とんとむかし27
ろくでなし
とんとむかしがあったとさ。
むかしいいし村に、かんぞうというろくでなしがあった。
口笛吹いて鳥を寄せ、めじろやうぐいすを鳴き合わせて、それでばくちしたり売ったりして、まともなことはせん。
まともになるようにって、嫁さまいいし神社にお参りした。かんぞうはせせら笑う。嫁さま出て行った。
かしがった家に寝ていたら、仲間が来て、旅に出ねえかという。
「ぜにんなりゃ。」
「十両だ。」
「そりゃ大金だ、もしや命いらねえってやつか。」
「まあそうだ。」
かんぞうは引き受けた。
どんなこったって、鳥籠背負って、日なしのご城下まで行く。
「なんでそんなんが命がけだ。」
「えっへ。」
へらーり笑って行ってしまう。
鳥は六羽いた。
ピーと鳴く、ヒーヨと鳴く、ホーホケキョと鳴く、チンチロリンと鳴く、大きな紅色の鳥は鳴かぬ、しっぽの長い鳥はジーヨと鳴いた。
「ふーん、なんか庭先みてえだな。」
そういって、かんぞうはでかけた。
風呂敷かぶせりゃ鳴かぬ。
えさを与えて、十日の旅。
道ずりに女がよって来て、一羽ゆずってくれと云った。
「だめだよ、あつらえの品だ。」
「一両でどう。」
という。
かんぞうは売りたくなった、持ってきゃ十両。今度はおさむらいが来て、
「その赤い大きなやつ、三両で買おう。」
といった。
「預かり物でありまして。」
「ふーんこれでもか。」
刀をぎいらり。
「く。」
がくがくいったら、
「さようか。」
と云って、行ってしまった。
「売っぱらって、別の入れときゃよかった。」
といって、かんぞうは、もずをとっつかまえた。
ひきがえるをふんずけて、
「いい声で鳴け、助けてやる。」
といったら、鳴いた。
「ゲエロピッカラシャン、ヨネヤマサンカラツキガデタ。」
「へえ。」
といってそやつ、鳥籠に入れた。
何人かまた来たが、一文とか三文とか、それじゃだめだ。
日なしのご城下へついた。
鳥屋があった。
鳥居があって、竜宮城のような鳥屋で、
「こんなもん、世の中にあるんか。」
あきれて見上げるのへ、石のような男が出た。
「鳥飼か。」
「へい。」
「習い覚えて鳴くという、朱け鳥は鳴いたか。」
と聞く、
「はて。」
「見せてみろ。」
つくずく見て、赤い鳥をつかまえて、別の籠へ入れた。
「十日与えたのに、なんていうことだ。」
石男は云った。
「一日待とう、鳴かずば命はないぞ。」
十両で獄門さらし首。かんぞうは必死になった。
ほかの鳥が鳴く、
「チチンピヨピヨホーホケキョジーコギリギリカンカゴヨノオンタカラ。」
風呂敷かぶせた。
どっしり石男が出る。
「へいこのとおり。」
「チチンピンカラルルーゴヨノオンタカラ。」
ひきがえるが鳴いた。
「ふむ。」
「十両くれ。」
風呂敷をとるなといって、ふんだくって逃げた。
ばくちを打っていた。
十両ある、かんぞうは仲間になった。
すってんてんになりかけて、鳥を一両で買おうという女がいた、ぎいらり刀を抜いたおさむらいがいた、一文で買おうという男も三文の男も、
「どうだ鳥は鳴いたか。」
みなして云う。
「鳴かねえ。」
「ではだめか、わしらの郷はおしまいだ。そうかい、まあ十両にはなった。」
という、いっせいに立つ、かんぞうはすってんてん、
「待ってくれ、」
追いかけると、ばっさり、おさむらいが首を刎ねる。
「ホーケキョトンカラフーイジュリ。」
首が鳴き続ける。
ひきがえるというのは、
「そうかこのおれだ。」
朱け鳥が舞う、
「ホーロ。」
と、この世ならぬ声で鳴く。
向こうへ行く、それは嫁さまであった。
目が覚めた。
よだれたらして寝ていた。
「ピイチクジュリ。」
もずがさえずる、他の鳥の鳴き真似をする。六羽分が一羽でろくでなし。
かんぞうは大欠伸。
