良寛詩五言3

美有れば則醜有り、
是有れば又非有り、
知愚之依り因り、
迷悟互ひに相為す。
古来其れ然りと為す、
何ぞ必ずしも今斯くの如くならん、
之を棄てて彼れを取らんと欲す、
唯一場の癡たるを覚る。
若し箇中の妙を言へば、
誰れか諸法の移るに関せん。 美有れば則醜有り、是有れば又非有り、知愚之依り因り、迷悟互ひに相為す。

美醜というんでしょう、そんなものもとまったくないんです、どうですか生まれついての美醜是非無関係の世界を心行く味わってみませんか、そりゃ単純で絵の描けないですか、そんなことないです、雪舟は最高傑作です、キリスト教に犯されないルネッサンスがあったらそれこそすばらしいです、知愚これより起こり、迷悟たがいに展転ですか、人間の世の中不要の天然自然そりゃまったく知愚迷悟によらんです、活計これ。


古来其れ然りと為す、何ぞ必ずしも今斯くの如くならん、之を棄てて彼れを取らんと欲す、唯一場の癡たるを覚る。

むかしっから知愚迷悟如何とやってきた、今必ずしもです世間しきたりはしきたり本来出入り自由のはずです、これを捨て彼を取りは時所位ですか、いったんは此岸から彼岸へわたる、するとまあ何やってきたんだという、一場の茶番劇すなわちわが来し方人生だったってね、とんだ恥かき。


若し箇中の妙を言へば、誰れか諸法の移るに関せん。

箇中の妙を知るもっとも大切、いい訳能書きじゃちっとも面白くないんです、もの食うには食うしかなく、坐っていて妙筆舌に尽くし難し、諸法ものみなの蝶番じゃないんです、もとまったくものみな。廓然無聖不識。

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行き行きて田舎に到る、
田舎秋水の湄、
寒天晩に向って霽れ、
烏雀林に翺って飛ぶ。
老農言(ここ)に帰り来たり、
我れを見る旧知の若し、
童を呼んで濁酒を酌み、
黍を蒸して更に之れを勧む、
師淡薄を厭はずば、
数(しば)し言(ここ)に茅茨を訪へと。 行き行きて田舎に到る、田舎秋水のほとり(さんずいに眉)、寒天晩に向っては(雨かんむりに斉)れ、烏雀林にかけ(皇に羽)って飛ぶ。

托鉢して行ったんでしょうほんにど田舎に来た、秋水のほとりは与板かどっかの川べりですか、寒い空です夕方になって晴れ渡る、烏や雀がねぐらを求めて林に飛ぶ。


老農言(ここ)に帰り来たり、我れを見る旧知の若し、童を呼んで濁酒を酌み、黍を蒸して更に之れを勧む、師淡薄を厭はずば、数(しば)し言(ここ)に茅茨を訪へと。

老嚢じっさが野良から帰って来た、良寛を見るに旧知の如くと、子供を呼んでどぶろくを持ってこいといって、そいつを酌んですすめる、黍を蒸して肴にして、師坊んさまこんな粗末なもんでよかったら、わしのあばら家へちいっと寄っていけと云う。

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余が郷に一女有り、
齠年容姿美なり、
東籬の人朝たに約し、
西隣の客夕に期す。
時有りて伝ふるに言を以てし、
時有りて貽るに資を以てす、
是の如くにして歳霜を経れども、
志斉しくして与に移らず。
此れに許せば彼に可からず、
彼に従へば此れ又非なり、
意を決して深遠に赴き、
哀しひ哉徒璽と為りぬ。 余が郷に一女有り、ちょう(歯に召)年容姿美なり、東り(竹かんむりに離)の人朝たに約し、西隣の客夕に期す。

おらが郷に一人の女あり、ちょう年七八歳のころからみめうるわしかった、東村の人がいっしょになろうといえば、西村の男もつばをつける。


時有りて伝ふるに言を以てし、時有りておく(貝に台)るに資を以てす、是の如くにして歳霜を経れども、志斉しくして与に移らず。

あるときは言葉をもってし、あるときは物をもってし、そうして何年か過ぎて、いずれ劣らずという。


此れに許せば彼に可からず、彼に従へば此れ又非なり、意を決して深遠に赴き、哀しひ哉徒璽と為りぬ。

東にすりゃ西よからず、西にすりゃ東にそむく、とうとう意を決して深い淵に身を投げて、哀しいかな帰らぬ人となった。
万葉のころからある葛飾の真間の手古奈とそっくり同じことが、良寛の郷にもあった。人間の尊厳地に落ちてしまった今の世とは違う。

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伊れ昔東家の女、
桑を采る青郊の陲、
金釧銀朶を鏤み、
素手桑を扳く。
清歌哀韻を凝らし、
顧面光輝を生ず、
耕す者は其の耜を輟め、
息ふ者は頓に帰るを忘る。
今白髪の婆と為り、
寤寐慨き咨くのみ。
伊れ昔東家の女、桑を采る青郊のほとり(こざとへんに垂)、金せん(金に川)銀だ(乃のしたに木)をきざ(金に婁)み、素手桑をひ(てへんに反)く。

これは昔のこった、東の家に女があって、村はずれの畑に桑の葉をとる、金のうでわに銀のかんざししてまっしろい手に桑をもぐ、


清歌哀韻を凝らし、顧面光輝を生ず、耕す者は其のすき(米に呂)をやす(綴の糸でなく車)め、息ふ者は頓に帰るを忘る。

清らかに哀しく歌い、光輝くばかりの面を向ける、耕す人は鋤を廉め、休む人は帰るのを忘れ。


今白髪の婆と為り、ご(寝のこっちがわを吾)び(寝のこっちがわを未)慨きなげ(諮の言なし)くのみ。

今は白髪の婆さになって、寝ても醒めても嘆いてぶつくさ。

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佳人相呼喚し、
遅日江泊に戯る、
長袖日に映じて鮮やかに、
垂帯風を逐ふて靡く。
金釧柔臂を繞り、
玳琩双耳を飾る、
花を折って行客に調し、
翆を拾ふて公子に遺る。
一顧千金を擲ち、
片言城市を傾く、
粉黛は暫時の仮のみ、
容華終りを保つに非ず。
歳暮胡んの待つ所かある、
首を掻いて凄風に立つ。 佳人相呼喚し、遅日江泊に戯る、長袖日に映じて鮮やかに、垂帯風を逐ふて靡く。

きれいどころがよったくって、遅日は春ですとさ、川岸の町に遊ぶ、長い袖が日に映じて鮮やかに、だらりの帯が風になびく、やーれやれ。


金くん(金に川)柔臂をめぐ(糸に堯)り、たい(王に代)まい(王に昌)双耳を飾る、花を折って行客に調し、翆を拾ふて公子に遺る。

腕輪がただむきをめぐり、耳飾が両耳を飾る、花を手折って客に売り、柳をとって公達に送る、
はいなーこりゃむかしからのお祭りかな、分水ができてから花魁道中てのあるけど、きんきらきんに着飾った女たちが花に柳を配って歩く。


一顧千金を擲ち、片言城市を傾く、粉黛は暫時の仮のみ、容華終りを保つに非ず。

ちらとウインクすりゃ千金、ぺらと口聞きゃ城市を傾けってなもんお、坊主浮かれほうけてあとついて歩くって、なにお化粧はいっときだって、剥がれりゃただのぶす、いやさ60が80まで芸者ってなかなかなもんだけど、えーえっへん。


