とんとむかし31
影の軍団
一、旗揚げ
とんとむかしがあったとさ。
むかし、みやずとまかだとうそらの三国が争って、みやずが破れ、王の中の王いすかんは捕らえられる先に死に、三歳になるその子はったしは、忠義の家来いぬわんぞーが抱きかかえて逃げた。
引っ立てられた子は五人を数え、うわさの村は焼き払われ、吊るされた者数知れず。
逃げおほせて行方知れず。いや殺されたか。 見知らぬ女と夫婦になって、忠義のいぬわんぞーは、世継ぎのはったしを育て、鍛え上げた。
知に長けた男であった。使命の終った証に、だいば河に死体が浮かぶ。
十五年がたった。
北の平らに、
「われはみやずの王子はったしなり。」
と聞こえて、急に千人二千人と数を増やす、
「ついに立ったか、待っておったぞ。」
という。
鵜合の衆であり、野伏せりの仲間を、そう名乗られては、ほってはおけず、うそらの兵が討伐に向かった。
それがうち破られた。
はったしの名は上る。
「王の中の王いすかんを、奸計に掛けて追い落とし、見せかけの三つ巴がよこしまどもへ、今こそは天誅。」
と云い、
「そうさ、美しい后ゆーひんにに目がくらみおって。」
と、人のいう。
みやず人ひくぞうやは、遊び人であったが、十人二十人素手で薙ぎ倒す、竹を割ったような気性で、人気があった。
王子であったらといって、はったしの砦へ向かった。
われもと参じて五十人になった。
北の平らに入る所に、若者が現れて、
「どこへ行く。」
と聞く、
「知れたことよ、うそらの軍勢を破った、はったしのもとへさ。」
「ではおれも連れて行け。」
若者は云った。
「がきはすっこんでな、こいつは命のやりとりさ。」
「ためしてみるか。」
「なんとな。」
女にしてもいい初々しさ、ひくぞうやはあごをしゃくった、
「殺さぬようにな、売れるぜこいつは。」
「わっはっは。」
えいひという、乱暴者が立った。
毛むくじゃらの拳骨をぬうっと見せて、足蹴にした。ひっくり返ったのはえいひで、叫び上げてふん伸びる。
「名はなんという。」
「ぐれん。」
「よし行こうか。」
ひくぞーやはぐれんを連れて、はったしの砦に入った。
軍勢は五千人を超えて膨れ上がった。ひくぞうやは、百人隊長になった、
「一か八かのな、さよう、こんな寄せ集めじゃ次が危うい。」
というのが伝わって、百人隊長をはったしが呼びつけた、
「ひくぞーやと云ったな、何が不足か。」
「すべてな。」
「云うてみろ。」
はったしは、伝えられる十八よりは、相当に上だ、だがなんというのか、人をひきつける、
「一にわしの待遇だ。」
ひくぞーやは云った。
「戦には参謀がいる、長を補佐し、はかりごとを廻らせて、八方に令を下す。」
「ふむ。」
「略奪や盗人まがいは、もう止めねばならん。」
「そりゃたしかだ。」
「規律を整え、わが配下のぐれんというものを抜擢すべし、あやつには才能がある。」
「よくも云いおったな、参謀はわしとわが妻なーんいるでこと足りる。しばらく百人隊長をやっておれ、働きをみて用いよう、ぐれんとかいったな、ではそやつ、わしとの間の伝令にせい。」
ひくぞーやは、まずは引き下がった。
「中の上か、運がよけりゃな、いやさなーいるという、その女が強運か。」
ひくぞーやを値踏みする。
そういうわけで、ぐれんは、はったしのもとへ出た、用はなんであったか、はったしはひげの目立つ大男、
「ひげの他に、みやず王子である証拠は。」
おそれげもなくぐれんは聞いた。気圧される如くはったしは、
「これじゃ。」
といって、みやずの紋章、青龍をしるす、黄金の短剣を見せた、
「この通りじゃ、わしに命を預けるか。」
「正義があれば。」
「二国のよこしまに、民は苦しんでおる、みやずはしいたげられ、かつての平和はない。」
「それはまことだ。」
ぐれんは云った。
はったしは、うそらの出城ひーとりよを襲って、半分を殺し半分を従わせ、村や町をかすめとって、たいていはしたい放題、
