西国巡礼
年老ひて見まく欲りせむ西国や防府の花の散らまく惜しも
旅に出た。山口県防府市には先輩がいた。二級下のもう一人は、非常な秀才であったが夭逝した。去年先輩が四十年ぶりに訪ねてくれた。これはその返礼に行く。併せて駒場寮の同窓会であった、六人のうち五人までは来る。
若いのとぽんこつに乗って行く、物見遊山だ。わしは大阪から向こうは行ったことがない。
一人欠けて、美代ちゃん由紀ちゃんと弟子という、おねえちゃんしてお祭り騒ぎ、冥土の土産ってわけか、美代ちゃんは福島の子で、神戸の由紀ちゃんとは、有馬温泉で落ち合う。四月十三日が先輩の誕生日であった。十日早朝に出た。ハイウエイに乗って新潟県は長い、直江津からトンネルを二十六も抜けて、親知らずは海上に、またトンネルで富山に入る。
越中はトンネルを抜け二十六花に迎えむ雪のつぎねふ
白馬はまっしろに聳え、そうしてまた立山連峰の山並み、川沿いのその辺りの花はようやく咲き出す。
恋しくば花にも問へなわたつみの海に差し入れ白馬の春
トンネルで頭変になってわしは休憩、
「あたしやってみようかしら。」
運転美代ちゃんに代わったら、
「高速道路二度め。」
といって追い抜きぶっ飛ばす。
「ひーえ。」
気がついたらガス欠赤ランプ。
リッター10キロ、あと100キロ大丈夫だと弟子がいう、なんなら試してみるかってそんな勇気ない、次のパーキングエリア待てず、小松で下りてガソリンスタンド。
花がけっこうに咲いて、勧進帳で有名な安宅の関。いえ松井の家というのがある。大リーガーになった年、ではまずそっちから、看板ヤンキースのバット振るのへ記念撮影。
安宅神社は見事な松の、朱い袴の巫女さんに案内されて、本日の第一号。右の耳から入って左へ抜ける。弁慶のお守りを買った。交通安全だとさ。
海辺へ抜ける。
イラクの戦争は終わったんだって、いやーな思いのそれ、旅に忘れて。
尋ね入る安宅の関を花にしやこは弁慶のお守りにして
鯖江には満開の西山公園に花見して、団子ならぬ御幣餅を食った。幼稚園の遠足といっしょに動物園に行く。丹頂鶴がいた、手を出すとふうっと嘴、強そうだぜ。本物は初めて見た。孫悟空のモデルになった猿がいた。
あとは弟子が運転して、新潟県を過ぎると早い。130キロで追い抜いて行く、でないと眠るからって、こっちが覚める。
花の大津にはランチを食って、そりゃもうお上りさんで、四時には有馬温泉に着いた。
古泉閣という、広大な敷地を持つ高級旅館の、これは若者向けのロッジだった。
由紀ちゃんはピアノを弾きに来る、
一度精進料理を食べてみたかったんだって。和風の食堂へ。
弟子の記録、
1さつまいもと豆腐の練りものの裏漉しに味付け、これに野菜を混ぜて食べる。
2茶そば。
3菜の花。ぜんまい、やつがしら。5黒豆。6空豆。生麩、こごめの酢味噌。ゆり根姫竹。9鍋。
10てんぷら、白醤油におろしでもって、たらのめ、豆腐、かぼちゃ、筍。
11筍ご飯。12オレンジのデザート。
うーんさてねってとこ。
総勢六名が、二十六女の子が間際に男こさえてドタキャンした。
「またですか。」
というやつで、もう一人東北にはいっしょに行った三太郎が、これは大学院受かって、入学金払ったら文無しで止めた。
神戸の由紀ちゃんが来て、総勢四人揃った。
うぐいすが鳴いて、由紀ちゃんと鳴き真似。
「おっほお肌の曲がり角。」
「和尚さまはすっきりしたみたい。」
ビールを飲んで由紀ちゃん若返る。
もう一組相席は、どっか坊主の新婚旅行、うわかしこまっていたのが、一夜明けると手取りあって仲良さそうって、もう尻の下に敷かれてるぜあいつ、
「いいなあたしも新婚旅行。」
