童謡集一
童謡集一
夜行列車
河の向こうに街明かり、
夕焼けぱっかり星が出た、
夜行列車はタイムマシ-ン、
真っ暗やみを亜空間。
銀河宇宙を飛び越えて、
アンドロメダに途中下車、
R地球型内惑星、
どんざん波のここはどこ。
海猫鳴いて一軒家、
三角窓がぽっかり開いた、
青いロ-プの女の子、
哀しい歌を空のはて。
「お父さんは行ってしまった、
金の印の旗のもと、
お母さんも行ってしまった、
長く続いた戦争に。」
「頼りもなくって十日が過ぎた、
街は真っ赤に燃えるよう、
月は緑にくらめいて、
いったいあたしはどうなるの。」
昆布に混じって打ち寄せる、
ロケット砲のブ-スタ-、
「きっともうじき帰って来るさ、
こうして君が待っている。」
一年のちにタイムトラップ、
どんざん波は硫酸の、
首のないモビルス-ツが、
浜辺の家を薙ぎ倒す。
「お父さんが帰ったぞ。」
瀕死の男が娘を抱いた、
飢えて死んだ女の子、
「母さんは行ってしまった。
金の印は平和の願い。」
月は二つに張り裂けて、
「どこへ行っても戦争だ、
勝手な理由をくっつけて。」
三年まえにタイムスリップ、
開戦前夜のスクリ-ン、
父と娘のむくろを置いた、
金の印の旗竿の下。
涙に曇ってなんにも見えぬ、
「どうしてそんなに泣いてるの。」
にっこり笑って女の子、
「そうか解った戦争はない。」
海猫鳴いて一軒家、
楽しい一家団欒は、
「母さん一人に父さん二人、
年がら年中戦争よ。」
「どっかであんたを見たことがある。」
三つ上の娘が云った、
「あたしもあんたを見たことがある。」
下の娘と大喧嘩。
夜行列車はタイムマシ-ン、
真っ暗やみを亜空間、
「知らないったら二人とも。」
お母さんを知らないったら。
お地蔵さん
雪のかんむり、お地蔵さん。
赤ん坊を、三つ抱き、
百年そうして、道っぱた、
いろんなことが、あったのさ。
にっこり笑って、お地蔵さん。
一つ強欲、二つ怒り、
三つ阿呆の、人間どもさ、
宇宙のような、大きな掌。
金のくし
むかごがぶ-らりなったとさ、
うさぎが食った、
一つ食って目はまっ赤、
二つ食って耳二つ、
三つ食ったら気が触れて、
雪んな-かにすっとんで、
笹やぶ行って、
川行って、
お寺のや-ねのてっぺんだ、
ぴょ-んと跳んで、
お月さん、
お月さんお餅つき、
くるっとまわって、
金のくし。
すいれん
お宮の池に、すいれんが咲いた、
やごからぴっかり、おにやんま。
赤いのにとまれ、白いのにとまれ、
くうるり飛んで、むこうへ行った。
雨がぽっつり、うずができ、
あっというまに、千こになった。
赤いかさ三つ、白いかさ二つ、
かさを忘れた、ぬれん子だあれ。
カエル殺人
カエル長者が殺された。
殺人事件。
ウサギ刑事がとんできた。
「ピストル強盗だ、なんとなれば、ピストルでうたれている。」
署長が云った。
「ですが署長、窓はしまって、ドアにはかぎがかかってます、密室です。」
まっ赤な目の刑事が云った。
「密室殺人。」
署長はあたりを見回した。たった一つ換気窓、
「わかった、犯人はやつだ。」
ヘビの床屋が、しょっぴかれ、
「あいつを抜けられるのは、おまえだけ。」
署長は云った。
「ヘビにカエルというわけだ。」
「いつ死んだんです。」
床屋が云った。
「え-と、昨日の午後三時ごろ。」
「午後の三時と、わしはおまえさんの、ひげを剃っておったが。」
はあて弱った、
「つるっぱげ頭が、なんで床屋だ。」
「人権侵害。」
ヘビは云った。
「大汗かきのカエル長者も、長者の一家もだいじな客です。」
机をどんとたたいて、署長、
「自殺だ。」
「凶器のピストルが見当たりませんが。」
「なきゃあさがせ。」
ウサギ刑事は飛び回る。
カエル屋敷は河っぱた、風に吹かれて柳の木、桟橋には舟が一そう。
さがしまわって石ころ一つ。
「ええ、ピストルは暴力団。」
署長はかんかん。
「まあまあ。」
ひげをぴ-んと張って、ネコの探偵、
