童謡集六

童謡集六



  ゼフィルス


 キュンとお鼻が空を向き、
 みどりの髪はうねるゼフィルス、
 すてきな彼女に恋をした、
「ぼくはあなたの青いスカーフ。

 砂漠の天気もゴーサイン。」
「あたしのハートは真っ赤なの、
 ラピスラズリの月の影。」
 年は十七サラマンダー。

 ジープに乗って走り去る、
 あとを必死にランクルが追い、
 どおっと砂を巻き上げて、
 どこへ行っても蜃気楼。

「三千世界に虹をかけ」
「七つの夢のたった一つを。」
 スフィンクスが微笑んだ、
 一万年の死人の眠り。

 ラピスラズリの星空に、
 優しい夜は風の歌、
 突如サハラはさやめいた、
 ため息一つトルネード。

 ハートのような真っ赤な岩に、
 四輪駆動は空回り、
 嵐をさけて洞窟の中、
「あたしの夢はどうなるの。」

 タンクの水もあと一杯、
 緑の髪も砂だらけ、
 絵文字のような壁画があった、
 槍をくうらり野牛の涙。

 嵐が去って底無しの、
 赤い壁から文字が抜け出す、
 槍は交互にぶっちがい、
 たくましい七人の若者。

「金色の果実と、コンドルの舞う、
 大オアシス、豊穣のサハラは、
 迎えるであろう、西風の乙女を。」
 黒い七つのダイアモンド。

「マットグロッソの七人兄弟、
 中の一人をえらぶがよい。」
 ゼフィルスの乙女は選んだ、
 真夏の目をした末の弟。

「右手の槍はなんじがもの。」
「捧げるつぼみの花一輪。」
 二人は手を取り合って、
 六人の兄は祝福。

 大兄はオアシスの歌を歌い、
 二の兄は椰子の実を二つ、
 三の兄はくちなしの弓、
 四の兄はアナコンダの皮を。

 五の兄はひひの遠吠えを、
 六の兄は火食い鳥の羽根を、
 新婚の二人に贈った、
 そうして森の泉に浸る。

 日は千万の茂みを映し、
 月は万億のさやめきを、
 ガジュマルの涼しい住まいには、
 椰子の実は吸って二つの器。

 くちなしの弓に獲物を追い、
 蛇の皮に傷を癒し、
 ひひの遠吠えに危険を知る、
 日食い鳥の羽根に門を飾り。

 大兄のオアシスの歌に響き、
 豊かなマットグロッソは廻る、
 ハイハイハルーオーレーナ、
 ホイホイホルーアーレーナ。

 十月十日の月満ちて、
 新しいダイアモンドが生まれ、
 すんなりと生い育って、
 三つのころには槍を持ち。

 次はゼフィルスの美しい花を、
 大空は底無しの井戸、
 ハイハイハルーオーレーナ、
 ホイホイホルーアーレーナ。

 大オアシスの真っ昼間、
 夫が耳をそばだてた、
「大兄の歌が聞こえない。」
 火食い鳥の羽根がさやめく。

 マットグロッソを駆けめぐる、
「いったいなにが起こったの。」
「オアシスに死病が流行る、
 わしらの他はみな倒れ。」

