とんとむかし19
鬼の面
とんとむかしがあったとさ。
むかし、かみのの大家さまは、
「おおやさまにはおよびもないが、せめてなりたやとのさまに。」
と歌われたほどの、大大屋であった。
ずっと離れたところに、西のかみのという、分家があった。
これはその縁起である。
よのの村に、かんぞうという男があって、いよという娘と、手に手を取って駆け落ちした。
ひようとりしたり、危ういめして、あちこち渡り歩いたが、雪のちらつく日、磐井神さまの前に、二人してこごえていた。
いわい神のほこら、用もなし開けると、鬼がとっつくという、鬼に食われたっていい、もう行きどもねえといって、開けて中へ入って寝た。
朝になって、変わったこともなかった。
ではまたかせごうといって、村へ下りて行った。
大きなお屋敷があった。
かんぞうが行き、だめじゃったといって出て来た。
手に三両の金を持つ。
いよがどうしたのと聞くと、
「はてさ、くれたんだ。」
と云った。
どうしてとも聞かず、港へ行くと舟が出る。
「あれに乗ろう。」
「そうしますか。」
と云って乗り込んだ。
そこへお役人が来た。
「かみのの大家さまに、押し込みが入った、舟を調べる。」
という。引き出され、駆け落ちが知れたら困ると思い、きついせんぎもあったが、まぬがれた。
舟は出て行った。
急に荒れ模様、戻したほうがいいと船頭が云った、
「このまま行け。」
だれか云った。
目つきのよくないのが脅しあげる。
時化になった。
舟は、木の葉のようもてあそばれて、かんぞうといよは抱き合った。
「そうか、おまえらが押し込みだな。」
「なにをいう。」
「ばちあたりめが。」
海は荒れ狂い、
「だったらどうした。」
「うばった金を返せ。」
争いが起こる。
気がつくと、いよとかんぞうの二人だけだった。
舟は流されて行って、浜に押し上げた。
村人に救われた。
破船を小屋にして、二人は住んだ。
そうして、子どもが生まれた。
五つには、もう大人なみの、大きな子だった。
よしぞうといった。
大きいくせに、流れもん、お拾いさんの子と云われて、泣きべそかいた。
流れ木を引かせると、牛のような力があった。
「なんで泣かされる。」
と聞けば、ふうと笑う。
みんな、よしぞうの大力を、いいように使う。
「だってさ、こわれそうだで。」
と、よしぞうが云った。
母はにっこり笑った。
一家は、流れ物を拾って、たきぎをこさえ、売れるのは売ったり、日ようとりして、かつがつ暮らした。
ある年、行き倒れがあった。
女の子をつれていた。
夫婦に助けられて、
「流れつかなかったか舟が、十年まえ。」
と聞いた。
息を引き取る。
鬼が出たんだといった。
ぶんなぐり、腕へし折って、だれかれ海へ投げ込んだ。てめえ飛び込んだのもいる 船頭のわしだけ助かった。
見たんだ。
押し込みが大金を舟へ隠した。
「どうか娘を頼む。」
と云った。
かんぞうはその子を育てた。
行き倒れん子というのを、よしぞうはかばった。
手をなぐだけが、何人吹っ飛んだ。
流行り病で、夫婦はあっけなく死んだ。
いまわのきわに、
「かくかくしかじか。」
と云った。
「若しや、わしには鬼がとっついている、三両の金は使ってしまった、屋を捜してみてくれ、大金があったら、かみのの大家さまのものだ、お返し申し上げて、わしの証を立ててくれ。」
鬼であっても、おまえにはかかわりはないと云った。
よしぞうは舟を捜した。
帆柱であった底に、大金があった。
「かみのの大家さまに。」
「きっとあたしも返しに行く。」
みよというその子が云って、二人は旅立った。
辛い旅だった。何十日もかかった。
楽しかったと、みよは云った。
かみのの大家さまの門前であった。
あっちへ行けというのを、
「長い道を来た、会ってくれねば押し倒す。」
よしぞうが手を掛けると、大門がゆらぐ。
門番は肝をつぶした。
まっしろい髪の主が出た。
わけを云って大金を出すと、涙を流す。
「押し込みが入って、一人二人殺され、悪党どもは、お倉を破って担ぎ出す。そこへ鬼の面をかぶった人があらわれた。」
という。
叩き伏せた。
押し込みは命からがら逃げた。
面を脱いだその人に、盗人の落とした三両を押しつけた。
はてと思ったらもういなかった。