歳暮胡んの待つ所かある、首を掻いて凄風に立つ。

良寛坊主めひがみつら。よくまあ色んな華美な台詞知ってるもんだな。

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欝たる彼の梧桐樹、
生を托す崑崙の陰、
上枝は雲日を礙り、
下根は千尋に盤(わだかま)る。
曾て衛人の顧を労し、
伐られて龍唇琴と作る、
一たび弾けば浩音を発し、
颯々として山林に振るふ。
此の曲緯ならずと道はん、
合ひ難し下里の音、
之れを空宅の内に棄つ、
惜しい哉徒爾たり。
夜月幾たびか戸に臨み、
春風数ばしば枝を抽く、
鐘子と延陵と、
迢々期す可からず。 欝たる彼の梧桐樹、生を托す崑崙の陰、上枝は雲日をさえぎ(石に疑)り、下根は千尋に盤(わだかま)る。

欝然うっそうと茂るんですかかの梧桐樹、そういう大木の伝えです、崑崙山の北にあった、上枝は雲をまた日をさえぎり、根は千尋にわだかまる、とんでもなくでっかいんです。


曾て衛人の顧を労し、伐られて龍唇琴と作る、一たび弾けば浩音を発し、さつ(立に風)さつとして山林に振るふ。

だもんで国を守るにしたってたいへんだ、なんとかせにゃならんとて、とうとう伐採されて龍舌琴となった、琴を作ったんです。ひとたび弾けば天地にとおる音を発して、山林みなうちふるえる。


此の曲緯ならずと道はん、合ひ難し下里の音、之れを空宅の内に棄つ、惜しい哉徒爾たり。

この曲は一般向きじゃなかった、流行歌みたいなわけにゃゆかぬ、誰も聞かずと空き家ん中に捨てた、惜しいかな空しく終わる。


夜月幾たびか戸に臨み、春風数ばしば枝を抽く、鐘子と延陵と、ちょう(しんにゅうに召)ちょう期す可からず。

モーツアルトかと思ったら良寛詩だった、欝然たる大木全世界に根を張ってさ一曲を奏で万曲を奏でして、だーれも聞かず、名月いくたびか戸を叩き、春風しばしば茂みをゆすりする、自然が耳を傾けるほかには、鐘子と延陵という音楽の達人も互いにかけはなれた存在、人の耳目を労する能はず。

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珊瑚南海に生じ、
紫芝北山に秀ず、
物固より然る所有り、
古来今年に非ず。
伊昔少壮の時、
錫を飛ばして千里に遊ぶ、
頗る古老の門を叩いて、
周旋凡そ幾秋ぞ。
期する所は弘通に在り、
誰れか惜しまん浮漚の身、
歳我れと共ならず、
己んぬ復た何をか陳べん。
帰り来る絶巘の下、
蕨を采って昏辰に供す。 珊瑚南海に生じ、紫芝北山に秀ず、物固より然る所有り、古来今年に非ず。

珊瑚は南の海に生まれ、霊芝は北の山に抜きん出る、物もとより個々のありよういわれがある、かつてはまた今ではなく、珊瑚も紫芝も傑出珍奇のものですか。万人中の一。


伊昔少壮の時、錫を飛ばして千里に遊ぶ、頗る古老の門を叩いて、周旋凡そ幾秋ぞ。

むかし血気盛んであったころは、錫杖一本に千里のみちのりを遊化した、あっちこっちに先達の門を叩き、道にいそしむこと幾春秋。
そりゃほんとうに行雲流水糸の切れた凧して、清の国まで行こうとしたらしいです。


期する所は弘通に在り、誰れか惜しまん浮おう(さんずいに区)の身、歳我れと共ならず、己んぬ復た何をか陳べん。

仏を修し仏を敷衍することこれたった一つ、宿なしのあぶくみたいな境遇をなんとも思わなかった、だが年にゃ勝てず、やんぬるかな何をか云わんや。


帰り来る絶けん(山に献)の下、蕨を采って昏辰に供す。

人里はなれた山中ですか、しょうがない帰ってきて庵を結び、わらびをとって朝夕食っているってことです。

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昨日の是とする所、
今日亦復た非なり、
今日の是とする所、
いずくんぞ昨非に非ざるを知らん。
是非定端無く、
得失預かじめ期し難し、
愚者は其の柱に膠す、
何ぞ之れ参差たらざらん
有知は其の源に達し、
逍遥且らく時を過ごす、
知愚両つながら取らずして、
始めて有道の児と称すべし。
昨日の是とする所、今日亦復た非なり、今日の是とする所、いずくんぞ昨非に非ざるを知らん。

昨日是としたところ、今日は是にあらず、今日是とするところ、昨日は是であったか非であったかそんなんわからんです、坐婁とはたいていそういうことです、日々新たにしてまったくの無反省は、非思い上がりかつと一瞬消える、あとかたなしなんです。


是非定端無く、得失預かじめ期し難し、愚者は其の柱に膠す、何ぞ之れ参差たらざらん

是非善悪時と所により、人により見方により定型お決まりってことないんです、おろかな人は膠にように拘泥して動きが取れない、もと不規則であり浮き草のようでありする、とりとめもないとは目前すべてなんですか。


有知は其の源に達し、逍遥且らく時を過ごす、知愚両つながら取らずして、始めて有道の児と称すべし。

知有るものは源に達し、原因を究明するんですか、でもってしばらく逍遥徘徊するわけです、因果のみなもとまたそのみなもとって要するに便宜格好ですか、どうぞご勝手にというべき、有道の人は知にも属せず無知にも属せず、知はこれ妄覚無知はただもうろくでもないんですか、人のありよう野の花にもおよばずと。

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策を杖ついて且らく独り行き、
行きて北山の陲に至る、
松柏千年の外、
竟日悲風吹く。
下に陳死の人有り、
長夜何の期する所ぞ、
狐狸幽草に隠れ、
鴟鴞寒枝に啼く。
千秋万歳の後、
何誰か茲に帰せざらん、
彷徨去るに忍びず、
凄其涙衣をうるを沾す。 策を杖ついて且らく独り行き、行きて北山のほとり(こざとへんに垂)に至る、松柏千年の外、竟日悲風吹く。

杖をとってしばらく行く、行いて北山の辺に来た、松や柏が千年を茂る外、一日中悲痛な風が吹く。


下に陳死の人有り、長夜何の期する所ぞ、狐狸幽草に隠れ、し(氏に鳥)きょう(号に鳥)寒枝に啼く。

下に死なんとする人があった、長い夜をみとるだけが、狐や狸は草むら深くひそみ、寒い枝にふころうが啼く。


千秋万歳の後、何誰か茲に帰せざらん、彷徨去るに忍びず、凄其涙衣をうるを(さんずいに占)す。

何年何十年ののちに、ここに帰って来るだれがあろうか、さまよい歩いて去るにしのびず、ただもうこれ涙衣をひたす。へーイご足労さま。

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茲に太多生有り、
自ら聡明を衒うを好む、
何ぞ必ずしも旧貫に由らむ、
事事皆改め成す。
山海の美を鼎立して、
宅は当時の栄を極む、
門前車騎溢れ、
遐邇其の名を伝ふ、
未だ十八年に過ぎざるに、
家破れて荊棘生ず。 茲に太多生有り、自ら聡明を衒うを好む、何ぞ必ずしも旧貫に由らむ、事事皆改め成す。

