴっしゃ雪が降って来る。
 冬に積乱雲がもっく盛り上がって、降ったらもうそーさ来年の四月までどーんと冬。
 発心寺では節分まで寒行托鉢だ、ほーと声張り上げて雪踏みしめて歩く。越後はなんせ雪下ろしだ、雪がこんなに重いとは知らなかった、一メートル以上積もると、うんさー背丈より高いところを掬う、屋根の上に象何頭分だ、なんしろ下ろす。
 雪でぺっちゃんこはみっともない、恥だなあ柱も梁もめったくさ。
 何百年来雪の家造りをしてこなかった、なぜだ、つい最近だな、らしいふうな工夫は。お寺は二階と中すそと寄せ合って、そりゃもうどえらいめかく。
 不細工な滑り台をこさえてわっしょどっさん、思い出したくもねーか、二回下ろして三回めには雪上げだ、屋根より高くなる。
 七年ぐらいしたら馴れた、月夜に夜んがら下ろすのも乙なものだった、いううちスノーダンプになった、速いけどやけくたびれ。振り回されて人のほうが落っこち、くたっどーしたと思うと腹へって動かぬ。
 地球温暖化で終わったと思ったら、今年は大雪だとさ、道具もなんもどっかへやっちまったぜ。
 本堂大屋根は、茅葺のころは大勢して一列に並んで下ろす、そりゃもうたいへんだったって話。
 先住が瓦屋根にした。かっこいーんだけど豪雪には保たぬ、家鳴り震動なでついて、瓦五十枚もいっぺんに落ちる、もうこだめだってんで、一悶着二悶着大騒ぎして銅版に葺き替えた。
 すっかりよくなったと思ったら、それっきり雪降らねーや。

2010年11月24日 08:11 せっちゃん しょーとしょーと・シャンデリア
 洒落た江戸切子のグラスを法事の引き物に貰って大事に使っていたら、一つかき二つかき弟子どもが割っちまう、しまいのわしが割った。大きなグラスがいーんだってソムリエが云ったからでっかいの買ってきて、二日目にてっちゃんが割った。しょーがねえコップで飲んでいて、エミールガレ展示館でまがいもの作っている、いいのあったから買ったら、実は気泡が入っていて半額になってます、これでよかったらっていう、大いにけっこう、買って来てまだ使っている、ペアの片方は完全だ。
 会津に世界のガラス館というのがある、野口英世記念館のはす向いだ、安物も売っているんだが高級品コーナーがある、ドイツ切子の花瓶があって、三万八千円、ぐんと高いのも並んでいてこれがいい、たまたまゼニがあった。清水の舞台だ、これ買うたけーんで負けろって云ったら、はいおまけです五万一千円、なぬ38がなんで51なんだ、いえ正札58で、なことねえって正札見せたら、あれー昨日棚替えして間違ったです、だってもわし見て買ったんだごねたら、店員協議していーですじゃ正札通りという。
 いい感じのでさ、あんまり素敵で挿す花がねーとかいって、未だもってお蔵入り。
 もう一つシャンデリアがあった、雪の降るような感じの、こりゃけた違うし見るだけでって、次に行ったら売れていた。
 お倉に電気引いて、雪のようなあのシャンデリアさげて、ホームバー兼漫画喫茶しようと思った、漫画もSFも推理もそーさなあ1000冊もあったか、おねーちゃん二人連れてきて二階がある、そこに蒲団をしいて、そーゆーこと云うから人がよっつかねーんだ、はーいはい。
 お倉地震で全壊した、建っていることは建っている、火事には強いがぶあつい土壁の柱が細い、地震には弱い。
 中変わらないし、裸電球でつげ義春風喫茶やろーか、おーやろーぜもう一回地震が来るまでさ。
 お倉の鉤開けると異次元世界、クレオパトラに小野小町に、信長だのあんましものすげーのは止めて、一休も止めてっと、だれだおまえは生臭いぞ、わしかあ竹やぶの主だった巨大やまかがしよ、そーか紋柄消えてうわばみー

2010年11月25日 07:49 せっちゃん ショートショート・なんじゃもんじゃ
 土田舎ホテルがあって駐車場のじっさまで大威張り、命令口調でなんのかの。ワイン頼んだら岩原ワインどんと置く。趣味に合わんで半分残したら、なんで飲まないのってさうっふ。岩原ワインはさんざ苦労の末、ワインとは別物作ったんかな。日本人のシャンソンがフランスとは似て非なる、苦味とウイットが足りないってより欠如している。外交のない国の本場は神様で、のようなものでおしまい。落語にあったな、鍋焼きうどんて声張り上げると、へーいって出て来る酔っ払いがある、わしの名前は久兵衛で、人はきゅーどんて呼んでるんだってのから始まって、一品になんとかのようなものって云ったら、そのよーなものってのくれとさ。和食に合うワインか、ようなものもちったあ定着したか。
 プリンスホテル一万なんぼで泊まって、ワイン頼んだら一覧表出た、1300円手ごろだおーいってもう一回見ると103000円だ、さざえさんの漫画じゃねーが二桁間違えるのは珍しい、うんあの生ビールげそ。
 小林秀雄が何人かでフランスへ行ったとき、一人じゃ淋しいって越路吹雪がしのんで来て非常に困ったとか、越路吹雪はズカガール、ブルースの女王淡谷のり子とさ、二人日本人離れしている。小林秀雄も白州次郎の親分格かな、頑として馴れ合わぬ第一人者だ。わしは学校さぼって小林秀雄が先生だった、モーツアルトもドストエフスキーも近代絵画も徒然草も西行も小林秀雄に習った、芭蕉と人麻呂は山本健吉に習った。大学先生はろくでもなかったな、やっつけると原語を持ち出すきりの、成績なんかしたらあほになる。日本中しびれちまったのは、漱石以来の学者ごっこのせいだ。世界の大学順位で東大26位っていうのはうなずける。
 ジャンギャバンのだみ声でシャンソンかな、向こうももう滅びちまった。
 日本にも日本人はいねーか、これから先復活するか滅びるか。
 ひでーめ見るぜな。
 滅びの歌でもよーなものやるか。
 悲しいってこと知っているか。
田の末にかつてはありし茂み井のなんじゃもんじゃの雪降りしきる

2010年11月26日 08:16 せっちゃん ショートショート・k614
弦楽五重奏の最後k614は、モーツアルトを音楽に食い殺された男だと小林秀雄が云った、これは食い殺されたあとの音楽だ、k598は雪の荒野の絶唱だ、行き倒れになる断末魔の、限りなく美しい、k614もまたはてもなく美しい。自然そのもののようでほんのわずかに速い、走り行く悲しみと小林秀雄の云う。40に満たぬ生涯は、音楽に分かれを告げる異様に辛いレクイエムと、もしモーツアルトが10年あるいは何年か生きたらという、すでに完結している人生に蛇足したってつまらぬ。
 ハイドンセットで始まったモーツアルトの生涯は、ぼんくらのわしでさえ百万回聞いて新しく、19番の不協和音は人類史上の傑作だ、匹敵するものを10挙げろと云われて困惑する。インカの雨の神に、オリンピックに優勝した桂冠を被る青年に、うわあほらしいやめた。
 ハイドンセットはかつてブタペスト弦楽四重奏団のほかには聞けない、19番はだれの演奏でも聞ける、ようも知らんが完璧な作品か、k614もご同様さまだ。ブタペストの弦楽五重奏はなぜかよくない、プロシアセットはウイーンコンチェルトハウスが絶品だ、ほかはまったく聞けない。
 モーツアルトという、人とその人生が終わった。もう二度と戻らない。
 モーツアルトを聞いていてとつぜん聞こえなくなる、地獄に落ちるんならまだしも、人をたぶらかすための悪魔の発明なら、十二分にひどいめにあった、そうではない原子崩壊する。
 目はつぶれ耳ふたぎ。
 ケロイドに焼けただれて転がる。
 回復はない。
 モーツアルトをふたたび、生きるとはこれだけだった。
 漆喰に産み付けられたぷより虫の卵、黄緑色してモーツアルトだという。どーにもならんな。
 映画赤ひげに音楽が甦る。かすかになにごとか。
 一音全世界わがモーツアルトが甦るとき。
 不思議なことにk614がなをも聞こえていた。
 無心ということ、無心とは心の無いこと、ないものは決して壊れない。この故にモーツアルトは復活し、小林秀雄を救い、ドストエフスキーを救い、ゴッホを救う、大恩教主釈迦牟尼仏に敬礼。

2010年11月27日 07:51 せっちゃん ショートショート・柳かげ
窓枠はモンドリアンの柳影内なる我れと外なる風と
 新宿の風月堂はコーヒー一杯50円お菓子も50円、人にたかろうと思って前に座るやつがいる、こっちもねーから知らん顔、ギリシャって渾名つけたウェートレスとローマってつけたのとこの二人が親分だったな、若いのが何人かいて女優とか歌手とかの卵だった。風月堂に出入りしている間は売れないといわれて、非定期に売れない絵の展示会があった。
 柳があって大ガラスがあって、売春禁止法は成立したけど、まだ町角に突っ立っていたな。なつかしいたって何がなつかしいんだか。昨日のようにも百万年前のようにも。
樽酒を酌み交はしつつ天に舞へ三日も物は食はずてあらな
 文無しになって寝ていたら、枕にする分厚い本がある、そうだこれ売ってと思って古本屋に売ってラーメン食ってやっぱり風月堂。だれかれやっつけたら取り巻きのほかいなくなる。医者のどら息子で浪人生でいいやつだったなあ、毎日角瓶一本空ける、新入りのウエイトレスのおっぱいおしりぶるうぞっこんの、あいつとやっちゃってさあと話す、うっふう憮然。
酔いどれやアルゴー船の櫂を取り手足を鍛えのピカソと云ふぞ
腐れ腐乱死体のひっからび死海の水をモジリアーニは
極彩の時は長らへハーデスの衣を脱ぐはいつかセザンヌ
尻尾が生え墓を暴ひてシャガールのなほなつかしき愛の形を
腐れてはなほはらわたを憎憎し金蝿たかるルオーの大空
声聞は原子崩壊のモネならむ終ひに残んの青と紅
 LPの保有量が日本一といわれ、NHKが借りに来たそうの、十年後かな、サロンの役割は終えたといって閉店した、文芸春秋が風月堂の特集を組んだ。
吾妹子は日の神にしてなきがらの炎にあらむ偽ルノアール
対戦の破滅を知るやクレーなほ女性的なるそのボルの雲
ゴッホなる神は示して極彩のキャンバスまでをはりつけにせむ
 バイブルはマルドーローの歌であった、なぜそんなんがって今もようわからん。いえたった一年半のことだった。
ニイチェ泥ベートーベンなむとっつけて人は何処へ大和大路を
 托鉢姿で立ち寄ったことがある、バーテンダーが覚えていた。

2010年11月29日 09:50 せっちゃん ショートショート・富士山
 深大寺で美緒ちゃん善行でどろちゃんを拾って、満艦飾に着替えのプラスアルファを背負って担いで美緒ちゃんは、
「バスで40分ぐらい、こーゆーかっこしてると助けてくれる人いて。」
 高速道のバス停で待ち合わせ、一期一会で二度と同じ格好はできないって、センスあるよほんにさ。どろちゃんは親父さんが挨拶に出る、ぐわえらいこっちゃ、スタンガンでばしっとやられる前に、慎重に猫かぶってご挨拶と、さすが商船大学出の紳士どの、はーいなんともあのよろしく。
 出来たての首都高は、トンネルジエットコースターのど迫力な、行きは渋滞、帰りは多摩川で渋滞、首都高のほうは走れて強烈体験。
 晋山式は前の晩の祝宴、酒飲めないから前晩方式が流行るんだとさ、わしは乾杯の音頭取っただけで、ほんの出番だけの出演、らくちんというより移動時間だけのやけくたびれ。
 晋山に首坐法戦式という、首坐が天丼センセーでてっちゃんが書記であと全員弟子で、あっはっは
「花のように知らない人になって下さい、これを云うや万福多幸。」
 はーい楽ちん方式、記念撮影したらさっさと引き揚げる。
 鵠沼にハワイ料理店てのあって昼飯、ハワイ料理なんて始めてだ、ボキってのはまぐろの角煮で、モクってのは丼で洒落てておいしい、満員の御殿場高原ホテルのでディナーなに食ったんかわからん、まじー。
 朝起きたらどーんと富士山、その雪を朝日が桃色染め出す、これは大ご馳走。
 坊主組合は二次会だってコンパニオンを呼ぶ、どこでもそーですって東京勤めの穴井が云う、てめえんとこじゃまじーから、本山研修だのあるとコンパニオン抱え込んで温泉行く、相手高校生だったんでとっつかまったのいる、そいつ焼香師で来てたぜ。
 坊主地に落ちたどころじゃねーな、腐れ床抜け落ちた、車と女のほかかなーんにもねえおん坊稼業。
 どーしよーもねー。
 一休に良寛、道元禅師にお釈迦さま、
 その他はないのさ。
 晋山式終わったら接心だってさ。
 うんやっておくれ。

2010年11月30日 08:16 せっちゃん ショートショート・えちご
 新潟を出るにはどこをどう行ったって山越えになる、めんどいけどスノーを履くかってやっぱりスノーにした。雪が3センチ積もってもノーマルじゃ死ぬ、清水トンネルに入る前に関所をもうけて、スノーなしはチェーンをつけさせられる、渋滞になる、すんなり通過したはいーが、小出のあたり路肩に雪が積もる、先に行くワゴンが突っ込んだ、ふわーっと嵐が舞い上がる、横向きになって後部座席の男が窓を突きやぶって空を飛ぶ、運転者が血だらけで出てケータイしていた。
 どーすべーって救急車くるんだべ、巻き込まれたら2時間はストップだあ、無事通過。死人は出なかった模様。
 100キロで雪に突っ込むとどえらいこった、なにしろシートベルトして走った。
 行き帰り都心の渋滞にあったが、晴れていて雪はなくと思ったら、トンネル付近霧雨湯沢は土砂降りだった。。
 えらい寒い、雷が鳴っている。
 湘南のどろちゃんちとは月とすっぽん、わしだって鵠沼育ちなんにさ、あっちが晴れりゃこっちは雨、冬はもうまるっきり雪なあ。
 御殿場のようにどっきりじゃねーけど、どこからも富士山が見えたしな。
北国に我れも住まへれ初時雨見裂ける月に追はれてぞ来し
 雨降りながらの夕焼け、戦に負けて流れついた貴人かさむらいか、上杉は移封されて貧乏引越しするし、河合継之助は戊申の役で八十里越え、まあさいろいろあらーな越後の国だ、わしは信濃川の河童川流れじゃなくって、くう何の因果だ。
北国に我れも住まへれ初時雨軒の小草に夕かぎろへる
 冬にもっこり積乱雲どんがらぴっしゃ雷、雪起こしって云うんだな。時雨が晴れて地が乾くと、毎日降り続けってのはーてさ何メートル。
 暮れから正月にかけて降って、重たい雪の竹葉全滅折れひしぐ。樫の大枝がぼっきり折れた。春先が大騒ぎ。
 次はこっちの晋山式だ、早く隠居して、待てよいまでも疎外されてっから、隠居じゃねえ湘南ホームレスか。
 ふーっ不況であんましよくねーとさ。

2019年06月02日

ショートショート9

2010年12月01日 08:18 せっちゃん ショートショート・京都
加茂川の月に宿仮るあしかびのしじにも雪は降りしかむとす
 月がぽっかり出てあしかびを含む、雪になる最後の満月。京都は新潟よりも寒い。こけちゃんの結婚式に穴井と車で行った、北陸の海は荒れて豪快だった、雪がちらついたり止んだり、京都は晴れて冷える。
 結婚式は京大会館にて、大学の裏手にある建物だ、婿どんはノーベル賞最短距離という脳味噌学者で、花嫁さんがとりしきる、学者先生はそんな下世話なことはしないのだ。わしの着替えの部屋がないぞ、なんせ衣お袈裟を着けなきゃならん、どーすべえったら、あら忘れたあたしの部屋でってさ、花嫁のお支度部屋でもって着替えて、えーあの花嫁さんは見ないようにー
 式は厳粛荘厳であった、もっほちゃんが音楽係りk614の行進曲と、穴井が補佐役で、わしの帯が抜け落ちた、なんせ妊娠十ヶ月りんげつだふーい、お拝して机の下に投げ込んだ、穴井のほか気がつかず。
 式師訓示は、
「五体満足の人に転ばぬ先の杖はいらんです、転んだってただでは起きんのです。」
 美緒ちゃんは例によって満艦飾、上物の着物ぶっこわして工夫する、センスだなあ、おっちゃんどもに大受けしていた。穴井と美緒ちゃん何人か定期的に消える、焼香ですってさ煙草吸いに行く。いえこれは披露宴のお話。京大類人猿の学者いて、チンパンジーの鳴き真似やって受ける、まーるで歌手みたいのいたな、品のいーのとわしらろくでもないのと、賑やかで面白かった。
 この晩わしの誕生日をよったくって祝ってくれた、ゼニ出さなくっていーんだって、へーいスペイン料理さすがに京都だ、スナギモしか覚えてねーけどおいちいワイン三本開けた、きっとおごり返すといって三年たって果たさず。
 もっほちゃんの案内で大徳寺へ行く、聚光院は利休の墓があって国宝だらけ、こんなとこに住んだら肩凝って死ぬ。
 聚光院へ行ったって云ったら、観光客に羨ましがられ。
 大徳寺ぜんたいが歴史の宝庫かな。
 今度は一休の真珠庵へ行こう。
年のうちに降りにし雪の消え残り松の梢に白雲わたる

2010年12月02日 07:27 せっちゃん ショートショート・髑髏
宋代のたれぞ写せし六祖像どくろ面なるそがなつかしき
 眼かの線が浮き出てまったくこりゃ髑髏面、智慧とはまさにこれ。
 良寛のこれは詩・髑髏
「凡縁より生ずるもの縁尽くれば滅す、此の縁何より生ずる、また前縁より生ず、第一最初の縁は何より生ずる。」
 縁を追求するまさにこれ髑髏ですか、科学の不毛のように月のあばた面は、まあさ髑髏にもならないか、前縁という最初の縁というんですか、追尽をやめる、手放すと縁の中にぽっかり浮くんです、どうにでもしてくれって云うさへむだっことの大往生。
「此に至って言語道断心行所滅す、吾れ此れを持って東家の婆に語る、東家の婆悦ばず、西家の翁に語る、西家の翁眉を顰めて去る。」
 縁は異なもの味なものうっふうシャバの通り相場ですか、三百代言みな縁による、坊主の説教とか天理教の殺し文句、どっきたねえったらお茶を濁すことは、ねこまんまの如く手を振って退散。
「或るとき胡餅に題して狗子に与ふ、狗子また喫はず、所謂ふ是れ不詳の語、紛々の句と。 」
 これをまんじゅうにして犬にやる、犬も食わず、不肖の息子じゃなく不詳の語紛々の句ですか、どうしようもないな収拾がつかない。
「生と滅と丸く一合相と為し、野辺の髑髏に与ふ、髑髏忽然として起き来り、我が為に歌ひ且つ舞ふ。」
 生滅を一丸にして野晒しにくれてやったら、ふーわり起き上がって舞い躍る、良寛も酒を食らって舞い歌え、わっはっは歌は長し三世の引、舞は妙なり三界の姿、三界三世三弄すれば、月は落つ長安半夜の鐘。
しのび逢ひ七曲がりせむ八つ曲がり鬼無里の村を花吹雪して
 鬼がいないから鬼無里って、そうではなく住んでるのがみんな鬼だからー、わっはっは過疎の村は猿しかいない。
 奉公社へ行って中社へ行ってそばを食らう。善光寺にも行ったなあ。
マッカーサーも鬼籍に入らむ信心のおびんずるさま空ろ面寄せ

2010年12月03日 07:23 せっちゃん ショートショート・おかま
美緒ちゃんが世田谷のボロ市人手が足りないからってさ、ふーんだれか行ってやれ。寛永年間から続いていて、十二月と一月の年二回ある、何年か前正月に行ったな。
吹く風や寛永のぼろ市といふぞつらつら椿代官屋敷
 高井戸で乗り換えて二つめだったか、わんさか人がいて、なんかよーもわかんねーもの売っていた、ねこの筆買ったらじっさいちゃもん付けやがって高い、ベトナムのぞうりも高い、掛け合い漫才で負けさせるんだとさ、貧乏っくさいのはぼろ市さ。下水たれっぱなしにむしろ敷いて、甘酒とあんころ餅と売っていた。
 院生だった穴井の宿に行く、世田谷の高級住宅街におんぼろ屋敷、学生三人で住んで、泥棒の逃げ道になるってわっはっはほんとかよ、茶道を志すのがいて変な掛け軸見せた、やつめ茶道学校へ入って、家元の娘ひっかけそくなって、今もふーてん生活やっている。
 新宿の車屋別館で新年宴会。
車屋の別館となむ祝ぐは乞食坊主も梅が初枝を
 新宿住まいのてんまく先生の肝入りだ、二次会がおかまバーだった、ほんにさ面白かった、おかまの中におなべが一人、美人ぞろいにぶさいくな男がって、これが女でみんな男ではーてな。
「お金かかってんのよ、二週間にいっぺんホルモン打たなきゃなんないし。」
 さわってみてっておっぱい出す、ふーん同じだあな。
「おふくろの以来始めて触ってみた。」
 げらげら。
「横に切るんじゃなくってたてに裂いてさ、でないと感じない。」
「ごもっともです。」
 アメリカがおっぱいでタイがあれでって、手術料は保険が効かないひえー、
「花電車ってのできっか。」
「バナナ切ったりそりゃできるわよ。」
「へーえけつあつ高えな」
 げらげら。
歌舞伎町おかまばーとふネオン街華やかにして空洞がよき
歌舞伎にはさらで勝れるニューハーフ田舎坊主をお出迎へ
 翌日は熱海に行く、湘南ライナーができたて、おこげちゃん三人盛り上がって傍若無人、負けちゃいられないってうはあ。
 おかまどもストリップショーで前をはだける、とんでもきれいなんだが、あれついてないぞ。
「なにさガムテープで後ろ貼り付けるの。」
 あけみちゃんが云った、風呂でやってみたがそーは行かねー。

2010年12月04日 07:30 せっちゃん ショートショート・熱海
 熱海には何度か行った、どろちゃんの会社で初島リゾートの会員券持っていてみんなで押しかけた、舟は荒れ模様で切符が吹き飛ぶ、すんでに酔っ払いそう、豪勢なホテルが一人一万円で泊まれる。
 庭で遊んだり島を一周したり、焼き物をしたら美緒ちゃんのお皿が抜群で、ぜひ店に寄付してくれって、浜辺は大岩小岩の石だらけ、てんなんしょうのような花が咲く。
初島に久しく舟の行き返りしのび逢ふ瀬は過ぎにけらしや
潮騒のあらき巌が片思ひうらしまそうの花にしぞ咲く
 貸し釣竿があってこーんなこまいのが次から釣れる、漁師の店で晩飯、釣ったのから揚げにしてもらったらおいしい。
 江ノ島の猫はでっぷり太って、初島の猫はすんでに飢え死にしそう、ホームレスなら湘南かな。
 かーちゃん孝行に横浜へ行き、赤い靴バスに乗ったり、かーちゃんの生まれ長者町を見たり、たった一人同級生が同じ店やっていたと感激、戦争であとかたなく学校もなく、そりゃまーそーゆーこったな。熱海はばあさんにつれられて行ったとかで、どっか海の見えるとこって云ったら、海の見えるホテル中田屋というのがあった。
 待ち合わせに東京のハイミスが三人いて、とーても田舎旅館だけど、料理は病み付きになるって云った。
 ほんに海が見えるってだけの、新潟から来るこたねーやって、料理がものすごかった。どれとってもとびっきり、なんとか博士の薬膳料理を二十七年追及してこーなったという板前さん、刺身煮物焼き物付け合せ、こんなのはどこへ行ったって食えない。
 感心して毎年行く。三年目に法事のご馳走よりまずいのが出た。板前が引き抜かれたらしい。
 伊豆山神社の階段を下りて足がふーらふら、昭和天皇の皇后様が熱海でお育ちになったそーの、国宝級皇后さま、あのころはずうっと浜辺だったってかーちゃんが云った。
熱海には七つ七湯のめぐらひに降り降る雪の梅がへを行く
 一月十七日今月今夜の日だった、梅の満開に雪が降る。

2010年12月05日 07:27 せっちゃん ショートショート・魚
 新潟は梅もまだ咲かぬというのに熱海の桜は満開、あけみちゃんがでっかい車で迎えに来て、縄張りだから案内するって、七人ぐらいいたかな、
「あそーあそこへ行くわけ。」
 龍宮城みたいなとこへ案内した、前掛け一つのおねーちゃんがおみくじをもって出る、うはこりゃ真っ最中の。
 いろんなもんがあった、エログロナンセンスってより、浦島太郎の子孫繁栄やら、水ぶっかける覗き見やら、大入り満員きゃーわーみんな見ている。
 おしんの作家がこのあたりに住んで、毎日1キロ泳ぐんだとか、殺伐な文章のわりに達者だってわけで、双葉山のはまったお光さんの宗教、モアだっけか宝物館開いたり、熱海ってへーんなとこだな。
 コンビニ寄ってビールかなんか買って来てという、
「一つしか酔わないから。」
「へーい。」
 ビール買った。すげー運転というより山坂だ、修善寺に行く。うしろ席でビールのおかげでご機嫌、穴井ががちゃがちゃ開くと緊縛むすめ出て来た、これあかみちゃんにお土産だあ、彼女こーゆーの好きだし、へーさよかって修善寺に着いた。谷川沿いにみやげ物屋がいっぱい、そばで有名だそーで昼飯、修善寺は曹洞宗のお寺でかつては僧堂があった、大心和尚がいっときいたな、修理中で入れず、うるし風呂にかぶれたお面があるって、うるしに弱いのはミイラはさめかも。
 つるし雛の展示があった、気に入って買おうと思ったら一本二万円、箱根細工の開かずの箱買ってきた、開けようとしてぶっこわした。いっひっひわしはどーしよーもねーな。
 うすよごれた谷川を清流だという、ふーんそーゆーもんかな。魚はいるんかな。タクシーの運ちゃんが伊豆の出で、熱海の魚は食えねーと云った、そーかなあ干物たけーけど絶品だけど、臭くってまずい、何を釣るんだ、四キロのあおりいか釣った、そりゃ伊豆も熱海も裏日本よりゃ魚の数も種類も豊富だ。
 もう十年もすりゃ世界中の海から魚が消えるってさ、そうしたら人類どーなる、人間だけ増えりゃ早晩そーなる、中国が人間まぐろ食うようになるさ、共産党と取り巻きだけが生き残って、金正日理想のさ、廉い労働力はぜーんぶ食用人間になる、日本もそいつ輸入してなんとかかーとか、はーてな。

2010年12月06日 06:49 せっちゃん ショートショート・サッカー
 1、クロンダイクはひとり遊びの基本技で、一枚を開きあとは伏せて6枚おき、行を替えて一枚を開き5枚伏せして6段目のしまいまで並べる。Aは外に出して123と上へ重ねることができる。赤の次は黒の次は赤と開いて行く、765と下へ、なんにもないところへはKを置く、すべて開き終えるとおしまい。2、クロンダイクのAを出さない、1の下に2、3と並べて行く。こっちのほうが難かしい。3、4枚を開く、13枚を伏せてまた4枚を開く。一枚を開いて、たとえば5だったら、同じカードの567~4まで積む。開いた8枚がなくなれば伏せた1枚を開いて行く、13枚がなくなったらおしまい。4、13枚数えて伏せ、5枚開いて、伏せた13枚を表に向けて置く。5枚開いたうちのはじめのカードが7だったら8910と積み、並べた4枚はクロンダイクのように赤黒と下へ並べる、すべて開き終わったらおしまい。5、スカートめくりという遊び、ハートのQを表にして置き、半重ねに2枚伏せておき、次に3枚伏せておき、次に4枚、次に5枚次に6枚開いて置く。たとえば7と6は13になるから二枚外すことができる、たして13になる二枚を外す、手持ちのカードを一枚ずつ出してあわせて13になる札を外す、ハートのクイーンが丸見えになったらおしまい。6、カードを表向きに四枚並べ順次四枚ずつに並べて行く、前後左右赤でも黒でも同じ数と接したら二枚とも外して行く。ぜんぶなくなったらおしまい。
1から6までをする、名付けてサッカー。
そうは簡単にできないから、
3は、4枚4枚開いたら最後の1枚を除いて7枚のうちから、2をジョーカーにして、ストレート、フラッシュより上の5枚スーツができたら、もう一回ゲームができる。そうしてゲームが終わったものを切らずに再度クロンダイクを試みる、双方のクロンダイクともに可能。
1から4まではできればよし、できなかったらマイナス1点。ぜんぶできなかったら0点になる。
5は伏せたのへのせて行って3回できる。6も残ったものを使い都合3回できる。5は一回めにぜんぶはぐれると4点、1枚残ると1点。6もはじめは4点、二回めは2点、三回めは0点、四回めはー1点、五回以降ー2,3となる。
はーいこうして一日飽きずにやっていられます、わっはっは。

2010年12月09日 07:28 せっちゃん ショートショート・うさぎ
バスが行きと帰りと二回しか出ない土田舎に住んで、町へ出て乗り遅れたら一泊するか5時間かけて歩くしかないって、それでどうだっていうと貧乏だけどまあ楽しく暮らしているって、年寄ったらどーなるかわからんけどさって、60過ぎのじっさだな。畑に野菜作って山菜やきのことって、蛋白質は川魚にいのししにうさぎ狩。うさぎは両耳を掴んでつるくて、棍棒で腹を一発、仕損ずると可哀想だし暴れるし、なんたって一発。
 鯉を釣って来て頭ぽかん一発は何度かやったな、しくじるとやっぱりいかん、にがだまを抜くにもへまるとぜんたい苦くなる、そいつがあるところになかったりする、鯉は可愛い目してらーな。
 原始野蛮生活も工夫とこつがあるんだ。がきんころにわとりをひねろと云われて、首ぐるぐる三回しても死なない、あいつまだ覚えてるな、ひねってきゅっと引っ張ればいい。
 うさぎかけあわせに行って、二匹入れると、ちっちゃなピンク出してきゅっと鳴く、七回するといーんだって見守っていたら、だれか人間も同じことするんだって云った、そーさな三日三晩深刻に悩んじまった。
 山の畑を借りておふくろと蕎麦を作ったら、上のほうはうっすら下のほうはあつく、均等には行かぬ、それでも収獲して、むしろに干して棒でたたいて、とうみにかけて、いしうすで挽いてって、穀類は手間ひまかかる。山栗一斗拾って、茹でて干して冬の間食っている、おいしかった、まつたけもぶち当たってわんさか取ったっけ。
 年寄って自給自足たってもう不可能だな。
「一日働かざれば一日食うべからず。」
 共産党とは大違いの、理想を云って現実を見ない、ただのわがまま金正日だなシーシェパードとかさ、唾棄すべき。
 人間というものの故郷だな百丈禅師は、あとはミイラになるほかないか。
 寒山拾得を良寛が賛して、
「拾得手中の箒、顛の塵埃を払ふも、転た払へば転た生ず、寒山時に経を授く。終年読んで足らず、古も今も人の善く買ふもの無し、天台山中長く滞貨たる所以、畢竟そもさん。」
 と。二人天真爛漫のこれがありよう、良寛始めて世に証す。
 人の本来ありようそもさん。
 世の中終わっちまったわしと障害者手帳の美緒ちゃんと、時にかくの如くしてってあっはっは。

2010年12月10日 07:11 せっちゃん ショートショート・しろあり
 地震のあと町の依頼受けたと云って業者が来た、縁の下にもぐってどろんまるけに写真撮って、湿気払うにはモーター四器つけて、どっか穴開けてなにがどーのではい一00万円だってさ。調査費は無料サービス、ふーん世話人相談してからって、こーゆーペテン商売よくあるし、どだい一00万円なんてねーや。高すぎるって大工どんに聞いたら、そんな必要ねーです、ちゃんと換気は計算してあるとさ。
 二年後にしろありが出た、そんなわけねーがって四0万取られた。コンクリート礎壁に丸い穴4つ開けて通風孔にして一五万、なんでさいいって云ったじゃねーかったってしろあり。
 あんなもんほっとけ出るだけ出てぽしゃるって、消防旦那が云った、たしかそれもあらーな、柱一本でけりってのあったし。
 となりの寺駆除に百万かけた、だって全壊するってさはーてな。
 どーもよーわからん、一般住宅だってむかしは一五0年めどに建てる、お寺なんか、そーさ法隆寺は二千年だ、ひのきは育った生涯の半分でいちばん堅牢になる、ゼニありゃ西岡棟梁に頼んで、五重塔でも山中に作ってやるのに。
てっちゃん晋山式に、大不況の折から新築ってわけには行かん、大正七年に立てた書院を改築、タイムマシーンみたいねじれたのを大工どんが平らにした、建具替えて天井も張り替えて、どーやら禅師さまの御座所らしくはなった。
 法もねーのに禅師もくそもあっかって、次代のこった、曹洞宗門仏教のぶの字も残ってねーわさ、あほくさ。
 あとは本堂つぎはぎして室中修理して開山堂に位牌棚にー
 年金じゃアパート暮らしも無理か、おねーちゃんたらし込んでって、うっひゼニの切れ目が縁の切れ目、良寛五合庵ねーかウヲッシュレット付き、あれいつんまにかてめーんことになった。
 大工どんが云った、縁の下にモーターフアンつけて三0万でなんとかする、なぬペテン業者と同じじゃ、住まいが夏向きから冬向き密閉式に変わったのでしてふいー。
 じじばばの寿命が延びたんもそのせいだ、あほくさ60歳以上は保険なしの医療費実費にせえ、そーしたら逼塞日本いっぺんに甦るぜ。中国も北朝鮮もなんのその。

2010年12月11日 07:02 せっちゃん ショートショート・星
 雲が吹き飛んで冬空に星が出た、死んだら星になるって、死ぬ前にぴっかり星になってわっはっは思い残すことはねーな。あとどーしよーもねえシャバの世を何年か、占い師によるとうんざり二十年もってさ。まずは免許書替えに行って、二度とっつかまったからうんざり時間たっぷり、あれへんだなまだ通知来てねーぞ、たしか今年だったが、免許返上しろって云うぞ、あほめ土田舎人免許なけりゃ命ねーのと同じ。
 あんれ来年だった、ぼけが来てら。
 司馬遼太郎シリーズオホーツクのアイヌ人ってのやっていた、樺太アイヌのたった一人生きていたばーさの写真があった。神様に背くといって学校に行かずに育つ、樺太アイヌ語の生き証人が絶えた、人だなあって。
 人が死んだという切なる思い。
 ほんとうにむかしはいたんだ、わしの幼いころにもまだ。
 郷土史家もひげの生えた東大教授も、そーさな司馬遼太郎もどっか人じゃない。
 さもしい根性かまるまっちく太っているか。
 人とは涙流すほかにはない、星になった命かな。
 エリちゃんはあいのこで、幼稚園行ったら名前も書けなくって、なんとかしてくれって先生が云った、英語半分てわけじゃなくって、空手馬鹿の親が教育ゼロで、泳いだり空手や柔道のまねやとんでもないいたずらしたり、中学上がったらあいのこだっていじめに会った。登校拒否していたら、なんであたしが学校行かれないんだろ、おかしいと云って出て行って、先生やみんないる前でいじめっこをどっついた。由来いじめなし。
 オーストラリアへ行ってまた帰ってきて、どーしたかと思ったらひょっこりやって来た、造形大学入って23歳四年生だという。就職決まった釣具屋の営業、三十も会社受けてやっと決まったって、そりゃすごいや。
 パチンコ屋のアルバイトしたら客が喧嘩する、割って入ってなぐられた、客やっつけるわけに行かない、どーしよーと思ったら、女の子を殴るなんて何事だと客がそやつ追い出したという、あっはっはあたしも女の子だったって。
 空手馬鹿の親父が怒ると、おばあさんが逆らわず聞いて、しまいにはおばあさんの云う通りになる、パチンコに負けた客あしらうのに、役に立ったって。
 バスで東京まで出て仲間と美術館見たり、飲みに行くんだって。
 若くっていいねえって、いえ年取ったんです、前は一週間徹夜した、今は一時間寝ないとだめ、輝いている地上の星。
 ドライブに行ったら荒れっぽくって、鳥の群れが急転直下、向こうの川がなぜかぴっかり光る。
 からすがのすりを追っかけて、そーさなあわしは何をしよーたって。

2010年12月12日 08:11 せっちゃん ショートショート・和紙
 歌を一千首書こう、
「せったん一千首。」
 と銘打って筆を取る、紙をぜーんぶだめにしてさっぱりだ、いいと思うのは10に1、なことやってらんねーや無駄遣い。せんに買ったやすものの短冊を、和紙買ってきて貼り替え貼りかえ、うっふっふでもって反古の山。
 今に見ていろぼくだってじゃなく、ひまさえありゃ書くのさ、十枚二十枚書くと心臓のあたりおかしくなる、けっこうしんどいんだなこりゃ、ふーん小便は近くなるしさ。
 一千首の歌はすでに仕上がっている、手直ししてまた手直しして、そりゃこれからも手直し。
 でもさ歌人はわし以外にいないのさ、わっはっは明治以来いやさ芭蕉以来の詩歌ってわけ。本人が云うんだから間違いない、うっふっふ本人以外云わなかったり。
 和紙を漉く人はいる、山古志村のとっつき、平家の落人部落竹の高地のじいさんばあさん、高柳村のどっぱずれ角田和紙、会津へ抜ける清流の辺りの小出和紙、県の重要無形文化財だ、跡継ぎいねーでもう止めるとさ。月山和紙は存続する、冬虫夏草菌のコレクションのある博物館に収まる。大町の和紙は若いのもいて一家営業でやっている、木の葉の和紙が優秀だ。和紙を扱う店は飯山にもあり、小布施の北斎館前にもあり、長野市のはずれにも文房具屋兼いい店もある。
 和紙は高いし、そんなの買い漁っていたら破算する。
 今の政府政治家ども役立たず、じきインフレが来て年金パアになる、食ってくのもおぼつかねーな、それまでに一枚でも売れねーかって、金輪際売れそーにねーや。
 おもしろくもねえ。
 坐って面白くもなんともねーのは最高、和紙に歌書いてなんにもねーのはわっはっは楽しみ。
 本堂建てた弟子が、ふすまに字書いてくれって云う、短冊と扇貼り合わせってのどーかな、本堂じゃ似合わんかなふーん。
 今日は最後の法事かな。

2010年12月13日 07:06 せっちゃん ショートショート・胡桃
 法事で飲んできてかしぐるみ二つかいて食って、美緒ちゃんちから来た市田柿食って、そのあとばたんきゅう寝て起きたのが四時半だ、黄昏坐したら飯食うだけ。飲んだら寝るきりの年寄り。
 かしぐるみは信州の特産かな、北海道にもあったけど、長野県人のなんとかさんがヨーロッパ土産に持って来た、珍品かと思ったらくるみだ、なーんだ拍子抜けした、それが生い育って黄金の実をたわわにつける。在来のくるみは自生する、ひめぐるみおにぐるみ、りすでなけりゃ金槌がいる、味はいーんだが、因みにわしはそいつをかいてみせて、どんなもんだって、頑丈な歯を台無しにした、ついの親不孝ってのだな。くるみ割り人形は、かしぐるみをかく道具だ、二つ持って握り締めるとかける。
夫婦して胡桃をかきて炬燵掛けつましくあらむ野沢の熱湯
 野沢温泉はうめなけりゃ入れない、野沢菜洗っていて、落ちて死にそくなったのがいる。客のいない宿で、ひでー熱湯で入れなかったり。
 そこに胡桃を売っていた、ほかはどこも売ってない、殻剥いたのはあるが、胡桃はかいて食うのが本筋だ。何袋も買い込んで食っていたら、弟子が一つくれという、やだよー、なんでさそんなにあるのに、一つやれば一つへる、わっはっはりすの仲間だな。
 それがホテルにも出ていた、北斎館の前でも売っていた。ワインやチーズと同じ日本人もちったあグルメになったか。がきんころ人の家の取って食ったな。いとこがお寺に植えてくれたがだめだった。信州だけのものらしい。
 市田柿は天竜の霧でおいしくなる、品種改良してない柿だって、美緒ちゃんちで二000個は作るんだって、今年は不作で九00個作って、いい甘さで後味がいい。新潟はしぐれ続きて、佐渡のおけさ柿は焼酎で甘くする。
 りんごが木に残っている、あれ取って食うと絶品だって、がきみてー真似もできん、ばっさどもが籠に摘み取っていた、千円札出して売ってくったら、ぶすりんごだで売れん、持ってけといって三つくれた、形悪いぶすりんごだが、完熟のうまいことは。
 かーちゃんがテレビ台の奥に胡桃が溜まっているという、見れば二袋いや三袋分もある、ねずみが貯蔵して夜中ぼりがり。
そ-いえば弟子いないのに、減るとは思っていた、ねずみもりすの仲間かな、嬉しくなったわっはっはわしはねずみ年。

2010年12月14日 08:21 せっちゃん ショートショート・枕経
 てっちゃんが風邪引きでお経に出てるんで、ちったあかせげといってお冠のかーちゃんに押し出された。九九ばーさの枕経だ、百までまでもう少しだったんに惜しかった、耳かなつんぼでがんばったのにさ。お寺の最長不倒は百四歳のばーさまで、八十過ぎの写真がばけものみたいに元気はつらつ、長生きするのはどっか違う、次が百一歳ばーさま、これも元気で中ばーさが先に行くかと思った、次が百歳二人いてばーさま。今度はその次か、男の長生きは九六が最高、なんせ男はだらしねーか。
 枕経は蒲団に寝ている前でお経を読む、お初は驚天動地の体験だった、なんで坊主が葬式なんだ、死人に口なし知るかってんで、
「せったんさんお願いします。」
「なんでだあ。」
 発心寺の典座に云われ、でもってどーゆーふーに読んだか覚えがない。
 お経は仏遺教経でやたら長い、舌咬むほど読みにくい、遺教は坊主の枕経に読んで、在家にはたいてい修証義を読む。
我昔所造諸悪業、皆由無始貪じん(目に真)痴、従身口意所生、一切我今皆懺悔、是の如く懺悔すれば必ず仏祖の冥助あるなり、心念信儀発露白仏すべし、発露の力罪根をしてしょう(金に肖)いん(一夕に員)せしむるなり。
 遺教も長いんだけどいいかげん長い、だいぶ端折ってさ、たとい妄想もまったくのただ、生死の境を示すのによく、随分生臭坊主の預かり知らぬ、音楽に似て音楽に非ず、直指人身見性成仏底。
 出家して四十年わっはっはようやくさまになって来たか。
 坊主は何が楽しみか、死人の顔を見ることだ。
 どっかで説教して棺桶の蓋開けたら、猛暑の夏でどすぐろくむくんで二目と見られぬ。
 まあたいていは示寂ということあらーな。
 人の死ぬるやその言やよし、今の人次第に曖昧、人生生涯とりとめもなく、葬式坊主も嘘とはったりと空威張りなら、葬式親族参列者もうそと空涙とお祭り騒ぎ。
 これじゃ浮かばれねーや、人間そのものが滅ぶのかな。
 ナム猫っていう野蛮猫が死んで荘厳だった、お寺ばっさがわしもこのように死にたいと云った、うっふ飼い主が見劣りするよーじゃいかんな。