おまえさんがお子か。
大恩人だ。
「金はおまえのものじゃ。」
と云い、
「わしらの分家を名告れ。」
と云った。
かみのの名とともに、いわい神も分家した。
よしぞうはみよと夫婦になって、西のかみのは十何代も続く。
いわい神の記述は、他にはない。
いかだの海
とんとむかしがあったとさ。
むかし、あいおい村に、じーたらというわるがきと、さんにという女の子がいた。
さんにはままっこで、おんぼろ着て、あかぎれこさえて泣く。
じーたらは、手下つれてのし歩き、かっぱらったり、召し上げたり、どっついたり、しようもないことして、なりはもう大人並だった。
「泣き虫たにし。」
まっくろけの、なんか云うと、だまっちまうきりの、さんにに、じーたらは云った。
「食え。」
盗んだ柿や、手下のもの取って、食わせたり、がきかっぱじいて、女の子をかばった。
あるとき手下どもが、もちなと焼いて食って、明神さまのお社、燃してしまった、
「おらがやった。」
じーたらは云って、
「村に顔向けならねえ、勘当だ。」
親は云った。
「あとはおじに取らせる。」
「そうかい。」
といって、じーたらはおん出て来た。
持ち物といったら、おっかさんが持たせた、ふろしき一つ、泣き虫たにしの、さんにが見上げる。
「ばか、おらは追ん出されたんだ。」
といっても、あとついて来る。
昼になった、ふろしきには、でっかいむすびが四つ入っていた。
二人分けて食った、
「塩むすびはうんめえなあ。」
というと、さんにはじーたらに三つ、一つでいいからって、腹へって水飲んで、夕方になった。
「宿るとこねえか、まんま食わせてくれてさ。」
といって行くと、舟つき場があった。
明かりがついて、のっこり入って行くと、
「いかだ師が風邪引いて、寝込んだ、だれかにいどまで行ける者ねえか。」
と云う。
「いかだなら任せてくれ。」
じーたらは云った、
「じいさまいかだ師であって、赤ん坊のころから乗ってらあ。」
「じいさまってだれだ。」
あてずっぽう云うと、
「そうかたけしの孫か、頼りがいがあるってもんだ、あした早くに出て、向こうへついたらだちんもらえ、おめえのもんだ。」
と云った。
あした、じーたらはさんにと、いかだに乗り込んだ。
棹をついて押し出すと 流れに乗る。
筏は七つ、どうやら川を下って行った。
「どこ棹使えばいいか、ほうら。」
あぶなっかしく。
泣き虫さんにがはしゃいで歌う、ふた閉じたにしが、
「日は照っても、
雨さんさ、
狐の嫁入り、
虹が出た。」
でもって、じーたらのいかだ師も歌った。
「いかだどんざん、
大蛇になった、
かま首もたげりゃ、
おっぽはふるえ。」
早瀬は大苦労して、とろにはまた、大苦労して、日は照って、川風吹いて、
「狐のおしろい、
まっしろけ、
涙流して、
あばた面。」
さんにが歌って、
「おっかさんの、
塩むすび、
四つ食ったら、
いかだぎいっこ。」
じーたらも歌って、長い一日が過ぎて、岸辺に寄せて、しっかりつないだ。
鍋やかまもあった。
三日分の食い代。
「いかだ師は食いっぱぐれん。」
二人はまんま炊いて食って、ぐっすり眠った。
二日目は、急流があった。
危ない瀬があった。
深い淵があった。
河童がいて、しりこだま抜こうと、待ちかまえる、
「見た、かっぱのお皿。」
「うん見えた、あれはしっぽだ。」
「こわくない。」
「さーてな。」
流れに、いかだが重なって、
「ぶーいどんどん、
しりこだま、
かっぱのあたまも、
へのかっぱ。」
と聞こえ、
「りんき起こすな、
よーいどっこい、
たぬきぶんぶく、
坊主に化けた。」
じーたらのいかだ師は、七つあるいかだの、一つをほどいた、
そうしたら、
「ちちんぴよぴよ、
ごよのおんたから、
ごーんどん、
花見に一杯。」
と云って動いた。
とろへ来て、
「あっちの水はにーがい、
こっちの水はあーまい、
どんどら。」
よどっぱたに、かき集めたら、半日かかった。
まんま食って、くたびれて眠った。
その夜ひょうのせが出た。
ひょーのせは、まっくらがりと同じで、青い目ん玉が二つ、
「でっかいのとちっさいのと、なんでまたいかだをわたす。」
ひょうのせが聞いた。
「まんま食うんだ。」
じーたらがいった、