ここに大風、大威張りの人があった、自らの聡明を吹聴し、習慣に頼るだけではなく、新機軸を発揮し物を改める。


山海の美を鼎立して、宅は当時の栄を極む、門前車騎溢れ、か(暇の日ではなくしんにゅう)び(爾にしんにゅう)其の名を伝ふ、

山海の美を鼎立とは珊瑚や石やの庭園門構えですか、当時の栄を極め、門前市をなすほどの来客です、遠近にその名を轟かせた。


未だ十八年に過ぎざるに、家破れて荊棘生ず。

たった十八年に家傾いて、いばらやえむぐらが生える。まあさそういうこったかな、今も昔もそりゃ同じ。

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宅辺苦竹有り、
冷冷数千竿、
笋は迸って全く路を遮り、
梢は高く斜めに天を払ふ。
霜を経て精神を培かひ、
烟を隔てて転たた幽間、
宜しく松柏の列に在るべし、
何ぞ桃李の妍に比せん。
竿直にして節弥よいよ高く、
心虚にして根愈よいよ堅し、
愛す爾が貞清の質を、
千秋希ひねがはくは遷る莫れ。
宅辺苦竹有り、冷冷数千竿、じゅん(竹かんむりに伊のイなし)は迸って全く路を遮り、梢は高く斜めに天を払ふ。

家のまわりに真竹の林があって、れいれいとして数千本に及ぶ、たけのこが生えとおり路をさえぎる、梢は高くななめに天を払う。


霜を経て精神を培かひ、けむり(火に因)を隔てて転たた幽間、宜しく松柏の列に在るべし、何ぞ桃李の妍に比せん。

霜を置くにしたがいしなやかに強くですか、精神を培いは効いている、桐霞また煙りでいいんですか、まことにもって幽玄に見える、松柏は中国風で


双方ともに常緑樹です、桃李も日本なら梅桜ですか、まことにもって男っぽく、女へんじゃあないってわけです。

竿直にして節弥よいよ高く、心虚にして根愈よいよ堅し、愛す爾が貞清の質を、千秋希ひねがはくは遷る莫れ。


まっすぐで節高く、心虚にしてとは空ろですか、根は堅固に張る、まさにこれ男子の欣快たるもの、無心堅固仏のありようですか、清潔たるを愛する、いつまでも他所へ移らずにおってくれというんです、はい。

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聞道は須べからく耳を洗ふべし、
不からざれば即ち道持し難し、
耳を洗ふ其れ如何、
見知を存する莫れ。
知見わずかに存する有れば、
道と相離支す、
我れに似れば非も是と為し、
我れに異なれば是も非となす。
是非始めより己に在り、
道其れ是くの如くならず、
水を以て石頭を没す、
祇だ覚る一場の癡たることを。
聞道は須べからく耳を洗ふべし、不からざれば即ち道持し難し、耳を洗ふ其れ如何、見知を存する莫れ。

道を聞く、仏を知るには耳を洗え、でなくば道はそっぽ向く、だらしなしの仏などありようもなし、耳を洗うとは他所ことじゃない、許由の清を洗えというのだ、見を持つなかれこれ洗耳の根本、なにはこうあるべきだからという、人間騒々しく地球破壊の因はただこれ、100億シーシェパードの紅衛兵の、どうですかまさにこりゃどうもこうもならんです。


知見わずかに存する有れば、道と相離支す、我れに似れば非も是と為し、我れに異なれば是も非となす。

宗教の思想の主義主張の哲学の、これを払拭してようやく地球宇宙のお仲間入りです、どんずまり空中分解もおいそれとはいかんですか、悲惨無惨の世の中。


是非始めより己に在り、道其れ是くの如くならず、水を以て石頭を没す、祇だ覚る一場のち(痴の知を疑)たることを。

自分というもの我れという根無し草を去るんです、ほかに道につくすべはなし、石頭を水中に没するわっはっは水に帰るんですか、そりゃおもしろい、石頭粉砕したっても石ですか、悟ってみれば一場のまあ恥ずかしいかぎりのさ。

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群賢高会の日、
揖譲坐すでに定まる、
長慶と劉孟と、
辣評す古人の詠。
卓子は長慶を是とし、
杜公は劉孟を是とす、
四人交ごも相詰り、
日夕まで一定せず。
卓子色を正して云ふ、
子何すれぞ劉孟に党すと、
杜公勃然として云ふ、
子は長慶に党するに非ずやと。
闔坐声を失して笑う、
今に到って話柄たり。 群賢高会の日、いつ(てへんに口耳)譲坐すでに定まる、長慶と劉孟と、辣評す古人の詠。

賢者ども集まっててっぺん会議です、だれがトップになるかいっする、一礼してあい譲る、すでに決まっていたのを、長慶白楽天と劉孟が古人の詠むところを評唱する。


卓子は長慶を是とし、杜公は劉孟を是とす、四人交ごも相詰り、日夕まで一定せず。

卓子は長慶に杜公は劉孟に加担して、四人けんけんがくがく、日の暮れるまで定まらず。


卓子色を正して云ふ、子何すれぞ劉孟に党すと、杜公勃然として云ふ、子は長慶に党するに非ずやと。

まあさかくの如く、


かつ(門に蓋のくさかんむりなし)坐声を失して笑う、今に到って話柄たり。

一座の人声を失して笑う、話柄は語り草、こういうことがあったんだそうでわしは知らず、仏門にはあらず。でもまあお笑い種にするだけよし。モーツアルトかバッハか、ふんなもん論争の意味なしってさ。

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伊れ昔棲遅の処、
孤錫偶たま独り行く、
牆は頽る孤兎の径、
井は空し修竹の旁ら。
蛛は網す読書の窓、
塵は埋む坐禅の牀、
秋草階を没して乱れ、
寒蛩人に向って鳴く。
彷徨去るに忍びず、
凄其夕陽に対す。 伊れ昔棲遅の処、孤錫偶たま独り行く、かき(状の犬を薔のくさかんむりなし)はくず(禿に頁)る孤兎の径、井は空し修竹の旁ら。

棲遅のところ、隠棲ですか、むかしだれか浮世を離れて住んだんですか、たまたま錫杖を突いて一人行くと、くずれた垣根は兎の通り道になって、竹が生い伸びて空井戸があった。


蛛は網す読書の窓、塵は埋む坐禅のとこ(状の犬でなく木)、秋草階を没して乱れ、寒きょう(恐の心でなく虫)人に向って鳴く。

読書をした窓辺にはくもの巣が張って、坐禅をした床は塵が埋ずむ、秋草が乱れ生い茂ってきざはしを覆い、こうろぎがさむざむと鳴いて人を迎える。

彷徨去るに忍びず、凄其夕陽に対す。

さまよい歩いて去るにしのびず、凄愴のありさま夕陽に対す。一人坐していた読書人の跡、人知れず朽ち果て。

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孰れか謂ふ名は実の賓と、
斯の言古より伝ふ、
唯名の実に非ざるを知って、
実の根なを省みず。
名実相関せず、
縁に随って須らく自ら怜(さと)るべし。


た(塾の土なし)れか謂ふ名は実の賓と、斯の言古より伝ふ、唯名の実に非ざるを知って、実の根なを省みず。

名実ともに備わるという、名は実の客でさると、古来そう云い習わして来た、だが名は実にあらざることを死って、実の根無し草を知らず。このことほんとうに知れば印可底です。人間以外みんな知っています。


名実相関せず、縁に随って須らく自ら怜(さと)るべし。

坐る以外にまったくないんです。

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越中二月の時、
桃李花参差、
高き者館閣を照らし、
低き者人衣を払ふ。
一夕狂風起こり、
飄々雪と為って飛ぶ。


越中二月の時、桃李花参差、高き者館閣を照らし、低き者人衣を払ふ。

二月は旧暦だからきっと春のまっさかり、桃にすももに咲いて、てかの高いのは館や仏閣を照らし、低いものは人の衣を払う。


一夕狂風起こり、飄々雪と為って飛ぶ。

越後の春はとつぜん嵐になって吹雪いて、めっちゃんこってことよくある、梅は強い桜は無惨。でもこれまさに春の風物。

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仏は是れ自心の作、
道亦有為に非ず、
爾に報ず能く信受して、
外頭に傍ふて之くこと勿れ。
輈を北にして而して越に向ふも、
早晩到着の時あらんや。


