ショートショート9

2010年12月01日 08:18 せっちゃん ショートショート・京都
加茂川の月に宿仮るあしかびのしじにも雪は降りしかむとす
 月がぽっかり出てあしかびを含む、雪になる最後の満月。京都は新潟よりも寒い。こけちゃんの結婚式に穴井と車で行った、北陸の海は荒れて豪快だった、雪がちらついたり止んだり、京都は晴れて冷える。
 結婚式は京大会館にて、大学の裏手にある建物だ、婿どんはノーベル賞最短距離という脳味噌学者で、花嫁さんがとりしきる、学者先生はそんな下世話なことはしないのだ。わしの着替えの部屋がないぞ、なんせ衣お袈裟を着けなきゃならん、どーすべえったら、あら忘れたあたしの部屋でってさ、花嫁のお支度部屋でもって着替えて、えーあの花嫁さんは見ないようにー
 式は厳粛荘厳であった、もっほちゃんが音楽係りk614の行進曲と、穴井が補佐役で、わしの帯が抜け落ちた、なんせ妊娠十ヶ月りんげつだふーい、お拝して机の下に投げ込んだ、穴井のほか気がつかず。
 式師訓示は、
「五体満足の人に転ばぬ先の杖はいらんです、転んだってただでは起きんのです。」
 美緒ちゃんは例によって満艦飾、上物の着物ぶっこわして工夫する、センスだなあ、おっちゃんどもに大受けしていた。穴井と美緒ちゃん何人か定期的に消える、焼香ですってさ煙草吸いに行く。いえこれは披露宴のお話。京大類人猿の学者いて、チンパンジーの鳴き真似やって受ける、まーるで歌手みたいのいたな、品のいーのとわしらろくでもないのと、賑やかで面白かった。
 この晩わしの誕生日をよったくって祝ってくれた、ゼニ出さなくっていーんだって、へーいスペイン料理さすがに京都だ、スナギモしか覚えてねーけどおいちいワイン三本開けた、きっとおごり返すといって三年たって果たさず。
 もっほちゃんの案内で大徳寺へ行く、聚光院は利休の墓があって国宝だらけ、こんなとこに住んだら肩凝って死ぬ。
 聚光院へ行ったって云ったら、観光客に羨ましがられ。
 大徳寺ぜんたいが歴史の宝庫かな。
 今度は一休の真珠庵へ行こう。
年のうちに降りにし雪の消え残り松の梢に白雲わたる

2010年12月02日 07:27 せっちゃん ショートショート・髑髏
宋代のたれぞ写せし六祖像どくろ面なるそがなつかしき
 眼かの線が浮き出てまったくこりゃ髑髏面、智慧とはまさにこれ。
 良寛のこれは詩・髑髏
「凡縁より生ずるもの縁尽くれば滅す、此の縁何より生ずる、また前縁より生ず、第一最初の縁は何より生ずる。」
 縁を追求するまさにこれ髑髏ですか、科学の不毛のように月のあばた面は、まあさ髑髏にもならないか、前縁という最初の縁というんですか、追尽をやめる、手放すと縁の中にぽっかり浮くんです、どうにでもしてくれって云うさへむだっことの大往生。
「此に至って言語道断心行所滅す、吾れ此れを持って東家の婆に語る、東家の婆悦ばず、西家の翁に語る、西家の翁眉を顰めて去る。」
 縁は異なもの味なものうっふうシャバの通り相場ですか、三百代言みな縁による、坊主の説教とか天理教の殺し文句、どっきたねえったらお茶を濁すことは、ねこまんまの如く手を振って退散。
「或るとき胡餅に題して狗子に与ふ、狗子また喫はず、所謂ふ是れ不詳の語、紛々の句と。 」
 これをまんじゅうにして犬にやる、犬も食わず、不肖の息子じゃなく不詳の語紛々の句ですか、どうしようもないな収拾がつかない。
「生と滅と丸く一合相と為し、野辺の髑髏に与ふ、髑髏忽然として起き来り、我が為に歌ひ且つ舞ふ。」
 生滅を一丸にして野晒しにくれてやったら、ふーわり起き上がって舞い躍る、良寛も酒を食らって舞い歌え、わっはっは歌は長し三世の引、舞は妙なり三界の姿、三界三世三弄すれば、月は落つ長安半夜の鐘。
しのび逢ひ七曲がりせむ八つ曲がり鬼無里の村を花吹雪して
 鬼がいないから鬼無里って、そうではなく住んでるのがみんな鬼だからー、わっはっは過疎の村は猿しかいない。
 奉公社へ行って中社へ行ってそばを食らう。善光寺にも行ったなあ。
マッカーサーも鬼籍に入らむ信心のおびんずるさま空ろ面寄せ

2010年12月03日 07:23 せっちゃん ショートショート・おかま
美緒ちゃんが世田谷のボロ市人手が足りないからってさ、ふーんだれか行ってやれ。寛永年間から続いていて、十二月と一月の年二回ある、何年か前正月に行ったな。
吹く風や寛永のぼろ市といふぞつらつら椿代官屋敷
 高井戸で乗り換えて二つめだったか、わんさか人がいて、なんかよーもわかんねーもの売っていた、ねこの筆買ったらじっさいちゃもん付けやがって高い、ベトナムのぞうりも高い、掛け合い漫才で負けさせるんだとさ、貧乏っくさいのはぼろ市さ。下水たれっぱなしにむしろ敷いて、甘酒とあんころ餅と売っていた。
 院生だった穴井の宿に行く、世田谷の高級住宅街におんぼろ屋敷、学生三人で住んで、泥棒の逃げ道になるってわっはっはほんとかよ、茶道を志すのがいて変な掛け軸見せた、やつめ茶道学校へ入って、家元の娘ひっかけそくなって、今もふーてん生活やっている。
 新宿の車屋別館で新年宴会。
車屋の別館となむ祝ぐは乞食坊主も梅が初枝を
 新宿住まいのてんまく先生の肝入りだ、二次会がおかまバーだった、ほんにさ面白かった、おかまの中におなべが一人、美人ぞろいにぶさいくな男がって、これが女でみんな男ではーてな。
「お金かかってんのよ、二週間にいっぺんホルモン打たなきゃなんないし。」
 さわってみてっておっぱい出す、ふーん同じだあな。
「おふくろの以来始めて触ってみた。」
 げらげら。
「横に切るんじゃなくってたてに裂いてさ、でないと感じない。」
「ごもっともです。」
 アメリカがおっぱいでタイがあれでって、手術料は保険が効かないひえー、
「花電車ってのできっか。」
「バナナ切ったりそりゃできるわよ。」
「へーえけつあつ高えな」
 げらげら。
歌舞伎町おかまばーとふネオン街華やかにして空洞がよき
歌舞伎にはさらで勝れるニューハーフ田舎坊主をお出迎へ
 翌日は熱海に行く、湘南ライナーができたて、おこげちゃん三人盛り上がって傍若無人、負けちゃいられないってうはあ。
 おかまどもストリップショーで前をはだける、とんでもきれいなんだが、あれついてないぞ。
「なにさガムテープで後ろ貼り付けるの。」
 あけみちゃんが云った、風呂でやってみたがそーは行かねー。