「柳の枝にかすりきず、換気窓には釘のあと、どうやらこれは、仕掛けがあった、あの日は急に暑くなる、スイッチを引いたとたん、どかんと一発。」
ネコの目ん玉緑色。
「ピストルは、たわめた枝にふっとんで、河の中。」
弾道はぴったり、スイッチを引く、カエルの大頭。
「河をさらえ。」
と署長。
三日さらって、ピストルが出た。
「石っころ一つに釘穴四つ、むすんだひもは、河に流れて。」
名探偵は考える、
「長者が死んで、得するやつだ。」
署長が云った。
カエル長者のせがれパ-太郎は、実業家。そこいら中に、温泉を掘って、大穴をあけ、
「一山当てりゃ元は取れる、大汗かきのおやじのため、世のため人のため、そのうちきっと町会議員。」
とパ-太郎。
娘のピ-子は、飛行機狂い、
「黄色いセスナって、かっこいいのよ、お父さんのために買ったんだけど。」
耳利きのウサギが調べた。
「せがれのパ-太郎は、借金一億、けちの長者にそっぽを向かれ。」
「ピ-子のセスナが、暴力団のクマ屋敷に突っ込んで、ゆすられていた。」
「ふうむ、こいつはにおう。」
と署長。
河をわたって、カエル長者の二号どの、サルの舟頭が逮捕され。
「カエル長者が、二号に買った、ダイヤモンドがなくなった。」
ウサギの刑事、
「おまえが盗って、サルのカ-子にくれてやった、そいつを長者に責められて、計画犯罪。」
「おれじゃねえったら。」
サルの舟頭。
「木登り上手のおまえの仕掛け。」
サルのカ-子が、ダイヤモンドをさしだした、カエル長者のお手伝い。
「それは拾ったんだ。」
「舟ん中って長者のもんだろ。」
「あ-んかあ。」
って、カ-子は泣いた。
「あの人、柳の手入れを頼まれていた、あたしが宝石なんかねだるから、でも、でぶのピ-子は、宝石だらけ。」
「おれじゃねえったら。」
三日たって、サルのカ-子が、河に浮く。
たもとに書き置き。
「あの世で待ってます、哀れなカ-子。」
「ばかな舟頭に教えてやれ。」
と署長。
一件落着。
ネコの探偵がのそのそ歩く。
「ダイヤモンドは、ピストルは、舟はどうだ、カ-子はルビ-ももっていた。」
「ぱぜりのフライを食うんだ。」
と署長。
「石はあっても、釘がない。」
「なきゃあさがせ。」
みんな集めて、名探偵の演説だ。
せがれのパ-太郎に、娘のピ-子、舟頭は檻の中、ヘビの床屋に、ヨタカの証人、クマの暴力団、
「舟にはひっかいたあとと、糸くず、死んだカ-子のスカ-トのものです、それが相当もつれています、もう一つはクマの毛だ。」
名探偵は書き置きをとる。
「水にひたって、判読不可能。」
パ-太郎をにらまえる、
「ということはないんです。」
「ち、ちがう、わたしじゃあない。」
「クマの暴力団は、高利貸しもやっている、町会議員になったら、元を取ろうというんで、一億円の半分を貸し付けた、利子がついて、一億三千万、遺産の方が手っ取り早いと気がついた。」
「ピ-子の方はゆすられて困っていた、兄妹二人をそそのかす。」
「ふん。」
とピ-子は、そっぽを向いた。
「舟にダイヤを置いたのはだれか。」
ヨタカの証人が立つ。
「カ-子が置いたんです。」
「それはいつです。」
「十日ほど前の晩です、カ-子が舟によって行き、何かを置いた、そのあと蛍がよったくる、舟が揺れると光るんです、ほおっと光る。」
たぬきの宝石屋が呼ばれ、
「ダイヤモンドはピ-子さまのお買上げ、ルビ-はカ-子にと、パ-太郎さま
が注文。」
「サルの舟頭は、はめられたんだ。」
「筆跡鑑定人によると、書き置きはピ-子の字に、似ているそうです。」
「ようしそこまで。」
クマの暴力団と、パ-太郎ピ-子の兄妹が、引っ立てられ。
「あとはこっちで泥を吐かせよう。」
「ところでと。」
名探偵が云った。
「犯人は上がった、話してくれますな。」
ヘビの床屋に向き直る、
「ヘビはなんでも知ってるそうな。」
「せっかくの遺産が、ふいになるって、クマの暴力団は思った、ピ-子が遺書を書かされた、一生ゆすろうっていうんです。」
「なんで知っている。」
「パ-太郎がしゃべった。」
「これですな。」