2010年12月15日 08:26 せっちゃん ショートショート・JR
 JRが山の手線だってんでさ、信濃川の水を長年ちょろまかして使っていた、地方なんて鼻糞丸めてぽいって、都庁のお役人だといって大威張りもいたなあほくさ。貯水ダムの下鯉を釣りにじますを釣り、へんごな禿げ頭が怒鳴って出て行けーってさ、てやんでえ水はもと信濃川の、まるっきり水位を上げ下げして、二メートルの余も変わる、釣りにならん。
 うなぎのどこさえて沈めたら、翌日テトラポットの上に乗っていた。
 そんなことは以前はなかった。清流だったんだ、今のように臭くはなく、鯉の冬眠を見つけて大漁ってもあったな。小春日はつちすぎたけが山のように出て、えーと信濃川は男のロマンでもって、
青柳の雨の降るさへこし人の信濃河辺に投網暮らしつ
菜っ葉帽を被れる我れや竿を振り信濃河辺に鯉をしぞ釣る
 鯉釣りは一日一寸十日でやっと一尾、こーんなの釣ったえさはどう仕掛けはどうと鼻うごめかす、その割には釣れず。一メートルを越す大物は新聞だねになった、両手にさし出す鯉は人より大きく見え。
 ミヤベが一メートル五0の鯉を見たという、流木かと思ったら流れを遡る、嘘だ、いえこの目で見たんです、そんなん見たことあると外野が迎合する。かかりゃしないので雑談していたら、竿がぎゅうと直角に曲がる、すっとんで行ったらもう空っけつ、鯉釣り針がまっすぐになる。
 空手馬鹿の羽賀が云った、なにがしの池には四メートル五メートルの鯉がいる、そりゃ釣ってもいーけど覚悟しとけ、神さまだで袋叩きに会うぜってさ、へーえそーかな。一メートルの鯉だって巾が物凄い、三仏性でかけのが信濃川の急流を突っ切って、対岸のテトラポットに入っちまった。どーにもならん。
 枝一本ひっかけると外れている、鯉は王様の知恵かな。
 生物の先生がいて、たらいほどある鯉の鱗が奉納されている神社があるという、恐竜なみだ。糸魚川の鯉太郎は八メートルだってさ、こまい雑魚ばっかり。百間棚なんて大淵があったころは、とんでもない怪物がいたんだ。
 でっかいなまずを十も釣り上げた、池へ入れて置くと雨の夜歩いて逃げる。
蒲原の沖つ興野にはざ木立つ雨降るさへがなんぞわぶしき
 人は土鯉なんて止めて海釣りして、わしはちぬ釣り名人になって、フライフィッシングなと、発電所上のダムでやまめを釣る。若造が来て怒鳴る、一発かませたろうかって、しゃーない車乗って行くと若造が歩く、水溜まりがあったでばっしゃん腹いせ、うっふう中学生のてっちゃんに説教食らった。

2010年12月16日 08:47 せっちゃん ショートショート・流星
双子座こぐま座流星群が見えるという、残念ながら雨だ。雪になった、ふうーっと雲が去って星、雪に星だ、すんばらしーぞクリスマス坊主が思うから大荒れになった。
 新潟県は冬に掛けて土砂降りしぐれ、月日星ほしほし山に三光鳥が来たな、たった一回だけ。
 獅子座流星雨の時は、弟子二人と三保の松原まで行った、富士山頂にしよーかって、松原のほうがいいってんで、高速道路六時間、夕方テント張って、だれか太刀魚釣っていたな、明け方がピークだってんで寝た、起きたら魂消たまわり中人でいっぱい。
「うははなんだこりゃ。」
「いっちばか。」
 ちらりほらりふわーって雨じゃねーなんだこれは、一つでっかいのがぱーっと走ってそれっきりで大遠征はおしまい。
松原に流らふ星をふり仰ぎ二十一世紀を我れは知らずも
 中国とアメリカの戦争なんてSFのこったと思っていたら、破産国北朝鮮のミサイル。そりゃ先ず日本からだな、真珠湾攻撃しねーと。
天人の舞ひ舞ひかへる羽衣のよしや浮世と忘らへ行かな
 富士山の五合目まで行ってみた、樹海は雪の中、10メートルも行くと方向感覚を失う、溶岩に松やぶっぱら、また来るでーって逃げ出した。富士山は真っ青な空の中。
 獅子座流星雨はあくる年が当たりだとさ、せっかく遠征はできず。
 ハレー彗星もすっぽかされた、おふくろのいうにはそりゃあすごかったって、悪魔だから見てはいけないって、それでも見たら全天流星、祟りがあるって思ったそうの八十年前。おふくろは十三回忌かな。
 悪魔の申し子みたいなわしを産んじまった。
 まーるでかすっともかすなかったな。
 天体だ富士山噴火なとあてにならん。
 舌を咬むよーな長い名前の彗星が、門前のさ、人のものはおれのものっていう狂い屋敷にぼんやりかかった。
 通産省のお役人が云った、まじで宇宙船の研究してる人がいるんだってさ、光速越えねーと意味がねーな、星の世界も、月のあばた面ふうの無意味、夢とロマンぶち破るってしかねーんだな。
 チンパンジーよりはゴリラになって、人間は檻の中。
 さーて見世物しよーかって。

2010年12月17日 06:51 せっちゃん ショートショート・童謡
 童謡叱られて歌うのは香西かおりという人、むかしの歌い様ではないがなかなかよく歌っている、童謡を復活することは逼塞社会をぶち破るのにいい、
 大人も子供も童謡すら歌えない、めくらつんぼおしわっはっは禁句使えばそんな世の中、どーしよーもねーやな、打出の小槌を拾った、米と倉出ろって振ったら小盲がわんさか出たって、ビートの効いたむかしばなしはうはは禁句。
 わしみてーなろくどもねーのは住民票がねーのさ、いい子でいねーとおまんま食えねーよ。うん食えねーな。
 二万だ三十万だってんで絵のオークションがある、そりゃわしでも手が届くどんな絵だって、なんだあ絵になってねーや、物真似らしいの向こうは壁。情感も思想も枯れて絵描きも絵を買うもねーもんだな、ふーんつまんねえ。
 新潟は米も売れねーしなんかねーかって、佐渡へ米軍基地持って来い、沖縄ばっかりしねーで義侠心だせ、観光も底打ってるで頃合だぜ、でもって佐渡まで橋掛させろ、税金で食うってのが大方の本筋だろうが、わっはっは賛成するのいた。
 中ノ島村米所山のない、飛行場にしろったら、与板まで4キロしかねー無理だと云った、じゃ信濃川使え。待てよぜーんぶ信濃川にしちまえ、水郷と沼にして原始野蛮観光にしろ、すけべなねーちゃん中高生腰蓑でおっぱなしてさ、わんさかいるよそーゆーの、鴨もいるし魚わんさか、海からも上がって来るぜ、釣り好き狩好き女好き、治外法権カジノも作ってどーだって、そりゃ面白そうだってさ。
 実弾配って戦争ごっこもすりゃいーや。
 でもさ国の財政立て直すんなら、六0歳以上医療費実費ってのどーだ、いっぺんに浮上するでえ、むかしは死ぬまぎわに世間義理でもって医者に見せた、老人医療屁ひっても病院薬漬け、医者忙殺あほくさ。役立たずはぽい捨てがよし、そーしてーだろなあ無能政府の議論ばっかし、じきに破産してンフレ年金ぱあ、たいていもう破産してらあ、ならいさぎよく。病気はめえで治すか,死ぬ覚悟しろ。
 幼稚園全廃もいーな、小学校まで教育は親任せ、親ろくでもねーしわっはっはおんもしれーことになるぞ、子殺しが次に親殺しってって今でもたいてーやってらーな。
 いや無難に徴兵検査からってな、M検。

2010年12月18日 08:14 せっちゃん ショートショート・飯袋子
一つには功の多少を計り、彼の来所を量る。
 なんの功もなく空から出て空に帰る、花のように知らず、水のように見えず、わっはっは文句の付けようがないって、げっぷが出て癌になってはーてなって、そりゃもーどっかよこしまにしているんだぜ。
二つには己れが徳行の、全欠と忖って供に応ず。
 徳行となそんなん知らん、飲んで食っておねーちゃんが大好きーかな? 歌うには一人きりがいい、ふわーい欠伸をするひまもなく、どーしよーもない無責任の、血まみれぶった切れ下及六道。
三には心を防ぎ過を離るることは、貪等を宗とす。
 心を防がず過を知らず、かすっともかすらない妄想200%、貪等を宗とすとさ、わっはっは、若しやこれできるやついねーな、わしの他にはさ。
四つには正に良薬を事とするは、形枯を療ぜんが為なり。
 心も身も言い訳をしない、うちまかせて蛸の七足八足、しくじりゃ死ぬってさ、七転八倒あの世行き、ふわーい退屈いいから大往生してやるか。
五つには成道の為の故に、今この食を受く。
 もと成仏せる上分中分、大通智勝仏十劫坐道場、なんとしてか不得成仏底なる、腹ふくるるわざにあらず、看よ看よ地獄図絵。
だっきとふ孕み女をかっさいてつかみ出したる豊年満作。
 雪のドライブに行く、天空半ばに晴れ渡る、山みな美しく街も人も沈黙、生きているんだなあ帰ったら二十年前の、いーやさなんでもなかったおねーちゃんから手紙が来た剣呑。ふーんゼニ貸せってえのかな。火点けられねーよーにうはつまらん。
 弟子の本堂出来上がったか、お祝い一万円てわけにもゆかねーな、まあいーや行って麻雀しよう忘年会だな。
しーしかいじきくんじゅれんかふじゃし、しーしんじんちょーいひきしゅりんぶじょ-そん。
 世界は虚空の如く、蓮の花は濁りに染まず、心身清淨を超え、ただこれ礼拝す無上仏。
 手に持ったお椀の中にころっと入っている、カチ一声転法輪。
 静かにして下さい。

2010年12月19日 08:28 せっちゃん ショートショート・たぬき
ろーはつどろちゃんが参道にたぬきが死んでるという、車通らぬし気絶していたんだ、狸は臆病でぶっ魂消ると気絶する、そのまんま死ぬのもいりゃ甦ってつまり人を化かすわけだ。もーせんに小学校へ持って行ったら、剥製の標本になった、真っ黒に銀色の冬毛。
 春先はもっさり茶色、でっかい二頭の喧嘩とか、池の周りに子狸三つうろうろ、かと思うと向こうから来て人を見上げてまた行く、近眼だな。
 狸汁ってえからうまいんだろうって、三日狸になってにゃいかんて、食ったのが云っていた。
 臭いらしい、てっちゃんが中学のころ土建屋に食わせられ、
「どーだった。」
「どーってことねえ。」
 お寺はうさぎ天国で、雪が降ると足跡だらけ、本堂大屋根のてっぺんまで登る、雪下ろししてなで切ってすっぽり雪の中、竹やぶはまあうさぎの運動会だ。
 首ちょんをかけた、兎はバック不可能、針金回して首が絞まる、春行ってみると、とんでもないところにわっかがある、なんだいってやっと思い出した。うさぎは食えん、あぶらっけがない、山へ来た連中が皮むいて一羽置いて行った、やきとりにしても、ごぼうと煮てもどーにもこーに。
 たぬきが増えると兎が減る。
 激減して雪の辺の足跡は二匹か三匹か。
兎らのあとを辿りに背裏山天の雲いが浮かび行くらん
 ほどろに溶けて熊のような足跡。
 たぬきのせいで蝮も減った、食っちまうんだな、まむしは棲家を動かない、お寺の周りに四つあって必ずいたのにさ。アメリカ人が参禅に来て、退治だといってぶらさげて来た、うわやめとけ、子を孕んでいる、まむしは卵胎生だ、こーんなこまいのがうじゃら、毒は同じだからって大騒ぎ。
 修道院でからすうちの鉄砲撃ってたってえけどどーなったかな。。
 たぬきの溜め糞ってのは盛大に盛り上がる、ほんとうで、そのまわりに初茸が出て、香りもよく優秀なきのこなのに、虹色をして毒っぽいかな、食わせてっから、
「どーだ。」
「じゃりじゃりする。」
「舌触りはわりーんだ。」
 はーてな肥やし存分、たぬきの溜め糞だって云って恨まれた。毎年生えるよ。

2010年12月20日 06:57 せっちゃん ショートショート・帰依
其帰依三宝とは正に淨心を専らにして、或いは如来現在世にもあれ、或いは如来滅後にもあれ、合掌し低頭して口に唱へて云く、南無帰依仏、南無帰依法、南無帰依僧、仏は是れ大師なるが故に帰依す、法は良薬なるが故に帰依す、僧は勝友なるがゆえに帰依す、仏弟子となること必ず三帰に依る、何れの戒を受くるも必ず三帰を受けて其後諸戒を受くるなり、然あれば則ち三帰に依りて得戒あるなり。此帰依仏法僧の功徳、必ず感応道交するとき成就するなり、設ひ天上人間地獄鬼畜なりと雖も、感応道交すれば必ず帰依し奉るなり、己に帰依し奉るが如きは生々世世在在処処に増長し、必ず積功累徳し、あのくたらさんみゃくさんぼだいを成就するなり、知るべし三帰の功徳其れ最尊最上甚深不可思議なりということ、世尊己に証明しまします。
 淨心とは自分というまったくないんです、自分を知ろうとするその自分がない、もとこのもの仏、なんにもないんです、よこしまにするものなし、ましてや淨不浄を顧みる以ての他。
 如来現在世には手を取り足を取りの親切あり、如来と同一しうる自他です。如来滅後にはなんにもない、ないものは不滅です、金剛不壊の所以です。
 なむきえぶつ、なむきえほう、なむきえそう、知らぬ人が何を知る、虚空を穿つことは不可能、渇仰これ全生涯、天真にして妙なりはたった今の200%です。帰依これ全人生、たった今を始めて生死です、一切をなげうつんです、感応道交とは不可思議阿僧祇劫、地球の宇宙のお仲間入りを果たした無上楽です、知らなければナンセンス無意味です、ものみな汚れて情けないったらだらしなく浮きぬ沈みぬ。とはまただれの日送りか。
 悟り終わって悟りなし、修菩薩行は日々まったく新たに悟って下さい、一瞬の染汚はもうないんです、仏を見るんです、仏が見るんです、ぼんくらというほどの自分なし、自分というお仕着せなし。
 帰依三宝は唯一無二の救いです、三宝あって地球宇宙も自分もなし。

2010年12月21日 07:03 せっちゃん ショートショート・論外
次には応に三聚淨戒を受け奉るべし、第一摂律儀戒、第二摂善法戒、第三摂衆生戒なり、次には応に十重禁戒を受け奉るべし、第一不殺生戒、第二不ちゅう(喩の口ではなくイ)盗戒、第三不邪淫戒、第四不妄語戒、第五不こ(酉に古)酒戒、第六不説過戒、第七不自賛毀他戒、第八不けん(りっしんべんに堅)法財戒、第九不しん(目に真)い(亥に心)戒、第十不謗三宝戒なり、上来三帰、三聚淨戒、十重禁戒、是れ諸仏の受持したまう所なり、受戒するが如きは、三世の諸仏の所証なるあんくたらさんみゃくさんぼだい金剛不壊の仏果を証するなり、誰の知人か欣求せざらん。
 悟れっていう、悟り終わって悟りなしっていう、人の為しかない、自分というものが失せているんです、破家散宅です、国敗れて山河あり、城春にして草木深し、ほんとうにさ、国という囲いなければ世界平和です、夢のまた夢ですか、軍備拡張どんぱちが人間ですか、そんなことはないです。
 十重禁戒を守るには死人がよろしく、葬式に仏戒を授ける、わっはっは笑っちまうです、死人に不殺生戒不邪淫戒と、いらんもの授けるなってな。
 出家剃髪の式に並べ立てられて、他のはまあなんとかやれんこともないが、殺すなかれの不殺生戒は、たとい大腸菌だって命だ一瞬もできんどーしよーっと思った。
「汝よく保つや否や。」
「よく保つ。」
 と云って式終わる、すんでに不可というのをさ。
 汝妄りに殺すなかれと大学教授が云った、そんなこっちゃ納得できん、お釈迦さまは嘘を云うのかと食ってかかった仏教科の学生がいた。よく見ろ、これ人間の作ったもんじゃねーんだよと云ったら、そーかと云って体倍にも膨れ上がる。
 戒を第一安穏功徳の諸住所となすと、仏遺教経にある、どういうことか、真正面です、避けては通れない。答えなけりゃ一歩も行かんです。
「釣り坊主殺生するな。」
「汝殺生するな。」
 と云う。
 思想に酔う不こ酒戒、どのくらいはた迷惑か共産党を見りゃわかる。不しんに戒怒りもっとも危ういですか。
 ちらともあれば不自賛毀他戒ですか、不謗三宝戒ですか。
 マルが欲しいですか、撫でられる頭があるんですか。ばーろーめが、映画俳優になるってえ人格形成しかないって、うっは論外。

2010年12月22日 08:13 せっちゃん ショートショート・無心
衆生仏戒を受くれば、即ち諸仏の位に入る、位大覚に同うし己る、真に是れ諸仏の子なりと。諸仏の常に此中に住持たる、各々の方面に知覚を遺さず、群生の長えに此中に使用する、各々の知覚に方面露れず、是時十方法界の土地草木しょう(薔のくさかんむりをへんにする)壁瓦礫皆仏事を作すを以て、其起こす所の風水の利益に預る輩、皆甚妙不可思議の仏化に冥資せられて親き悟りを顕す、是れを無為の功徳とす、是れを無作の功徳とす、是れ発菩提真なり。
 まったくこのとおりなんです、言い種屁理屈やってないで参禅です、人みなこのとおりになって下さい。長者窮子のたとえ、なんにもないものが我が物になるとは、天上天下唯我独尊です、他にはまったくないんです。
 引導をわたす時に、位大覚に同うし己る、真に是れ諸仏の子なりと云って、血脈を授ける、釈迦牟尼仏明星一見の事、摩か(言に可)迦葉ねん(てへんに占)華微笑、阿難倒折刹竿著以来我れに至る八十六世、我れ生前の如来汝に授く、汝仏身に至るまで、この事よく頂戴護持したてまつるべし。
 そのありようは、諸仏の常に此中に住持たる、各々の方面に知覚をのこさずと、死んで死んで死にきって思いのままにするわざぞよき、甚妙不可思議の仏化に冥資せられて下さい。理屈は単純です、禅という単を示す、かえりみる己がないんです、たった一つはゼロです、ゼロを見ていりゃ二心です、無心とは心の無いこと、これを知る忘我、意識はあろうとなかろうとです。
 親き悟りを顕すとは、悟っていることをまったく知らんのです。無為の功徳です、無作の功徳です、ものみなあげて仏に奉じて下さい、これ発菩提心です。
菩提心を発すというは、己れ未だ度らざる前に一切衆生を度さんと発願し営むなり、設ひ出家にもあれ、設ひ在家にもあれ、或いは天上にもあれ、或いは人間にもあれ、苦にありというとも、楽にありというとも、早く自未得度先度他の心を発すべし。

2010年12月23日 08:20 せっちゃん ショートショート・半玉
 飯食おうと思ったらまだってーから、そんじゃあってごみ燃やし行った、冬雲が乱れ飛んで風がある、紙くず勢いよく燃える、出家前もよく反古燃やしたな、わしはてんから進歩せん。
 このごろは消防がうるさい、お墓でわんさか落葉燃したら、すっ飛んで来て血相変えて怒鳴る、
「お寺は何百年来こーして来たんです。」
 かーちゃんが見幕したら引き下がる。下界は大風、お墓は山に囲まれて無風、えーと見解の相違だ。焼却炉買えっていう、さっそく業者が現れて、お寺は五0万円のが格好だ、一00万出せば犬猫だって燃やせるって、耐用年数聞いたら五年だってさ、あほくさ止めた、とっつかまったらわし豚箱行くって追っ払った。その後こねーかな、いやさ消防がさ。
いにしへの人に我れありや白鳥の越しの田浦に春の火を燃す
 春先大風が吹いて、物置の屋根が吹っ飛んだ、戊辰の役のあと建てたバラックだ、寺に来たばかりで諸事逼塞、うまいことやって山の土と物交で業者に建てさせた、そうさなあいいかげんすったもんだ。
 まだ雪のある土手腹に燃した、物置一つ分よー燃えたな。
白鳥のめぐらひ帰るしかすがに越しの春野を燃ゆる火もがも
 一段落したら教え子だったのが来て、目の色変えてそこらさがしまわる、なんだって聞いたら刀鍛冶ですってさ、数学零点の男が鍛冶屋になった、なりだけはでかい、明治の三角釘がいい鋼で、日本刀にはもってこい、なーるほど、残念ながら車パンクするで掃除しちまった。
 新刀は高くっても百万円止まり、古刀で人を切ってねーやつなら最近四千五百万てのあった。なにがそんなに違うんだ、やっぱり材料かな。そーではないって研究して答えは出ている、精密にさ。むしろむかしの方がおおざっぱで出鱈目だ。わっはっは坐禅と同じだな、屁理屈てめえふりかえってばっかしで、刀打つのに刀打つことしねーんだ。
「ふんであいつ稼げねーから、何回か雇ってやったけど、えっへっへ。」
 働きわりーやってフランス旦那。旦那は地滑りの測量して、あのころはしっかり飯食っていた。新潟市に港を寄付したっていう名門の出で、
「晋山式やるで古町芸者上げてくれ。」
「そりゃむかしの話だ。」
「祇園の舞妓はんよりえーぜ、半玉さん。」
「だよなー。」
 新刀一本でなんとかって、あほ。

2010年12月24日 06:41 せっちゃん しょーとしょーと・うわばみ
八郎のいにしへ知るや雀らや早稲の田浦は刈らむとすらむ
 中学のころ秋田市にいて、八郎潟は琵琶湖の次に大きな湖だった、行ってはみなかったが、魚屋に水槽があって、化け物のような大うなぎが三匹いた、八郎潟のうなぎだった。田んぼがいらなくなってから強引に干拓したんだ、何でそーゆーことをするかってえとさっぱりわからん。今でもけっこう広く鯉がわんさかいた、大物が釣れるといって全国から来る、釣ってみた、半日眺め暮らした、わっはっはあっちこっちで跳ねていた。
じょんがらの津軽三味線見よやこれ飲めや歌へや雪に寝ねやれ
吹き溜まりバーとは云はむ底無しやロートレックの風にしも聞け
 秋田の雪は横に降る、ケットにくるまっておっかさども上手に歩いていたな、わだちあとでスケートしたり、秋田犬に橇引かせて遊んだりした。津軽に冬尋ねたのは山上進という三味線引きに会うためだった、みごとすっぽかされて民謡酒場で酒飲んだかな、山上進はおわびのしるしだって、お寺のために作曲してくれた。それからへんなバーへ行っておかしなバッハ聞かされた。
 秋田の土崎にはエチオピア料理があって、マダムは絶世の美人だった、皇室に限りなく近いという、さすがスフィンクスのお国柄、だれかれのぼせ上がって、わしもさおれに気があるんだって。離婚してまたよりを戻して店はどっかへ引っ越した。
みちのくは飛天になりて鳴り響み見れども飽かぬ月を廻らへ
 飛天もいーけどさ、八郎になって天駆けるか、八郎伝説は、沼という沼にあるみたいな、田沢湖は坊主もからんで竜子姫だの、くにますの住んでいたころは若しや不気味な湖だったんだ、深いことも深いし。
 男鹿半島には、すけべななまはげたたっこむ池あるしな、火山で出来たんな、海へ半分出たのもあってまんまるー。
珍しみ咲ける花草いくへありし渦潮巻ける竜飛岬に
身のたけは丈に白髪になんなんに魚釣り暮らせ竜飛岬を
 みちのくの夢は龍かうわばみになってのし歩く、ちんけな歌作ってる場合じゃねーや。

2010年12月25日 07:01 せっちゃん ショートショート・くにます
 世の中の女どもってのはすげーな、春結婚するから処女を奪ってくれなと、ふーんあほか、三人四人男をとっかえて結婚ってそりゃいーけど、うーんなんかむかしもんにゃよーもわからん、息子としてるのがいたりよったくって乱交パーティだの、3Pだの彼氏代理だの、うっひーわしの出る幕ねーな。
 雪が降って来た、岩船のあたり波浪警報が出た、海水温が高いからすざまじいことになる。電車丸ごと持ち上げる竜巻とか、そりゃもー出合ったら人生おしまい。羽越線の雪景色はワンダーフルさな、荒波にかもめが飛んで塩の花、トンネルをくぐって抜け出でて、女どもがセックス狂いは、自然の美しさに触れあえぬから、自然を美しいと知るのは男だ、戦争に行くしか能のない男は、自然の絶唱を見る。今の男は、女か男かわからないけつ振って歩いてらーな。わっはっは戦争に行くのは女で、男は銃後の守りか。よってもって自然はぶっこわれコンクリートジャングル、女はセックス一辺倒の、風も吹かねば出口なし、淋しさには耐えられない、男は草食人間になって、女も男もどーでもひとりぼっちかな、犯罪だけが増えるか。
 あいまいなひげ面囲んでよったくってお茶濁すか。借金大国は議論しかできねーのさ。
 ドストエフスキーを持ち出す人っているな、小説なんか読むのいねーけど、地下室の手記っての一八のころ読んで、コペルニクス的転回だった、うしろめたく人には云えないのが表向きになる、そんなふうでコース踏み外したかな。 ピカソの青の時代という、これはそっくり絵になる。卵の中で、すべすべした青い壁に閉ざされて、一人でも夫婦でも子供つれでも同じだ、空気が不足する、飛び出せ、殻をぶち破って。まさにそーゆー絵がある、すざまじいものだ、アルルカンの実存主義、外に出たって空気はない。
 ラスコールニコフの殺人と、今のわけのわからん無差別殺人と、どこが似ているかいって、そりゃ人間のやることは同じだって云えば同じだ。
 生活空間がない、内爆発か発狂するか。
 すでに人間を失い去っている、なぜだ、
 嘘とはったりと空威張りはは坊主だが、ぜにかねと世間体のほかには空洞。
 よったくって右往左往きりだな、もぐら穴を掘ることも不可能。
 クニマスを発見した魚君は女だな。
 お声をかけられた陛下はー

2010年12月26日 08:19 せっちゃん ショートショート・滝桜
 朝っぱらからひでー下痢して参ったなあ、水のように出る、何回トイレ通ったか、おまけに猛吹雪で寒いし、こりゃ来春まで命あぶねーかな、思い残すことはないし、まだ大法も伝えてねーし、せっかく切り開いた和歌の道も絶えてしまうなあ、まいーかわっしの知ったこんじゃねーと。
願はくは花のもとにて春死なむそのきさらぎの望月のころ
 きさらぎはまだ雪掻き列車だ、四月にならんと花は咲かねーな、ホームレス野垂れ死にも吹雪きん中じゃどーもさ、凍死ってのは安楽行品だってえ話だがな。ロシア兵にさんざんなめにあって、その上シベリア抑留という、戦争に負けたら泣き寝入りのほかねーのか、北朝鮮のミサイルも中国漁民の横暴も、耐えしのぶってつまらねえ。わしなんざまったく幸せだ、今んとこ飯食えている、飲んで食って坐って、あとはほっとけ仏、下痢したって医者に行く気はねーんだな。
梅に桃三春の花と聞こえてぞ尋ね会津に雪は降りしく
 三春の滝桜をテレビで見て、そんでは行こうってすっ飛んだら、会津磐梯山は吹雪、やけに遠くって郡山の向こうだ、三分咲きといって駐車料金取られて、買ってけ屋台ずらっと並んで、うへえおしまい。
 次の年思いついて役場に電話したら、今がまっさかりという、美緒ちゃんと利恵ちゃんと三人で行く、道中のすけべ話が面白かった。にべもないのにべってどーゆーこった、なんとかっていうタレント男子校へ入ったら、全寮制でニベア持って来いって先輩が云うんだって、ニベアたっぷり塗ってそーして、タレント魂消て逃げ出した、ニベもないってなーるほど。
 利恵ちゃんはどっかへケータイ置き忘れて大騒ぎ、まぬけだからいつでもって嘆く、ケータイあって連絡ついた。そのあと味噌をつけたってのはどーの、MとSはもと同じこったてんやわんや。車が止まる、なんだ事故か、ちがう四キロ先から渋滞だ。田んぼわきに車おっぱなして歩く。滝桜の孫や子が成長してもって、一村花の渦、四キロ歩いたってわっはっはまーいーか、これ歩けそっち行くなひっぱたいて行進、女どもがSしたら生きてらんねかったか。
 滝桜は樹齢千年の、丘の上に八方に伸ばして、三千世界花の命ってふうの。なんともすばらしーやな。
 生きていたら今年はうすずみ桜を見に行こう。

2010年12月27日 08:37 せっちゃん ショートショート・萩
ゆずり葉を取ってきて松を切ってきてはーて正月って、かーちゃん省エネで餅は餅屋になったし、今年も六万払った車屋が大王松を持ってくる、わしは大掃除さぼって目下のところ腹下し、さーてさて年なんて取らなくっていーから、盆暮れ消えれ。てっちゃんが健康第一の嫁さん貰えば、来年からは正月は温泉でふわーい欠伸、きしょーめ待てば回路の日よりかな雪降ってら。
獄門の露と消えたる松陰の今しこの世を何変はらずや
 萩に松陰神社というのがあって、神社の境内に生家や松下村塾も移してある、小さなお蔵が博物館だ、なんでも忘れてしまうわしだが、松陰のみみずぬったくったような書だけは覚えている、我田引水わが党の士だなあってわけのさ。
 人を誉める天才は実に教育そのものであったか、坐禅をしない禅宗坊主に、議論だけの政治家に、教育なんてよりタレントまがい女の子に抱きつく先生に、学校ごっこのあほたれ教授に、男だか女だか不明の一般人や、うはっはそりゃきりもねーわな。
いにしへゆ朝日射しこも松や松涙溢れてて過ぎがてにせむ
 萩は北門屋敷という豪華ホテルに泊まった、一泊三万円、皇太子殿下のお泊りになった部屋は七万円、どーだわしだってそーゆーとこ泊まるんだぞ。そーさなあ萩焼きが並んでこんなもなわからん、かーちゃんにそっくりの茶碗買って、お土産買って、立ち寄った骨董屋のおやじが、こりゃあ目利きだってんで人を盗み見るうっふあほか。
 あとは自転車を乗り回す、ほんに萩はいーところだ、あっちこっち見学して高杉晋作の家とかえーと、お蔵喫茶で昼飯食べて、覚えているのはお寺さん食えねーなってぐらい、数が多すぎる。
 笠島椿を見た、まだ咲き残っていた、何万本という椿の原生林、八百比丘尼が植えて歩いて、北限は青森の野辺地にある、これも花のさかりを見たな。
 猫がいた、捨て猫だな、じっさが釣りしていた、南の海はぬるんで緑色、かさごが釣れた。新潟へ帰るにつれて青ずむ。
津和野にはつらつら椿めぐらひに熱海の梅を今月今夜
 なぜか熱海へ行ったら思い出す、一月十七日梅の満開を大雪。

2010年12月28日 14:43 せっちゃん ショートショート・蕎麦
 年越し蕎麦ってーの冷たーい思いして食ったっけが、海苔してあれうんめかったかな。わしんとこはそーゆー習慣なかったな。学生のころふーらり戸隠に行って、中社の神主の坊に五00円で泊まった、風呂もあったし、お客さん蕎麦にしますかご飯にしますか、蕎麦だったら馬の食うほど出た、大笊に山盛りくそーおれも男だ、がんばって必死こいて半分は残す。お水取りの百姓連中が泊まる、なまくら学生じゃ太刀打ちできんな、そば粉の香りふくいくたるって、うんまい蕎麦だった、今のはもっと洗練されている。
 生臭坊主になってまじめーな先生を鯉釣りに誘い込んだ、先生お礼に蕎麦をおごるという、小千谷蕎麦の老舗に入って、さしむかい座る、なんにします、ふーん花へぎそばってある、あれにした、へーいって出て来たのが海苔をかぶった九人前。小千谷蕎麦はつなぎの自然薯が鼻につくってのもいて、でもこりゃうまかった、とうとうぜんぶ平らげた。先生は二人前、わしは七人前。
 そばとうどんとで喧嘩になって、死人が出たって新聞記事あったが、そのころのわしは完全蕎麦党だった。
 蕎麦がやけに高くなって、うめーとも思えねーのが一五00円からって、つまんねー止めた、そうは無茶食い出来なくなったんだな。雲水はお櫃空にするのが礼儀で、えいっと腹ゆするとぽかっと空いてまた入った。寒行托鉢して、ご馳走みんな食ってとくり一本ついてわっはっは。
 馬の食うほど出したって施主家が嘆いたら、なんで比丘の食うほど出さなかったんだってさ。
 しまいに食った絶品は、入広瀬の名物じっさ蕎麦だった、もう少し食いてーったら四人前平らげていた。
 入広瀬の民宿とらさくは閉店した。嫁なしの主が巫女さん貰って、仲良くきのこ栽培したり、林業したりしていたが、ついに長岡へ出て来た。冬はかもしか拾って来て食っていたが、つまり落っこちているわけだ。
「あいつは口の軽いのにはやれねえ。」
 と云って、ついに貰えずじまい。
 入広瀬はやたら開発して不毛の地になった。中国人嫁貰おうとして、中国女ただでやってきて東京駅でどろんする、そりゃ桂林には美人がいた、背がすらっと高くってだとさ、ふーん。

2010年12月29日 08:15 せっちゃん ショートショート・眼蔵
諸法の仏法なる時節、すなはち迷悟あり、修行あり、生あり死あり、諸仏あり衆生あり。万法とともにわれにあらざる時節、まどひなくさとりなく、諸仏なく衆生なく、生なく滅なし。仏道もとより豊倹より跳出せるゆえに、生滅あり、迷悟あり、生仏あり。しかもかくのごとくなりといへども、華は愛惜にちり、草は棄嫌におふるのみなり。
自己をはこびて万法を修証するを迷とす、万法すすみて自己を修証するはさとりなり。迷を大悟するは諸仏なり。悟に大迷なるは衆生なり。さらに悟上に得悟する漢あり。諸仏のまさしく諸仏なるときは、自己は諸仏なりと覚知することをもちいず、しかあれども証仏なり、仏を証しもて行く。
身心を挙して色を見取し、身心を挙して声を聴取するに、したしく会取すれども、かがみにかげをやどすがごとくにあらず、水と月のごとくにあらず、一方を証するときは一方はくらし。
仏道を習ふといふは、自己をならふなり、自己をならふといふは、自己をわするるなり。自己をわするるといふは、万法に証せらるるなり、万法に証せらるるといふは、自己の身心、および侘己の身心をして脱落せしむるなり、悟せき(しんにゅうに亦)の休かつ(喝の口をとって欠)なるあり、休かつなる悟せきを長長出ならしむ。
人はじめて法をもとむるとき、はるかに法の辺際を離却せり。法すでにおのれに正伝するとき、すみやかに本分人なり。
人の悟をうる、水に月のやどるがごとし、月ぬれず、水やぶれず。ひろくおほき光にてあれど、尺寸の水にやどり、全月も弥天も、くさの露にもやどり、一滴の水にもやどる。悟の人をやぶらざること、月の水をうがたざるがごとし。人の悟をけい(四に圭)げ(石に疑)せざること、滴露の天月をけいげせざるがごとし。
・証という字は言に登だったです。

2010年12月30日 08:41 せっちゃん ショートショート・阿賀
 西会津のあたりに実川という急流がある、飯豊山から流れて来る、こりゃ釣れそうだってんで山路辿ったら、谷が深くって入れない、川を遡るには命がやばい、対岸には道があった、未舗装のなにしろ行ったがこれも川には入れない。杉の林があった、お粗末な立て札に朱字で五十嵐の家と書いてある、杉の林の中に何軒か民家があった、平家の落人部落かな、それにしても由緒あるって、貧乏屋敷洗濯物下がったり、なんか引けるな、水場があったんで竿振ったら岩魚が一匹いた。
 上流はふつうの谷であった、釣り人がのっそり歩いていた。
 次の年大工事をしていた、五十嵐の家観光開発かこりゃもーだめだって、
実川の春いや深み散りしける花の軒辺を言問ひがたし
 花なんかまったくなかった。花のあるのはもう一本向こうの奥川だ、理想郷だと吹聴して、ほんにさ人里離れたいい感じだったが、川は釣り荒れて岩魚もなーんもいなかった。
 とっつきは熱塩加納線という道で、いわなもいたし寝ていて取れるほどきのこが生えた、峠には家が四軒あって二軒は廃屋、それががけくずれで不通になった、何百というみやまからすあげはが水を吸いに来る、やまどりの一年子が行列を作って歩く、自然は賛嘆すべき豊饒さ、三年たったらコンクリートの道になった。
 仙見川も夢のような川だった、早出水系のこのあたりだやまびるがいる、どんなに支度して行ってもはいこんでいる、高校の生物の先生が云っていた。先生は一000種の植物を識別する、
「それから五つ増やすと五つ抜ける、わたしの限界ですか。」
 庭の草の名前教えてもらって、次ぎの日にはけろり忘れた。
 やまめがわんさかいて、三年たつと一匹もいない、てんぐちょうの群れ飛ぶ岸は開発されて死ぬ。
杉原の仙見の川に橋かけてなんに鳴き止むやまほととぎす
 うるさいほどに終日ほととぎすが鳴いていたんだ。
 なつかしい川も山も消える。
 人もそりゃ消えるほかないのに、ごきぶりと人間だけは生き残るとさ。セックスしかねえ女と議論だけの政治家とな。
 ただ飲み川と云われた只見川、まずは田子倉ダムを破壊して、わっはっはがーやん大渦に飲まれ、柳津から阿賀のダムというダムをぶっこわし、真っ黒になって鱒が遡った清流阿賀野川にしよう、わしの夢はこれ。

2010年12月31日 08:10 せっちゃん ショートショート・覚えない
 先生は高校で生物を教えていて、草や木は一千種も覚えている、少し増やしてやろうてんで、しだとくさの類に挑戦したら、三つ覚えると三つ忘れるそうで、自分の脳味噌タンクは一千が限度だと云った、ちょうちょは250も覚えりゃ頂上だが、草や木はそんなわけにはゆかぬ、おまけに無限化序だの有限花序だのなんのとめんどくさい。先生はわしに庭中の草を教えた、面白い逸話もあって、えーとそーずかばばっての他は忘れ、次の日だれか来た、説明しようと思ったら一つも出て来ない。ぎえーこりゃなんだ、恐竜の名前だってトリケラトプスにステゴザウルスにえーと、なんだっけかさ覚えたってのに。春先弥彦山に登った、固有種もあるそうで、可憐な花草があって、道つど教えられてうーんなんしろ
「ほへーえ。」
 って、下に下りたら忘れていた、おまけにわしは顎出して一人だけケーブルで着地。ファルスタッフとはわしのことかとだれか云い。人もよう覚えねーし、名と面とがちぐはぐ、がきのころからだったか、二人似ているの取り違える、人が云うにはさっぱり似てないってさ、小六のころ恋人間違えて、
「え? 」
「どーいうこと。」
 って、はーておっほん。
 ぜーんぜん間違えねーのもいた、授業中にほらってスカートまくる、パンツはいてない、なんだ産毛の生えた? ふわーって云ったらだめよ怒られ。おっぱいふくらんだ子いて、痛いんだろったら、叩いてみて痛くないってーから、どん、
「うーっ。」
 たら、えらいことになった。二人今でもよく覚えてるたって、しわくちゃばーさ覚えてるわけねーがな。
 駒場寮は西式健康法の冷水浴もある共同風呂で、同室の朝倉が髭剃って面みがいている、なんだおめーいくらいじったって不細工治らないよったら、赤の他人だった、よー見てもよーわからん、わっはあなにしろ謝るよりなく。
 この風呂で遷ったみずむしが未だに梅雨どきには出る。
 かさぶたみたな斑が出て、天呑が良性の皮膚癌だと云った、あいつちゃっかり僧堂歴二年にして、立職法戦式にはかーちゃん連れて来た。
「ふんなん見たことねえ。」
 って兄弟子の穴井がむくれる、美緒ちゃん満艦飾も、式にふさわしくねえって却下、パンクチュアルなんだ、美緒ちゃんいかしてたのに。坊主なぞどーでもいーってのにさ。
 皮膚癌てかびの一種かな、きのこ取りのむくいなんかな。


2019年06月02日

ショートショート10

2011年01月01日 07:54 せっちゃん ショートショート・一果明珠
娑婆世界大宋国、福州玄沙山院宗一大師、法緯師備、俗性者謝なり。在家のそのかみ釣魚を愛し、舟を南台江にうかべて、もろもろのつり人にならひけり、不釣自上の金鱗を不待にもありけん。唐の感通のはじめ、たちまちに出塵をねがふ、舟をすてて山にいる、そのとし三十歳になりにけり。浮世のあやふきをさとり、仏道の高貴をしりぬ、つひに雪峰山にのぼりて、真覚大師に参じて昼夜に弁道す。あるとき、あまねく諸方を参徹せんため、嚢をたずさへて出嶺するちなみに、脚指を石に築著して、流血して痛楚するに、忽然として猛省していはく、是身不有、痛自何来。即ち雪峰にかへる。雪峰問ふ那箇か是れ備頭陀。玄沙いはく、終ひに敢えて人を誑かさず。このことばを雪峰ことに愛していはく、たれかこのことばをもたざらん、たれかこのことばを道得せん。雪峰さらにとふ、備頭陀なんぞ遍参せざる。師いはく、達磨不来東土、二祖不往西天。といふに、雪峰ことにほめき。ひごろはつりする人にあれば、もろもろの経書、ゆめにもかつていまだみざりけれども、こころざしのあさからぬをさきとすれば、かたへにこゆる志気あらはれけり。雪峰も衆のなかにすぐれたりとおもひて、門下の角立なりとほめき。衣は布をもちひ、ひとつをかへざりければ、ももつずりにつずれけり。はだへには紙衣をもちいけり、雪峰に参ずるほかは、自余の知識をとぶらはざりけり。まさに師の法を嗣するちからを弁取せりき。つひにみちをえてのち、人に示すにいはく、尽十方世界是れ一箇の明珠、時に僧問ふ、和尚言へること有り、尽十方世界、是れ一箇の明珠と、学人如何が会得せん。師日く、尽十方世界、是れ一か(果に頁)の明珠、汝そもさんか会す。僧日く、尽十方世界、一かの明珠、会を用ひてなににか作す、師日く、知りぬ汝は黒山鬼窟裏に向って活計を作すと。
一か明珠これ仏果なり、必ずやこれを得て下さい、理解とやこう三百代言の消え失せるところ、洞然明白にして歩歩清風起こる、過ぎにし日雪渓老漢歩歩清風起をこの目に見る。
・不釣自上の金燐を不待にもありけん=ほんとう本来のおのれという大魚金燐を釣るを未だ知らず。・是身不有、痛自何来=この身がないのに、痛みどこから来る。