2010年12月04日 07:30 せっちゃん ショートショート・熱海
 熱海には何度か行った、どろちゃんの会社で初島リゾートの会員券持っていてみんなで押しかけた、舟は荒れ模様で切符が吹き飛ぶ、すんでに酔っ払いそう、豪勢なホテルが一人一万円で泊まれる。
 庭で遊んだり島を一周したり、焼き物をしたら美緒ちゃんのお皿が抜群で、ぜひ店に寄付してくれって、浜辺は大岩小岩の石だらけ、てんなんしょうのような花が咲く。
初島に久しく舟の行き返りしのび逢ふ瀬は過ぎにけらしや
潮騒のあらき巌が片思ひうらしまそうの花にしぞ咲く
 貸し釣竿があってこーんなこまいのが次から釣れる、漁師の店で晩飯、釣ったのから揚げにしてもらったらおいしい。
 江ノ島の猫はでっぷり太って、初島の猫はすんでに飢え死にしそう、ホームレスなら湘南かな。
 かーちゃん孝行に横浜へ行き、赤い靴バスに乗ったり、かーちゃんの生まれ長者町を見たり、たった一人同級生が同じ店やっていたと感激、戦争であとかたなく学校もなく、そりゃまーそーゆーこったな。熱海はばあさんにつれられて行ったとかで、どっか海の見えるとこって云ったら、海の見えるホテル中田屋というのがあった。
 待ち合わせに東京のハイミスが三人いて、とーても田舎旅館だけど、料理は病み付きになるって云った。
 ほんに海が見えるってだけの、新潟から来るこたねーやって、料理がものすごかった。どれとってもとびっきり、なんとか博士の薬膳料理を二十七年追及してこーなったという板前さん、刺身煮物焼き物付け合せ、こんなのはどこへ行ったって食えない。
 感心して毎年行く。三年目に法事のご馳走よりまずいのが出た。板前が引き抜かれたらしい。
 伊豆山神社の階段を下りて足がふーらふら、昭和天皇の皇后様が熱海でお育ちになったそーの、国宝級皇后さま、あのころはずうっと浜辺だったってかーちゃんが云った。
熱海には七つ七湯のめぐらひに降り降る雪の梅がへを行く
 一月十七日今月今夜の日だった、梅の満開に雪が降る。

2010年12月05日 07:27 せっちゃん ショートショート・魚
 新潟は梅もまだ咲かぬというのに熱海の桜は満開、あけみちゃんがでっかい車で迎えに来て、縄張りだから案内するって、七人ぐらいいたかな、
「あそーあそこへ行くわけ。」
 龍宮城みたいなとこへ案内した、前掛け一つのおねーちゃんがおみくじをもって出る、うはこりゃ真っ最中の。
 いろんなもんがあった、エログロナンセンスってより、浦島太郎の子孫繁栄やら、水ぶっかける覗き見やら、大入り満員きゃーわーみんな見ている。
 おしんの作家がこのあたりに住んで、毎日1キロ泳ぐんだとか、殺伐な文章のわりに達者だってわけで、双葉山のはまったお光さんの宗教、モアだっけか宝物館開いたり、熱海ってへーんなとこだな。
 コンビニ寄ってビールかなんか買って来てという、
「一つしか酔わないから。」
「へーい。」
 ビール買った。すげー運転というより山坂だ、修善寺に行く。うしろ席でビールのおかげでご機嫌、穴井ががちゃがちゃ開くと緊縛むすめ出て来た、これあかみちゃんにお土産だあ、彼女こーゆーの好きだし、へーさよかって修善寺に着いた。谷川沿いにみやげ物屋がいっぱい、そばで有名だそーで昼飯、修善寺は曹洞宗のお寺でかつては僧堂があった、大心和尚がいっときいたな、修理中で入れず、うるし風呂にかぶれたお面があるって、うるしに弱いのはミイラはさめかも。
 つるし雛の展示があった、気に入って買おうと思ったら一本二万円、箱根細工の開かずの箱買ってきた、開けようとしてぶっこわした。いっひっひわしはどーしよーもねーな。
 うすよごれた谷川を清流だという、ふーんそーゆーもんかな。魚はいるんかな。タクシーの運ちゃんが伊豆の出で、熱海の魚は食えねーと云った、そーかなあ干物たけーけど絶品だけど、臭くってまずい、何を釣るんだ、四キロのあおりいか釣った、そりゃ伊豆も熱海も裏日本よりゃ魚の数も種類も豊富だ。
 もう十年もすりゃ世界中の海から魚が消えるってさ、そうしたら人類どーなる、人間だけ増えりゃ早晩そーなる、中国が人間まぐろ食うようになるさ、共産党と取り巻きだけが生き残って、金正日理想のさ、廉い労働力はぜーんぶ食用人間になる、日本もそいつ輸入してなんとかかーとか、はーてな。