ぶあつい本を探偵は置き、
「犯罪学の本です、換気窓の仕掛けも出ています。」
「パ-太郎が貸せっていうから、貸してやった。」
「犯罪教唆だ。」
と署長、
「別に。」
「ヒントは与えた。」
「そりゃまあ、密室殺人て云うから。」
「でもって、そいつが成功したあと、仲間だというんで、べらべら喋る。」
「いい迷惑です。」
「う-ん、こいつをしょっぴけねえか。」
「ほんとうとは知らなかった。」
名探偵は合図した。
ウサギ刑事が、へんな器械をもって来た。
「必死になって、さがしましたよ、こりゃこうなるんです。」
刑事のピストルをとって、仕掛けに乗せて、ひもを引く、ずどんと一発。
「精妙なもんです。」
「ふうむ。」
「電子顕微鏡にヘビの跡。」
「そういうこった。」
とヘビの床屋。
「石っころと釘なんぞで、できるわけがないんだ、ばか息子が。」
署長と名探偵は、床屋を見つめ、
「タオルが熱いっちゃ文句、ヘビ臭いっちゃ文句、親子そろって、べらべらてめえんことばっかり。」
「そこんとこは、あとでゆっくり。」
署長はがっちゃり手錠をかけた。
「完全犯罪のしそくない。」
ネコの探偵。
「だから、カエルにゃヘビって云ったんだ。」
署長が云った。
大漁祭り歌
百合あへ浜に潮満つ、
さてもおんどろ寄せ太鼓、
泳ぎ渡ったさお鹿の、
角館岩に日は昇る。
さても大漁祭り歌、
男は伊那の八丁櫓、
さかまきうねる渦潮の、
なめりの底に虹をかけ。
弓矢にかけて押し渡る、
八幡太郎義家は、
その美わしき平らの地、
久島の王に使者を立て。
「鳴門の渦を押し開き、
八十の平らを明け渡せ。」
かく伝えてや龍神の、
猛り狂って申さくは、
「弓の汚れになろうには、
久島を共に海の底。」
その逆鱗に泡だって、
使いを潮に呑み込んだ。
漂いついて若者は、
もがいの浜に息も絶え、
七日七夜を添い寝して、
一つ命を救うには。
久島の王の愛娘、
百合あへ姫と名を告げた、
十月十日の月は満ち、
玉のようなる子をもうけ。
泳ぎ渡ったさお鹿の、
尻尾哀しい初秋や、
使いの役を果たさんと、
坂東武者は浜を去る、
その美わしき平らの地、
子は父親に生き写し、
潮の鳴門に生い育ち、
弓矢のわざに抜きん出て。
父に会おうと子は云った、
会ってはならぬと母は云い、
さてもこっそり流れ木に、
渦潮かけて他所の国。
父に会うさへ束の間の、
子を押し立てて攻め寄せる、
八幡太郎の軍勢に、
鳴門の波は血汐を巻いて、
その美わしき平らの地、
八十の島廻を地獄絵の、
久島の王も破れはて、
百合あえ姫は波のむた。
とこのえ眠る乙女子の、
波はおんどろ寄せ太鼓、
神さびわたるさお鹿の、
きらいの岩に日は沈む。
今宵十五夜満月の、
男は伊那の八丁櫓、
鳴門の汐に虹をかけ、
さても大漁祭り歌。
四つの太陽
空想史の-だ-れも相手にしてくんない史
世にも美しい鳥ケツアルコアトルが飛んできていった、
「四つめの太陽が墜落する、支える手を差し出せ。」
「ふ-んそうかねえ。」
差し出したら、その手を取って、
「来い。」
という。真夜中の世界を半周する、
「太陽に追いつこうというんだな。」
「ちがう、ペンタゴンへ進入して虹のカプセルを盗み出せ。」
手だけが実体化して、七色のカプセルを盗みだす。赤~紫までの蓋を開ける。ヨ-ロッパじゃこれをパンドラの箱といったそうだが、白いのも黄色いのも黒いのも、人間どもは宗教もイデ-も平和も愛も、つまり妄想というものはすべて失って、何種類かの死に様だけが残った、赤はエイズウイルス、橙はエイズウイルスの2~7まで、黄はエボラ出血熱、黄緑は狂水病+煙草モザイク病の空き腹に気違い水ってやつ、緑は脳味噌ならなんでも食っちまうというめったら繁殖性錫、青は人間の血液がauに強変化してあ-う-芽生え花咲いちまう大腸菌、紫はどんなものだってみ-んな猛毒にかえちまう人面ウイルス。
「人類苦っていうのが、ひょっとして太陽の墜落を防ぐ。」