「軍隊にはほど遠いわね。」
と、妻のなーんいる、
「まあ待て、じきに性悪どもは成敗する。」
はったしはどこ吹く風。
ひくぞーやの百人隊は、出城の策を見破って、袋小路や石落としにはまるのを、裏手の崖をよじ上って入り、油断していたひーとりおの首を刎ねた。
勝利は彼による。
ひくぞーやは戒めた、
「戦は、人心を失ってはおしまいよ。」
という、従うものは従った。
ひくぞーやは千人隊長になった。
二、みやず城
「おれがはったしを王にしてやろう。」
ふたたび出でて、はったしと妻なーんいるに、一枚加わった。
「参謀なーんいるどのは、たしかにうそらの血を引くお方じゃな、その美しいお耳に、神亀のあざを持つ。」
ひくぞーやはいった。
「はったし王の后にふさわしいか。」
とはったし。
「隠すいわれもない、知恵の血統じゃ。」
なーんいるがいう、あでやかな花のような魅力はなにもの。
まぼろしの玄亀。
「寄せ集めであっても、勝ちに乗ずるということがある、出城の三つも破って、まっしぐらにみやずの城へ。」
千人隊長ひくぞーやは提案した。
「機を逃しては、勢を整えるのに十年かかる。」
「どうするの、はったし王子。」
「じじいになる前に、まあそういうこったな、さしあたってどこの砦だ。」
「ひーとりおの次はみのが、打ち破っては軍勢を手に入れ、みせかけ豪華に王城を目指す。みのがの次はやーがとけんもん。」
「みやず城はまかーだの弟きーよしが住む、大物は入っていない、二国のつまりはまあ泣き所だ、追い出して青龍の旗を押し立てようぞ。」
「かつて正統のな。」
「旗を揚げるだけで、民はなびく。」
「そういうことじゃ。」
尻込みするはったしを、なーんいるが焚き付ける。
両国の連合軍が迫る。
こうしていたって同じこと。
「はったし王子と、勇猛なひくぞーやと参謀のわたしと、あの若者ぐれんを伝令につけておくれ。」
なーんいるが云った。
はったしの軍勢は押し寄せた。
それだけが取り柄。
取るものはとっての、疾風迅雷。
「戦に負けたら、若いぐれんをさ。」
なーんいるは花のように笑った。
「やぶれたら夫の価値はない。」
「男はつらいな、わっはっは。」
時の勢いであった、みのがを落とし、兵は一万を超え、やーがを落とし三千を加え、けんもんにはてこずったが、これを落として八千を加え、兵は十万に膨れ上がった。
「みやずの王子はったしの入城。」
青竜旗に正義はある、みやず城は十里にせまる。
はったしに会わせろという年寄りが来た。
「めんどうくさい、なんの用だ。」
と、はったし。
「会いなさいよ。」
と、なーんいるは
「城にくわしい人かも知れない。」
「城には何人か入っておる、堅城だ、相当に手強い、七三で、わっはっは破れるほうに賭けた。」
「なによそれ。」
年寄りは古い書き付けを示す、奇妙な文字を記して、地図がある。
「幻の軍団じゃ。」
といった。みやず城の滅びるときに、深手を負った将軍が、わしに托して死んだ、時が来た。
「これにて再興はなる、みやずの子に手渡す。」
年寄りは云った。
「さようか大義であった。」
黄金一枚を与えて帰し、はったしは忘れてしまった。
まぼろしの軍団の伝説はあった。
皇国の危機には、無敵の兵が山から出て来るという。
ようもわからん書き付けではない、戦は目前に迫る。
まかだの弟きーよしは、能無しと云われて、整然たる軍を繰り出す。
右も左も分が悪い。
突撃を繰り返すはったしに、引いては寄せる、敵ながら天晴れ。
弓勢はよく集る、攻めあぐねて三日たった、
「まずい、じきに連合軍が来る。」
「ふむ。」
「逃げるにしても、一泡吹かせてだ。」
「そうよ、負けりゃ再起不能じゃ、なんのために立ったか。」
いい知恵はないか。
「ぐれん、手段はないか。」
ひくぞーやが聞いた。
「卑怯な手ならあるが。」
ぐれんは云った、