「お里へ帰らせて頂きます。」
嫁さまが云った。
うん、鳥居に石男って、あれはいいし神社。
「わかった、出て行くな。」
かんぞうは、あと追いかけた。
法玄だぬき
とんとむかしがあったとさ。
むかし、いつよし村に、法玄という祈祷師があった。
人のかかさらって、いっしょに暮らしたが、なんせ乱暴者で、手が付けられぬ。
「おかんを返せ。」
というのを、来たいってえから、面倒みてやってるんだといって、逆にぜに巻き上げた。
ご祈祷はよく効いて、失せものがあったり、病気が治ったりした。
乗っ取りかかのおかんは、うんまいもの食って、ぞろっぺい着てねり歩いた。
法玄より、力があると云われた。
機嫌をそこねたら、ろくなことはない。
三郎屋敷の、お倉のかぎがなくなった、法玄がご祈祷して、
「向こう山のほこらにある。」
と云った。ほんとうにあった。お倉へ入ろうとしただれかが隠した、それは下男の作三だという。
「おらあそんなことはしねえ。」
と、作三は殴り込んだ。
法玄をぶっ飛ばすのへ、おかんが呪文を唱えた。
うわっと、作三は右目を押さえる。
六郎の娘がばりこいたら、お宮に向いていたというので、腫れものができた。
ご祈祷したら、頭がおかしくなった。
ものも云えずなって、右へぐるぐる回る。
「腫れものは治ったんだ。」
どうしてくれるというのを法玄は、引き取って使った。
人が来る。たいていしてから、娘を出す、
「そうではねえ、風車。」
なにかわかんねえこといって、右へ回る。
つきものが落ちる。
そりゃ効くのも効かんのもあった。
よだれしてけったりを、
「へんなことしたら、せっかくの。」
とおかんがいう。
法玄も手を出さず。
めっかちになった作三も来て、手助けした。
作三は、右手をあげるだけだったが、まあ効き目はあった。
「がらんどう。」
と云ったりした。
十年たった。
子供は次から死んで、一人だけ育った。
伊太郎という子で、親の仕事がいやで、十四になったら、
「おらおさむらいになる。」
といって、飛び出した。
「さむらいになんかなれねえ。」
親云ったが、それっきり。
流行り病があった。
お城の奥方さまが、寝たきりになった。
にんじんのような薬も効かぬ、法玄は呼び出されたが、年よって足腰が立たぬ。
「われらが法力を示すとき。」
せがれさへいたらというのへ、
「このわたしが。」
と云って、おかんは、作三と娘をつれて行った。
それっきり帰らなかった。
奥方さまの病を、おかんは治した。
それが冬であった。
寒空に、すっぱだかにして立たせ、容赦なくむち打つ、娘が右へまわる。
作三が手上げるまで。
奥方さまはすっかりよくなった。
名が上がって、ご城下で、三人で住んだ。
おかんは年のわりに若く、妖しい目つきして、
「返せのおかんの、
流し目に、
真っ赤な鳥居も、
おったてた。」
なといわれて浮き名を流し、刃傷沙汰もあった。
また別の病が流行った。
お城からおかんに、ご祈祷をしろといって来た。
占うと、
「河の神の祟りじゃ、若い命を、いけにえにして祈れ。」
と出た。
「男でも女でもいいか。」
「火あぶりにしてご祈祷じゃ、どっちでもいい。」
という。
死刑囚が、引き出された。
刀をうばって、人殺しをした、取られた方は、腹かっさいて死んだという。
見れば、家出した伊太郎だった。
おかんは伊太郎と逃げた。
駆け落ちしたと、人は云った。
それっきり行方知れず。
めっかちじいさと右へ回る娘と、ご城下をさまよい歩いた。
死んだ法玄からきのこが生えた。
そやつが、霊験あらたかであったという。
「法玄だぬきに、
返せのおかん、
月見どっくり、
がらんどう、
よだれたらして、
転がった。」
という、まりつき歌があった。
白鳥神社
