とんとむかし14

とっけ

とんとむかしがあったとさ。
むかし、飯石村に、とっけという、悪たれがいた。
吉兵衛さまのたる柿盗って、売っぱらおうとて、見つかった。手下逃がして、とっけがつかまる、
「なんたっておまえだ。」
作男の石蔵が、とっけをふんじばって、こらしめだとて、大門の上からつるくした。

「からすに目ん玉、つっつかれろ。」
とて、恐怖の半日、
「もうしねえか。」
というと、
「もうしねえ。」
といって、涙流す。引き下ろすと、
「屋根へぐれて、蛇がいっぺえいる。」
といった。石蔵の、屋根へ上って行く、はしご押さえて、
「そうでねえ、そっち。」
と教えて、のりつくところで、
「あったあ重てえ。」
といって、はしご倒す。
蛇はほんとうにいた。
「うわ。」
作男はつり下がる。
とっけはいなかった。
村では、田んぼに鯉を飼って、秋になったら揚げ、池すに入れたり、年子のまんま売ったりする。
大水で流れることがあった。
とっけが買えといって来た。数百はいる、手下どもと、川ですくったという、
「おまえら、盗ったんでねえのけ。」
「いらんなら、おっぱなす。」
仕方なし、買い取る。
どうも、かわいげがない。
でめきんという、きれい好きの、目のでっぱった女がいた。
余市というのが、いいよって、はねつけられたのを、
「でめきん余市がのーえ。」
といって、はやす。
「出戸のからすも、かあと鳴く、
無理もねえてや、春じゃもの。」
その仕種大うけで、にっくきとっけを、余市がとっつかまえた。三つなぐったら、
「板谷の後家さま、夜這いさせる。」
といった。
「うそこけ。」
「ひも下がる、それ引っ張ったら、戸開く。」
旦那のうなって、つやっぽい板谷の、後家さま、
「ひもねえときは、その気にならねえってこった。」
もう一つぶんなぐって、おっぱなした。
日暮れて、たしかにひもが一本ぶらさがる。ためしに、引いてみると、
「どんがらぴっしゃ。」
とんでもない音がして、お宮の鈴が、転がり落ちた。
「でめきん余市が、こりねえで、
鳴物入りで、よばいする。」
そんなのはやって、余市は戸しめて、ひっそり。
お宮の世話人、伝三郎が、とっけの家にやって来た。
「おまえだということは、わかっておる。」
とっけと両親、かしこまって、
「わしは世話人を辞める、じゃによって聞け。」
といって、説教する。
「そもそも神と、仏は、人心のいしずえ、天道のもとい、― 」
もとより長いのが、とっけが神妙に聞くから、ずうたら、とろろいものように、切りがない。
ふと見ると、とっけが相槌うつ、それが神妙といおうか、絶妙という、
「仏をいえば蓮すの花のにごりなく。」
「にごりなく。」
「鏡くもらず、破邪の剣はとぎすまされて、まがたまの。」
「まがたまの。」
うらみつらみ、聞き手も、へんになる。
その帰り、伝三郎は、狐に化かされて、こえためにはまって、いい湯だやっていた。

飯石村は、河はさんで、横越村と、毎年節句には、凧合戦があった。
その大凧と道具一式しまっておく、小屋があった。
忍び込んで、凧の綱の麻なわむしった。手下に配る、わらじこさえる。
その年の相談が三日早く、とっけはつかまった。
「またとっけか。」
「どうしようもねえ。」
男たちは、頭に来た。
「ためし凧に、くくりっつけて飛ばしてやれ。」
「ちったこりらあさ。」
といって、とっけを大凧にくくりつけて、河原風に、頃合はかって、飛ばした。
二十人して引く、ふうわり上がる。
「へえ景色いいで、ご苦労さん。」
「なにをこの。」
突風が吹いた。
大凧は、おそろしげに舞い上がる。二十人、必死に押さえ込もうと、そいつがぷっつり切れた。
とっけがむしったあとだ。
山向こうへ飛んで、見えなくなった。
「とっけなら生きているだろ。」
といったが、そいつが三日さがして、行方知れず。
くーるりとっけは、まっさかさま。大凧ごと、河へざんぶとはまった。
むかし、ばあさまにつれられて行った、瑞巌寺の、仁王さまが、恐い目してにらむ。

