童謡集五

童謡集五



  大漁祭り歌

 百合あへ浜に潮満つ、
 さてもおんどろ寄せ太鼓、
 泳ぎ渡ったさお鹿の、
 角館岩に日は昇る。

 さても大漁祭り歌、
 男は伊那の八丁櫓、
 さかまきうねる渦潮の、
 なめりの底に虹をかけ。

 弓矢にかけて押し渡る、
 八幡太郎義家は、
 その美わしき平らの地、
 久島の王に使者を立て。

「鳴門の渦を押し開き、
 八十の平らを明け渡せ。」
 かく伝えてや龍神の、
 猛り狂って申さくは、

「弓の汚れになろうには、
 久島を共に海の底。」
 その逆鱗に泡だって、
 使いを潮に呑み込んだ。

 漂いついて若者は、
 もがいの浜に息も絶え、
 七日七夜を添い寝して、
 一つ命を救うには。

 久島の王の愛娘、
 百合あへ姫と名を告げた、
 十月十日の月は満ち、
 玉のようなる子をもうけ。

 泳ぎ渡ったさお鹿の、
 尻尾哀しい初秋や、
 使いの役を果たさんと、
 坂東武者は浜を去る、

 その美わしき平らの地、
 子は父親に生き写し、
 潮の鳴門に生い育ち、
 弓矢のわざに抜きん出て。

 父に会おうと子は云った、
 会ってはならぬと母は云い、
 さてもこっそり流れ木に、
 渦潮かけて他所の国。

 父に会うさへ束の間の、
 子を押し立てて攻め寄せる、
 八幡太郎の軍勢に、
 鳴門の波は血汐を巻いて、

 その美わしき平らの地、
 八十の島廻を地獄絵の、
 久島の王も破れはて、
 百合あえ姫は波のむた。

 とこのえ眠る乙女子の、
 波はおんどろ寄せ太鼓、
 神さびわたるさお鹿の、
 きらいの岩に日は沈む。

 今宵十五夜満月の、
 男は伊那の八丁櫓、
 鳴門の汐に虹をかけ、
 さても大漁祭り歌。



  ペンギンさんのドレミ

 ドはどっかのど、
 レはレッツゴーのれ、
 ミはみんなみ、
 ファはファンファーレ、
 ソはお空のそ、
 ラはらんらららん、
 シは尻尾をぴっ、
 ドーれ食べに行こう。

 ドはどっこいしょ、
 レはレビューのれ、
 ミはみんなのみ、
 ファはファンタジー、
 ソはお空のそ、
 ラはらんらららん、
 シはしくじった、
 ドーれもう一度。



  やひこ

 弥彦が見えた、
 明日は晴れる、
 そんなこたないよ、
 烏がかーお。
 お地蔵さん。

 弥彦がくもる、
 今夜は雨だ、
 そんなこたないよ、
 とんびぴーとろ、
 
 田んぼは刈って、
 あかのまんまに、
 こんぺいとう、
 とんぼがいっぱい、
 お地蔵さん、

 弥彦が見えん、
 嵐が来るぞ、
 そんなこたないって、
 雲の中のお月さん。



  タイムスリップ

 河の向こうに月が出た、
 夕焼け山に飛行機が、
 すすきさーらり空間移動、
 夜行列車のタイムマシーン。

 銀河宇宙を飛び越えて、
 アンドロメダの大星雲、
 青い地球のここはどこ、
 海猫鳴いてにゃーおと聞こえ、

 三角塔には雲が浮かんで、
 ブルーネットの女の子、
「パパは戦闘機に乗って、
 ママはナースになって、

 平和のための戦争だって、
 頼りもなくって行ったっきり。」
 哀しい声は風の歌、
 ロケット砲がうなりを上げて、

 町は真っ赤な火の海に、
 月はてっかりみどり色、
 敵は十日で敗戦だって、
 三年たってもまだ続く、

 どんざん波にうち寄せる、
 なんの破片かブースター、
 敵も味方も死体になって、
 昆布といっしょに浮かんでる、

 配給パイプが破裂して、
 三日をなんにも食べてない、
 海猫鳴いて日は暮れて、
 パパもママも生きてはいない、

 片腕の目もない男が、
 冷たい娘を抱き上げた、
「ママはもう帰って来ない、
 なんでおれだけ生きている。」

「平和のための戦争なんて、
 そんなものはありっこない。」
 夜行列車のタイムスリップ、
 空しい父子を戦争前に、

「百万人がこうなった。」
 父は娘をさし示す、
 がらんがらーん戦の告げか、
 涙にむせんでなんにも見えぬ。

「なんでそんなに泣いてるの。」
 ブルーネットの女の子、
「ママのおいしいスープが冷める、
 今日はあたしの誕生日。」

 すすきさーらりおめでとう、
 電信柱がうなって行って、
 銀河宇宙の時空を超えて、
 ふっと聞こえたパパの声。



  夏が来た

 一つ日影のいちりんそう、
 二つ古寺白い梅、
 三つ三日月杉の森、
 四つ夜っぴで蛙鳴く、
 五つ井の上山桜、
 六つは村のお祭りだ、
 七つ中しも青田んぼ、
 八つ八代の松風、
 九つこうやのほととぎす
 十でとうとう夏が来た。



