とんとむかし36

田安神社縁起から

とんとむかしがあったとさ。
むかし、日色村の重兵衛の娘に、たがとそねという姉妹があった。
双子であったか、二人とも、人には見えぬものが見えた。
人並みの幸せはあきらめて、田安神社の巫女さまになって暮らした。
たがは、急に男を狂わせるような、そねには後光がさして、とつぜん美しくなる、過ぎるとただの人だった。
二人はたった一度、村を出て旅をした。
お殿さまがはなれを新築して、神主を招んだ、位の高い神主が行くのだが、田安のたがとそねという、お名指しであった。
三日の旅であった。椎谷の川をわたって、十村を過ぎ、石沢の町から、ひなし山を越えて行く。
むつの村には、田安神社の分家があって、そこへ泊まる。
しいやの渡しに乗ろうとすると、たががいやじゃといった、
「舟が流されて。」
と云って、あとだまっている、
「流されてどうなるの。」
「自分のことはようもわからん。」
「でも渡しに乗らなくっちゃ。」
たがを押し込むように乗り込んだ。流木があった。よけたはずが、底に沈んでごつんとあたった、枝がはねて、たがの袖をひっかけ、
「あら。」
といって、
「だからいやだと。」
恥ずかしいと、急に美しくなる。
岸へついたら、商人とおさむらいが、名告りを上げた。
ぜひ嫁に来てくれという。
逃げ出して、たがはいった。
「おさむらいは、風邪を引いて死ぬ、商人は女狂いして、店をほうり出される。」
ただのたがだった。
「わかるわよ。」
そねがいった。
「お姉ちゃんがお嫁に行かないからよ、行けばさあて。」
たがはぎろりと睨んだ。
「あたしたちは影。」
という、
「磐舟の重きかじさを取りて行け月の光もよしやあし草。」
それは田安神社の、石の舟にまつわる歌であった。
「なんで影なのよ。」
「日が当たらないから。」
「そうだろうか。」
といって、旅でなければ二人めったに喋ったりしない、だから楽しかった。
亀がはって行く、さんの村から、いつの村へ行くとそねがいった。
「さんの村に火事がある。」
でもそれを知らせたって、だれも信じない、
「おじいさんがとなりの家に火をつける。」
そう云ってたがは、
「あたし今なにか云った。」
と聞く。
そねはかぶりをふることにしていた。
「おじいさんがとなりの家に火をつける。」
二人はさんの村へ行った。
老人がいた、
「となりがおらちへ来る嫁を取った、にくい。」
と云う。
「火なんかつけたらいけん。」
観音さまのように、後光がさす。
老人は手を合わせた。
「うそになった。」
「でもよかった。」
二人はいって、その夜を、分家の田安神社に宿った。
別の名を岩船神社といって、社には小高い山があって、石の舟が祭られていた。
この世に現れたとき、石の舟には、二人の姫が乗っていた。
それは伝説であった。
「たがとそねよ、二人石の舟を漕げ。」
と聞こえる、二人同じ夢を見た。
あした堂守りに云うと、
「わしは神に使える日の浅うして、ようも知らぬが。」
といって、社の洞穴へ案内した。そこに入って急に二人は倒れ、息はしていたが心は失せた。
