上山温泉紀行

上山温泉紀行


秋の野に燃ゆらむ雲をモーツアルト泊てなむいずこ旅は旅行く

 お盆の骨休めに温泉へ行こう、夏は草津がいいと云って電話したら、音楽祭があるそうでどこも満員、素泊まりならという、音楽祭というもの初体験、行こうかといってはて、へたなモーツアルト聞かされるより、混浴温泉がいいやなど、他を捜す。

上毛の夏夜星群張り裂けて問へりし妹は今はいずこに
芦辺行く阿賀の川波たゆたひに古き都を思ほゆるかも

 上山温泉は山形市、岩船から荒川を遡って行くのと、喜多方から会津磐悌山を廻って行くのと二通りある、違っても二十分ぐらいですよと宿の人が、また親切に教えてくれる。阿賀野川を辿って、ハイウェイに乗って、やっぱり遙かな道程。

山を越え辿らふ里を穂に出でてなびかふ雲が何ぞ恋しき
上杉のさ庭に入らむ初秋の草木の塚ぞ我れはもうでぬ

 米沢は尊敬する上杉鷹山の地、草木の塚というのがあった、道の駅に新しくこさえたもの。上杉神社や記念館やと、尋ねようとしてぐるぐる回って、ついに道を外ける、帰りにはと云って行く。

上杉の都大路をかしこみて群れ山鳥かしだり尾わたれ
夫婦して文殊の智慧にとぶらはめ夏草茂む十六羅漢

 代りに亀岡文殊というを尋ねる、けわしい石段を登る、羅漢さんが生けるよう、ありし日の如くに並んで、受験生が行く。恋の成就というお参りもある、そりゃけっこう流行るは。

行きずりのえにしもあらむ亀岡の文殊菩薩に願掛けもうせ

両つ国蔵王にかかるケ-ブルや花の畑を越えて我が行く

 親友であった朝倉がお釜をよじてにっちもさっちも行かなくなった話をした、わしは蔵王は始めて。ケーブルに揺られて行く、われもこうに似た花があって、しろばなのーと教えて貰ってもう忘れた、たしか竜飛岬にも咲いていた。お釜は青く。

七十の初秋にして蔵王なるお釜を見しか霧らひこもせる
山寺に伏して仰がむ仏達その茂み井に蝉の声を聞かず

 この暑さを山寺に登る、下の茶屋でアイスコーヒーとあんころ餅を二つ食った、奇妙な取り合わせが元気が出て、かあちゃんと二人お参りする、行列を作って人が行く。蝉が鳴く、そういえばまさに芭蕉の季節。

なほ暑きいしぶみどもを押し並べ風の通ひにてふの舞ふらむ
寒河江なる橋をわたらひみちのくの慈恩の寺に人はもうでぬ

 雑誌太陽に紹介されているのを見て、さっそく飛んで来て、国体の御開帳に来て、これが三度目、暗い本堂に坊主どのが説明していた、十二神将は御開帳の時にだけ、舞楽もあるんだが。

みちのくの人に我ありや広大の慈恩の郷に日は暮れ落ちぬ

行脚人のおこせしと云ひし上山幾代をへにて我れも訪のへ

 上山温泉に二泊した、古い温泉郷であるという、斎藤茂吉記念館があった、新潟という所があった、今年定年だという仲居さんがよう案内してくれた、また行こうと思う。

茂吉とふ名にしおふるは問はずして蔵王を廻り山を越え行く
荒川の美はし乙女がが言伝へいにしへよりは二つ小国も

 関川というこのあたり上越と地名が同じなのは、屯田兵としてそっくり移住したからだという、小国というのはなぜだ、中越と二つある。売店の女の子が屈むとおしりがそっくり出る、パンツ履いているんだろうか。へたな心配。

我れをまた家郷あらむ関の川茂みへ夏は過ぎ行かむとす