「うち追ん出されたか。」
「うん。」
「とって食おうか。」
「食うな。」
「あたしは泣き虫たにし、あたしをとって食っべて。」
さんにがいった。
「食われたいか。」
「食われたくないけど。」
ひょうのせは、灰色のながーい舌で、二人の背中を、べろうり舐めて、行ってしまった。
「こわかった。」
さんにはふるえ、
「あいつは、影法師を食うんだってさ。」
じーたらが云った。
「影なけりゃ、いじめられる。」
「舐められたで、もういじめられん。」
二人はぐっすり寝た。
川はゆるやかになって、にいどの町はもう三日。
急に水が増した。
「どっかで雨が降ったんだ。」
「ずんずん行く。」
じーたらのいかだ師が、棹をさすと、七つのいかだが、拍子をとって歌う。
「どんがらぎいっこ、
早い流れに、
百合の花、
ごうろごっとん、
おそい流れに、
まくわうり。」
しぶきが云った。
「泣き虫たにしは、
ふたをぷったか、
いもりのしっぽに、
とっついた。」
さんには耳をふさぐ、
「どんがらぎいっこ、
深い淀には、
星の影、
ごうろごっとん、
浅い淀には、
月の影。」
流れが云った。
「わるがきべろうり、
舌を出し、
追ん出されたら、
影ばっか。」
虹がたって、そのむこうにでっかい影法師。
そいつはかわうそだった。
「化かすっていうぞ。」
「いいもん、泣き虫たにしが、とっついてやる。」
かわうそがのっぺり。
もう忘れてしまった、それはおっかさんの顔。
さんにはおーんと泣いた。
じーたらにしがみつく。
虹が消えて、雲がぽっかり浮かぶ。
流されて宿れず。
まっくらがりを行くと思ったら、ぽっかり月が出た。
「ようし、いかだ師は眠らず食わずだ。」
「うん、眠くない。」
とき色の月、
水色の月。
「お月さんいくつ、
十三七つ、
じーたらいかだ師、
泣き虫たにし。」
さんにが歌う。
「月に棹さし、
おいらのいかだ、
てっぺんかけたか、
ほととぎす。」
じーたらは棹をさし、
「流れは速い、
お月さん、
どーんと過ぎて、
どこへ行く。」
「塩にぎり食って、
雲のうえ、
大人のいない、
夢の国。」
いかだは流れて、にいどの町を過ぎた。
どうしようもならん、二人は押し出されて、海の上。
棹はとどかん。
いかだは、七つつながって、もう水も食べものもなし。
舟が通る。
おーいと呼んでも、聞こえん。
夜が明けた。
くじらが浮かんで、潮を吹いた。
気がついて、舟がよって来た。
「子どもではないか、いかだに乗ってどこへ行く。」
「にいどの町へ届けに行ったら、大水に押し出された。」
「そいつはたいへんだった。」
いかだを引くわけにはいかん、二人舟へ乗れといった。
「いかだ届けんけりゃ。」
じーたらが云った。
「では町へ知らせよう。」
舟は、水と食べものおいて行った。
夜になった。
「波はくうらり、
十五になっても、
ままっこで、
赤かいべべ着た、
お地蔵さん。」
さんにが歌った。
「飛び魚ぴっかり、
あっちへ飛んだ、
しいらの口に、
とびこんだ。」
じーたらが歌った。
「わるがきどんざん、
泣き虫たにし、
波はくーらり、
どこへ行く。」
「ぎっちらゆーらり、
七つのいかだ、
竜宮城へ、
とどかった。」
夢のような一夜が明けて、島影がない。
「どうしたんだろ。」
「いかだが流される。」
西も東も世のはて、
「おしまいだ、さんに。」
「うん楽しかった。」
こんぶが漂いついた。
七つのいかだより、長いこんぶが。
くらげや魚がとっついた。
虹のような冠つけた、竜宮の使いが来た。
竜宮城へ行く。
泣き虫さんにが乙姫さま、
「どうしてあたしが乙姫さま。」
かがみだいに映したら、なんという美しさ、
「ではおれは浦島太郎。」
じーたらのいかだ師は、たくましい若者になって、
「玉手箱さえ、あけなけりゃいいんだ。」
と云って目が覚めた。
二人こんぶをなめていた。
「おーい。」
と呼ぶ、
「にいどから、迎えにきたぞ。」
といって、舟が来た。
「よくまあそこまで、守ってくれた。」
「たけしの孫ではないようだが、立派ないかだ師だ。」
と、そう聞こえ。
太った姉さま
とんとむかしがあったとさ。
むかし、よののさんべえ村に、いっかくという男があった。