「なんだっていい、勝つ以外に生きる道はない。」
「水穴というものがある、雨期にはたまった水のはけ口になる、柵が外れるらしい。出入りするやつがいた。」
百人つけてくれといった。青龍の旗を押し立てよう、軍勢はくさびになって、何千死んだろうが突っ込んでくれ、
「わかった。」
「城門は開けよう。」
ひくぞーやのかつての百人隊がついた。
乱暴者のえいひは、ぐれんの手足であった。
「はったしより、おまえにかけよう。」
命が二つあれば、二つともなと云う。
旗を槍に巻いて忍び込む。
見張りを倒し、明け方には全員入った。
「どっちにしてもこれでおしまいだ、よく戦ってくれた、わしも命を捨てようぞ。」
はったしは云って、ひくぞーやを先頭に、装いもあでやかななーんいる、
「朱鳥じゃ続け。」
といって馬を馳る。
「勝って分取れ、負けりゃ殺される。」
突っ走るくさびに、守る側はいっとき気圧され。
何百殺そうが寄せる、すんでに守りを立て直そうとして、のろしが上がった。
青龍の旗がなびいて、城門が開く、
突入する。
百人隊は十何人も残らず。
城は乗っ取った。
みやず城は、
「ようし、わがはったし王の再興はなった。」
祝杯を挙げて一夜開けたら、まかだとうそらの二十万に取り囲まれ。
使者が来た、
「切り取り強盗の真似をしてもせんない、城を返すなら、首謀者以外は命は助けよう。」
という。
使者の首を刎ねた。
三、雪の谷
どのような戦いといって、半日を待たずに城は落ち、はったしは捕らえられ、ぐれんはひくぞーやに導かれて脱出した、
「死ぬな、はったしばかりが命ではない。」
水路を忍び出ると二人従う、一人はえいひであり、もう一人は男装したなーんいるだった。
「ぐれんこそわが命。」
えいひがいった。
「ほっほぐれんこそ命。」
と、なーんいる。
「うむ、どっかおかしなところがある、お前は何者だ。わしは戦では負けんが、主の器はない、おまえにもし正義があれば。」
ひくぞーやが云った。
「わたしの名はぐれんはったし。」
「なんとな。」
「みやずが滅んだときは三つであった。」
「あのはったしが偽物であることは、あたしは知っていた、だいば河の舟の、人足頭をやっていた。ある日かばねが浮かんだ、みやずの士であるという、黄金の剣を持つ。」
なーんいるが話す、
「人生人足頭よりもといって、はったし王子を名告った。憎めないところがあった、いいかげんでさ。」
「これか。」
同じようでいてまったく違う剣を、ぐれんはさし出した。
「慈父いぬわんぞーの深謀遠慮。」
涙して云った。
剣にしるす、奇妙な文字を読む。
「まぼろしはときに助けときにわざわいとなる。」
「それはもしや。」
ひくぞーやが巻き物を取り出した、
「年寄りの持ってきたものを、わしがあずかった。」
四方には、青龍白虎朱鳥玄亀。
遠い道程であった。
海沿いを辿り山へ入る。
かしいの町であった。ひくぞーとえいひが大仕事をし、なーんいるが脅し上げて稼いだ、
「ぐれんはったしは旗印、なんにもするな。」
ひくぞーやが云った。
人寄せに集めた何十人か従いつく。
はったしは死んだという。
そんなことはないという。
幸せと喜びを。
一隊をえいひが率いた。
けわしい谷を越えて、左へ行くか右へ行くか、
「地図はつまりここだ、右へ行って三つに別れる、一つはもとへ戻り、あとの二つは行き止まりだ。」
「まずは行ってみよう。」
右へ行く、
「しるしがつく、でもここは村だ。」
小さな村があった、ひくぞーやが訪のう、
「何か云い伝えはないか。」
といって、書き付けを出す。
「さようこれは古いみやず文字、読める者はこの村にはいない。」
長老が云った。
「どこにいる。」
「いわた村のぎいるなら、覚えるか。」
行き止まりの次の道であった。
村があり、ぎいるという老婆がいた。
「足を揉んでくれたら。」
という、
「そうせんと目が開かぬ。」
えいひが懸命に揉む、