2010年12月06日 06:49 せっちゃん ショートショート・サッカー
 1、クロンダイクはひとり遊びの基本技で、一枚を開きあとは伏せて6枚おき、行を替えて一枚を開き5枚伏せして6段目のしまいまで並べる。Aは外に出して123と上へ重ねることができる。赤の次は黒の次は赤と開いて行く、765と下へ、なんにもないところへはKを置く、すべて開き終えるとおしまい。2、クロンダイクのAを出さない、1の下に2、3と並べて行く。こっちのほうが難かしい。3、4枚を開く、13枚を伏せてまた4枚を開く。一枚を開いて、たとえば5だったら、同じカードの567~4まで積む。開いた8枚がなくなれば伏せた1枚を開いて行く、13枚がなくなったらおしまい。4、13枚数えて伏せ、5枚開いて、伏せた13枚を表に向けて置く。5枚開いたうちのはじめのカードが7だったら8910と積み、並べた4枚はクロンダイクのように赤黒と下へ並べる、すべて開き終わったらおしまい。5、スカートめくりという遊び、ハートのQを表にして置き、半重ねに2枚伏せておき、次に3枚伏せておき、次に4枚、次に5枚次に6枚開いて置く。たとえば7と6は13になるから二枚外すことができる、たして13になる二枚を外す、手持ちのカードを一枚ずつ出してあわせて13になる札を外す、ハートのクイーンが丸見えになったらおしまい。6、カードを表向きに四枚並べ順次四枚ずつに並べて行く、前後左右赤でも黒でも同じ数と接したら二枚とも外して行く。ぜんぶなくなったらおしまい。
1から6までをする、名付けてサッカー。
そうは簡単にできないから、
3は、4枚4枚開いたら最後の1枚を除いて7枚のうちから、2をジョーカーにして、ストレート、フラッシュより上の5枚スーツができたら、もう一回ゲームができる。そうしてゲームが終わったものを切らずに再度クロンダイクを試みる、双方のクロンダイクともに可能。
1から4まではできればよし、できなかったらマイナス1点。ぜんぶできなかったら0点になる。
5は伏せたのへのせて行って3回できる。6も残ったものを使い都合3回できる。5は一回めにぜんぶはぐれると4点、1枚残ると1点。6もはじめは4点、二回めは2点、三回めは0点、四回めはー1点、五回以降ー2,3となる。
はーいこうして一日飽きずにやっていられます、わっはっは。

2010年12月09日 07:28 せっちゃん ショートショート・うさぎ
バスが行きと帰りと二回しか出ない土田舎に住んで、町へ出て乗り遅れたら一泊するか5時間かけて歩くしかないって、それでどうだっていうと貧乏だけどまあ楽しく暮らしているって、年寄ったらどーなるかわからんけどさって、60過ぎのじっさだな。畑に野菜作って山菜やきのことって、蛋白質は川魚にいのししにうさぎ狩。うさぎは両耳を掴んでつるくて、棍棒で腹を一発、仕損ずると可哀想だし暴れるし、なんたって一発。
 鯉を釣って来て頭ぽかん一発は何度かやったな、しくじるとやっぱりいかん、にがだまを抜くにもへまるとぜんたい苦くなる、そいつがあるところになかったりする、鯉は可愛い目してらーな。
 原始野蛮生活も工夫とこつがあるんだ。がきんころにわとりをひねろと云われて、首ぐるぐる三回しても死なない、あいつまだ覚えてるな、ひねってきゅっと引っ張ればいい。
 うさぎかけあわせに行って、二匹入れると、ちっちゃなピンク出してきゅっと鳴く、七回するといーんだって見守っていたら、だれか人間も同じことするんだって云った、そーさな三日三晩深刻に悩んじまった。
 山の畑を借りておふくろと蕎麦を作ったら、上のほうはうっすら下のほうはあつく、均等には行かぬ、それでも収獲して、むしろに干して棒でたたいて、とうみにかけて、いしうすで挽いてって、穀類は手間ひまかかる。山栗一斗拾って、茹でて干して冬の間食っている、おいしかった、まつたけもぶち当たってわんさか取ったっけ。
 年寄って自給自足たってもう不可能だな。
「一日働かざれば一日食うべからず。」
 共産党とは大違いの、理想を云って現実を見ない、ただのわがまま金正日だなシーシェパードとかさ、唾棄すべき。
 人間というものの故郷だな百丈禅師は、あとはミイラになるほかないか。
 寒山拾得を良寛が賛して、
「拾得手中の箒、顛の塵埃を払ふも、転た払へば転た生ず、寒山時に経を授く。終年読んで足らず、古も今も人の善く買ふもの無し、天台山中長く滞貨たる所以、畢竟そもさん。」
 と。二人天真爛漫のこれがありよう、良寛始めて世に証す。
 人の本来ありようそもさん。
 世の中終わっちまったわしと障害者手帳の美緒ちゃんと、時にかくの如くしてってあっはっは。

2010年12月10日 07:11 せっちゃん ショートショート・しろあり
 地震のあと町の依頼受けたと云って業者が来た、縁の下にもぐってどろんまるけに写真撮って、湿気払うにはモーター四器つけて、どっか穴開けてなにがどーのではい一00万円だってさ。調査費は無料サービス、ふーん世話人相談してからって、こーゆーペテン商売よくあるし、どだい一00万円なんてねーや。高すぎるって大工どんに聞いたら、そんな必要ねーです、ちゃんと換気は計算してあるとさ。
 二年後にしろありが出た、そんなわけねーがって四0万取られた。コンクリート礎壁に丸い穴4つ開けて通風孔にして一五万、なんでさいいって云ったじゃねーかったってしろあり。
 あんなもんほっとけ出るだけ出てぽしゃるって、消防旦那が云った、たしかそれもあらーな、柱一本でけりってのあったし。
 となりの寺駆除に百万かけた、だって全壊するってさはーてな。
 どーもよーわからん、一般住宅だってむかしは一五0年めどに建てる、お寺なんか、そーさ法隆寺は二千年だ、ひのきは育った生涯の半分でいちばん堅牢になる、ゼニありゃ西岡棟梁に頼んで、五重塔でも山中に作ってやるのに。
てっちゃん晋山式に、大不況の折から新築ってわけには行かん、大正七年に立てた書院を改築、タイムマシーンみたいねじれたのを大工どんが平らにした、建具替えて天井も張り替えて、どーやら禅師さまの御座所らしくはなった。
 法もねーのに禅師もくそもあっかって、次代のこった、曹洞宗門仏教のぶの字も残ってねーわさ、あほくさ。
 あとは本堂つぎはぎして室中修理して開山堂に位牌棚にー
 年金じゃアパート暮らしも無理か、おねーちゃんたらし込んでって、うっひゼニの切れ目が縁の切れ目、良寛五合庵ねーかウヲッシュレット付き、あれいつんまにかてめーんことになった。
 大工どんが云った、縁の下にモーターフアンつけて三0万でなんとかする、なぬペテン業者と同じじゃ、住まいが夏向きから冬向き密閉式に変わったのでしてふいー。
 じじばばの寿命が延びたんもそのせいだ、あほくさ60歳以上は保険なしの医療費実費にせえ、そーしたら逼塞日本いっぺんに甦るぜ。中国も北朝鮮もなんのその。

