北見行~宗谷岬
北見行
接心が終わって北海道へ行こう、北見に金石先生を訪問してといって、九月三日穴井と美緒ちゃんともっほちゃんと車に乗って、夕方七時半に出発。夜どうし走って下北半島大間岬からフェリーで函館へ。こけちゃんがあとついてきた。金石先生はわしの売れっこない本を出版してくれた。こけちゃんは私本のようなのを出して、信濃毎日新聞に書評を載せて貰ったとかで、こんたび旅行の交通費5万円ばかり出た。でもってこけちゃんは村上で引き返す、駅前の海鮮酒場でかんぱーいお別れ。
酒もうまかった、わしと美緒ちゃんと三人飲む。
もっほちゃんと穴井運転。
かき暮れてともに食らはむ岩船の荒磯が幸を汝は忘れしや
勝木のやっじーのお寺に風呂を貰う、独身組合めぐわ洗濯物の山。
道ずとに弟が湯にも浸れりし潮鳴り聞かむ粟ヶ島山
若いころはぶっ飛ばしたけどこりゃけっこう強行軍かな、美緒ちゃんのヘンな歌に穴井の浪花節にもっほちゃんの突っ込みと、わしはおじんギャグしちゃしーんとなって、いやもう秋田までは長い、秋田はもっと長いか、途中たいして休みもしないで、
たが妻と出羽の浜廻を陸奥の国辿りも行かむ夢か現つやか
うっすら明けて運転を変わる、下北へ入った、なんとガス欠だ、7時過ぎねえとどこも開かねえ、下北を甘く見た、大間港まではもちそうにねえ。美緒ちゃんが目ざとく看板を見つけた、小路を辿って一軒だけやっていた。
なんにしやガス欠ならむ下北の風車の道を明け行かむとす
大間港へつくとフェリーは15分前に出たという、次は11時半だそうな、ホテルを見つけて交渉したら一日分払えという、けち、食堂も開いてない、ようやく見つけて、時間前に店して貰って食う。でっかいまぐろとてぐす引いてる手とモニュメントの前ふらついて、それから公園へ行く。9時に温泉施設が開く、温泉につかっていっとき仮眠した。
美緒ちゃんと松林にきのこを取った。
うちよせぬ昆布を拾ひ湯に浸り眺め暮らさむ津軽の海は
フェリーに乗った、雑魚寝部屋に枕と洗面器が置いてある、2時間ほどで着く。ちゃっかりカップルがちょっと荷物見ててねと云って帰ってこない、なんだああいつら、海んなか飛び込んだんじゃねーか、こっちもそこらほっつき歩く。貨物船やら漁船やら、フェリーにもすれ違う、今年の12月で大間函館間廃止だという、そんじゃ下北の人が困るってさ。
客もまた空ろ荷ならむカーフェリー波風荒れて函館に入る
函館には穴井の兄弟子の明慧がいた、美緒ちゃんのいとこだ、なんだか知らないが上人と呼んで、夫婦して函館暮らし。その彼が迎えてくれて、お土産だといって大間でとったきのこを渡し、きのこきらいだっていうのにさ。至れりつくせりの歓待。案内する。お墓から見える函館湾は絶景で、霧がかかって岬あり山あり船あり。大正ロマンの名物銭湯へ行く。夕暮れバスに揺られて函館山は百万ドルの夜景。豪華な函館ならではの海鮮料理。穴井にわたした金がそっくり返ってくる、すべて上人のおごりだ、いやまあそりゃご馳走さま。
哀しとや揺られ揺られて函館の百万ドルの夜景を見むと
夫婦してけなげに暮らしささひはての賑ひの地に客をもてなす
翌日函館の朝市ぶらついて朝飯を食べ、穴井ともっほちゃんと三人で出発。美緒ちゃんは起きてこない、明慧夫婦と後発。
釣具屋へ行った、ケータイすると美緒ちゃんが今起きたという、しばらく大沼公園に向かう、今お茶してるからと云う、仕方がないこっちも駅前の喫茶店に入って、コーヒーにアイスクリーム。
いいとこだよ、まだお茶してんのっていう、うっさいもう置いく、待ってすぐ行くから。穴井が運転して大通りへ出たとたん、パトカーがいてポリ公がいてはい12キロオーバーだとさ。
パトカーに切符を切られ長万部やまべは釣れじ雨にそほ降る