津軽冬の旅の幻想
とんとむかしがあったとさ。
むかし、三林村に、白鳥神社というお宮があって、子どもがよったくって、遊んでいた。
めくら鬼したり、かくれんぼしたり、泣いたり喧嘩したり、大人になると、なつかしい思い出だった。
あるときみよという子が、白鳥を見つけた。田んぼに落ちていた。それを三郎が拾って、まだ生きていた、みなして神社に持って行った。
「ここはおおとりさまだ、おおとりって白鳥のことだ、だから生き返る。」
よし太がいった。
こもをしいてのせて、看病した。水を含ませ、食べさせ、
「だめだ、やわらけえもんねえか。」
「どじょう食わねえか、やわらけえぞ。」
「さぎは食うけど。」
「もみからだ。」
「向かいにお葬式がある、ごはんも上がるで、とってこよう。」
あよがいった。そうして盛りもののごはんと、お飾りのお砂糖を、こっそりとって来た。
白鳥は、汚れて黄色い羽をしていたが、水を飲み、少しは食べたようで、みなして白鳥神社にお祈りして、三郎とよし太と、みよとあよとゆいと、一つ二つ違いの五人でもって、一晩見守った。
「北へ帰るんだ、白鳥は。」
「遠いとこ行くのに、はぐれて落ちたんだ。」
「帰らずにいりゃいいのに。」
「きっと冬しか食い物ねえ。」
「そうかなあ。」
「人は死んだら白鳥になるって、ほんと。」
「えらい人ならって。」
夜っぴで看病したのに、冷たくなっていた。五人はがっかりして、まどろみ寝入って起きたら、白鳥はいなかった。
「生き返って飛んで行った。」
「そうでねえ、けものに取られた。」
といって、みんなして大空を仰ぐ、雲が浮かぶ。
「仕方ねえなあ。」
といって帰って行った。
七年たった。
なぜか知らん、みんな白鳥神社に集まった。
三郎は大工の見習い、よし太は田んぼのあとつぎ、みよは奉公に行き、あよも奉公に行き、ゆいはお嫁さんになって行く、十三であった。
もう会えない。
二十年たったら、また会おう。一晩ここへ泊まろう、白鳥をみとった夜のように、五人はそうしようといって、白鳥神社に泊まった。
急にあたりが明るくなって、何十羽もの白鳥が飛ぶ。
かぎになって鳴き交わして、羽音がとよみ行く、
その群れが一羽になって、舞い降りた。
お宮と同じぐらいの白鳥、
「さあ背中へお乗り。」
という、
「どこへ行くの。」
みよが聞いた。
「大空の旅へ。」
五人は乗った、ちょうどゆったり背中へ。
白鳥は飛び立った。
白々と夜が明ける、
「おや、もう一人乗っているの。」
白鳥が聞いた。
いいえだれもいない、
「よし太に三郎にみよにあよにゆい、五人だけ。」
「そう。」
羽毛が抜けて舞い行く、その向こうにあけぼのの空。
「田んぼつぐより。」
「そうさ奉公に出るより。」
「奉公に出るより。」
「お嫁に行くのより。」
「あけぼのの大空を行く、もう死んだってもいい。」
五人は云った。
たった一つの星が消えて、白鳥は雪のかやっ原に舞い降りた。日がさして、赤い鳥居の白鳥神社。
いえ立派なお店だった。
「さあ朝ごはん。」
白鳥が云った。
五人は好きなものを食べた。
ゆいはお餅を食べて、正月が来たようだといった。三郎は雑炊を食べて、お肉が入っているといった。
みよはおいしいまぜごはんを食べた。
よし太はすしを食べた。あよはてんぷらを食べた。
なぜだろうか、
「母さんがこさえてくれた。」
といった。
がたっといってなにか落ちた。なんにも入ってないおわん。
「だれ、出ておいで。」
白鳥がいった。
白い三角の布をした人がでた。
「わしは亡者。」
という、
「生きてたときは二郎兵衛といった、葬式にごはんと砂糖をとる子がいて、ついて来たら白鳥神社だった。」
そうしてわしもやっぱり、昨夜集まったんだ。
「さよう、冥土から出て来てなあ。」