2011年01月02日 07:41 せっちゃん ショートショート・ひぐらし
いやひこの蒲原田井も夏なれや朝な夕なにかなかなの鳴く
 ひぐらしが鳴くのは風情がある、みーんみーんよりも油蝉のじーよりもいい感じって、それが朝のまだき四時には鳴く、淋しいを通り越してなーんか身を切るような辛さ。坊ちゃんのばーやの故郷蒲原の寺に来て、冬の猛烈雪と格闘もまーさ、くわーっと鳴くかなかなの、一生もうあかんていう気になったな。門前にゃお寺の土地ふんだくって住まうのがいて、水荒れて田んぼに砂利入るっちゃ怒鳴り込んできて、どぶさらいやらされたり、草刈ればてめえんもんだってんで土手ふんだくる、山門までやって来る、ひでーうわさ流されたりのわっはっは、小村ってのはすざまじいもんがある、よそ者は到底住めない仕組み、うっふどやつも首根っこ押さえちまったが、お寺そっぽ向いたせいか、十一軒ほどのが四軒どっかへ引っ越した。
 ぜんぜん同情しねーな。
 本家に分家に村にって他なんにもねーで、たぐりゃみんな芋つるで日本国もそんなふーで、政治家どもも似いたかよたかの世間知らず外交ゼロ。
 てめえの世界しか知らんの取り扱い不可能。
 雪消えにはしょーじょーばかまが咲いて、あっちやこっち彩する、いちりんそうが咲く、すみれさいしんが咲く、えんれいそうが咲く。
 人はいさ我が世の春ってさぎふちょうが梅に桜を行く、お墓にはかたくりが咲いて、
いにしへゆ我が言の葉をかたかごのむらさきにほふ春ならましや
 地球温暖化でぎふちょうが絶えたと思ったら、去年何頭かいた。
 絶えたのは春蝉だった、透明な青い小型の蝉で、しゃくやくの咲くころ眠ったげにみーんみーんと鳴く。
 長い間姿を見なかった、そーしたら玄関先の楓に二匹いた、美しい蝉だった。百年もののユッカが咲いて、春蝉がいなくなって、でもってどーやらわしの引退かな。
真葛生ふる山の間にして春蝉の長鳴きつつに日はも過ぎぬれ
春蝉の長鳴きつつに山を越え風の便りもうらみ葛の葉

2011年01月03日 06:42 せっちゃん ショートショート・雪割桜
いやひこの神さびおはす大杉のわたらふ雲の年立ち代る
 暮から正月って毎年来てめでたいんだか忙しいんだか、てんやわんやの風邪引かぬようにってのが精一杯。発心寺では三元日終わったら寒行だった、素草鞋履いて雪の辺を歩く、足は馬鹿でほんの一町も行くとしびれちまってどーってことない、鉢の子三つ指で支える指が鉈でぶった切られるように痛い、ほーっと呼ばわって歩く、法という説と鉢をほうと訛って指すという説とある、赤坂小梅という芸者が寒中の海に入って声を鍛えたというが、ほうっと次第に澄んでいい声になる、今は天呑がやってるかな、淨慧も今年から発心寺雲水だった、わっはっはごくろうさま。
 寒行托鉢よりお呼ばれがたいへんだ、毎日施主家がついて施餓鬼を上げて大ご馳走する、蛋白質の補給は一年のうちこれっきりって、きれいに平らげてお櫃を空っぽにする、馬の食うほどじゃなくって比丘の食うほどにって、いったん僧堂に帰ってからまた托鉢行脚の姿して行く、とくり一本は出てあったまって顔真っ赤になって、また雪の中へふえーい参ったな。
滝の門のどうめきあへる大杉のわたらふ雲の年立ち代る
 小滝という村はたしかに滝がある、滝の上に大杉が生えて雪割り草が咲く、ゆきわりさくらとも、最近は大流行して一鉢三00万円のが出た、いや七00万だとかやっている、可憐な花で園芸種が変り咲く、お寺の山にはない、向かいの大面山に咲く、白から青から紫、赤に波のように変化する。取って来て植えたけど一年で絶えた。
もののふのいにしへ垣のいつしばの紫にほへ雪割桜
 大面城址といって、お寺の開基さんの丸太伊豆守の砦跡がある、よくさがさないとわからない、堀あとが残っている、上杉影勝跨従丸太伊豆守。ある日新潟市長のどでかい車が着いて、市長秘書のでっぷりかーちゃんがだ人を伴う、名刺には札幌市長板垣なにがしとある、こりゃ大物だ、市長どの丸太伊豆の子孫であると宣まう、子孫は景勝公と移封されて行って、帰農したそうで一度尋ねて来た。
 屋根を銅版に葺き替える、わっはっはへーいってんで三0万ばかり寄付してもらった、二反の白ってなもんの坊主丸儲け。
雪割りの花を愛ほしといつしばのしのひ行きしはたが妻として

2011年01月04日 08:12 せっちゃん ショートショート・ずくなし
ずくなしの花は和名たにうつぎという、卯の花の遠い親類らしい、新潟の県花はゆきつばきだが、ずくなしがいい大好きだほんにさ、五月初旬ピンクの花を開く。
ずくなしの花をくたちに降る雨の昨日も今日も冷えわびわたる
 ずくなしっていうのは挿しても水を吸わないから、ずくのないずくなし、この花の咲くころは田植えで、田植え冷えといって急に冷え込む、苗の根付きがいいそーだが、むかしはみんな三時起きして、真っ暗がり燃し火して田を植える、しんまで冷える、
「二日半植えて、三日めにゃどーにも体動かねえ、畳かかえて半日寝ている。」
 動けるようになってまた植えたと、施設に入っているじっさが云った、たいていもうあの世へ行っちまった。産後の肥立ちが悪くって、田んぼわきにふん伸びていたら、役立たずはいらんてんで里へ担ぎ込まれた、嫁も婿も代わりはいくらでもいたんだ、里から鸚鵡返しに送り返されて、ふんでも生きていたなあっていうばっさ九三まで生きたか。
 あのばっさ面白かったな、奉公に行って覚えたといって英語で歌って聞かせる、生き伸びたらいい世の中になって旅もできる、温泉にも行かれる、だれかれ我が世の春ってことあったな。
 おれだって中学行けば東大も入ったんだって、小学校の優等生のひにゃむくれじっさは、役場に入ったせがれと仲違いして、財産持って家追ん出た。お役人というのはへんてこなん多いし、うっふう村八分してたな。かーちゃんはだれとも付き合わんで余所行き着ちゃ出かけてさ。工場ができて騒音公害だってんで騒ぎする、らちあかんのは行政区がちがう、すったもんだお役人OBどの、しゃべりだすとうんざりするほど長い、効き目あったかどーか結局はうやむや。村うちだって豚飼えばハエだらけ、お寺の天井まっくろけとか、こやし山門わきに積んですげーにおいとか、なんたってしょーがねえから我慢がさ。
いついつか我れも越し人ずくなしの花咲くころを思ひがてする
 戊辰の役に敗れて、河合継之助が会津に落ちて行く、八十里越えという道があって、今も雪消えずくなしの咲くころには、跡を辿る人がいる。お寺は河合継之助に加担したとかで、官軍に火をつけられて山門の他丸焼けになった。
鉄砲の弾が今も出て来る、親指ほどもある鉛玉。
ほととぎす月に追はれて卯の花の茂み会津に八十里越え
河合継之助は鉄砲傷が悪化して道中に死んだ。

2011年01月05日 08:09 せっちゃん ショートショート・分水
花魁の春たけなはに行きかよひ六十過ぎたるしが大河津
 大河津分水はこの辺りきっての花の名所で、それが川風が神経質でなかなか思ったようには咲かない、売り物の花魁道中はこのごろは外れっぱなし、子供連れて行って待っていたら、てきやの屋台がずらっと並ぶ、買ってえあれも買ってえ、とんもろこし600円わたあめ800円りんご編め500円ぐはたけーや破産する、たまらん逃げろってんで帰って来た、今は地域でやっていてそんなことはない、花魁は公募だそーで180センチもあるのがでっかいぽっくり履いてってのはどーもぞっとしねーかな。花魁はあでやかで色っぽい、さすが文化の華ってだれか云っていたな。
花魁の賑はふ郷は過ぎぬれど散り敷く朝に会いにけるかな
 大竹貫一という人が私財を投げ出して作ったという大河津分水、七部通り出来上がったころに国がゼニを出した、三年にいっぺんしか米が取れなかった中ノ島、そりゃものすごい洪水だったそーの、家ごと流れて行く人がいるどーしよーもできないなと今も語り継がれる、なにしろ日本一の大河信濃川だ、ちょうどこのへんで曲がって新潟まで行く。
しましくに吹きしのへれば大河津荒らき波もは満ち満つ花の
 今改修工事が終わったところかな、良寛の五合庵の前を通って海へ押し出す、古墳がいっぱいあるって云ったら、分水を掘ったぼた山だ、木が生い茂って古墳のようだ、
「朝鮮労働者の死体捨てたから古墳かもな。」
 という人もいる、大昔からそんなんかな、世の中ろくでもないことばっかりで、出家する所がない、出家できないのは情けない、社会の崩壊一にこれだな、らごら坊主どもは一番仏に遠い。
大河津花はしましく咲きけむが年はもいかに吹く風寒し
 河風の吹きさらす上はまだで、土手下あたり咲いている、修行の雲水も花見ができりゃいーな、良寛さんはどーしていたんだろ。
万代の過ぎ行くものは河にしや両手の辺にも寄せあふ花ぞ
 むしろ敷いて飲んで食って酔っ払って花魁道中、ついでに釣りもできねえかな、ここは大物がよー釣れたんだ、なぬ禁漁区だってふーんそうだったんか。

2011年01月06日 08:39 せっちゃん ショートショート・ぼけ
 正月そうそう風邪を引いた、年始客の中に風邪引きがいたんだ、酒飲んでくだ巻いて、客二杯亭八杯やってるころは間違っても引かなかったんだ、今年はとくり一本売れねえ、飲んだら乗るなが徹底した。朝夕坐っていりゃめったなことじゃ風邪引かないんだが、かつては風邪引いても坐りゃ治ったし、今は坐ってる間だけは治っている、ふーんぼけが始まったんだきしょーめ。
 くされ縁の朝倉がぼけたって年賀状よこした、毎朝坐っているとさ、二月の接心に呼んでやろう、どろちゃん肝いりの新年宴会に呼ぼうか、あいつじっさのくせにおねーちゃんに持てたっけ、今はただの頭陀袋かな。
 そーいえば禅師が電話して来て、わしてっちゃんの晋山式受けたっけかなあという、前の予約が入っていてキャンセルだと、かーちゃんが出て、わしに代ると云ったら怒られるから止めとけだと、しょーがないやっちゃ、てっちゃん帰って来て強弁に談判したら、では他のキャンセルしてこっち来るとさ。
 こりゃもう認知症だな、海兵で終戦それから東北大に入ったという秀才もぼけだーな。嘘とはったり口先だけの禅師やってるからさ、なにしろ行ってゼニわたして首繋いで来るって、脳味噌筋肉でできてるてっちゃんが云ったわっはっは。
 禅師来なけりゃ200万がとこ浮く、そいつをねこばばしてってわしはそのー。でもさこれキャンセルになるとたいへん具合悪いのさ、公式決定もいーところでな。
 さーて風邪治して200万持ってとーちょーさ豪遊うはは、あれこっちもだいぶぼけたぞ
 風邪はきまって春先に引く、冬の体が変わるんだという、ここ何年来そーだった、なにしろ不愉快さな風邪引きは。
 あれは六月だった、みんなで浅草行って人力車乗ろうったら風邪引いた、治そうってんでドライブしたら治ったらしく、
花筏越しの真人があしびきの山たず行けば浦島が子ぞ
 花筏がまっしろに咲いて、真人はまっとと読むんだそーな、まっとむじなの穴というのがある、小出からまたぎを呼んでむじな退治した、150から仕留めたが、親分は穴を掘って佐渡へ逃げ延びたという。帰って来たら鼻がつまる、息が通らない、風邪じゃなくって花粉症だった。ひでーことになった、人力車乗ってそのあと同窓会、美人の明美ちゃんが雪女になってやってきた、浴衣とると~ふわーふがふが。

2011年01月07日 08:20 せっちゃん ショートショート・冬の旅
シューベルト冬の旅なむいやひこのもがり吹雪の舞ひ行く烏
 シューベルトはしゅうしんがご執心で、歌うのも歌ったが、カンツォーネのマリアデルモナコ聞いて、こりゃとってもだめだってんで、海へ飛び込んでもぐり専門になった。新婚旅行に沖縄へ行って、嫁さんほったらかして、すもぐりの長い槍でこーんなの突いて来て、おまえは立派なうみんちゅだってうみんちゅに云われた。
妹らがり通へる道は牛之尾のもがり吹雪の呼びあへも行け
 五十嵐川に牛之尾と牛が首という地名がある、五十嵐小文治は皇室より古い家系だそーで、那須与一の親類だ、那須与一の弓は45度の仰角で射る、世界最強のモンゴル弓であった、それを証明した好事家がいる、てめえを那須の子孫だと云っていたな。
 こちらが表日本でもって、小文治は大陸との交易で栄えた。
 牛之尾はどん外れ村で今は冬でも通れるのかな。
三つ柳風にぬぐはれ地蔵塚しのびがてせむ春の如くに
 三つ柳に粋な消防士がいて、二度めのかーちゃんとの子が小学六年生になったが定年退職だ、うんがんばってる、村のお地蔵さまの額頼まれてへたくそに書いたのを、彫師はもっとへたくそでわっはっは恥の上塗り。
牛首がいにしへ雪を踏み分けて何を求めむ鹿熊川波
 鹿熊川は五十嵐川の支流で、ものはためしフライしたらおいかわしか釣れん。わしの青春を思いがけず歌にした、冬の旅は車でぐるっと一周。青春というより凄春だった、シューベルトの壁なんてものじゃなくってさ、なんの獲得物質もねーし、死にたくねーから生き残ったかな。
白鳥の隠れこもして梓弓春をめぐらへ時過ぎにけり
 五十嵐川で冬を越す白鳥がいた、わしらんとこは春先わたりの前に来る、二百三百田んぼに集って、ぎゃーすか鳴いてらーな、飛び立つのに田んぼのはしからはしまで駆ける、ちっと格好わりーかな。
小文治の古き京は牛之尾のなんにおのれが時雨わびつつ
 五十嵐小文治の五十嵐神社はご立派、他には明暗寺跡というのがあって、維新と同時に火事で焼けた、幕府隠密の拠点であった、その過去帳を持って来た人がいて、渾身口に似て虚空にかかる、東西南北の風を厭とあった。臨在の弟子が開いた一宗だな。滴丁投了滴丁了、ちちんつんりゃんちんつんりゃんと中国読みするってさ、とりちゃん調べておくれ。

2011年01月08日 08:23 せっちゃん ショートショート・伎楽天
松之山渋海の川の百合あへの思ひ起こさば年はふりにき
 渋海川というのは信濃川の支流になる、地滑り地帯を行くからたいてい濁っている、松代松の山と云うには松がない杉ばっかりだ、松がないのに松之山とはこれいかにと云ったら、あるよってんでわっはっは四本ばかりさがして来たおっさんがいた。
めでたくも松をなうして松代の長寿無窮を寒茸となむ
 山百合も見たことないか、まあどっかにあるだろ。
 渋海川に揺られっぱなしのふうっと首をもたげ、思い起こせば年寄ったってさ。
 歌をこさえ、仏を継ぐことは日本人の復活、これ以上はないと思って孤軍奮闘はさ、一人粋がるきりでなんにもならねーな。
 まいーか一人やるこたやって死ぬべえ。
 役目はたしたどくろありって標立てるか。
宋代のたれぞ写せし六祖像どくろ面なるそがなつかしき
 どくろが皮かむっているきりの、智慧とはまさにこれ、なつかしいとはまったく他にはなく。
 いい川があった、河童橋みたいなむかし小川の、竹切って作っただけの竿でなんか釣っていた、さっぱり釣れねーなと思ったら鮒が釣れた、まぶなきんぶなげんごろーぶなぎんぶなへらぶなふわーっくしょい、釣ってもしょーがないなおっぱなして歩いて行くと家があった。だれも住んでないらしい、ではしばらく家にしよう。
 蛇の形になって真っ赤にのみがいたってだれか云ってたな、無人の家に入るには気をつけろってさ、衣擦れの音がした、なんとまあすげー美人、金銀瓔珞なまめかしいったらすけすけルック、ふーっと笑ってさし招く、お床入りかと思ったら天に舞う。
みちのくは飛天になりて鳴り響み見れども飽かぬ月をめぐらへ
 伎楽天かな天女さま、そーかわしも天に舞えるんだ、死んだら重さもないし痛くも痒くもないし、男の管巻くのより伎楽天、女のほうがいーや、妙音が聞こえ花が乱れ飛び、そーいえばわしモーツアルトを卒業したんだった、また生まれ変わるまでって、また生まれ変わるんかい。
 死ねないのさ、修菩薩行は生まれ変わり死に変わりさ、如来になったら霊山でお休みじゃなくって説教だとさ、うっふっふ。
三界の花のあしたをいやひこのおのれ神さひ雨もよひする

2011年01月09日 08:13 せっちゃん ショートショート・鳥越
年寄るはなんに淋しえ鳥越の椎い葉末と言問ひ寄さめ
 鳥越になんでも知っている坊主博士がいて、仏教だけはさっぱり知らんてやつ、どっか僧堂の師家になって行って、坐禅すると人間が駄目になるとかいって、てんぷらゴーグのおためごかし行い清ますやっていた、ほんとうに坊主駄目の代表みたいだったな、年寄って看取る人もなくて死んだ。越後坊主か聞いただけでどーしよーもねーよな、なんなんだろこれ。没義道くそ餓鬼食えなくなったら反省もするんかな。
 鳥越に行ったらまんまるー太った元気な女の子が笑う、見てるだけで楽しくなる、山を越えると出雲崎かな、どんざん波の洗う海へ出る、山はけっこう深くって杉の林が続く。
夏来れば椎い葉末の風さへに袖吹き返し笑まふる子らは
 蓮華寺という瀟洒な道があって、南北朝時代の砦跡へ行く、巨木の生い茂る林だ、めずらしい木が数あるんだけれど名札見るからに忘れちまう、巨木の間から佐渡が見え荘厳の夕陽が沈む、わしたかの類が舞い飛ぶ。中越地震で蓮華寺道はがっさり落ちて、こけちゃんとみょうえ上人を案内して、崖崩れわたって歩いて行った、西山連峰最高峰という、標高二百何十米かな、東山連峰に東山寺があるってわけ。
山を越ゆ鳥にはあらね乙女らが袖吹き返し荒磯辺に行く
 正月風邪引いたらなんか急に老けちまった気分、くそーめ飲みよーが足りなかったか。どーせ年相応に老けるしかねーか、おねーちゃんに三行半食らうまえに、なにしよーかって宝くじは当たらねーし、四国のお遍路さんやって野垂れ死にするよりは、四万十川河口で赤目でも釣ろーか、あいつナイルパーチなんだってな、ちぬやすずきの仲間かな、ちぬ釣り名人であったな遠いむかし。
物部の香椎の宮の乙女らが早苗取る手に言問ひ忘れ
 物部神社なんてのがどーしてここにあるんだと思ったら、気比神社だった、ご立派なお宮だ、この歌からぼけが始まったんか、四連の歌に三つも乙女が出るよーじゃぼけもいーとこだ、そーさなぼけ防止には一番に若い子ってことさな。奮闘努力の甲斐あってってやっぱ宝くじー

2011年01月10日 08:35 せっちゃん ショートショート・青いけし
時を超え帰り行くとふヒマラヤの花の谷間の青きけしはも
 青い花は月光に白く見えるってむかしばなしに書いたけど、ほんとうはどーなんかな、すみれの青いの白く見えそーにねーな、青いけしって神秘的か、ヒマラヤの花の谷間にはちょうちょいるかな、でっかいアゲハがいたらすんばらしいな、北海道も名寄から向こうはちょうちょ見なかった、サハリンにはおかしなひょうもんがいるみたいだけど、もんしろちょうに見えるのはえぞしろちょうという、本州と同じなのはくじゃくちょうにきべりたてはにー
 どこへ行ってみたいって、そりゃどこへ行ったって面白い、所かわれば品変わるで、一週間や十日は夢のように過ごすんだな、でもさ語学さっぱりだし、おねーちゃん口説くのに親指突き出じゃ、娼婦しかひっかからねーや。アメリカ人の交換教師云ってたけど、日本の娘みーんな娼婦かってさ、うっひ人間どもあんまり興味ねーし、世の中うざいばっかりかな。
此の発菩提心、多くは南閻浮の人身に発心すべきなり、今是くの如くの因縁あり、願生此娑婆国土し来たれり、見釈迦牟尼仏を喜ばざらんや。静かに憶ふべし、正法世に流布せざらん時は、身心を正法の為にほう(倣のイでなくてへん)捨せんことを願うとも値うべからず、正法に逢う今日の吾等を願うべし。
 ダライラマに会おうとも思わねーな、ありゃえらいめ見てるな、今の世正法を守ることは、あるいは想像を絶して困難だ。ヒマラヤの青いけしみたいに一人花咲いているには、想像を絶してまさに花開けばいい、そーさなああるいは月光に白く。
 だれに会おうとも思わないのは、会いながら会わぬということか、よっぽどのことがないかぎりな、右往左往付和雷同もまあさ面白い、どーにもこーにものぶんなぐって、効き目もなけりゃ目障りだ、逃げ出しゃいいって、どーもこーものやつ多いな、わっはっは逃げ出してたらいるとこなくなる、こっちもどーもこーもやるか。
但だ般若を尊重するが故に、日々三時に礼拝し、恭敬して、更に患悩の心を生ぜしむること莫れと。今の見仏聞法は仏祖面々の行持より来たれる慈恩なり、仏祖若し単伝せずば、奈何にしてか今日に至らん、一句の恩尚報謝すべし、一法の恩尚報謝すべし、況や正法眼蔵の大恩これを報謝せざらんや。
 いよいよ困難てこったな、良寛はよくやったなあ、わしはぐーたらでなおさら難しくして、まーさなにしろ坐ってらーな、他にはなーんも知らん、小沢じゃねーけど新入り一兵卒だな。

2011年01月13日 08:52 せっちゃん ショートショート・にりんそう
 鬼無里村はでっかい猿が電線を伝わってのっそのっそ、二、三十の群れだな。人が鬼みてーだから鬼がいねーんだってさ、悪口云ってる場合じゃねーやそうとうに過疎が進んでる。裾花川の上流にあって、ダムから上の方は有料になる、車一第四百円と思ったら人間一人四百円二人で八百円、さすが鬼の村だあきしょーめってみずばしょうの群生地だ、大森林に湿地があって、みずばしょうといわながいる、いわなは白い鰭でみずばしょうにふさわしいかな。シャトルバスが出ていて、駐車場にはにりんそうが群生する、一つ咲くのがいちりんそう二つ咲くのがにりんそう、なんてえのを俳句だと称して能天気もいたが、一華という一輪草とこの二輪草はそうは似ていない、にりんそうはでたらめで、三つ咲いたり五つ咲いたりわしは初めて見た、けっこう珍しいんだな。
 バスを降りて30分ほどは歩く。いもり池があった、結晶のようにいもりの卵塊が40、いや100もあったか、なつかしい早春の風物詩。
 忘れられずに秋も行ってみた。みずばしょうだけゼニを取るかと思ったら秋も同じに取る、番人の人件費だな。シャトルバスはなかった、一時間の余も坂道歩く。
 裾花には化石が出てくじらか恐竜もいたんだっけか、廃校がそっくり博物館になっていた、化石は見つからず、岩棚に巨大なすずめばちの巣があった、襲われたらえらいこっちゃ。きのことりが四人ばかりいた、舞茸を取っていた、なるほど有料化の特典はきのこか、けっこう沢山出ていたな。
 戸隠の真裏にあたって、なんとか山という二つ峰があって、この沢登りつめるとどこへ行くか、雨飾山へ行くか、蝶を追っかけていたころならどこへでも行ったな。あこがれの裾花渓谷だったな、タイムとラベルの一回的なんだな、二度と同じところへは行けないのさ。
 岩船に朝日スーパー林道というのができて行ってみたら、むかしのように何十何百の蝶がと群がる、たまに時空もつながる、ぽけえと突っ立って、朝日スーパー林道の巨大いわなも語り草。
 たいてい死に絶えた。
 人類滅亡して500年もとの地球に帰るってさ、仏説はそんなこと話題にもならねーかな。
 ビッグバンの三つ四つポケットにしてうっひ。

2011年01月15日 08:29 せっちゃん ショートショート・わるがき
 銀玉鉄砲ってのはいつんごろからあったんけな、こけちゃんだんご虫にしてぼかん大穴、黒岩と宮部といたころビニール玉の白いので戦争ごっこやったな、黒岩が命中率抜群、五メートルはなれて虻を仕留める、歩のこま倒す、手が長いからってもとわるがきだな、そーいえば穴井もアイヌの鳥罠見てなつかしーって云ってたな、わしら使ったんと同じだって、九州も四国もわるがき天下まだやってんだ、てめえのものスケッチして女の子に配ったなんてーのは、相当どーしよーもねーな、学生んときの絵が一枚売れたって云ってたな黒岩、くろいわさんくろいわってさ。
 宮部と撃ちあいして、わしがずっこけたら真上から至近弾撃ちやがった、かつかつよけて仕返しだ追っかけたら、逃げたつもりで障子の影に隠れる、障子ごと撃ったら眼鏡に命中、危なかったな、しゃーない二人で二万円か出し合った。あいつ月が三つ四つに見える乱視だ、てーして勉強もしねーのに目が悪い、でも鯉釣りは名人だったな、手賀沼は六月梅雨どきに釣れる、釣れたの買いに来る業者がいたってさ、こっちは六月はばったり、鼻先にえさ垂らしても知らん顔、てめーの生んだ子食ってるんだとさ。
 釣りに行くか、はい、来たばっかに信濃川へ連れて行く、そんな針じゃだめだ、どーせ釣れねーんでしょってのが、いきなり来てハリスぷっつん。
 しゅうしんは坊主のくせにって怒鳴る、でもって釣っていたら、さまやんと組んでハンドル取って、方向ちがうじゃねーか、いーんでーすってんでシュノーケル出す、しょーがねえきす釣っていたら、しゅーしゅー変な音がする、はーてなったらどばっと顔出して、釣れっかあって釣れるわけねーだろがばーたれ。
 さまやんのやつ帰って来いったら、まだ学生だった、単位落っことしそーでだめですといってしゅうしんと小笠原へ行く、そりゃいーかげん楽しいことあったらしく万歳ってわけが、その年落第して一年余分にやる、八方えらい迷惑。

2011年01月16日 08:27 せっちゃん ショートショート・鳥鳥
夕されば雪は降れるにこの鳥やうれたく鳴きて蒲原に過ぐ
 雪が降って年の暮れ、ふーらり電車に乗って新潟に行ったら、さんさんやっぱり雪が降っていて、なーんか知らん電気屋に入ってオーディオ買っていた、田舎持って来たら金やるといって、むかし不細工商人、客より店のほうが威張っていて、ぶすっつら雪の辺橇に乗せて持って来た。今のCDは音拾いすぎてうすっぺら、LPもちいっと拾いすぎのとこあったけど、カラヤンの魔笛買って、ブタペストの弦楽四重奏買って、おおむかしのピアノソナタ買って何しろ聞いていた。
蒲原も雪は降れるにこの鳥や恋ひたみ鳴きて大橋越ゆる
 かーちゃんもいねーし雪降りっぱなしの彼岸まで、二月十五日にだんご捲きしたな、お釈迦さまの涅槃会、五色の団子こしらえお菓子を混ぜて、小滝高安寺小栗山の子供を呼ぶ、ばったみたいに跳び付いてありゃあるったけさらう、栴檀は双葉から強欲たかりが面白かったんだが、子供が来なくなる、数もへったしサッカーしてるから行かないとか、しまいまで残ったお寺だったが廃止。
紅の春に迷はむこの鳥やオホーツクより吹き荒れなんに
 吹雪で鳥が迷い込む、今助けてやるからなといって、ナムがいた、お寺の黒虎だ、気がついた時にはぱっくり。あるとき喉が鮮紅色の鳥が来た、のどあかといって北海道のわたり鳥だ、大荒れで迷い込んだ。
 地吹雪は二月に来る、停車は追突前は見えない、すんげーやホワイトアウトだ。駅から歩くと雪が盛り上がって、水かさの増した川にはまってすんでに死ぬところだった。
きつつきの穿てるあたり降り降りてまふら淋しも軒伝ひ行く
 なんせ雪に閉ざされてほとんど四月まで、今はブルが掻いてくれるし、車も四駆になる、軒伝い歩くという毎日、あおげらはきわめて美麗でとんでもないことは、七羽も来てどんかつお寺は穴だらけ。
唐松は堂を破りしきつつきのつがひにあらむ春の燭台
啄ばむは花の浮世かうその鳥たれそ追ふらむ雪は降りつつ
 雪消えが遅いとうそという赤い鳥が来て、花をむしって食い散らかす、真っ赤な嘘ってえのはちがう、目白は密を吸い、くちばしの太い雀は花を千切る、はーてなあうそはつぼみを食うんだ。

2011年01月14日 08:27 せっちゃん ショートショート・鳥鳥
柏崎夕波荒れてみずとりのか寄りかく寄り雪降るはいつ
 波荒れてみずとりが五、六羽揺られている、雪降るのはいつなんだって、なーんかそんなふーな感じ、みずとりの名は鴨にきんくろはじろに雁にばんにえーと他わからん、白いのが神子って書くんか巫女って書くんか、みこあいさっていうらしい、おめでたいって感じかな、雪降って妙見堰に浮かんでいた。中越地震で巨石が落ちて、かーちゃんと赤ん坊が生き埋めになった所だ。あそこ鯉釣り名所だったんにさ、立ち入り禁止になった。
 鯉を釣っていると、いろんなみずとりが来て、甥っ子のかーちゃんが半弓やってたのをもうやらないからってくれた、よーしやっつけてくれようっったら矢鴨事件があって止めた、めっかったら生臭坊主だけじゃすまなくなる。アーチェリーなあいつへた撃つと腕こすってえらい目に会う。
 黒岩が軽のジープで河川敷を乗り回す、四五度登るんだぜってほんにさ、石ごろ原平気で乗り回す、助手席のわしはたまったもんでなく。
守門なる刈谷川辺に郭公の鳴きわたらへば時過ぎにけり
 万葉にそっくりあるのを地名だけ変えた、本歌取りっていうより物真似、郭公が鳴きわたると鯉がばったり釣れない、時過ぎにけりってのは田植えとか畑とかに関係があるんだな。信濃川には郭公がいて、電線に止まってかっこーかっこーって鳴いている。
束の間もよしやあしやの信濃河暮れ入るさへに行行子かも
 おおよしきりもうるさいほどいる。自然の摂理ってなーんなんかな、親の卵蹴落としててめえでっかく育つやつ。
 雪の林にしじゅうからが来る、ぴーと口笛吹くと寄ってくる、かわいーけどえさやるなんて邪道だ、取って食うほうが正道だ、白鳥増え過ぎたから鍋にしちまえ、十人前できるぞったら、白鳥の絶対数は変わらない、日本だけ増えてるんだとさ、ふーんこしひかりの落ち穂食ってるからいけるかも。
いやひこの蒲原田井を荒芽吹く烏鳴くさへおぼろなりけり
人はいさ老い行くものを蒲原の青葉に酔ふて鳴くなる烏
 おいって云うと振り向くやつ、仲間だって云ったらぴーと糞ひった、はしぶとからすはおっかねー感じ、まじかで対決したらかろうじて勝った。からすめくるみを落として車に欠いてもらう、どんとフロントガラスに当たって魂消たことあったな。めったなこっちゃくたばらんが、轢かれた烏からす同士突っつく、ふーんやっぱ烏だな。

2011年01月17日 07:03 せっちゃん ショートショート・砂かぶり
 砂かぶりってーんかな桟敷で相撲見てる人の顔がほーんに陰気臭くって、閉塞日本のどーもこーもだなあ、政治がどーの外交だ不景気どん底ってさあ、武士は食わねど高楊枝、たとい何あったってけろんぱしてたのに、白鵬が頑張って日本人代表やってるのに、海皇が年にもめげずって、ちったあ元気だせ。
 もとっこ坊主がわりーんだ、世界中が幸せにならんけりゃ個人の幸福はないと云ったのは宮沢賢治だ、宮沢賢治は大好きだが、そりゃヨーロッパ思想だ、片隅を照らすもの国宝なり、伝教大師はくそ面白くもねーけど、一人光明なら八方を照らすというのが仏だ、世の中どーであれ回りを照らす光明、西欧かぶれのいいことしい、キリスト教だのいう邪教の赴くままに、それを批判することもできない、共産主義がきちがいだと現実に見て対処できないなぜだ。
 日本の心を取り戻すこと。
 滅びにまっしぐらは、経済や外交や文化や思想の故にではない、そんなものになんの影響も受けない、心は濁りに染まぬ蓮の花、ないものは金剛不壊、もとっからなーんもないを知る、信ずれば救われるの賛美歌なと、入りやすく煽られてみんな仲良く世界平和とは違う、難しいことは難しい、もと取り付く島もない。
 ものみなかくの如し。
 絶学無為の人を尊貴する、仏仏に単伝というたとい世の中の常識が必要だ、担うべき坊主どもの堕落な、先生と坊主にはろくなもんがいないと、藤原こうたつが云ったが、双方腐ればそりゃ人は滅びる。
 仏教のぶの字もない曹洞宗、達磨さんに毒を盛り御開山禅師に後足で泥をかける、よくもまあ罰当たりがゼニカネ車と女っきり、ミンチにして養殖まぐろの餌にしろ。白隠以降仏とは別物の臨済宗、公案だお悟りというきりの自閉症、犬の子一匹救えぬていたらく、仏を大切にする気風があるなら、もういっぺんまっぱじめっからやり直せ。
 どーもこーもならん世の中だって、一人開眼すれば百方開く。
 一遍上人の宗は絶え、他の宗派はそりゃ仏教とは違う。

2011年01月18日 08:37 せっちゃん ショートショート・金鉱
ちょっと行って来る、こんな日に出かけるのかーちゃん目むいて怒る、たっても海見に行くんだ、仮病のかーちゃんほったらかしに三日もどっかふらついた、信用なくなったえへへ。突堤にどかーん吹き上げて荒波、うねり寄せたり、しぶきがかかったり、わっはっは本気に荒れるとサーファーやってこねーな、なまじっかだと所狭し車停まる、大波の立つ浜とそーでない浜がある、どーしてかって見た目よーもわからん。
 吹き荒れる風に乗ってかもめが飛ぶ、えさがあるからか。
 釣りしてたらオキアミをさらいに来たな、投げこんだの食って舞い上がる、ぐわー外れない、かもめ凧かな。オキアミと竿ごと持ってったことある、はるか向こうに着水して、どーにもこーにも竿は漂流。
 かもめ釣りした、しばらくこらしめようってのを、小学校三年だったかてっちゃんが面白がって、いきなりかもめにキスされた、獰猛な鳥だ。てっちゃんはわたりぼにも挟まれ、蛸にも咬みつかれ、わっはっはいろいろあらーな。
 今は本山修行のえらーい坊さまかな、しょーむねえ親父持っててーへんだ。
 じっさいい子でいるにはどーしたらいーか、やっぱりホームレスかな、奄美大島飛行機片道七万円だって、寝袋と釣り竿ありゃあって思ったらはぶがいる、玄関にははぶ取りの棒が置いてある。はぶのはまむしの倍あるか。
 門前のかーちゃんどもまむしとっつかまえる、焼酎に漬けて五千円、はぶは一万円だっけか、わしはとんでもそんな勇気なし。むっくりというきのこ出て行列して生える、手さしのばしたらびーっと音する、尻尾うちつけて警戒音だ、ひえあぶねーところだったあんがとよって、まつたけが出るって聞いて行ったら、まむしの子が前後左右、毒は同じだって不動金縛り。たぬきに食われて絶えたそーなが去年見た。復活かな。
 雪が降ったら山へ行かない、行ってみよーか、佐渡が見えるんだ、お寺から佐渡まで金鉱がつながってるんだぞって、信ずるやつやっぱいねーな。
 もっこもっこ雪を歩く、なむねこみたいにさ、あいつ冬は修行していた、晩年は駅のストーブに当たっていた、このねこめざし食わねーとかって駅員が云った、山門を出ると知らん顔で助かったな。
 本山修行は本山病になる、仏法のぶもなし無理やりお仕着せ。

2011年01月19日 10:04 せっちゃん しょーとしょーと・グルメ
 何がくせえって風呂にも入らねー、パンツ履き替えねーで坐禅に来たトヨには参ったが、あの蒲団使えねえってうーんなことねーとは思う、人間みなくせーけどてめえのくせーのはわかんねーんだな、mixiに入れてくれってえからはいよっていうと、どーもこーもごみあくたいる、でもってのうのうとしてるの恥ずかしくねえかって、恥ずかしいの忘れて次第くせえってやつだな。
 みみず車に置き忘れて這い出して腐ってどえれえにおい、ぎやー死ぬったって大掃除にめかいた、と思ったらあおいそめ腐ってこりゃもうにおいなんてもんじゃねえ、強烈毒だ、やっぱり海のもんのほーが数段まさる。
 グルメで云えばうはは趣味わりーか、てっちゃん料理の鱈ちり、三日も残ったのへもち焼いて入れて、塩に醤油とどーもあんましうまくねえ、てっちゃん土産のさくらえびのふりかけっての入れたらまーさ乙な味。うめーもの発見はちょっとしたカンと偶然による、腹へって入った長野市のカサミンゴは、ソーセージやお菓子のドイツ料理だが、ぞっこんうまくって二度食って取って食いして、わっはっは三度めにはもーいいって、どんなすんばらしーんんでも間置くさな。
 小林はきのこ取りの名人で、車に乗ってってどっか生えてねーかと云ったらここっていう、停めて山へ入ったら天然もののなめこが生える、雑きのこもわんさか。ふんなことってあるわけもねえ、小林はきのこの仲間かも、わしもなめこめっけたことあって、ビニール袋いっぱいにして変だなと思った、なぜこの木寸法に切ってあるんだ、うわ人の植えたもんだ、取ったのはしょーがねえ逃げた。
 小林がいつかどーですって見せたの、どくささげだった、食用と間違えやすい、新潟県特産で、食って三日たつと手足の先がなたでぶっ切られるように痛む、激痛は三ヶ月も続くという、ひーえなんとか知識あったから助かった。
 小林と二人で留守番して、テレビにフランス料理ってのあった、トン肉に野菜にきのこ入れ、ワインぶっかけてぱーっと燃す、なんだやらスパイス、死んだもんに枯れたもんにバジルのデビルに? おっそろしくうまかった、二回目は食えねえ、三回めは失敗四回以降はなし。
 かしぐるみは信州特産、めったに売ってねーのを三年買いあさったら、ホテルにも出る、雷電くるみの里へ行くと、なんだあ一人二袋だと、けちるなっておねーちゃん怒鳴ってもあかん。
 グルメってさ単純そのもの、ハムもソーセージもステーキも塩味一つ、そーだ塩味ちゃん結婚するんだった六月十二日。

2011年01月20日 06:52 せっちゃん ショートショート・加茂川
芦辺には月さし出でて何故か河を越ゆらむ雪は降りつつ
 古代には冬はたった一日であくる日は春になるという、どっかうなずけるところがある、魂の冬と云って、たましいがとっつくのか去って行くのか、冬とは死んで甦るんかなあ、なんせ大雪の越後とはかんけーねーか、河といえば信濃河、母なる大河というより、流転三界命尽きたら信濃河ってさ、向こうとこっちでは電力会社も宗門の教区も変わる。
枯れ芦に雪は降りしけ夕月の過ぎにし君を思ほゆるかも
 年上の弟子であった滝川さんが死んだ、まったくどーしよ-もない師で彼を度すことができなかった、しばらくは気にかけ今はどーなんだか、袖降りあうも多少の縁と、枯れ芦も雪も風情、河も人も月の満ち欠け、獅子座流星群を見ようってさ弟子どもと三人で行く、信濃河は千曲川になって、犀川が合流して松本へ、越後は時雨信州も降っていたか、美穂の松原までのして行って、せっかく流星はちらーりほらーり、ひまだねえ坊主は。
うばたまの黒姫吾子を雲井にか見裂ける月に追はれてぞ来し
 黒姫伝説は蛇の化身にもてあそばれてという、水内郡のみのちは蛇だ、農耕に関係があるんだな、よーもわからんけど面隠み、おもなみというセックスのあとを恥じらひに顔を隠す、今のおねーちゃんどもには縁がねーか、黒姫はほんにいい山だ紅葉も若葉もさ。月の光になって追いかけるそりゃこわいな。
加茂川の月に宿借るあしかびのしじにも雪は降りしかむとす
 新潟県の加茂川だ信濃河にそそぐ、桐箪笥で有名な加茂市は京都を真似た町名がある、釣っていたら鯉は跳ねるのにさっぱり釣れぬ、まんまるう月が出た、枯れぬ前の芦がうつる、雪になるってそっくり京の加茂川に進呈しよう。日本人に和歌が絶えて久しい、でたらめなんでもありの語呂合わせではなくってさ。