堂守りは社を閉ざして、見守った。
石の舟が飛ぶ。雲をわけて飛んで行く。戦があった、叫び上げて、弓矢が飛び槍がぶっちがう。よろいかぶとの真ん中に、石の舟は下りた。
「お止めなさい。」
たがが云った。
「さもないと、石の舟が押しつぶす。」
そねが云った。
「ここより西をわきた。」
「東をこうだ。」
石の舟が光った。
戦は終わった。
石の舟は去って、ひなし山の頂きに舞い降りた。
千年の間そこにあった。
時に舞い上がって、十の村の日をさえぎる、ひでりのときと、何か起こるというとき、かぎろいを見て、人は心をただす。
「ひなし山の由来を、なんであたしたちが。」
十の村はかつては六つで、時を刻んだというが。
石の舟は天に返った。
たがは天の花になり、そねは天の稲穂になった。
お城に亡霊が住み着いた。
殿さまにとりついたか、そうではなかった、奥方にとりついた。
孕み女をさらって来て、腹を裂いて、胎児を食うという。
たがが金縛りして、そねが口から指をつっこむと、一匹のこおろぎが出た。
石の舟に、巣食っていたもの。
月の光にりーんと鳴いた。
田安神社の洞穴に、おさむらいが来た。
「とのさまが招いた巫女二人、行方不明じゃ、尋ねあてると、どうやらここに姿を消した。」
という。
堂守りは拒んだが、さむらいは刀を抜いて洞に入る。
二人の体があった。
「はて面妖な。」
「石の舟に乗っていなさる。」
たしかに台座ばかりあって、石の舟がない。
「ふうむ。」
といって、待つには待つ。
たがとそねは、石沢の町へ来た。
見染められてたがは、米問屋に嫁ぎ、請われてそねは、材木問屋に嫁いだ。
さやさや鳴り笹に繁盛しと、米問屋は笹の紋。
うぐいすはホーホケキョ金のなる木といって、材木問屋は鶯の紋。
たがは男の子を生んだ。
そねは女の子を生んだ。
二人の子が夫婦になって、笹に鶯の一つ家になった。
とつぜん火が出た。たがの子もそねの子も行方知れず。二人抱き合って泣いていると、おさむらいの声がした。
「戻って来い、殿さまがお待ちかねじゃ。」
「大切なあたしたちの。」
と聞くと、さむらいは、
「これじゃ。」
といって、旅の荷を手渡す。
「そうじゃなあ、大切なものはこれ。」
と云って、二人は旅立った。
代ゆずりして、お殿さまは奥方と、はなれ屋敷に住まう。
「よしなごとが起こったり、奥にとりついたりする、田安のたがとそねを招け、ということであった。」
お殿さまが云った。
二人はぬさをとった。たがは東のはしに、そねは西のはしに立った。
「これは石の舟。」
「そうではない、石の舟のかげ。」
とつぜんたがは、草の花になった。そねは稲穂になった。
「いはふねのおもきかじさをとりてつきのひかりもよしやあしくさ。」
と聞こえた。
お払い終わって、新しい木の香り。美しいはなれ屋敷だった。
世の中に、わざわいの消えることはない、姉妹は思い、
「あたしたちには。」
「人並みの幸せはむずかしい。」
ずいぶんのお金は、田安神社に納めるべく、帰って行った。
殿様小判というて今も残る。