 槍をとって夫は云った、
「コンドルの峰へ行って、
 死病を治す青い花を。」
 取りに行くなら妻のあたしも。

 子供を置いて蛇の皮、
 二人は森を突っ走る、
 底無しの沼をわたり、
 ライオンの草原をよぎり。

 人食い猿に追われ、
 激流に舟を浮かべて、
 すんでに取り付こうとて、
 呑み込まれて洞穴の中。

 ごうごうまっ暗闇を、
 いったい何日、
 浮かび上がった島の上、
 巨大な亀の甲羅であった。

 二人をのせてのっそり這い出す、
 岩の裂け目をよじ登り、
 一日寝ては三日をたどり、
 とつぜんまぶしい日の光。

 大コンドルの雪の峰、
 百花繚乱咲く花の、
 青い花だけ見当たらぬ、
 亀はのっそり苔を食み。

「月夜の晩に花は咲く、
 大オアシスの言い伝え。」
 夫は云って夜を待つ、
 今宵満月十五夜の、

 月光には真っ白い花、
 朝日を浴びて真っ青に、
 花を手折って妻のたもとへ、
 身を劈いて夫が云った。

「死体をねらってコンドルが来る、
 そやつを掴んで舞い下りろ。」
「おまえをおいてなんであたしが。」
「子供と兄の命を救え。」

 蛇の皮も役立たず、
 群がり寄せるコンドルの、
 足をつかんでゼフィルスは。
 その絶壁を舞い降りた。

 その月光の青い花、
 六人の兄の命を救い、
 子供の命をつなぎとめ、
 大オアシスはよみがえる。

 ホイホイホルーオーレーナ、
 ハイハイハルーアーレーナ、
「あとを追うさへ許されぬ。」
 忘れ形見に涙を流し。

「泣くなゼフィルスサハラの命。」
 声は空ろにこだまして、
「死ぬなゼフィルスぼくの恋人。」
 その身をゆさぶる若者は、

「さがしあてたぞさあ水だ。」
 半分砂に埋もれて、
 すてきな彼女は目を覚ます。
「インフルエンザが流行っているぞ。」



  フェリーボート

一つとや、一人旅寝は船の上、うみねこ鳴いてうしおの香。
二つとや、二人旅寝も船の上、島影消えて波枕。
三つとや、見える灯は出羽の国、おしんの郷は雪の中。
四つとや、夜霧に暮れる港には、なんの出船か行き過ぎる。
五つとや、いつか行く手を飛島の、鳥海山は夕焼けに。
六つとや、むかし芭蕉は象潟の、雨にけむれる合歓の花。
七つとや、なまはげ行くか男鹿半島、夏を迎えてうしお焼き。
八つとや、山の向こうは下北の、吹雪に向かう寒立ち馬。
九つとや、ここは海峡流れ星、特急北斗はトンネルを。
十とや、十はとうとう函館の、百万ドルの大夜景。



 ずくなし

ずくなし咲いて田植え冷え、
 どえろう冷えて腰やぬかる。
くそたれ雨の降り続け、
 ぽっしゃりぽっしゃり降り続け、
なんで太郎兵衛が嫁になる、
 なんでというたて親が決め。
しんだら代りがあるそうじゃ、
 婿の代りもあるそうじゃ。