「なに、月の満つる東、影と形とあい見るごとく、雪が開く十一年。」
「なんとな、それじゃさっぱりわからん。」
「わしがうそをつくというのか。」
老婆は怒る。
礼をおいて出た。
「三つめへ行ってみよう、しるしがある。」
戻って行くと、きよの村から十人、いわたからは、三人の娘と五人の男が従った。
きよの長老がいった。
青龍の子が来たという、大村であったが、今はこのとおりだ、つけてやる人数も限られる。
美しい三人は姉妹であった。
「青龍の子のために、いけにえになる家柄じゃ。」
という。娘は嬉々として寄り添う、ぐれんはったしは困惑した。
道はけわしく廻る、
「月の満つる東というと。」
指さすかたに、雪の峰があった、
「影と形とあいみると。」
影形同じというか、月はたしかに峰より上る、
「だめだここにいては。」
はじめの谷をわたって左へ行く。
「雪が開く十一年と、そりゃ向こうへ行ってだ。」
崖があった。
穴がいくつも開いて、ふっと人が湧く、
「どきの盗人村を知らぬか、身ぐるみ置いて行け。」
弓矢に射る、かと思うと十人二十人湧く。いわたの男が走って、弓矢をうばい、火矢にして打ち込んだ。
「降参だ。」
どきの盗人は云った、
「わしらのも連れて行け、食いものの調達には便利だ。」
といって七人が従った。
さらに十何人が従った。
谷をいちめんの花に咲く。
ついに雪の壁であった。
月を待つ。
ふうわりと白虎が躍り出た。
咬み裂き 血しぶきを上げ、いけにえの娘が立った。
はったしが剣をふるう。
虎の吠吼に雪が開いて、空ろな大門になった。
なんの気配もなく、
「疫病か。」
みなざわめく。
朝が来た。食い裂かれたむくろは、三人のいけにえの長女であった。
一行は引き返す。
あの時と、ぐれんはったしは思った。
「影がわたしになって、かえってわたしを見るような。」
百人隊であった。
はったしは名告りを上げた。
「民のよる処、みやずの王子ぐれんはったし。」
正義はあるか。
かつては青龍の下にあった、よこしまにする者によって別れ、末裔どもがついに滅ぼす。
まかだとうそらは争い、世は乱れ、人は平和を望む、
「まぼろしの軍勢はいらぬ、かつての大国を。」
だいば河に浮かんだいぬわんぞーの、深謀遠慮も、一から出直しだ。
にせはったしの流れものを征伐といって、うーそらの一万が押し寄せた。
百人の精鋭に寄せ集めの一千。
だがどういうことだ。
百人は刃を受けても死なぬ、矢は射貫いて突き抜ける。
勇猛果敢。
戦は半日で決し、残党を集めて味方は膨れ上がる。
「みやずの正統だ。」
「神のような戦いぶり。」
その名は轟いた。
そういえば、おれを貫いた矢があったが、はったしは思った。
まぼろしの軍団とはこれ。
四、十一年
ひくぞーやもえいひもなーんいるもみな。
雪の谷に向かった百人同じ。
旗には、青龍にいけにえの乙女を縫い取る。
戦えば勝つ。
貢ぎ物や領土の寄進があいついだ。兵を養うに足る。
要の百人が、略奪をせずに聖人のようだといわれ。
そのせいでもあった。
「おかしいわ、三日にあげず男欲しさに、いえそりゃ漁りもしたわよ、女ですもの、それが清々として。」
光満つようななーんいる。
「わしらがまぼろしの軍団か、兵の勇猛はわしを超える。」
ひくぞーやは大笑いした。
「白虎が世のいやしさをさ、食い殺してしまった。」
みやずのたましい。
先祖のいさおし。
「十一年の間を。」
そうだ十一年とあった。
「そんなもなかまわん。」
三人は笑った。
天に轟くような。
みやず城に入るのは、まかだとうそらを平らげてのち、堂々の進軍をすべきだ。
「青龍白虎、
雲を巻いて地に躍り、
雪は汚さず、
花の乙女ぞ。」
そのように旗に記す。
うそら城には深い掘があった、もしやそこへ攻め落とせば、いかに神兵でもという、にせの掘りをこさえ、その向こうの本物に草木を植え、そこへはまったら火を放つ。