と由紀ちゃん、だったら年貢の納め時、お見合いいったい何回目だ、親父が企てるたんび断る。もう承知しろ、男なんて土台ろくなんいねえんだったら。
花なれや鳴くやうぐひすひねもすに神戸の妹は嫁に行かずて
朝出に由紀ちゃんアルバイトのたこ焼き屋があった。いじめられっ子で親の資産みんな兄に行っちまって、その兄の土地借りてたこ焼き屋する。ぜんぜん流行らない。いい場所にあんだけどな、そうかなあ、
「かわいそうな人なんです。」
「首締められるぞ、いっしょに死のうってんでさ。」
五十を過ぎて独り者。
この日は安芸の宮島へ一泊。
倉敷寄ろう倉敷美術館、玉島の円通寺だ、良寛の修行寺。パスされて、くそうめ教養のねえ連中だぜ。
なにしろあなご飯食おう、わしはテレビで見た、宮島名物と云って走った。
中国道は山また山を、いちめんのやまざくら、あれはむらさきつつじか、こぶしもある、くっきりと美しく。
広島には、ゆったり流れるいい河があって、あんなところで魚を釣ってなと。途中休憩だけのパーキングエリアへ、野良猫が二疋いて、つがいになって可愛い、兄弟かな。
ままかりを買った。
だれも食わん。
昼飯を二時まで我慢して、安芸の宮島の船付き場へ。
「はーいこっち」
駐車料金1000円、泊まりなら2日分2000円、客慣れしている、ぱくっとふんだくられて船に乗った。
なんてえ山だらけの島。どんとけわしいぜ、小雨が降って登山は無理。ロープウエイがある。
鹿に取っ付かれた。うっかり餌をやった、ぞぞうっと五、六頭。動物と共存てえのはかなりダイナミックだぜ。
あなご飯はさっぱりだった。
名物になんとやらって。
「店悪かったかなあ。」
「どうでしょ。」
まっくれえばあさ、はぶそう茶運んで来たがな。
厳島神社は日本三景が。
海の大鳥居は補修工事中、巫女さまみたい朱い、そりゃ広大な海岸屋敷。
でっかい賽銭箱?
どこがいったい世界遺産、そんなこと云ったら嫌われる。神さまだぞ。
「工夫があるんだって。」
午前中広陵高校の優勝奉納拝があったという。
見損なった。
教科書に出て来る清盛像、おほっ。
なんたって沢山見た。
平家納経は三巻の展示があった、観音経なんとか品、長年坊主のさ、声を上げて読めた、感動。
すばらしい文字、三人三様に書く真剣、あんな字、逆立ちしたってもう追っつかん。
(松井が大リーグ入りってだけの世の中。)
いつまでもとっついていた。
資料館に棟方志向の、
「月夜の宮島」
という絵があって、どんと目に入る。
なんでだろう、小品が、ー
行き当りばったりの宿、
「海側のお部屋満員ですが。」
「山側でいいや。」
どうせ曇ってるしさ、朝日には早起きしてって、錦水館という、いや乙な味つけるぜ、すれっからし観光業もさすが関西って、次のようなお品書き、
はじめに苺ワイン。
初皿一、雪花 三つ葉
一、筍木の芽和え
一、すけ子(たらこ)
一、流れ子、ぼんぼり空豆、鳥菜種巻
お椀 季節の吸い物
刺身
穴子好鍋 穴子のしゃぶしゃぶ
口取り 胡麻掛牛
陶板焼 さわらの味噌焼き
温物三台一、野菜煮
一、野菜天婦羅
一、茶碗蒸
釜炊きご飯 じゃこ山椒 浅利時雨煮 赤出汁(蟹)香の物
べつばら 苺、バナナのムース
売店があった。かあちゃんに印伝のがま口を買った。二つ買って負けろったら、お国の為の消費税は負けられねえってさ、うっふう、がま口みてえに笑って押し切られ。なんで印伝だ、山梨県の名産じゃなかったっけ、鹿、そういえばあいつらぶっ殺して、食って皮にして?。
花なれや阿鼻叫喚のいさかいの寄せては返しうたかたの宮
幾代々に花は散らへれ平家なるこは納経の真面目ぞ
次の日は萩へ、旅の一点豪華北門屋敷というところへ泊まる、白壁瓦屋根の塀を廻らせて、広大敷地、そりゃもうわしら如きお呼びじゃねえって。