「このわるをどうしたものじゃ。」
うんの仁王さまがいった。
「西方浄土の船へ乗せよう。」
あの仁王さまがいった。
「ふだらくや、
浮き世の波を、
こぎわけて、
彼岸にわたる、
のりの櫂。」
えんさあこげやといって、とっけは重たいかいを漕ぐ。日も夜もなしの、波は荒れ狂って、舟はゆれ。
海を鎮めに、坊さまが、身を投げるという、
「お待ちなされ、この子じゃ。」
だれかいった。
「なまけてばっかりの、こやつを投げ入れもうす。」
ざんぶと投げこまれた。
その苦しいことは、
「あわ。」
ふりもがくと、
「さわぐな、今助けてやる。」
声がして、助け出され。大凧は柳にひっかっかって、ゆれるたんび、さかさのとっけが、河へつっこむ。
「凧ん乗って、河流れたあ、河童の神さまも、気がつくめえ。」
「ちがう、天からふった。」
とっけは、村とははんたい指して、
「海まで行こうと思って、しくじった。」
といった。そうして、反対っこへ、歩いて行った。
瑞巌寺のある、門前町へ向かった。
畑のものかっぱらったり、荷車押して、駄賃もらったり、三日かかって、大にぎわいの、門前町。
「そうさ、こういうとこで、稼いで。」
いろんな店が並ぶ、商人が行ったり、傘さした坊さまや、きれいな女の人や、お大尽や乞食や、団子を売っていたり、赤鬼の看板がぶら下がる、大きせるがあった。
おっぱらわれるっきりで、どこも雇ってはくれなかった。
河原に、石を洗う男がいた。ざるいっぱいの、小石をになえという。
「ほう、めし食いたいか。」
「食わにゃ死ぬ。」
ざるは死ぬほど重かった。
でっかいお地蔵さまがあった。赤い頭巾と、赤いべべ着て、子供を三人抱える。
人々は線香立てて、小石を一つ、また一つ置く。
子がまかるよう、病気がなおるよう。
洗った小石は、いくつとっても一文。
めしだけ食って、一カ月。
「いろはだって、なんまんだぶもいい、石に文字かいて一文。」
とっけはいった。
「赤いべべ着せて、三文。」
男は坊主くずれで、かたことぐらい書けた。それが流行った。
もうけ半分寺にとられて、男は女こさえて、たわけ歩く。
とっけが、寺へ上げる半分、おれの分といって、かっぱらった。
でもって別商売はじめて、それがどうやって稼いだか、とつぜん立派な身なりして、村へ帰って来た。
親に大枚置いて、あっちこっち、わるさのしっぱなしを、みんなそれぞれにして、お寺にも置いて、ぶっ魂消て、よったくる連中にいった。
「大凧に乗ってさ、舞い飛んで、ふうらりついたところが、丸に一の字のさ。」
という、名の売れた酒屋。
「そうさ、酒屋にとっちゃ命の、井戸の上な、わしゃ天の申し子だってんで。」
そうしてこうして、ああなって、とやこうはやらかせて、
「どうじゃ、わしに出資しろ、三年で三倍ってわけにゃ行かぬが、二倍くらいには。」

といった。
みんなこぞって、持って来た。田んぼや畑売っぱらう者もいた。
とっけはそれ懐にして、出て行った。
そんでもってどうなった。
出て行ったっきり。
瑞巌寺の、仁王門わきに、夫婦ものの乞食がいた。
とんがらしと、みかんの皮なと、竹筒につめて、売っていた。
いっぱし溜め込んで、
「とっけのとんがらし。」
と、看板ぶら下がったころ、もうその名知る者はいなかった。