嫁なしひよ

とんとむかしがあったとさ。
むかし、ゆうが村に、ひよという怠け者がいた。
なんにもせんけりゃ嫁も来ん。
ある朝、
「ほーほけきょ、たからはさやさや笹のやぶ、ほーほれ。」
と、うぐいすが鳴いた。
くわを担いで行って、ひよは掘ってみた、どこほっても笹のねっこで、汗水たらして、疲れたきり。
「ばかめが、あーあつまらん。」
といって帰って来たら、ぼろを着た、汚い女の子がいた。
「いらん出て行け。」
と云ったら、
「あたしが宝。」
女の子が云った、
「きっと部屋が百八つもある、お屋敷に住める。」
「ほんとうか。」
「だからまんま食わせて、あーかいべべ着せておくれ。」
と云った。
ふーんそんならそれでいいかと、ひよは、汚い女の子を風呂へ入れ、まんま食わせて、赤いべべも買ってやった。
そうしたら、
「天にとうろり、
火の星は、
流転三界、
笹小舟。」
ぴーとろと歌って、いなくなった。
なんのこったって、もうそれっきり。
いい子いたけど、ちいっと鼻が反ったと云ってるうち、他の男にさらわれた。怠けていたら、おらまかってやると強欲余市いって、一枚二枚と、田んぼ取られたり、ひよは旅に出た。
「どこ行ったって、ろくなこたねえけど。」
それでもと云って、出て行った。
そんで、ろくなこたなくって、あるとき山越えに、とっぷり日が暮れた。
おーんと狼が吠える、向こうにぺっかり、赤い星が出た。
「あーあ村にいりゃよかった。」
と云ったら、灯が見えた。
よって行くと、立派なお屋敷だった。
「おれのようなもな、泊めてくれそうにねえ。」
とひよ、ぎいっと大門が開いて、いかめしい門番が、
「お帰りなさりませ。」
といった。
美しいお女中が、おそろいの笹の振り袖着て、出迎える。部屋が百八つもあるお屋敷の、夢見るような、それはもう夢であろうが、なぜかひよは主であった。
いいにおいのする風呂へ入って、お蚕ぐるみ着て、朱塗りのお膳に食べ、酒を飲んでいると、ひよの袖にこおろぎが一匹止まった。
こおろぎが、
「ここに住みたくば、三つのうち一つを選べ。」
と云う。
「一つ、お女中のうち気に入った子と夫婦になる。一つ、食べたお膳を洗う。一つ、この屋敷に火をつける。」
過ったら、わしのようにこおろぎになると云った。
過ったっていい、美しいお女中と夫婦にといって、ひよは見回した、いずれあやめかかきつばた、
「一人を選ぶなんてとっても。」
だれか夫婦になると云ってくれと、
「さんさ金ねの、
しぐれ笹、
星はくうらり、
しろがねの。」
お女中たちは、手振り歌う。
「東へ行くは、
あけがらす、
西へ帰るは、
都人。」
あとをかたずけ、床を敷く、
「食べた器を洗おう。」
ひよは台所へ行った、男が入ったらいけんて、おれはいつもそうしていた。
こおろぎがとぶ、
「怠けものはこおろぎ。」
立派なお膳は、拭っても拭って。
さーやと廻り笹むらに見え、なんとお蚕ぐるみのすそに、かまどの火がついた。
「うわ。」
燃えひろがる。
ひよは、身一つに逃げだした。
お屋敷はごうっと燃えて、赤い星になって失せた。
「そうか夢か。」
ひよは寝入った。
目を覚ますと、ぽったり笹の露。
急に元気になった。
世の中見違えるような。
「おれは何をくだくだ。」
なんでもして生きて行こうと、ひよは歩いて行った。
町へ出た。
商人がいた。
仕事はないかと聞いたら、赤いのぼりと、薬の包みを出す。
「なんにでも効くし、まあたいていなんにもきかん薬だ、いい名前くっつけて売り歩け。」

といった。
「おまえが四分わしが六分。」
ひよは、笹に包んだ薬を、
「夢はすっきり、
赤い星、
万づ病も、
笹の露。」
といって売り歩いた。
ほんきに効いて、飛ぶように売れ。
もうかったって、
「薬九そう倍なんかいけん。」
といって、人が真似するころには、別の商いをしていた。
七転び八起き、決して飽きないのが商人、がんばっていたら、いい娘がいて、かかにならんかというと、うなずいた。
ひよは大喜び、いっしょになって商売をもりたてた。
年よってから、
「わしはむかし、しようむない男であった。」
というと、かかしわ一つなく、汚い女の子になったかと思うと、笹の振り袖の美しいお女中に、
「声をかけられなかったなあ、わしはあのとき。」
「いいえ、みんなあたし。」
と、かか、
「おまえさまも年取らぬが。」
といった。
二人死ぬまで若かったとさ。



武者修行の旅

とんとむかしがあったとさ。
むかし、ひえのごうやのいつき村に、あたらなんとこなんという、兄弟があった。
あたらなんは、旦那さまの、美しいあよに惚れて、けんもほろろであって、
「村を捨てて、武者修行の旅だ。」
と云った。
こなんは、となりのかわいいみよと、いいかわす仲だったが、
「あんな兄をほってはおけぬ。待っていてくれ、一年もすりゃ。」
とみよに云って、
「待っている、いついつまでも。」
とみよは云って、あとついて行った。
「兄弟修行。」
あたらなんは云った。
「身をきたえ心をつよく。」
とにかくそういうこって、山深いところに、蛙文太夫という、たいした豪傑がいた。