2011年01月21日 07:58 せっちゃん ショートショート・パソコン
 パソコンぶっこわれて若しや命のないのと同じと思ったら、電気屋来て文字盤ソケット差し替えたら付いた、うひひどーもさっぱりわからん、二月に明慧上人来るから、メルアド変えてパソコンも変えてもう一花咲かせるか、花咲じっさ業、せったん歌一千じき終わるし、提唱とむかしばなし雲水日記、世に出すことできねーかな、うっふーみみずののたくった書とさって、まあさそろっと一人きりすっか、どーせ死んだと同じ、坐りゃあの世へ行ったっきりみてーな。
挙す、雲門垂語して云く、十五日以前は汝に問はず、十五日以後一句を道ひもち来たれ。自ら代って云く、日々是れ好日。
 門こんに足をへし折られて得る日々是好日、見渡すかぎり他に得る人なし、転ばぬ先の杖に汲々として、必ず自分を省みてなにがしとなす、花も鳥もな、それじゃあ生きているとは云えん、死ぬこともできん、へびの生殺しみっともねえったらのた打ち回るが関の山。
雲門問ふ、如何なるか是れ仏。雪峰云く、寝言をいうなかれ。雲門便ち礼拝す。一往三年雪峰一日問ふ、子が見処如何。雲門云く、それがしの見処は、従上の諸聖と一糸毫もことならず。
 お釈迦さまも達磨さんもまったく同じ、仏はたった一つ、雲門の禅などいうもの若しあったらとっくのむかしに断絶。形あるものは必ず滅す、ないものは損なわれず傷つかず永劫未来、たった一人でいい、まったくないものになって欲しい、現今を実証する以外になく。
一を去却し、七をねん(てへんに占)得す、上下四維等匹無し、徐ろに行いて踏断す流水の声、縦いままに観て写し出す飛禽の跡。草は茸茸、煙幕幕、空生巌畔花狼藉、弾指して悲しむに堪えたり舜若多。動著すること莫れ、動著せば三十棒。
 よく香語に用いるんだなあこれ、やさしく云えば自分というたが外れて、ぜんたいはるかに塵埃を絶して驀進する、おもむろに行いて踏断す流水の声、ほしいままに見て写し出す飛禽の跡、たれかれ云うなら、世界中の歴史も思想も芸術も書も一つ余さずです、しかもなんのお喋りもないんです、悲しむに堪えたり舜若多、虚空神ですとさ、雲門がいるわけねーじゃねーかさあほんだら、臨済宗はそーさなあないってこと知らない。あって商売繁盛だとさ。曹洞宗はわしを最後に絶えるかー

2011年01月22日 06:10 せっちゃん ショートショート・大雪
竹やぶずっしり寝てなんせ大雪かな、けものの足跡がひとすじ、うさぎでなくっててんが鯉を取りに来たんか、おっこうの葉を食べに山鳥の親子が来ていたが、笹が寝てりゃあ笹を食べるんかな、春になりゃうさぎのうんちがどっさり。
 屋根の雪下ろしは一段落してからだ、暖気になればがっさりへる、雨が降ったらやたら重たくなる、一屋根象十頭分とか云ったな、たまらんな。
 本堂の雪庇を切りに行かんきゃな、凍てつくと引く力が強烈で、軒をへし折るやられたな一冬五十万円だっけか。あいつへた切ると音もなく雪崩れて、足取られ池に叩き込まれた、二回もさ、池の水くぐって命助かった。
 だっていうのに東京さ行く、仮病のかーちゃん呆れる、てっちゃんはとうからそっぽ向く。はてなあわしはなんで東京行くんだろ、どろちゃんだのおねーちゃんに会いにって、ツイン取れってーと支店長と相部屋だとさ、くそーおかまの趣味なんかねーんだ。
 そーいえばおかまバー面白かったな、もう十年も前になる、メード喫茶はちっとも面白くなかった、つんでれ喫茶に執事喫茶がいいってだれか云ったぞ、スカイタワーは上れない、東京タワーで我慢すっかってお上りさん、韓国行くかな新大久保の。安くって美味しい店あってもうせんに行ったな、つぶれちまった。
 ばかは死ななきゃ治らねえ、死んでも治らねーか、だれも喜ばねーのにさ、はた迷惑顰蹙どーしよーたって切符買っちまった。
 去年は八号線入ったら大渋滞、長岡駅へ着くのはお昼ごろだってついに諦めた、キャンセル料だ今年は奢れってさ、やだよー切符代ぱーになったんだ、待てよ今年もその懸念大かな、見附から電車で行く。新幹線ストップしたらどーなるんだ、うっさいわしは行くんだったらさ、
 江ノ島行って富士山見よう、鵠沼のハワイ料理ってのうんまかった。まぐろがボキでえーとまんじゅうがなんだっけな。
 しょーがねーなちったあ大人にならねーと。
 命より大切なかしくるみお土産に持って行くからさ。
秀でては花も実もあれ浮世草こはおろかしき空ろ木にして

2011年01月24日 13:49 せっちゃん ショートショート・劣化
慎太郎かだれか日本人は劣化しているって云ったそうなが、スカイツリー口開けて見上げる群衆カメラ抱える連中見てるとつくずく実感かな、若いのも年よりもどっかもう人間の格好していねーな、右往左往根無し草のてめえ判断力ゼロ、なんだろうなあこれ浮き草に影というものありにけり、影という人格もねーなあただの雑っぱ、ふーんよくわかんねーや。
 スカイツリーって側へ行くと却って高さがわかんねーかな、川っぱたから見上げたらこりゃおっそろしーやと思ったけんど、浅草寺の境内地じゃ五重塔とおっつかっつな、五重塔のほーがそりゃ貫禄あらーな、賽銭箱あっしさ。新宿の48階ビルからスカイツリーと東京タワーが見えて、正三角形の三つ頂点みてーかな、へーえなーるほどってぐらいのっぽだった。
 日本国断末魔のモニュメントかな、経済発展一億総白痴化へのシンボル東京タワーと、一巻の終わり劣化ウラン弾電波頭脳のお顔なしスカイツリーだってさわっはっは、ぞっとまあ笑えねーなあ。
 難民移民を大幅に受け入れる、日本人はおしまい、じじばば姥捨て山してどーしよーもねえ粋のいいがきども、過保護しねーでめったやたら育てるのさな、悲しいかな日本語なんぞむかしに滅び去っている、坊主だめじゃ思想も哲学も消えて、やくたいもない議論ばっかし年が年中、そっぽ向いててめえよけりゃいいやってしかねーな。
 一人如来仏の道が残っている。
 良寛さんさな。
 自分が消える利己心なしがてめえよけりゃあってやつ、そりゃ笑える。
 わっはっは大笑い。
 550メートルなんてけちなこと云わないスカイタワーな、成層圏をぶち抜いてにょき。
 めえというなんにもなし=宇宙と同じは宇宙を見ない。
 理論的に可能だってこと知ったら、帰りなんいざ田園将に荒廃、元の木阿弥その他不要、浮世終わったら霊山説法。

2011年01月25日 08:19 せっちゃん ショートショート・追ん出され
 どろちゃんが酒井抱一にするかカンディンスキーにするかってえから、酒井抱一にするって云った、有楽町だって行くと、出光興産いでみつこさんのビルでもって、前にもなんかで行ったっけ、皇居が見える桜田門だあってことは丸の内か。わしも人生まじにやりゃあつばぐれーつけたっか丸の内、一年先輩でいでみつこさん入ったのいたな、もうさっさとあの世行ってるかな、ない知恵絞って無理すりゃ寿命ちじめる、そこいへ行くとわしや朝倉はどんと長生きすっかな、ゼニさっぱり入らねーのが玉に瑕。
 なんだあこりゃ成金趣味、俵屋宗達に本阿弥光悦だ、尾形乾山に光琳にだと、歌あり屏風あり茶碗あり鉢あり、何千万から何憶っての並んでいるぞ、酒井抱一はどーしたんだ、いえ抱一は別会場みたい、するてーとどっかで蝶番狂った。
 まあいいか正月だあうはうはいって見ていた。どろちゃんが聞き上手で田舎坊主薀蓄。古今を通じて目利き第一ってーのが光悦で、もと刀剣を扱う本阿弥家だなあ、刀ってーの音楽で云えばモーツアルトさあな、はがねこそは魂云々。そりゃなんたって絵の一番は雪舟さな、悟りの姿そのものを描く、世界中どこ探したってそんなのない、世界遺産の筆頭だ。
 そーさ偽物いっち多いのは雪舟で、なぜかって禅寺じゃ雪舟が必需品だったんだ、そうは数がない雪舟一座が描く、伝雪舟ってようく較べると解る、別に見たらわからんかなあ。俵屋宗達も座つまりギルトの生産だなあ、伝宗達はでも伝雪舟よりわかりやすい。風神雷神あんなもん描けるんは宗達以外にない、大胆小心の右代表みたいな男だって三島由紀夫が云ってたが、どうも現代人の批評できるような玉じゃねーな、光悦もどえれえ人間臭い、尾形光琳は物真似だ、どっかにがさつな所がある。それを抱一が凌駕する、たいへんな努力だ。あの申し訳ありませんがお静かにって、係りに怒られちまった。てやんでえ、しゃべらねえ溜息もしねーで鑑賞できっかよ、いつだったかバッハ聞きに行ったらどへた、こんなんゼニ払えっかよぶーすかって睨まれた、三曲めになったら見事な演奏、ふーんそーゆーもんかって納得、でもさお行儀のいい日本人て、てめの心置忘れ、ついに劣化ウラン弾になって、ただのがらくた。ふわーい怒られねーで外へ出るのが先決。

2011年01月26日 08:15 せっちゃん ショートショート・ばーさんミンチ
雪の国道で複数に轢かれてばらばら事件だとさ、となり見附の警察が調査してら、天気晴朗なれどもさみーや、剣呑だしドライブ行かねーで昼寝。この気温だとむかしは二回三回は雪下ろし、やっぱどっかへんてこれんだな、鳥取のに余計降ったみてーだし、山を越えて仙台も大雪だとさ。
 ゴムボート持って沖にあるテトラポットで釣ると、きつねめばるが釣れたっけ、ずんぐりむっくりが以外に美味しい、一つ穴に七つも八つもいた。十以上はだめメスは禁止って、中学のてっちゃんが怒ってた、うっふ釣り荒らしてさっぱりんなったか。てっちゃんは野尻湖へ通って、わかさぎ400釣って一番になって新聞に出た、にせ名前出して今年は行かねーかな。
 なんかしねーといられんとは厄介なこった、自然破壊の方向に決まってらーな、恐竜は屁の垂れ過ぎて炭酸ガス、メタンオーバーで絶滅かと思ったら、半径15キロの隕石が、ある日ユカタン半島に落っこちたんだとさ、なーるほど。
 灼熱の氷彗星って物理学者の書いた本あったけど、地球の裏かわからつまり夜の側から、地球の三分の一のがニアミスする、研鎌の月になって見えたんだそーの、おっとろしい風景かな、大量の水が流れ込んでノアの箱舟だとさ。その証拠があるってところで、飽きてぶん投げた。
 人間胡散臭いばっかりの、そろっと派手に月でも衝突しねーか、半径100キロの小惑星とか、オールトの環から天下りってのねーんかな、まんまじゃ人間不幸になるっきりだし、地球にとっちゃどっちでもいーのさ。
 ペンタゴンがエイズを発明したっていう生物学者の本は、実に信憑性があったのに、一年足らずで本が消えた、エボラ出血熱の出所もたしかにって感じの、どっちみち列強は、いつんなっても列強だはさ、ウイルス兵器の開発に血道を上げる、武士は相見互いってこってうやむや、日本もちったあらしいのあるかって、みんな仲良く平和にってんでだめ。中国人ばっかりにならねーうちに考えれ、鳥インフルエンザで攻めてきたら、もぐらペストのカウンターパンチ、うははのみ爆弾古いね。サイバー攻撃で世界中の水爆ぶっぱなそーで、核の冬は生命は残るみたい、次世代地球が希望の星ってさ。
 たしかに人間用無し。五万年ぐらい前からそーかも知れんなあ。
 しゃーない死ぬまでそこらへんで釣り暮らすか。あと二十年は魚いるってさ。
 坐るほかなーんもしねーずら。

2011年01月27日 06:54 せっちゃん ショートショート・大面
大面村夕荒れ吹雪止みぬればいずこへ行かむその迷ひ鳥
 大面をおおもと読んだのは一人もなかった、だいめんおおつらがいいとこ、おおもとは水の辺から来るんだとさ、上杉謙信のころは県道の向こうはもう海だった、山門前にもみの大木があって、三十年前に田んぼに倒れこんだ、田植え前だし縁起がいいといって、おふくろが田んぼの持ち主を丸め込んだ、それが舟つなぎの木と云われて、ちょっと沖へ行くと舟が丸ごと埋まっていたりする。がつぼと云って泥炭化したかやと雑木が出る。弥彦山と角田山があって、その間今のようになったのは、信濃川と暴れて有名な刈谷田川、五十嵐川が土砂を運んだ。
 大面村は古く、五十嵐小文治のころから街道すじで、道は東山寺を越えて見附に行く、天狗が東山寺の屋根普請をしたというむかしばなしがある。学者先生の穴井が戊辰戦争を調べた、へーえそーかって聞いて忘れちまった、わしの知ってるのは河合継之介に縁があるというのと、坊主が官軍に140両取られたってことだ、そのほか併せ持って調べて、丸太伊豆守やそれ以前もさてっちゃんに伝えておくれ。
大面村寄せあふ軒の梅が枝のくしくも雪は消ぬべくあらん
 石油が出ていっとき盛った、檀家のなんでも屋が儲けてたのに、石油出なくなって踏み倒されてえらいめにあった、以来大面村は人が悪くなったんだとさ、そーいえばわしも杉植えるってんでやられたな。あいつ罰当たって寝たきりやってるぞ。
人面はたれそ刻まむあは雪のしましく行くか月読み木立
 大面引く一ってのが人面ひとつら村で、見附から栃尾へ行く所にある、雪の多いところで、夜中通ったら月が出てたま木の影がうつる、なーんかたぬきが化けて出そうな、ここも調べりゃなんかありそーだ、やっぱり穴井に頼むか、穴井は九州の名前で、てめえん家のことくわしく知っている。
人面は我れも刻まむあは雪の久しく行くか月読み木立

2011年01月28日 08:02 せっちゃん ショートショート・火炎茸
見附市の議員になりし清一郎永眠せるは夏の終はりに
 清一郎は酒屋のせがれで市会議員になった、男が若死にする家系でもって、親父も四0で死んだ、つれあいはまだ生きている。酒屋のくせに飲兵衛で、イベント屋でタレント引っ張って来たり、わけのわかんねー経済だの政治御託呼んで見たり、佐渡の太鼓、鼓童ってのか連れてきたり、たまにお寺へ来てわし相手に薀蓄する。
 飲みすぎて酒止めてまた飲んでおかしくなった、アルコールが脳に入ったとかで、ないものが見える譫妄状態ってのかな、しっぽの生えた裸女が天井からぶら下がったとか、とっついて来るへんなんもんと格闘したり、なんか物凄い風景で、けろっと治って話して聞かせたが忘れちまった。立候補したら、かーちゃんが議員はいやだといって離婚する、かーちゃんなしの激務が祟ったか、一年たたぬまに葬式になった。
 市長と市会議員が並んだ、ばーちゃんのためにわしは説教した、つまり議員も市長も煙に巻いた、清一郎のなけなしにのしつけた、やっぱし檀家で高校の校長がいて、末娘がプラスバンドに入って、その受け持ちが大赤字出したかで、清一郎が槍玉に挙げた、校長わしんとこへ来てどーか炊きつけないでくれっていう、話聞いてるだけなんにさ、娘三人いるうち一人を離婚したかーちゃんが預かる、ばーさんとしてはかーちゃん憎し、わしはやっぱり相槌打つだけ、説教ははばーちゃん大喜びでしばらく元気になった。
一箇だに打ち出しえぬとな思ひそね柿はたははに底無しの天
 見附に名木の湯という鉱泉があって、まむしに咬まれや皮膚病に卓効がある、床の間にあった火炎茸というきのこを食って酔っ払いが死んだ、全国版のニュースになった、
見附市を昨日死ぬるは酒にして火炎茸とふ食らへる男
 清一郎も生きていりゃ関わったか、裁判沙汰になってもめていた、床の間に飾っちゃわりーったって、そりゃ食うほうがわりーやな。
 糸へんにつとめて坊主の代継ぎした大風な男が、今の世はおまえさんの演説とは違うんだと云った、演説の内容なぞかんけーねーんだばかものが、云うには云ったが、何を考えて坊主やってんだしょーがねー。

2011年01月29日 08:08 せっちゃん ショートショート・バジリスク
みにくきは鬼面山の鼻つらのはなのみずきの人知れずこそ
 どんなふうに歌を詠もうがそりゃみんなてめえのこと、てめえのみにくさをさらけ出す以外になく。山寺へ行ったら句碑がずらっと並ぶ、
静かさや岩にしみいる蝉の声
 芭蕉の傑作だ、てめえをまったく超えて蝉の声っきり、全世界静まり返る、
荒海や佐渡に横たふ天の川
 と並び名句中の名句。
 あやかって並ぶ句碑は物真似だ、物真似にもならん、あっちむきこっちむきなんだなあこりゃ俳句でも詩でもない。続いて跳び込む蛙なしはついで、現代俳句などいう、蛙もいなけりゃ蝉も鳴かない、おっちでつんぼのひとりよがり、サベツだのいうのに触れなきゃそれでいいってだけ、文字の獄なんてーもんじゃなく、紅衛兵のバジリスク、ものみな死んでしまった、でたらめだな。
えせ俳句碑どもを押し並べ風の通ひにあげは舞ひ行く
 暑くって山寺を登って行くのは汗だくだった、下の川にやまめがいた。
 詩歌も絵も消え失せて、わけのわかんねーなにやかやと、経済の衰退と喧騒と、相撲の四股名さえ付けられん、そりゃまあお先真っ暗かな。五万年ほどさかのぼってネアンデルタールからやり治すか、埋葬だの宗教だのいらん。紅衛兵のように破壊しつくすか、ポルポト派みたいにがきっぽい殺戮集団か、いずれもはた迷惑だな、つまらねえだけかな、瓦礫の山のほか糞尿も役には立たん。
みにくきは鬼面山の鼻つらの押し照る月の人知れずこそ
 良寛はまるっきりの一人が、見上げる月は人類なんてけちなこと云わん、世界宇宙ぜんたいってよりお月さんだ、忘我の月。
 良寛の書はみみずののったくったよーでもさ、貴重な宝物なんだ。
 五万年もなーんもいらんよ、たった今だれあって可能。
我等が行持に依りて諸仏の行持見成し、諸仏の大道通達するなり、然あれば即ち一日の行持是れ諸仏の種子なり、諸仏の行持なり。謂ゆる諸仏とは釈迦牟尼仏なり、釈迦牟尼仏是れ即心是仏なり、過去現在未来の諸仏、共に仏と成る時は必ず釈迦牟尼仏と成るなり、是れ即心是仏なり、即心是仏というは誰というぞと審細に参究すべし、正に仏恩を報ずるにてあらん。

2011年01月30日 08:09 せっちゃん しょーとしょーと・光明
 北海道へ行って男爵芋館へ入って芋ソフトクリームを食って、朝のトイレすまして、はーて次はトラピスト修道院だって、まあさ早朝を見学者の行列、石段の向こうに塔が建って鉄門が閉まる。なに女人禁制だって、そりゃだめだ、幸ちゃんも恵美子ちゃんもおかまだってえことにして、あんれ予約しねーと入れねーんだって、ではフライフィッシングだなあ無事通過。
 僧堂はらごら坊主の猿芝居道場になっちまった、祇園精舎はどこへ消えたんだ、日本の文化の根本が失せた、心がないってこったな、一休も良寛もない、ほんらい本当を知ること不可。
 こんな不幸はない。滅びの国の良心とはただもう数の多いこと。
 ヨーロッパの文化を生み出してきた修道院は脈々と続いている。キリスト教という邪教の、そりゃどこへ持って行きようもないうさんくささ、近似値には近似値の理屈があるってこったが、我田引水。
 なにしろ歯がゆい、どーしよーもねーか。
 らごら坊主どもに爪弾きされて、出て行けといわれとにかくやって来た。宗門という便利が必要であったか、なにさわしがだらしなく、釣りだのおねーちゃんだのして、良寛行にそっぽ向いたっきり。托鉢でって何度か試みてはたせなかった。得度の師匠は十五年上だがどーやらまだ元気で托鉢暮らしする、不詳の弟子は逃げ出した。
 みやべが托鉢に出て、開聞岳から新年の挨拶なーんて電話よこして、なにしろ沖縄まで行くはずが、用事があって呼び戻した。そのごも托鉢に出て、どっかのばーさんにとっつかまって、おまえさもすったらことしてねーで、早く正業に就けって云われて、こりゃだめだってんで止めた。托鉢がそーゆー商売になった。宗門は死んだ。そのみやべんとこで接心を開く、みやべの先輩のしゅうしんのところはもう四回の接心だ。わしんとこで二月、五月、九月、十二月の接心があって、十月はしゅうしん、四月をみやべが開く。
 持ち回り僧堂だな、弟子どものほかに頭剃ったのも来る、宗門坊主が来るわけはない、禅宗だってのに坐禅を忌み嫌う、なんだあこりゃ。在家が多い、むだっことはしない、御開山道元禅師のお示しになる以外まったくない、接心の時間割飯台作法の他に規則はない、厳しいことは大法これ、わしがにせもんならそれっきりってこと、一人二人目鼻が付く、伝え行く光明が見えたってこと、そーさなあ早く役目を終わってさ。

2011年01月31日 08:15 せっちゃん ショートショート・雪下ろし
 プロに雪下ろし頼んだ、さっそくやって来て五人手間で夕方五時半まで目一杯かかった、一メートル60あった限界でしたと云われた。てっちゃんが二日もありゃおれ下ろすと云って、忙しいことも忙しく彼女とデートで下ろさねーからこーゆーことになる、わしは命惜しいから止め。雪下ろしなんてこの五年間本格にはかった、道具もどっかいっちまったしなんかもーわからん。本堂屋根のなでついた山が今年はむかしと同じになった、次々降ってたかをくくってる間に大雪んなった。入広瀬で四メートル津南で三メートル半だってさ、相当なもんだ。魚沼の人は一冬三十回ってのが相場だった、お寺は村の三倍つもってそれでも三回ってとこ、三回めには雪上げで、軒を越えてどかーん雪の山、まったくたいへんで、鯉なんか死んでも人間さまだってんで、雪を池にぶちまけた。
 鯉は元気で雪消えると出て来る、何匹かけものにやられ、骨だけになってるの、血吸われてミイラになってるの、うろこだけ残ったのと、つまり取るけものが三種類いるわけだ。やまどりが子連れ夫婦で長い尾っぽして歩く、雪の辺につきだしたあららぎを食う、そんなん食ったってしょーがねーがな。うさぎの足跡だらけだったのが、たぬきが増えて激減する、本堂屋根のてっぺんまでついていた。月に跳び上がったんかな。
うさぎらの跡を辿りに背裏山天の雲いが浮かび行くらん
 雪がぬるむと熊のように大きくなってのっこり続く。たがいちがいにちょんちょん、そろえて二つと、どっちが前でどっちが後ろかってのクイズになる、そろえて二つが前に出る。
落ち椿浮かび廻らへ心字池月は雲間に隠らひ行けど
 先住が今はのきわに、雪消えればいいお坪があると云った、あと継げってわけで、なんせ雪ばっかり、とうとうぼけたんかなと思たら、なんせあのときは夢のように美しい庭が現れた。
落ち椿浮かび廻らへ心字池ほどろほどろにその春の雪
 雪霧というものがあって、視界ゼロの真っ黒けに霧が立つ、雪がいっぺんに溶けるいや蒸発する、大事件だと思ったら世話人が春になるよと云った、先住が息を引き取った。
山川も海もはてなむ万代にい行きかよひて死なましものを
 本堂うらのなで切りとお倉の屋根が残った、いくら取られるかな、さーてそっくりてっちゃんに代継ぎだーな。


2019年06月02日

ショートショート11

2011年02月03日 08:10 せっちゃん ショートショート・ぼろくず
「心を求むるに不可得。」
「我れ汝を救ひ得たり。」
 慧可大師と達磨の問答は今もまったく同じです、心はたった一つ、心が心を省みる事不可能、単純なこの理屈を知る人がいない、雪舟の慧可断臂図のあるのは東光寺だったか、坐禅もするたって、師家なる人の云うことはらしいようでいて別物の、こりゃ一目瞭然事。よくもまあ恥ずかしげもなくと、世の中厚顔無恥てめえ本尊ばっかり、てめえでてめえを是としながら、どっかで不是を知っている、しかもそれを不問に付す、万ず百方なんでこーなっちまったのか。
 変ななゲージツ家なるものが、達磨の真似して慧可断臂図になりすます、なんにもない達磨大師の驚天動地の空間と、うじむしのうごめく破廉恥と、下世話にもならんな。
 雪舟の真贋を問うには、絵の中に人が入り込むことができるか否か。
 にせものはできない。
 身心脱落ではない、妄想我田引水の世界だ。
 雪舟は心身脱落、信じきれぬほどの達者だ、王法不思議。
 畢生の大作山水長巻に、梅津なんとかいう俳優が入り込むという無謀破廉恥を犯す。そりゃだれあって雪舟の絵には入れる、だが雪舟の絵の中に、妄想もわがままもない、他所人の見る風景などいうものは微塵もない。
 取り付く島もなし。
 自分という元取り付く島もなし。
 人間を用無しにした超絶人間だ、そんなこた云いたくないけど、見性悟るということは魚変じて龍となる、登竜門だ、今の人まずはもってもってのほか、この絵の中に入って、対話できるのはたとい良寛のほかはなく、俳優も物真似坊主も、知識ひんまるめの糞かきべらも、触れるも汚らわしいってさえ知らぬ、なんていう恥晒し。
 山水長巻は雪舟集大成だ、描き進んでけれんみのない、世界宇宙まさにこれ。
 現実にはない現実。
 富永惣一郎という現代画家が、雪舟の空間を理解しようと、雪山をヘリコプターで飛ぶ、いじましい、人間形成のかけらもない、そんなものが通用する世の中だ。梅津なにがしというぼろくず亡者が、漢詩を振り回して行く、してやったりという馬鹿かこいつは。
 雪舟は滅びない、現代がただもう色褪せて消えて行く、人間だれあって一回しか生きない、こんなことでいいのかと問う如何。

2011年02月04日 08:03 せっちゃん ショートショート・八百長
相撲の八百長騒ぎな、八百長ってのむかしっからやってらーさ、へたくそで顰蹙買った大関えーとなんてった、なんしろ証拠ねーからうやむや、でもさ人みんな見たっていう証拠、いやさてめえ八百長やったっていう歴然、てめえの心は嘘ついても始まらんてーのをさ、今の世だれかれ頬冠り、世間お騒がせみっともないお国柄ってわけ。
 八百長ばれりゃおしまい、大相撲は10年~20年閉鎖ってことで、なんとか若しや目鼻がつくか。今回が初めて今まではなかった、見え見えの嘘ついて十両何人か首切って生き残ろうとする、うさんくさ、そんなもん許す国民の阿呆面か。国技だぞ、借金大国のレッテルの上にぺったんこ。
 でも相撲ねーとつまんねーな、テレビだのなんだのよっぽどつまらねーとこへもってきて、ひひっとも笑えねー云う甲斐もなさ。
 この際まずもって、相撲の八百長他人事にあらずってこと、てめえははたしてどーなんかってこと。人をなじることが出来るか。
 坐禅を嫌う禅宗坊主は、八百長なんてもんじゃない豚箱だ、先生はどーなんだ教育してるんか、役人はよったくってなにしてるんだ、政治家は議論ばっかりのなーんだこりゃ、学者というふーん本当に学者やってんのかと、人おのおの反省するによし。
 是という人には耳を傾けよう、不是というからにはやりなおせ。
 人間一個の問題がすべてだ、滅びに向ってまっしぐらは、てめえをてめえで裁量する付和雷同のいい加減、コンセンサスだのみんな仲良く平和だの、数でこなして知識ひんまるめの糞転がし。
 自分というちらともありゃ不可、人間の基本技これ。
 自分の神が自分だっていう身勝手、なーんじゃこれ。日本人は恥の文化というなら、まずもって恥を知れ。
 てめえはどーなんだという問いさへできない、そりゃもう人間じゃない。
 糞坊主どもを見本にさ、人の振り見て我が振り治せ。
 もとちゃーんとあるものに帰るだけ。
 帰りなんいざ田園将に荒れんとす、そりゃーだれが云った語でこーゆーことだっていう、なんにもならねーのを捨てる。
 激震痛恨ただこれ。

2011年02月05日 08:03 せっちゃん ショートショート・門外
菅直人の目指すところは民主主義事始ってこったかな、門閥財閥ゼニカネを廃して一人一人の政治っていうやつ、吉田茂は麻生家の財を湯水のように使って、見事にアメリカを手玉に取って復興の役を果たした、池田隼人は計算し尽くした上の国債を発行し所得倍増を成功させた、岸伸介は安保闘争だのやっかみ反対に会ってもやり遂げることはやり遂げた。社会党浅沼稲次郎なんてーのぶっ殺されてしかるべき、野党ってのはついの今まで育たねーかあほくさ。
 物真似の国債で大平は大衆に迎合の政治をおっぴろげて、宮沢喜一がせっかく収拾つけよーとしたのに、政治屋どもこぞって反対してぶっつぶす、よって今に至る。
 田中角栄は政治で金を儲けてそれを使おう、私腹もこやそーというあっはっは残念ながら瓦解した、後遺症は小沢に至るってやつで、ぜひとも一掃したいわけだ。麻生や鳩山下々はわからん政治家も、田中角栄もごめんこうむるってなあそりゃわかる、民主主義のあけぼのってさやらせてやれ。
 四面楚歌だ外交からなにからどーにもこーにもふんずまりを、やってるんだからしょーがないさ、反対するなら今の逼塞を打開する手段をもってしろ、ルーズベルトのようにニューディール政策をさ。騒がしいだけの知ったかぶりどもがさ。
 宗教だの共産党だのに身売りしない。
 日露戦争に小村寿太郎を焼き討ちした民衆と、消費税と云ったとたん反対とは、さっぱりこりゃ進歩してねーんかな。だからって民度が低いって云ってみたって始まらねーのさ。
 わっはっは坊主の出る幕じゃねーな、なんしろてめえさえよけりゃいい宗教だでな、わしは。
 まんま食えて寝るとこあって、暑さ寒さを適当にしのげりゃそれでいー。
 一月は何日か暁天坐は堪えたな、なんせ年取った、坐れなくなったら断食して死のう、断食だけが坊主に許された方法だ、一日働かざれば一日食うべからず、百丈清規は今も変わらず。
 なんか働いてるかって草むしりだけかな、雪下ろしもプロ頼んだしこりゃもー生きてる資格ねーか。
 代継ぎてっちゃんが決まるまで、仏のあとが来るまで。
 接心をしよう。
 祇園精舎を作ろう、木枯らしは竹に隠れて静まりぬ、どんな風狂も収まる世界、人の入って行く雪舟の山水長巻があるのさ。
 うんそれだけ。

2011年02月06日 06:43 せっちゃん ショートショート・物語
 多摩川が復活した、わしの大好きな阿賀野川も復活しねーかな、ダイナマイト仕掛けて歩くには今のダムとてつもなく頑丈にできてるで、トラック一杯分でも爆破できねーかな、川をむかしの川に戻すのが願いだって云ったら、そんなことしたら洪水だ地震だ、治水はダムによる、今の世の中コンクリートで蓋着せて知らぬ存ぜぬがよいって、ふーんそんなもんかな、土地改良区のお役人だった。団体職員ていうーのかな、もう一匹お役人がいて二人でなんだかだ話す、こりゃだめだ、こいつらまったく国民の癌だな、てめえっちこそどーしよーもねえってことに気がつかねー、飲んで食って万ず文句云ってお互いお役目ごくろーさん、うっふー江戸のむかしも今も同じ。税金の四0%が人件費だってさ、つまり国はお役人のためにあって、その他大勢のどーしよーもねーやつらは云うこと聞けじゃなくって、云うことなんて聞かずもいーから、お役人の為にゼニ出せっていう実も蓋もない。
 モンスターなってあっちこっち出没するか、昨夜のおねーちゃんは未成年だったって垂れ込むか。
 人みな生活がかかってる、かーちゃんこわいのマンマユート団。
 ちーんなんまんだぶ坊主はお経読んでりゃいーとさ。
 イギリスのおねーちゃんぶっ殺した男みてーに、そこら破れ屋のっとって釣りして暮らすか。
 石器時代から岩屋暮らしのまんま民族もいるって、そりゃもーそのまんまってわけにゃいかんだな。アロハオエさらばハワイよって、ハワイの女王が牢獄につながれて歌った歌、いつ聞いても涙が流れる、人類の歴史ってのはこーゆーことしかないのか、ふーんつまらねえどあほめが。
 古代ヒッタイトの二七の王朝が、シェークスピアもいーところの血を血で洗う交代劇だったって、エジプト最大の王ラムセス二世はヒッタイトに負けたのを頬被りして、三十人の后に五百人の子を孕ませて、なんたってまあ我が世の春。
 エジプトの民間物語は無数にある、作者もいた、後世には伝わったのかどーか、みなまた超古代からから流入したってのは、あながち嘘でもないんかな。
 わっはっは人の物語はまんねり変らず。
 新鮮さはアルタミラ洞窟壁画のほうだったり。
 命のやりとりを描く野牛の絵、若しやして雪舟も盤桂禅師をも凌駕して。
 文明だの歴史だのすっぽらかして、まーさ川の復活だけでいーや。

2011年02月07日 08:09 せっちゃん ショートショート・らごら石

「雉子も鳴かずば撃たれまいに。」
 というのは信州しなののむかしばなし、内容はどーだったか忘れた、お寺は山鶏ばっかりが、ある時雉子が迷い込んだ、休猟区であって雉子山鶏を放すんだーな、迷い込んでけーんけん鳴いて行く、悲しいような相方を捜して三日も山を歩く、狐に食われたかしていなくなった。
 守護神はいるのかって聞く女がいた、鳴き虫だったら雉子の神さま、だんまりだったら山鳥のって、三千仏だなどいって仏さまも仰山ある、お布施もあるで仏さまにしたらって、鳥で云えば孔雀明王っての、十三仏はお不動さんとお釈迦さましか知らん、守護仏となりゃ、えーと世の中三百代言はいっぱいいる他所へ頼め。
 撃たれてもけーんと鳴いてってのは本性かな。そりゃ守護神も欲しいってさ。
 達磨さんが法性水を注いで、つまり過去七仏の以前から脈々伝わる智慧の水だな、火炎式土器は水の湧き出すさまを写す、唐草模様しかり、卍もハーケンクロイツもそーなんだってさ、守護神よりゃ、人類始まって以来命のみなもとだーな、達磨さんは、でもってらご石につまずいて、大切な法生水をばらまいた。
 だんごむしにかかる、だんごむしは人間界に生まれ変って坊主になった、校長先生になって尊敬される。だんごむしはことなかれ主義で、どーしよーもねーの卒業させて、新任の声楽の先生が喉をつぶす。みんな仲良く平和にってんで、
「おれは頭がいい、坊主なんか最低だ。」
 とか、剃髪もせずに死んだ。だんごむしに戻る。
 なめくじにかかって坊主のせがれに生まれ、永平寺でぶんなぐられて引篭もりさんになる、法要博士であって、豆腐が好きで痛風になって、人の為にゃ屁もひらぬというんで、やっぱり蛞蝓に戻った。
 みみずにかかって坊主に生まれたが、仁王さんに踏んずけられて天邪鬼になる、死んでみみずからかなへびになる。ばったにかかって坊主になって、薬の飲みすぎてやせ衰えて、死んで蛙になった、太りたかったんだな、けーろと鳴く。のみにかかって、煮えたか湧いたわからねー坊主になる、死んでしらみになった。ただの土饅頭にかかっていっとき坊主のふりして土饅頭。
 もぐらにかかって坐禅をする坊主になった、野狐禅をしておかしくなって死ぬ、生まれ変わって人間になったかというと、化けの皮がはがれてなまずになった。
 せっかく達磨さんでもろくでもないものはどーにもならん。
 らご石を退けておこう。

2011年02月08日 08:15 せっちゃん ショートショート・餅
先先住は餅喉につまらせて死んだ、八六歳だった、わしもそのうちあぶねーかな、虻もいねーば夏も小袖、あっちー餅喉につまらせるのは地獄もえーとこやな、罰当たりすっか。発心寺は檀家が二五0ほどあって、正月には一戸あてお供え餅が上がる、ぐえーぶったまげるほどに並ぶ。三元日過ぎると寒行托鉢だ、ほーほーと呼ばわって雪の小浜市内をねり行く、その間飯台なし、水にひたした餅に押し切りがあって、腹へったねずみは餅引いて行って食えというわけ、三度三度餅って、寒行のあとにお施餓鬼が上がって、何人かはご馳走が食える、一年分の蛋白質を食い溜めって、どーもこれありがたがっているうちに、もー勘弁してくれとなる、だめです雪担さんご指名です、典座が云う、托鉢姿で行って、お櫃空にしてご馳走食って徳利一本飲んで、雪の辺を素草鞋履いて帰る。
 餅のほうがいいかっていうと、しいたけと豚肉買ってうんめー雑煮たって、焼餅たってそーは続かん、カビが生える、こそぎ落として食うたなんしろまんず。
 お盆には一戸当たりそーめんが上がる、八月から九月いっぱいそーめんだ、こっちのほうはけっこう食える、おかげでそーめん大好き人間になった。
 お寺でつく餅もある、二八日雲水は二時起きしてつく、六時には堂頭和尚出て、般若心経とともに寿餅をつく、あっちこっちへ配る。雲水は紅白の折り紙して師匠に送る、すると万札一枚ぐらいにはなるって、わしは一文も送ったことねーやいひひ、やろーども目剥いているぞ。
 うちでも餅はついた、もちつき器になってから三十年、この器械しまいまで壊れなかった、よくできている、餅ついて大根下ろしの辛味餅にあんころもちに、なんたってこいつはうんまかった、そっくり買うよーになってもー食えなくなった。
 お供えの大が二つ小が十四、そのほか切り餅して、なんとか腹へ入ってたのに、お供え送っていたいとこはとこからいらんて云って来た、子供でっかくなっって見向きもしないってさ。
 まだでっかいお供え水餅になってる、切り餅はカビ吹いて駄目になる、わしは毎日食わされ。
 喉へつっかえて死ぬのははーてさ。

2011年02月09日 08:17 せっちゃん ショートショート・戦車
 戦車に乗ってみてーって云ったらクーラーねえんだってさ、蓋着せられたら炎熱地獄、三人じゃなくって五人乗るんだっけか、司令が右の男蹴っ飛ばすと主砲ぶっぱなして、左の男蹴っ飛ばすと機関銃で、待てよそーではなくって、右行け左行けだっけか、ソ連戦車は高さ一メートル二十でなぜかそーなっていて、司令ロシア人なら砲手コーカサスで機関銃がチェチェンのって、多民族国家の入れ子細工が、てんで仲悪くってアフガン戦争敗れたんとさ。どだい大国ってのどーしよーもねー、アメリカのベトナムといいイラク戦といい、無茶苦茶の筋書きもなんにもねーな、軍需産業あぶくぜにってんで、なんしろそれだけ、ロシアはその上にお頭なしってので、ばーらしーには一国を荒廃に曝す、なんたるこっちゃ大国主義のしつけてあほらしーや、次いで中国が名乗りを上げる。
 二十一世紀はどーなる、借金大国八百長日本の三分割っての、坊主はいらねーミンチにしてまぐろの餌、ではその前に自衛隊の戦車盗んでトーチョーさ行くか、警察なんかじゃ歯が立たねーっていうし、交通渋滞もなんの車せんべいにして破壊めったら、傍若無人天馬空を行くって、ちっとがかりエレガンスに欠ける、どかん戦車砲でどこを狙うかって、国会議事堂ぶっつぶしても革命にならねーとさ。自衛隊って革命起こす気ねーんかな、日本の逼塞はヒットラーの出番だ、北朝鮮に水爆の返礼して男を挙げて、中国海軍撃滅、まだ日本の方が実力は上だって、はーてねそりゃ一ヶ月前のこったっけか、先制攻撃パールハーバー、まずもって歯舞色丹を占領、日の丸万歳の手立ては八通りぐれーはあらあな。
 日本戦車はノモンハン事件以来ブリキの棺桶って、それどーなってるんだろ、三菱戦車は世界の最優秀だってのは、今はもーお古い話なんかな。
 戦車は戦闘ヘリの格好の餌食だな、ミサイル引っ張って行こう。
 日本独自の武器ってねーんかな、外交ゼロのお国柄はアメリカの云いなり、いじくりゃブラックボックスが爆発、わっはっは田中角栄もやられたっけか、日本の官僚は能無しのレッテル、太平洋戦争も参謀のいいくら加減でぼろくそで負け、こりゃなんとかなんねーんか。
 さーて戦車に乗って新潟から出発、まずどっかーん万札確保して、美人おねーちゃんをアクセサリーに添えて驀進、めざすはーてどこへ行きゃ褒められるんだ、だれか教えてくれ。

2011年02月10日 07:13 せっちゃん しょーとしょーと・雨降る
夏の日は棗の花に咲き満ちて雨降り我れはここに宿仮る
 ちらちら白いっきりで目立たない、青空に咲いているのに雨が降ったらこんな歌ができた、柿の花も白いだけで流行らない、柿の花の咲くころはけっこー忙しい、春先の大掃除が一段落して、お斎に出すぜんまいを取って、ほだ木を伐ってしいたけを植えてと、めだたないのが好きで歌にして、はーてそいつ忘れてしまった。
蒲原の沖つ興野にはざ木立つ雨降るさへがなんぞわぶしき
 はざ木はたまぎという木で、田んぼわきに並べて植えて、竿をさしわたして刈り取った稲を干す、越後ならではの発明で、なーるほどって感心したら、意外に風に弱く、茂ると伐ってつまりは手間もかかる、岩室温泉に行くはざ木街道に、観光で残ってるだけのまるっきりなくなった。蒲原平野は一町田んぼの行列、五町田んぼもある、マシーンが消えたら、植えるも刈るもうんざりする、早乙女が歌に囃して田植えなんてわけにはいかねーな。
「いやひこのおのれ神さひ白雲の棚引く日すら小雨そほ降る」
 という万葉の歌があって、なんしろ越後は雨の降る風情だな、弥彦のとなりは角田山で、浜には溶岩が流れ込んだ跡、東大の地震研究所もたしかあったな、若しや霧島とタイアップしてどっかーん火山灰、こいつは雪よりも始末悪いや。
三界の花のあしたをいやひこのおのれ神さひ雨もよひする
 万葉を本歌取りして、われながら傑作だってんで投稿したら、見向きもされなかったな、生活かかってるうやむやってんでなけりゃ駄目だとさ、そりゃ出る幕ねーや。
四方より花吹き入れて信濃河寄せあふ波の行方知らずも
 二つ対にして、死んじまった女書家に書いてもらって飾ってある。
 見向きもされん死ぬまでな。
柳生の中なる夕陽つれなくも信濃河の辺春なほ浅き

