東山寺四季
東山寺四季
ふきのとう
雪ん中のふきんこは、
一つのっこりいい匂い、
二つふっかり汁に入れ、
三つ三日月ほんのりくもる。
さんしょううお
さんしょううおってなーんだ、
雪消えひいらりえらを出し、
大人になったら雲隠れ、
ぺろうと呑んでかんの虫。
みずばしょう
みずばしょう、今日は、
ざぜんそう、今晩は、
王さまの、
女王さまの、
冠つけて、
春の挨拶。
いちりんそうは
いちりんそうはいちげ、
かたくりはかたこ、
しょうじょうばかまはなんていうの、
むかしの名は。
ひきがえる
蛙合戦ごったくさ、
げーごーぶんが一晩中、
ばあさがやあだと逃げてった、
池いっぱいのぐーるり卵。
やまざくら
観音さまはおおやまざくら
お地蔵さまはしのやまざくら
ひいらりほらり日もすがら、
ひいらりほらり夜もすがら。
水を引く
こっちはぜんたい蛙鳴く、
あっちはぜんたい灯の、
蒲原田んぼに水を引く、
お寺はぼっかり宙に浮く。
ずくなし
ずくなし咲いて雨が降る、
ずくなし咲いて田植え冷え、
むかしはごっつうたいへんだった、
死んでも代りの嫁が来て。
あんにんご
かっこうが鳴き渡って、
あんにんごが咲いて、
田んぼ山には月が出て、
だけど兄にゃは帰らない。
春蝉
みーんと鳴いて春の蝉、
みーんと鳴いて春の蝉、
えちごの山からどこへ行く、
竜宮城へソーダを買いに、
シャーベットかな、
天人の羽衣に恋して、
ほーら一匹見つけた、
夏が来るよって。
つばめ
つばめはなんでも知ってるって、
花が咲いたのも、
おじいさんがなくなった日も、
一年坊主になったのも、
海を渡って行くんだ、
なんだって忘れるもんか。
かなかな
かんばらはかなかなに明け、
かんばらはかなかなに暮れ、
かんばらは淋しい夏、
かんばらは苦しい夏。
ほたる
夜を恋しい、
あっちへぽっかり、
こっちへぽっかり、
ウインカーによって来て、
明け方までも飛んで、
雨にしっとり合歓の花。
はざの木
はざの木はなくなって、
ぴっからしゃんから米山さん、
夏は雷、
早苗の田んぼを、
雨が上がって、
つばめがさ。
ふう、
道草食って、
あれはだーれだ。
すいれん
赤いの三つ、
白いの十三、
行ったり来たり、
おにやんま、
雨がぽっつり、
千この輪、
どんがらぴっしゃ、
雷鳴ったら、
つゆは終わり。
夏
じーんみーんどんがらごおろ蝉が鳴く、
とんもろこしのお化け影。
おにやんま
通行止めだって、
どうして、
しーっ、
羽化している、
おにやんまが、
指さしてもだめ。
さるすべり
猿もすべって、
さるすべり、
百日咲いて、
百日紅、
つくつくほうし、
ほうしつくつく、
人生、
五十年だってさ、
深い井戸の底。
てんかん
田んぼはこんなに暑いのに、
てんかんてんかん鍛造屋、
役得だあってあの親父、
女のおしりさわって、
アッハッハ、
はざをかけて稲刈りだ、
雨が降るって烏が鳴いた。
夕焼け
やひこ山の、
てっぺん夕焼け、
星がきらあり光って、
雲のない空は重力レンズ、
電柱だって歪んで見える。
こんぺいとう
きれいな花が咲くのに、
こんぺいとうは、
ままこの尻拭いだって、
すごいぎざぎざ、
あかのまんま
親分猫のお墓に、
赤のまんまがゆうらり、
でっかい猫だったから、
でっかい赤のまんま。
食べていたんだ、
おときの鮭といっしょに。
三日前から水だけ飲んで、
大往生が。
やままゆ蛾
今晩はっていう、
秋のお客は、
日本一大きな、
やままゆ蛾、
目ん玉二つ、
透き通って、
木枯らし吹いて、
葉っぱが落ちると、
あっちこっち、
やままゆのみどり、
金の糸を吐く。
カルテット
すずむし、
こおろぎ、
がちゃがちゃ、
すいっちょ、
寝ていても、
月の光に、
山や林を、
行くような、
モーツアルトの、
カルテット。
あけび
空気と水と頬ずりと、
知らん顔した秋でもって、
あけびは色づく、ー
そう、
掌のようにな。
柿のもみじ
ふうらり舞い落ちる、
柿の葉っぱが、
色づいて、
ううんなんだって、
宝のありかを記す、
地図、
鳥にしか
読めないって。
これひよどり、
ぎゃーお、
なんだと、
山の向こうに、
竜宮城があって、
雪の降る前に、
乙姫さまに、
十の物語をさ、
語って聞かせれば、
年寄りにならずにすむ、
どうしてそれが宝のありかなんだ。
軒先に
萩が咲いて、
長雨が降って、
ぽっかり月が出て、
しだれて落ちて、
きちょうが舞い、
そうしてだあれも来ない、
知っているかい、
秋のきちょうって、
紋付がなくなって、
まっきいろ。
からすうり
からすうりぶーらり、
きつねだって食べないよ、
赤い鳥居の、
お稲荷さん、
そうさ、
宝剣が、
祀ってあるんだぞ、
かーお、
烏も知らない。
霜
紅葉が散ってジャワ更紗、
いいや花色木綿、
冬になるから、
ぽっかり浮かんだ、
真綿の雲を、
光と、
やままゆの金の糸で、
縫う、
霜柱の針が、
欲しいってさ。
初雪
甘柿に雪はふり、
渋柿に雪はふり、
ほうと叫んで、
飛び出した、
はだしでさ、
だって玉のように、
残った柿の、
年が明けて、
大雪のさ、
鳥が食べに来る。
冬将軍
どんがらごーと雷鳴って、
こわーいおっさんがやって来る、
死んじまったような、
どうしようもねえおっさんで、
山を越せずに、
ぴえーっと屁ひって、
そうさなあべったん居座る、
なんとかなんねえかな。
大雪
竹の折れる音、
松の張り裂ける音、
雪の降るのはなんにも聞こえない、
柱がみっしり鳴る。
雪の額縁
雪の額縁に銀河の名画、
一つ西へ流れて行った、
世界平和の願いのように、
今日は月が上る。
スノウダンプ
二メートルの氷柱を槍に、
どんがらごうろ、雷めがけて突進ドンキホーテ、
ぴえーもがり吹雪のロシナンテ、
天下とったぞ、
死にそうな退屈をさ、
サンチョパンザっておまえかスノウダンプ。
ふくろう
おっほんほー、
ふくろうが鳴く、
今年も春がやって来た、
ふっと温とんだ氷柱の軒に、
おっほんほー、
ふくろうが鳴く。
しみわたり
まんさくが咲いて、
今日はしみわたり、
田んぼを越えて、
五郎作の家まで行くぞ、
あれ、
りすのつがいがぶら下がって、
春の燭台。