「な-んだおれの心臓かと思った。」「おまえの体はタイムマシ-ンに乗せて投げ出した、なにいい相手もみっけといた、太陽が生き延びたら、次なるその為に、丈夫な心臓を育てとけ。」
さ-てどうなったか、タイムスリップした先が未来ではなくって、恐竜時代だった。いい相手ってのは恐竜そっくりのか-ちゃんで、そこでおれはやりまくって、子孫を増やし、恐竜どもと食ったり食われたり、楽しく遊んで、二万年ほどは、第一の太陽と付き合った。
恐竜と人間のテラコッタが、中南米のどっかに出るよ、足跡もいっしょにさ。
そうしてさ、メキシコ湾に巨大彗星が落っこちて、第一の太陽は消えちまった。
おれらはさ、心臓の弱いのは、恐竜どもといっしょに、そう、ケツアルコアトルの鳥になって、心臓の強かったのは、そのまんまふっ飛んで、BC五千年期の第二の太陽を崇拝する。
そいつは理想社会ってなもんで、黄色い人間と黒い人間の二通りあって、どっちも他愛ない神さまで、冠のかぶせあいっこして、どでっかいなまけものなと食って、仕事といったら、カメレオンみたい体ぬったくって、生んだり死んだりやって、そのあいの子に、白いのが生まれて、こいつは大凶と出たから、笹舟に乗せて海に流した。「生き延びたら、この地を滅ぼしにやって来る。」
星を見るのがいった。
星を見るのはまたいった、
「第二の太陽はいつ滅びる。」
砂漠にでっかい蜘蛛の絵を描いた。太陽の光が金の糸になって、世界中が蜘蛛の巣になった。それからあとのことはようもわからん、無邪気な神どもはその巣を伝って、どっか行ってしまった。第二の太陽も消えた。
第三の太陽も消えた、だってしょうむない地上絵がまだいっぱい残る。
ましなのはみ-んな行ってしまって、残酷な神官と頭蓋骨の手術と、縄の結び目と石段昇り降りと、心臓をえぐり出す儀式ばっかりの世の中。
「そうさ、まったくの付けたしだったんさ。」
ケツアルコアトルの声が聞こえた。
「呪文だけは残ってたさ、白いのに滅ぼされた時な。」「自滅の呪いってやつ。」
「まあな。」
あれ、おれはどこ行ったらいい。
ケツアルコアトルは地上で一番美しい鳥さ。
スタ-シップ
裕子は考え、たっぷり絵の具をつけて、筆を走らせる、それは、
あけぼのの大空に煌めくアフロ-ジテ、金星に茂る巨大な生命
の木。はるかなむかしに、スタ-シップが漂いついた、十億年
の深宇宙の旅を終えて、亜物質の扉から一粒の種が芽生える。
大地と多少のミネラルと風や雲やその大空とともに成長する、
木は生い茂って、同時に二つの花と三つの果実を、頑丈なその
枝につける。蓮と呼び蘭と云われるその花と、龍であり獅子で
あり鳳凰であるその果実。蓮は純潔と平和に咲き、蘭は至心と
情愛に咲き、龍は頭脳と知恵の実り、獅子は五体と勇気を、鳳
凰は手足と忍耐を結果する。世界は誕生し千変万化し、繁栄し
てついにはその頂点を極め、宇宙の辺境に巡礼して、十億年が
たった、十億と三五六二年三月十二日。渦を巻く亜硝酸と硫酸
の深海底、ガラスの泡の細胞の中で、いわいとお-らは二人の
愛を実らせた。十日ののちを王水の幻に消え果てるまで。愛し
いお-ら、その額には龍の鱗、恋しいいわい、その胸には蓮の
花弁、生まれ出ずる三人の子には、天空の知恵、日光の力と雄
弁、春の青草のような優しさが備わるはずであった。今はもう
この星には生命を育むなんのゆとりもない、闇に消える深宇宙
の断片、だが二人の出会いを空しいものにはするな、百キロの
密雲に、もし万が一にも光が射せば、見えたであろうスタ-シ
ップ、二つの花と三つの果実をつける、生命の木の、永遠によ
みがえる種子を載せて、今まさに旅だって行くスタ-シップを、
二人の愛もその脱出のためのエネルギ-となる、絶え間なし水
彗星の落下する、溶岩と海の始原の惑星に、ふたたび我らが繁
栄と一瞬の平和を、夢を稔らせるために、平和と繁栄の夢では
なく、なにかもう一つ別のメッセ-ジを、大切なものをと、裕
子は、密雲を抜けて行くスタ-シップに、紅の花弁を描き添え
ながら思う、なんであろうそれは、人にだけではなく、一筆を。