じょうごん池

とんとむかしがあったとさ。
むかし、三郷村に、じょうごん池という、またの名を蛙合戦という、池があった。
龍が棲んだそうで、葦原に月影を宿す。
田辺貞元という、儒学者があった。
新婚早々の、美しい妻がいて、刀は差しているというだけであったが、ある日殿様に、

「名人達人如何。」
と問われて、
「名人は惑わず、達人は忘ず、その道に迷わぬを名人、意を用いぬを達人ともうすかと存じます。」
と答えて、評判になった。剣術指南役の、伊東又兵衛という者が、教えを乞うといって、やって来た。
「わたしの知っておりますのは、言葉の上だけのこと。」
貞元はいった。
「名人達人どちらが上か。」
と剣術指南、
「名人は名を尊び、達人は足るを知るともうします。」
「名によって名に倒れ、足るを知ってついに終わる。」
「名を覚えぬを、真名となし、足るを知らぬを、自足というとあります。」
ではといって、伊東又兵衛は、飯粒をもってこさせて、貞元の頭髪に置き、一刀を抜きうちざまに、真っ二つにした。
髪の毛が一本だけ切れた。
「わしは名人にはほど遠い。」
又兵衛がいった。
「いえ、髪の毛の切れるほうが、達人です。」 貞元がいった。
「そういうお前さんは、眉毛一つ動かさなかった、若いに似合わずたいしたもの。」
二人は親友になった。又兵衛は四十近い、みにくい男だった。修行時代に、過って人を殺めた、そのためというではないが、頭を剃ったも同然といった。
「男児が二人生まれたら、一人くれ。」
ともいった。
「わしの剣を授けたい。」
美しい妻は、みにくい四十男を敬愛した。
発明であった殿様が、急に退いて、元服前の次代さまが、あとを継いだ。幕閣の差し金という。若い者に、不穏な動きがあった。
「さぞやご無念のこと。」
「城代平沼左門と、その取り巻きだ。」
坂下の三玄寺にこもって、ことを起こそうという、指南役の又兵衛が、家老なにがしと、駆けつけた。
「なによりも、お主らに科なきようと、お殿さまは申された。事を起こすなら、わしのかばねを踏んで行け。」
といって、一枚脱ぐと、下は白装束であった。
説得ははか行かず、貞元が来た。
「人一人殺して、よきことのあろうはずもない。」
貞元は事と次第を説いた。若い連中も、目から鱗の落ちる思いであった。
「しかし、あのように明かしてしまって、大丈夫なものか。」
若い人が、かえって心配したが、案の定、又兵衛はお役を果たし、貞元は、
「呼ばれもせぬ出張。」
といって、閉門になった。
一派にとって、貞元は危険であった。
閉門は五年続いた。
「この上は、お主のためにも理非をただし― 」
又兵衛はいった。
「いや。」
貞元は首を振る。暗殺の恐れもあって、又兵衛は、夜毎に見回った。
美しい妻が忍び出る。
あとつけると、じょうごん池に行く。
月の光に水を汲む。
閉門を解かれて、二人の男児が生まれていた。
「ほかにすることがなかったでな。」
貞元は笑った。
お殿さまがみまかる、貞元は又兵衛に、 「殉死するなら、子供のどっちかに、剣を伝えてからにしなされ。」
といった。
じょうごん池の水を、月光に汲むと、みごもるという、伝えがあった。
じょうごんとは、貞元のなまった語というし、ひきがえるがよったくって、蛙合戦をする、ひきがえるを又兵衛ともいった。