いっかくは、烏天狗の仲間で、夜な夜なこうもりになって飛んで行くと、人の噂であった。
よいちの子が神かくしにあった時、いっかくのこうもりがさがし出したし、山ノ内の嫁をひっさらった男を、ふん捕まえたのは烏天狗、いやさらったのは烏天狗だ、という人もいる。
人はよっつかなかった。
田部の十郎兵衛さまに、安の守からお輿入れという、やんごとなき安の守から、そりゃ美しく清うげな、
「あんまりもったいなやの。」
といって、姫さまご馳走が大好き、食っては食って、婿どんのもう三倍はあるという、
「うちは倹約の家柄だ。」
人のものはおれのもの、爪に火点して、成り上がった十郎兵衛さま、押しつけの嫁さま、
「断わったら、立ち行かなくなる。」
なんとかならんかといって、烏天狗のいっかくを呼んだ。
「どうなさろうというんで、その女殺しますか。」
いっかくはあっさりいった。
「穏やかに行くてだてはないか。」
「穏やかにというんなら、祝言上げりゃいい。」
「ほかに良縁を。」
ていのいい、
「十両で引き受けんか。」
引き受けないと、いっかくが立ち行かぬ。仲間に女たらしがいた、そっちの方は不得手だった。
やんごとなきお方に、烏天狗一党こそお仕えもうしたのに、今はなんせ汚い仕事をする。
因みにいっかくは歌を詠む。
そりゃもうその、
「じつはさるお方さまの。」
といって、やすだという女たらしを呼んだ。
十両やるから駆け落ちしろ、
「なにいっときでいい。」
一丁さけたと思ったら、やすだが来た。
「あの女にはおれの手管が利かぬ、音を上げた、もう食っては寝たっきり。」
と云う。
「名うてのおまえをもってしてもか。」
そりゃ恐ろしい、
「けっこう美しいのだ、こっちがしまいにゃ惚れた。」
口惜しそうに、十両返す。
では襲うしかない、かっさらって、木の上にでも置いとけ、食っちゃ寝の太ってりゃ、十日たっても死にゃせん、ほとぼりの覚めるまで、
「高貴のお方お一人分で、われら何十人食えるか。」
いっかくは憎々しげに云う。だが殺しは嫌いだ。
しずしずと、お付きのもの二十人も従えて、花嫁行列はやって来た、
「うーむあれか。」
辺りを払う風の。
向こうの山影だ、仕掛けは用意万端、
「白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける。」
場違いをいうのが、いっかくで。
ふわっとさらい上げるつもりが、
「う、ううむ。」
骨が折れる。
ぎりっといって、すんでに墜落。
花嫁御料が姿を消す。いや大騒ぎ。
どさっと茂みへ。
声が近づいた。花嫁の口をふさいでいっかく、
「世の中は常にもがもな渚漕ぐ海士の小舟の綱でかなしも。」
場違いを、急に大人しくなった。
いっかくの一人住まいへ、連れ込んだ。
逃げたらそれもよし、十郎兵衛さまへ行って、
「なんとかなりそうですか。」
そらっとぼけた。
「神隠しにあった花嫁というわけか、そういうこともままあった、たいていは泣き寝入りする、沙汰止みってことでな。」
自ら能書きして、
「こうもりがさらったと、云っていたぞ。」
「見られたか、なんせ重たいもので。」
「ふむ。」
婿どのは捜した。
なんにもせぬってわけには。
いっかくの住まいだった。
太ってはいるが美しい、哀しいような魅力があって。
これはと思う。
云いよったらけんもほろろ、
「決まった殿ごがおります。」
と云った。
「いやそれはわたしだが。」
「ちがいます、この家の主です、しばらく辛抱しておれと申され、こうしてお待ちしております。」
「夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいずこに月やどるらむ。」
え、なんのこった。
せがれは親を問いつめた。
困ったのはいっかくだ。
とんだ醜態が、きっとこれは仕返しだ。意趣あるって、なんでだ。
姫さまはほどよく痩せて、
「お待ち申しておりました。」
といった。
恥じらい艶然。
「父から、わたしをさらって下さった、頼もしいとのご。」
という、
「どんな仕返しを。」
「いえ仕返しなんかもういいんです。わたしは幸せです。父からたんまり持参金を、うっふ、あらはしたない。食べてばっかりの、もう女ではない、この世を辛く、やるせないものと思っておりました、でもそうではなかった。」