2011年02月11日 07:06 せっちゃん ショートショート・二月
接心初日は猛吹雪、だれか行いのわりーやつがいるんかな、坐りに来ねーのがわりーんだ、馴れてねーと風邪引くって、引き込んで寝てるのもいる、まてよあれ別病かな。若いころは坐ると風邪治ったんにさ、年寄ると坐ってる間だけ治る、あったかくして寝てるのが一番てのはこのごろようやく知った。
雪降れば何をし見なむかもめ鳥海なも荒れてどんでんの山
 角田浜から佐渡の金北山かな真っ白く見える、海は荒海向こうは佐渡よの、佐渡ヶ島の最高峰はどんでん山だと思って作った歌、ちがうってうるさばっさのとりちゃんに云われた、波荒れてどんでんで合うのにさわっはっは。
 二月には地吹雪が吹いてまっしろけのホワイトアウト、行くも地獄停まるも地獄で、にっちもさっちも行かん、このごろはあんまりひでーの吹かんな。
風吹けば散らへる雪のむたにしてあはあは行かめこれの日長を
 三月彼岸にはお寺の会計報告などあって忙しいが、それまではなーんにもなくってやたら日が過ぎて行く、二月の接心は同窓会みたいに、弟子どもよったくって坐って、ゼニ出し合って寺泊行ってあんこう買って来てあんこう鍋したりした、そーさな二月は葬式でもなきゃひまだった、このごろは接心客も来てなんしろまー毛布ひっかむって坐ってらーな。
 わしの得意技はやきとりと鮨だった、やきとりは二十年来のたれが冷蔵庫に入ったまんま、鮨ねた釣ってきちゃ握ってたけどもとんと握らず、ばくだんてのねたの余りにうにとレタス入れて巻く、けっこー評判よかったけんだどな。
 うははわしゃなんでも遊びにしちまう、弟子ども今でもぶーすか云う、麻雀させられ釣りさせられきのこ取りはきつかった、えーとなんだかんだむにゃむにゃ。
恋ほしくば荒磯わたらへさぎつ鳥風に問へるはその雪のむた
 海辺から50キロはあるがさぎがよくやって来る、雪消え田んぼ突っついたり、青鷺は心字池にのっそり立って鯉の子狙う、五位鷺がよたって助けを求めてきて、残念ながら方策なし、ついさっきも迷い鳥が軒先を行く。
滝の門のまふらまふらに雪は降り押し照る月は堂のしとみも

2011年02月12日 07:04 せっちゃん ショートショート・かさみんご
 国道117号線は十日町を通って栄村から飯山へ入り、18号線は直江津から妙高のふもとを通って長野市に入る、117号は尻切れとんぼで、りんご畑をあっちへ曲がりこっちへ曲がり18号になる、りんごはもぎ取ってただで食ったけど、大人なるとそーは行かねーみたい、まーるで道っぱたにたわわになってるのにさ、晩秋取り残しのまんま木になってるのは逸品だ、ばっさども籠に取り込んでいた、売ってくれって千円札出したら、こりゃぶすりんごだで売り物にならん売らんという、四つくれた、たしかにぶすだけどそのうんまいことは。
 長野市になるところに、カサミンゴというぺんぺん草の生えたおんぼろ屋根がある、ドイツ料理を出す、ソーセージとお菓子がうまい、偶然に入ってそれから何度か行った、ソーセージは何種もあって、サラミの生のがあったり、ハムと同じ大きさのがあったり、こやつ牛か象の腸詰めかな、ハーブやらなんだら入っていて絶品。ヨーロッパ人好みのお菓子はでっかい、へた食うと腹いっぱいになる、おねーちゃんども大喜び。
 正月用にって送ってもらったら、日になっても来ない、どーしたって文句云ったらてっちゃんが受け取って冷蔵庫にしまい込む、えーおっほん謝る。
 接心終わったら行こう、しゅうしんは浜松、新人おねーちゃんが山梨、かめちゃんが愛媛からスノー履いてワゴンで来た、美緒ちゃん調布はどっか駅で降ろして、あと順繰り送り届けろ、いいよってさあっはっは、あいつ今度とっつかまったら免停かな。わしも車出してどっか一泊して、和紙とかしぐるみと買ってドライブふーらりふーら帰ろう。もーじきお寺お払い箱だから、ふーてんの虎さん見習い。
 年金があるでって、消費税20%だインフレとか食えなくなっか、托鉢するには車から鉢の子ってわけにゃ行かん、お経読むのもめんどくせーし、うっひなるよーにしかならーな、脳天遊ぶことっきゃないきりぎりす。
 かしぐるみはもー売ってねーか、野沢温泉にあったけど、駐車場に四百円取られてってのたけーよ、公浴場みてーのあるけど、なんであんなに熱湯なんだ、真っ赤になってべろーり皮剥けるぜ。和紙はさんざくた買って書きそぼくって、さしもの美緒ちゃんに笑われた。

2011年02月13日 07:13 せっちゃん ショートショート・きべりたては
 層雲峡にナビ入れるとどうしてか間違って、人っ子一人いない山中に案内する、ナビ子と仲が悪いのは穴井で、二度やって二度とも違う、一度は日が暮れて真っ暗けで弱った、そー云えば白鳥で有名な瓢湖を入れたら、裏側に案内する、たしかに瓢湖がこれじゃど-もならんなん、表へ行くのに一苦労。層雲峡山のホテルのおっさんに、釣れるとこねーかと聞いたら、ここぞと案内してくれた、いらくさの生えた崖っぷち下りて手足ぴりぴり、でも釣れるんだって急流の川へ入って、四人してなーんか命危ないめして、フライ振ったったらかすっともかすらぬ、ひぐまの骨があった、一頭分完全に残る、されこうべとあばら二本と拾って帰って来た、ナビも人もあてにならん。戦利品を雲水部屋に飾ってと思ったら、穴井のやつ仲間の仏壇屋にくれちまった、きしょーめもったいなー、なんだってんだロリコンのくせして。
 登別温泉にひぐまの牧場とアイヌ小屋とあって、そこで竹笛を買った、竹の筒に絃が張ってあって、モンゴルのえーとなんていった二重音が出る、不思議な楽器だ、穴井が吹いてもかすっともしないのをアイヌ乙女が吹き鳴らす、吹けるようにしてと思ったら、穴井がだれかにやっちまった、アイヌ乙女えらく美だったんにさ。
 ひぐまの牧場は、檻のトンネルに餌をやる仕掛けがあって、のおっとひぐまが出る、そのまーどでっかいことは、金石先生に聞くと、
「逃げたら追ってきます、向って行けばなんとかなる、向こうも人間がこわいんです。」
 って、どーやってこんなのに向かうんだ、一撃で吹っ飛ぶ、白熊が二メートル三0センチ、ひぐまが二メートル二0センチ、突っ立ち上がった剥製がある、なんしろ出会わんこったな。餌を取ったりする中にふてくされて寝てるのがいる、アイヌ神威のそーさなこれが本当だな、人に飼いならされる品じゃねーやさ。
 石狩川で、くじゃくちょうときべりたてはの美しいったら美しいのを見た、九月だ、本州のよりは一段と冴える、手塩川沿いに宗谷岬まで行った、蝶はいなかった、畑もなくなって牧場と原野になる、宗谷岬の丘は真っ黒い牛がいて、夕時かってに牧舎に帰って行く。
 サハリンを見て感激して、終戦の樺太を知っているんだ、稚内の居酒屋で飲んだ、おねーちゃんもよし魚や蟹海がぞっこん、天呑がいっしょだった、叩き上げ大尉どの、ただもんじゃねーな首尾よくお寺持ってさ、穴井が立職にかーちゃん連れてきたといって怒ってた、美緒ちゃんのすてきな満艦飾にもお冠わっはっは。

2011年02月14日 06:43 せっちゃん ショートショート・無心
 無無明亦無無明尽、乃至無老死亦無老死尽。接心提唱は般若心経でした、無明なく無明の尽きることもないとは、これ仏教です、他は宗教とは云わぬ外道ですが、云うことを聞かないのはポアしろといってサリン撒くのは、オームに限らず、コーランか剣かってんで皆殺しにする、旧教はいかんといって大量殺戮のオリバークロムウエルや、旧教がわはバーソロミューの大虐殺だったり、十字軍だ魔女裁判だ、行き過ぎがあった謝りますでけりが、キリスト教そのものが誤りだ、ヨーロッパは無明の文明という、ヨーロッパで生まれた共産主義も、宗教すなわち邪教のカリかチュアだ、軍隊と密告と拷問の理想は金正日という、漫画にしちゃ人騒がせな、ポルポト派みたいに子供に人殺しをさせたりいったいこりゃなんだ。
 一日働かざれば一日食うべからずと旗立てて、鍬を隠されたらそのまんま餓死したという百丈慧海を、たとい共産主義の理想とする、そりゃまったく違う、どこが違うかつぶさに見よ、理想と現実です、思想の酒に酔いしれる、理想とは殺人道具です、現実はただこれ、鯨殺すなの野卑野蛮は、これも一心教のカリカチュアですか、ではなんでそんな馬鹿に気がつかないのだ。
 無明の尽きることもなし、妄想というんでしょう、妄想という自分の発明なんかないんです、妄想=世間ですか、妄想のまんまに生活しながら、歯の中の舌のように、時には咬みつかれようが自由自在、傷つかず損なわれず活発発地です、ではそのように坐禅して下さい、一念起こってそれにとっつけば回互と不回互と回して更にあいわたる、際限もなくやっていたりする、ぽっと出てぽっと消えるところを手付かずです、草を引っこ抜いたら石の上に置けと、枯れるにまかす。そんなまあ手続きはいらんです、あるとき接心に妄想煩瑣、よしこれ退治しようと思えば思うほど出る、四日間というもの真っ黒けになってやっていた、体力の限界ギブアップと、ぱーっと消えてなんにもなくなる、それっこそなんにもないんです、脳死かと思ったらそーではない、一念起こっては消えているんです、それに手を付けない、心は一つです、一つが一つを観察すること不可能を知る、無心これ、無心とは心の無いことです。

2011年02月17日 10:17 せっちゃん ショートショート・長久保
 信州も雪が降ってそれもけっこう降って、三0センチは積もったかな、こっちはスノー履いて雪馴れしてる、どーってことないけど、朝は凍ってウオシャー液が出なかった、不慣れの横滑りに出会ったら一巻の終わりって、次の日はどっかん晴れて、そーだった雪の明日は洗濯だって聞いたっけか、越後は雪のあしたは雪ってわけの、わっはっはこりゃ久しぶり。
 牧の尻の道祖神は藁人形でこさえて、ぬぼーとでっかいとぼけ面、毎年正月十一日に燃やして、新しくこさえる、雪の中を見に行った、美緒ちゃんご対面、ご先祖様にご挨拶だって並んで記念撮影、いけると思ったら、なーんか美緒ちゃんも普通の女の子、牧の尻のご先祖さまは大間抜け。
 カメに怒ってたから、そりゃもーれっきとした女の子だな。カメは頭おかしくなった、頭おかしくなるのいっぱいいる、ほっとけと臨済系のおっさんが云う、でもな、参禅でおかしくなるってのがおかしーのさ、白隠禅師の臨済がおかしーのだ。間違いってことをそろっと知るべきだ、仏教とはなんの関係もない。自閉症人間をこさえるきり、悩タリンいじるとそりゃ狂うっきりないな、どーしよーもねえ。
 丸子町を過ぎて和紙工房のある武石に寄った、透き通った和紙があった、なかなかいい品だ、みみずのったくった字書いたら、一つ二つさまになったかな、100年後に一億円ってのもわっはっはこりゃ億劫。それから故郷長久保の宿へ行く。そーいえば雪も積もったっけな、橇を作ってすべるのに、疎開者のわしはへたくそで、すべりのよいのこさえる英雄がいた、花の木で作るんだって、花の木っての未だにわからん。田んぼでスケートもしたな、姉が転んで頭を打って、家へ帰るまで記憶喪失になって、弟と二人困ったっけ。
 姉の通った、今は高校になっている女学校があった、姉はパラシュートばかり作っていた、信州へ来たら英語も教えていた、たいへんだったって、しょーもない弟抱えてなにしろたいへんだった。タイムマシーンに乗って行って、足長おじさんやれたらと涙。
 物は取り返しがつかないのさ。
 坊主になったらほんとうを伝えるしかない、罰当たりの恩返しこれに過ぎたるはなし。
 厄介になった本陣、
「上の石合」
 を、復活する願いはー叶わぬな。

2011年02月19日 16:12 せっちゃん ショートショート・名なし
 東大寺の襖絵を描いた人はなんて云ったろ、老人ぼけですぐ忘れちまう、満開の桜とと蓮の花の絵だった、
願はくは花のもとにて春死なむそのきさらぎの望月のころ
 と、西行の歌が添えてあった、わしより年下ながいい面構えしている、一枚描くたって何年がかりか、無心にしてというどこまで無心かは知らぬが、名前を付すことなしという、むかし仏師の覚悟がある、なかんずくいい絵だった、今もこんな人がいて日本を支えているのさ、たった一人をよろしくよく保護すべし、他に大法はなし方便もなし。
 お寺の十三仏五尊仏は、葬式法事に施主家へ持って行って飾る、四十年稼がせて貰って洗濯に出した、さっぱりきれいに仕上がって表具屋の云うには、こんな代物は檀家に持って行かない、門外不出にしろという、たしかにすばらしいもので、仏師の名も付けず、凛呼として清々。
 だから代わり買って持ってけってかーちゃんが云う、おれの目の黒いうちは、いや住職の間は持って行く、人の死ににせものなし、わしもにせものじゃいかん、わっはっはかーちゃんそっぽ向く。
 衣も仏具もだらしなくへんてこれん、名前だけは書いたりさ、ふざけてるんだな、坊主が駄目になったらおしまい、無心になす、奉仕するという、真の生き甲斐をだれも忘れた、いいものなぞできっこない。
 大?を打ち出すのに聾唖になったという、その覚悟でこさえた?子が、ますます冴えたいい音を出す、三代四代わしが死んだって大丈夫。
 テレビにうつる人間もそこらへんのおっちゃんばっさも、失禁の涙に嘘百万だら、この国難に当たって議論ばっかり、なんという淋しい世の中。
 住んでいるのはどこだ、雪の中だ。明日は知れず今も知らず、雲や鳥や花や風や、信ずる信じない以前の、人も信ずる信じない以前の、たったひとかけら。
 幸せという言葉を知らない。

2011年02月20日 17:38 せっちゃん ショートショート・ドタキャンスキー
 交通事故に遭って三回も手術した、なんかしらねーけど食み出して来た女がぶっつかった、そりゃ向こうわりーで費用や補償や出るけど、えれーこっちゃ座るも歩くも飯食うも屁たれも、とんでもねーったらいやさもー人間最低の最悪。そりゃおたいへんなこって、ずらずら喋りまくることは二時間、母親のでっぷり太ったんは胆嚢取った、かーちゃんは胃潰瘍の手術した、三人揃って入院してそりゃもーおたいへんでもって、やっとこさ娑婆へ出た云々。なんてーんだろなあ悪因悪果、いやさ前世の因縁って、そんなこた知らんけどもどっかうなずけるから不思議だ。
 田舎のとっちゃんて喋り出したら際限もなく、なぜなんだろーなあほくさ、知識百万だらに、てめえの哲学も借り物で、なんたって世の中どーなってるかもその実は上の空。
 付き合いたくねえ早く帰れって。
 百人が百人めんどーくさ。
 さっさと死んでお布施になれ。
 なつかしい親しいってのない、真面目ってのもねーな、かたくなへんごってのはまだある、言葉の問題かも知らん、こだわりとか生き物とか行きますとかふれあいなんとかかーとか、日本語にはなかったへーんなの、心のひだまで揺さぶられて、借金大国の上に八百長相撲のレッテル貼られて、芯から腐れちまって回復不可能かな。
 デブチンスキー昇格してドタキャンスキー博士は、ナイーブな子供みたいなとこあって、ドタキャンしても人に好かれる、鬱病が大変で死ぬの生きるの、なつかしい日本人ご難の時代って、そんなことは一瞬もしてられん本人が先刻承知。
 一寸の光陰軽んずべからず、もったいないったら情けない、てめえなんかどーでもいー、死ぬほどの価値もないのさ。身を鴻毛の軽きに置けとこれは戦前の教え、人の命は地球よりも重いという戦後の自負が、どーしよ-もない腐れ世の中を生んだ。いーや物差しじゃない、自分を救う大難事業を成功させて下さい。
 心を求むるに不可得る、我れ汝を救い得たり。

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2011年02月21日 18:56 せっちゃん ショートショート・出っ歯のカメ
 いい天気になった、雪の中にも梅が咲くと思ったらまだか、雪かきわけて見に行くのも億劫だ、水戸の梅園には磐越からハイウェイをえんえん、一度行ったなすばらしかった、梅林にやきそばとなんか食ってたら風に吹き飛んだ、花びらん中で拾って食った。河原まで花が咲く、水戸光圀の三角屋敷は、およそ歴史っての興味がねーから、登って降りてけお仕舞い、歴史って覚えるはしから忘れる、受験には苦労した、まだ世界史のほうがよかった、戦争といがみあいの合間に妄想の花咲かせて右往左往のてんご盛り、腹壊してげろ吐きそーなやつ、今にますます過激だーな、馬鹿は死ななきゃなおらねーってさ、人類滅亡がたった一つの救いかな。
 理想的な時代の一つや二つあったかというと、タイの王様が仏陀に会いに行く800年ごろかな、執権北条氏が坐禅をする鎌倉のころかな、ギリシャローマを理想の世界たって、共産党に至るまであっちの理想は人殺しと、独裁金縛りの大騒ぎと革命と、そりゃ戦争だけが掃き掃除たって、なんとまーさ面白くもなんともねーや。
 世の中にそっぽ向いてホームレスがわしの理想は、こー年食っちゃなかなかやってらんねーな、乞食ってのは儲かるって、シャーロックホームズにも出てたな。良寛はあんまり儲かったって話聞かねーな、もっとも筆だ紙だ書籍だ無駄遣い、東大寺の襖絵ってさいったいいくらかかったんだろ、宗門のドル箱豊川稲荷や、海老蔵の成田山だ明治神宮だの、濡れ手で粟の乞食商売だな、ほいさがんばろーわっはっは四百憶ってちょろいもんだ、はてな年金も溜まっとらんぞなぜだ、前生の因縁だ、わしはよっぽど悪いことしたんだ、いやそいつは今生だでな、生まれ変わったらめでたくホームレス、三十で野垂れ死に、今もどえれ-頭わりーけど、カメみたいん哀れにならんとさ、あいつ参禅は物真似としか覚えない、なんでだ、肝心の心をお留守にして物真似らしくの坐禅見性、なんてーことを白隠どもはしたんだ、大応が泣くぜ、一休がなんという、道元禅師が床下三尺掘る、ほんに仏をお祭り騒ぎにしやがって。坊主という格好付けの、筆のすさびに掛け軸書いたり、京都は儲かる、金銀もって大財閥が脱税で挙げられた、はーてなそんなことあるんか。

2011年02月22日 20:15 せっちゃん ショートショート・白鳥
六十なる芦辺を枯れて信濃川呼び交はしつつ白鳥わたる
 六十はむそじと読ませて白鳥はおおとり、芦辺のたまりに鯉がいて一匹二匹釣っていたら、とつぜんふわーっと明るくなって、くわあ羽音がして何十羽もの白鳥が行く。
 六十になっていーこたなんにもねえ、年金貰ってそれからが青春だって、きしょーめさろくでもねーことばかり、七十四になったら坐るっきゃねーってことがわっはっは少うしわかったか、でもまあこの冬は寒かった、骨身に堪えるってなふーの、ちっとぬるんだら風邪引いた、去年の夏は暑さで伸びたし、暑さ寒さのねー国行っておねーちゃんと遊ぼうか、蓮の台なんてのはめんどーだ、天女さまってあれあるんかな、どーなんだろ問題だ、檀家の若い娘が死んで、死に化粧したら天女さまってなーるほどこんなんだって思った、たんねー病気ばっかのがさ、こりゃ美しいったら凛然、娑婆の妄想なんか触れもせず。
 ちえ、ニュージーランドの罰当たりが大地震だとさ、野蛮なシーゴジラどもがさ。
白鳥の越しの田浦をま悲しみ枯れしくなへに雪は降りつつ
 我れは歌えども破れかぶれ、青春は美はしどっ汚しが、とつぜんに終わりを告げる、幽霊になって、いやさ透明人間にもなれずの、おっちでつんぼのケロイドまみれ、ずいぶん長い間そんなんだったなわしは、はーてさついの絶唱白鳥の歌。
 みんな忘れちまった、姉が施設に入って脳天パアだってさ、弟はアルツハイマーで死んだ、こりゃたった一人が娑婆の世と縁切りは、清々そりゃげっつばたのまーさいつまで。
たが子らかそにみまかりし冬枯れの柏樹がもと地蔵菩薩も
 いい天気になってドライブした、海っぱたはすっかり雪が消えた、へんごなおっさんがリック担いで雪割り桜の盗掘に行く、カメラ覗き込んでいるじっさどもや、なんかしねーと自然に接することができねー、貧しさはゼニがかかるってわけだ、世界中からむしられて哀れな日本人、わしはわしだけよけりゃいーってやつでな。
雪降れば何をし見なむかもめ鳥海なも荒れてどんでんの山
金北山がくっきり見えた。

2011年02月23日 15:43 せっちゃん ショートショート・釜茹で
 かーちゃんがテレビ体操やってるへーいちったあ元気になったか、いい天気だでお日様に当たって来いったら、のこのこ出て行ってお地蔵さまの前で転んだ、雪溶け水が凍っていたんだ、手を突いて次第に痛む、医者につれてけってーから、手数のかかるお人だなってんで、つれて行ったら骨にひびが入った、全治二週間だとさ。
 罰が当たったってさ、わしに当たるのが回りに当たるんだそーだで、いっひっひ。年寄りは転ぶとおおごとになる、わしも脛打ってかさぶたんなって半年、だにが巣食ってるんだぞ、薬つけても治らねー不潔の証拠だって、そーいえば万年床してさっぱり掃除もせん、ほこり高き男、くそお床の中の男ってんだ、よって医者に行くの大嫌い。
 按配悪くなったら死ぬ覚悟ミイラになって月山行きってんで、雪ん中歩いてみたりドライブしたり、世の中おねーちゃんどもあんまり魅力ねーか、ふーんむかし美人はどーした、梅は咲いたか桜はまだかいなやってる。今日も医者へ送って行く。
湯田中は父の浸かれる信濃路の年へて我れも妹とし問ふれ
 湯田中はゆだなかって読むんだとさ、外人に人気があってけっこう流行っている、下っぱ役人だった親父が、時には上げられて豚箱入ってみたり、温泉遊びなんてあのころお役人か、成金だったな、うっふーずいぶん宿があって、行き当たりばったり泊めてくれじろじろまーいーよとか、ビジネスホテルにして食いに行ったほうがまし、でもさ温泉はのんびり。脛の傷治らないか、きんかんつけたら荒れ広がる、ちっともよくならねー。
きさらぎの雪かきわけて湯の煙松の山なむ春遠みかも
 松之山は十日町になって、泊まったらどかっと大雪が降る、そこらじゅうからブルが湧き出して、整然と掻いて行く、見事なものだった、西会津や鳥取に助けに行ってやれ、あれしきの雪じゃびくともしねーがって、松之山は熱湯、もともと烏の行水が10分あて二度入っておしまい。
 骨にひびが入ったかーちゃんと、脛に傷持つわしに効く温泉はと、ばーかめあの世へ行ったほうが早いとさ、地獄の釜茹で。

2011年02月24日 19:44 せっちゃん ショートショート・パパゲーノ
初秋はパパゲーノの松の風阿修羅の夏はいずこへ行きし
 この歌の意味わかるかってさ、へーい魔笛の鳥刺しアリア、エーリッヒクンツが絶品だった、申し遅れました、モーツアルトのオペラ魔笛です、エーリッヒクンツはカラヤン初演の魔笛に出ていてー、わしの話はかくのごとくのひとりよがり、てめーさえよけりゃいいって宗教はさっぱり流行らねーや。
 カラヤン初演はミーハーんとこがよくって、二度めはお墓に入ったゾンビーみたいの、カラヤン初期のモーツアルトは、聞くに聞けない自我流で、ヨーロッパてのはなんでこーなんだって、でもさ1十八歳のころカラヤン魔笛にしびれて、学校丸さぼり親から勘当されて、ゼニなしなんにもならずは出家して坊主暮らし。
 坊主だけはお経さえ読めりゃ食える、でもってはた迷惑は同じ。にっくきモーツアルトめ、シェークスピアもあるでよ、ドストエフスキーは地下室の手記っての読んで、罪と罰からカラマーゾフまで四回あて読んで、うわっはっはあいつも相当にっくき。法華経は良寛提唱がはじめて、平家納経を安芸の宮島で見て、なんとなく読めるんで感激した、すんばらしい字だ、ちなみにわし短冊を千枚、毎日書き直してどーやら国宝級だっても、かーちゃんはそっぽ向く、弟子まで蹴っ飛ばして歩くなぜだ。
 うふー小蘭ていう足んない女の子の書く、般若心経えーな。すんでは師と仰ぐか。
 あさぎまだらの初秋、この蝶はおんぼろになって海をわたる、信州の高原は羽化したばっかりの、ことさらに美しい、がきのころ手がふるえて取り逃がし、ネットのふちに叩くと、空を高ーく舞い上がる。あさぎまだらに魔笛を思い出すなぜかな、わしのかってだろ。
華厳なる滝に投ぜし青春のパパゲーノはむくろもなしや
 わしはたといまじに勉強したって出家の他なく、どっぱずれは前生の因縁、そーゆーろくでもねーのいねーかな、しゅーしんとこの接心あとに、君が代歌った若いのいたな、あの馬鹿さ加減が若しやいけるかな。
 坐っていてなんになるって、ついになんにもならねーのを知る、きれいさっぱりなくなって、虚空が虚空を坐るのさ、楽ちんの百万倍楽。
 よってかくの如くの阿呆を云って、わっはっはなんいもならねー。

2011年02月26日 08:55 せっちゃん ショートショート・脱する
五百生野狐身を脱し蓮す花思んみれば夕映えすらむ
 自分という生死の形骸を脱する、だれあってできるはずがなんで難しい、棺桶に足を突っ込んで、おんぼろしわくちゃにしがみつく、わっはっはそれが面白いってのが人間だってさ、でなきゃ儲からねえってよ、保険屋みてー悪たれやって、次の世はがさごそごきぶり、その次はへっぴりむし、その次はっウイルスになって癌細胞になって、繰り返してまたもや人の形になる、即ち人間野狐身強欲の末にだってさ。
 ヨーロッパは際限もなく、カダフィ―大佐も一00年前の一000年前のって何十人もいらーな、同じことの繰り返しを、いくらうんざりしても脱すること不可能、なんてー哀れなどめくら。
 わんさかどももまったく同じ、脱するって考えがない、お為ごかしと殺し文句の、宗教だ共産主義だよれよれ、どっかでごっそり儲かる仕組みだ、宝くじ買っても当たらねーわけだ。
 買わなきゃ当たらねーって、うっさい。
 明慧上人が小寺の副住職になるって、年賀状出したら、副住職なんて云った覚えはない、寝袋と衣だけでやって来い雲水だという、坊主なんぞ相手にすりゃろくなことはない、小寺を私して貧相な亡者めが、沢木弘道門下で世の為人の為という、らちあかん止めとけったら、えー止めましたってさばさばしてらあ、どーすんだ、なになんとかなります。
 この教区にも跡継ぎねーのが二ヶ寺ある、兼務でがき追い出した寺が一つ、どーにもらちあかん、沢木弘道は見せるための坐禅という、おかしな坐禅してお布施になったのいた、宗門の犠牲だな、
「正法眼蔵のどこにも悟れとは書いてない。」
 と云って、らごら世界して仏教を擲った。みんな仲良くてんぷら坊主、越後坊主のありがたやも始末にわりーけど、なんとかしよう。
人は去り人は来たりて四天王門うっそりかんと青鷺の舞ふ

2011年02月26日 20:24 せっちゃん ショートショート・ぼんくら
 森を伐り尽くして滅んだイースター島とか、アンデスのだっけ12世紀の文明とか、なるほどごもっともの廃墟を見て、歴史に学べという、人間は恐竜と違って、歴史に学ぶことが出来るんだって、未来予報のなんとかダイアモンド博士が云った、まじな面して日本学者がうなずく、人間て歴史に学ぶことってあったんかな。
 歴史にお茶を濁して、ぜーんぜん同じことの繰り返し、ださくするっきゃねえって気するけんど、維新の志士が出る、勝海舟の、
「人は時代が要求する。」
 と云う、はーてなだからどーだってんじゃなくって、民主主義というんなら、民主主義を覚えたらいーぜ、議論だ意見だ反対だ、目下の急を知らん振りのさ、若しや歴史なし、まっさらだったらこんなどあほだれもしねーがな。
 ダイアモンド博士の、
「51%ホープさん。」
 だけなぜか感心する、でもやっぱり巨大惑星衝突のほうが、人類にとって救いかな、人間滅びたって地球は滅びない、いいことしいのヨーロッパは、いいことしいの絶望しか生み出さない、なぜなんだべさってとこ反省猿しれって、思いのほかの不思議をさ。
 なつかしの小学校唱歌していた、もーひとつはっきりしない、音大の生徒でも呼ばって来いったら、来ているってさ、プロだわしとは違うって、さっぱり満足しない、面白くもなんともねーかな。あんれホール一杯の客はじっさばっさば、若いのは一人もいねーや。
 伊藤京子が最後だったって、そんけーすべきかーちゃんが云った、グルベローバがぞっこん歌った、百年に一人だって、フランスの児童合唱団がさくらさくらから日本の歌歌って涙が流れる。
 追憶以外に日本から歌が消えた。
 文明の復活って、森を伐り尽くす以外に何かあるんだって、もう滅んでしまってたり。
 坊主が駄目なら仏教はおしまい、心が失せれば人間はおしまい。
 でもさ空も雲も花も月もある、別れを告げる鮮麗さ。

2011年02月27日 16:40 せっちゃん ショートショート・わかさぎ
 氷筍というのをたったいっぺん見たことがある、秋田にいたころだ、どっか穴蔵ににょきにょき生えていた、珍しいもんだとがきにも思えた、これを人工的に作ってスケートリンクに貼るんだという、氷の質がいーんだとさ、二メートルにも発達して数千本も生える穴蔵をテレビでやっていた、北海道零下二十度の道南だってさ、なーるほどな。
 ダイヤモンドダストと光柱というのをいっぺん見てみたい、オーロラもさ、冥土の土産にはさみーかな、なんせさみーのはかなわん、年だな、昨夜寒くって寝れなかった、二十年使っていた電気毛布がパアになったんだ、新しいの買ってきてもらった、替えようとしたらソケットが抜けてた、目盛りランプは点いているのに、二十年ものは健在だった、ありがたやーのなんまんだぶつ、これじゃホームレスはとっても駄目だな。
 新品は敷き毛布だった、今度の冬は上下二枚使ってー
猫魔なる冬の宿りを摩訶不思議月押し照りてぶなの林を
 猫魔ホテルというのが裏磐梯にあって、名前がおかしいから泊まった、猫魔という山があるらしい、有料道路があって春から秋まで、ひばの森あり浄土ヶ原という火山地帯あり、千五百円とお高いけんどさ。雪が二メートルも積もってぶなの林、月が出てなーんか猫魔ってふうの、鹿児島から高校生がスキーに来ていた、わんさかして楽しい男女共学の修学旅行。
この湖にわかさぎ釣らむ人をかも道は閉ざして雪降りしきる
 桧原湖は色とりどりのテントでわかさぎを釣り、雪が降って道を閉ざす、それだけで詩になる。辺りの山に、侍軍団が自決したという跡を辿って行ったら、標の杭が一本、紅葉のころだったな、すべって転んで泥だらけした。
 会津は、新潟県は小学校の修学旅行だな、刀の玩具や赤べこやお父さんお母さんて書いた茶碗のお土産なんぞ。
 悲惨な戦争の鶴賀城には、荒城の月の歌碑がある、若しやここだったんか、庭園に茶室があった。
荒城の月とは聞こえうら悲したれか命の茶を喫し去る

2011年02月28日 20:05 せっちゃん しょーとしょーと・白鳥
京大同志社と早稲田だっけか、あーゆーのなんてーんだろケータイカンニングってのあっさり出来るんかな、皮切りしたらもーうっふう広がるばかり、いい按配だ、受験てのもーちっと考えろってんだ、がり勉して記憶して判断力まで人任せ、お役人と能無し参謀しか作らねー、借金大国八百長相撲のさ、白州次郎じゃねーがオックスフォードじゃ零点、誰一人真似のできねー答案てのどーだ、学校ごっこの先公どももしゅんとするぜ、ちったあましなことしれや、政治家もマスコミもへたな議論してらんなくなる、めでたし。
 海外支配者はてめー溜め込んでいざとなったらトンズラ、利己主義どものお決まりだな、徹底抗戦のカダフィのほうがまだ潔いや、天皇陛下はマッカーサーに自分はどーなってもいい、民を救えと恐れ多くもさ、さむらいだけじゃなくって日本人の切腹は、今生の責任を一身に背負う、ヨーロッパのだれもそんなんいねーや、邪教のせーさなつまらねー。山下大将にさんざんのめにあって、復讐だあってんで、颯爽とやって来たマッカーサーに、陛下は猫背のちんちくりん=真実とは何か。
 利己主義なんぞいらん、お受験人間でない、大学教育じゃどーにもならん、たくましい一筋縄じゃいかん、有能な人間育てろ、下士官教育と自閉症お役人、大衆におもねるほかねー政治家ども、マスコミというどーにもごったく、ふわーいうんざりだ、ヒットラーが出るぞほんきにさ。
 日本滅びねーには、難民をどんすか受け入れるっきゃねーか、宗教のごった煮も我慢してさ、ひとまず元気溌剌をわんさか、がきが死んでる日本じゃねーのをさ。
 おたまじゃくしもいもりの卵も、とつぜんなつかしーいったら鮮烈。
 包茎くされきんたま割礼、いやさマホメッドさまって狂人なんだろ、イエスさまってのはとんだ騙りだったな、今に見ていろぼくだってなんつー怨みつらみ宗教いらん、もとっこ王子様さ、人はもとっこ王様さ、でないと平和なんてありえないんだ。
 なんでまあはりつけ人間なんだ。
 白鳥を見に行って来た、田んぼの現れたところに群れる、落ち穂拾って食ってるんだな、
「おいどあほ。」
 って云うと、長い首回して、
「なんだどあほ。」
 ってさ。
 うっふー烏のほうが賢いかな、それともでっかい白鳥は別の能力があるんかな。


2019年06月02日

ショートショート12

2011年03月01日 20:15 せっちゃん ショートショート・雪消え
きつつきの穿てるあたり降り降りてまふら淋しも軒伝ひ行く
 軒伝い歩くとは雪にすっぽり、屋根から下ろしたのが屋根よりも高く、閉じ込められて一歩出られん、日んがな軒を廻り歩く。ブルが来てそーゆーこともなくなったが、今年は久しぶりに大雪でもって、本堂の下を行ったり来たり。きつつきは青げらでまあ美しいんだやら、三羽も来りゃ本堂も庫裏も穴だらけ。
きつつきも庵は破らず夏木立
 どっかに行い清ます坊主がいて、これは芭蕉の句。えーわしはなんせ聖人だってーのに、どんどんかっか穴だらけ、穴から入ったのをとっつかまえて、五十嵐川へおっぱなしに行く、ちえわしより早く帰って来てら。
唐松は堂を破りしきつつきのつがいにあらむ春の燭台
 燭台の飾りみたいに、つがいが左右に停まる、予防措置取ったんけど、どーやら一つがい巣食っている、朝夕どんかつやってるな。
 向こうもこっち見ると、きききって逃げて行きゃーがる。雪消えにはだれが見えて、けものや鳥や大入道や女の顔になったり、見飽きぬ千変万化、子供の描くような、落葉が目になったり、枯れ枝が口になったり。
この鳥や百舌鳥に追はれて大崎の雪の田原に何を見むとや
 でっかいくせに大人しい鳥がいて、百舌鳥に追いたてられて木のてっぺん、百舌鳥は猛禽だなあいつ、人まねしてホーホケキョもホッキョカケタカもさ鳴く、百舌と云われる所以、蛙つっ刺して忘れちまうのを百舌鳥の早犠、冬も一羽きりで来る。
風吹けば散らへる雪のむたにしてあはあは行かめこれの日長を
 吹雪してみたり、毎日降っていたり、三月に雪はうんざり、彼岸に法要があって、駐車場作りに雪をかき寄せてさ、今はでかいのあるしブルが来る。
ふーん痛んだ参道を修理に、なぬ600万かかるって、止めてくれ、こうのとりじゃねー青鷺め宝くじくわえてこい、冬中池の魚つっついてるじゃねーか。

2011年03月02日 19:57 せっちゃん ショートショート・捨て猫
君見ずやしの降る雪の木の間よもなんのものかはたはぶれ遊ぶ
 兎でもなしたぬきでもなし、なんだったんだろーなあれは、雪消えにはりすが来てお墓で遊ぶ、春は楽しそーだな。はくびしんの子が本堂に巣食って、位牌のドミノ倒しに出会ってぶったまげて逃げた、どーしてるんかなあいつ。竹やぶの裏にくされみかんとかりんご置くとなくなっている、ねずみかな。
滝の門のまふらまふらに降りしけば押し照る月は堂のしとみも
 雪が降ってどーやら満月で扉のあたり明るい、梅が咲くのはもーじきだのに、まんさくもまだ見えない、お寺の山のまんさくを貰いに来たじっさは、九六まで生きて死んだ。中じっさが首くくって死んだ、酒を絶って六日目だった、酒絶ちするのは一人じゃ止めたがいいってさ、首くくった人もー一人知っている、母親が目はなしたすきに死んだ。中じっさは中学の試験受かって、どん百姓が行くとこじゃねええって止めさせられた、もう一人は外交官コースへ入って、へんなのにひっかかって頭狂った、坊主がなんで釣りするって怒鳴られたっけな、中じっさには酔っ払ってきんたま握られたっけ。
 アル中治すクリニック出たり入ったりが多いって、ぴったり止めて100まで生きたじっさが云っていた、ついに一滴も飲まなかった、一滴飲んだらおしまいだってさ。
 麻薬や煙草や覚せい剤やのアル中が一番始末が悪いってさ、アル中映画あったな壮烈なやつが、花と酒の日々だっけか。
信濃河夕荒れ吹雪止みぬれば帰らふ鳥の姿さへ見ず
 地荒れ吹雪は二月、ぶわーっと吹いてホワイトアウト、どえらいめに会ったけど、信濃河も夕方押し上げて来たな、ほんに鳥一匹いない。冬でも釣れるとこがあって、矢島が釣り上げてわしは逃げられ、下水がそのまま入る、あったかいから鯉が寄る、五月に行くと何十という大小が逃げる、うーんこやつを一網打尽、でかいのは一メートルもあったか。なんでこんな話だ。
信濃河夕荒れ吹雪止みぬれば田井に安らふ社の木立も
 猫捨てに行ったっけな、お妙のやつがなんたって拾って来ちまうんだ。

2011年03月03日 20:20 せっちゃん ショートショート・剃刀
 たけのこ大好き人間なのに雪降って孟宗全滅、びっしり折れてらあ、こんなに降るとは思わなかった、竹になるまぎわにゆさぶって先を落とすと雪折れしない、大雪降らずなってずーっと怠っていた。
 折れたろーがおかまいなしたけのこは生える、一年おきに当たり年とそーでないのと繰り返す、出ない年でもてめえ食う分事欠かぬ。
 山口県の防府に先輩がいて、表敬訪問した時に、どでっかいたけのこを掘って食ったら、えらいうまかった、南国のは違う、やわらかくって甘くって、お寺のはいわゆる青竹ってので、いごくって上物ではない。
古墳つき蜜柑畑を受け継いで先輩なれはやもめに暮らす
 かーちゃんに先立たれて、三人の息子も嫁なしでどーして暮らすって、息子が自転車買ってくれて、日本中ツーリングして歩いてる、
「登り下り平気で道路作りやがって。」
 ぼやくにはとんだ秀才で、兄貴は東大教授だった、自分は大会社五十で企画室長になった、出社したらデスクがあるっきり、つまりお払い箱かな、秀才頭は人を使いえなかった、企画室を大いに興せばよかったんかな。
 同窓はいっとき付き合ったが、面白いのは死んじまったし、坐ろーってのもいねーし、たいていそれっきりになった。
 冬でもひげは伸びるし、むさい頭剃ろうって、すぐお湯が出るからいーやな、むかし作法で水で濡らして剃刀研いは手間がかかる、自分の頭自分で剃ったらいかん、弟子がつかんてんだが、もう何十年てめえで剃る、弟子もてっちゃんんも同じだ。シックという便利なのあって剃ってたら、一枚刃がなくなって二枚、三枚刃になった、頭剃れない、かーちゃんが店行って聞いたら、一枚刃のストックあるという、あっちこっち買い集めて十年分ぐらいあっかな。ポットもだけど会社の勝手てのかなわねーな。
 西洋剃刀を研いで一人頭剃るのはいーかげん芸当だったな、本山雲水のとき、老僧が剃ってくれって来て、刃は切れねーどーにもぞりぞりって、あっはっは。禿げ頭のほうが難しいんだってばさ、くそ。
 尼さん頭とうとう剃らなかったな、待てよこれからあっかも。

2011年03月07日 16:49 せっちゃん しょーとしょーと・花見
 廃業する坊主に破産するお寺にてんやわんやだってさ、そりゃ当たり前だこれだけ長い間さ、達磨さんに毒を盛り、道元禅師に後足で泥をぶっかけして、お釈迦さまの名を騙って勝手放題、坊主の好きなのは女に車にぜにかねの、死出虫稼業の嘘とはったり、こーんなのむかしに滅んでしかるべき。
 ろくでもねーったら人間の格好したのいない、禅宗が坐禅忌み嫌うという、わけのわからんへーんなの。
 食えなくなってようやく、わしらが悪うござーましたとさ、わっは笑っちまうぜ、食えなくならんのは、ありがたやーの御授戒だやってらーさ。
 坊主本来世の為人の為って、出家もできねー本来心など爪から先もねーの。
 なことは云わずにいたけど、テレビで大ぴらにやってら。
空威張りらごら坊主の世は終へて割りを食うたか月見に一杯
 これから先どーなるって、一から出直しさーな、托鉢良寛行か、何人かいりゃ祇園精舎の復活しかな。
 そりゃ到底無理だ。
 自閉症のよったくって、坊主が坊主を食い物にしている宗門。
 わしんとこに仏教はかつかつ残っている、これを相続出来なけりゃおしまい。
 宗門は絶えはてようが仏も仏教も滅びない、飯田とう陰老師ではないが、一人で復興するには大力量がいる、なんとかはしたいと切に思うが、なんせ非力のぐーたら、若しやこれ以上なんて無理か。
 雪が消えたら花見だ、どこへ行こう楽しみだな。
願はくは花のもとにて春死なむそのきさらぎの望月のころ
 西行法師はたいてい仏教とは無縁だが、あんなにすんばらしいやつもいなかった。
心なき身にも哀れは知られけれ鴫立つ沢の秋の夕暮れ
 わしも歌人のはしくれさーな、わっはっはてめえ本尊心行くしてあばよ。