2010年12月11日 07:02 せっちゃん ショートショート・星
 雲が吹き飛んで冬空に星が出た、死んだら星になるって、死ぬ前にぴっかり星になってわっはっは思い残すことはねーな。あとどーしよーもねえシャバの世を何年か、占い師によるとうんざり二十年もってさ。まずは免許書替えに行って、二度とっつかまったからうんざり時間たっぷり、あれへんだなまだ通知来てねーぞ、たしか今年だったが、免許返上しろって云うぞ、あほめ土田舎人免許なけりゃ命ねーのと同じ。
 あんれ来年だった、ぼけが来てら。
 司馬遼太郎シリーズオホーツクのアイヌ人ってのやっていた、樺太アイヌのたった一人生きていたばーさの写真があった。神様に背くといって学校に行かずに育つ、樺太アイヌ語の生き証人が絶えた、人だなあって。
 人が死んだという切なる思い。
 ほんとうにむかしはいたんだ、わしの幼いころにもまだ。
 郷土史家もひげの生えた東大教授も、そーさな司馬遼太郎もどっか人じゃない。
 さもしい根性かまるまっちく太っているか。
 人とは涙流すほかにはない、星になった命かな。
 エリちゃんはあいのこで、幼稚園行ったら名前も書けなくって、なんとかしてくれって先生が云った、英語半分てわけじゃなくって、空手馬鹿の親が教育ゼロで、泳いだり空手や柔道のまねやとんでもないいたずらしたり、中学上がったらあいのこだっていじめに会った。登校拒否していたら、なんであたしが学校行かれないんだろ、おかしいと云って出て行って、先生やみんないる前でいじめっこをどっついた。由来いじめなし。
 オーストラリアへ行ってまた帰ってきて、どーしたかと思ったらひょっこりやって来た、造形大学入って23歳四年生だという。就職決まった釣具屋の営業、三十も会社受けてやっと決まったって、そりゃすごいや。
 パチンコ屋のアルバイトしたら客が喧嘩する、割って入ってなぐられた、客やっつけるわけに行かない、どーしよーと思ったら、女の子を殴るなんて何事だと客がそやつ追い出したという、あっはっはあたしも女の子だったって。
 空手馬鹿の親父が怒ると、おばあさんが逆らわず聞いて、しまいにはおばあさんの云う通りになる、パチンコに負けた客あしらうのに、役に立ったって。
 バスで東京まで出て仲間と美術館見たり、飲みに行くんだって。
 若くっていいねえって、いえ年取ったんです、前は一週間徹夜した、今は一時間寝ないとだめ、輝いている地上の星。
 ドライブに行ったら荒れっぽくって、鳥の群れが急転直下、向こうの川がなぜかぴっかり光る。
 からすがのすりを追っかけて、そーさなあわしは何をしよーたって。

2010年12月12日 08:11 せっちゃん ショートショート・和紙
 歌を一千首書こう、
「せったん一千首。」
 と銘打って筆を取る、紙をぜーんぶだめにしてさっぱりだ、いいと思うのは10に1、なことやってらんねーや無駄遣い。せんに買ったやすものの短冊を、和紙買ってきて貼り替え貼りかえ、うっふっふでもって反古の山。
 今に見ていろぼくだってじゃなく、ひまさえありゃ書くのさ、十枚二十枚書くと心臓のあたりおかしくなる、けっこうしんどいんだなこりゃ、ふーん小便は近くなるしさ。
 一千首の歌はすでに仕上がっている、手直ししてまた手直しして、そりゃこれからも手直し。
 でもさ歌人はわし以外にいないのさ、わっはっは明治以来いやさ芭蕉以来の詩歌ってわけ。本人が云うんだから間違いない、うっふっふ本人以外云わなかったり。
 和紙を漉く人はいる、山古志村のとっつき、平家の落人部落竹の高地のじいさんばあさん、高柳村のどっぱずれ角田和紙、会津へ抜ける清流の辺りの小出和紙、県の重要無形文化財だ、跡継ぎいねーでもう止めるとさ。月山和紙は存続する、冬虫夏草菌のコレクションのある博物館に収まる。大町の和紙は若いのもいて一家営業でやっている、木の葉の和紙が優秀だ。和紙を扱う店は飯山にもあり、小布施の北斎館前にもあり、長野市のはずれにも文房具屋兼いい店もある。
 和紙は高いし、そんなの買い漁っていたら破算する。
 今の政府政治家ども役立たず、じきインフレが来て年金パアになる、食ってくのもおぼつかねーな、それまでに一枚でも売れねーかって、金輪際売れそーにねーや。
 おもしろくもねえ。
 坐って面白くもなんともねーのは最高、和紙に歌書いてなんにもねーのはわっはっは楽しみ。
 本堂建てた弟子が、ふすまに字書いてくれって云う、短冊と扇貼り合わせってのどーかな、本堂じゃ似合わんかなふーん。
 今日は最後の法事かな。

2010年12月13日 07:06 せっちゃん ショートショート・胡桃
 法事で飲んできてかしぐるみ二つかいて食って、美緒ちゃんちから来た市田柿食って、そのあとばたんきゅう寝て起きたのが四時半だ、黄昏坐したら飯食うだけ。飲んだら寝るきりの年寄り。
 かしぐるみは信州の特産かな、北海道にもあったけど、長野県人のなんとかさんがヨーロッパ土産に持って来た、珍品かと思ったらくるみだ、なーんだ拍子抜けした、それが生い育って黄金の実をたわわにつける。在来のくるみは自生する、ひめぐるみおにぐるみ、りすでなけりゃ金槌がいる、味はいーんだが、因みにわしはそいつをかいてみせて、どんなもんだって、頑丈な歯を台無しにした、ついの親不孝ってのだな。くるみ割り人形は、かしぐるみをかく道具だ、二つ持って握り締めるとかける。
夫婦して胡桃をかきて炬燵掛けつましくあらむ野沢の熱湯
 野沢温泉はうめなけりゃ入れない、野沢菜洗っていて、落ちて死にそくなったのがいる。客のいない宿で、ひでー熱湯で入れなかったり。
 そこに胡桃を売っていた、ほかはどこも売ってない、殻剥いたのはあるが、胡桃はかいて食うのが本筋だ。何袋も買い込んで食っていたら、弟子が一つくれという、やだよー、なんでさそんなにあるのに、一つやれば一つへる、わっはっはりすの仲間だな。
 それがホテルにも出ていた、北斎館の前でも売っていた。ワインやチーズと同じ日本人もちったあグルメになったか。がきんころ人の家の取って食ったな。いとこがお寺に植えてくれたがだめだった。信州だけのものらしい。
 市田柿は天竜の霧でおいしくなる、品種改良してない柿だって、美緒ちゃんちで二000個は作るんだって、今年は不作で九00個作って、いい甘さで後味がいい。新潟はしぐれ続きて、佐渡のおけさ柿は焼酎で甘くする。
 りんごが木に残っている、あれ取って食うと絶品だって、がきみてー真似もできん、ばっさどもが籠に摘み取っていた、千円札出して売ってくったら、ぶすりんごだで売れん、持ってけといって三つくれた、形悪いぶすりんごだが、完熟のうまいことは。
 かーちゃんがテレビ台の奥に胡桃が溜まっているという、見れば二袋いや三袋分もある、ねずみが貯蔵して夜中ぼりがり。
そ-いえば弟子いないのに、減るとは思っていた、ねずみもりすの仲間かな、嬉しくなったわっはっはわしはねずみ年。