合流して林道をから川へ入る、やまべという、山女の5センチほどがひっかかるだけ、また別沢へ入り、フライの練習にはなったがどうもいかん。雨が降って来る、夫婦に別れて、上人の予約してくれた洞爺湖ペンションに行く。夕暮れて延々。ペンションは老夫婦、はて受けた覚えはねーが、おじいさん忘れたんでしょう、悶着あって、部屋は空いてるよ温泉はいい温泉と、だが晩飯なし。
仕方がない晩飯を食いに行く、灯りは見えて一向に遠い、すてきなレストランがあった、ワインで乾杯、なにしろ宿は取れた。
乾杯は夏の宴ぞ洞爺湖のよせあふ波に砕ける月は
朝見ると湖の辺りは風景よし、なぜか白鳥が二羽。遊歩道があってるんるん気分。美緒ちゃんを忘れたって、寝ていて起こさなかったんだ、置いていかれたと思ってパニックになったって、なんでさ車あるのに。
白鳥はなんに残れる湖のペンションならむ部屋数いくつ
どこへ行こう、ニセコに温泉ある朝湯しよう、いい温泉のペンションにはだれも浸からなかった。雨になった。道の駅はまだだった、野菜にメロンを売る、、もちもろこしはないか、流行りのとうきびしかな。羊蹄もにせこも雲の中。歌手の銅像が立ってる、どれもう向こうへ行っちゃった。
朝市は雲井隠るる羊蹄やかつて食らひしもちもろこしは
雨と霧で視界ゼロ、自衛隊の研修宿舎があった、あそこで新兵いじめるんだぞ、虫けら人間神さまの体育界系ー、温泉があった、二つあるうちの一つは改装中、見えない展望台に登ってそれから朝風呂。
朝湯には朝酒食らへ霧らひこもにせこの花をつゆさび咲かね
それからどこへ行こう、登別といって走る。土砂降りに道の駅があった、濡れて走る。もちもろこしはない、かしぐるみがあって買った。信州のとはちょっと違うか。晴れて霧もやふ山々、可憐な花が咲く。
登別温泉格安プランというのを、穴井ともっほちゃんが探し出す、ケータイだけで予約からまかなう、老人にはお手上げだ。
地獄めぐりをし熊の牧場を見、アイヌ村に行く。ひぐまの雄は二メートル30センチもある、こんなのとは喧嘩できない、頭だけでこーんなにさ。
見晴らしの久しく欲りす登別名もなき花の霧らひ美はしき
見あげしは檻の外なる大熊のひょうきんぶりもご免被むる
人もまた買ふには買へる竹笛の奏で美はしアイヌ乙女を
翌日は快晴大雪山をめざす。旭川の郵便局で違反切符振り込んで、ラーメンを食おう、うんまいのが食えるぞといって、ラーメン評議会なる一廓に入る、行列を作っている、行列やだといって入ったら、あたしたち別んとこするって女ども、穴井と食ったラーメン外れ、ねぎばっかり多いってだけ、美緒ちゃんももっほちゃんもうまかったって。
美緒ちゃんはマニュアルで取ったペーパードライバー、旭川のまっすぐ道路でトライする、
やめてくれ後ろ見ないで車線に入る、走行中しだい左による。
まあやめとくはご愁傷さまだから、半日やりゃ取り戻すさふわーいえっへん。大雪山のロープウェイへ、すでにすっかり秋の、三日後には初雪と聞く、少年のころ夢に見たヌタクカムウシュッペ、こけももが赤く。
夢に見し神威遊べる大雪のうすばきてふやこまくさの花
神威かも神威遊べる一夏の花のさ庭に初霜ぞ置く
夕方川へ入ってフライを振る一尺ほどの鱒がかかった。
石狩の川面を知るや行きずりの我が釣り揚げし鱒はも悲し
旭川から北見まで三時間半だという、北見っていうのはそんなに遠くだったか、高速道路が無料だからって金石先生がいう、そりゃとつぜんのことでって、たしかに一言も云ってなかったっけ。いいかげんな連中だって、いやさわしのことか。高速道路に乗った。以前きたときは作りかけだった、岩内でひぐまのうんち見て釣ったっけ、丸瀬布の川でイブニングライズ、うーんいやこの川も釣れそうだって三時間半、なにしろ走った、いいお天気。