いそめ

とんとむかしがあったとさ。
むかし、太郎という子があって、父母流行り病に死んで、遠縁の家に、引き取られて行った。
食ったり食わずの、いじめられて、そんなもんかと思っていたが、ある日、焼け火箸で、ひっぱたくのを、よけた拍子に、相手をつっころばした。
どんと大人がふんのびる、困って逃げ出した。
古い社があって、そこへ寝泊まりした。
村の子がよったくって、
「かさっかきの、ものもらい。」
といって、石投げたり、追っかけたりする。太郎は、木っかぶにこもかぶせて、寝たふりして、
「ねこばっち。」
といってつっつくのを、二人いっぺんにつかまえた。
「かったいもんじゃねえ、人食いだ。」
太郎は、二人木の又に、しばりつけて、
「じゅんぐりに食ってやる。」
といって、でかけた。
帰って来たら、二人いない。
大きな犬をつれて、村人がやって来た。
太郎はどうにか、やり過ごし、あとつけて行って、石で犬の頭を、かちわった。
犬を食って、はいだ皮を、鳥居につるして、旅に出た。
山まわりの街道に、追剥が出るという。
「待ちな。」
と聞こえて、ふりかえると、縄の帯しめて、頭ぼうぼうの、怪童が立つ。
「ぜにをよこせ。」
出せばよし、でないと、手にとった、まきだっぽうでなぐ。足折るか、ふんのびた。

しくじったことはなかった。
大勢いたり、面倒なのは、やり過ごす。
きれいななりした、若ざむらいだった。生っ白い面が、
「待ちな。」
「なんとな。」
「ぜにを出せ。」
「へえ、山犬ってのはおまえか。」
まきだっぽうが、ぶんとうなった、まるっきり手応えがない、ぶんばすっ、ぶんまわす、目の前に、若ざむらいは、つっ立つ。
太郎は太息をつく。
「来い。」
背を向けた、さっさと行くのを、逃げられず、太郎は、ついて行った。
どんざん波の洗う、磯っぱたに、洞穴があった。
むしろ一枚しいて、なべや茶碗がある。
「わしはいそめという、海の化物だ。」
若ざむらいは云った。
「人の道を踏み外して、おまえも、化物になるより、せんなかろうが。」
といって、ぼうきれを取る。太郎はうってかかった。
ぶちのめされては、うってかかる。情け容赦もなかった。
食い物はあった。磯のものを取って食え、ともいった。
いそめはやって来て、ぼうきれを取る。
逃げ出すたんび、連れ戻された。
三年たった。
ぼうきれでは、負けなくなった。
「たいてい立派な化物になった、次は人に化ける術だ。」
いそめはいった。波の洗う、岩の上に、太郎を立たせ、
「波を刃と思え。」
という、なぎの日はうねりよせ、大荒れには、ずたずたに引き裂かれ、来る日も来る日も、岩の上。
しまい、太郎は消えて、波だけになった。
「アッハ存分お化けが、人ってえのはつまらんことを知る、ほれ。」
といって、いそめは文字を書いた紙片を、つきだす。
波のまに、太郎はいっぺんに覚えた。
半年ほっておかれて、どこへ行く気もなく。
いそめが現れて、
「ついて来い。」
という。
さむらいの物を着る、いつやら覚えて、するりと付けて、大小を差し、そいつは立派な門構えの、さむらい屋敷。
「ここのせがれが、行方知れずになった、たった今帰るところだ、行け。」
といって、おっぱなす。
入って行った。
「お帰りなさりませ。」
郎党が出迎える。
「どこで何をしておったかは問わぬ。帰ったが、なによりじゃ。」
父なる人はいった。
「たくましゅうおなりになって。」
母なる人は、涙を流す。
新之助という名前であった、洗水と松のお庭があり、うまやがあり、弟が一人、家の子郎党若干あり、だれかれまた出入りする。
兄弟は抱き合って泣き、生まれついてのように、ものみな行く。
寄せては返す波のように、思いの他の、―
一年が過ぎた。
見破ったのは、許嫁という人であった。
お目見えの年がきて、二人庭を歩く。
「どんぐりのにおいがしたのに、なぜ。」
ふいにいった。
化物であったのを、太郎は思い出した。
「不思議な潮のかおりが。」
美しいその人はいった。
いそめが来た。
いとこの重太郎であるという、
「新之助は死んでいる、骨を拾って弔うか。」
「このお方は新之助さまに、まこと生き写し、いえ新之助さまより、ずっとすばらしいお方です。でもそうすることが、きっとわたしどもの務めです、おこころざし、ありがとう存じました。」
太郎はさむらい屋敷を出た。
いそめがいった。
「化物はまず化物じゃ、人食い女がいる、行って退治して来い。」
さがしあてると、それは鳥居に、犬の皮をつるくした、神社だった。
妖気はない。
天井うらに女がひそむ。
気配を消すと、出て来た。
「食うか。」
太郎は、腕をつきだした。
「食わん。」
女は泣く。
「なんにも食うものがなくって、赤ん坊を食った、三つ食った、それから気がふれて、どこをどう歩いたか、神社に宿ったら、人がこわがってだれもよっつかん。」
女は正気にもどった。
そうして首をくくった。
磯っぱたの、洞穴に帰ると、一振りの太刀があった。手紙がついて、
「無明丸と申す、この太刀を継ぐ者を、竹の太郎という、天に月地には風、人に竹の太郎。」
とあった。
いそめが海の化物であったか、重太郎という侍であったか、竹の太郎は、二度と会うことはなかった。