2011年03月08日 20:06 せっちゃん ショートショート・けだもの
鼻の長いみどりの東北新幹線、発売一0分で売り切れだとさ、日本人て金あるんだ、借金大国のくせしにさ。グランなんとかは二万六千円、往復でえーと五万以上、弘前公園の桜見て、角館の武家屋敷見て、男鹿半島のなまはげじゃねー鯛食って、ひないどり丼食ってきりたんぽにえーと、一泊二泊すっと二十万かな? 札幌行くカシオペア乗って新婚旅行もえーな、この際かーちゃん留守番で拾ったおねーちゃんとルンルン、乗り物の豪華ってのは、船がサイコーだけんどさ、クイーンエリザベスだあ、毎日パーティにダンスにカジノにプールで泳いでって、どこ面白いんだあほくさ。
 わしら夕方八時に出てラーメン屋で晩飯食って、夜っぴで三交代で運転、雨に西施が合歓の花の象潟で一服、明け方六時には青森に着く、冥土の土産の貧乏旅行、へーいけっこーいけるのだ。
 テレビつけたら列車のこと、
「けだもの。」
 と云う、メキシコほんじぇらすの子が、アメリカへ出稼ぎの親訪ねて、何千キロして砂漠をわたって越境。聞いてもいられん、
「けだもの。」
 というのは貨物列車のただ乗りだ、居眠りしたら振り落とされる、トンネルにぶちあたって落っこちる、警察につかまって有り金むしり取られたり、14の女の子や17の子や、貨車に穴が開いていて、母と娘と一九人の男に強姦されるのを見た、もーなーんももやになって移民局に出頭した、施設に入って、一歩も外には出られ強制送還も、帰って来てもいどころがない、またアメリカへっていう。
 こんなことってー絶句、
 そりゃもーそこいらじゅうの子がこんなことなんだ。
 五%の贅沢仕放題のために世界中飢える。あー神様ってあほらしーこりゃもー仏教も何もねーや。北朝鮮に目つむってささやかな幸せをって、ふーん昆虫になったほうがよっぽどいーか。
 なんかいーことねーかって、坐るしか知らんな。

2011年03月09日 15:45 せっちゃん ショートショート・童謡
ライアーにフルートいじる人いるから童謡に歌付けて貰おう。
月の光になって、波になって、リヨンのバイオリン弾きが、あたしの目を奪って行った、ドールーラララ、ドールーラ。
花になって、嵐になって、リヨンのバイオリン弾きが、あたしの耳を奪って行った、ドールーラララ、ドールーラ。
雲になって、青葉になって、リヨンのバイオリン弾きが、あたしの足を奪って行った。ドールーラララ、ドールーラ。
吹雪になって、氷になって、リヨンのバイオリン弾きが、あたしの心を奪って行った、ドールーラララ、ドールーラ。
だからあたしはお化けなの、どこへ行ってもがらんどう、窓を開ければ、くもの巣が、ドールーラララ、ドールーラ。
花の子守唄ってのは一番しか思い出せないな、明美ちゃんの作ってくれたブログにあったか、金のお椀に月を盛り、銀のお椀に雪を盛り、ねんころろーん、ねんころろん。てのさ、速い流れに帯を投げ、おそい流れに毬を投げ、ねんころろーん、ねんころろん。
花の咲くや姫。
春はな、ピートロ。さーやさやさや散る花の、花の咲くや姫さま、ほ。ドンガラピー。お好きなよーじゃて、ほ。とって日は上る。
川んどじょうもにょろりと行けば、池んかえるもげーろと鳴くで。
春はな、ピートロと続く、とって月が出たから、かってにつける。
夏がきたってのは歌にゃならんかな。
一つひなたの一輪草、二つ古寺梅の花、三つ三日月杉の森、四つよんがら鳴く蛙、五つ井上さくら花、六つ村々鎮守様、七つ中下青田んぼ、八つやしろの松の風、九つこうやのほととぎす、十でとうとう夏が来た。
童謡を作っているときが、そりゃやっぱり一番楽しかったな。
みそっちょみそっちょみそさざい、味噌樽はまって味噌あばた。

2011年03月10日 13:00 せっちゃん ショートショート・はたすすき
みそっちょみそっちょ味噌樽はまって味噌あばた。あっちへ行ったこっちへ行った花嫁修業。なあにが欲しい箪笥長持ち花の帯。ひいふうみいよう指折り数え。ひいふうみいよう寿命はいくつ。向こうのすみへ娘を埋めた、月夜の晩にふーらり出るぞ。西へ行ったら道祖神。東へ行ったらさいの神。みそっちょなんぼなる十三七つ、しばっこくぐってもー一つ。とんびのまねしてピートロ鳴いて、田んぼにはまってたにしになった。
 うははこりゃ面白いや。
むかごがね、ぷーらりなって、うさぎが食って、一つ食ったら目が真っ赤、二つ食ったら耳がにょっきり、三つ食ったらぴょーんと跳ねて、ささやぶ行って、山行って、雪はどんさか、お寺の屋根のてっぺんだ、お月さん今晩は、お月さんお餅つき、ぺったんこの金色臼。
 はたすすき
だれが呼ぶのか、乱れ雲、月は三日月、流行り歌。浮き名を奥の、夜は明けて、はたやほーたら、はたすすき。
見果てぬ夢を、はたすすき。
賽の河原の、もがり笛、吹雪きの底を、流行り歌。なんの杭かや、みをつくし、はたやほーたら、はたすすき。
見果てぬ夢を、はたすすき。
茂みの夏に、霜を置く、からくれないの、流行り歌。行きて帰らぬ、最上川、はたやほーたら、はたすすき。
見果てぬ夢を、はたすすき。
梅に咲くさへ、鳴る神の、よるべもなしに、流行り歌。艪を漕ぎ分けて、うぐひすの、はたやほーたら、はたすすき。
見果てぬ夢を、はたすすき。
 ちえこんな歌じゃ流行りっこねーか、待てよーあほ止めとけ。
2011年03月11日 11:09 せっちゃん ショートショート・大漁歌
 大漁祭り歌
百合あへ浜に潮満つ、船はおんどろ寄せ太鼓、旗は大漁祭り歌、男は伊那の八丁艪。
泳ぎわたったさお鹿の、角館岩に日が上る、泡立ち行くか渦潮の、なめりの底に虹をかけ。
彼の美はしの平らの地、久島の王に使者を立て、八幡太郎義家は、弓矢にか「伊那の鳴門をおししずめ、八十島かけて明け渡せ。」「弓の穢れに果てんには、久島をともに海の底。」
久島の王は猛り狂って、使者を嵐に飲み込んだ、角館岩に日は沈み、鳥も通はぬ平らの地。
さても使いの若者は、嵐の海に漂い流れ、もがいの浜に息も絶え、海のもくずを選り分けて。
一つ命を救うには、三日三晩を添い寝して、久島の王の愛娘、百合あへ姫と名を告げた。
秋風吹いてさお鹿の、尻声悲し坂東武者は、使いの役を果たさんと、もがいの浜を後にした。
十月十日の月満ちて、百合あへ姫は身を二つ、彼の美はしの平らの地、子はその父に生き写し。
鳴門の渦に生い育ち、いるかを友の若者が、隠し持ったる宝物、忘れ形見の小さ刀を。
「死んではおらぬ父親は。」「会ってはならぬ世の定め。」下帯一つに小さ刀と、その渦潮をおしわたる。
父に会うだに束の間の、坂東武者の軍勢は、角館岩の潮を廻り、八十島かけて血に染まる。
弓矢の穢れを平らの地、久島の王は破れ果て、百合あへ姫は波のむた、子の魂は虚空のはて。
船はおんどろ寄せ太鼓、百合あへ浜に潮満ち、鳴門の海に旗を立て、さても大漁祭り歌。
今宵十五夜満月の、男は伊那の八丁艪、神さびわたるさお鹿の、角館岩に波うち寄せて。

2011年03月12日 10:42 せっちゃん ショートショート・かーおかあちゃん
新日本海フェリーは、しらかば反対に読むとばからし、おねーちゃんが髪を緑に染める、色白でけっこう似合うんだな。
みどりなす竜宮乙女があどもへば我れも六十路に年老ひにけり
一つとや、一人浮き寝は波の上、うみねこ鳴いて粟ヶ島。
二つとや、二人浮き寝は船の上、島影消えて淋しいばかり。
三つとや、見える灯は出羽湊、おしんの里は雪の中。
四つとや、夜霧に消える面影の、母を尋ねて三千里。
五つとや、いつか行く手は鳥海山、さかさに影を波枕。
六つよや、むかし芭蕉は俳人の、雨に西施が合歓の花。
七つとや、なまはげおんどろ笛太鼓、夏は真鯛のうしお焼き。。
八つとや、山は津軽か下北か、吹雪にむかう寒立ち馬。
九つとや、ここは海峡流れ星、カシオぺーアは海の底。
十とや、十は遠々函館の、百万ドルの街灯り。
 からすかーお
からすがね、石を拾って落っことす、なんでかな、なんでかなったって、かーおかお。
人の頭へ落っことす、あぶないよ、あぶないよったって、からすもいっしょに急降下。
車に当たって、キーブレーキ、ばっかやろうったら、禿げのおっさん。
ふえー仰天、バイクの兄ちゃん、ばっかやろーって、からすが云った、これはなんたって、一一0番。
ピーポー鳴って、パトカーが来た、仰天からすは、急上昇。石はどーんと、急降下、フロントガラスがめっちゃくちゃ。
本官さんは、ピストルだ、鼻水拭いてぶっぱなす、どかんどっかん、かーおかお。
両手を挙げて、飛び出した、うつなと云って、銀行強盗。手錠がっちゃり、本官さんは、お手柄だ。
鼻水すすって、ラーメンいっぱい、かあちゃん、おまえを愛してる。
からすがね、石を拾って落っことす、なんでかな、なんでかなったって、こう云った。
ばっかやろうったら、ピーポーどっかん、かーおかあちゃん愛してる。
 大地震ふわーいお手上げ。

2011年03月13日 09:45 せっちゃん ショートショート・くそだめ
 地震があっても原子炉爆発してもかなあ、これっきゃできねー馬鹿。
 花の子守唄
金のお椀に月を盛り、銀のお椀に雪を盛り、一つ吸うてはねんころろん、ねんころろん。
天の船には酒の樽、風の船には吹流し、一つ漕いではねんころろん、ねんころろん。
浅い井戸には花のかげ、深い井戸には星のかげ、一つ汲んではねんころろん、ねんころろん。
遠い橋には笛太鼓、近い橋には毛槍歌、一つ聞いてはねんころろん、ねんころろん。
春の雨には金の櫛、秋の雨には銀の櫛、なんに泣くとやねんころろん、ねんころろん。
高い窓には紙風船、低い窓には影法師、末に生まれてねんころろん、ねんころろん。
速い川には帯を投げ、遅い川には毬を投げ、人の浮世をねんころろん、ねんころろん。
土塀の上には龍の足、瓦の上には獅子頭、なんに笑うてねんころろん、ねんころろん。
 日本人が日本の心と言葉を取り戻せるよーに、復興の力はその他大勢にあり、半分はすでにありもー半分を。
 めでたいな
つ 月の宮の舟大工 く
き 紀州のかわうそ そ
よ 嫁入りやどこだ だ
の 野っぱらの三丁目 め 
ば 番屋の猫がにゃーお お
ん んとこしゃのあっち ち
に 荷は二つ届けた  た
  めでたいな
 大地震の復興には何年もかかる。

2011年03月14日 09:24 せっちゃん ショートショート・なめくじ
梓弓春はぎふてふマンモスの氷河のみ代ゆ舞ひ生れ越せし
牙の大きなマンモスは、毛むくじゃらで、優しい目をして、もおっと鳴いて、草を食んでいた、そうさ、そんな時から飛んでいたんだ、花から花へ。
大きな牙のマンモスは、長い鼻を持ち上げて、悲しい目をして、もおっと鳴いて、行ってしまったよ、暗い氷の向こうへ、そうさ、帰って来るのを待っているのさ、花から花へ。
梅桜春はぎふてふマンモスの氷河のみ代ゆ舞ひ生れ越せし
 温暖化でぎふちょうが絶えたと思ったら、去年またいた、ふーわりふわりあっちこっちへ飛んで、縁側に干した蒲団の辺に止まっていた、もしやこれが最後かもな。春蝉のほうは絶えたな。
 三陸沖の巨大地震は千年周期で繰り返すんだそーな、どういうメカニズムになっているかは今後の研究によるとさ。
 一万人以上が死んだという、死体がごろごろしている、危うく難を逃れた人が寒さに震えている、目の当たり茫然自失のぜんたいが瓦礫の山。
 なんにもできねーのだなわしは、義捐金の箱へなけなし入れて、一柱を献じて、回向のお経を読む、お経とは何か、ようやくわずかに知る。復興には何十年もかかる、日本人を愛する、こんなにいい民族は世界中どこさがしたってない。死体の山にお経を上げに行きたい、情けねーな、到底無理なんかな。
なめくじどこへ行く、銀色の道をつけて。おいしいきのこを食べに行く。何日かかる。二日と半分。
なめくじ何がこわい、銀色のあとをつけて。まいまいかぶりとかえる。向こうへつくまで会わないか、さあわからない。
なめくじ何が楽しい、銀色のしるしをつけて。しっとり雨の、やさしい蒼苔。でも明日はかんかん日照り、そうしたらお休み。
なめくじ彼女が来たよ、銀色の道をつけて、そっちへ曲がろう、すてきな子。そんなところから見えるの、もうきっと。

2019年06月02日

ショートショート13

2011年03月15日 14:57 せっちゃん ショートショート・猫の奥方1
 猫の奥方
天下無双の豪傑、あべの金時は、猫を一匹飼っていた、その名はにゃーお。お館さまものすごーわる・もすによーるは、人を殺す、女はうばう、したい放題、そやつをあっさり退治した。
金時は指名手配、美しい奥方さまのよーろぴは、とっつかまえて、火責め水責めの拷問だってさ。せっかく豪傑を、人はだれも知らん顔、美しい奥方のほうが、恐ろしかった。
「村を出るよりないか。」
にゃーおの猫とのっそり歩く、そっちは剣呑、どーよ館の塀きわ。にゃーおは塀を乗り越えた、
「そうゆーわけかい。」
のっしりみっしり、美しい奥方の寝室。
「死ぬかいそれとも無罪放免。」
よーろぴは目を覚ます、刀を抜いて、あべの金時。
「さすがじゃな押し入るとは。」
美しい奥方は猫を招く、あんれなつかぬはずのにゃーおが、ごろごろ。
「曲者じゃ出会え。」
奥方は消えて猫が一匹。四方八方取り囲まれて、死に物狂いのあべの金時。どーにか抜けて山の中、人の通わぬけもの道、にゃーおの取った魚を食って、武者修行の旅へ。
きよいの村に花嫁行列が出る、三年にいっぺん、うら若い乙女が、鬼に嫁ぐ。そーしないと鬼が大暴れ、
「よしわしが代ってやろう。」
あべの金時は、花嫁姿。
「なんだあれは。」
人はにゃーおを指す、
「鬼のえさにするんだろーか。」
花嫁の輿は置き去り。鬼火がふわーり燃える、
「おっほう花嫁。」
鬼が云った、
「二人いるぞこっちがいい。」
猫のにゃーおをさらって行った、あとをつけてあべの金時、鬼のかたわらに、美しいよーろぴがいる。
「どーゆーこった。」
豪傑は切りつけた、鬼は平然、その目ん玉を、猫がひっかいた。
「ぐわーお。」
あべの金時鬼退治、その夜、美しい乙女がしのんで来た。
「命を救われたわたしは、あなたさまのもの。」

2011年03月16日 10:51 せっちゃん ショートショート・猫の奥方2
「下がりおろう。」
猫が云った。
「はあ。」
乙女はかしこまる。
「あなたさまのような、美しい奥方さまがおらえるとは。」
「猫きりいない。」
あべの金時がわめいたら、ほんに猫しかいなかった。
でもって旅をして行った。野越え山越え川がある、舟に乗ったら、わたし守が云った。
「この河にはうわばみが棲む。」
「そいつはどんな悪さする。」
「たいしたことはせんが、牛や馬をべろーり、たまには人も食う。」
「そいつはどんな代物だ。」
「たいていこんな代物だ。」
わたし守は、舟ごとうわばみになる。
「猫なんてのも好物でな。」
猫のにゃーおを飲み込んだ、かま首斬りゃ尻尾がどーん、すんでに死にそうになってあべの金時、
「水から出にゃだめだ。」
とつぜん川は真っ赤に染まる、
「おーほっほ。」
笑い声、うわばみの腹かっさいて、美しいよーろぴの手に剣、と思ったら猫のにゃーおがくわえていた。
「いするぎ神社のつるぎだ。」
村人が云った。
「きおいのよろずなる者が、二百年前に取って行った、よこしまにふるうと、けだものになる、ようまあ取り戻して下された。」
「女が振ると。」
声がした、
「美しいお方はさらに美しく。」
ふーんやっぱり猫きり、
「たたられている。」
「命を救ってやったのに。」
にゃーおの欠伸がそー聞こえ。
だんだん山の鼻つらに、盗人のとりでがあった。あっちを襲いこっちを襲い、人を殺して、火を放つ。

2011年03月17日 11:00 せっちゃん ショートショート・猫の奥方3
「退治しよう。」
「お一人ではとっても。」
村人が云う、加勢するかというと誰もいない。
「おれが行こう。」
大人よりたくましい子供が云った。その名を天童丸という、天童丸とあべの金時と、にゃーおの猫は、鼻つらの、盗人のとりでに向った。煙突の穴がある、猫のにゃーおが偵察に行く。
「猫でいいんでしょうか。」
「七三でまーな。」
帰って来た、
「強そうなのが三人、中くらいのが十二人、どーでもいーのが三十人。」
猫のにゃーおが云った。
「三十人を走らせる、強い三人を倒したら、あとは成り行きまかせ。」
「火を点ければいーのよ。」
「これは奥方さま。」
「ちがうお化けだ。」
「いい子だねえ気に入った。」
でもって猫のにゃーお。
「寝ている十二人に火矢を打ち込む。」
「はい奥方さま。」
「うるさいお化けめ。」
火矢を打ち込んで、あふれ出た十二人をなぎ倒す。天童丸とあべの金時の太刀風に、三十人は泣き喚いて逃げ出す、強い三人と立ち会った。あべの金時は二人の首をはね、天童丸は一人を倒す。
奪われた財と女たちを連れて、村に凱旋。
「どーよ村へ帰ろう。」
あべの金時は云った。
「骨折り損のくたびれもうけ。」
「そんなことはありません。」
「世のため人のため。」
天童丸が云った。
「強きをくじき弱きを助け、正義の旅にお供します。」
「おっほっほ、帰って行ったら拷問が待ってます。」
にゃーおが欠伸。
「天人のような奥方です。」

2011年03月18日 11:17 せっちゃん ショートショート・猫の奥方4
阿部の金時と天童丸とにゃーおは旅を続けた、強きをくじき弱きを助け、あっちやこっち、しんや城に高札が立つ。
「お姫さまにとっついた、化け物を退治したら、婿君にする。」
一行は乗り込んだ、
「豪傑あべの金時。」
「天童丸。」
「猫のにゃーお。」
猫が口を聞いたぞ、女の声のようであったが、化け物ではないか、とにかく夜を待った。
恐ろしい叫びが上がった。しんや城はふるえわななき、天井が張り裂けて、お姫さまの衣をまとった、九尾の狐が現れた。
太刀を引き抜いて、あべの金時は金縛り、にゃーおは総毛立つ、かろうじて天童丸が一太刀。
おさむらいは阿呆になり、女どもは狂う、化け物はさまよい歩く、そーして朝になった。
血が滴って行く。
天童丸とあべの金時と、猫のにゃーおはあとをつけた。北西に十里、やぶにぽっかり穴が開く。
「九尾の狐はこの中にいる。」
深くってなんにも見えぬ。
「飛び出すのを待とう。」
弓矢をつがえて待つ、夕方うわんと燃えて、真っ青なものが飛び出す。
二人の矢は二つともそけ。
「追い矢はだめだ。」
明け方迎え矢もそけ。
まっしろいひげの年寄りが来て云った。
「九尾の狐は千年を生きる、千年たった矢がいる。」
「そんなものがあるか。」
「もしや。」
天童丸が云った。

2011年03月19日 10:14 せっちゃん ショートショート・猫の奥方完
天道さまのはなくそと云って、三日歩いてそのあたり捜して、石の鏃を拾って来た、あべの金時と天道丸は、そいつを矢にとっつけて、明日を待つ。
一の矢はそけ、二の矢は足をかすめ、三の矢がお化け狐の、真っ赤な目に吸い込まれ。
「おひょーかんかん。」
雷鳴って化け物狐は倒れ、大地は九つに張り裂けた。
しいや城に帰ると、美しいお姫さまが目覚めて、にっこり天道丸を見てうなずく。
「婿君は天道丸。」
「ふんそーゆーことかよ。」
あべの金時。
「めでたし。」
でもってお城を挙げての、盛大な結婚式。
にゃーおの猫とあべの金時は、飲んだり食ったり。
「兵隊を貸してくれ。」
花婿どのに、あべの金時は云った。
「どーよ館に押し渡る。」
「うっふーあたしは手紙を、歓迎の準備。」
にゃーおの猫が云った。
「はいなんなりとも、美しい奥方さま。」
兵隊とあべの金時は、どうよ村に凱旋。あんれ奥方のよーろぴが出迎えた。
「うーむ化け物。」
「ここに手紙があります。」
奥方が読み上げる。
「しいやの兵は、お館殺しあべの金時を逮捕しろ。」
多勢に無勢、どーしよーばがんじがらめにとっつかまって、あべの金時は拷問台。
「夫を殺した罪は、えーとあたしと結婚したら許す。」
そやつがとんでもない拷問で、
「わ、わかった。」
めでたやどうよ館挙げての結婚式。
猫を飼ったが一生の不覚。
「なにか云いました。」
「いえなんにも。」

2011年03月20日 14:47 せっちゃん ショートショート・おろおろ
 巨大地震と津波とまた原発と、古今未曾有の大事件は、まさに日本沈没この世の終わりと、右往左往大騒ぎは、それみたことかと云うのと、日本再生だと必死になるのと、なにしろてめーにできることするっきゃねえ。わしみてーじっさはなけなしはたくしかねーか、イチローみてーに一億円てわけにゃいかん。
 ひでりの夏はおろおろ歩きって、あとは指くわえて見てるだけ。
 同じに朝夕坐ること、たとい地球破裂してもお釈迦さまの大法はある、たったこれきり。
 現実にさからわずていい、ますます長長出ならしめ、だれかれに付与す、他にはなんにもなく。
 共産中国の唯一の取り柄は、ダライラマを世に押し出したことだ、観音さまの生まれ変わりだろーが、なにしろ真実の教えを示す。
 人ものみなのありようこれ。
 振りかえりみるのに、日本の坊主どもは、仏教を足蹴にし達磨さんに毒を盛りして、はては宗門を滅ぼす。世は仏教を忘れ坊主をうさんくさく、当然だが真はここにしかない。
 巨大地震直指人身見性成仏と、あまりにも悲惨大事件、復興するにどれほどかかるか、はたして復興できるのか、全世界が日本を指し示す、坊主のはしっくれは肝に銘ずること、もしや爪から先の責任も取れねば、そりゃ思い知るこったな。
 一人半分心の復活を試みる、なんとかなりそーにも見えて、まるっきり不確かだ。
 雪の辺にまんさくが咲く。
 おおたかが庭に飛んできた、とんびに似ているが、そばへ来ると悠然大きいし、猛禽の風格だ。
 そんなものいないっていうのを、中学の女先生がいると云った、ほんとうにいた、彼女はさんしょううおや春蝉や生物にくわしい。
 おおたかが舞い行く、地震なんかどこ吹く風。
 生き甲斐が舞い行く。
 わっはっはホームレスだって生きて行くのさ。

2011年03月21日 11:33 せっちゃん ショートショート・お彼岸
 今日は彼岸の中日、お彼岸法要とうちでは護持会年次総会がある、能無し坊主はせがれに代譲り、たいてーのこた耳聞こえないなんまんだぶ任せたってやつ、うらさむい雨が降る、暑さ寒さも彼岸までっていうが、こっちの彼岸は、猛吹雪でだれもこなかったり、たいていぽっかり上天気なんてない、お墓は雪の綿帽子被っていたり、今年はまずはお墓参りもできる。
観自在菩薩、行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。
 般若波羅蜜多ぱーらみーたー彼岸にわたるということ、彼岸とはもと仏、それをよこしまに我という、わがままこっちの岸此岸、生まれついては彼岸のが、物心つくにしたがい我田引水、妄想めったら我欲、世界宇宙はおれが中心だって、百人百様に主張したらどーなる=世の中だ、もとのありよう彼岸に返す心の教え、心経すなわち仏教。
 気が付いたら世界宇宙の中心であった、さあてどこがどうちがうか、これが問題だ。
 彼岸の菩提をとむらう、生きたのも死んだのも成仏だ、どこがどう違う、ちらともありゃよこしま、不幸の原因、生きているとはよこしまということか、断じてそうではないと気が付く、お経を上げたってなんにもならん、菩提をとむらうとは、照見五蘊皆空、度一切苦厄、もと救われてある自分を知る。
 法要法の要とは。
 本日参拝の善男善女人、当寺総旦那各家先祖累代精霊、及び東北関東大震災殉難者の霊について菩提を弔うこと、坊主にできるたったそれだけ、なまぐさ坊主てめえのことしか考えない、自閉症のてめえ格好付けだけ、お経を読みだみ声張り上げたってだれも浮かばれない、お布施というどぶに捨て。
 なにしろ法要は十時から。
 檀家総会に緊急動議、てっちゃん晋山式に禅師を省いて、仏教のぶの字もない両本山御撰使を止めにして、そのお金をお寺として大震災の寄付にあてよう。

2011年03月22日 08:44 せっちゃん ショートショート・世界一周1
ゆーばん世界一周
うちなん村は真昼間、ゆーばんぷーわり鼻提灯、蝿がたかって世界一周、ぱっちん割れて目が覚めた。
ふーらり起きて旅支度、どこへ行くととなりの姉さ、世界一周すたこらさ、さんごのかんざし買って来て。
はいないうてもっけ川、どっかり舟に乗り込んだ、あしたは返せと魚捕り、あさって返すとゆーばん。
袖山過ぎて衣山、枕崎には花が咲く、おうかん鳥がきーろり鳴いて、夢のようだと竿差す。
ざりがに船にはさみを上げて、あわんとどもが押し寄せた、空の上から神様が来た、神様でねえゆーばんだ、
いいから歌えとあわんとども、舟べりたたいてゆーばん歌う、ぷーわりぱっか鼻提灯、寝てばっかりのふんどしくさる。
神様でねえ嫁なしだ、あわんとどもははさみにはさんで、もっけの川の大渦へ、ゆーばんくーらり吸い込まれ。
せんぐらとはぽっかり浮かぶ、あっぷらかいて海の真ん中、しいらん魚が飲み込んだ、なんでも食らうしいらん魚の。
腹ん中には雲が浮かんで、むしろを敷いてだれか住む、世界一周のゆーばんだ、大声上げたら相手は云った。
釣ろうとしたらわっはっは、食われちまった漁師のざっき、二人仲良く腹の中、かすみを食って雲を飲み。
百年たったらざっきが云った、しいらん魚は竜宮へ行く、待ってはいられんそれもそーだ、骨を抜いて槍をこさえ。
二人は浮き袋をぐっさり、しいらん魚はぶっふう沈み、そこなんとうの天井岩に、しいらん頭をぶっつけた。
ぷーと二人は吐き出され、こいつを引いて村へ帰ろう、お別れだざっきは云った、そこなんとうの扉を叩く。
世界一周のゆーばんだ、とびらが開いて門番が云う、なにかごちそうが作れるか、芋ん汁ならなゆーばん。

2011年03月23日 08:51 せっちゃん ショートショート・世界一周2
そこなんとの美しい、みやこはんのきろしただ姫さま、ごちそうが大好き、うんまくなかったら殺す。
まさかり取って大臣が立つ、汗みずくして芋ん汁、うんまいみやこはんのきろ、三杯食べてお姫さま。
あんれはんのきろ、ぷーいぷっかりでっかいおなら、そーじゃった芋ん汁は禁物、大まさかりが追っかける。
おならつかんでゆーばん、ぷーいぷっかり浮き上がる、九夜十日海の辺、ぶっちがいどくろの海賊船。
世界一周のゆーばんだ、いいから乗れと漕ぎ手にされた、そーれ獲物じゃまっしぐら、ゆーばん一人逆さに漕いだ。
しょーがねえなあマストに上れ、マストの上で見張り役、ぷっかりゆーばん鼻提灯、ぱっちん割れて虹が立つ。
一万両にきれいな姉さま、そーれ行けと漕ぎ寄せた、獅子鼻には虹が立つ、どーんざっぱん乗り上げた。
いわなんとが押し寄せる、海賊船は一網打尽、おまえはなんじゃ阿呆面、世界一周のゆーばんだ。
そんではこれに乗って行け、けおるぐ鳥を引いて来た、山を二つ一跨ぎ、食われんようにといわなんと。
けおるぐ鳥に手綱かけて、ゆーばんゆっさり大空を飛ぶ、海をわたって野っぱらへ、お城の塔がぴっかり光る。
きれいな娘が輪になって踊る、大砲曳いて軍勢が行く、河の向こうは杉の森、雲にふーわり眠くなる。
万年けやきにでっかい巣、きーけおるひなは三羽、くわー食われるすんでにゆーばん、四羽めになる。
ひなは巣立って雪が降る、こうしちゃおらんスカイダイビング、ゆーばんぴえーと滑って行った、三角屋敷の窓へ突っ込む。
世界一周のゆーばんだ、青い目をした女の子、お父さんとお母さんがダンスに行って、三日も家に帰らない。

2011年03月24日 08:27 せっちゃん ショートショート・世界一周3
それは困ったゆーばん、二人でもって捜しに行った、波止場はからすがよったくる、塩のホールは酔っ払い。
キータラの白いお化けが、さらって行ったあーんと泣いて、みやこはんのきろしただ姫、みやこはんのきろ女の子。
ぷーいぷっかり芋ん汁、あーれはんのきろ大笑い、氷の浜辺に夫婦は踊る、沈まない日がくーらり。
もう三日目よと女の子、そーかどうりでお腹が空いた、親子三人帰って行った、ゆーばん一人ダンスを踊る。
影と二人手を取り合って、お日様にとげが刺さった、ごおっと吹いて竜巻だ、世界一周呑み込まれ。
にしんとたらの竜巻だ、にしんとたらとゆーばんは、デルタヨッホの港に着いた、千キロ向こうの南国だ。
にしんとたらで大儲け、竜巻印の缶詰じゃ、お屋敷に住んできれいな嫁さん、ひげをしごいて演説。
オペラに行って大欠伸、蝿がたかって鼻提灯、にしんのげっぷはもういやだ、きれいな嫁さんは駆落ち。
そうだゆーばん世界一周、成金屋敷を売り払う、四頭立ての馬車を買い、一鞭くれたら突っ走る。
野越え山越え街を越え、馬なんてーのは始めてだった、ぐるぐるひーん入ったら出られぬ、しんだーるの砂漠。
砂にはまって空回り、ゆーばんも四頭立てもひっからび、らくだびーとが鞭をひゅーるり、死体を巻いて引いて行く。
どんごろどんごろお呪い、たっぷり水を吸ったらよみがえる、死んでよみがえった命は、らくだびーとの財産だ。
金山堀りにつっこまれ、明けても暮れても重労働、ゆーばんふーらり皮ばかり、生きても死んでも同じだ。
お月さまぽっかり山の上、お月さま金の糸と云ったら、ぴえーと下がる金の糸、はしっこつかんで浮き上がる。

2011年03月25日 08:29 せっちゃん ショートショート・世界一周完
血も涙も出ねったらに、巨大蜘蛛の八つの目ん玉、食えんとゆーばんうっちゃられ、明日の朝まで吹っ飛んだ。
たんだろ村の巨人族、たんだねーるの耳ん中、世界一周のゆーばんだ、けしっつぶが何を云う。
けしっつぶだって役に立つ、では美しいたんだふろーりあを口説け、あざみのイアリングに、ゆーばんを隠してプレゼント。
たんだふろーりあは彼氏に云った、エーデルワイスにしておくれ、エーデルワイスにして彼氏は、あざみの花は自分の耳に。
天の声だ恋しい人よ、日も夜もなしにゆーばん口説く、彼氏はたんだねーるを追っかける、止めてくれえシュミはない。
美しいたんだふろーりあは、怒ってかんかん、あっさり彼氏を乗り換えた、役に立ったろうがとゆーばん。
たいしたもんだといって、たんだふろ-りあと三人乾杯、グラスをがっちゃん、ワインは溢れて川になる。
うわあゆーばん流れて行った、弓矢がどんざん降って来る、世界一周にゅうふぁん酔っ払い、アラント軍とフルント軍の戦いだ。
うるさいんだったらゆーばん、そこらにあった旗を取る、わんさとふるって押し立てた、どーんと大砲が鳴る。
百年戦争はおしまいだ、アラント軍の大将が云った、ごるたの丘に旗が立つ、フルント軍の大将が云った。
おうわおーと大歓声、百万人が手を取り合った、旗を立てた者を銅像にしよう、永遠の平和のしるし。
よってたかって塗りこめた、世界一周のゆーばんだ、ぐるっと回れば世界一周、回ろうたってぴくともしない。
ごるたの丘の平和像、鳩がぴーっと糞をひる、となりの姉にさんごのかんざし、月の光にほーろり涙。
泣いて涙は流れ出す、ほーろりたまって貝のから、ゆーばんぶーらり帆立貝、うちなん村は海のはて。
波にゆーらり歌っていたら、うちなん村は海のはて、ゆーばんぶーらり鼻提灯、波はうねってやっぱり歌う。
となりの姉さばっさになって、二人孫が遊んでいたら、赤いさんごのかんざしと、まっしろいひげのじいさま来た。
世界一周のゆーばんだ、氷の浜辺にダンスを踊り、お月さまはぺっかり金の糸、みなまで話さずあの世へ行った。


2019年06月02日

ショートショート14

2011年03月26日 08:45 せっちゃん ショートショート・幕引き
夕月は信濃の河に言問はむなんに山越ゆ群らつの鳥も
 トンネルを抜けて千曲川から信濃河になる、地震のあった栄村津南のあたり。東北関東大地震があんまりでっかくて、おまけに原発もあってさっぱりだな、えぐいのが好きで、渦中の中越地震もあたり見に行って、パトカーに睨まれて脱出した。今はしゅんとしている。お寺民宿に提供しよーとしたら、とんでもそんなことしてらんねーって云われてさ、由来かーちゃんと口聞かねー、てやんでえ何が晋山式だ、いーから猿芝居なんかすっぽかせって、ふーんわしが出行くほかねーんか。
 てめえっきりねーらごら坊主か、かーちゃんもらってそーゆーのこさえちまった、わっはっは笑える、お寺私物化してー
 住職四十年掛けといた年金だけの、お経読むほかなんにもできねー、檀家十軒の小寺もぐり込むったって、坊主どもの付き合いはねーし、托鉢するには年取り過ぎた、しょーがねーなあ。
 鳥追い行事というのがあった、この鳥やどこから来た、信濃の国からやって来た、ほうほーやれほ。つげ義晴の漫画で見たっけな。
 わしはなにやっても食えねーのさ、好きなことしかしねーからって、信州から来た鳥だけんども、ほんにさ。
名月は千曲の川に言問はむなんにしだるる神代桜
 おふくろは信州山ん中の出で、先祖が赤報隊という、岩倉具視のせいで偽官軍にされて、山奥へこもった。義侠心が強く、人の為なら我が身を省みずの、せがれのわしにはどえあらいめにあったが、血はわしにも流れているのか、おふくろがいたら、たといお寺だって三家族は受け入れたろーさ。
 人はおふくろを利用して、たとえば娘が暴力団にさらわれて、なんとかしてくれと頼みに来た、引き受けて、百万用意しろといって、乗り込んで親分に直談判、すんでに外国へ売られるところを娘は戻った。ゼニなんかいらねーって親分が云ったとき、そーかいって引っ込めりゃよかったあっはっはってさ。
 わしほどの親不孝はなかったな。仏道だけが恩返し。
 そいつもどーもいかんなあ、だれかに渡せばな、この世にたった一人お釈迦さまを継いだぞ、道現禅師を、恩返しこれが他にはなし。幕引きするにはもー何年か。

2011年03月27日 08:41 せっちゃん ショートショート・ぼすねこ
ぼすねこ
だんだら子猫がにゃーんと鳴いた、大ボス猫がのっそりと出た、そこいら十匹しゅーんとなった、今晩は子猫が挨拶、いいお月さんですうんそうじゃ、四キロ四方は大ボス猫のしま。
子猫をつれて大ボス猫は、レーガンさんのステーキを食い、サッチャー屋敷のまぐろを平らげ、がきは帰った巡回だ、帰らないって子猫が云った、世間のことが知りたいの。
知ってどうする強くなるんだ、向かい合ったら負けなきゃいいのさ、定刻通りの見回りだ、おまえの年には山ん中、兎を食ったり山鳥を追い、冬は吹雪きの野っぱらじゃ。
大ボスさまがうっそり行けば、犬の喧嘩もそれっきり、駅のシートに半日座る、哀れなもんさ人間なんて、長生きするっきゃ能がねえ。
あっちの白も向こうの黒も大ボスさまの、えーと子猫はやしゃごに当たる、おっといけねえ御帰還だ、のっそり入った貧乏屋敷。
大ボス猫がにゃーんごろったら、せんべえ蒲団にもぐり込む、うるせえってんだがき親父、尻尾つかんでほうり投げ。
ぶっかけ茶碗にねこまんま、昨日の話はほんとかなあ、大ボス猫は膝の上、そーさこいつは猫又よ、耳は三つに張り裂けて。
大明神にお参り三回、人間でいやあ百歳を越え、夜中の二時にお帰りだ、いったい何をしてんだか、外で会ったら知らん顔。
貧乏屋敷に石かけ一つ、赤のまんまがゆーらり生える、くふうと笑ってがき親父、人間さまより大往生、三日も前から仏さま。
三年たったら子猫は大ボス、おんなむねこ大明神、向かいあったら負けはない、ボスをつぐならスマートに、耳は一回張り裂けた。

2019年06月02日

ショートショート15

2011年03月28日 08:57 せっちゃん ショートショート・金の太刀
  金の太刀
 むかし山の本田の長者さま、勝手気侭の悪業三昧、人の難儀を見るに見かねて、
「外道め成敗致す。」
 伊谷の十郎そっ首刎ねて、行方知れず。
 噂も絶えてとある夜半、十郎父母の家屋根に、月は二つとなりくらめいて、金ねの太刀が抜き立った。太刀には文がつく、
「十郎は妻と二人行く、ご不幸お許し下され。」
 月の光に涙流せば、形見の太刀が物語る。
 山の本田をあとに伊谷の十郎、武者修行の旅から旅へ、しかもあるときこう聞いた、
「美しいやな松の長者のさゆら姫。」
 雲は歌う草木もなびくと、やって来たれば苔むす巌に、一振り太刀が突き刺さる。
「引き抜いた者にゆら姫をやる、松の長者。」
 と札が立つ。
「なんのこれしき。」
 柄を取っては伊谷の十郎、雷鳴って巌の太刀を引き抜いた。
「天晴れ三国一の花婿じゃ、わしがそっ首刎ねたは三十人。」
 松の長者が引き合わす、朝日ににおうと美しいやなさゆら姫。
 子のないだけがたった一つの、三年三月は夢のよう。
 秋夜は更けて、思いは遠く父母の里、不意にあやしの気配、抜く手も見せず切りつけた。伊谷の十郎巌の太刀。なんたること、朱けに染まって倒れ伏すのは、美しいやなさゆら姫、返す刀に我れと我が胸を。
「待った。」
 と云うて、真っ白い松の長者。

2011年03月29日 08:56 せっちゃん ショートショート・金の太刀2
「家に伝わることわざ、末摘む花は宝の接ぎ穂。」
 なき姫へのはなむけ、わしへの孝養、千載一隅宝蔵、七つの海のはてにある、ねむいむーなの島へ行け。
 伊谷の十郎ゆら姫の太刀、西へ向って十五日、ざんざあ風に風鈴が鳴る、「ねむいむーなの宝の守りは、鳴子の太郎。」
 すすきっ原に白刃が舞う、すねをえぐり耳をそぐ、
「死なば死ね。」
 伊谷の十郎突っ走る、ゆら姫の太刀。
 鳴子はふっ切れ守りは抜けた。
 ふーわり跳んだ巨大なけもの、
「宝の守りは虎の次郎、千年生きて盲いになった。」
 くわえ込んだは、急所を外してもてあそぶ。
 雷鳴のように喉を鳴らす、すんでに逃れて伊谷の十郎、
「目ん玉の代わりになろうぞ。」
 首に跨り、ゆら姫の太刀を突っ刺す。千里を走って虎は倒れ。
 とっぷり暮れて、一つ屋敷に灯りが点る、宿を願えば、美しい女が案内する、飲んで食らって湯に浸り、床を取ったらこう聞こえ、
「宝の守りは屋敷の三郎。」
 古い書物が一冊あった、
「ゆめやうつつやたからぐら、ひとついのちをいくつながらえ、」
 二日を眠り十日を眠り。ゆら姫の太刀にももを突っ刺す、十郎ついに読み終えた、
「あやしのえにしむなしくおわる。」
 一つ屋敷が火を吹いた。
 あやうく逃れて旅の空。
 笛や太鼓に行列が行く、輿に乗る美しい花嫁、
「めでたいな。」
 伊谷の十郎。
「なにがめでたい。」
 若者が云う。
「くすのきさまの人身御供じゃ。」