道の駅様変わりせむオホーツク我が言問ひし雪消え春は
ほんとうに三時間半、金石先生は新居に住んで親父さまが95だという、奥様がリハビリに伴う日、お昼だというんで地ビール屋へ行く、ビールもうまかったが塩やきそばというのが絶品。ほたてやえびや入っている、北海道では牛乳とソフトクリームと、この塩やきそばがおいしかった。
初秋は北見にあらむ地ビールや塩やきそばに名代の昼餉
釣れるところ案内してくれったら、はいいいですよって三時間、ふえーそこらの川じゃだめなんか、いえどこでも釣れることは釣れるんですがねって、じき知床に入る山谷へ、そりゃもう釣れた、感動のフライフィッシング、初体験の女どもも悦に入る。
笹の葉のおしょろこまいてやまべいて坪ごとにせむ神威知床
次ぎの日穴井は教区坊主の晋山式の練習が二日後にあって、どうも間に合いそうもない、ケータイしてさぼった。でもって金石先生と網走刑務所に行く、先生の初代さんは網走のお役人だったそうの、このあたりでは土地持ちの名門であった、弟さんが農業をする、さとう大根が欲しいと穴井がいう、そんなもんどうするのって笑われながら一本引っこ抜いた。煮ても焼いても食えんよ、砂糖取るだけってさ、ためつすがめつ。刑務所はたしかに今も刑務所だが、立派な観光地で秋の花に乱れ咲く。蓮池にはやんまが飛び、とうすみとんぼがいて美しい、やんまの百分の一のとうすみが大威張りして、やんまを追っ払う。
乱れ咲く秋の花にし網走の檻の外なる何をか云はむ
鮭の上る川を見た、一メートルもあるのが行列を作って上っている、ここで雌雄合同するんですと先生、海岸に竿を押し並べて何十人、百人釣っている、いえ昨日あの人が釣ったとか、こりゃ気の長い話。帰ってからひぐまに襲われたというニュースがあった、だってまあひぐまの餌だ。知床へ行こうというのを、さすがに遠慮して山に入って、川はだれか先に入っていて、どでかいのが見えた、こまいの釣っては逃がしまずはそれまで。先生にお別れして、これは美緒ちゃんが友達のコネで層雲峡に宿を取る、暮れ落ちて道に迷う、
知床は遠くにありて吾妹子や山を越え行く日は暮れかかる
層雲峡の山のホテルといった、美しい写真が並んでいた、蝶やえぞしかややまねや、ひぐまや山々の姿。
教えられて翌日釣りに行くと、なんにも釣れず、ひぐまの骨を拾った、頭蓋骨からあばらから一式ある、頭骨とあばら二本と。
層雲峡山のホテルの絵葉書の蝶よ花よの夢物語り
親しくもつましくありて栗鼠や鹿初霜を置く紅葉まにまに
示されてその激たんにますは釣れずひぐまの骨を拾ひて帰る
帰りは小樽から新潟行きのフェリーに乗ろうと思ったら、翌日苫小牧からの便があるという、一日余計になった、札幌へ行こう北大キャンパスを見て、札幌ビールでジンギスカン食い放題しよう。また釣ろうってのは却下になった。
結局小樽にも行く、若者通りを行き、にしん御殿を見る、どうやらみんな穴井の差し金だ、北大でひぐまの骨格を見てうんこれだとうなずく。
美緒ちゃんとわしは道っぱたに腰下ろして、ぼりぼりなんか食っていた。
クラークの像があった。
クラークの像を仰がむキャンパスの何をし見なむ猿の腰掛
食い放題ジンギス汗ぞ年寄りもビールを呷り札幌の秋
小樽の街には、親父さま預かりますなんて看板がある、修学旅行の高校生が先生に回転寿司おごれってせっついている、うはたまらん。
にしん御殿はご立派、酒田に本屋敷があって見学した。
娘には本間様より豪華なるにしん御殿の菊を一輪
支笏湖を廻って苫小牧へ行く、さわやかに晴れて美しい、
支笏湖の双び山を神威なし長け行く秋を見れど飽かぬかも