ぴったらとだったひら

とんとむかしがあったとさ。
むかし、ひいらぎ山に、ぴったらという牛飼いと、だったひらという、鷹匠が住んだ。

世の中ではこう云った。
「こわいものはなーんだ、
目のないトンボと、
食うばっかりの女と、
ざんざん大雨。」
ぴったらが、笛を吹くと、目のないトンボも水を、食うばっかりの女も、夢を見る。

世の中ではこうも云った。
「困ったものはなーんだ、
しっぽの二つある犬と、
うしろ向きに歩く男と、
かんかんひでり。」
だったひらが、ナイフを投げると、しっぽは一つに、うしろを向いた男も、前を向く。

ぴったらは、海が見たいという、だったひらは、雪の峰が見たいという。
二人は旅に出た。
牛飼いは西へ、鷹匠は東へ。
牛が草を食べたら、昼寝して、その背に乗って、ぴったらは行く。
わらを山のように積んだ車挽きが、牛をかしてくれといった。
「そうしたら、かあちゃんのとっときのシチューを、ご馳走しよう。」
「いいよ。」
ぴったらは牛をかした。
山のようなわらを挽かせて、車引きと二人行くと、赤いしゃっぽの子どもが三人、乗せてくれといった。
「いいよ。」
という、三人の子どもは大はしゃぎ、わらの山に乗って歌った。
「てっぺん禿げて雨ざんざ、
川はどんぶら大風、
あっちのほうはどろんこで、
夕暮れ橋は流された。」
野を越え山を越え、風がどうっと吹いて、河があった。
「あと一人だよう。」
渡し守りがいった。
「おれの家は河の向こうだ、そうさ立派な橋があったんだがな、牛飼いには、かあちゃんのとっておきシチュー、子供は三人赤いシャッポだし。」
車引きがいうと、
「まいいか、わらの束なら沈みやしねえ。」
といって、ぴったらと車引きと、三人の子どもと、牛ごと山のようなわらの車と、いっぺんに乗せた。
渡し守りが棹さす。
舟には大商人と、中くらいの商人と、そうでないのと、腹のへったさむらいと、ひげを生やした侍と、赤ん坊をおぶった母親と、きれいな女と、そうでもないのと、すきやかまを持った何人かといた。
真ん中へ来たら、水かさが増す。
「だめだ、云うことを聞かん。」
渡し守りがいった。
「乗せ過ぎだ。」
流れて行った。
「金は出す、牛とかわらの車と、そいつに乗ったのを下ろせ。」
大商人がいった。
「あんたのでっぷり腹を下ろしたらどう。」
きれいな女がいった。
「いっとき一両。」
「借金を返さずにすむ。」
中くらいの商人がいった。
赤ん坊がわあっと泣いた。
「どっちみち動けん。」
腹のへった侍がいった。
「河童が出る。」
すきやかまを持ったのがいった。
「みぐるみ剥がれる。」
「河童ってなんだ。」
「河の海賊だ、身の代金払えなきゃ、頭の皮はぐ。」
「たいへんだ、逃げられん。」
渡し舟は大騒ぎ、
「どうってことないか、どっちみち身一つ。」
「そんなこと云わないで、おさむらいさん。」 きれいな女がいった。
「武器になりそうなものを、そこへ集めて下さい。」
「おおそうだ。」
みなして、すきやかまや、用なしになった船頭の棹から、そこへ集めた、
「おさむらいさんの刀二本。」
刀を抜き取って、きれいな女がいった。
「大商人はたんまり身の代金、中くらいのも、そうでないのもそれなりに。身ぐるみはいで、舟のこぎ手がひげとやせ。頭の皮が三枚に、女は役立つ。牛はステーキにして、三人の子供はトランプの相手、もう一人いたっけ、あたしは河童の頭領、美しいひいえるさ。」