「わしを打ち込むまで、修行とな。」
かえる文太夫は云った。
「一両出せば、打たれてやってもよいが、でないと一生かかる。」
豪傑は強かった、あたらなんがいくら打ち込んでも、屁の河童、こなんと二人打ち込んだって、どこ吹く風、
「仕方がない一生だ。」
兄が云った。
かわいいみよが、おばあさんになる、一両工面しようか、はあて兄はなんて云う、そうじゃ蛙には蛇。
青大将を、竹刀代りにしたら、
「もったいないことをするな、わしの大好物。」
文太夫は、そいつをどんぶりにして、食ってしまった。
「三すくみって、反対だっけか。」
あたらなんの竹刀に、なめくじのっけたら、
「ぶるぶる。」
溶けてちぢんだ、すかさず一本。
「わしはなめくじが大嫌いだで、蛙と名告った。」
参ったと云った。
「どんなもんじゃ。」
あたらなんは大得意、
「では次へ行こう。」
「行くんですか。」
武者修行の旅だ。
やっかみ権の神の神主が、槍をとっては天下無双。
「一手御指南お願いもうす。」
あたらなんが頼むと、
「弱そうなやつだ、三両で負けてやってもよいが。」
と云った。
「かえる文太夫を打ち込んで参りました。」
「あいつは一両、いざ。」
どうにもこうにも歯が立たん。
「一生かかっても。」
というと、
「かかに逃げられて、大いに困っておる、二人神子さまになれ。」
と云った。赤い袴はいて、二人神子さまやって、毎日槍をみがく。
「こんなさま、みよちゃんに見せられん、なんとかしよ。」
こなんは云って、やっかみ権の神の、逃げたかあちゃんを捜した。
「かくかくしかじか、なんとかしてくれ。」
「ひどいやっかみで、たまらずなって逃げた。そういうことなら。」
といって、かあちゃんが来た。
こなんとかあちゃんを見て、
「きいかあおっく。」
やっかみ権の神は、真っ赤に湯気立てて、突きまくる。
危うく逃れて、あたらなんが一突き、
「ようし一本。」
こなんが云った、
「女に目がくらむとは何事。」
「そういうこったな、六両がとこ損をした。」
槍の名人が云った。
「では次へ参ろう。」
と、あたらなん。
飽きるまでつきあうしかないかって、二人は、やらずのやわた原に迷い込んだ。
どこどう歩いたか、にっちもさっちも、
「武者修行だ。」
と行くと、お化けが出た。
べろうり舐める大舌、手足だけのや、首ばっかりや、ぶたの八つ頭、
「ぎひひひひ生きた人間。」
「久しぶりの御馳走。」
ふとんに目鼻が、くるまりかかる、
「くう。」
息ができん。
逃れたら、くらげぼわーり、うんこ小便垂れ流し、
「うわどうもならん。」
「なんとかしてくれえ。」
げたげたひいらり化物ども。
「手下になって一生稼げ。」
と聞こえた。
「忍術ねこもぐら。」
二人、初め入った所に立っていた。目の前に、へんてこな子どもの背丈がいた。
「わしらはまっちょうな人間だ。」
あたらなんが云った。
「そうかい。」
ぐうといって、兄はそば団子になった。
「おまえはどうする。」
「云うことを聞こう。」
「そうかい。」
あたらなんはねこに、こなんはもぐらにされた。
ねこは、人の屋敷に忍び込んで、小判をくわえてくる、もぐらはトンネルを掘って、きれいなお女中や宝物を取って来る。
小判三枚さらって来て、どっかおかめつれて来て、
「いいわよあたし忍術でも。」
と云うのを、
「悪いこったぞ。」
なんとしよう、二人は思案投げ首。
「もっと稼げ。」
忍術ねこもぐらが云った。
「でないとみみずにしちまうぞ、土食って肥やしになれ。」
「師匠は大忍術なのに、なんで子どもの出来損ないなんですか。」
こなんが聞いた。
「うるさい。」
「自分だけはかえられないんだ。」
「そんなことはない。」
「だったら、みみずんなってみせて下さい、わしら大反省します。」
「ふんようし。」
忍術使いはみみずになった、こなんはぱくっと食べた。もぐらの大好物。
もとのあたらなんとこなんになった。
「なんでうまかったんかな。」
みみずがって、こなん。
忍術ねこもぐらの財宝と、何十人とないお化けは、みんな美しい女たち、
「おかげさまをもちまして。」
人に戻れたといって、泣いて喜ぶ。
取りすがるのへ、財宝を分け与え、
「どうして半分ぐらい、いい女も。」
弟が云ったって、
「えへん。」
といって、兄は武者修行の旅。