苫小牧東港という石油の備蓄タンクを迂回してぽつんと離れ港、カーフェリーの発着だけがあるのか、陸送トラックの行列、出航まで時間があって、穴井と二人さびきの仕掛けでもって釣る、釣り客が二人いた、撒き餌してあじやさばを釣る。餌がない、ソーセージをちぎってつけた、そりゃ釣れんわ。きたきつねがやってきた、ソーセージを投げたら食った。
苫小牧外れ港にさ引きする客とか我れは北きつねして
一晩船に寝てあくる日の昼下がりに着く。美緒ちゃんの誕生日だった、ワインをおごってバイキングの船の食堂でかんぱーい。秋田土崎港に立ち寄り、飛島を過ぎ粟島のあたりはやっじーの勝木、ケータイしたらうん見えるよフェリー、よーく見えるみんな見えるみたいだと、そんなはずはないな。お寺に帰ったら萩の満開。
鳥海の庭よくあらし最上川飛島なれや粟が島山
しだれては咲き満つあらむ萩の花北見の空も今夕三日月
宗谷岬
美緒ちゃんが行くと荷物が二倍になる、フライフィッシングの道具にウエザー五人前積んでどーも窮屈、みなしてかめちゃん車説得して二台行くはずが、急にけいちゃん恋しい帰ると美緒ちゃん、かめちゃん車もキャンセル、
「越の寒梅に焼酎もつけるで勘弁しれや。」
「ばあちゃんだめって云ったし、すんじゃ行かね。」
あっさり云って、美緒ちゃん乗っけて東京経由で帰る。
「美緒ちゃん調子悪かったから。」
さまやんに煙草止めれって云われたのが原因だってさ。こけちゃんもっほちゃん天呑とわしと四人、去年買い換えたカローラに乗って出発。マリノで祝杯挙げて、飲まされなかったもっほちゃん運転で、新潟のフェリーポートへ、23時半出航翌夕五時に苫小牧へ着く。
なんせこれは長かった、持参の麻雀車から出し忘れてふわーい退屈たって、船は揺れ出して、ベットに転がっているほかなく。
知床へアイヌ神威に入らんかな揺られ揺られて夕苫小牧
ナビを北海道仕様にしたらどっか押し忘れて不備、てんやわんやを千歳のホテルルートインに泊まって、こけちゃんお奨めのピザ屋へ行く。ふーんナビ取っ替えなくってもよかったんだって。
ウトナイに廻らひ行きて夕暮れて名代のピザとビールで乾杯
こけちゃんの哲人頭はぜーんぶ決め込んで、次の日は白金温泉、ここをこー行ってあー行って、なんせ川へ入ろうてんで、宿を行き過ぎて川へ入る、どたばたウエザー着込んで、フライ手に手に笹薮をこぐ。釣れた、こけちゃんももっほちゃんもさ、天呑さんはサービス業に徹し、雨降って水かさが増していて引き上げる、思うさま釣れたのはでもさこの初っぱなばかり。
神威しやおしょろこまいてやまべいて屁っぴり腰の笹あひ深み
宿の下に滝があった、真っ青な水に泡を噛んで落ちる二流れ三流れ。美しいといえば写真の方が美しく、魚の住まぬ硫黄泉。
黄金の滝にしあらむ吹き上げて三つ流れせむは宿らふ底を
こけちゃんが歌集二の表紙にした青い沼へ行く、写真はこれも絶景、クレー射撃場があってひぐま避けならぬ、ばーんばーん。
なんにしや沈む林をうら悲し魚さへ住まぬ碧玉にして
次の日は層雲峡温泉に泊まって函館の明慧上人夫妻と落ち合う、そうしてこけちゃんは、その車に乗って恋しい旦那様のもとへ帰る。旦那は猿の脳味噌をいじくってノーベル賞へまっしぐら、みんなで押しかけて食い潰してもって、代わりに天呑に明慧上人にえーと美緒ちゃんかめちゃん提供、かわいそうなお猿が助かるってわけだった。はあて美瑛の丘はこけちゃんが運転、人呼んでジェットコースターというアップダウンの道、わーっお猿にならん前に死ぬ、助けてくれえってすごい。
臍にしや美瑛の丘をジェットコースターつぶれ屋敷も一つや二つ
ほんにあっちこっち廃屋、西部劇の町のように郵便局となんでも屋とあって家並みが二十軒、びぼうしの駅は小じんまりしていて記念撮影、アイヌ語はへたな漢字しねーでかたかなでで記しゃいいって。
びばうしの小さき駅を君若しやアイヌ神威の忘れ形見と