かっぱ舟が十三そう、弓矢をとって、まわりを囲む。
舟は、河童のとりでへ引かれて行った。
どさくさあって、わらの山にもぐって寝ていたぴったらを、三人の子どもが、ゆり起こす。
「大商人は身の代金、
やせとひげはこぎ手になって、
頭の皮三枚と、
牛のステーキ何人分。」
ぴったらは飛び起きて、笛を吹いた。
美しいひいえるさと河童どもは、酒盛りの真っ最中、わらの山に火をつけて、牛を丸焼き。
ぴいっと笛が鳴る。
牛はもうっと突っ走る。ごおっと燃えるわらの束。
渡し守りがいた。
「河童舟のせんを抜け。」
ぴったらがいう。
「ようし任せとけ。」
車引きがいた。
「かあちゃんのシチュー食いたかったら、物見へ上ってがんがん叩け。」
「ようし。」
といって、物見へ上ってがんがん叩く。
「そうれ獲物だ、でっかいぞ。」
河童どもは弓矢をとって、乗っ込んだ。
そいつが沈没、あわてて引っ返したら、とりでは大火事。
朝になった、身の代金も頭の皮も車引きも、みんな帰って行って、美しいひいえるさと、河童の一00人が残った。
「舟もとりでもなくなった、ぴったら大将につく。」
「美しいあたしは、お嫁さん。」
そう云って、牛飼いのぴったらと牛のあとへ、行列を作った。
青い石塀に、花と緑のかんのーきの町があった。
三人の子どもが歌う。
「人もうらやむかんのーき、
泉にあふれ花に花、
女ばっかり多くって、
それになんだか臭うぞ。」
町長が、白い旗をかかげて出る。
「云うことは聞こう、どうか攻めんでくれ。」「河童の一00人とわしらに、飯を食わせてくれ。」
ぴったらがいうと、うどのスープとにらのカレー百四人分、たいへんにうまかったが、におう。
「十日は食わせてやれるが。」
町長はいった。
「十日で、この町に下水を作ろう。」
ぴったらがいった。
河童の一00人と、
「えんさあほい。」
石を担いでみぞを掘り、
「さあさほい。」
町中の、たいてい女たちが手伝った。
下水道ができた。臭いは消え、河童の一00人は、かんのーきの一00人女たちと、夫婦になった。
赤いシャッポの三人と、美しいひいえるさと、牛飼いのぴったらは旅を続けた。
霧のふーたら山を背に、古いあーたらのお城がたっていた。
三人の子供が歌う。
「あーたらの古いお城に、
むかしは立派な王様がいた、
霧のふーたらに食われて、
三人博士も赤とんぼ。」
まっ白い年寄りが、謎をかけた。
「二本足、双子はあべこべ、追っても追いつかぬもの、なーんだ。」
「それは虹だ。」
ぴったらが応えると、ふーたらの霧が伸びて、年寄りをぺろーり食って、云った。
「朝は長く、昼は短く、夕は長いもの。」
「ないものにおびえる、それは影だ。」
ぴったらは云い、
「今度はこっちからだ、知りえないのに、知ろうとするものはなーんだ。」
と聞いた。
「それは心だ。」
ふーたらの霧は晴れ、黄金のあーたらのお城が門を開く。
「ばんざい。」
人々が叫んだ。
「ふーたら千年のなぞを解く、牛飼いのぴったら。」
「われらが王さま。」
ぴったらと牛はお城に入った。
美しいひいえるさはお后になった。三人の子供は、三博士になった。
だったひらは、鷹を腕に歩いて行った。
行く手に、巨人が立った
「ここを通るなら、おれを倒して行け。」
という、だったひらの鷹が、その耳をつん裂いた。
「次は目だ、そこをのけ。」
「いやのおーろだ、国は荒れている、おれを倒す勇者を待っていた、家来になろう。」