2010年12月14日 08:21 せっちゃん ショートショート・枕経
 てっちゃんが風邪引きでお経に出てるんで、ちったあかせげといってお冠のかーちゃんに押し出された。九九ばーさの枕経だ、百までまでもう少しだったんに惜しかった、耳かなつんぼでがんばったのにさ。お寺の最長不倒は百四歳のばーさまで、八十過ぎの写真がばけものみたいに元気はつらつ、長生きするのはどっか違う、次が百一歳ばーさま、これも元気で中ばーさが先に行くかと思った、次が百歳二人いてばーさま。今度はその次か、男の長生きは九六が最高、なんせ男はだらしねーか。
 枕経は蒲団に寝ている前でお経を読む、お初は驚天動地の体験だった、なんで坊主が葬式なんだ、死人に口なし知るかってんで、
「せったんさんお願いします。」
「なんでだあ。」
 発心寺の典座に云われ、でもってどーゆーふーに読んだか覚えがない。
 お経は仏遺教経でやたら長い、舌咬むほど読みにくい、遺教は坊主の枕経に読んで、在家にはたいてい修証義を読む。
我昔所造諸悪業、皆由無始貪じん(目に真)痴、従身口意所生、一切我今皆懺悔、是の如く懺悔すれば必ず仏祖の冥助あるなり、心念信儀発露白仏すべし、発露の力罪根をしてしょう(金に肖)いん(一夕に員)せしむるなり。
 遺教も長いんだけどいいかげん長い、だいぶ端折ってさ、たとい妄想もまったくのただ、生死の境を示すのによく、随分生臭坊主の預かり知らぬ、音楽に似て音楽に非ず、直指人身見性成仏底。
 出家して四十年わっはっはようやくさまになって来たか。
 坊主は何が楽しみか、死人の顔を見ることだ。
 どっかで説教して棺桶の蓋開けたら、猛暑の夏でどすぐろくむくんで二目と見られぬ。
 まあたいていは示寂ということあらーな。
 人の死ぬるやその言やよし、今の人次第に曖昧、人生生涯とりとめもなく、葬式坊主も嘘とはったりと空威張りなら、葬式親族参列者もうそと空涙とお祭り騒ぎ。
 これじゃ浮かばれねーや、人間そのものが滅ぶのかな。
 ナム猫っていう野蛮猫が死んで荘厳だった、お寺ばっさがわしもこのように死にたいと云った、うっふ飼い主が見劣りするよーじゃいかんな。

2010年12月15日 08:26 せっちゃん ショートショート・JR
 JRが山の手線だってんでさ、信濃川の水を長年ちょろまかして使っていた、地方なんて鼻糞丸めてぽいって、都庁のお役人だといって大威張りもいたなあほくさ。貯水ダムの下鯉を釣りにじますを釣り、へんごな禿げ頭が怒鳴って出て行けーってさ、てやんでえ水はもと信濃川の、まるっきり水位を上げ下げして、二メートルの余も変わる、釣りにならん。
 うなぎのどこさえて沈めたら、翌日テトラポットの上に乗っていた。
 そんなことは以前はなかった。清流だったんだ、今のように臭くはなく、鯉の冬眠を見つけて大漁ってもあったな。小春日はつちすぎたけが山のように出て、えーと信濃川は男のロマンでもって、
青柳の雨の降るさへこし人の信濃河辺に投網暮らしつ
菜っ葉帽を被れる我れや竿を振り信濃河辺に鯉をしぞ釣る
 鯉釣りは一日一寸十日でやっと一尾、こーんなの釣ったえさはどう仕掛けはどうと鼻うごめかす、その割には釣れず。一メートルを越す大物は新聞だねになった、両手にさし出す鯉は人より大きく見え。
 ミヤベが一メートル五0の鯉を見たという、流木かと思ったら流れを遡る、嘘だ、いえこの目で見たんです、そんなん見たことあると外野が迎合する。かかりゃしないので雑談していたら、竿がぎゅうと直角に曲がる、すっとんで行ったらもう空っけつ、鯉釣り針がまっすぐになる。
 空手馬鹿の羽賀が云った、なにがしの池には四メートル五メートルの鯉がいる、そりゃ釣ってもいーけど覚悟しとけ、神さまだで袋叩きに会うぜってさ、へーえそーかな。一メートルの鯉だって巾が物凄い、三仏性でかけのが信濃川の急流を突っ切って、対岸のテトラポットに入っちまった。どーにもならん。
 枝一本ひっかけると外れている、鯉は王様の知恵かな。
 生物の先生がいて、たらいほどある鯉の鱗が奉納されている神社があるという、恐竜なみだ。糸魚川の鯉太郎は八メートルだってさ、こまい雑魚ばっかり。百間棚なんて大淵があったころは、とんでもない怪物がいたんだ。
 でっかいなまずを十も釣り上げた、池へ入れて置くと雨の夜歩いて逃げる。
蒲原の沖つ興野にはざ木立つ雨降るさへがなんぞわぶしき
 人は土鯉なんて止めて海釣りして、わしはちぬ釣り名人になって、フライフィッシングなと、発電所上のダムでやまめを釣る。若造が来て怒鳴る、一発かませたろうかって、しゃーない車乗って行くと若造が歩く、水溜まりがあったでばっしゃん腹いせ、うっふう中学生のてっちゃんに説教食らった。