夜行列車
河の向こうに街明かり、
夕焼けぱっかり星が出た、
夜行列車はタイムマシ-ン、
真っ暗やみを亜空間。
銀河宇宙を飛び越えて、
アンドロメダに途中下車、
R地球型内惑星、
どんざん波のここはどこ。
海猫鳴いて一軒家、
三角窓がぽっかり開いた、
青いロ-プの女の子、
哀しい歌を空のはて。
「お父さんは行ってしまった、
金の印の旗のもと、
お母さんも行ってしまった、
長く続いた戦争に。」
「頼りもなくって十日が過ぎた、
街は真っ赤に燃えるよう、
月は緑にくらめいて、
いったいあたしはどうなるの。」
昆布に混じって打ち寄せる、
ロケット砲のブ-スタ-、
「きっともうじき帰って来るさ、
こうして君が待っている。」
一年のちにタイムトラップ、
どんざん波は硫酸の、
首のないモビルス-ツが、
浜辺の家を薙ぎ倒す。
「お父さんが帰ったぞ。」
瀕死の男が娘を抱いた、
飢えて死んだ女の子、
「母さんは行ってしまった。
金の印は平和の願い。」
月は二つに張り裂けて、
「どこへ行っても戦争だ、
勝手な理由をくっつけて。」
三年まえにタイムスリップ、
開戦前夜のスクリ-ン、
父と娘のむくろを置いた、
金の印の旗竿の下。
涙に曇ってなんにも見えぬ、
「どうしてそんなに泣いてるの。」
にっこり笑って女の子、
「そうか解った戦争はない。」
海猫鳴いて一軒家、
楽しい一家団欒は、
「母さん一人に父さん二人、
年がら年中戦争よ。」
「どっかであんたを見たことがある。」
三つ上の娘が云った、
「あたしもあんたを見たことがある。」
下の娘と大喧嘩。
夜行列車はタイムマシ-ン、
真っ暗やみを亜空間、
「知らないったら二人とも。」
お母さんを知らないったら。
お地蔵さん
雪のかんむり、お地蔵さん。
赤ん坊を、三つ抱き、
百年そうして、道っぱた、
いろんなことが、あったのさ。
にっこり笑って、お地蔵さん。
一つ強欲、二つ怒り、
三つ阿呆の、人間どもさ、
宇宙のような、大きな掌。
金のくし
むかごがぶ-らりなったとさ、
うさぎが食った、
一つ食って目はまっ赤、
二つ食って耳二つ、
三つ食ったら気が触れて、
雪んな-かにすっとんで、
笹やぶ行って、
川行って、
お寺のや-ねのてっぺんだ、
ぴょ-んと跳んで、
お月さん、
お月さんお餅つき、
くるっとまわって、
金のくし。
すいれん
お宮の池に、すいれんが咲いた、
やごからぴっかり、おにやんま。
赤いのにとまれ、白いのにとまれ、
くうるり飛んで、むこうへ行った。
雨がぽっつり、うずができ、
あっというまに、千こになった。
赤いかさ三つ、白いかさ二つ、
かさを忘れた、ぬれん子だあれ。
カエル殺人
カエル長者が殺された。
殺人事件。
ウサギ刑事がとんできた。
「ピストル強盗だ、なんとなれば、ピストルでうたれている。」
署長が云った。
「ですが署長、窓はしまって、ドアにはかぎがかかってます、密室です。」
まっ赤な目の刑事が云った。
「密室殺人。」
署長はあたりを見回した。たった一つ換気窓、
「わかった、犯人はやつだ。」
ヘビの床屋が、しょっぴかれ、
「あいつを抜けられるのは、おまえだけ。」
署長は云った。
「ヘビにカエルというわけだ。」
「いつ死んだんです。」
床屋が云った。
「え-と、昨日の午後三時ごろ。」
「午後の三時と、わしはおまえさんの、ひげを剃っておったが。」
はあて弱った、
「つるっぱげ頭が、なんで床屋だ。」
「人権侵害。」
ヘビは云った。
「大汗かきのカエル長者も、長者の一家もだいじな客です。」
机をどんとたたいて、署長、
「自殺だ。」
「凶器のピストルが見当たりませんが。」
「なきゃあさがせ。」
ウサギ刑事は飛び回る。
カエル屋敷は河っぱた、風に吹かれて柳の木、桟橋には舟が一そう。
さがしまわって石ころ一つ。
「ええ、ピストルは暴力団。」
署長はかんかん。
「まあまあ。」
ひげをぴ-んと張って、ネコの探偵、