と云った。
「いっしょに旅につれてっておくれ。」
たまげて五人は協議したが、とっついたりしなけりゃ、白鳥さへよけりゃといって、幽霊を仲間にした。
「重さがないで、だいじょぶだ。」
亡者はへらあり笑った。
「こわい。」
「そうでもねえみてえ。」
白鳥は舞い飛んで、雪の中に大きな河があった。
「三途の川だ。」
「ゆうれいは黙って。」
他なんにも見えぬ、
「だっておらがこえて来たところに、よく似てる。」
白鳥は舞い降りる。
虹がさしかかる、
「呼んでごらん、だれでもいい会いたい人を。」
白鳥がいった、
「ではおら、ねえなったばっちゃん呼ぶ、ばっちゃん。」
よし太が呼んだ。よし太のばっちゃが現れた。
「大きくなったのう、もう大人か。」
という、
「そうだ。」
「いい嫁さくっといいなあ。」
「おらばっちゃのこと忘れねえ。」
ばっちゃは手をさしのべる、大人より大きいほどのよし太が涙する、もう姿が消える、
「とめさ、若いころの。」
幽霊が呼んだ、ばっちゃはほおっと美しい人に、
「おうおう、なして惚れたおらは、老けてなくちゃいけねえだ。」
ゆうれいがわめく。
よし太は口あんぐり、
「おっかさの倍もきれいだ。」
にっと笑ってふっ消えた。
みおが呼んだ。犬のころを呼ぶ。
白い犬が尾をふって、いっさんに駆けて来る。
抱き上げなでさすり、消える。
ゆいがお嫁に行くその相手を呼んだ。
まだ見ぬ人は二つ年上か、
「あたしの夫になる人。」
「わしのお嫁さん。」
見つめあって、
「二人仲良くしような。」
「はい。」
といって消える。
三郎は大工どん、奉公先の親方を呼んだ。
「若いっから、大工の体こせえてかにゃなんねえ。」
やさしい目をして、大工が云った。
「きびしいこともいうが身のためだ、辛抱せえよ、つらくったってもなあ。」
「へい。」
三郎が答えた。
あよが呼ぶと、それは美しい芸者さんであった。
まわりがめくらめく、
「おまえはきっと流行るであろ、つらいこと顔に出したらだめ。」
「はい。」
「人の幸せをつかむことは、おまえが一番。」
といって消えた。
白鳥は舞い上がって、高い大きな山を廻って行った。
飛んで行く先に、洞穴が開いて、
「こわい。」
「いいから。」
「だいじょうぶだ。」
「まっくらじゃない。」
通り抜ける。白鳥が、
「るてんさんがい。」
と云う。風が、
「きおんにゅうむい。」
と云う。
五人はなんにも知らずに、爽やかになった。
いつかきっとという、それは不思議な思い。
深い雪の中に宿った。白鳥が羽を広げると、大きな家になった。
おいしいものや果物があって、絹のふとんのがあって、明るいランプが点って、そうして温泉が湧いていた。
五人は大喜び、子供のころのようにすっぽろりんになって、
「おっぱいが大きくなったり。」
「黒いものが生えたり。」
恥ずかしいけど。うんおらも、ー
がきのおしまい、大人の初め、歌ったり、はしゃいだり。水をかけっこしたり。笑ったり。
幽霊がひたる。
とめどもなく涙を流す、
「人生というのは、たったおまえらがこれ。」
何かできることはないかという。
「氷の窓に。」
白鳥が云った。
ゆうれいは氷の窓になった、氷の模様が樹海になって広がる、
「さあ行っておいで、時空が失せ。」
五人は氷の樹海に出ていった。
この世ならぬ美しさ。夢幻のように奥深く。 百の物語と、十の世界と、大人になり美しい女になり、化物になりさお鹿になり、孔雀になり、寒くはなく、はてもなく。
あくる日はご城下であった。
白鳥は消えて、大勢の人々と五人は歩いていた。
お祭りであった。
雪の灯籠に、百八つの灯がともって、大人は巡礼のようにお参りし、子供は飴んぼうを舐めて、そうして手をつないで、
「ほうろりほろ、