仏は是れ自心の作、道亦有為に非ず、爾に報ず能く信受して、外頭に傍ふて之くこと勿れ。

仏はただこれ自らの心です、道も有為のものではない、どうしようこうしようという名利また我利のためではない、なんじに報ずと、よく信受してという、法を聞くと意見を陳べるしか知らないひと情けないです、知識の足しにすしか知らないとは、こりゃもうどうしようもないです。外頭にそうてとはたとい仏も見たり聞いたりしかない、自らの心にそっぽを向くきり、それじゃなんにもなりゃせんです。


ながえ(車に舟)を北にして而して越に向ふも、早晩到着の時あらんや。

北に向って南に行こうとする、地球一周すりゃいいですかわっはっは、そんならまあそうやってりゃいいったってうるさったいかぎり。仏の痛棒を食らってもなんだかんだの解釈、てめえの腐れ腹肥すばかり、みっともないです。

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黄鳥何ぞ関関たる、
麗日正に遅遅たり、
端坐す高台の上、
春心自ずから放しひままならず。
彼の嚢と錫とを探って、
飄飄道に随って行く。

黄鳥何ぞ関関たる、麗日正に遅遅たり、端坐す高台の上、春心自ずから放しひままならず。

うぐいすがあっちこっち鳴いている、うららかなまさにこれ春の長い日より、しばらく坐っておったが、なんだかどうも浮かれて泳ぎ出す。
禅坊主はこうあるべきっていうたがなんぞないってさ。


彼の嚢と錫とを探って、飄飄道に随って行く。

そうれみたことかってわけで、頭陀袋と杖をとって、あてもなくさまよい出る。うぐいすに鳴いて花になって風になって、春夏秋冬ですか。

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夜夢都べて是れ妄、
一の持論すべき無し、
其の夢中の時に当たって、
苑として目前に在り。
夢を以て今日を推すに、
今日亦復然り。



夜夢都べて是れ妄、一の持論すべき無し、其の夢中の時に当たって、苑として目前に在り。

夢はそりゃ妄想、もって論ずるべきなし、夢をもって持論するわっはっはシーシェパードですか、イエスキリストさまですか、そりゃどうしようもないです、夢中の時に当たって、苑として目前にありの時持論しないんです、するとそっくり夢が真実です。わっはっは一年365日夢、実際であればあるほどに夢。


夢を以て今日を推すに、今日亦復然り。

これが本来我らが姿です、七転八倒悲痛無惨の繰り返しが、難波のことは夢のまた夢と。面白いんですよ。

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痛ましひ哉三界の客、
知らず何れの日にか休せん、
往還す六趣の岐、
出没す四生の流れ。
君と云ひ臣と云ふ、
皆是れ過去の讐、
妻と為り子と為る、
曷に由ってか幽囚を出ん。
縦輪王の位を得ようとも、
竟ひに陶家の牛とならん、
痛ましひ哉三界の客、
何れの日にか是れ歇頭。
通夜熟つら思惟し、
涙流れて収むる能はず。

痛ましひ哉三界の客、知らず何れの日にか休せん、往還す六趣の岐、出没す四生の流れ。

見るに見かねる痛ましさ、ニュースもまた業苦の世界です、三界の客人みなのことです、六趣四生に輪転すと、地獄餓鬼修羅畜生人間天上の盥回し、四生とは胎生卵生湿生化生の四つですとさ。


君と云ひ臣と云ふ、皆是れ過去の讐、妻と為り子と為る、なに(喝の口なし)に由ってか幽囚を出ん。

君臣妻子生まれ変わり死に変わりしての因縁によりますか、どこからどう始まっているかなんぞわからない、そのとらわれの憂き目を離れる手立てがない、実にこれを痛感するによってお釈迦さまの出家得道があったんです。


たとひ(糸に従)輪王の位を得ようとも、竟ひに陶家の牛とならん、痛ましひ哉三界の客、何れの日にか是れかつ(喝の口でなく欠)頭。

転輪聖王という須弥四州を統括する王さま、陶家どっかそこらの陶さんちの牛となるってことですか、痛ましいかないずれの日か休かつせん、ぽっかり大ひまが開くんです、生まれついての本来、舌頭たたわわとして定まらずにっこり。百花開くんです。


通夜熟つら思惟し、涙流れて収むる能はず。

観念ではなくまさにこれがありさま、よくよく見て取って下さい。

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五合庵

索索たる五合庵、
室は懸磬の如く然り、
戸外杉千株、
壁上偈数編。
釜中時に塵在り、
甑裏更に煙無し、
唯東村の叟あり、
時に敲く月下の門。

五合庵

索索たる五合庵、室は懸けい(馨の香を石)の如く然り、戸外杉千株、壁上げ(喝の口をイ)数編。

索索たる淋しいなんにもないさま、五合庵です、大正時代に建て直したそっくりさんが今もあります、ほんになんにもないです。室は懸けいの如くとは中国の左伝という書にある、空しいありさまだそうです。外は杉林で、壁にはげじゅ数編、禅語をかかげるんですか。


釜中時に塵在り、甑裏更に煙無し、唯東村のそう(由に又)あり、時に敲く月下の門。

釜んなかにちりがたまる、かまどには煙が立たず、時に東村に男があって、月明かりに戸を叩く、あっはっはすっからかんです、たいていだれとも付き合わないのは、付き合ったって埒もないんです、世間話も常識ごともないです、付き合いは疲れるばかりですか、がきどもと遊んでいる、ようやく口を聞けるんですか。銀椀に雪を盛り、名月に鷺を蔵す、類して等しからず、混ずる時んば処を知る。

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秋夜偶作る

覚めて言(ここ)に寝ぬる能はず、
杖を曳ひて柴扉を出ず、
陰虫古砌に鳴き、
落葉寒枝を辞す。
渓邃うして水声遠く、
山高うして月色遅し、
沈吟時すでに久しく、
白露我が衣を霑す。
秋夜偶作る

覚めて言(ここ)に寝ぬる能はず、杖を曳ひて柴扉を出ず、陰虫古せい(石に切)に鳴き、落葉寒枝を辞す。

目が覚めたら寝られない、杖をとって柴の戸を開けて出る、石畳の下に秋の虫が鳴いて、枯れ枯れの枝から葉っぱが落ちる。


渓ふか(うかんむりに遂)うして水声遠く、山高うして月色遅し、沈吟時すでに久しく、白露我が衣をうるほ(雨かんむりにさんずいに占)す。

谷ふかく音もなく水が流れ、山高く月はとっくに傾き、ものみな寝静まってすでに久しく、朝露がわしの衣をうるをす。

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秋の暮

秋気何ぞ蕭索たる、
門を出ずれば稍寒し、
孤村煙霧の裡、
帰人野橋の辺。
老鴉古木に聚り、
斜雁通天に没す、
唯緇衣の僧有り、
立ち尽くす暮江の前。

秋の暮

秋気何ぞしょう(粛のくさかんむり)索たる、門を出ずればやや(科の斗ではなく肖)寒し、孤村煙霧の裡、帰人野橋の辺。

秋深まって物淋しく、外へ出ると風がやや寒い、一村霧に煙る、帰って行く人が橋の付近に、


老鴉古木に聚り、斜雁通天に没す、唯し(糸に留)衣の僧有り、立ち尽くす暮江の前。

烏どもが古木に群がり、かりがねが連なって天に消える、ただ一人墨染めの衣を着た僧が、暮れ行く河の辺に立ち尽くす。こうして風景の一点になることが傍観され、あるいはおのれからというにはおのれまったく失せる。詩作とは奇妙なものですか。