  春はな

 春はな、
 さーやさやさや咲く花の、
 花のさくや姫さま、
 ほ、
 お好きなようじゃて、
 ほ、どんがらぴー。
 とって、日は昇る。

  田んぼの蛙も、
  けえろと鳴けば、
  山んどだて、
  のっこと生ひる。


 春はな、
 ひーらひらひら散る花の、
 花のさくや姫さま、
 ほ、
 お好きなようじゃて、
 ほ、どんがらぴー。
 とって、月が出た。

  川んどじょうも、
  にょうろり行けば、
  谷内んたにしも、
  ぷったかふた開く。


 春はな、
 とーろとろとろ行く水の、
 雪んはだれは、
 ほ、
 駒の姿で、
 ほ、どんがらぴー。
 とって、風が吹く。

  山んおがらも、
  もんがら茂りゃ、
  でとんお美代も、
  さんのせだすき。


 春はな、
 ぞーろぞろぞろ行く水の、
 谷内んせきだて、
 ほ、
 どっと流して、
 ほ、どんがらぴー。
 とって、雨が降る。

  わらびゃぜんまい、
  どんどこ生ひりゃ、
  まむし青大将が、
  ぞうろり歩く。

  (かってにこさえて続ける。)



   みそさざい

 みそっちょみそっちょ、
 十三七つ、
 味噌樽はまって、
 味噌あばた。

 あっちへ飛んだ、
 こっちへ飛んだ、
 しばっこくぐって、
 花嫁修業。

 なあにを計る、
 一間五尺、
 たんす長持ち、
 宝蔵。

 一二三四、
 寿命を数え、
 一二三四、
 ぴいっと鳴いた。

 向こうのすみへ、
 娘を埋めた、
 月の夜中に、
 ぺろうり幽霊。

 西へ行ったら、
 道祖神、
 東へ行ったら、
 さいの神。

 みそっちょみそっちょ、
 十三七つ、
 しばっこくぐって、
 もう一つ。

 とんびの真似して、
 ぴーとろ鳴いて、
 田んぼにはまって、
 たにしになった。



  ぎふちょう

 でっかい牙の、
 マンモスは、
 毛むくじゃらで、
 優しい目をして、
 もおっと鳴いて、
 草を食べていた、
 そうさ、
 飛んでいたのさ、
 花から花へ。

 悲しい目をして、
 マンモスは、
 でっかい鼻をもたげて、
 もおっと吠えて、
 行ってしまったよ、
 そうさ、
 帰って来る日を、
 待っているのさ、
 花から花へ。



  夕焼け

 雲は真っ赤な亀の甲、
 星のくらげをぱっくり幾つ、
 兄ちゃんのぴっかりトラックは、
 竜宮城へパワーハンドル、
 札幌から帰って来ない、
 出稼ぎだって一月たった、

 東の空は口裂け女、
 あっちを向いたら狐の尻尾、
 お姉ちゃんの銀色ネイル、
 ひっかいてだらーり血。
 東京から帰って来ない、
 だれかを追っかけて行った。

 空缶一つぽーんと蹴った、
 からんと夕陽が追っかけた、
 とんもろこしの長い行列、
 茶髪頭はもう着いて、
 とっくにテレビを回してる。
 来たぞ来たぞあられちゃん。

 せんじん谷内のお化け杉、
 腹がへったあ人さらい、
 おじいちゃんがいっていた、
 三人四人いねえなったって、
 北朝鮮で生皮はがれ、
 お父うもお母ももしかして。



  世界一周

 ぴいちく雀が、
 田んぼにはまって、
 たにしになって、
 鯉に食われて、
 うんちになって、
 あぶがぶんぶん、
 ひーるになって、
 牛にとっついて、
 もっくらもっくら、
 でっこうなって、
 くじらになって、
 海へ入ったら、
 世界一周。



  金の臼

 むかごがぷーらり、
 うさぎが食って、
 目は真っ赤、
 もひとつ食って、
 耳はのっきり、
 みーんな食って、
 ぴょーんと跳んで、
 雪はさんさん、
 笹やぶ行って、
 でっかいお寺の、
 てっぺんから、
 お月さん、
 お餅つき、
 ぺったんこの、
 金の臼。



  みのむし

 葉っぱが落ちて、
 木は淋しそうだ、
 ぴーぷー風が吹いて、
 ふるえてる、
 それとも、
 恥ずかしいのかな、
 裸になって。
(とうろり夏の夢を。)

 雪がふって、
 木は涼しそうだ、
 ひいらりほらり、
 次から次へ、
 それとも、
 誇らしいのかな、
 白い着物が。
(春の嵐は金の糸。)

 鳥がやって来て、
 木は困っている、
 あっちへ飛び、
 こっちへ飛び、
 それとも、
 知りたいのかな、
 遠くの世界が。
(いけない食べられる。)

 雷鳴って、
 木はたいへんだ、
 どうっと吹雪に、
 月が隠れる、
 それとも、
 歌っていたいのかな、
 大声で。
(虹の七色のほうら。)

2019年05月31日