2011年03月30日 08:39 せっちゃん ショートショート・金の太刀3
 ひよどり村の大くすは、あしたに二十の村を覆い、ゆうべに二十の村を覆う、七年ごとに花嫁をめとる。
「そんなものは伐り倒せ。」
 伊谷の十郎、
「祟りが恐ろしい。」
 と若者。
「木挽を十人。」
 そーしようと云って必死の若者。
 日も夜もなしに木は伐られ、
「よそ者がなんという。」
 石のつぶてが飛んで来た、四方八方うなりを上げ、
「宝の守りはつぶての四郎。」
 と聞こえ、十郎ゆら姫の太刀に払う、
「くすのきさまの花嫁じゃ」
 美しい娘が胸を押し広げ、つぶてはうなりを生じ、
「又の世に結ばれようぞ。」
 むくろを抱いて若者。
 さしもの大くすが倒れ伏す。
「くすのきにふねをこさえて、たからのたびはうみのうえ。」
 花嫁のむくろが口を聞く。
 大くすに舟をこさえて、伊谷の十郎ゆら姫の太刀、宝の旅は大海原の、島影消えて淋しいばかり。
 なんにしや、べったりないで五里霧中、
「宝の守りは霧の五郎。」
 同じところを堂々巡り、夢まぼろしやもののけの、七日七夜を帆柱腐れ、投げ入れたゆら姫の太刀、切っ先光って行く手を示す。
 霧の五郎のはらわたを抜け。
 とつぜん海は吼え狂い、雷稲妻、
「宝の守りは嵐の六郎。」
 かじは吹っ飛び帆柱は折れ、木の葉のようにもてあそばれて、海の藻屑と消ゆるには、七人乙女が舞い歌う、
「ちとせをへぬるくすのきは、ちたびのあらしにたえだえて」
 ゆら姫の太刀を抜きはなつ、雷撃って轟然、ひるがえり嵐の目ん玉を撃つ。どうと大波に押し出され。

2011年03月31日 09:07 せっちゃん ショートショート・金の太刀完
生臭い風が吹いて電光、波はうねり逆巻いて、
「宝の守りはおろちの七郎。」
 大蛇の七つの鎌首、こっちに向えばあっちが襲う、首がもぐれば尻尾が生える、伊谷の十郎死に物狂い。
 血潮がおもかげに、美しいやなさゆら姫。袖を振るにしたがい、おろちは海底に消え。
 物凄い臭いがして、いちめんに腐れ漂う、
「宝の守りは腐れの八郎。」
 おおぞろもぞろかき上る、生首や腐れ目ん玉、手足はらばた、うちすえひっぺがし、気も狂うかと十郎、引き抜いたゆら姫の太刀、鞘は衣に押し広がって、腐れのはてを清うに脱ける。
 塩を吹いて泡立つ海、
「宝の守りは日照りの九郎。」
 らんらんと光のレンズ、舟板は裂け帆柱は火を吹く。
 息も絶ゆると、
「お刀を日に。」
 ゆら姫の声。
 光になりくらめいて、冷たい雫にはうり落ちる。
 ひでりの海を抜けて、流転三界虹のかけ橋、浮世のはては、ねむいむーなの宝島。
 金銀珊瑚綾錦、紅玉碧玉しおみつの玉、かりょうびんがか歌う羽衣、へんげの壷にへらずのお椀、命の泉につくも石、浮き寝の梯子に天の速舟。
 数えたてたるこの世の宝。
 命の泉に太刀をひたせば、朝日ににおうと蘇る、美しいやなさゆら姫、ぬけがらは金ねの太刀に。
 伊谷の十郎さゆら姫、天の速舟に宝を積んで、その夕映えの大空に舞い上がる、姫の指差す天空は、
「鳴子の星に、めしいの虎に。」
「一つ屋敷につぶて星。」
 二人数える星の座。霧のカーテン、嵐の目、七つおろちのかま首、くされの星にひでりのレンズ。
「宝の守りは十郎おまえじゃ。」
 天の速舟が口を聞く。、
「ねむいむーなの宝を月へ。」
「よかろう。」
 伊谷の十郎、
「月のお里へ住む習い。」
 さゆら姫がうなずく。
 真っ白い松の長者が、
「その舟待てえ。」
 鬼になって追いかける。
 金ねの太刀は父母の家に。
 伊谷の里には、十五夜の夜、浮き寝の梯子が舞い降りて、月の国へも行かれるそうの。

2019年06月02日

ショートショート16

2011年03月28日 08:57 せっちゃん ショートショート・金の太刀
  金の太刀
 むかし山の本田の長者さま、勝手気侭の悪業三昧、人の難儀を見るに見かねて、
「外道め成敗致す。」
 伊谷の十郎そっ首刎ねて、行方知れず。
 噂も絶えてとある夜半、十郎父母の家屋根に、月は二つとなりくらめいて、金ねの太刀が抜き立った。太刀には文がつく、
「十郎は妻と二人行く、ご不幸お許し下され。」
 月の光に涙流せば、形見の太刀が物語る。
 山の本田をあとに伊谷の十郎、武者修行の旅から旅へ、しかもあるときこう聞いた、
「美しいやな松の長者のさゆら姫。」
 雲は歌う草木もなびくと、やって来たれば苔むす巌に、一振り太刀が突き刺さる。
「引き抜いた者にゆら姫をやる、松の長者。」
 と札が立つ。
「なんのこれしき。」
 柄を取っては伊谷の十郎、雷鳴って巌の太刀を引き抜いた。
「天晴れ三国一の花婿じゃ、わしがそっ首刎ねたは三十人。」
 松の長者が引き合わす、朝日ににおうと美しいやなさゆら姫。
 子のないだけがたった一つの、三年三月は夢のよう。
 秋夜は更けて、思いは遠く父母の里、不意にあやしの気配、抜く手も見せず切りつけた。伊谷の十郎巌の太刀。なんたること、朱けに染まって倒れ伏すのは、美しいやなさゆら姫、返す刀に我れと我が胸を。
「待った。」
 と云うて、真っ白い松の長者。

2011年03月29日 08:56 せっちゃん ショートショート・金の太刀2
「家に伝わることわざ、末摘む花は宝の接ぎ穂。」
 なき姫へのはなむけ、わしへの孝養、千載一隅宝蔵、七つの海のはてにある、ねむいむーなの島へ行け。
 伊谷の十郎ゆら姫の太刀、西へ向って十五日、ざんざあ風に風鈴が鳴る、「ねむいむーなの宝の守りは、鳴子の太郎。」
 すすきっ原に白刃が舞う、すねをえぐり耳をそぐ、
「死なば死ね。」
 伊谷の十郎突っ走る、ゆら姫の太刀。
 鳴子はふっ切れ守りは抜けた。
 ふーわり跳んだ巨大なけもの、
「宝の守りは虎の次郎、千年生きて盲いになった。」
 くわえ込んだは、急所を外してもてあそぶ。
 雷鳴のように喉を鳴らす、すんでに逃れて伊谷の十郎、
「目ん玉の代わりになろうぞ。」
 首に跨り、ゆら姫の太刀を突っ刺す。千里を走って虎は倒れ。
 とっぷり暮れて、一つ屋敷に灯りが点る、宿を願えば、美しい女が案内する、飲んで食らって湯に浸り、床を取ったらこう聞こえ、
「宝の守りは屋敷の三郎。」
 古い書物が一冊あった、
「ゆめやうつつやたからぐら、ひとついのちをいくつながらえ、」
 二日を眠り十日を眠り。ゆら姫の太刀にももを突っ刺す、十郎ついに読み終えた、
「あやしのえにしむなしくおわる。」
 一つ屋敷が火を吹いた。
 あやうく逃れて旅の空。
 笛や太鼓に行列が行く、輿に乗る美しい花嫁、
「めでたいな。」
 伊谷の十郎。
「なにがめでたい。」
 若者が云う。
「くすのきさまの人身御供じゃ。」

2011年03月30日 08:39 せっちゃん ショートショート・金の太刀3
 ひよどり村の大くすは、あしたに二十の村を覆い、ゆうべに二十の村を覆う、七年ごとに花嫁をめとる。
「そんなものは伐り倒せ。」
 伊谷の十郎、
「祟りが恐ろしい。」
 と若者。
「木挽を十人。」
 そーしようと云って必死の若者。
 日も夜もなしに木は伐られ、
「よそ者がなんという。」
 石のつぶてが飛んで来た、四方八方うなりを上げ、
「宝の守りはつぶての四郎。」
 と聞こえ、十郎ゆら姫の太刀に払う、
「くすのきさまの花嫁じゃ」
 美しい娘が胸を押し広げ、つぶてはうなりを生じ、
「又の世に結ばれようぞ。」
 むくろを抱いて若者。
 さしもの大くすが倒れ伏す。
「くすのきにふねをこさえて、たからのたびはうみのうえ。」
 花嫁のむくろが口を聞く。
 大くすに舟をこさえて、伊谷の十郎ゆら姫の太刀、宝の旅は大海原の、島影消えて淋しいばかり。
 なんにしや、べったりないで五里霧中、
「宝の守りは霧の五郎。」
 同じところを堂々巡り、夢まぼろしやもののけの、七日七夜を帆柱腐れ、投げ入れたゆら姫の太刀、切っ先光って行く手を示す。
 霧の五郎のはらわたを抜け。
 とつぜん海は吼え狂い、雷稲妻、
「宝の守りは嵐の六郎。」
 かじは吹っ飛び帆柱は折れ、木の葉のようにもてあそばれて、海の藻屑と消ゆるには、七人乙女が舞い歌う、
「ちとせをへぬるくすのきは、ちたびのあらしにたえだえて」
 ゆら姫の太刀を抜きはなつ、雷撃って轟然、ひるがえり嵐の目ん玉を撃つ。どうと大波に押し出され。

2011年03月31日 09:07 せっちゃん ショートショート・金の太刀完
生臭い風が吹いて電光、波はうねり逆巻いて、
「宝の守りはおろちの七郎。」
 大蛇の七つの鎌首、こっちに向えばあっちが襲う、首がもぐれば尻尾が生える、伊谷の十郎死に物狂い。
 血潮がおもかげに、美しいやなさゆら姫。袖を振るにしたがい、おろちは海底に消え。
 物凄い臭いがして、いちめんに腐れ漂う、
「宝の守りは腐れの八郎。」
 おおぞろもぞろかき上る、生首や腐れ目ん玉、手足はらばた、うちすえひっぺがし、気も狂うかと十郎、引き抜いたゆら姫の太刀、鞘は衣に押し広がって、腐れのはてを清うに脱ける。
 塩を吹いて泡立つ海、
「宝の守りは日照りの九郎。」
 らんらんと光のレンズ、舟板は裂け帆柱は火を吹く。
 息も絶ゆると、
「お刀を日に。」
 ゆら姫の声。
 光になりくらめいて、冷たい雫にはうり落ちる。
 ひでりの海を抜けて、流転三界虹のかけ橋、浮世のはては、ねむいむーなの宝島。
 金銀珊瑚綾錦、紅玉碧玉しおみつの玉、かりょうびんがか歌う羽衣、へんげの壷にへらずのお椀、命の泉につくも石、浮き寝の梯子に天の速舟。
 数えたてたるこの世の宝。
 命の泉に太刀をひたせば、朝日ににおうと蘇る、美しいやなさゆら姫、ぬけがらは金ねの太刀に。
 伊谷の十郎さゆら姫、天の速舟に宝を積んで、その夕映えの大空に舞い上がる、姫の指差す天空は、
「鳴子の星に、めしいの虎に。」
「一つ屋敷につぶて星。」
 二人数える星の座。霧のカーテン、嵐の目、七つおろちのかま首、くされの星にひでりのレンズ。
「宝の守りは十郎おまえじゃ。」
 天の速舟が口を聞く。、
「ねむいむーなの宝を月へ。」
「よかろう。」
 伊谷の十郎、
「月のお里へ住む習い。」
 さゆら姫がうなずく。
 真っ白い松の長者が、
「その舟待てえ。」
 鬼になって追いかける。
 金ねの太刀は父母の家に。
 伊谷の里には、十五夜の夜、浮き寝の梯子が舞い降りて、月の国へも行かれるそうの。


2011年04月01日 07:11 せっちゃん ショートショート・春
  父と子
うそが花をむしっている、あんまり食べないで。
啄ばむは浮世の花ぞうその鳥風や追ふらん雪降りしきり
雪の中にぽっかり開いた穴、なにかいるぞ。
見よや君しの降る雪の木の間よもなんのものかはたはぶれ遊ぶ
吹雪の日に飛び込んだのどあか、北海道へ行ったかな。
紅の春を迷はむこの鳥やオホーツクより吹き荒れけむに
まんさくが咲いたまんま凍って、日差しに溶けて。
まんさくの花にし咲くを知らでいて年のへ我れは物をこそ思へ
味噌汁に入っていたふきのとは、朝起きて取ったんだ。
ふきの葉のつゆにしのはないにしへの見果てぬ夢を金山の郷
今年は北海道へつれて行くぞ、うんニセコアンヌプリへ登る。

  世界一周
ぴいちく雀が、田んぼにはまって、たにしになって、鯉に食われて、うんちになって、ひーるになって、牛にとっついて、もっくらもっくらもっくらもっくら、でっこーなって、くじらになって海にざんぶり、ぼーっと潮吹いて、世界一周。

  さなぎ
葉っぱが落ちて、木は淋しそうだ、ぴーぷー風が吹いて、ふるえてる、それとも、裸になって恥ずかしいのかな=とうろり夢を見て
雪が降って、木は重たそうだ、風もないのに、ゆーらりはらり、それとも、白い着物が嬉しいのかな=春の風は金色の
鳥が飛んで来て、木は迷惑そうだ、あっちへ行き、こっちへ行き、それとも、遠くのことが知りたいのかな=こわい食べられる
雷が鳴って、木はたいへんだ、どうっと吹雪に、なりはためいて、それとも、大声上げて歌いたいのかな=羽はもう虹の色

2011年04月02日 09:01 せっちゃん ショートショート・詐欺
余命幾許もないもーじき死ぬっていう、両親も身寄りもない24歳、ピザが食べたい、アメリカへ留学しようとして果たさなかった夢をピザに託して、ナースにどえれえ怒られたことの、末期癌かな、けっこう淡々として真に迫る、元気になったらかさみんご連れてくお菓子もあるよ、明日はもうないって、明日はたとい死んだってある、雲や鳥も草も花も美しい絶唱、梅の咲く山はたのへに吹く風は今日はも吹かず暮れ入りにけり。歌つけて返事して、今日の午前二時逝くなったって弁護士からメール来た。遺産三千八百万の相続人になります、なんだあこりゃ、故人の遺言であり法律上有効です、そんなん貰う云われはないって云って、そのうち欲しくなった、祇園精舎の資金になる、まずはとーちょーさ遊び行って、ぺけ。お骨持って来い、戒名つけてお墓建てて供養する。弁護士先生受け取り強要する。ようやく詐欺だって気が付いた、カードとか口座番号とかな、うははおめでたい。
 かーちゃん説得して、てっちゃんも被災者受け入れよーって気になった、そんならその遺産も回して、ささやかながら一家族は受け入れられそーだとか、そいつうっかり云わずによかった、立派な詐欺になる、かーちゃん具合悪くってやっぱりだめだ、晋山式でてっちゃんも忙しいってさ。ちえ晋山式なんて坊主詐欺の代表が。
 わしみてーなぐうたらの回りは詐欺だらけ。世の中詐欺にひっかかるのはぐーたら我欲。
 歌を一千首作ってさいずれ古今の名歌、そいつを繰り返し書いて王義之良寛もそれまでって、うほほーこれは詐欺だ、詐欺はまず自分をたぶらかしてってわけな。
 だれかれみんな詐欺さ。政治家の演説も、学者のマイクロシーベルトも、屁のかすみてーなコマーシャルも、大真面目な日本助けよう外国もなーんかどっか、いやさわしは云う甲斐もなく。
 なんで詐欺なんだって、どっか荒っぽいのさ、草木も花も鳥も雲も隙がない、たいへんな目に会ったって、悪夢としか云いようがなく。
 地震も原発もなかったらって、日に三遍思っても、春の日差しがうららかに当たる、若しや放射能があるんか、たとい放射能も年寄りはふきのと食って死ぬ。
 わしの短冊一億円に負けてやるでよー、正真正銘のわっはっはひっかかるやついっかな。



729 2011年04月03日 08:38 せっちゃん ショートショート・おおたか
 うら寒い日だってのに、おおたかが四羽も飛んできた、お寺の上を旋回する、大小あるよーだし親子かな、天気のいい日に飛んでたり、尾根の枯れ枝に止まったりする、ずっと鳶かと思っていた、いやさのすりもさしばもはいたかもいる。それなりの食い物があるんかなって、さっき明慧上人に死んだ鯉すくっとけと云った、四つ五つあるんだけど、どでかい一尾けものに齧られて死んだのが、たいてい骨だけになっていたって。なーるほどこいつを食いに来ていたんだ。
 冬を越すと二三尾はけものに食われている、去年は鯉が増えすぎて、えさやらないでいて餓死したか、
「えさ買って来い。」
「だってえさやると増えてたいへん。」
 かーちゃんが云う。鯉子の群れが増える、腹へるとてめーん子食っていたのに、ぼけちまってえさしか食わん。飼い過ぎだ。鯨取るなのせいで、鯨の集団自殺みてーに野生のものは賢い、てめえで調整する、そやつがやたらに増えた、付き合い切れねえ。
 池のふち荒らして困る、墓石ぶっこんで護岸したが、うまくいかん。新造の蓮池は、たなご飼おうかと思ったら、からす貝を仕入れにゃならん、するうちざりがにが増えて、蓮の根を食い荒らす。
 ざりがに退治して、毎年手間代だ。
青鷺の蓮のうてなに寝ねやらひ去に行く雲がなんぞ恋ほしき
 青鷺が来て、冬中水の落ち口に突っ立っていたな、雪消えには同じ大きさの白鷺もいた。
 わしもさぎも、わっはっはからすも大好きなんけど、あいつら粗暴のできそくない、人間さまいるってこと忘れる、管理責任負わされてるんだぞくそ。鹿三つの漢字をそと読む、粗暴のそだな、安芸の宮島で囲まれてえれえめみた、ぶつぶつ。あおげらがかつかつやりゃがるし、晋山式だ開山堂だの壁の修復だの、ちえめんどくさ、ホームレスがいっちいーな、つまり連中と同じだ。
 本堂は人天蓋や幡蛾ぶら下がって、まーるで地震計だな。東北大地震のときはおそろしい揺れ方した、そのあと栄村にもあって、余震がいくたびあって、ゆーらりゆっさ。

2011年04月04日 08:08 せっちゃん しょーとしょーと・ぜふぃるす1

  ゼフィルス
つんとお鼻が空を向いて、ブルーネットは西風(ぜふぃるす)の、すてきな娘に恋をした、「ぼくはあなたの黄色いスカーフ。」
「あたしの心はブルーなの。」ぜふぃるすの髪はうねって、ジープに乗って走り去る、年は十七サラマンダー。
必死になって追いかけた、「どこへ行こうが蜃気楼。」「虹にかける七つの夢を。」サハラ砂漠は赤い砂。
スフィンクスが微笑んだ、一万年の死人の眠り、ラピスラズリの星の空、夜は優しい風の歌。
溜息一つトルネード、サハラの砂はさやめいた、四輪駆動は空回り、すてきな娘は急停車。
真っ赤な岩に押し上げて、嵐をさけて洞窟に、槍をくうらり野牛の涙、文字のような人間が。
「あたしの夢はどーなるの。」タンクの水もあと一杯、ぜふぃるすの髪は砂だらけ、疲れ呆けてまどろんだ。
嵐が去って音もなく、文字の壁が抜け出した、とつぜん槍がぶっちがい、たくましい若者。
「豊饒のサハラは、美しい西風の乙女を迎えるであろう、金色の果実と吼え猿と、コンドルの舞い上がる大オアシス。」
七つの黒いダイヤモンド、「大森林の七人兄弟、中の一人をえらぶがいい。」すてきな娘は選んだ。
涼しい夏の目をした弟、「右手の槍はおまえのもの。」「つぼみの花を一輪。」六人の兄は祝福して。
一の兄は大オアシスの歌を歌い、二の兄は椰子の実を二つ、三の兄はくちなしの弓、四の兄は蛇の皮を。
五の兄はひひの遠吠え、六の兄は火食い鳥の羽を、新婚夫婦に贈る、二人は森の泉に浸る。

2011年04月05日 09:11 せっちゃん ショートショート・ぜふぃるす完
日光は茂みの踊り、月光はさやめきの歌、嵐をさける住まいには、椰子の実は吸いあって二つのお椀。
くちなしの弓にえものを追い、蛇の皮に傷をいやし、ひひの遠吠えに危険を知る、火食い鳥の羽は門の飾り。
大兄の、大オアシスの歌は常に響き、ハイハイハルーオーレーナ、ホイホイホルーアーレーナ。
十月十日の月満ちて、愛する二人に新しいダイア、生まれてすんなり生い育ち、三つのころには槍を持つ。
次には美しい西風の花、オアシスの大空は底無しの天、ハイハイハルーオーレーナ、ホイホイホルーアーレーナ。
底無し井戸は真昼間、夫が耳をそばだてた、大兄の歌が聞こえない、火食い鳥の羽がさやめく。
夫は森を駆け回る、いったい何が起こったの、悪い病気が流行る、六人の兄は倒れ。
わしらだけ残った、コンドルの谷へ行って、槍をとって夫は云った、病気を治す青い花を。
取りに行くならわたしも、蛇の皮を持つ、子供を置いて、ハイハイハルー二人は走る。
底無しの沼をわたり、ライオンの原を過ぎ、人食いわにの河に、舟を浮かべ。
とつぜん渦巻き泡立つ、ごーっと呑みこまれて洞窟の中、まっくらやみを流れて行って。
漂いついた島の辺、大オアシスの巨大亀、二人を乗せてのっそり歩く、一日寝ては四日を登り。
急にまぶしい日の光、コンドルの谷間の雪の山、亀はのっそり苔を食み、青い花は満月に咲く。
今宵満月十五夜の、月の光にまっしろに咲く、明日の朝は碧玉の、たもとにいっぱい花をつめ。
身をつん裂いて夫が云った、死体をねらってコンドルが来る、足をつかんで舞い降りろ、おまえを置いてなんであたしが。
大オアシスの命を救え、蛇の皮も役立たず、死体の辺に、むらがり寄せるコンドルの。
足をつかんで駆け降りる、月の光の青い花は、六人の兄の命を救い、大オアシスは蘇る。
返らぬはたった一つの、忘れ形見を抱いて、悲嘆の涙を流す、泣くなぜふぃるすサハラの命。
声は空ろにこだまして、死ぬな恋人すてきな命、半分砂に埋もれて、ブルーネットは目をさます。
さがし当てたぞさあ水だ、インフルエンザが流行ってる。

2011年04月06日 08:08 せっちゃん ショートショート・春なが
 春が長いー春ながという言葉がある、いつまでたってもうら寒い新潟裏日本のさ、夕さりって夕方を云う、夕ざり来ればの万葉言葉だな、夕さり淋しい、やまどりしょうまをとりあしといって、伸び出したのを食う、ふきのと、とりあし、せり、のびろ、ぜんまい、わらび、しょうねんぼうなどの順に出る。とりあしが赤くはじかんだまんまの春なが、本堂前には雪の山、わっはっはじっくり来らーな。
 大磯生まれの藤沢育ち、裕次郎と同じ足の長いえっへん湘南ボーイにとってはどーにもこーにも。
梅の咲く山はたのへに吹く風は今日はも吹かず暮れ入りにけり
 春めいたって夕さりきまって風が吹く、うら寒い毎日のその風が止む、ほおっと春が来る。越年蝶のひおどしのおんぼろややきたてはが陽だまりに飛ぶ。しょうじょうばかまの次にはいちりんそう、かたくりやすみれさいしんが咲く、するとぎふちょうが出る、梅や桜に舞い飛ぶのはなんたって嬉しい春、こつばめしじみやみやませせりが飛ぶ、ようやくもんしろちょうの本格春だ、つまきちょうという可憐な蝶もいる。
柳生の中なる夕陽つれなくも信濃河の辺春なほ浅き
 春先はいとよが遡る、人差し指ほどのとげとげ魚で、わんさか遡って来て、釣るはしから七輪の炭火で焼く、さばにも似て美味しい。春の風情は十年前からぱったりになった。みんなでわんさか釣り過ぎってこともあった、釣り餓鬼はなんたって釣れるだけ釣ってしまう、なんでだろう。
 五十年間ほっぽっておくと、いわなもやまめもどっと増える、五年でもいーかな、放射能で人跡未踏になった、チェルノブイリや、三十八度線は、野鳥の楽園だってさ。
 ふわーい欠伸、年寄りにゃ電気毛布があって、クーラーがあって避難生活なんか真っ平だ、ぽっかり春の雲、花に浮かれの、あとはケロイド面にならずに大往生さな。
年寄ると我れは思はね春は花酔ひて寝ぬれば冷えわびもすれ
 三春の花は行けそうもなく、水戸の梅園も無理だ。
 これから日本はどーなるのかな。
いにしへの人に恋ふらむ椿花こしの小国は長岡につき

2011年04月14日 07:05 せっちゃん ショートショート・たたり
君見ずや絶学無為の閑道人、妄想を除かず真を求めず。
永嘉大師信心銘が三島耕月寺開単接心の提唱であった、和訳した講本が三十冊ほどもあって、実にすばらしいもので、仏心のありよう仏祖の姿そのものを表す、時期も熟していたものか、悟入するものいっぺんに四五人も出た。せっかく堂頭和尚のずいぶんの物入りも報われた。専門の典座和尚が入って、精進の粋を尽くし、わっはっはわしの提唱とさ、まさにこれ破天荒の出来事であった。
 接心終わって、しゅーしんが柄にもなくポーラ美術館を見ようという、耕月寺から30分も山を廻ってもとの耕月寺へ戻る、富士の裾野は広い。
「面目ねえ。」
 といって、ほんに面目ねえつらしてたな。
 夕は御殿場ビールで飲んで食って、
「しゅーしん歌え、となりのフィリピンねーちゃんどもにボトル寄進するで。」
 といったら、しゅーしん歌った。
「酔っ払って歌詞忘れた。」
 と云いながら、大向こうからジョッキ捧げてやってくる大受け、フィリピン夫婦のプロ歌手もいて盛り上がる、じっさ、
「わしすけべ。」
 と云ったら、
「あらあたしすけべ大好き。」
 わーきゃー握手。
 ほんにしゅーしんみてえ歌えるとえーな。天竜の山へ行ってわと大声上げたら、天狗がわと答えた、いやこだまじゃねえほんに魂消た、天狗伝説の寺だそーの、悟入してその声はありゃ本物だな。
 小林がすんでのところを、たった今しかない、崖から飛び降りろと云ったら見事抜けた。そいつを聞いてかめが、
「金正日マンセー。」
 だってさ、みなの顰蹙を買って、堂頭和尚に精神科へ通っているんですかと聞かれ、美緒ちゃんが大笑い。美緒ちゃんも一つ抜けた。もっほちゃんもさ。
 翌日高遠の桜見に行った、高速道路大月インターまでただという、大月インター通過して、岡谷で出ようとしたらチケットがない、らちあかん係り来て、三千円払って出るのに三十分かかった。まだ咲いてないという、ではスリランカ料理でお昼しよー、カーナビ入れたら、とんでもねー山中の廃道へ引っ張り込む、抜け出してから反対側へ走り、ぐわーだれの祟りだ。主は大阪の領事館へ行っていると云った、亡命政治家の店は、なかなか美味しかった。コニャックみたいな上等な酒もあった。その夜風邪を引き込んだ。だれの祟りだうーん。

2011年04月15日 08:53 せっちゃん ショートショート・まっくらけーのはい
 三つになるもっほちゃんの甥たかちゃんは、機関車トーマスに首ったけ、わしはトップハムハット郷なる人物に擬せられて、一杯飲んでたらケータイを押し付けられた。
「トップハムハット郷です、いい子ですね、わしは今ご馳走を食べています、大人ですからお酒も飲みます、たかちゃんも云うこと聞いておいたして、おいしいものを食べて、元気でね。」
 なにしろ出任せ云ったら、興奮して半日ぼやーっとしていたとさ、ほんに悪いおばさんだ、だって可愛いんだもんて、わっはっは本気に喧嘩する、大地震のあとまたケータイさせられ、
「みんな今はたいへんです、大人は淋しいんです、いい子で歌って踊って、元気な笑顔を見せて上げて下さい。」
 とかなんとか。
 叔父さんが末期癌だそーで、みんなで見舞いに行った、たかちゃんは奮闘、叔父さんは大喜び、くたっと寝入って、いい塩梅だと思ったら、目を覚ましたらもう活躍、ついて行けないってさ、子供の大エネルギー。
「だめだよわしトップハムハット郷下りる。」
「うんイギリスに帰ったと云っとく。」
 美緒ちゃんが加担して、
「もっほちゃんのお友達の美緒です、トップハムハット郷と知り合いです、云々。」
 なんたってこいつら、三つの子を玩具にする。
 たかちゃんの歌と踊りだよ、わーきゃー喜んでいる、
「ヘルメットを被って行進、はい。ビルを建ててみんなで住んで、はい。なんにもないったらまっくらけだよはい。」
 もっほちゃんの診察室のベットに乗って、手振りよく踊って歌う。
 四月になって幼稚園に行く。
 三島接心から帰ったら、新潟はようやく梅の満開、紅梅も白梅も同じに咲いて散る、モンシロチョウが飛んでいた。
 大掃除だ、冬のあとかたずけがたいへん、風邪を引き込んでくっしゃん、ストライキ中のかーちゃんを立川病院まで送って行った。
「やだわ、風邪うつさないで。」
「ふんなら乗るなっての。」
 きしょーめ一日で治すはずが。
 ぎふちょうが飛んで来た。

2011年04月16日 08:22 せっちゃん ショートショート・雪消え
 冬囲いを外している、むかしよりはずっと簡単になった、雪降らぬ年が続いて、徒らに囲いしては外していたが、今年は一メートル六0も積もってすんでに危なかった。よく囲わないと故障が起きる、雪下ろししてガラス戸一枚割ったな、いつだったか間に合わずに、軒をへし折ったことがあった、はい五十万円。
 本堂前の、なでついた雪の山はあと十日も溶けぬ、かつては連休明けにやっと消えた。築山にはまっしろにさつきの咲く、老師を招いて接心であった、掃除し終えて、一日早く老師が来た。
「このごろは見るもの聞くものたとえようもなく清らかにー」
 みなまで云わせず、老師は、
「それはまだ、清らかに見ようとする心が残っている。」
 と云った、我れ未だ出家せず、ようやくに気がついて、その年のろう八にぶち抜いた。
 今年はせがれの晋山式だ、代譲りがやって来た。接心がいつまで出来るのか、それはわからんな、真面目だけが取りえのせがれだ。
 わしが癇癪起こさなければ、続くだろうがさ。
一箇だに打ち出しえむは大杉の涙すなるは出家せぬ尼
 滝谷の慈光寺は、杉の森にすっぽりと、むかし師家の道場といって、新潟県に四つあった僧堂の一つだ、村松市が寄進して近年僧堂を新築した。師家-指導者がなければまったくのナンセンス。
 テレビをつけたら住職が、
「坐れば仏さまだ。」
 など云って、取材の人間をを坐らせていた。
 涙も枯れるありさま。
 坊主飯食うための私物化。
いにしへは大修行底雲洞庵荘厳せむは新芽吹かへる
禅堂の畳は腐れいたずらに客のよるさへ新芽吹かえる
 上田の雲洞庵も師家の道場のうち、新緑のたとえとうもなく美しい、観光客しか来ない。
 みやべは大枚はたいて開単して、三島接心が始まった、年二回はしたいという、なにしろせっかちだ、いいからじっくりかまえてさと云って、信心銘の提唱にいっぺんに四、五人悟入するものが出た。
 そりゃもー大成功。
 さあ一箇半箇こさえてさあの世へ行こう。

2011年04月17日 08:54 せっちゃん ショートショート・歌だよ
 わしの歌はだーれもさ見向きもしない、うっさい古今の名歌だといったら、ふんでは解説しろってさ、聞いてやるから、ふんばーたろうめが。
君に別れ越しの野末も春なれや雪はしましく降りさふあらむ
 年上の弟子であった滝川さんの葬式から帰って来たときの歌。わかれてきたというのと、こしみちのこしをかける、しましくはしばらく、東京はもう花も咲くというのに雪が降る、世話になりっぱなしの、ろくなこともできなかったやるせなさ。
送りては帰らひ来つるこの夜半の月はしましく雪を押し照る
 雪が止んで月が出た。

行く秋をここに迎えむサロマ湖や寄せあふ波はオホーツクの海
 九月になったらボートも釣具屋もなくラーメンもなくのシーズンオフ、遠浅の湖はべったり凪いで、その向こうにオホーツクの荒波が。
岬には花を問はむにオホーツクの波風高し行くには行かじ
 原生花園というのがあって自転車を借りて行く、風が強くってやめた。

静内に月を仰ひで過ぎ行けば残んの夏を博労が夢
 競馬馬で有名な静内町に月が出て、過ぎ行けば夏の夢が、ばくろうは馬喰としたほうがいいか。
秋の陽を寄せあひすらむ島影や襟裳岬を過ぎがてにせむ
 秋の夕日を幾つ島影と、過ぎがては過ぎ難いという。

未だ見ぬ妻に恋ほつつ新芽吹く尾瀬の田代の風の清やけさ
 日ごろのぐーたらのせいで暑苦しく登って行くと、青葉が新緑に変わる、涼しい風が吹いて、芽吹き山の尾瀬。妻に恋つつあらむというのと、新芽吹くをかける、青春の尾瀬の花旅。
うつせみの身を伏しまろびあららぎの万代かけて思ほゆるかも
 万年雪の辺に身を投げ出す、あららぎの木の葉がふっさりつもり。

神からか神さひおはせしのひ降る雪の田代に人は踏み入れ
百伝ふいはれはあれどしのひ降る雪の辺べの花にしあらむ
 みずばしょうとみやまきんぽうげと雪の。

2011年04月18日 08:19 せっちゃん ショートショート・むささび
これは以前作った童謡だ。
ばっさり飛んで松の枝、あれなんじゃいな月の夜、ぎゃーっと泣いて人殺し、そうではなくって運動会。
そうではなくってむささびだ、ワープといったらふわーっと消えて、あれなんじゃいな二つになった、おっかけっこは松の庭。
とっとことっとこ、あれなんじゃいな、坊さん坐禅、ぱーんと一発。
しーんといっとき、坊さん坐禅、あれなんじゃな、とっとことっとこ。
ばっさり飛んで松の軒、あれなんじゃいな雪の夜、ぎゃーっと泣いて山の寺、つらら溶けて春が来た。
つらら溶けてぽっぽうが鳴く、むささびよりもでっかいふくろう、半年続いた冬は過ぎ、ばっさり墜落松の雪。
 これって対称ーパノラマになってるんだっけ。
 むささびがいなくなった、落っこちてきた子供を飼って、むーちゃんと名つけて、可愛がったりしたのにさ、どーやら一匹もいない、火事になるかと思ったが、銅版に屋根を葺き替えて、出入り口がふさがったんだな。
 むささびの替りにはくびしんが来た、朝のお経に出た、まだ子供らしい、どうしようかって、はくびしんの為糞で天井が抜ける、業者呼んで退治するはずが、本尊さまの位牌が落ちて、次の日は開山堂にかきのぼって、何十本の位牌がなで落ちて、わっはっは魂消て退散した。
 五郎兵衛どんんがきて、うちはこんなに古くないといって過去帳を返す、そんなことないこれでいーんだと持って行かせる。わしの代にじっさばっさが死に、ついでわしらと同じ年の夫婦が死に、すこうし足んねえ厄介者のおじさんが死にして、せがれ一人残った。娘二人は嫁に行ったが、せがれは五十を過ぎて独り者。お布施は貰うたってなーんかもうじっくり来る。
 むささびもはくびしんもさ、まだ残っているきつつきもふくろうも、代譲りしてもお寺は変らんな、幻住わしは三十六世。
 今は位牌棚の整理をしている、ずらり並べて接心にはいっとき寄せてもって。

2011年04月19日 08:23 せっちゃん ショートショート・歌の教室
 いっひっひ歌の教室。
いにしへは飯を盛るとふ朴柏おほにし咲けば人恋しかも
 朴は初夏白い大輪の花を咲かせる、葉っぱも大きいからあんまり目立たない、田んぼが終えて人っけない山の、なんとなく切ないような。お盆になると朴の葉にのせてお墓に供える、むかしは飯を盛る。大法の花に咲くと人恋しいか。
朴柏おほにし咲けばいにしへもつばくろ問へり四天王門

真葛生ふる山の間にして春蝉の長啼きつつに日はも過ぎぬれ
 美しい青い透明なハルゼミがいて、しゃくやくの咲くころみーんみーんと眠ったげに鳴いたのに、地球温暖化でいなくなった、悲しい。
春蝉の長啼きつつに山を越え風の便りもうらみ葛の葉
 男の暮らしはうらみつらみだってさ、裏を見せるうらみ葛の葉。

あしひきの雪ふり袖の如くして出雲の阿国はいつ問ひ越せね
 柏崎鵜川の綾子舞は室町風芸能をそっくり残す、一説には佐渡の金山に流れた出雲の阿国が、佐渡も追われてこの地に行き倒れになった、それを助けおこされて舞を伝えたという。あしひきの山にかかる、足をひきずって雪の中、雪降りと振袖とかけてさ、出雲の阿国といやあエロティックの別嬪様。
木沢なる山沢ならむしるべして女沢とふ雪ふり袖の
 鵜川辺りの地名を並べただけの歌。

柏崎夕波荒れてみずとりのかよりかくより雪降るはいつ
 海にみずとりが五六羽浮かんでかよりかくより。
 
年のうちに降りにし雪の消え残り松の梢に白雲わたる
 こう作ったら万葉にそっくり同じのがあった。
 感動した歌をそっくり真似るといーでよ、はい。

2011年04月20日 08:57 せっちゃん ショートショート・あとつぎ
 歌の跡取りおらんかなー、これは文芸復興なんよ。
加茂川の月に宿借るあしかびのしじにも雪は降りしかむとす
 加茂市という桐箪笥で名を売ったところがあって、加茂川は信濃川に注ぐ、十二月釣りに行ってでっかいのいるのにさっぱり釣れん、ぽっかりと月が出た、月にあしがなびく、しじにもー静かに雪は降ろうとする。加茂は京都の地名を真似る、わしの歌も京都の加茂川にしてっと。
 冬だってえのに四条大橋の下に青テントしてホームレスがいたな、なにスニーカーが七足もあるぞ。
芦辺には月さし出でて何故か河を越ゆらむ雪は降りつつ
 これは信濃河。

吾妹子は何を悲しみ小諸なる町を廻らひ山方に行く
 何を悲しみ小諸という響きが手柄、小諸は古い町で外人どもがたむろする。
赤げらのつがひに会うて日は暮れて幾人宿る高峰の里
 日本一標高の高いところにある温泉宿。

吹き溜まりバーとは云はむ底無しやロートレックの風にしも聞け
 青森じゃ有名なバーだってんで入ったら、バッハ弾きのCDを聞かされた、なんてえ迫力のねえバッハだ、げそ。
じょんがらのいつかな我れは物語津軽恋しや吹雪に暮れて
 雪国は雪に行くもんさなぞっこん。

白神の十二の玉と聞こえしは津軽乙女が命を碧き
 十二湖という三百年前の噴火で川をせきとめて出来た湖、風光明媚ったら三十ぐらいはあるらしい、青い池があった、いとうを飼う池もあった。
吾妹子や青き水底に住まへりし伝へはぶなの空洞にも聞け

人はいさ何をうそぶき求め草本間屋敷のしをりの花も
 本間さまには及びもないが、せめてなりたや殿さみにと歌われた本間邸、大正天皇の御幸に建てたという別邸に花の栞があって、なぜか買って来た。人はいさ、人はともかくっていう意。
万ず人いずはたよりは押し寄せて流転三界塩の花咲く
 塩の花に歓声を上げると、あんなもん見たかねーやと地元の人。

2011年04月21日 08:48 せっちゃん ショートショート・花見温泉
 花が咲いたと思ったらとつぜん冷える、花冷えなんてもんじゃない、大被害の東北は雪が降る、災害の年はたいていろくなことはねーんな。日本は奮闘努力の甲斐あって立ち直っても、坊主は立ち直らん、根腐れもとろけておしまい、メルトダウンしたってだれも見向きもしないさ、てっちゃんお寺継いでもわっはっは食って行けねーや。
 角栄の常宿温海温泉は、新潟県人で流行ってたが、こっちもどうやら左前でつぶれ宿が出たり、温海温泉万国屋へ、最後に行ったのは花の盛りだった。お寺から出てずうっと花のトンネル、自衛隊の新発田連隊のあたりいい花で、まあさ、世の中平和だと思ったのにさ、今年は高田連隊もフル回転で東北へ行く。原爆パニックで夜逃げした兵隊もいたって、うーんなんともなあ、命惜しくねーのはいねーさな、わしみてロートルが代りに行けばいーんかな。花街道を行き温海温泉が花祭りで、かーちゃんと二人一泊しか取れなかった。やまざくらもピンクの花つけて美しい、もう一泊はとなりの湯田川温泉に行く。
花の咲く春は千歳を若返りあつみ川なむ海へさし入れ
 冬は海から吹雪が吹き上げる、
もののふや汝が黄金の酒を酌みもがり吹けるはたが物言いぞ
 酒田は商人の町、鶴岡は武士の町、湯田川温泉九兵衛旅館は、藤沢周平が、けちくてずるいさむらい小説を執筆したところだ、本だのお飾りだの並んでいたな。
もののふが足駄掛けして湯田川の花の山路の行方知らずも
あしびきの山の花にも咲くやらん月に浮かれてさ寝も寝やらず
 湯田川は延喜式の大むかしからあるそーで、もとはこっちが街道筋だった、泉質がよく、すっかりかーちゃんのお気に召す。
 でっかいホテルは薄めたりするからよくないとさ、わしは烏の行水でわかんねーな。
 花が終わると名物のたけのこ料理、女将一人でたけのこ七品料理作って食わせて、へーえてーしたもんだ、小さいのを蒸し焼きしたのうまかった、わしはなんたってとん肉と煮たのが大好物で、がぶがぶ際限もなしって品のなさ。
 どーやら今年は花を見損なうかな。
 こーなったら東北お見舞い、いやさ飲み食い、弘前城公園の花見に行くか、冥土の土産。角館武家屋敷の花もよかったんだがな。
 嫁ぎ行く小いさ刀をしずやしずむかしを今になすよしもがな