おおとりさまの、
おあかしいくつ、
十三七つ。」
歌って行く。
「ほうろりほろり、
でとのおみよと同じだ、
とうろうめぐりは、
百八つ。」
「おまえたちはもう大人の仲間入りだ。」
はっぴを着た人がいった。
「男はだしを引け、女は太鼓を叩け。」
だしはそう、おどろおどろの、血刀を持ったり、生首を吊るしたり、美しい女を描いて、恐ろしい鬼や、
「そうさ、浮き世は地獄よ。」
「奈落の底へな。」
「まっぱじめは釜茹で。」
「そうらどっこい。」
どんがらぴーと笛と太鼓、よし太と三郎はふんどし一つになって、たくましい若者だ、
「よーい。」
だしを引く、
「おんどろおどろ、
生首取って、
姫は陽貴姫、
関羽大将、
ひげだらけ。」
みよもあよもゆいも、初々しい娘の、浴衣に赤いたすきをかけて、舞う。
「おんどろおどろ、
腹かっさいて、
孕み女に、
子はいくつ、
孔子さまでも、
人肉食らい。」
ようもわからん歌に、
「はいやっとん。」
「ぴ-ひょろどん。」
みよもあよもゆいも、だしを引くよし太も三郎も。
吹雪はぴえーと吹いて。
どーんと花火が上がって、
「ずーんずうだ。」
夢かや現か。
田んぼに立って、よし太は途方に暮れ。
けかちだった。
稔らずに、すでにさむ風が吹く。
「おらたちは飢えても。」
親がいう。
十三になった娘は売らずばなるまい。
「ばかいえ。」
よし太は、しいなを握った、
「飢え死になら、みんなですりゃいい。」
三郎は、寸法をたがえて、家一軒むだにする、いいやむだにはなんねえ、あっこをこうして、ー
「大工が取り返しなんかつくもんか。」
そうさ。
どうしようもなんねえときはどうしたらいい。
「かくかくしかじか、すべてはこの阿呆のせいだ。」
なんとでもしてくれと云った。
「ハッハッハなんとでもしよう。」
主の明るい声が返った。
奉公先で、みよはお金が紛失して、盗んだと云われ、
「あたしではないです。」
必死にいっても、
「おまえはだらしがないし、することむだきり。」
ぜにが出るまでといって、水だけでつながれた。いっそ死んでしまおう、そうして化けて出てやる。
どっかでみた幽霊。
ぴーと笛が鳴る、
「水さえありゃ一月生きる。」
そうだれかに聞いた。
すっきりした。
「きしんとしてつながれていよ。」
あよは、いやな年寄りの床へ、好きな男が目に浮かぶ、
おんどろ笛太鼓。
いくたびそういうことがあって、人が消えて、光明がさす。
「あよねえさんは仏。」
ぎいっとだしが回る、
「アッハッハ、さばさばと文無し。」
あよが笑う。
ゆいははっと気がついた、
「ぜんぶあたしの我がままだった、なんていうことを。」
地獄絵がよぎる。
五人はお祭りから引き上げた。
白鳥神社がここにもあった。
あしたは海へ出た。
滝が氷っていた。
重たい網を引いてほっけを取る漁師、のりをのりを取る女たち、風はないで、だが荒海、「この寒いのにさ。」
「凍ってすべる。」
「たいへんだなあ、命ねえかも。」
「仕事はつらいんだ。」
ぴょーんと跳ねるほっけ。
真っ青な岩のり。
「こうやって暮らせるな幸せ。」
ばあさが云った。
「そうさ、わしらは漁師だで。」
漁師が云った。
「そうも行かねえのさ。」
なんで。
白鳥は舞い上がる。
車に荷を積んだり、子供の手を引いてて行く。
年よりは置いてけぼり。
おしわけおしのけ、われがちに。
「なんだろあれ。」
「戦だ。」
「いつの世も同じ。」
白鳥が云った。
村を焼き払い、かすめとって、押し寄せる軍勢。
阿鼻叫喚。
白鳥は先へ行く。
蓮の花が咲いていた。
それは冬の真ん中に、
「さあお食べ。」
白鳥がいった。
蓮の花弁の、六弁の椅子があって、はすのみのおいしいお昼。
「腹へった。」
「わあうんめそう。」