「柳の枝にかすりきず、換気窓には釘のあと、どうやらこれは、仕掛けがあった、あの日は急に暑くなる、スイッチを引いたとたん、どかんと一発。」
ネコの目ん玉緑色。
「ピストルは、たわめた枝にふっとんで、河の中。」
弾道はぴったり、スイッチを引く、カエルの大頭。
「河をさらえ。」
と署長。
三日さらって、ピストルが出た。
「石っころ一つに釘穴四つ、むすんだひもは、河に流れて。」
名探偵は考える、
「長者が死んで、得するやつだ。」
署長が云った。
カエル長者のせがれパ-太郎は、実業家。そこいら中に、温泉を掘って、大穴をあけ、
「一山当てりゃ元は取れる、大汗かきのおやじのため、世のため人のため、そのうちきっと町会議員。」
とパ-太郎。
娘のピ-子は、飛行機狂い、
「黄色いセスナって、かっこいいのよ、お父さんのために買ったんだけど。」
耳利きのウサギが調べた。
「せがれのパ-太郎は、借金一億、けちの長者にそっぽを向かれ。」
「ピ-子のセスナが、暴力団のクマ屋敷に突っ込んで、ゆすられていた。」
「ふうむ、こいつはにおう。」
と署長。
河をわたって、カエル長者の二号どの、サルの舟頭が逮捕され。
「カエル長者が、二号に買った、ダイヤモンドがなくなった。」
ウサギの刑事、
「おまえが盗って、サルのカ-子にくれてやった、そいつを長者に責められて、計画犯罪。」
「おれじゃねえったら。」
サルの舟頭。
「木登り上手のおまえの仕掛け。」
サルのカ-子が、ダイヤモンドをさしだした、カエル長者のお手伝い。
「それは拾ったんだ。」
「舟ん中って長者のもんだろ。」
「あ-んかあ。」
って、カ-子は泣いた。
「あの人、柳の手入れを頼まれていた、あたしが宝石なんかねだるから、でも、でぶのピ-子は、宝石だらけ。」
「おれじゃねえったら。」
三日たって、サルのカ-子が、河に浮く。
たもとに書き置き。
「あの世で待ってます、哀れなカ-子。」
「ばかな舟頭に教えてやれ。」
と署長。
一件落着。
ネコの探偵がのそのそ歩く。
「ダイヤモンドは、ピストルは、舟はどうだ、カ-子はルビ-ももっていた。」
「ぱぜりのフライを食うんだ。」
と署長。
「石はあっても、釘がない。」
「なきゃあさがせ。」
みんな集めて、名探偵の演説だ。
せがれのパ-太郎に、娘のピ-子、舟頭は檻の中、ヘビの床屋に、ヨタカの証人、クマの暴力団、
「舟にはひっかいたあとと、糸くず、死んだカ-子のスカ-トのものです、それが相当もつれています、もう一つはクマの毛だ。」
名探偵は書き置きをとる。
「水にひたって、判読不可能。」
パ-太郎をにらまえる、
「ということはないんです。」
「ち、ちがう、わたしじゃあない。」
「クマの暴力団は、高利貸しもやっている、町会議員になったら、元を取ろうというんで、一億円の半分を貸し付けた、利子がついて、一億三千万、遺産の方が手っ取り早いと気がついた。」
「ピ-子の方はゆすられて困っていた、兄妹二人をそそのかす。」
「ふん。」
とピ-子は、そっぽを向いた。
「舟にダイヤを置いたのはだれか。」
ヨタカの証人が立つ。
「カ-子が置いたんです。」
「それはいつです。」
「十日ほど前の晩です、カ-子が舟によって行き、何かを置いた、そのあと蛍がよったくる、舟が揺れると光るんです、ほおっと光る。」
たぬきの宝石屋が呼ばれ、
「ダイヤモンドはピ-子さまのお買上げ、ルビ-はカ-子にと、パ-太郎さま
が注文。」
「サルの舟頭は、はめられたんだ。」
「筆跡鑑定人によると、書き置きはピ-子の字に、似ているそうです。」
「ようしそこまで。」
クマの暴力団と、パ-太郎ピ-子の兄妹が、引っ立てられ。
「あとはこっちで泥を吐かせよう。」
「ところでと。」
名探偵が云った。
「犯人は上がった、話してくれますな。」
ヘビの床屋に向き直る、
「ヘビはなんでも知ってるそうな。」
「せっかくの遺産が、ふいになるって、クマの暴力団は思った、ピ-子が遺書を書かされた、一生ゆすろうっていうんです。」
「なんで知っている。」
「パ-太郎がしゃべった。」
「これですな。」