立派なお庭に花が咲いて、仲居のばあさ踊りか弓でもやってんのかな、どしっと決まってる。部屋よし調度よし。はてなあブーゲンビリアの鉢植えに、アテナイの胸像に、あれは牛に引かれてヨーロッパかな。
朝食は禅堂の大伽藍。
皇太子殿下お泊まりの、一泊七万円の部屋あったぜ。
真っ先に松陰神社へ行った。
部屋二つきりの松下村塾や、幽閉されていた家なと移転されて建つ。
こころゆく見学した。
神社所蔵の松陰書筆の展示があった。
だれといってさ、わしなつかしいのは吉田松陰様筆頭さな、第一あのへたくそな字わしと同じふうだ。
涙流れて弱った。
人を活かす天才、おのれを顧みず人の為にして、国の為だけにして親の恩より親心、三十で獄死しちまった。
「残ったなあ、虎の皮のふんどし。」
明治維新の力になった。
いやはやたいしたもんさ。
自殺系サイトに爪の垢煎じて売っぱらおうか。
爪の垢ねえから松脂でいいや。
昼食は畔亭という、むかし網元の豪邸であったという、蓬莱山みたい石庭のお屋敷で食った。城下町の細道を行ったらそこへ出た、高杉晋作家の裏だった。旦那どの付き合ってくれた。素人臭くておもしろい、婿どんだけど苗字は変えんとか、そういやかあちゃんの方がすっきりとか美人とかさ。
つる桔梗に花韮にと、南国の花植え。新潟ナンバーお上りさんは、たいてい親切にされたっけな。
ドイツのマイスターが焼いたパンのセット
お刺身つき小萩弁当
チリワイン
安くてうまいこと知ってるなあ。
北門屋敷の赤い自転車に乗って見学。家老屋敷に、菊屋という商家に、買わなかった萩焼き店のかあちやん、萩弁使ってくれて面白かったんけどな。
萩焼きのお土産買えって電話、
「そんなのわかんねえ、一00円の買ってうん一0万てさ。」
「あたしは一00円のでいいから、太田さんとこには少しはましなの。」
ちえかあちゃんのも買うんか、蟇口買ったてのにって、骨董屋に四0万というのあった、いいけんど気に食わねえ、親父じっとこっちを伺う、通の振りしたっけか。
旅館の売店で買った
「これはなになに先生のそのお弟子の。」
「先生なんてろくなもんいねえ。」
かあちゃんそっくりの茶碗も買って送った。
北門屋敷のご馳走
ほたての卵とじに生麩と長芋
ほたるいかの沖漬け
もずくにオクラのたたきと梅肉
子持ち昆布
鮑
百合根の豆腐
お刺身
蟹グラタン
ひらめの薄造り
鯛の桜蒸し
国民年金がそんな贅沢いいんかって、味はひょっとして安芸の宮島?
瀟洒な城下町萩、歴史的大物いっぱい、つぶれそうなお寺いっぱい。
松陰の露に消えたる獄門の二十一世紀をなに変らずや
いにしへゆ朝日射しこも松や松涙流れて過ぎがてにせむ
笠島に原生椿を見た、まだ咲いていた。一株が数十本に別れて、2万六千株の森林を作る、来てよかったというまた一つ。
八百比丘尼が担って行ったんだ。
青森は野辺地までさ。
椿の花を。
野良猫がいた。北海道の原生林にもいたな。由紀ちゃんが餌をやる。
かさご釣りがいた。
南国の海は緑色。
人もまた言問ひ寄せねちはやぶる神の御代より笠島椿
秋吉台を見て防府に行く。肝心の鍾乳洞はなんだかあんまりって、新婚さんが手つないで歩いて行く、シンボルマーク写真の方がいいのか。
「腕組んでハイカラに行け。」
といって、美代ちゃんと腕組んでみたけど、なれないと様にならんぜ。
それよりカルスト台地が面白かった、トルコ人ががんがん音楽かけて売ってるアイスクリーム買って、
「へえうめえ。」
という、むかし単純アイスクリーム。トリフ捜したって犬や豚でなし、きのこ取り名人の弟子も、土中は無理。
むかしは大森林だったか石灰岩の曠野。山焼きしたらわらびが出る。ちんけなのだれか摘っていた。