といって、あとへ従った。
山のやしんの郷に、六人の男が立った。
「山のやしんの、槍のいっこう。」
「刀のにこう。」
「弓のさんこう。」
「旗のしこう。」
「太鼓のごこう。」
「縄のろっこうだ、ここを通るなら、わしらを倒して行け。」
任せてくれといって、巨人のおーろが戦った。
六人は巧みに動いて、決着がつかぬ。
だったひらの鷹が、しこうの旗をつんざいた。
六人は乱れて、降参した。
「山のやしんの六人、国は荒れている、わしらを倒す者を待っていた、家来になろう。」

といって、六人はあとへ従った。
山川を行き、一行はのべんこーやの王、ぴらとーの客になった。
「ぴらとーだ、国は荒れている、みなで力を合わせて、治めよう。」
といって、美しい奥方うーらぴが出て、もてなす酒に、しびれ薬が入っていた。
酒を飲まぬだったひらの他は、巨人おーろも、山のやしんの六人も、気がついたら、牢屋にいた。
「ひーひらきんきろの黄金の羽根を、拾って来い、でないとみんな死刑だ。」
ぴらとーが、だったひらにいった。
「すまん、奥がそういうもんでな。」
ひーひらきんきろの羽根にふれると、不老長寿。
ぴっかり若返る。
ひーひらきんきろが睨むと、人は石になる。
たーら山の、めしいのばあさんは百歳で、水を汲んでやると教えた。
「あしたは満月、湖が凍る、ひーひらきんきろの鳥が舞う、黄金の、虹の七色をうつす、そこ狙え。」
満月の夜。
ものかげに隠れて、だったひらは、鷹を飛ばせた。
ひーらりひーひらきんきろの長い尾羽根。
それを拾って、持ち帰ると、
「永遠の美しさ。」
美しい奥方のうーらぴはいった、
「用なしはいっしょに死刑にしておしまい。」 巨人と山のやしんの六人は死刑台、そうして夫のぴらとーもだったひらも。
だったひらのナイフが飛んで、巨人おーろの縄を切った。巨人は山のやしんの六人を助け出し、むらがる兵をかたっぱしから、投げ飛ばして、お城を占領した。
美しい奥方は、ひーひらきんきろの羽根に、あおり過ぎて、
「あーん。」
赤ん坊になって泣いた。
「ばんざい。」
と人々は叫んだ。
「よこしま王の世は終わった。」
「ひーひらきんきろの羽根は、大将軍のしるし。」
だったひらは、巨人と山のやしんの六人の家来と、大将軍になった。
東は治まる、西を平らげようという。
大将軍は、戦の先頭に立った。
黄金の虹の七色に攻め寄せる、
美しいひいえるさは、心配のあまり、食べに食べた。
「一睨みで石に。」
三博士は赤とんぼになった。
ぴったらは笛を吹いた。
ひーひらきんきろの羽根が歌った。
「ぴったらは海を、
だったひらは雪の峰を、
牛飼いは西、
鷹匠は東。」
「そうだった。」
だったひらは云い、ぴったらは云い、二人は旅を続けた。

2019年05月30日