ぶあつい本を探偵は置き、
「犯罪学の本です、換気窓の仕掛けも出ています。」
「パ-太郎が貸せっていうから、貸してやった。」
「犯罪教唆だ。」
と署長、
「別に。」
「ヒントは与えた。」
「そりゃまあ、密室殺人て云うから。」
「でもって、そいつが成功したあと、仲間だというんで、べらべら喋る。」
「いい迷惑です。」
「う-ん、こいつをしょっぴけねえか。」
「ほんとうとは知らなかった。」
名探偵は合図した。
ウサギ刑事が、へんな器械をもって来た。
「必死になって、さがしましたよ、こりゃこうなるんです。」
刑事のピストルをとって、仕掛けに乗せて、ひもを引く、ずどんと一発。
「精妙なもんです。」
「ふうむ。」
「電子顕微鏡にヘビの跡。」
「そういうこった。」
とヘビの床屋。
「石っころと釘なんぞで、できるわけがないんだ、ばか息子が。」
署長と名探偵は、床屋を見つめ、
「タオルが熱いっちゃ文句、ヘビ臭いっちゃ文句、親子そろって、べらべらてめえんことばっかり。」
「そこんとこは、あとでゆっくり。」
署長はがっちゃり手錠をかけた。
「完全犯罪のしそくない。」
ネコの探偵。
「だから、カエルにゃヘビって云ったんだ。」
署長が云った。
大漁祭り歌
百合あへ浜に潮満つ、
さてもおんどろ寄せ太鼓、
泳ぎ渡ったさお鹿の、
角館岩に日は昇る。
さても大漁祭り歌、
男は伊那の八丁櫓、
さかまきうねる渦潮の、
なめりの底に虹をかけ。
弓矢にかけて押し渡る、
八幡太郎義家は、
その美わしき平らの地、
久島の王に使者を立て。
「鳴門の渦を押し開き、
八十の平らを明け渡せ。」
かく伝えてや龍神の、
猛り狂って申さくは、
「弓の汚れになろうには、
久島を共に海の底。」
その逆鱗に泡だって、
使いを潮に呑み込んだ。
漂いついて若者は、
もがいの浜に息も絶え、
七日七夜を添い寝して、
一つ命を救うには。
久島の王の愛娘、
百合あへ姫と名を告げた、
十月十日の月は満ち、
玉のようなる子をもうけ。
泳ぎ渡ったさお鹿の、
尻尾哀しい初秋や、
使いの役を果たさんと、
坂東武者は浜を去る、
その美わしき平らの地、
子は父親に生き写し、
潮の鳴門に生い育ち、
弓矢のわざに抜きん出て。
父に会おうと子は云った、
会ってはならぬと母は云い、
さてもこっそり流れ木に、
渦潮かけて他所の国。
父に会うさへ束の間の、
子を押し立てて攻め寄せる、
八幡太郎の軍勢に、
鳴門の波は血汐を巻いて、
その美わしき平らの地、
八十の島廻を地獄絵の、
久島の王も破れはて、
百合あえ姫は波のむた。
とこのえ眠る乙女子の、
波はおんどろ寄せ太鼓、
神さびわたるさお鹿の、
きらいの岩に日は沈む。
今宵十五夜満月の、
男は伊那の八丁櫓、
鳴門の汐に虹をかけ、
さても大漁祭り歌。
四つの太陽
空想史の-だ-れも相手にしてくんない史
世にも美しい鳥ケツアルコアトルが飛んできていった、
「四つめの太陽が墜落する、支える手を差し出せ。」
「ふ-んそうかねえ。」
差し出したら、その手を取って、
「来い。」
という。真夜中の世界を半周する、
「太陽に追いつこうというんだな。」
「ちがう、ペンタゴンへ進入して虹のカプセルを盗み出せ。」
手だけが実体化して、七色のカプセルを盗みだす。赤~紫までの蓋を開ける。ヨ-ロッパじゃこれをパンドラの箱といったそうだが、白いのも黄色いのも黒いのも、人間どもは宗教もイデ-も平和も愛も、つまり妄想というものはすべて失って、何種類かの死に様だけが残った、赤はエイズウイルス、橙はエイズウイルスの2~7まで、黄はエボラ出血熱、黄緑は狂水病+煙草モザイク病の空き腹に気違い水ってやつ、緑は脳味噌ならなんでも食っちまうというめったら繁殖性錫、青は人間の血液がauに強変化してあ-う-芽生え花咲いちまう大腸菌、紫はどんなものだってみ-んな猛毒にかえちまう人面ウイルス。
「人類苦っていうのが、ひょっとして太陽の墜落を防ぐ。」