弟子め、デジカメ落として使用不能、と思ったら今度はケイタイを落とす。
聞こえてもこっちの声が伝わらぬ。
まだ通じたときに、前の旅の三太郎が掛けて来たのに、
「うんそう。」
てめえ返事して切る、
「なんだ、あいつ追っかけて来たかったんじゃねえか。」
「そうよう。」
女の子に回すぐらいすりゃいいのに。
きのこ人間だ。
鍾乳洞で由岐ちゃん口説いてた。
名にしおふる鍾乳洞の恋人やトリュフを捜す犬にしわれは
メインイベントの防府市に着いた。
今日は先輩の誕生日、女の子二人に花束買わせて乗り込んだ。みかん畑のてっぺんが住宅、S字クランクよりもっと狭い道の、塀が押し迫る。
どうにか着けた。
一人欠席一人はもう他界していたし、五人集まる、二年間で二十人ほどにはなるのだが、駒場寮祭、寮デコに三等賞を取った仲間が集まる。気の合った同士が部屋を作って万歳。いい先輩であった人が、十年ほど前に他界する。隣部屋が一人。
大学教授だ、社長OBだのいうのが岩本先輩の命令一下、風呂焚きから蒲団運びからして働く。わしらも掘れたての筍を料理した、南国の筍はうまかった。飯には持参のこしひかりを炊いた。
先輩は寮歌気違いで、
「ああ玉杯に花受けて」
から年に二つあてある、全部でいったいどのくらいになる、おまけに三高から北大の寮歌弥からあわせ、歌詞も十何番まであるのをそっくり、そいつをまたインプットして、伴奏を合成音にこさえて、延々披露に及ぶ。
アッハッハ、ぶっこわれもここまで来ると見上げたもんだ。
せっかくピアノ弾きの由紀ちゃん連れてったのに、じっさどもとビールのお相手。
ナポレオンをやった。
寮で毎日のようにしてたやつ。わあわあと駒場チャイルド。もうろく分過激になったりして。
でも十二時前には寝たか。
先輩の庭には古墳がある。
蜜柑畑の中に石を組んだ洞穴という、なんとも不思議な感じ。
彼は奥さんがなくなって、せがれ三人東京へ出て、もう何年も一人暮らしをする。
楽しかったと、帰ったらメールが入っていた。
わしも含めてよう老けた。
(美代ちゃんがいやだっていうわけだぜ、くそうめ。)
薪風呂は文化的で、ソーラーシステムにどんどん水を足す。
由紀ちゃん風呂上がりをニアミス、うわいい女。
キャアワア、こういうの年には関係ねえけどな。
安芸の宮島で、黒猫のだっこちゃんパタリロみたい顔したの売る、二人に色違い買ってやろうって云ったら、美代ちゃんはそんならこれといって、印伝の小銭入れを取る、気さくな由紀ちゃんは押しつけのくろねこを抱いて、
「こうお、あたしの恋人。」
という。だれあって切ないことはあったんさ。由紀ちゃんは親父に呼ばれて帰って行く、またお見合いだ。
石原慎太郎親父で反抗するなんてとっても無理、云いなりお見合いしては断って来た、
「一回けっこういいのあったんだけど、見たら目やにしてたから止めた。」
いったい何回やったんだ。
幼いから男の子ぶっとばして、兄貴ぶっとばしてって、親にそっぽ向いて。
岩本ファイルにはむかしの写真があった。
寮時代の幾葉か。
老けるきりで変わっちゃいないんだが、はてな、
(だれだいったいこれは。)
出家して頭剃ったからー
玉杯に酌み交してぞ半世紀初たけのこを防府に食らひ
古墳なる蜜柑の畑を受けつひでわが先輩はやもめに暮らす
雨のふるさと裸足で歩く。
由紀ちゃんは念願の山頭火を見学して神戸へ帰る。
わしらは津和野から須佐湾へ向かった。
昨日の逆戻りコースだ。あと二泊して新潟へ帰る。
森欧外はぜんぜん好きになれんし、安野光雅も嫌いだ。津和野は少女趣味みたい商売熱心、でっかく太りすぎの鯉が小流に泳ぐ。
骨董屋に四0万円の小箪笥があった、すんげえ金具ついている、お寺にもっと大きい半箪笥二つあって、一さお十五万でこないだリフレッシュした、金具は新品、二つともつけるからだれか娘貰ってくれ。