「あひみての後の心にくらぶれば。」
「むかしは物を思はざりけり。」
二人場違いか。
しがない天狗稼業を、なぜに。
「商売替えだ、おたがいにな。」
女たらしのやすだが大笑いした、
それが、持参金の上に土地までついた。
田部の十郎兵衛さまは没落し、烏天狗が取って代わった。
場違いの姉さま、にっこり笑まうと、万人を魅了する。やんごとなきどころではなく、いっかく千金とは、これを云うんであったとさ。
きよらんばいのかぼちゃのスープ
とんとむかしがあったとさ。
むかし、しんくーい村にきよらんばいという、かぼちゃ作りの名人がいた。
かまどのようにでっかいかぼちゃや、数珠つなぎになったのや、だれかの顔だったり、牛の角だったり、うさぎのように、ぴょーんと跳んだり、いっぱいこさえて、なんにもならん。
「あたしそっくりが、一番かぼちゃ。」
と、かぼちゃそっくりの、かあちゃんが云った。
とのさまは、げてもの食いで、きれいな女の人が好きで、かぼちゃなんか、見向きもしなかったが、浜に釣りに来て、
「なにかうんまいものはないか。」
と云った。
家来が、あっちこっちかけずり回って、天下一品、かぼちゃのスープというのがあった。
いっぱい飲んで、
「うーんすっきり。」
とのさまは、ささげもった、かぼちゃそっくりのかあちゃんに、
「これはなんだ。」
と聞いた。
「きよらんばいのかぼちゃのスープです。」
苦しゆうない、下がっておれと、とのさまは云った。
秋になった。
きよらんばいのいっぱいかぼちゃを、子供らが担いで、海へ押し出す。
かぼちゃ流しは、先祖の祭り。
みんな浮かべて、
「どんぶらかぼちゃの、ぼっちゃぼちゃ、
花が咲いたら、実がなった、
でんぐりかえって、ねーこの目、
世界一周、鼻提灯、
くじらがどーんと、潮を吹き、
どんぶらかぼちゃの、ぼっちゃぼちゃ。」
きよらんばいのかぼちゃは、流れて行った。
スープはだめだで、スープのレシピも。
「どんぶらかぼちゃの、ぼっちゃぼちゃ、
種を蒔いたら、芽が吹いて、
くーるりまわって、とんびぴーとろ、
竜宮城のお使いは、
百疋いるかの、行列だ、
どんぶらかぼちゃの、ぼっちゃぼちゃ。」
かぼちゃと、スープのレシピは、流れて行って竜宮へ。
天下一品、きよらんばいの、かぼちゃのスープ。
そりゃあもう、天下一品。
「ほうびに何が欲しい。」
乙姫さまが云った。
「かぼちゃそっくりのかあちゃんを、美人にしたら。」
と、たいやひらめが云った。
「そうかな。」
乙姫さまは、きよらんばいのかあちゃんを、乙姫さまそっくりにした。
かあちゃんが咲まうと、雲は歌い、草木もなびき、
「乙姫さまそっくりの。」
といって、知れわたった。
げてもの食いで、きれいな女の人の好きな、とのさまが、召し出す。
「すっきりかぼちゃのスープを、もってまいれ。」
きよらんばいは困った。
「行ったら帰ってこれん。」
美人のかあちゃんに、かぼちゃをかぶせ、きおーかのしびれ薬を、スープに入れた。
「ひいひいういやつ。」
とのさまは、スープを飲んだ。
きおーかの、苦い味。
かぼちゃのかあちゃん。
「苦しゆうある、下がっておれ。」
と云った。
でもって、きよらんばいが、かぼちゃを作っていると、軍隊が来た。
「しびれ薬を飲ませ、かぼちゃをかぶったり、とったりしたな、国家争乱罪だ。」
といって、乙姫さまのかあちゃんを、引っ立てた。
「もうだめだ死のう。」
きよらんばいが云ったら、子供らが、
「ばくだんかぼちゃに、たいほうかぼちゃ、数珠つなぎのマシンガンに、げんばくかぼちゃ。」
といって、かぼちゃ軍団を編成。
美人のかあちゃんは、搭に押し込め。
「わあ。」
といって、塔を攻め寄せた。
どかんぼっかん、ばか。
「子供は、うちへ帰って勉強だ。」
ひげの大将ににらまれて、退散。
「ありがとう、死なんで生きるから。」
と、きよらんばい。かぼちゃばくだん、じゅずやら、げんばくかぼちゃの種が生え、見るまに伸びて、搭のてっぺん。
美人のかあちゃんは、伝いおりて逃げた。
乙姫さまに頼んで、かあちゃんをもとに戻したってさ。
「でも。」
かあちゃんが云った。
水に映すと、乙姫さまにそっくり。