「な-んだおれの心臓かと思った。」「おまえの体はタイムマシ-ンに乗せて投げ出した、なにいい相手もみっけといた、太陽が生き延びたら、次なるその為に、丈夫な心臓を育てとけ。」
さ-てどうなったか、タイムスリップした先が未来ではなくって、恐竜時代だった。いい相手ってのは恐竜そっくりのか-ちゃんで、そこでおれはやりまくって、子孫を増やし、恐竜どもと食ったり食われたり、楽しく遊んで、二万年ほどは、第一の太陽と付き合った。
恐竜と人間のテラコッタが、中南米のどっかに出るよ、足跡もいっしょにさ。
そうしてさ、メキシコ湾に巨大彗星が落っこちて、第一の太陽は消えちまった。
おれらはさ、心臓の弱いのは、恐竜どもといっしょに、そう、ケツアルコアトルの鳥になって、心臓の強かったのは、そのまんまふっ飛んで、BC五千年期の第二の太陽を崇拝する。
そいつは理想社会ってなもんで、黄色い人間と黒い人間の二通りあって、どっちも他愛ない神さまで、冠のかぶせあいっこして、どでっかいなまけものなと食って、仕事といったら、カメレオンみたい体ぬったくって、生んだり死んだりやって、そのあいの子に、白いのが生まれて、こいつは大凶と出たから、笹舟に乗せて海に流した。「生き延びたら、この地を滅ぼしにやって来る。」
星を見るのがいった。
星を見るのはまたいった、
「第二の太陽はいつ滅びる。」
砂漠にでっかい蜘蛛の絵を描いた。太陽の光が金の糸になって、世界中が蜘蛛の巣になった。それからあとのことはようもわからん、無邪気な神どもはその巣を伝って、どっか行ってしまった。第二の太陽も消えた。
第三の太陽も消えた、だってしょうむない地上絵がまだいっぱい残る。
ましなのはみ-んな行ってしまって、残酷な神官と頭蓋骨の手術と、縄の結び目と石段昇り降りと、心臓をえぐり出す儀式ばっかりの世の中。
「そうさ、まったくの付けたしだったんさ。」
ケツアルコアトルの声が聞こえた。
「呪文だけは残ってたさ、白いのに滅ぼされた時な。」「自滅の呪いってやつ。」
「まあな。」
あれ、おれはどこ行ったらいい。
ケツアルコアトルは地上で一番美しい鳥さ。
スタ-シップ
裕子は考え、たっぷり絵の具をつけて、筆を走らせる、それは、
あけぼのの大空に煌めくアフロ-ジテ、金星に茂る巨大な生命
の木。はるかなむかしに、スタ-シップが漂いついた、十億年
の深宇宙の旅を終えて、亜物質の扉から一粒の種が芽生える。
大地と多少のミネラルと風や雲やその大空とともに成長する、
木は生い茂って、同時に二つの花と三つの果実を、頑丈なその
枝につける。蓮と呼び蘭と云われるその花と、龍であり獅子で
あり鳳凰であるその果実。蓮は純潔と平和に咲き、蘭は至心と
情愛に咲き、龍は頭脳と知恵の実り、獅子は五体と勇気を、鳳
凰は手足と忍耐を結果する。世界は誕生し千変万化し、繁栄し
てついにはその頂点を極め、宇宙の辺境に巡礼して、十億年が
たった、十億と三五六二年三月十二日。渦を巻く亜硝酸と硫酸
の深海底、ガラスの泡の細胞の中で、いわいとお-らは二人の
愛を実らせた。十日ののちを王水の幻に消え果てるまで。愛し
いお-ら、その額には龍の鱗、恋しいいわい、その胸には蓮の
花弁、生まれ出ずる三人の子には、天空の知恵、日光の力と雄
弁、春の青草のような優しさが備わるはずであった。今はもう
この星には生命を育むなんのゆとりもない、闇に消える深宇宙
の断片、だが二人の出会いを空しいものにはするな、百キロの
密雲に、もし万が一にも光が射せば、見えたであろうスタ-シ
ップ、二つの花と三つの果実をつける、生命の木の、永遠によ
みがえる種子を載せて、今まさに旅だって行くスタ-シップを、
二人の愛もその脱出のためのエネルギ-となる、絶え間なし水
彗星の落下する、溶岩と海の始原の惑星に、ふたたび我らが繁
栄と一瞬の平和を、夢を稔らせるために、平和と繁栄の夢では
なく、なにかもう一つ別のメッセ-ジを、大切なものをと、裕
子は、密雲を抜けて行くスタ-シップに、紅の花弁を描き添え
ながら思う、なんであろうそれは、人にだけではなく、一筆を。