伝説の宝庫島根県。
須佐男の命の須佐湾は今売出し中、わしはこうゆうの気に入ったんけど悪評さくさく。
高山の磁石岩は磁力ないし、ホルンフェルスという岩屏風は背低い、でも鬱蒼あっけらかんとしてなんていうんだろ、三日も釣りして過ごすにいいぜ。
イタリア料理店の看板、捜し捜し行ったら定休日だとさ。
おかげて雪舟庭園見るの忘れた。
腹へった。
浜通りのレストランに入ったら、思いもかけずおいしい。うまい、行けるったら親父が出て蘊蓄。大阪へ出て修行したんだって。
沖は渺朦、
「舟でもねえしあれはなんだ。」
「見えない。」
ほんにいったいありゃなんだ、なんしろ突っ走って五時過ぎ、温泉津温泉ーゆのうづ温泉に、すべり込みセーフで飯にありつけた。
角を生やしたおっさんの像がある、浅原才市妙好人とある。
「あれまるちゃんが云ってた才市という人。」
弟子がいった、ヤフー掲示板で知り合ったまるちゃん、なんまんだぶつの人だ。
如来の御姿姿こそかかるあさましきわたしのすがたなりなみあむだぶつなみあむだぶつ
とあり、また、
角のあるのは私の心、
合掌させるは仏さま、
鬼が仏に抱かれて、
心柔き角も折れ、
火の車の因作っても、
咸消されて其の上に、
歓喜心にみちみちる、
嬉愧し今ここに、
蓮の台が待っている。
と記す。
浄土真宗って云い訳教みたいが、旧知に会う如くする。
てめんことは知らないってだけが。
宿のばあさが傑作だった。
下駄作ってた人でといって、角の云われを正確に云う。
恋わずらいで喉がおかしいんだってさ。
「いっひっひいうんめえ米さ。」
こしひかりって、お化けみたいふうっと出るのがいい
北門屋敷より上かな。
温泉津温泉山県屋のお品書き
鯛の吸い物、
姫竹筍の糠漬け、
手長えび、
はまぼうふう、もずく、
お刺身(鯛と鰤)
鯛の塩焼き、
鍋(蛤)茶碗蒸し、
あまだいの中華風炊き合わせ、
夏みかん皮砂糖漬け、きゅうり。
米もうまかったが料理もなかなか。
弟子がそこら散歩といって出て行く、
「気利かしたんだぜあいつ。」
美代ちゃんとこ行ったら、
「きーっ。」
追っ払われた、かあちゃんになんていうの、弟子とぐるかって、そんなこと知るか、ふう面白くねえの。
老ひにしはなんの角かも恋わずらひいっひっひいとぞ婆さま椿
すさのをの神をも知るや八百比丘尼流れ寄せたる椿花うさ
古色蒼然松の参道を行くと、出雲大社はでっかいものすごい、本物ったらこんなにまっちょうものはない、ぜんぶ偽物ったら古代の壮大なイベント。
団体のあとくっついて行って、ただで案内して貰う、四つ手を打って参拝とか、二人十分にご縁のあるように215円のお賽銭だとか。
本殿のきざはしに、青い紋柄着た神主の人形が五つ、
「人形でねえったら、脱いだ沓揃えてある。」
「そうかなあ、だってこそっともしねえぜ。」
ほんに半日やってんのかな、
神さまって神有月の他ご出張だが。
その前庭は石かけを敷いて、踏んで歩くとご利益、はてな百万円かなあ定価表貼ってない。
「ここで式挙げられるんなら、もう一度結婚する。」
美代ちゃんが云った。
荘厳を絵に描いたような式場。ばついち美代ちゃん小野の小町の末裔だってさ。
由紀ちゃんにケイタイ、美代ちゃんにけんつく食らったってた云ったら、
「かわいそう。」
だってさ。
「かわいそうなんだぜオロン、いっしょに下北半島へ行こう。」
恐れ山へ行くことになっていた。
「うん行こう。」
明るうい声。
オミクジ引いたら東へ行けというのを、北へ行って、日の御岬方面を回って、地図にはある道がない、海っぱた山ん中ぐるぐる、また出雲大社へ帰って来た。