2010年12月16日 08:47 せっちゃん ショートショート・流星
双子座こぐま座流星群が見えるという、残念ながら雨だ。雪になった、ふうーっと雲が去って星、雪に星だ、すんばらしーぞクリスマス坊主が思うから大荒れになった。
 新潟県は冬に掛けて土砂降りしぐれ、月日星ほしほし山に三光鳥が来たな、たった一回だけ。
 獅子座流星雨の時は、弟子二人と三保の松原まで行った、富士山頂にしよーかって、松原のほうがいいってんで、高速道路六時間、夕方テント張って、だれか太刀魚釣っていたな、明け方がピークだってんで寝た、起きたら魂消たまわり中人でいっぱい。
「うははなんだこりゃ。」
「いっちばか。」
 ちらりほらりふわーって雨じゃねーなんだこれは、一つでっかいのがぱーっと走ってそれっきりで大遠征はおしまい。
松原に流らふ星をふり仰ぎ二十一世紀を我れは知らずも
 中国とアメリカの戦争なんてSFのこったと思っていたら、破産国北朝鮮のミサイル。そりゃ先ず日本からだな、真珠湾攻撃しねーと。
天人の舞ひ舞ひかへる羽衣のよしや浮世と忘らへ行かな
 富士山の五合目まで行ってみた、樹海は雪の中、10メートルも行くと方向感覚を失う、溶岩に松やぶっぱら、また来るでーって逃げ出した。富士山は真っ青な空の中。
 獅子座流星雨はあくる年が当たりだとさ、せっかく遠征はできず。
 ハレー彗星もすっぽかされた、おふくろのいうにはそりゃあすごかったって、悪魔だから見てはいけないって、それでも見たら全天流星、祟りがあるって思ったそうの八十年前。おふくろは十三回忌かな。
 悪魔の申し子みたいなわしを産んじまった。
 まーるでかすっともかすなかったな。
 天体だ富士山噴火なとあてにならん。
 舌を咬むよーな長い名前の彗星が、門前のさ、人のものはおれのものっていう狂い屋敷にぼんやりかかった。
 通産省のお役人が云った、まじで宇宙船の研究してる人がいるんだってさ、光速越えねーと意味がねーな、星の世界も、月のあばた面ふうの無意味、夢とロマンぶち破るってしかねーんだな。
 チンパンジーよりはゴリラになって、人間は檻の中。
 さーて見世物しよーかって。

2010年12月17日 06:51 せっちゃん ショートショート・童謡
 童謡叱られて歌うのは香西かおりという人、むかしの歌い様ではないがなかなかよく歌っている、童謡を復活することは逼塞社会をぶち破るのにいい、
 大人も子供も童謡すら歌えない、めくらつんぼおしわっはっは禁句使えばそんな世の中、どーしよーもねーやな、打出の小槌を拾った、米と倉出ろって振ったら小盲がわんさか出たって、ビートの効いたむかしばなしはうはは禁句。
 わしみてーなろくどもねーのは住民票がねーのさ、いい子でいねーとおまんま食えねーよ。うん食えねーな。
 二万だ三十万だってんで絵のオークションがある、そりゃわしでも手が届くどんな絵だって、なんだあ絵になってねーや、物真似らしいの向こうは壁。情感も思想も枯れて絵描きも絵を買うもねーもんだな、ふーんつまんねえ。
 新潟は米も売れねーしなんかねーかって、佐渡へ米軍基地持って来い、沖縄ばっかりしねーで義侠心だせ、観光も底打ってるで頃合だぜ、でもって佐渡まで橋掛させろ、税金で食うってのが大方の本筋だろうが、わっはっは賛成するのいた。
 中ノ島村米所山のない、飛行場にしろったら、与板まで4キロしかねー無理だと云った、じゃ信濃川使え。待てよぜーんぶ信濃川にしちまえ、水郷と沼にして原始野蛮観光にしろ、すけべなねーちゃん中高生腰蓑でおっぱなしてさ、わんさかいるよそーゆーの、鴨もいるし魚わんさか、海からも上がって来るぜ、釣り好き狩好き女好き、治外法権カジノも作ってどーだって、そりゃ面白そうだってさ。
 実弾配って戦争ごっこもすりゃいーや。
 でもさ国の財政立て直すんなら、六0歳以上医療費実費ってのどーだ、いっぺんに浮上するでえ、むかしは死ぬまぎわに世間義理でもって医者に見せた、老人医療屁ひっても病院薬漬け、医者忙殺あほくさ。役立たずはぽい捨てがよし、そーしてーだろなあ無能政府の議論ばっかし、じきに破産してンフレ年金ぱあ、たいていもう破産してらあ、ならいさぎよく。病気はめえで治すか,死ぬ覚悟しろ。
 幼稚園全廃もいーな、小学校まで教育は親任せ、親ろくでもねーしわっはっはおんもしれーことになるぞ、子殺しが次に親殺しってって今でもたいてーやってらーな。
 いや無難に徴兵検査からってな、M検。

2010年12月18日 08:14 せっちゃん ショートショート・飯袋子
一つには功の多少を計り、彼の来所を量る。
 なんの功もなく空から出て空に帰る、花のように知らず、水のように見えず、わっはっは文句の付けようがないって、げっぷが出て癌になってはーてなって、そりゃもーどっかよこしまにしているんだぜ。
二つには己れが徳行の、全欠と忖って供に応ず。
 徳行となそんなん知らん、飲んで食っておねーちゃんが大好きーかな? 歌うには一人きりがいい、ふわーい欠伸をするひまもなく、どーしよーもない無責任の、血まみれぶった切れ下及六道。
三には心を防ぎ過を離るることは、貪等を宗とす。
 心を防がず過を知らず、かすっともかすらない妄想200%、貪等を宗とすとさ、わっはっは、若しやこれできるやついねーな、わしの他にはさ。
四つには正に良薬を事とするは、形枯を療ぜんが為なり。
 心も身も言い訳をしない、うちまかせて蛸の七足八足、しくじりゃ死ぬってさ、七転八倒あの世行き、ふわーい退屈いいから大往生してやるか。
五つには成道の為の故に、今この食を受く。
 もと成仏せる上分中分、大通智勝仏十劫坐道場、なんとしてか不得成仏底なる、腹ふくるるわざにあらず、看よ看よ地獄図絵。
だっきとふ孕み女をかっさいてつかみ出したる豊年満作。
 雪のドライブに行く、天空半ばに晴れ渡る、山みな美しく街も人も沈黙、生きているんだなあ帰ったら二十年前の、いーやさなんでもなかったおねーちゃんから手紙が来た剣呑。ふーんゼニ貸せってえのかな。火点けられねーよーにうはつまらん。
 弟子の本堂出来上がったか、お祝い一万円てわけにもゆかねーな、まあいーや行って麻雀しよう忘年会だな。
しーしかいじきくんじゅれんかふじゃし、しーしんじんちょーいひきしゅりんぶじょ-そん。
 世界は虚空の如く、蓮の花は濁りに染まず、心身清淨を超え、ただこれ礼拝す無上仏。
 手に持ったお椀の中にころっと入っている、カチ一声転法輪。
 静かにして下さい。