どきの盗人が漏らさず伝えた。
「ものはためしだ。」
えいひがやってみた。
水にはまれば泡のように浮かび、たとい劫火も素通りする、
「まぼろしにはこわいものなし、では敵の術中にはまろう。」
うそら城は、はったしの百人がまんまとはまって、水責め火責めにあうのを見て、城門を開いて押し出した、それを撃ってまぼろしの兵は、うそら城に入る。
うそら王の美しい后ゆーえんには自刃する。それを押さえて、
「母上。」
はったしが云った。
「面影がある、ではなをさら生きてはおれぬ。」
「わたしはあるいは人間ではない。人の宿世など知らぬ、すべてを忘れて生きよ。」
后は涙を流す。
「いぬわんぞーとおまえを逃すために、わたしは。」
と云った。
「神亀は水を、
朱鳥は火を、
悪しきを払うて、
兵の行く。」
という、旗には付け加え。
うそら城の陥落を聞いて、まかだの王は城を明け渡した。
「王は自刃するであろう、その民を安んぜよ。」
という、
「もしことを起さば、すみやかに成敗する。」
といって、まかだ城に入り、青龍の旗が翻った。
みやず城には、まかだの末の子とーらと、うそらの大叔父みつらがたてこもる。
すでに二十年になる、ことを起こした張本人と、その跡継ぎと、
「明け渡せというのなら、百万両で売ろう、もしやうわさに聞く神兵を半分。」
という、
「われらもみやずの血だ、ことを怠ったいすかんに代って、民を安んじて来た、多少の利はあろうはず。」
何をするかわからん、神兵なぞもっての他、
「あたしに三十人つけて、若い末っ子のほうがいい、花嫁にして送り込んだら。」
なーんいるが云った。
「居心地よけりゃ寝返って、どっか小城の主にでも。」
あっけらかんという。
その策が取られた。
「手を打とう。」
悪党の末っ子がいった、
「美しいなーんいる、颯爽たる勇者、もとより憧れておった。まぼろしの兵を三十人とな、申し分もなく。」
「ではみやずを明け渡せ、うそらの小城だいしんを二人に預けよう。」
それが通った。
みやずを明け渡して、賑やかに花嫁の行列が行く。
はったしはみやず城へ入る。
十日が過ぎた。
なーんいると三十人の兵が帰って来た。
「起きてみたら、ほんの雑兵に至るまで死にはてて。」
青くなっている。
「下らない連中で、叔父甥でわたしを取り合う、わたしより三十人の兵どもを、色と欲の夜討ち朝駆けは、そりゃ面白かったんだけどさ、うるさくなって、白虎に食わせるわよと云ったの。」
「その恐ろしいことと云ったら。」
兵が云った。
なーんいるが、虎になってうそぶき歩く。
「なんとな。」
真夜中の阿鼻叫喚。
同士討ちとて、死んだ連中を葬った。
なーんいるはうそら城に入り、ひくぞーやはまかだ城に入り、えいひははったしとともにみやず城にあった。
政りごとは容易でなく。
十一年が過ぎる。
とつぜん一本の矢がを貫いて、激痛が走る。
絶叫ははったしではなく、いけにえの二女が倒れる。
まぼろしの百人は、切り裂かれ、射貫かれ打たれ、死んで烏になって舞い上がる。
しばらくいたが去る。
ひくぞーやはほとんど無傷であった。なーんいるも弓矢を受けぬ。
「これをとぶらい、みやずのいさをしを。」
はったしは云った。
「御意。」
「いけにえの末の女をめとり、王の中の王いすかんを継ごうぞ。」
それは忘れうべくもない、大法要であり、祝典であり、戴冠式であった。
とつぜん雨が降る。
みやず城をひたして、庭に玄亀が現れる。
背中に古い文字が見えた。
「これを得る、よろしくよく保護すべし、次のわざわいには、ー 」
神官がここまで読んで消えた。
なーんいるは朱鳥国を興し、ひくぞーやは白虎国の祖となり、しばらくは平和であった、そのあとはわからない。
石があった。
わずかに赤く、また白く青い、
「人を刻んだものであろうが。」
よくよく見ると、物語を刻む。
どうにかそれを綴る、欠落も多い。