こなんがくそたれたら、忍術ねこもぐらが、起き上がって、
「うわあくさい。」
忍術の力失せて、逃げて行く。
「ひええたまげた。」
「今度は、もっとましな修行を。」
あたらなんが云った。
よしやのご城下へ出た。久しぶりの町だ、きゅっといっぱい引っかけて、そうさ楽しい思いして、
「町道場がある。」
あたらなんがいった、
「一手御指南。」
やっつけられて、目が覚めりゃいいと、こなん、
「頼もう。」
「どうれ。」
ずっかり。
あたらなんは、どっと三人やっつけた。
次は師範代、
「へえ、自信ちゃ恐ろしいもんだ。」
とこなん。
師範代が一本取られて、
「これにてご容赦を。」
なんか貰ってるぞ。
「つっかえして来た。」
と、あたらなん。
「受け取ってくりゃいいのにさ、そうれ追手が来た。」
みんな繰り出す。
「あいや礼金などは。」
物も云わず、うってかかる。
「弱った逃げろ。」
と云って、手も足も風車のよう、こなんと、あたらなんと、ばったばった。
「ふうむ、どっかで身についたか。」
「武者修行のかいあった。」
あたらなんが云った、
「ではめでたくご帰還。」
「なんのこれしき。」
「へ。」
「わしらはどっちかというと、負けてばっかりであった。」
云われてみりゃ、そうだが、
「へっぽこ道場なんぞではなく、れっきとした。」
れっきとしたって、こなんはぶつくさついて行く。
北のいんばと、南のたんばが戦争だ。
「ようし手柄を立てて、一国一城の主。」
といって、勢い込んで行くと、かっぱ橋という川のたもとに、かっぱのような男が立った。
「加勢してくれ、われと思わんものを、集めている。」
と云った。
「どっちだ、北のいんばか、南のたんばか。」
「いんばの守の娘と、たんばの中将が、夫婦になって戦は流れた。」
と云った。
「それじゃおまえはなんだ。」
「いんばの娘を取り返す。」
どういうこった、
「一人五十両。」
「わしらはよこしまごとはせん。」
あたらなんがうそぶいた、
「よこしまはたんばの中将だ、娘をさらい取って夫婦になる。」
「なるほど。」
「戦を免れようとな。」
こなんは、兄の袖を引っ張った。
「やめとけ、夫婦喧嘩は犬も食わん。」
「ちがう誘拐犯だ。」
ゼニなぞはいらんという、では二人分百両もらったと、こなん。
いんばの守から、お輿入れが来た。
金銀にしきの幟を立てて、どんがらぴー、
「それあの輿だ、奪い取れ。」
「おかしいな誘拐犯なら、娘はたんばの中将の手元に。」
こなんは首をかしげたが、一人五十両は、喚声を上げて突っ込む。
「お姫さまを救え。」
切り合いの末に、しまいあたらなんとこなんだけになって、輿の人を奪い去って、
「よし成功だ。」
と、河童男が云った。
「あわせて百両、姫といっしょに行方をくらませ。」
「なんと。」
「色気違いのお姫さまでな、そんなもんといっしょになるより、奪い取られて平和ってのがいい。」
かっぱはざんぶと河の中。
「色気違いだと。」
「たんばの中将が計ったか。」
「この辺にいるの見つかったら、生きてはおられんぞ。」
「オホホホホ。」
美しいお姫さまだった。
「こりゃものすごい玉だ。」
あたらなんとこなんは、とにかくひっかついで走った。
野越え山越え、
「まずはこのへんで。」
「あれに見えるが、わらわのお城。」
お姫さまが云った。
「悪いようにはせぬ、たんばのばかせがれより、ういやつらじゃ、二人面倒を見る、さあおいで。」
いえ恐ろしいったら、
「ひーうわあ。」
逃げた。
「ものども出会え、誘拐犯じゃ。」
お城からどっと、繰り出す、
「ひっとらえて、つれておいで。」
命からがら、あたらなんが云った。
「こんなばかなことやっとられん、村へ帰ろう。」
そうこなくっちゃ、
「帰ってもういちど、旦那さまの美しいあよを。」
なんかこりない男。
かってにしろといって、村へ帰って、こなんは、待ちに待ったろう、みよのもとへ行った。
かわいいみよは、他の男とくっついていた。
「女なんかあてにならん。」
兄といっしょに武者修行じゃ、弱きを助け強きをくじきと云って、あたらなんのもとへ行ったら、兄は美しいあよとご満悦、
「とうとう、うんと云った。」
「ふーん。」
「お土産の五十両が効いた。」
そんじゃこれもやるといって、こなんは五十両置いて、武者修行の旅へ。