こけちゃん天呑にてっちゃんが岩内川を教えた、せがれてっちゃんは元自衛隊大尉殿の天呑とこけちゃんのおかげで口を聞く男になった。石狩川の支流いわながわんさかいたんだが、はあてさ。
アイヌの土地を強奪してすっからかんの北海道は、とうとうますの川も死に絶えてさ。路には車にひかれたもぐらが二匹。
ふきの門の清やけくもあるか岩内の石狩の瀬に神威廻らへ
前の旅には北見から来て、美緒ちゃんアルバイト体験の山のホテル層雲峡に泊まった、今度は旭川から来て、
はあてトンネルを通り越して、
「ここひぐまの骨を拾ったところ。」
「いらくさにやられてさ。」
とか、どーんと行って前もそこへ、案内を終了しますってナビが云う、
「やっぱし変だあこれ。」
仕方ない大雪湖の辺りを通って戻る、
層雲峡名にしおふなる天下り大雪の瀬の行方知らずも
ホテルの晩飯はバイキングだった、明慧上人夫婦は七時過ぎに来るという、函館で納所坊主をしている、貧乏人のくせにえらいご馳走するから、函館は避けて通ってと、
「あれこんなに時間かかるんかなあ、えーと八時間?」
いまさら気がついてもってこけちゃん、なにしろやって来た、
「かんぱーい。」
がっちゃん飲んで食って話して、わしは引退十二時過ぎまでやってたらしい。
寝て食ってビールを呷り層雲峡なんに寄せあふ我らを六人
今日一日は大丈夫だと明慧上人は云い、層雲峡のこの辺りいい川があるって、釣りをしようと、釣りしか知らぬじっさに肩入れして、
「大雪山から下りて来たところに、石狩川が入っていて尺物を釣ったんだ。」
そこへ行こうと云ったら、そりゃ反対側だ二時間かかる、
「へえそんなもんか。」
といって谷川へ入る、たしかにぴっと来たのにそれっきり音なし。また谷へ入る、きたきつねの子が二匹、可愛いいったら逃げもしない。
いかにも釣れそうなのに釣れなかった。くじゃくちょうときべりたてはがいた。
初秋はきべりたてはにくじゃくちょう流らふ川も神威古譚ぞ
本流ははあて信濃川と同じようなにおいがする、こりゃもうだめだ、水は澄んではいるんだが。
大雪や石狩川を二別れ行きて帰らぬ神威古譚の
ガソリンスタンドでガソリンを入れて明慧上人が聞いた、昼はルアーでなきゃだめだ、いくらつけりゃ入れ食いだ、フライは効かないって、朝夕なら釣れるとさ。夕方にはだいぶ間がある、旭川へ行って飯を食をう、旭川動物園へ行こうか。昨日ひぐま牧場っての見た、あれあーゆーの二度と見たくねえってわしはごねる。
ふてくされひぐまの檻をいたましや何故人はかくの如くに
旭川のラーメン村で昼飯、山頭火という店の、塩ラーメンがお奨めだという、五十年醤油で来たんだとまたじっさごねて、塩のほうがうまかった。
四十年わしは醤油と押し通し恨み目をして塩ラーメンを
帰ったほうがいいっていうのに、ホテルの無料コーヒーを飲んでいつまでもやっている、こけちゃんが札幌に着いたのが10時、明慧上人が函館に帰ったのが真夜中の二時だって。
ちんぐるま紅葉しつらむ鳴きうさぎ初秋の夜をルートインなる
台風12号が北上する、旭川は真っ赤な夕焼け、知床は雨だ、晴れるのは稚内では稚内へ行こう。北見の金石先生訪問が目的であったはずが、層雲峡に引き返すのは億劫、
「こけちゃんにお土産やる、先生とこは新米出来たら送ることにする。」
なんせいい加減な話、
「金石先生ちょっとそこへっちゃ三時間。」
帰れなくなったりとかさ。
宗谷岬だ、別ルートを取って旭川士別名寄美深と行く。
名寄岩大関なりしいにしへゆ何変はらずや村と牧場と
蕗といたどりと菊芋の花、天塩川に合流する、堂々たる大河だ、河川公園に下りて行って物は試しと釣る、地の人に聞かないと釣りは無理だ。水草の見える清流の、わたり鳥の群れが行く。鶴のように大きな鷺。