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秋夜夜正に長いし、
軽寒わが茵を侵す、
すでに耳順の歳に近し、
誰れか憐む幽独の身。
雨歇んで滴たり漸く細く、
虫啼いて声愈いよ頻りなり、
覚めて言(ここ)に寝ぬる能はず、
枕を側てて清晨に到る。


秋夜夜正に長いし、軽寒わがしとね(くさかんむりに因)を侵す、すでに耳順の歳に近し、誰れか憐む幽独の身。

秋の夜長です、ほんに長いなあというんです、寒さが寝床を侵す感じです、耳順は六十ですとさ、寒さ身にしむ年寄りです、てめえかってのかけはなれた独り暮らしですか、そりゃだれも憐れみゃしないってさアッハッハ、いやさどーにもこーにも。


雨や(喝の口なしに欠)んで滴たり漸く細く、虫啼いて声愈いよ頻りなり、覚めて言(ここ)に寝ぬる能はず、枕を側てて清しん(日に辰)に到る。

雨がやんで雨んだれがとだえがちになる、啼きすだく虫の音がしげしく、目が覚めたらもう寝られない、枕を引き寄せてわしみたいにそのまんま坐禅でもしますか、清しん明け方を迎えるのです。まあそんなぐらい、独り暮らしに別格もなにもないんですよ。

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秋日一行上人の故居を過ぐ

秋日伴侶無し、
策を杖いて独り彷徨す、
山空しくして茱萸赤く、
江寒うして蒹葭黄なり。
橋を渡る他橋に非ず、
堂に升る亦此の堂、
何ぞ意はん凄風の暮、
寂莫涙裳を沾す。


秋日一行上人の故居を過ぐ

秋日伴侶無し、策を杖いて独り彷徨す、山空しくしてしゅ(くさかんむりに朱)ゆ(黄)赤く、江寒うしてけん(くさかんむりに兼)か(くさかんむりに仮の旧字体)黄なり。

秋の日をつれあいなし、杖をついて一人さまよう、山は空しくしてぐみの実赤く、河は寒々として芦が黄色く枯れ。


橋を渡る他橋に非ず、堂に升る亦此の堂、何ぞ意はん凄風の暮、寂莫涙裳をうるほ(さんずいに占)す。

橋を渡るに他の橋にあらず、馬を度し驢を度すの意というほどのものはなく、二つ三つ橋を渡ろうがたったこの橋、孤独というには孤独ですが、たったこれだけという目の当たりなんです、向こうもこっちもないんです。堂もまたしかり、孤俊全宇宙全世界一人っきりなんです、つとめてそうしたわけではないんです、他にまったくどうしようもなかったんです、すさまじい秋の暮れですか、涙もすそをうるをす、清々あい整うさまです、涙するんですよ。

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夏の夜

夏夜二三更、
竹露柴扉に滴たる、
西舎臼を打ち罷んで、
三径宿草滋し。
蛙声遠く還た近く、
蛍火低く且つ飛ぶ、
寤めて言(ここ)に寝ぬる能はず、
杖を撫でて思ひ凄其。


夏の夜

夏夜二三更、竹露柴扉に滴たる、西舎臼を打ち罷んで、三径宿草滋し。

夏の夜更けて、竹の露が柴の戸にしたたる、西の家で臼をつき止んで、石臼を回すんでしょう、三径とは隠者の庭ですとさ、草ぼうぼうなわけですか。


蛙声遠く還た近く、蛍火低く且つ飛ぶ、さ(うかんむりに状の犬を吾)めて言(ここ)に寝ぬる能はず、杖を撫でて思ひ凄其。

蛙が鳴いて遠く近く、蛍がしばらく低く飛ぶ、目が覚めたら寝られない、杖をなでて思いすさまじい、すさまじいってことどう思いますか、もといいことなんかさっぱりないんです、頼りなくたった一人放り出されたただの人、赤ん坊に毛の生えた大人ですか。音楽は自分で奏でるよりなく、楽器は蛙声や竹露や蛍や夏夜です、聞くものなし称える手なし。ただずばっとものみなわずかに出でて。

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柱杖子

我れに柱杖子有り、
知らず何れの代より伝ふ、
皮膚長く消え落ち、
唯真実の存する有り。
曾経深浅を試み、
幾回か剣難を喫す、
如今東壁に靠り、
等閑流年を度る。

柱杖子

我れに柱杖子有り、知らず何れの代より伝ふ、皮膚長く消え落ち、唯真実の存する有り。

柱(てへんに主)杖子有りは、すべてこれを用いる主人公です、他の追随を許さないんです、我れに柱杖子ありと云い切れるのはなまなかのこっちゃないです、自分というものを捨て去るただこれだけ、学んで我が物とするはただの物真似です、死んで死んで死にきって思いのままにするわざぞよき。どこかに色気のあるうちは使い物にならんですか、皮膚長く消落し、ただ真実のみ存す。良寛の詩これ。


曾経深浅を試み、幾回か剣難を喫す、如今東壁によ(告のしたに非)り、等閑流年を度る。

深浅のあるうちはだめです、参じ尽くすことはぶち抜いてなほ日々新、すなわち昨日のことはないんです、いくたび突き落とされて蒼龍窟に堕す、もうどうにもこうにもになることは、顧みるに我れなく顧みる我なしです、あっはっは基本わざですか。壁によっかっかって良寛と呼ばれてへーんな顔して見る、あんれおれだったかってなもんの、してはその日送りの何十年、楽しいかってほかに人の生活なんてものないんです。

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瓦礫と為す可からず、
孰か珠玉の比を取らん、
依稀たり麟龍の角、
彷彿たり青象の鼻。
秋夜法話に陪し、
春昼坐睡に伴う、
塵を払うの用無しと雖も、
亦道意を佐するに足る。

こつ(竹かんむりに勿)

瓦礫と為す可からず、たれ(熟のてんてんなし)か珠玉の比を取らん、依稀たり麟龍の角、彷彿たり青象の鼻。

こつという師家の手にする如意と同じいもの、こいつでごんとやられると頭かち割られるかな。瓦礫となすべからず、法のない坊主が持てば石ころ、猿芝居金襴のお袈裟の手にする珠玉の類ですかお笑いです。さも似たり麒麟や龍の角、聖象の鼻あっはっははーいごもっとも。


秋夜法話に陪し、春昼坐睡に伴う、塵を払うの用無しと雖も、亦道意を佐するに足る。

秋夜法話する手にあり、春昼坐睡する掌にあり、払子とちがって塵を払うことはできないが、道を助けるに足る、老師はこつでもって見台を敲いてこれじゃとやった、ほらもうじき叩くぞかち、なあとか云って聞いていたな。

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「破れたる木椀に題す」に答ふ

良晨行くゆく逍遥し、
衣を褰げて東皐(こう)を歩す、
杖を以て幽篁を挑げ、
谷に下って清泉に淘ぐ。
香を焚いて朝粥を盛り、
羹を和えて夕餐に充つ、
文彩全ったからずと雖も、
良(まこと)に知る出処の高きことを。


「破れたる木椀に題す」に答ふ

良しん(日に辰)行くゆく逍遥し、衣をかか(寒のてんてんを衣)げて東皐(こう)を歩す、杖を以て幽こう(竹かんむりに皇)を挑げ、谷に下って清泉にすす(陶のこざとへんをさんずい)ぐ。
この詩は原田じゃく(昔鳥)斉の題良寛法師破木椀の詩、何処に此器を得ん、云く竹林に拾ひ来る、是れ寒拾の物に非ず、必ず陶倫の盃たる可し。に答えたもの。