2010年12月19日 08:28 せっちゃん ショートショート・たぬき
ろーはつどろちゃんが参道にたぬきが死んでるという、車通らぬし気絶していたんだ、狸は臆病でぶっ魂消ると気絶する、そのまんま死ぬのもいりゃ甦ってつまり人を化かすわけだ。もーせんに小学校へ持って行ったら、剥製の標本になった、真っ黒に銀色の冬毛。
 春先はもっさり茶色、でっかい二頭の喧嘩とか、池の周りに子狸三つうろうろ、かと思うと向こうから来て人を見上げてまた行く、近眼だな。
 狸汁ってえからうまいんだろうって、三日狸になってにゃいかんて、食ったのが云っていた。
 臭いらしい、てっちゃんが中学のころ土建屋に食わせられ、
「どーだった。」
「どーってことねえ。」
 お寺はうさぎ天国で、雪が降ると足跡だらけ、本堂大屋根のてっぺんまで登る、雪下ろししてなで切ってすっぽり雪の中、竹やぶはまあうさぎの運動会だ。
 首ちょんをかけた、兎はバック不可能、針金回して首が絞まる、春行ってみると、とんでもないところにわっかがある、なんだいってやっと思い出した。うさぎは食えん、あぶらっけがない、山へ来た連中が皮むいて一羽置いて行った、やきとりにしても、ごぼうと煮てもどーにもこーに。
 たぬきが増えると兎が減る。
 激減して雪の辺の足跡は二匹か三匹か。
兎らのあとを辿りに背裏山天の雲いが浮かび行くらん
 ほどろに溶けて熊のような足跡。
 たぬきのせいで蝮も減った、食っちまうんだな、まむしは棲家を動かない、お寺の周りに四つあって必ずいたのにさ。アメリカ人が参禅に来て、退治だといってぶらさげて来た、うわやめとけ、子を孕んでいる、まむしは卵胎生だ、こーんなこまいのがうじゃら、毒は同じだからって大騒ぎ。
 修道院でからすうちの鉄砲撃ってたってえけどどーなったかな。。
 たぬきの溜め糞ってのは盛大に盛り上がる、ほんとうで、そのまわりに初茸が出て、香りもよく優秀なきのこなのに、虹色をして毒っぽいかな、食わせてっから、
「どーだ。」
「じゃりじゃりする。」
「舌触りはわりーんだ。」
 はーてな肥やし存分、たぬきの溜め糞だって云って恨まれた。毎年生えるよ。

2010年12月20日 06:57 せっちゃん ショートショート・帰依
其帰依三宝とは正に淨心を専らにして、或いは如来現在世にもあれ、或いは如来滅後にもあれ、合掌し低頭して口に唱へて云く、南無帰依仏、南無帰依法、南無帰依僧、仏は是れ大師なるが故に帰依す、法は良薬なるが故に帰依す、僧は勝友なるがゆえに帰依す、仏弟子となること必ず三帰に依る、何れの戒を受くるも必ず三帰を受けて其後諸戒を受くるなり、然あれば則ち三帰に依りて得戒あるなり。此帰依仏法僧の功徳、必ず感応道交するとき成就するなり、設ひ天上人間地獄鬼畜なりと雖も、感応道交すれば必ず帰依し奉るなり、己に帰依し奉るが如きは生々世世在在処処に増長し、必ず積功累徳し、あのくたらさんみゃくさんぼだいを成就するなり、知るべし三帰の功徳其れ最尊最上甚深不可思議なりということ、世尊己に証明しまします。
 淨心とは自分というまったくないんです、自分を知ろうとするその自分がない、もとこのもの仏、なんにもないんです、よこしまにするものなし、ましてや淨不浄を顧みる以ての他。
 如来現在世には手を取り足を取りの親切あり、如来と同一しうる自他です。如来滅後にはなんにもない、ないものは不滅です、金剛不壊の所以です。
 なむきえぶつ、なむきえほう、なむきえそう、知らぬ人が何を知る、虚空を穿つことは不可能、渇仰これ全生涯、天真にして妙なりはたった今の200%です。帰依これ全人生、たった今を始めて生死です、一切をなげうつんです、感応道交とは不可思議阿僧祇劫、地球の宇宙のお仲間入りを果たした無上楽です、知らなければナンセンス無意味です、ものみな汚れて情けないったらだらしなく浮きぬ沈みぬ。とはまただれの日送りか。
 悟り終わって悟りなし、修菩薩行は日々まったく新たに悟って下さい、一瞬の染汚はもうないんです、仏を見るんです、仏が見るんです、ぼんくらというほどの自分なし、自分というお仕着せなし。
 帰依三宝は唯一無二の救いです、三宝あって地球宇宙も自分もなし。

2010年12月21日 07:03 せっちゃん ショートショート・論外
次には応に三聚淨戒を受け奉るべし、第一摂律儀戒、第二摂善法戒、第三摂衆生戒なり、次には応に十重禁戒を受け奉るべし、第一不殺生戒、第二不ちゅう(喩の口ではなくイ)盗戒、第三不邪淫戒、第四不妄語戒、第五不こ(酉に古)酒戒、第六不説過戒、第七不自賛毀他戒、第八不けん(りっしんべんに堅)法財戒、第九不しん(目に真)い(亥に心)戒、第十不謗三宝戒なり、上来三帰、三聚淨戒、十重禁戒、是れ諸仏の受持したまう所なり、受戒するが如きは、三世の諸仏の所証なるあんくたらさんみゃくさんぼだい金剛不壊の仏果を証するなり、誰の知人か欣求せざらん。
 悟れっていう、悟り終わって悟りなしっていう、人の為しかない、自分というものが失せているんです、破家散宅です、国敗れて山河あり、城春にして草木深し、ほんとうにさ、国という囲いなければ世界平和です、夢のまた夢ですか、軍備拡張どんぱちが人間ですか、そんなことはないです。
 十重禁戒を守るには死人がよろしく、葬式に仏戒を授ける、わっはっは笑っちまうです、死人に不殺生戒不邪淫戒と、いらんもの授けるなってな。
 出家剃髪の式に並べ立てられて、他のはまあなんとかやれんこともないが、殺すなかれの不殺生戒は、たとい大腸菌だって命だ一瞬もできんどーしよーっと思った。
「汝よく保つや否や。」
「よく保つ。」
 と云って式終わる、すんでに不可というのをさ。
 汝妄りに殺すなかれと大学教授が云った、そんなこっちゃ納得できん、お釈迦さまは嘘を云うのかと食ってかかった仏教科の学生がいた。よく見ろ、これ人間の作ったもんじゃねーんだよと云ったら、そーかと云って体倍にも膨れ上がる。
 戒を第一安穏功徳の諸住所となすと、仏遺教経にある、どういうことか、真正面です、避けては通れない。答えなけりゃ一歩も行かんです。
「釣り坊主殺生するな。」
「汝殺生するな。」
 と云う。
 思想に酔う不こ酒戒、どのくらいはた迷惑か共産党を見りゃわかる。不しんに戒怒りもっとも危ういですか。
 ちらともあれば不自賛毀他戒ですか、不謗三宝戒ですか。
 マルが欲しいですか、撫でられる頭があるんですか。ばーろーめが、映画俳優になるってえ人格形成しかないって、うっは論外。