2011年04月22日 08:37 せっちゃん ショートショート・ふだらく
ふだらく渡海というのはとにかく舟に乗って海に出る、でもってあとは夕陽に向って西方浄土。まあさ間違った宗教はかくの如しの端的な証左。千日廻峰行もたいてい同じだーな、たいへん難しく途中下車したら大恥かきの、仮死状態にまで行く修行もある、成功のあかつきは皇居に草鞋掛けだとさ、どこがましなんかな、ちっともいーとこない直きに元の木阿弥、恐ろしいこった無駄骨折り。世間が認めて大あじゃりのお上人さま、めでたく飯は食って行ける。そんならわしよりよっぽどましか。
 うぐいすが鳴く、入れ歯いーの入れたでまた鳴く真似して、せっかく鶯を困らせる、なんせ雌がかかってるで必死だ、途中で引き下がっておく。いろんな鳥をぴーすか、けっこう手間かかるんかな、弟子どもにうぐいすのように蛙のようにという、おいそれとはできない、ぶち抜いて忘れ呆けて始めて鳴ける、でないとお経にならなんのさ。
 鳥は正直で、御託並べないやつを仲間とする、単純に鳴く。かえりみない比較しない、円やかに200%、うふふ無字の公案だな。いったんできるともうそれっきり。信仰でもふだらく渡海なくアーメン神様もなく、まるっきりのロハ、人間が地球のお仲間入りしたってだけのこと。
 そーしたら戦争も厄介ごともなくなるよ、転ばぬ先の杖もいらん、芸術も音楽もいらんって、わしは絵も音楽も書も大好きだ、空の雲も死ぬほど好きだけどさ、おねーちゃんもいーけど、面倒だしおっかねーしな。
 男どもろくなんいねーな。マルバツ式優等生ってまるっきり能足りん、知恵遅れと話してるような、たち悪いだけが取りえの、ほんにさああきれ返って物も云えん。なにかやるったら思想の酒に酔っ払うだけ。
 こんなのと暮らして行くってなあ世も末だな、おねーちゃんがセックスしかねーのもうなずける。
 大地震も原発もカンフルにはならんか、ぎゃーすか知ったかぶり振り回すきりの民主主義。恥を知れってな。
いにしへは飯を盛るとふ朴柏おほにし咲けば人恋ほしかも
 せっかく人間だーい好きなんに、孤独で暮らさにゃなんねーとさ、あっはっは孤危孤俊おおむかしっからの

2011年04月23日 08:52 せっちゃん ショートショート・なんの為に
 何を云ったろうが聞く耳持たずで、てめえの思い込みを主張する、むかしはこれを狂いの始まりと云った、人が反対するたんび新理由を発明して、いよいよ犀利になる、回転が次第に短くなって行って、ついに焼ききれる、発狂だな、するとトランキライザーと檻のほかなく、親も見捨てて狂い病院、まあさ出たり入ったり。ところが今はそうでもないらしい、ごくふつうの男が思い込み一点張り、だれが何云ったってだな、これ退化現象だ、振られたろうがしっぺ返し食らおうが、だっても原発はってやる。おれは正しいんだ、おまえらはあほだ。
 これじゃおねーちゃんどもも、結婚難だな、どーしよ-もない粘土細工さな。
 長い間のこれは欠陥教育かな、歌はうったえるから歌、うったえるとは歌を捧げた相手に、生殺与奪の権を委ねる、身も心も挙げてという。万葉から西行実朝と来て、そのあと歌が生彩をはなったのは、明治維新の志士たちだ、お国のため万民のために命を捨てる、ようやく歌になる。歌とはそういうものだ。日本語とはさ。恥を知るというのはここから来るのだ。
 膨大な俳句歳時記の中にふっとささやく声がする、
よく見れば薺花咲く垣根かな
 きまって芭蕉だ、あとのものはうんともすんとも云わぬ、聞こえぬ言葉なんてありえない、膨大なごみ捨てだ。俳句作りも歌詠みも、人のものなんて読まない、てめえだけ、てめえさえ見てくれりゃいいっていう、自閉症だな。禅をしない禅宗坊主のように、まったくのナンセンス。猫も杓子も五七五だの七七だの、定型になってりゃあとは野となれ山となれ。
 日本の心である歌や俳句が、禅がメルトダウンした。
 なんとかしなけりゃ男なんて成り立たない、せっかく未曾有の大地震も、原発もカンフルにならない。
 なんのための大地震だ、おれの為にだ、地質学上どうのこうののこっちゃない、おれが悪かった、おれをなんとかせにゃ=そのほかに結論はないのだ。
 でなきゃあただのナンセンス、日本人は終わる。

2011年04月24日 08:24 せっちゃん ショートショート・こんぐらがり
 臨済はまた別に入ったんだな、下らぬことにくわしい明慧上人が酔っ払って演説する、大応の師なんか、道元禅師より四十年遅れて入宋沙門となって、なんとかってえのからほんとうに継ぐ、聞くほうも酔っ払って固有名詞すっぽ抜け、いえ臨在も、道元禅師あることを中国人に示されて、痛恨思い知らされる。
 へーえわしは御開山からすべて伝わったと思っていた。
 大応大灯一休と間違いないやつが出てるが、ほかはどーなんだ、なにがし和尚、大徳寺の存続にかかわって言上したら、夢想国師に師匠替えしろと云われて、かんらと笑って坊主は師匠を替えられんと、首さし出して斬られちまったという、わっはあそりゃほんものだ。
 娑婆人間が仏の首斬るとは、インドにもあったなそういう話。大震災よりも罰当たりがさ。
 大灯十八年間乞食して、うっかり瓜に釣られた話は有名だが、弟子に書いたという、
「梅渓。」
 の書はすばらしい、定めし達者な人かなと思っていたら、北方博物館に展示があって、大灯の、真面目一点張り小学生みたいな書があった、ふいに涙滂沱。死ぬときにけっかふざしようとて、骨がむき出しになったという、うん。
 たといすったもんだも、正法眼蔵を見ればわが里ここにありと知る、これさえあれば、あるいは五人十人の大徳であろうが、わしはもはや十二分だ、死ぬまでは生きて行こう。
 寝ていたらめったら仏になっちまって、小便には行くえらいめにあって、今日は部屋掃除一つしたきり。接心までには墓掃除終やしてっと、てっちゃんども働け。
 ぽつりぽつり雨降って、あったかくはねーんだけれども芽吹き時、たらのめのてんぷらがあさってには食えるか、大山桜がほんのりと赤くなった。ぎせんどの寄進の証道歌も来た、支店長寄進の予定になる日課経典も来た。ついで太田医者がワイン送ってきた、わしの買うのとちがって上物だぞこりゃうひひ。もっほちゃんに頼んだ筆が来て、ふんでもってゼニはどーなる、かーちゃん立替分と、明慧上人の払うのとわしの払ったのと書留で送るのと、こんぐらかったなんとかしてくれ。
 数学のでもしか教師やってたんけどもー

2011年04月25日 08:30 せっちゃん ショートショート・たらのめ
 晴れたり曇ったりうら寒い風が吹く、たらのめ取れそうだ、やまおがらも取れるてんぷらだ、とうがたったふきのとはだめか、年寄ると食い意地張って、楓の新芽だってうまそうで、一杯やってさあって涎。
生ひ伸びるくさぐさにして食げましや我が山門を春はたけなは
 連休はたいてい田植えだな、ずくなしという谷うつぎのピンクの花が咲いて、田植え冷えという、ぞっと冷えてむかし百姓は三時起きして、火焚き燃やして植えた、二日半で倒れこんで畳み抱えて半日寝ている、またおっぱじめる、産後の肥立ちが悪くて、嫁ふん伸びた、戸板に乗せてお里へ持ってく、お里でもいらんで送り返す、嫁も婿も代りはいくらもいた、こんなにして九二まで生きたばっさいたな、いい世の中になった、夢のようだと旅して歩いてたが、百姓天下も今んごろは底冷えだーな、この先どーなるかって、いつだってお先真っ暗が、なんせ大震災に原発だ、どーもこーも-ならんな。
いついつか我れも越し人ずくなしの花咲くころを思ひがてする
 花に活けても水吸わぬから、ずくがないずくなしなんだとさ、わしは大好きだ、越後代表の花だと思う。分水河口の水かさが増す、連休にようやく雪代が消える、東京都一日分の水を十五分で流し出すという、見物がよったくって見ている、ほんに豪勢だ。
 わしたかの類がいっぱいいる、図鑑借りて来たがどーもさっぱりわからん、おおたか、のすり、はいたか、中飛にえーとうわどれもこれも写真じゃ同じ、ふわふわと飛ぶのすりぐらいの、あれはなんだ。
 お寺のおおたかは、死んだ鯉並べないとうんともすんとも云わん。
 今朝はふくろうが鳴いた、雪消えにもは鳴き、田んぼを植えるころも鳴く、おっほんほっほてなふーにさ、のろ月おほんー宮沢賢治の詩にあるな、みみずを引き裂くふくろうなるぞってさ。
 でもまあご立派、お寺のはまた大きく、見えぬくせにぱっきり見開いた目、がきが落っこちてきて保護したら、まあその大威張りなこと、不細工な足つっぱって、かんと鳴く。
しましくは雨に降りあふ茂みへの蛙鳴く音とあり通ひつつ

2011年04月26日 08:14 せっちゃん ショートショート・印可
(今日の事である。家の廊下を歩いていた時、江戸から帰省してきた末妹の3歳になる甥「タカアキ」さんが私を見つけて近づいてきた。
「もっちゃん(彼は私のことをこう呼ぶ)、足、寒いでしょ~?」
 そう言っておもむろにしゃがみ込み、私の裸足の足のそれぞれに小さな紅葉のような手を乗せて来た。
「寒くないよ~ 。」
 と言うのだが、タカアキさんは黙って手を乗せている。少ししてからぱっと立ち上がり
「はい♪これでいいですでね。これで寒くないですでね」
 とニッコリ笑って去って行った。
 ちょっとウルっときた。)
 これはもっほちゃんの日記から、魂消たな、このちびっこわしの法を持って行った、こりゃはじめての印可底だな。三つの子がどこまで使い切るかというのは、そりゃまた別問題だ。印可のないわしは、印可したものから証明を受ける、わしはたかちゃんの印可底だ。坊主組合へ行ってうんざり帰って来て、どだい口も聞きゃせんだが、仏教の敵っていうよりなんだあこいつらはとこっちが食み出す。かと思えば、おむつ取り替えて貰いながら文句百万だらの若いの、説得不可能がわんさか。淋しいってこったな、はらばた裏返しになる、こんなこっちゃいかんと寝返りをうち、この話を思い出した。
 はいよーわしもあいつだめこいつだめなんて云わない、ものみな夜空の星、口をもぐもぐだけが取り得のよって道還。
 まあさわっはっは忘れ呆け、
 たかちゃんも若しやまた復活するか、うーんわかんねーさな。

2011年04月27日 08:53 せっちゃん ショートショート・からす
 どうやら雪も消えたな、庭掃除ちいっとしたら雨が当たる、さっそく時化込んでテレビを見たら、メキシコの革命映画かな、銀行強盗が英雄にるついには将軍というはちゃめちゃ、いや大真面目の虐殺シーンオンパレード戦争ありゲリラありって、なんせ字幕出るでつんぼのわしにも聞こえる、わっはっは裏切り裏切られ、ダイナマイトしか信じられなくなった野郎が壮絶な死。一神教のなれのはてかうっふふ。人間てのは鳥と違ってささいな幸福さえ命がけって命題らしーな、しかも幸福はダイナマイトに吹っ飛んで、はじめてなにかしらってえ。
計算しつくされたお粗末。
 幸福は三つのころまでに200%ってさ、あとは悲惨無惨のいったいなんだったんだって、振り返ることも不可。たらいからたらいへ移るちんぷんかん。坐るっきりないのさ。すべてを捨てて。
 間違いだらけにお茶を濁す、悟った悟らぬ、だからどーの強いてひけらかしたって、若しくは自分がすなわち自分以外が知っている。
 良寛さんも死んでさへ誤解の渦。
 わずかに知るとは、わっはっはメキシコ革命のくそみそよりも大苦労かな。
 耐え難きを耐えしのびがたきをしのび、千年に一度の大地震。
 日本国民だって知らん顔の半兵衛、わしは問題外さ。
 烏のやつまた来た、小屋の裏にたぬきが死んでいた、雪消えに現れたときは、歯茎むきだしの蝿たかりしてもーどーにもならん、
 おおたかのえさにと思ったが、持ち運びもならん、頼り甲斐は烏だけかな。
 いちりんそうが咲いて今日は。うぐいすがへたくそに鳴き、へたくそにわしも鳴き。
 舌噛み切ってもてめえ幸福なんか求めるかって、わしがいちばん幸福かな。
 なんでさなよーもわからん。さて黄昏坐。

2011年04月28日 08:35 せっちゃん ショートショート・朱の衣
 かーちゃんが朱の衣を畳んでいる、なんという美しい色なんだろう、驚嘆に値する、何百回と着てたった今気がついたかな。
「朱ってなんで染めるんだ。」
 かーちゃんは返事しない、きちんと畳んでから墨染めにかかる、これも実に美しい。衣を畳むのはらごら坊主の得意技だ、唯一真剣になる、というのも衣は高価だし、お袈裟になると何百万するのがある。嘘八百猿芝居の法要とうっふー女と車と。かーちゃんは尼さんに教えられて畳む、次第わしは忘れて袖畳という略式もだらしなく。
 朱を墨染めに染め直すと、いーんだってさ。
 朱の衣は一等教師という、ようやくこの寺を継ぐべく、その上は袖にひらひらのついた正教師、それから黄色い衣の権大教師、宗門が位の数は一番少ないんかな、神主は十何段階もある。
 老師が赤紫衣権大教正という、禅師さまに次ぐ位になって、ゼニ取られるだけ物入りでさと、まあさ押し付けられてまんざらでもなかったんかな。たしかわしが年一万円で、黄色いのになると百万円宗門に払う。
 衣の色はお布施を稼ぐんだってさ。
 朱は塩化第二水銀だったったか、食わせ物の弘法大師がお寺を開くところ朱ありと云われて、そりゃもう宝だった、金銀珊瑚と並び称される。水銀は金属であって水のような、不可思議千万、命のみなもとと云われて、きょうほ皇帝など、おむつをした皇帝は、水銀を飲まされて夭逝したってわけだ。
 原発のメルトダウンとどっか似るかな、神さまアーメンに中国共産党に、現実に近道をつけると、オールマイティってたいていろくなことにゃならん。
 烏が鷲みたいにふわーり飛んできた、たぬきの腐れむくろまだ食っている。そりゃありがたいこった掃除屋の鳥葬。
 坊主と同じ墨染めがお似合い、良寛さんのおんぼろ昆布みたいな衣の。一休さんの真珠庵は墨染めが跡継ぎ。軒をてらうもそりゃ坊主のわざか。
 わしゃ遊び呆けてなんにもならん、かーちゃんにそっぽ向かれ、寺追ん出されて、理想の生活湘南ホームレス。
 なんかいーことねえか、きしょーめ。

2011年04月29日 08:37 せっちゃん ショートショート・ぜんまい
へーんに曇って時に寒さ雨が降って、ほんにさ大地震でもやって来そーな、なんとも意気上がらん風情、もーじき接心で人が来るで、そーしたらなんとかなるって、うっふーなにがなんともならん毎日。東北の旅に出て温泉だ大盤振る舞い、孫大先生の孫だ、いやさおばさんの親父の赤の他人だってんで景気よくやらかして来るか。こんなんじゃ東北は冷害の夏、角館の武家屋敷の花見て、弘前城の百年もののそめいよしの見て、風評被害もあって観光客はばったりだべな。なみどくがっていうのいてへんごな年にゃ流行る。踏んだり蹴ったりの。
 原発騒ぎおさまって、世の中落ち着いたら台湾へ行こう、まだ行ったことないし、食い物えれーうまいっていうし、すげー寄付してくれたんだそーだ、お礼奉公だ。なんでわしは飲んで食うことしか考えねーんだろ、当たり前だほかのことなんもできねーのさ。
 ぼかっと被さった日本沈没払拭する方法ねーか、おまえ死ねばいーってさ、死ぬほかには、晴れた空を見るさ、雲の泳ぐたってあんなに美しいもなねーな、世界宇宙脱落して、日本沈没も花びら一枚。
 酔いどれじっさ人生の楽しみを知る、印可底のたかちゃんと同じだな、おねーちゃんもだれも見向きもしねーんが違ってるか、うぐいすもからすも花びらも、今いっち張り切ってるのは楓の若葉か、みずみずしいってあいつのこと、うっふー昨日までは立派な新芽だったが。
 ぜんまいとりにわらび取りに、むかしはお斉をこさえるために毎日歩いていたな。ぜんまいは茹でて筵に干す、干してから毎日揉む、それ知らんで針金のよーにつっぱらかして、笑われたっけな。けっこう大仕事で、わらびはぜんまいの代用だ、さきっぽが三つ指してる他は、味もまったく同じ。
 墓掃除もしない、庭掃除しては休み、しんどいといってさぼる、なーんもしない眺め歩くだけか。来春まで生きていられるかって、因業だで生きていそーだ。
 黒岩んとこの新築本堂のふすま書かくんだった、もっほちゃんから筆取り寄せて貰って、使い方も教えても習って、とにかく筆慣らし。でっかい字書いたことねーや、なんとかいうダウン症の女の子に頼もうかな、あいつまったくすげーの書くぜ。

2011年04月30日 08:23 せっちゃん ショートショート・血盆
兎が来た、今年生まれたんだな、まだ大人になりきらず、茶色の毛並みの足は真っ白。あっちへ行きこっちへ行きすっ飛んで竹やぶに消えた。まだたけのこは生えんな、うら寒い変な天気が続いて、たらのめが出たまんまでごっつー固まる。
挙す、趙州投子に問う、大死底の人却って活する時如何。投子云く、夜行を許さず。明に投じて須らく到るべし。
 死んで死んで死にきって思いのままにするわざぞよき、思いのままとは想像を絶する、若しや善悪の延長上にあるなら死んでいない、思いのままと思いよこしまと、自由無碍とはまったく自由なし。趙州和尚投子に問うのに、却って活するとき如何と、わっはっはこりゃ油断も隙もないわ、跪獅子の如く、臨済宗のお祭り騒ぎではなく、実に自然にこの問いが出る、さすが趙州って、その答えがいい、夜行を許さず、明に投じてすべからく到るべし、この問答大好き人間です。明に投じてすべからく至るべし、百二十歳までやっていたんだな趙州。死んだものは生き返らないのさ。まったくの元の木阿弥。三つの200%世の中、でもってどー生きるかって、見本なんにもなし。めっちゃくちゃ地面ぺったん蛙のはらわた。わっはっは嬉しくなっちまうなこれ。
 大趙州にはおよびもないがせめてなりたや投子さまって、さっきどっかへすっとんだ野うさぎかな、投子義青一宿覚、ものすげーったらこんなん史上何人もいないんだろーな。
 無門関も碧眼録もいらねーやな、わしの欲しいものは、ふわー欠伸ったら昼寝、腹減ったら食って、酔っ払ってごきげんでうーんなんてえふがいない男だ、
あさってから接心だな、わしの道楽のおかげで、てっちゃんもかーちゃんもさんざくた。檀家どももさ、でもってわしが師家だって、ぶはっほんとかよそれ。
 なんだあへんな顔してるぞ、べったりがき面して血がしたたりそーな唇。新人おねーちゃんも来るのってにさ、助平な顔しちゃ駄目だ。


2019年06月02日

ショートショート17

2011年05月01日 07:26 せっちゃん ショートショート・証道歌
 接心提唱は永嘉大師証道歌です、三島でやってみて効果のあることがわかった、じせん大人の寄付で東山寺も校本を仕入れた。
君見ずや絶学無為の閑道人、妄想を除かず真を求めず。無明の実性即仏性。幻化の空身即法身。法身覚了すれば無一物。本源自性天真仏。五陰の浮雲は空去来。三毒の水泡は虚出没。実相を証すれば人法無し。刹那に滅却す阿鼻の業。
 どうですか三つごろまでだれでもまさにこんなふうです、絶学無為の閑道人です、いいやそんな持って回った事云わんでもいいです。心地を尽くすとは元の木阿弥です、仏教という付け加えることなし、妄想のまんままるっきり手付かず、もと真なんです、その上に真を求めることはいらんです、あるがまんまとはこれです、ところが人はあるがまんまという余計ことを目指す、なぜか、どうしても他にあると思う、自分はどうしようもない、なんとかしなければという、それを払拭するんです。法身覚了すれば無一物です、自分というまったくないんです、断崖から身を投げる如くです、無明が自分ならば無明のまっただなか、無明を知らんのです。心は一つです、一つの心が一つの心を見ること不可、無心とは心がないんです、五蘊皆空度一切苦厄、我汝を救い得たりと、達磨さんが慧可大師に云うのはこれです、心がなきゃ一切苦厄はないんです。実際には幻化の空身即法身、まるっきりなんにもないものが宙に浮かぶんです、これを無上楽です、たとい貪り怒り馬鹿もきあすっともかすらないんです、刹那に滅却す阿鼻の業。六道輪廻から一歩出て、七歩歩んで上下四方指差して、天上天下唯我独尊です、すべての赤ん坊がこう生まれついています。物心つくに従い外れて行く、子供は三つまでの親の恩はすべて返すという、仏さまといっしょの生活です、どんなに年を取ろうがひねくれようが、もとに帰ることができる、帰家穏坐というこれが仏教です。
坐ル煮はなんでもありのめっちゃくちゃに坐って下さい、自分に手を付けないんです、ノウハウはおのれ一個宇宙全体です、なーにさ坐ってりゃいーんです、仏の家に投げ入れて力をも入れずまるっきりの向こう会わせです、こんな楽ちんなことはない、自分始めから用無しです、飢えた虎に食われてしまって下さい、自分からとやこうする要らぬお世話、人格を整えいいことしいなど飢えた虎には関係ないんです。

2011年05月02日 07:14 せっちゃん ショートショート・証道歌
誰か無念、誰か無生、若し実に無生まらば不生も無し。機関木人を喚取して問え。仏を求め功を施さば早晩成ぜん。四大を放って把捉すること莫れ。寂滅性中随って飲啄せよ。諸行は無常にして一切空なり。即ち是れ如来の大円覚。決定の説は真僧を表す。
 無念の念を念としという、こっちがあって向こうが無念とやってたって、さっぱりらちあかんです、無念とはなんにもなしです、なんにもなしを見ているものがないんです、切って落としたようにない、無生の人とはこれです、坐っていて無心という、心が無いんです。心はたった一つです、たった一つを観察不可能です、だから無いんです。坐っているとさまざまあったりなかったりする、妄念の中にそっくりはまりこんで無我だったり、あっちこっち確執あったり、呼吸困難や、すべて放捨してほうっと太息したり、みなこれ機関木人です、たとい形有るように見えてなーんもないです。仏を求めて功を施さば早晩成ぜんと、ただもうこれ機関木人です、境地がどうの仏がどうのたといどーやったとて無所有です。虎に食らわれるのに是非善悪じゃない、まるっきり向こう会わせです。どうしても坐るしかない、だったら坐りゃいいです、あるときうまく行った、あるときうまく行かなかった、とやこうすったもんだはーいそのまんまです、みずとりの行くも帰るも跡絶えてされども法は忘れざりけり。なにかしらあって苦しむんです、どこかにもとないものをあるとする、よこしまにしているんです、機関木人がそれを教えてくれる、目を向けると機関木人もない、ふーっと抜けてなんいもないんです。四大に放って把捉することなかれ、参禅者はややもするとものにしよう、わがものにしようとするんです、そうではない四大地水火風、もとわがものないのを知ってもとの木阿弥です。寂滅性中随って飲啄せよ、飲んで食ってもてめえの所有じゃない、諸行は無常にして一切空。これ如来の大円覚、決定の説は真僧を表すと、七転八倒めったやたらなんたってかんたってやって下さい、いっときよくったってそんなものなんのその。

2011年05月03日 08:06 せっちゃん ショートショート・証道歌
唯だ証して乃ち知る。測るべきこと難し。鏡裡に形を看る見ること難からず。水中に月を捉う争でかねん(てへんに占)得せん。常に独り行き常に独り歩す。達者同じく遊ぶ涅槃の路。調べ古り神清うして風自ずから高し。貌かじけ骨剛うして人顧みず。窮釈子口に貧と称す。実に是れ身貧にして道貧ならず。貧なれば即ちみ常に褸褐を披す。道あれば則ち心に無価の珍を蔵む。無価の珍は用うれども尽くること無し。物を利し縁に応じて終いにおしまず。
 実証するよりないんです、類推したり想定するのは百害あって一利なし、および悟りも、悟っておれもこのくらいだからという不可です、ありがとうなどわしの提唱にお礼を云うやつ、ぶんなぐって面の皮ひんむくにいいです。宝鏡三昧は自分失せる、相手だけが映るんです、経行のさいむかいが自分になってやってくる、影が自分でこっちを見ているふう、いずれ仏教だの如来だの云うひまはないんです、水中に月を捉えるいかでかねんぜんと、常に独り行き独り歩く、前後裁断です、昨日今日明日なんてのない。達者同じく遊ぶ涅槃の路。お釈迦さまも達磨さんんも道元禅師もまったく同じです、寸分違わずです、自分というかけらもないんです。雲門の公案を授かったというおっさんがいた、もし雲門禅があったとすりゃとっくに消えています、あるものは必ず滅するんです、なんにもないから金剛不壊、とこしなえです。なんにもないからものみな世界宇宙人類、妄想にも真にも、いいことしいだろうが、あくたれうそにも通用するんです、ちらともあればつっかえ糞詰まり、けつまずいて転ぶ。智慧とはこれです。
 人の云うことさっぱりわからんで、てめえの智慧をひからかす人、そんなんが最近増えている、まるっきり痴呆ですか、マルバツ式優等生の、智慧のなんたるかを知らない、女一人口説けない、きちがいにもなれないなーんだろこれ。そんなんが増えています。
 調べ古り神清うして風自ずから高し、まさにかくの如しですよ、どうしようもないぼろくずのようなんでも、悟ればがらっと変ります、悟っただからおれはというのとは断然違います、一人でも半分でも出てこの世の中救って下さい。貧乏おんぼろけが無価の珍を持つ、物を利し縁に応じて惜しむ、けちることがないんです。

2011年05月04日 07:22 せっちゃん ショートショート・証道歌
上士は一決して一切了ず。中下は多聞なれども多く信ぜず。但だ自ら懐中に垢衣を解く。誰か能く外に向って精進に誇らん。他の謗ずるに従す他の非するに任す。火を把って天を焼く徒に自ら疲る。我れ聞いて恰も甘露を飲むが如し。しょう(金に肖)融して頓に不思議に入る。悪言は是れ功徳なりと観ずれば、是れ即ち吾が善智識と成る。せん(言に山)謗に因って怨親を起こさざれば、何ぞ無生慈忍の力を表せん。宗も亦通じ説も亦通ず。定慧円明にして空に滞らず。但だ吾今独り達了するのみに非ず、恒沙の諸仏体皆同じ。
 上士は一決して一切了ず、はいだれあってこのようにありたいものです、中下は多聞なれども多く信ぜず、原発事故の薀蓄ですか、ただもう知識をひけらかす、ほかには指一本動かさない、てめえ知識をひけらかして、他の云うことは聞けない、大災害は起こるべくして起こったんだと思わざるを得ない。人間が先にメルトダウンしちまった、多聞にして不信、この世の終わりですか。たとい最先端でも任に当たっては譲る。ただ自ら懐中に垢衣を解く、大丈夫のなすべきことこれ、なにがどう起ころうとも一切了ず、もと解決済みの清風です、こういう人の一人半分が欲しいんです。波紋を広げる人じゃないまったく収まる心です。外に向って精進を誇らず、人に見せるための沢木興道禅ですか、みっともないったらそんなものを宗門は用い、ついに滅びてどーにもこーにもならんです。他の謗るにまかす、非するに任す、火をとって天を焼く、自ら疲れるばかり、法を知る者はまさにこのとおりやって来た。そりゃたいへんなこったですが、わっはっはわしみたい短気はこれ再度学ぶべし、とんでもないめにあった十人二十人、わっはっはあいつらまるっきり文句云わんな、さすが仏じゃ、涙が出る。恰も甘露を飲むが如し、しょう融して頓に不思議に入ると、わしはどいつも一発かましてみーんな大人しくさせちまった、口も聞かんで無視してらーな、はーいこーゆーのいかんです、mixiでもあっちこっちぶん殴って追い出して、うっはだれもよっつかねーや。でもよく坐ってるぞ、悟りそーなのいねーなもしやさ。自分がなくなったどーしたらいいかって聞くの二人いた。こりゃもーじき使えら。

2011年05月07日 12:28 せっちゃん ショートショート・けったんさま
 なーんか世の中面白いこたねーかなって、たけのこはまだ出ねーけどうどとたらのめが食える、五月の青葉風が吹いて、お寺はいちめ山桜の花吹雪。こーんないー気候だってのに、がたびしふるえて寝込んで肺炎やってら、たらのめのてんぷらもげんなりったら、情けねー体たらく。
 てっちゃんはばかであほう丸出しだし、かーちゃんはストライキだしもー面倒見切れねーや。具合がわりーとじき死んじまったほうがよく思えるのは、現代人の通性かな、まあわしの年なりゃ生きるも死ぬもねーわな、おまけに万ずほったらかして平然、あとはかってに尻拭いせえってやつ。
 すけかんの田中もガンになって死ぬる時、引篭もりのせがれとかーちゃんの後の心配して死んだな。あいつは甲斐性ある、わしはなーんのとりえもねーや、ぐーたら遊びほうけておねーちゃんのお尻触るぐれーかふん。
願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ
 だでさっさと死なせてくれーってのに、おいそれとは問屋が卸さねーや、これしきの肺炎でぶがぶが、ぎゃーお地獄ってわめーてりゃ、実際死のうとなったらうっはーこりゃまー大騒ぎ。
老い朽ちて人を恋ふらむ軒にしや秋海棠の花を長雨
 すんなりひやーり人畜無害に行くにはさ、あれ本のゼニ明慧のやつわしの立替分忘れてるぞ、八石山ステーキの分も、そーだあこっそりつかみ取りしてこよ、あいつ庭掃除してるまにさ。
 坐禅して病気に負けてりゃしょーがねーが、気張るとこほん咳出て、まーもー少し辛抱しろって、坐禅ほどえらいやついねーんだオールマイティだってのに、たかが肺炎負け、けったんさまじゃこんの野郎。
 あんれ坐ったら、ちゃーんと坐れてら、証道歌はたとい死んだってぽしゃらねーんだな。そんじゃなんしろ全快すっか、はーてな説得は次の世に延期ってことに。
 人間さまねえうっひーはーいはい。

2011年05月08日 09:04 せっちゃん ショートショート・どーにもこーにも
見ずや五洩石頭に参じ、先ず自ら約して日く、若し一言にして相契はば即ち住まらん。然らずんば即ち去らんと。石頭座に拠り、洩袖を払って出んとするに、石頭是れ法器なりと知って、即ち開示を垂る。洩其の旨を領せず。告辞して出でて門に至る。石頭之を呼んで云く、じゃり。洩回顧す、石頭云く、生より死に至るまで、只だ是れ這箇。頭を回し脳を転じて、更に別に求むること莫れと。洩言下に大悟す。
 公案禅の卒業者みたいなのが来て、いろんなことをやってくる、みなまた脚下なーんだそりゃあほめがっての、公案を授かって坐って無我夢中に解くと、よしといわれるらしい、隻手妙音だの、如何なるか是れ祖師西来意だの、次から次に透過して、はーてさまるっきりなんにもならん、依然として自閉症の、女の子一り口説けない、仏かというとそりゃもと仏、すなおなはずがただもうてめえのことばっか。自分をなくなして来いというと、さっぱりわからん、自分とは何かと問うたことがない、なんで禅をするんだという答えがない。生より死に至るまで、ただこれ這箇、頭を回し脳を転じて、更に別に求むることなかれ。 臨済宗にこれを示すと、答えのいくとおりが並ぶきりだ。すっかりメルトダウンしている。公案といういんちきだな。行きかけの二三人に崖から飛び降りろと云ったら、二人開けた、公案禅さんは、金正日万歳と云って物笑い、大真面目にこれなんだ、メルトダウンした白隠禅も、なんとかお払い箱にしなきゃ、ただもうこれ百害あって一利なし。
 らごらはお釈迦さまの子だ、らちあかん坊主をらごらという、お寺のせがれ。ほんにまあどーよーもこーしよーもないことは、お寺に生まれたら説教で、人に見せるための修行をして、禅宗だってのに坐禅が嫌いで、魚売らぬ魚屋みたいで、人格の形成を欠く、こんなもんと付き合っちゃ人間駄目になる、ちったあてっちゃん坊や見ることは見るかと思いきや、てめえ鬱憤晴らしに人に大怪我させた。ことのなんたるかを知らんのがらごらで、こんなもな到底晋山式面ない。わしが若かったらただじゃおかんのに、情けなやてめえんことだけで沢山だ。とっくに見捨てていらーな、ふん。

2011年05月09日 09:17 せっちゃん ショートショート・結婚式
 六月十二日はしおあじちゃんと村松君の結婚式だな、もっほちゃんも穴井も明慧上人もさみーんな張り切って、かーちゃんまで仮病止めて行くんだって、今日はなんか揉み治療行ったぞ、止めとけってんだ、返事も十日のぎりぎりに出すんだってさ。
 うわーいてっちゃんもかーちゃんもいらねえ、ホームレスの門出祝じゃなくって、どぱーっとやろーぜ披露宴。はーてとさ結婚式差定が仕上がって、
 来賓親族着席、新郎新婦着席、式師入堂、開会の辞、献香三拝、啓白文奉読、酒水灌頂、寿珠授与、指輪交換、三帰礼文、盃事、新郎新婦誓いの言葉、式師示訓、先祖報告のお経、普同三拝、開式の辞、退堂。
 とにかく式の前にはちゃんと覚えよ、こないだこけちゃんの時には帯がすっぽ抜けてえらいこっちゃ、卓子の下に投げ入れて、穴井侍者のほかは気付かず。なんせ腹がまんまる。もっほちゃんが音楽係り、しゅーしんに入れてもらったサザーランドの羽生の宿が、ラストローズオブサマーになっていた。すんげー声だしどーってこたねーんだけど。式師の支度部屋なくって、じゃあたしんとこでって、花嫁の支度部屋ぐはは。京都大学学士会館だった、今度はらごら坊主のグランドホテルだとさ、道具立ては揃ってるらしーから、一式車に積んでってのはいらんな。
 十二月でどえらい寒かった、新潟は吹雪きだってのに、からりと晴れて京都のほうが寒い。つぎの日はわしの誕生日で、スペイン料理店で誕生祝してくれた、新婚さんはそれどころじゃなくって、みーんな二十台三十台のおにーちゃんおねーちゃんにおごってもらっちゃった、いつか返そうと思ってそのまんまだ、京都はなんでもおいしい、すなぎもの他覚えてないが、ワインもうまくってばんざーいわーいすっかり酔っ払って、藤田ホテルに引き揚げた。いいホテルだってのに閉店したらしい。加茂川散歩すると、四条大橋の下に青テントがあって、スニーカーが七足分もある、ひえこの寒い加茂川へりにって、七人もいりゃあったけーか。
加茂川の月に宿借るあしかびのしじにも雪は降りしかむとす
 今度は夏のまっさかり、何年越しの恋が実ったんか、なんせあつあつのお二人さん、しおあじちゃんのためにぐーたら亭主たる、東大ロシア文学博士号ほったらかしに、ジャスコに就職した。女の力は恐ろしいのだ。こけちゃんの彼氏はノーベル賞候補最短距離だとさ、どっちにしてもちった目の出るころはわしはあの世行き。

2011年05月10日 08:50 せっちゃん ショートショート・冗談きつい
 接心に小林が倒れて救急車呼んだ、なんで倒れたかっていうとよーもわからん、あいつきのこの仲間だ、救急車が来て消防車が来て、ぶったまげた村の区長がすっ飛んできて大騒ぎ。どこへ持って行くんだって、電話三つ四つかけて断られ、てっちゃんが見附市民病院にかけてよしってさ見附死人病院だな。なんで消防車が来たって、ガソリンどえれー高いころ遊んでるんだな、わっはっは笑える、悪い冗談だよまったく。
 結婚式に霊柩車とか、野球チームでなぜか霊柩車に出会うと勝つ、監督がひそかに葬儀社頼んだとか、ふーんさびの効いたジョークってのはあんまし思い付かねーかな、天気予報とかけて親父のふんどしと解く、その心は、たまに当たる、美緒ちゃん得意のこやつ、匹敵するのねーかって、さんざくた考えてうまくいかねー、才能ねーかな。
 穴井がカーナビと仲が悪く、頼むでナビ子ったらしょっちゅー喧嘩してたな、北海道で層雲峡へ入れたら、とんでもない沢に行く。案内を終了いたしますって、まわりなーんにもなし。二度同じとこへ案内した。わしも白鳥で有名な瓢湖入れたら、裏側へ連れていかれて、案内を終了しますって、こりゃどうにならん表へ行くのに一騒ぎ。冗談きついってやつ。こないだは高速道路入り口なし、出口で料金だってんで、
「どこにも払うとこねかったじゃねーか、冗談きついよ。」
 って、住所指名記入の上一時間待たされて三千円ぱくられた。甲斐で見るより駿河よいって、富士山の裏かわ廻って行って、はてないったいだれの祟りだ、ようやく花が満開で、高遠の花を見に行こうって、ずいぶん行ったところで、「美緒ちゃんコンビニに聞いてみろや。」
 って云ったら、まだ咲いてないって、仕方ないお昼スリランカ料理食べてお帰ろうってカーナビ入れたら、へーんなところへ案内する、飯田はいーところだ明慧上人お寺持て、ほんにいいお寺あらあとか、山ん中へ行く。道路工事のおっさんどもが怪訝な顔して見る、メインテナンスほったらかしの、がけくずれ落葉の山、こりゃおかしいぞ、案内を終了します、際限もなく道は続く。引き返してこんだは反対側へ行く、もーいーやどっかで飯食おう、いやだって美緒ちゃんにもっほちゃんに、電話掛けて聞いて十五キロ戻る。
 旦那は大阪の領事館に行っているんだって、おいしい料理で見たことも聞いたこともないメニューがあって、酒もいーのあって。お土産買った、美緒ちゃんの目の色が変わる、椰子の実でこさえた象さんがあった、これって云ったら、耳の付け根が破損して売りものにならんです、同じのあるってなーんか色違い、はじめの買ったらただにする、わるいで刺繍の象さんも買った。帰ったら椰子の実の象さんしっぽもげた。

2011年05月11日 08:30 せっちゃん ショートショート・心経
観自在菩薩、行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。
 心経のこれだけで、仏教も坐禅のありようもすべて尽くしている、観自在菩薩とは、仏道を習うというは自己を習うなり、自己を習うというは自己を忘れるなりです。一人がほんとうに考えて行き着く結果です。すべては自分を知る、自分を習う以外になく、自分はたった一つ、たった一つがたった一つを知ることはできない、自己を忘れて始めて正解です。これ西欧にはない智慧ですか、収拾のつかないテスト氏は、戦争と平和の間を行ったり来たり。万遍繰り返すのを進歩というんですか。
 般若波羅蜜多を深く行ずる時、ぱーらみーたー彼岸に渡るということです、三蔵法師がそのまんまに漢字を当てた。架空の我れを立ててものみなを扱い見るを此岸という、アイでありイッヒであるそのものがおかしい、気がつくのが非情に難しい。もとの仏に帰る、これを彼岸にわたるという。実に坐禅とはただこれです。
 なかなかうまく行かんです、我からという従前が長く、一切苦厄はもと仏を、我をもって邪にする故にと、時には地を這い回るような悲惨陰惨をさえ、解脱できない、彼岸に渡れない。
 坐禅をしながら、うまく行っているうまく行ってないという、自分が自分を見ている、二分裂です、籠の鳥ですか。はじめから自分を勘定に入れないんです。捨身施虎、飢えた虎に身を投げ与える=これ坐禅。てめえがどうだ、いいのわるいの立派だの、何あったって飢えた虎は食うきりです。早くこれを知って下さい。
 てめえなければ五蘊のがんじがらめなく、一切苦厄もなく、七歩歩んで天上天下唯我独尊、六道輪廻地獄餓鬼修羅畜生人間天井の盥回しから一歩抜け出るんです、これが仏教です、人の救いは他にはないんです。
 何故仏教が行われないか、メルトダウンしているのは坊主どもかそれともって、そんなことはどーでもいーんです、正法に値う今日の我らを願うべし、自分が証する以外になく、一箇救われて地球のお仲間入りです。花のように知らない人になって下さい。一箇千万億。
遠離一切顛倒夢想、究竟涅槃、依般若波羅蜜多故、得阿のく多羅三みゃく三菩提。
 無常正等菩提です、ひとりよがりの坐禅もなく、仏教もないんです。とやこう云いつのっているうちに、時は過ぎます。

2011年05月12日 08:36 せっちゃん ショートショート・結婚式
 6月12日結婚式、式次第。

2011年05月13日 08:22 せっちゃん ショートショート・お役人様
 長岡の歴史民族博物館ってとこから電話来て、なんとかかんとかおっほんお役人さまだあ、今資料の展示中東山寺の屋根普請を天狗がしたっての出とる、ちらし作ってやるからありがたく思え。なんせ地方小役人様だ、かーちゃん出て、今は屋根もかやぶきではないし、天狗の伝説のあとも残っていねーし、ちらしもらえばごみに出さんきゃなんねーし、とは云わなかったが、いらんて云った。見幕で怒られた。能足りんめが、せっかくお役人様の親切を、ならどーぞごかってに。ちらし来たみたい、ぐわ趣味わりーごみ出し。
 三条のお役人さまも、四天王の看板立ててやるって来たな、なものはいらんと二度断ったら、三度めに若槻先生を連れて来た。もと図書館長さんで、いい人で腰が低く、ずいぶんお世話にもなったし、おごっても貰ったっけか坊主。先生平身低頭してお布施を差し出す。看板承知した。だれかれ面倒事あると先生を引っ張り出すんだな。もうお年だしどーしていなさるか。
 坊主はお布施とお寺の宣伝、あとはあっちゃならんのさ、用のねーの来たってめんどいきりなんに、観光だのなんだの、ルートに乗って右往左往のほかに物考えたら死刑だとさ。
 あいまいもこの人の顔、日本人てこーんなんだったっけ、十把一からげ、代替えの聞く、やすものソーセージみたいなさ、ちった薬味効かせるか、築山のせんぶりでも。
 おおたかが四羽飛んで来た、おおたかなんかな、夏の青天に衝突ニアミスみたい、冴えない弧を描く。何を漁ってるんだ、肺炎で自棄くたばった、わしの腐臭を嗅いでやって来たか。
 死んだ鯉の鳥葬は見事だったな、四尾骨だけ残してきれいに食っていた。だれかわしを十文字に切り裂いて、頭蓋叩き割ってはらわたから手足並べておくれ、おおたかわしどもにからすまでよったくって、ほんの三日。
 そーだ思い出した、若槻先生におごってもらって弥彦の花を見に行ったっけな。弥彦のてっぺんまで登る、関根先生という植物の先生に、ここは固有種も豊富なんです、次から次から教えてもらっててーんで忘れて、まけに途中でふんのびた。てっぺんついてわしだけロープウェイで帰る。
 なんか今生名残のよーな気がするなー、スカイツリーと同じほどの高さ。



2019年06月02日