  春は

 うそが花のつぼみを食べている、
  そんなに食べないで。

 雪の中にぽっかり開いた穴、
  きっと何かいるぞ。

 吹き荒れて飛び込んだ鳥は、
  北海道へ渡ったかな。

 まんさくが咲いたまんま凍って、
  日が当たって溶けて。

 汁に入っていたふきのとうは、
  今朝ぼくが取ったんだ。



  猫の奥方

 天下無双の豪傑、
 どうよのあべの金時は、
 猫を一匹飼っていた、
 その名はにゃーお。

 お館さまものすごーわる・
 もすによーるは、人を殺す、
 女は奪うのしたい放題、
 あっさりそやつを退治した。

 あべの金時は指名手配、
 取っ捕まえて火責め、
 水責めの拷問だと、
 美しい奥方のよーろぴ。

 せっかく世のため人のため、
 そいつをだれも知らん顔、
 美しいこわーい奥方、
 村を出るよりないか。

 にゃーおの猫と道行き、
「おーいそっちはだめだ。」
 どうよ館の大手門、
 にゃーおは屏を乗り越えた。

「そういうわけかい。」あべの金時、
 のっしりみっしり歩んで行った、
 美しい奥方の寝室、
 どうよ館はうしみつ時。

「死ぬかいそれとも無罪放免。」
 刀を抜いて押しつけた、
「さすがじゃな。」美しいよーろぴ、
「おかまいなしにしようぞ。」

 猫のにゃーおを差し招く、
 あんれなつかぬはずの猫が、
「ものども出会え、曲者じゃ。」
 よーろぴは消えて猫が一匹。

 四方八方切り抜けて、
 死に物狂いにあべの金時、
 にゃーおの取った魚を食って、
 鳥も通わぬけもの道。

 武者修行の一人と一匹、
 きよいの村に行列が行く、
 美しい乙女がお輿入れ、
 なんとな鬼の花嫁と。

 そうしないと村が襲われる、
「そんならわしが代ってやろう。」
 あべの金時花嫁姿、
 しずしず社へ置き去り。

「なんだあ猫は。」「鬼の餌か。」
 とっぷり暮れてふーらり鬼火、
「おっほう花嫁。」鬼火が云った、
「二人いるあっちがいい。」

 鬼の腕がぬーっと伸びて、
 にゃーおの猫をひっさらう、
 慌ててあとを追った、
「どうしたこった。」あべの金時。

 恐ろしい鬼のかたわらに、
 美しいよーろぴがいる、
「きえいおうりゃ。」切りつけた、
 あっちへふっ飛ぶ鬼の鼻息。

「ぎゃーお。」その目ん玉を、
 猫のにゃーおがひっかく、
 でっぷり腹に豪傑の一刀、
 あべの金時鬼退治。

 村へ凱旋その夜の宴、
「命を救われたわたしは、
 おまえさまがもの。」
 美しい花嫁が忍んで来た。

「下がりおろう。」猫がしゃべった。
「はあ。」乙女はかしこまる、
「あなたさまのような、美しい、
 奥方がおられようとは。」

「猫っきりいない。」だっても、
 あべの金時がわめいたら、
 ほんに猫しかいなかった、
 でもって武者修行の旅。

 いっぺん平らに河がある、
 わたし守りの船頭が云う、
「この河にはうわばみが棲む。」
「そやつはどんな悪さする。」

 河はどんよりあべの金時、
「たいしたことはせんが。」と船頭、
「牛や馬をべろうりやったり、
 たまには人も食う。」

「そいつはどんな代物だ。」
「たいていこんな代物だ。」
 わたし守りは舟ごと、
 どーんとうわばみになる。

「猫なんてえのも好物でな。」
 にゃーおの猫を呑み込んだ、
 そっちを斬りゃあっちが巻きつく、
 胴をえぐりゃ首ががっぷり。

「水から出さなだめだ。」
 死にそうになってあべの金時、
 河はとつぜん真っ赤に染まる、
「おっほっほ。」女の笑い声。

 うわばみの腹かっ裂いて、
 美しいよーろぴの手に、
 太刀が一振りと思ったら、
 猫のにゃーおが食わえ。

「いするぎ神社の宝剣。」
 太刀を見て村人が云った、
「よう取り戻して下さった、
 悪党きおいのよろずが、

「百年前に太刀を盗んで、
 よこしまにふるえばけだものになる。」
「女がふるうと。」声がした、
「美しい人はさらに美しく、

「そうでない人はそれなりに。」
「つまんない。」といって猫きり、
「たたられている。」あべの金時、
「命を救ってやったのに。」

 にゃーおの欠伸がそう聞こえ、
 でもってやっぱり旅を続け、
 だんびら山の曲がり鼻に、
 盗人どもの砦があった。

 物はかすめる女は奪う、
 火をおっ放すやらしたい放題、
「お一人ではとっても。」と村人、
 加勢するかというと、だれもいない。

「おれが行こう。」といって、
 大人よりたくましい、子供が出た、
「子供じゃどうにも。」「見ていろ。」