いい朝に行くゆく逍遥す、衣をかかげて曲がりくねった深い沢を歩く、杖をもっておくぶかい竹やぶを別けて、谷に下って清泉にすすぐ。


香を焚いて朝粥を盛り、羹を和えて夕餐に充つ、文彩全ったからずと雖も、良(まこと)に知る出処の高きことを。

香を焚いて朝のおかゆを盛り、あつものを和えて夕飯にする、文彩剥げ落ちてはいるが、まことに知る出処の高きことを。

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西天に別れてより、
知らず幾箇の春、
素葩湛露に香ばしく、
翆蓋円池を覆ふ。
香は清し檻を払うの風、
韻は冷なり水を出ずるの姿、
前山日すでに落ち、
幽賞言に未だ帰らず。



西天に別れてより、知らず幾箇の春、素は(くさかんむりに白包)湛露に香ばしく、翆蓋円池を覆ふ。

西天インド天竺夕の空極楽浄土ですか、もうどのくらいたったのかわからない、白い穢れを知らぬ花は露をたたえて芳しく、葉は茂って円い池を覆う。


香は清しらん(木に監)を払うの風、韻は冷なり水を出ずるの姿、前山日すでに落ち、幽賞言に未だ帰らず。

らんは柵や囲いのことですか、天地世間を吹き払う香風、蓮水を出るとき如何荷葉、水中にあるとき如何、蓮。五百生野狐身を脱す蓮す花思んみれば夕映えすらむ。韻は冷なりです、いいことしいのシーシェパードじゃないです、お騒がせしないんです。日は暮れてなを味わいつくすこと能はず、よくよく看て取って下さい。

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夢中問答

乞食して市朝に到る、
路に旧識の翁に逢ふ、
我れに問ふ師胡為(なんす)れぞ、
彼の白雲の峰に住むやと。
我れ問ふ子胡為れぞ、
此の紅塵の中に老いるやと、
答えんと欲して二人ながら道はず、
夢は破る五夜の鐘。

夢中問答

乞食して市朝に到る、路に旧識の翁に逢ふ、我れに問ふ師胡為(なんす)れぞ、彼の白雲の峰に住むやと。

托鉢して朝の町に行く、知り合いの老人に会う、老人我れに問う、どうして白雲去来の峰に住むかと。


我れ問ふ子胡為れぞ、此の紅塵の中に老いるやと、答えんと欲して二人ながら道はず、夢は破る五夜の鐘。

我れ彼に問ふ、どうして紅塵のちまたに老いるやと、二人ながら答えようとして云わず、五夜四時の鐘の音に夢は破れ。
むかし中国の詩、詩経国風の詩のようなもっと以前のもののような、なんとも云えずなつかしい。

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曹渓の道に参じてより、
千峰深く門を閉ざす、
藤は老樹を纏うて暗く、
雲は幽石を埋めて寒し。
烏藤夜雨に朽ち、
袈裟暁烟に老いたり、
人の消息を問ふ無し、
年々又年々。


曹渓の道に参じてより、千峰深く門を閉ざす、藤は老樹を纏うて暗く、雲は幽石を埋めて寒し。

曹渓の道とは六祖大鑑慧能禅師のお寺を曹渓山という以来この道を指す。参じてより、千峰深く閉ざす、藤が老木にまといつき、鬱蒼と茂るんですか、雲は奇岩絶壁を覆いする、人跡堪えて奥深いありさま、なーにただの日送りです、平明まるっきりまったくのほかなしを、人に伝えようとするとどうにもこうにもです、日々新たにして跡絶えるさまが、千峰深く閉ざすんですか。


烏藤夜雨に朽ち、袈裟暁えん(火に因)に老いたり、人の消息を問ふ無し、年々又年々。

杖は夜の雨に朽ち、袈裟は暁の明るみにおんぼろけになる、人が我が消息を問うこともなし、我れもまたニュースだの世界どうだの人の消息を問うなし、年々また年々。良寛和尚そのものです。悟りを得たといって開き直るお師家さまとかそこらへんの印可底困ったさんとはそりゃ無縁の世界です。

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次來韻

頑愚信(まこと)に比無し、
草木以て隣を為す、
問ふに懶し迷悟の岐、
自ら笑ふ老朽の身。
脛を褰げて閒に水を渉り、
嚢を携へて行く行く春に歩す、
聊か此の生を保つ可し、
敢へて世塵をいとふべきに非ず。


來韻に次す

頑愚信(まこと)に比無し、草木以て隣を為す、問ふにものう(りしんべんに頼)し迷悟の岐、自ら笑ふ老朽の身。

頑かなに愚かなことはまことに比類なし、草木の隣人ですか、わっはっはそりゃ愉快です、茂ったら茂ったっきりというのか、人の浮世は迷いあり悟りあり時流によって右往左往です、ちっとはらしくしたいったって面倒くさものうしです、老い朽ちて行く身を自ら笑う、わっはっはこれ今のわしと同じだあな。どうもこうもならんわ。


脛をかか(寒のてんてんではなく衣)げてかん(門がめに月)に水を渉り、嚢を携へて行く行く春に歩す、聊か此の生を保つ可し、敢へて世塵をいとふべきに非ず。

脛をたくしあげて水間を渉り、頭陀袋を下げて行く行く春を歩く、まあもう少し生きていようさ、別段世塵を嫌うにあらずと、はーいそういうこってす。

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二僧有り経の優劣を論じ往復時を移す因って偈有り

仏説十二部、
部部皆淳真、
東風夜来の雨、
林林是れ鮮新。
何れの経か生を度せざらん、
何れの枝か春を帯びざらん、
此の中の意を識収して、
強いて疎親を論ずる莫れ。

二僧有り経の優劣を論じ往復時を移す因ってげ(喝の口をイ)有り

仏説十二部、部部皆淳真、東風夜来の雨、林林是れ鮮新。

十二分経という、長行説、重じゅ(公に頁)説、授記説、無問自説、因縁説、ひ(壁の石を言)喩説、本事説、本生説、方広説、未曾有説、論議説だとさ、修行もしないひま人がわんさかいたってこと。はいみな淳真です、それそのものは東風吹いて夜来の雨に、林は露を浴びて新鮮です、まさにかくの如し。


何れの経か生を度せざらん、何れの枝か春を帯びざらん、此の中の意を識収して、強いて疎親を論ずる莫れ。

一句透れば了るんです、他に参じようがないんです、なんのための経か、生を度すためです、お経に通暁するこっちゃないです、本末転倒しない、本末転倒は利害得失から来ること、厳に戒むるべきです。お経は失せても仏は不変です、仏仏に伝え残すほかに道はないです。

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病中の作三首

独臥す草庵の裡、
終日人の診る無し、
鉢嚢永く壁に掛かり、
烏藤全く塵に委す。
夢は去って山野に翔けり、
魂は帰って城闉に遊ぶ、
陌上の童子、
急に依って我れの臻るを待たん。


蒼顔鏡を照らさず、
白髪稍綰はんと欲す、
唇は乾いて頻りに漿を思ひ、
身垢ずいて空しく盥がんと欲す。
寒熱早々別れ、
血脈混混として乱る、
仄かに聞く採樵の話、
二月すでに半ばを減ずと。


誰か憐む此の生涯、
柴門山椒に寄る、
蓬蒿三径を失し、
墻壁一瓢を余す。
渓を隔てて伐木を聞き、
杖に伏して清朝を過ごす、
幽鳥更に鳴いて過ぎ、
余の寂寥を慰むるに似たり。