鬼塚

とんとむかしがあったとさ。
むかし、いそがみの、三郎右衛門は、代々続いた、旧家であった。
それが、子がもうからなかった。
子が欲しいと、先祖さまに、お参りすると、その夜の夢に、一匹の蛇がお墓へ、入って行く。
あとついて行くと、真っ暗闇が、とつぜん、日の当たる南国であった。孔雀という、お寺さまに描く鳥がいた。花に咲きみだれ、おいしい果物と、まっしろい猿がいた。
金髪のうねるような、それは妻であった。
青い目をした、人みな親切に、楽しい暮らしを、ー
目が覚めて、妻に話すと、
「おまえさまの目も、ふっと青く見えます、先祖さまは、遠い島からもしや。」
といって、笑った。
あくる朝、浜辺に舟が、打ち上げた。
見たこともない舟で、金毛に、青い目をした夫婦が乗っていた、まだ息があったのを、

「鬼だ。」
といって、見殺しにする。すると赤ん坊がいた。そこへ駆けつけた、三郎右衛門が、赤ん坊を抱き上げ、遺体は引き取って、葬った。
鬼塚と人のいう、塚であった。
赤ん坊は、三郎右衛門夫婦の子として、生い育ち、十のときには、もう大人なみの背丈があって、うねるような金髪に、青い目をしていた。
「鬼ん子。」
といって、石をぶっつけられ、いじめられのを、一人の腕をへし折り、もう一人は半殺しにした。
三郎右衛門がしかると、村をあとに、行方知れず。
夫婦は、食べものや着るものを、鬼塚の前においた。
それはなくなっていた。
村が襲われたり、よしぞうの娘が行方知れず。
やっぱり、鬼の子であった。
またぎが鉄砲をもって、山狩りする。
三郎右衛門は、舟をこさえて、浜辺においた。
水や食料も積んでおくと、三日のちになくなった。
それが、さほど遠くない浜に、押し上げられた。
鬼の子と、よしぞうの娘が、死んでいた。
三郎右衛門は、二つのなきがらをほうむった。
三郎右衛門家は絶えたが、鬼塚は残る。
お参りすると、いい子が生まれたという。

2019年05月30日