天塩川万ず浮世をみそなはせはぐれ雲なむ行きて帰らずは
道の駅があって昼飯を食べた、もっほちゃんはこけちゃんお奨めの豚丼、天呑むはいつだってラーメン、わしはカツ丼を食って、けっこういけたんだが豚丼の垂れがきつくって、もっほちゃんは三年は食わなくっていいってさ。
嵐さへ避けて通るか幌内の焼肉を食ひソフトクリーム
支流に入って行くとやまめの川だった、釣れるには釣れ、大きなのがいて見向きもしない。どっかでアンモナイトが出ると云った。
釣れないでくれえ、釣れたらどうしようといって、
「目が合ったら向こうへ行った、はーあ。」
と、もっほちゃん。
ぬーっとひぐまが出たらなんぞ、
手塩川のやまめの棲まふ入りあへに大物を見ししいたどり茂み
北海道は自衛隊の天下、なんせロシアが攻めて来るんだという、トラックが行く、301部隊あれは利尻島だなと天呑がいう、そういや新潟は北朝鮮、いや中国が襲うなんとかしなけりゃ。てめえ死ぬより国滅びた方がいいってえ若者、いや中年年寄りの尻ひっぱたくのは、
「うひゃむずかしいわな。」
利尻富士が見えた、稚内へはもうまっしぐら、
我が心利尻の富士を仰がむに海なも見えずさろべつ原野
のさっぷ岬は知床でのしゃっぷ岬が稚内、へーえそうかねどっちも同じ意味でねーんか、なことねえって択捉国後がのさっぷでー
利尻富士のとなりに礼文島が見える、小学校のころ金環食が見られた島だ、とつぜん鳥が鳴いてまっくらけになったな、信州の土田舎も、すすのガラスで三日月の太陽を見た、今はそれだめなんだってさ、欠けた木漏れ日とか思い出す。
さひはての夕波荒れて利尻富士今は我らは土産を買はむ
たらばが取立てだってさうにも。うちへ送った三日かかるってさ。
宗谷岬は稚内から二時間近くもかかる、ふえーい遠い、北へ来るにしたがいちょうもほとんど見ず、北緯45度線を過ぎると牛を飼う以外に畑も見えず、こりゃきびしいところ、冬はどえれーことになるいやきっともう。晴れ渡った夕をうっすらとサハリンが見える、戦前生まれには樺太だ、じーんと感激はやっぱり戦前生まれ。
さひはての宗谷岬に見ゆるは樺太ならぬサハリンにして
山へ上って行くと肉牛の巨大な牧場だった、真っ黒い牛がたむろする、車を停めて眺めていると、だれか話しかける、景色のいいところがあると云う、行ってみるとまさにこれは絶景、なんともたとえようのないさいはての丘、これがほんとのジェットコースターだ、大空と夕暮れ海に向って。
夕暮れ牛が帰って行く。一列渋滞走って行くやつもありゃあ、まだ草食ってるやつも。
何もなき岬の辺の夕映への廻り廻らひ牛の行く見ゆ
天呑の予約したホテルはうわこりゃ自衛隊御用達、駅前旅館のまあさしっくな、先客のあとかたずけもせぬ部屋を、もっほちゃんが替えて貰う。居酒屋のこれはぞっこん食わせる夕飯、いかにたこにほっき貝になんだかわからねーもの食って万歳、おしりのでっかいおばさんにおねーちゃんにいて、さいはてに乾杯。
駅前の居酒屋ならむかにに蛸鱈腹食へば三人酔ひたり
雲一つ見えぬ快晴、なんにもなしの北海道をこりゃもう満喫、七時半出発、ふーんフェリーに乗って利尻島に渡りゃよかったか、いやきっといい川がとか、なんにもなしのごり押しじっさ、
天下り宗谷岬を天晴れのけだし仰がむ利尻の富士ぞ
天を突くすざまじい山容でそんなてっぺんにも道はあるのか、漁師の船が三艘並んでマイクで世間話をしている、だだっぴろい海のそう、左側は牧場があったり原野だったり。
さろべつに沼のありとふ思ひわび風車の列をダンプが行くぞ
バイクに車がたまに行き交う、あとはどっか自然破壊のダンプの行列か、たまに街がありかっこうの川は行き過ぎて、そうしたらあとは泥川ばかり、初山別遠別と、利尻富士は富士見橋にお別れ、焼け尻島天売島が見え。