病中の作三首

独臥す草庵の裡、終日人の診る無し、鉢嚢永く壁に掛かり、烏藤全く塵に委す。

一人っきりで寝ているんです、鉢の子も頭陀袋も壁にかかったまんま、烏藤は杖ですか、ほこりをかむって転げている。


夢は去って山野に翔けり、魂は帰って城いん(門がまえに韻)に遊ぶ、は(こざとへんに百)上の童子、急に依って我れのいた(至に秦)るを待たん。

夢は枯野を駆けめぐるんですか、魂は町に帰りちて遊ぶ、は上は街路ですか、がきどもがわしを待っているだろうなというんです、子らと遊ぶ春日は暮れずともよしと、空しく春の日差しですか。

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蒼顔鏡を照らさず、白髪やや(のぎへんに肖)ねが(糸に官)はんと欲す、唇は乾いて頻りにしょう(醤の酉ではなく水)を思ひ、身垢ずいて空しく盥がんと欲す。

蒼い顔は鏡にものうく映るんですか、白髪があっちこっち増える、唇はかさかさになって夏みかんみたいな水っけのものを思う、垢だらけの体を行水して濯ごうとは願うんだけど。いやはやこりゃ病こうこうです。


寒熱早々別れ、血脈混混として乱る、仄かに聞く採樵の話、二月すでに半ばを減ずと。

熱が出て下がってまた出て下がって、脈は早くなったりおそくなったり乱れっぱなし、樵夫どもの話が聞こえてきた、二月ももう半ばを過ぎたという、よっぽど頑丈な人だったんかな、死線をさまようようなこともいくたびあったに違いないが、そうしてもって詩に書くしか存在価値がない、これも究極の実存主義ですか、あっはっはそりゃまあお笑いじゃないってこったかな、はい。

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誰か憐む此の生涯、柴門山椒に寄る、蓬こう(くさかんむりに高)三径を失し、しょう(土に薔のくさかんむるなし)壁一瓢を余す。

だれか憐れむこの生涯、柴の門には山椒が生え、仙人の歩くような道はすでにかき消えて、まがきには瓢箪が一つぶら下がる。


渓を隔てて伐木を聞き、杖に伏して清朝を過ごす、幽鳥更に鳴いて過ぎ、余の寂寥を慰むるに似たり。

谷の向こうから木を伐る音が聞こえてくる、杖をかかえて伏せっている清朝です、かすかに鳥が鳴いて過ぎ行く、わしの寂寥を慰めるものこれ。
ちったあ病気もよくなったんですか、寂寥かえって見にしみわたるんですか。

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訪子陽先生墓
古墓何れの処か是れ、
春日草芊々、
伊昔狭河の側、
子を慕ふて苦(ねんごろ)に往還す。
旧友漸く零落し、
市朝幾たびか変遷す、
一世真に夢の如し、
首を回らせば三十年。


訪子陽先生墓

古墓何れの処か是れ、春日草せん(くさかんむりに千)せん、伊昔狭河の側、子を慕ふて苦(ねんごろ)に往還す。

古いお墓はいったいどこにあるのか、春日めったやたらに草が生える、むかし西川の辺り、先生を慕い毎日往復したが。


旧友漸く零落し、市朝幾たびか変遷す、一世真に夢の如し、首を回らせば三十年。

いっしょに学んだ連中はどうなったか、町の様子もいくたびか変わる、まことに一世夢の如し、いつのまにか三十年をふる。

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生涯身を立つるに懶く、
謄謄天真に任す、
嚢中三升の米、
炉辺一束の薪。
誰れか問はん迷悟の跡、
何ぞ知らん名利の塵、
夜雨草庵の裡、
双脚等閑に伸ばす。


生涯身を立つるにものう(りっしんべんに頼)く、謄謄天真に任す、嚢中三升の米、炉辺一束の薪。

生涯身を立てるにものうし、なにものかになって生計を立てあるいは世のため人のためになろうとする、そうしたことがとうとう出来なかったというわけです、人が人としてあるとはどういうことですか、おぎゃあと生まれた赤ん坊のまんまでいることは不可能、だったら何をどうするんですか。とうとうとして天真に任す、一人病んで見てくれる人もなく二ヶ月を過ごす、あっはっはどんな気持ちですか、けものと同じに暮らすんですか、嚢中三升の米、炉辺一束の薪と、良寛は末永く人類の故郷たるべき。


誰れか問はん迷悟の跡、何ぞ知らん名利の塵、夜雨草庵の裡、双脚等閑に伸ばす。

悟跡の休かつと長長出ならしむ、迷悟中の人たるを脱する久しく、露堂々ですか、草の庵に夜来の雨が降る、両足つんだしてぼっかり。

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襤褸又襤褸、
襤褸是れ生涯、
食はわず(裁)かに路辺に取り、
家は実に蒿莱に委す。
月を看て終夜嘯き、
花に迷うて言に帰らず、
一たび保社を出でしより、
錯って箇の駑駘となる。


襤褸又襤褸、襤褸是れ生涯、食はわず(裁)かに路辺に取り、家は実にこう(くさかんむりに高)莱に委す。

ぼろまたぼろのおんぼろけこれ我が生涯、食うものはわずかに路っぱたに求め、家はよもぎの草ぼうぼうにまかす。うはっはとっても詩なんてものじゃねーやな、笑える。


月を看て終夜嘯き、花に迷うて言に帰らず、一たび保社を出でしより、錯って箇のど(奴のしたに馬)たい(馬へんに台)となる。

月を見て終夜うそぶき、月を仰いで遠来の客をほったらかした良寛、花に迷い帰る道を忘れと、一たび人間社会を出外れてより、保社お互い様の世の中ですか、箇のどたいはロバのようなにぶいもの、かくのごとしというのです。だれあって世間どっ外れりゃこうなる、たといホームレスも心ふっきれずはやたら苦しくさもしいばかり。

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我れ此の中に住してより、
知らず幾箇の時、
困来たれば足を伸ばして眠り、
健なれば則履を著けて行く。
従他(さもあらばあれ)世人の讃、
任爾(さもあらばあれ)世人の嗤、
父母所生の身、
縁に随って須らく自ら怡ぶべし。


我れ此の中に住してより、知らず幾箇の時、困来たれば足を伸ばして眠り、健なれば則履を著けて行く。

我れこの中に住してより、五合庵ですか、こじんまりかたかつ暮らせるほどのところを天地宇宙の中心とする、比類なきあっけらかんです、なまじのお寺だと上を見下を見うっふっふ出世街道です、坊主がどうしようもないのは良寛のころとてたいてい同じです、病気になら足を伸ばして寝る、健康なれば草鞋を履いて出て行く。でもさ良寛は実にきしんとした人でした、放逸わがままだらしがないってことなんか微塵もなかったです。


従他(さもあらばあれ)世人の讃、任爾(さもあらばあれ)世人のわらい(口に山一虫)、父母所生の身、縁に随って須らく自らよろこ(りっしんべんに合)ぶべし。

人がどう誉めようが笑おうが、そりゃ世間の口に蓋はできないです、とにかく父母がこさえたこの身だ、縁に従いこれを自ら喜ぶべし。出家して行い清ましてだからおれはなどじきどこかへ吹っ飛んでしまうです、あるのは世間に曝されるだけ、比較応答も直きに身を切る斧です、切られては失う、ついになんにもないの身心です、ないものは痛まない傷つかない、金剛不壊です、謄謄天運に任すには坐る以外答えはないんです、なーんにもないを知る、知るものなしを自由自在。

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蘆は孤峰に在りと雖も、
身は浮雲の如く然り、
江村風月の夕、
孤錫静かに門を叩く。
人間心事淡く、
床頭茶煙濃やかなり、
従他(さもあらばあれ)秋夜永し、
燭を剪る南窓の前。