 柳を切って、水につくまでに、

 七つにする、「天童丸。」
 天童丸とあべの金時と、
 にゃーおの猫は曲がり鼻の、
 盗人の砦へ向かった。

 息抜きの穴が開く、
 にゃーおの猫が偵察に入る、
「猫でいいんでしょうか。」
「七三でまあな。」あべの金時、

「強そうなのが三人、
 中位が十二人、
 どうでもいいのが三十人。」
 偵察のにゃーおが報告。

「三十人を走らせる、
 強いのを三人倒したら、
 あとは成りゆき任せ。」
「火を放ったらいいのよ。」

「これは奥方さま。」天童丸、
「そうじゃないお化けだ。」
「いい子だねえ気に入った。」
 にゃーおの猫が欠伸。

「寝ている十二人に火矢を打ち込む。」
「はい奥方さま。」「うるさいお化けめ。」
 にゃーおの猫がおまじない、
 どっと砦は大火事。

 泣き喚いて三十人は逃げ、
 煙に巻かれた十二人を倒し、
 あべの金時と天童丸は、
 強い三人に立ち向かう。

 盗人の頭をふん縛って、
 天童丸とあべの金時は、
 さらわれた女たちと、
 お財を山に積んで凱旋。

「どうよ村へ帰ろう。」
 あべの金時はいった、
「骨折り損のくたびれもうけ。」
「そんなことはありません。」

「世のため人の為です。」
 天童丸がいった、
「弱きを助け悪者を退治し、
 正義の旅にお供します。」

「どうよ村へ帰ったら、そうよ、
 拷問が待ってます。」
 オッホッホってなんだと、
「天人のような奥方さまです。」

 しんや城に高札が立つ、
「お姫さまにとっついた、
 化物を退治した者を、
 花婿にする。」とあった。

 一行は名告りを上げた、
「豪傑あべの金時。」
「正義の味方天童丸。」
「にゃーおの猫。」えっへん。

「ねこが口を聞いたぞ。」
「女の声のようんでもあったが。」
 もしやまた化物、
「正義の味方の加勢にゃーお。」

 なにしろ夜中を待った、
 恐ろしい叫び声がして、
 お城中ふるえわななき、
 天井が張り裂けて、

 お姫さまの衣装を着た、
 九尾の狐が現れた、
 太刀を引き抜いて、
 あべの金時は凍りつき、

 にゃーおの猫は総毛立つ、
 かろうじて天童丸が一太刀、
 化物はさまよい歩き、
 おさむらいたちは発狂し、

 女たちを阿呆にさせ、
 そうして朝になった、
 お姫さまは眠っている、
 血のあとがついていた。

 天童丸の刃のあと、
 二人は猫のにゃーおと跡をつけた、
 北西に向かって十里、
 山のやぶっぱらに穴が開く。

「狐はこの中にいる。」
 穴が深くてどうもならん、
「姿を現わすのを待とう。」
 あべの金時が云った。

 村の古老がやって来て、
 ひげをしごいて云うには、
「九尾の狐は二千歳、
 倒すには二千歳の弓矢がいる。」と。

 そんなものがどこにある、
「もしや。」といって天童丸、
 捜し回って拾って来た、
「大昔の人の使ったもの。」

 まっ黒い矢尻を三つ、
 夕方ぼおっと明かるうなって、
 青い狐が飛び出す、
 追い矢は二の矢も外け。

「帰りを待って迎え撃とう。」
 満月にふりしぼってあべの金時、
 迎えうつ九尾の狐、
 矢は真っ赤なその目に吸い込まれ。

「おひょーかんかん。」
 叫びを上げて、
 雷鳴って、
 大地は九つに張り裂けた。

 しいや城に帰ると、
 美しいお姫さまがお目覚め、
 天童丸を見てぽっと頬を染める、
「花婿さまは天童丸。」

「そういうことかよ。」あべの金時、
「そういうことよ。」にゃーおの猫、
 盛大なる結婚式、
 猫と豪傑は飲んだり食ったり。

「兵隊を貸してくれ村へ帰る。」
 あべの金時は花婿に云った、
「どうよ館へ押し渡る。」
「あたしには一筆したためて。」

 にゃーおの猫が云った、
「はい美しい奥方さま。」
 軍勢を率いてあべの金時は、
 どうよ村へ押し渡る。

 美しいよーろぴが出迎えた、
「猫のにゃーおではなくって化物。」
「ここに手紙があります。」
 奥方は読み上げた。

「しいや軍はお館に入ったら、
 あべの金時をすみやかに、
 逮捕しろ、しいやの花婿。」
 多勢に無勢あべの金時、

 あっさり捕まって拷問台、
 そのまた恐ろしいことは、
「あたしと結婚したら許す。」
「いやだ。」「それでは。」

 さしもの豪傑が音を上げた、
 猫を飼ったが一生の不覚、
「何かいいました。」「いえなんにも。」
 さても盛大なる結婚式。

 めでたや村には平和、
 にゃーおの猫が死んで、
 やーれと思ったら奥方、
「かわいいでしょ。」新しい猫。
2019年05月31日