遠別に利尻の富士とあひ別れ二つ島根を天売の海や
小平という町ににしんの花田番屋を見学、立ち寄ったのはあとにも先にもこれっきり。よく保存されていた、にしん漁場を四百円で買ったという、米100トン分の値だそうな。駐車場に停めたらサイドブレーキを忘れて車がずれる、でもってじっさの運転は二十分でお終い、ちえ前の車はだいじょぶだったんにさ、顰蹙。
横綱の花田といふを覚へしやにしん御殿は明治の名代
午後二時には小樽に着いた、明日の乗船手続きをして、宮平洞窟というのを地図にさがして見学、洞窟にうさぎやしかのかっこうしたり宇宙人のようであったりする群像を描く、見えねえわからんと云っていたら、まただれか教えてくれた、弥生時代を縄文のまんま過ごしたという云々、アイヌの先祖じゃなくったってこれが北海道生え抜きだなど、かってに決め込む。かっこいいんだよな宇宙人。
いにしへのアイヌ神威を記さむは宇宙人にて宮平の洞
小樽に北海道初の鉄道が来たという鉄道博物館を見て、小樽の町へ行く、親父さま預かりますと看板のぶら下がる若人の町。もっほちゃんはわしを恋人にして腕を組んで歩く、ぐわー照れくさ、ガラス細工を冷やかし、すし屋を覗き、お茶を飲み、夕方はこけちゃんがやって来る、こけちゃんなら豚丼だべ、いやよ三年は食べない、では居酒屋をさがそうと歩く。
お土産を買い、わしはかーちゃんにネックレスを買った、もっほちゃんが値段を交渉、
「だめよあそこ二百円しか負けない。」
次へ行く、ひえー恐れ入り。
親父さま預かりますの小樽にぞ照れくさひやら恋人同士
稚内を取り戻そうとて、天呑がやっぱり駅前のできたばっかりの温泉ホテルを取る、温泉もゴージャスで値段は、
「へーえ稚内とあんまり変わらない。」
ってさ、やーれと思ったらもっほちゃんが怒り出す、まんじゅしゃげーお生理の女は洋ナシだってわしが云ったんだそうだ、そんな付き合いしてないってえらい剣幕。こけちゃんはだってといって面白がる、天呑は女には平謝りしろって教える。
どうにかならんだべか。
四人で小樽の町へ繰り出す。
居酒屋へ行ったら、ここはあたしのおごりだってこけちゃんが云う、そりゃ御馳走さま。
はしごしてビアホールへ行った。
青春再びってうそぶけば、青春してるじゃないのってさ、そうかな。
七十の青春ならぬ酔っ払ひネオンの町をうそぶき歩く
ホテルに坊主の集団が泊まった、改良着を着ている曹洞宗だ、そういえば坐禅では草もむしれませんと堂頭老師が宣うたという僧堂が北海道を托鉢する、ふーんまだ空威張りやってやがんのか、一睨みすくみあがる、いけねえこっちはおしのびだあな、どっちみち坊主空威張りは終わったのさ、云う甲斐もなや道元禅師。
空威張りらごら坊主の世は墜ひへ割りを食うたる月見に一杯
もっほちゃんのご機嫌は治ったんだけども、帰りのフェリーで麻雀の三人うちをやって、天呑にこてんぱん、ふえーやつめ旅のかたきを船で取る、きしょーめ。
提唱…提唱録、お経について説き、坐禅の方法を示し、また覚者=ただの人、羅漢さんの周辺を記述します。
法話…川上雪担老師が過去に掲示板等に投稿したもの。(主に平成15年9月くらいまでの投稿)
歌…歌は、人の姿をしています、一個の人間を失うまいとする努力です。万葉の、ゆるくって巨大幅の衣、っていうのは、せせこましい現代生活にはなかなかってことあります。でも人の感動は変わらない、いろんな複雑怪奇ないいわるい感情も、春は花夏時鳥といって、どか-んとばかり生き甲斐、アッハッハどうもそんなふうなこと発見したってことですか。
とんとむかし…とんとむかしは、目で聞き、あるいは耳で読むようにできています。ノイロ-ゼや心身症の治癒に役立てばということです。