蘆は孤峰に在りと雖も、身は浮雲の如く然り、江村風月の夕、孤錫静かに門を叩く。

蘆は庵ですか、人里離れたそうさなあたいていが孤立無援の住居ですか、そりゃ満員電車の中だって同じことです、身は浮き雲の如くある、仏という自分来し方行く末をまったく離れたものです、妄想常識の人には想像も付かないんです、身心脱落底はたとい浮雲の如くですかあっはっは。江村風月の夜、そうさなあ天下った神さまのようにとでも云っておきますか、静に門を叩くことあり。


人間心事淡く、床頭茶煙濃やかなり、従他(さもあらばあれ)秋夜永し、燭をき(前に刀)る南窓の前。

人間の心ごとですか淡くというんです、今の世の中の反対です、みんな仲良く平和にといっちゃ借金800兆を越え、差別だ身障者だといっちゃただもうこれ犯罪大国ですか、どこかおかしいと気が付く人の一人二人いたって、数多いだけが美学のまあさいったいこりゃなんだ、茶煙こまやかなり、たった一人全世界全宇宙を知る、人に見せるふりじゃないんです、良寛断崖絶壁、さもあらばあれ秋夜永し、詩作るには灯りが必要ですか、蝋燭の芯を切るんです、あっはっは。

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家住深林の裏、
年々碧羅長ず、
更に人事の促す無く、
時に采樵の歌を聴く。
陽に当たって衲衣を補い、
月に対して伽陀を読む、
為に報ず途に当たるの子、
意を得るは多きに在らず。

家住深林の裏、年々碧羅長ず、更に人事の促す無く、時に采樵の歌を聴く。

住む家は深い林のうちにあり、年ごとにつたが生い茂る、人ごと疎くさらに親しい人もなく、時に木を樵る人の歌声を聞く。
まあそんなふうな環境かな、今は分水が流れているから道っぱた、いやさ良寛五合庵の観光地な、屋久島によったくって雲水どもが修行するらしいが、草茫々もこっちの比じゃないみたい、目の開いた人いなけりゃそりゃわけわからんはな。


陽に当たってのう(衣へんに内)衣を補い、月に対して伽陀を読む、為に報ず途に当たるの子、意を得るは多きに在らず。

日向ぼっこして墨染めをつくろい、月明かりに祖録を読むんですか、げじゅを見る、道にいそしむ子らに云をう、これを得るのにはあれこれいらん、たった一つことでいい、ただもうまっしぐら。つに得てついに失いなんにもならずは乞食坊主、わっはっはすっからかんの元の木阿弥。

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静夜草庵の裏、
独奏ず歿絃琴、
調べは孤雲に入りて絶え、
声は流水に和して深し。
洋々渓谷に盈ち、
飄々山林を度る、
耳聾漢に非ざるよりは、
誰か聞かん希声の音。


静夜草庵の裏、独奏ず歿絃琴、調べは孤雲に入りて絶え、声は流水に和して深し。

夜草の庵に、独り絃のない琴を奏でる、陶淵明に拠る、調べは雲に入り、声は流水に和す。
自分という余計ものを去って天地宇宙の間は、まさにそういう観念事を離れるんです、歿絃事を奏するが如くに。


洋々渓谷に盈ち、飄々山林を度る、耳聾漢に非ざるよりは、誰か聞かん希声の音。

谷に満ち、山をわたる、実感して下さい、聾桟敷にしか席のない今様人間、良寛独居を知るには遠いんですか、希れなる声を聞け、音も聞こえず目も見えずまっくらやみにものまねうわごと=歌人詩人芸術家の現在です。

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静夜虚窓の下、
打坐衲衣を擁す、
臍と鼻孔と対し、
耳は肩頭に当たって垂る。
窓白うして月始めて出で、
雨渇んで滴猶を滋し、
怜れむべし此れ時の意、
寥々只自知す。


静夜虚窓の下、打坐のう(衣へんに内)衣を擁す、臍と鼻孔と対し、耳は肩頭に当たって垂る。

墨染めを着て面壁です、普勧坐禅儀にある通りに坐るんです、お釈迦さまの会下他に専らにすることはないです、ものまねしたってどうもこうもならんです、自分を忘れ去ってはじめて可、坐禅が坐禅になりおわる季節。


窓白うして月始めて出で、雨渇んで滴猶を滋し、怜れむべし此れ時の意、寥々只自知す。

まわりの風景も心のありようも千変万化そのまんまです、顧みてとやこうしなければまるっきりないんです、寥々というただこれ、自知するを知らず。

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寒夜空斎の裡、
香煙時すでに遷る、
戸外竹千竿、
床上書幾篇。
月出でて半窓白く、
虫鳴いて四隣禅かなり、
箇中何限の意ぞ、
相対して言葉無し。


寒夜空斎の裡、香煙時すでに遷る、戸外竹千竿、床上書幾篇。

寒い夜です、読書人の書斎ですか、いいや線香を点して坐るんです、一柱は4、50分。竹林のもと、書物何冊か、わしみたい持つはしからなくしちまっても4,5冊あるってのはなんでかな。


月出でて半窓白く、虫鳴いて四隣禅かなり、箇中何限の意ぞ、相対して言葉無し。

月が出て窓白く、虫鳴いて静かなり、箇中何限の意ぞ、ただこうあるんです、時間も広がりもなきにあらず、ただこうある面白いんですよ、汝これ彼にあらず、彼まさにこれ汝、相対して言葉なしの宝鏡三昧です、不可思議劫。

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千峰一草堂、
終身粗布の衣、
生ずるに任す口辺の醭、
払うに懶し頭上の灰。
すでに花を衒むの鳥無し、
何ぞ鏡に当たるの台有らん、
心流俗を逐ふ無く、
人の獃痴と呼ぶに任す。

千峰一草堂、終身粗布の衣、生ずるに任す口辺のぼく(僕のイではなく酉)、払うにものう(りっしんべんに頼)し頭上の灰。

千峰または天地乾坤ですか一草堂、死ぬまでおんぼろ衣をまとい、口への字に坐ってりゃ白黴が生えるまんま、頭上の灰を払うにものうし白髪ぼうぼうですかあっはっは、良寛は所作万事きしんとしていて頭も剃っていたんでしょう、四九日ごとに剃るんです。


すでに花を衒むの鳥無し、何ぞ鏡に当たるの台有らん、心流俗を逐ふ無く、人のがい(鎧の金をとってはんたいがわに犬)痴と呼ぶに任す。

悟りを得て天下取ったころはわっはっは目電光機間髪を入れずはわっはっはアポルローンのように花です、やっぱり鏡なんか見なかったんでしょうが、直に知るにはこれなんの取りえもなし、死体と同じこれわが宗旨なりですか。流行を追う世間とはかけはなれた存在です、存在自体が欠落しているんです、人呼んで馬鹿となすそりゃしょうがないです。

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寥々として春すでに暮れ、
寂寂として長く門を閉ざす、
天に参じて藤竹暗く、
階を没して薬草繁し。
鉢嚢長く壁に柱かり、
香炉更に煙無し、
瀟灑たる物外の境、
終宵杜鵑啼く。

寥々として春すでに暮れ、寂寂として長く門を閉ざす、天に参じて藤竹暗く、階を没して薬草繁し。

長い春の日が暮れる、門を閉ざしてはだれも来ず、藤に竹が天に参ずるほどに暗く、きざはしを埋めて蓬莱ですか。うははものすざまじいって感じです。


鉢嚢長く壁に柱かり、香炉更に煙無し、瀟しゃ(さんずいに麗)たる物外の境、終宵杜けん(口にしたに回、鳥)啼く。

病気で寝ているんだな、そうするともうまるっきり見捨てられてどうもこうもならんですか、物外の境瀟洒たり、自分なくしてものみなあるんです、仏のありようは単純でもまさにそのようには極めて難です、良寛すなわち極めて難、人知れずこそ。とけんてなんだっけ忘れちゃった、かささぎじゃなくってー