昨夜の行ない、ううわしじゃない美代ちゃんだあ罰あたった。
日ノ本に万代まつる出雲なる大社なむる松のまかり道
三界に花の春辺といやひこの万つ廻らひ今しもうでぬ
二時間ロスして、出来立てのハイウェイがあった。
乗り入れたら真っ正面に富士山。
いやそんなわけない。
伯耆富士という、こちら側からはまったく富士山の。大空にどーんと鳥取大山。
なんたって来た甲斐があった、冥土の土産の筆頭だ。
雪ひだが燦然。
鳥取砂丘はつまらなかった、海岸砂丘か、なんでこれが砂丘で、らくだまで用意せにゃならん、もうさっぱりって、歩くのしんどいもんで、文句云って引き上げた。
昼食を食った。
はぐれ雲いつか尽きなむ今生や伯耆の大山を目かひに見ゆ
また花の満開になって但馬から丹後へ、急峻な山を廻って行く、このあたりの桜もいい。なにしろ走って天の橋立には六時。湖岸のホテルに聞いたら泊めるという、晩飯は隣のレストランで。
きしょーめ、最後だってんでフルコースおごって、ワインがぶがぶ。エスカルゴ初めて食った、うまかった。ど田舎者は親切にして貰って喋って、由岐ちゃんにケイタイして、ちがうお見合いは明日だって。
満月であった。
月光の天の橋立を歩こう、うんそうしよういい気分だあ、酔っ払って寝ちまった
早朝知恩院文殊堂という、文殊さまを祭る立派なお堂にお参りして、メス記号みたいな知恵の輪があって、天の橋立の松林を歩く。
「海上禅叢」
という額がかかる、落款が読めない、いい字であった。
「一声の江に横たふやほととぎす。」
というのは、なんとまあ江を琵琶湖だと思っていた。1・2キロ先に句碑がある、遠いので行かなかった。自転車を借りればよかった。
橋の辺から魚釣っちゃいかん、バイク乗り入れちゃいかん、貝取ったらだめ、しちゃいかんばっかりんとこ、そのわりには薄汚く。
いざなぎの命が昼寝していたら、天の梯子が倒れてこうなったんだとさ。
日本三景はあと松島だけになった。
なにさ、そのうち南極の氷が解けて、お寺だって安芸の宮島になる。
花の春酔ふても行かむ能無しや今宵満月天の橋立
朝飯食って股のぞきの山へ行く、
「車700円だよ、一日停めたっていいよ、うちの店でお土産3000円買ったらただにする。」
そりゃ大昔から万ずゼニカネの、ばあさに駐車料金払って、次はケーブルに払って売店の100円望遠鏡は割愛、股のぞきすると、それが不思議に宙に浮かび上がる。
「へーえ天の橋立。」
玉露宙に浮かんで、身心失せりゃ雪舟ののなつかしさ。
団体客がまくしたてる、こりゃ何弁だわからんと思ったら中国人だ、うるさいったってあれサーズうつったかな。
あとはなんしろすっ飛ばして帰って来た。
冥土の土産の花の旅。先輩の防府は散っていたが、越中富山に咲いて、満開は金沢、山また山の中国道はやまざくら、そうして帰って来たら、雪の立山連峰を背に桜が迎える、新潟は花盛り、一本きりの桜も咲いていた四天王門。
我れをかもつばくろどもと迎えむは花に満開四天王門
提唱…提唱録、お経について説き、坐禅の方法を示し、また覚者=ただの人、羅漢さんの周辺を記述します。
法話…川上雪担老師が過去に掲示板等に投稿したもの。(主に平成15年9月くらいまでの投稿)
歌…歌は、人の姿をしています、一個の人間を失うまいとする努力です。万葉の、ゆるくって巨大幅の衣、っていうのは、せせこましい現代生活にはなかなかってことあります。でも人の感動は変わらない、いろんな複雑怪奇ないいわるい感情も、春は花夏時鳥といって、どか-んとばかり生き甲斐、アッハッハどうもそんなふうなこと発見したってことですか。
とんとむかし…とんとむかしは、目で聞き、あるいは耳で読むようにできています。ノイロ-ゼや心身症の治癒に役立てばということです。