「戦だのに、おれらたちだけ食べてもいいんか。」
「そう。」
「その心なければ、おいしいものはみんな火になった。」
白鳥が云う、
「戦をしない人になればいい。」
にっこり笑って、五人は食べた。
そうして舞い飛ぶ。
「やまとは国のまほろば、
たたなずく青垣、
山ごもれる、やまとし美し。」
白鳥が歌う。
悲しく。
おおむかしの村が現れた。
朱の搭が立ち、大きな屋根と、いくつもの屋根と、おかしな格好をした人々と。
「こーい、ほーい。」
みんな叫ぶ。
白鳥は舞い降りた。
渦巻いて溢れる器の水に。
人々が平服する、
「争いしたる者二人、うわさを流すもの一人、病のもの三人。」
何人か出た。
水を注ぐ白鳥。
泡を吹いて死ぬもの、口きけずなるもの、よみがえって歩くもの。
「今生おおとりさまに会えるとは、なんという幸せじゃ。」
涙を流す年寄り。
舞い踊る松明の宴。
「むかしも今も、
人は阿呆じゃ、
むむみょうやく、
むむみょうじん、
たった一つの、
たいまつ明かり。」
気がついたら五人は、朱の搭の上にいた、星群と、それをよぎるくっきり山々と、そうして吹雪の海。
家々の灯火。
どうしたことであろう、西の方が明るい。
燃えさかる炎。
なにものか押し寄せる。
「戦だ。」
明け方には、おおむかしの村は、槍に刀におたけびの。
舞い廻る白鳥を、弓矢が射貫く。
奈落の底へ。
叫びを上げて、五人は回りに集まる、
「なんということを。」
矢を抜いてみとる。
白鳥の羽根は黄色く汚れ、いつか白鳥神社の夜明けであった。
舞い去る。
「そうか、けものに食われたんではなかった。」
五人はいった。
白い三角が落ちていた。
たぬきときつね
とんとむかしがあったとさ。
むかし、たいの村に、さんべえというやまいも掘りの名人がいた。
掘ったやまいもを、わらずとに入れて、売りに行く。
「たぬきにそっくりなんと、きつねにそっくりなんと、ごんぶといやまいも。」
さんべえがそういって、ほんきに腹づつみのたぬきと、耳のとんがったきつねみたいやまいも、ひょうべえというおさむらいが、それを買って、
「えらくうんめかった、今度はほんきのきつねとたぬき担いで来い、やまいもといっしょにご馳走だ。」
と云った。
「注文通りもってこなかったら、手打ちだぞ。」
やまいも掘りの名人は、またぎでねえから、きつねもたぬきも取れぬ。どうしようばといったら、
「にわとりならあるが。」
と、おっかあいった。
「しゃあない、にわとりと油揚げにしとこ。」
さんべえは、掘ったやまいもと、にわとりと油揚げと、わらずとに入れて、担いで行った。
途中急に重くなる、
「はてな。」
といってもって行くと、にわとりのつとにたぬきが入って、油揚げ食いにきつねが入って、
「へ-えそんなことってあるか。」
「わっはっは。」
さすがおさむらい、二匹ともばっさり、
「手打ちにいたした、きつねたぬきのやまいも鍋。」
さんべえ帰って来たら、六地蔵さまが身をよじる、
「助けてくれえ。」
とそりゃ、さんべえのおっかあと、三人の子と、じっさばっさが、わらずとでがんじがらめ。
「なんしただあ。」
ほどいて聞けば、
「おっかねえおさむらいが、刀引っこ抜いて来て、おらたちこうした。」
という。
「ひょうべえめ、用立ててやったてえのに。」
とさんべえ、どうしてくれよう、田んぼのあっぱ汲んで、担いで行った。
ひょうべえ屋敷に、どっぱん、
「ぎゃあ。」
といって、なにが出ると思ったら、たぬきのきんたま百畳敷き、そのうえにまっしろい姉さま。
「嫁取りだってえのに。」
なんてえことをするだ、面目ねえといって、ひょうべえ切腹。
はて、二人とも目が覚めた。
化かされた。
やまいものつなぎ、手打ちそば。
きつねとたぬきだってさ。