2010年12月22日 08:13 せっちゃん ショートショート・無心
衆生仏戒を受くれば、即ち諸仏の位に入る、位大覚に同うし己る、真に是れ諸仏の子なりと。諸仏の常に此中に住持たる、各々の方面に知覚を遺さず、群生の長えに此中に使用する、各々の知覚に方面露れず、是時十方法界の土地草木しょう(薔のくさかんむりをへんにする)壁瓦礫皆仏事を作すを以て、其起こす所の風水の利益に預る輩、皆甚妙不可思議の仏化に冥資せられて親き悟りを顕す、是れを無為の功徳とす、是れを無作の功徳とす、是れ発菩提真なり。
 まったくこのとおりなんです、言い種屁理屈やってないで参禅です、人みなこのとおりになって下さい。長者窮子のたとえ、なんにもないものが我が物になるとは、天上天下唯我独尊です、他にはまったくないんです。
 引導をわたす時に、位大覚に同うし己る、真に是れ諸仏の子なりと云って、血脈を授ける、釈迦牟尼仏明星一見の事、摩か(言に可)迦葉ねん(てへんに占)華微笑、阿難倒折刹竿著以来我れに至る八十六世、我れ生前の如来汝に授く、汝仏身に至るまで、この事よく頂戴護持したてまつるべし。
 そのありようは、諸仏の常に此中に住持たる、各々の方面に知覚をのこさずと、死んで死んで死にきって思いのままにするわざぞよき、甚妙不可思議の仏化に冥資せられて下さい。理屈は単純です、禅という単を示す、かえりみる己がないんです、たった一つはゼロです、ゼロを見ていりゃ二心です、無心とは心の無いこと、これを知る忘我、意識はあろうとなかろうとです。
 親き悟りを顕すとは、悟っていることをまったく知らんのです。無為の功徳です、無作の功徳です、ものみなあげて仏に奉じて下さい、これ発菩提心です。
菩提心を発すというは、己れ未だ度らざる前に一切衆生を度さんと発願し営むなり、設ひ出家にもあれ、設ひ在家にもあれ、或いは天上にもあれ、或いは人間にもあれ、苦にありというとも、楽にありというとも、早く自未得度先度他の心を発すべし。

2010年12月23日 08:20 せっちゃん ショートショート・半玉
 飯食おうと思ったらまだってーから、そんじゃあってごみ燃やし行った、冬雲が乱れ飛んで風がある、紙くず勢いよく燃える、出家前もよく反古燃やしたな、わしはてんから進歩せん。
 このごろは消防がうるさい、お墓でわんさか落葉燃したら、すっ飛んで来て血相変えて怒鳴る、
「お寺は何百年来こーして来たんです。」
 かーちゃんが見幕したら引き下がる。下界は大風、お墓は山に囲まれて無風、えーと見解の相違だ。焼却炉買えっていう、さっそく業者が現れて、お寺は五0万円のが格好だ、一00万出せば犬猫だって燃やせるって、耐用年数聞いたら五年だってさ、あほくさ止めた、とっつかまったらわし豚箱行くって追っ払った。その後こねーかな、いやさ消防がさ。
いにしへの人に我れありや白鳥の越しの田浦に春の火を燃す
 春先大風が吹いて、物置の屋根が吹っ飛んだ、戊辰の役のあと建てたバラックだ、寺に来たばかりで諸事逼塞、うまいことやって山の土と物交で業者に建てさせた、そうさなあいいかげんすったもんだ。
 まだ雪のある土手腹に燃した、物置一つ分よー燃えたな。
白鳥のめぐらひ帰るしかすがに越しの春野を燃ゆる火もがも
 一段落したら教え子だったのが来て、目の色変えてそこらさがしまわる、なんだって聞いたら刀鍛冶ですってさ、数学零点の男が鍛冶屋になった、なりだけはでかい、明治の三角釘がいい鋼で、日本刀にはもってこい、なーるほど、残念ながら車パンクするで掃除しちまった。
 新刀は高くっても百万円止まり、古刀で人を切ってねーやつなら最近四千五百万てのあった。なにがそんなに違うんだ、やっぱり材料かな。そーではないって研究して答えは出ている、精密にさ。むしろむかしの方がおおざっぱで出鱈目だ。わっはっは坐禅と同じだな、屁理屈てめえふりかえってばっかしで、刀打つのに刀打つことしねーんだ。
「ふんであいつ稼げねーから、何回か雇ってやったけど、えっへっへ。」
 働きわりーやってフランス旦那。旦那は地滑りの測量して、あのころはしっかり飯食っていた。新潟市に港を寄付したっていう名門の出で、
「晋山式やるで古町芸者上げてくれ。」
「そりゃむかしの話だ。」
「祇園の舞妓はんよりえーぜ、半玉さん。」
「だよなー。」
 新刀一本でなんとかって、あほ。

2010年12月24日 06:41 せっちゃん しょーとしょーと・うわばみ
八郎のいにしへ知るや雀らや早稲の田浦は刈らむとすらむ
 中学のころ秋田市にいて、八郎潟は琵琶湖の次に大きな湖だった、行ってはみなかったが、魚屋に水槽があって、化け物のような大うなぎが三匹いた、八郎潟のうなぎだった。田んぼがいらなくなってから強引に干拓したんだ、何でそーゆーことをするかってえとさっぱりわからん。今でもけっこう広く鯉がわんさかいた、大物が釣れるといって全国から来る、釣ってみた、半日眺め暮らした、わっはっはあっちこっちで跳ねていた。
じょんがらの津軽三味線見よやこれ飲めや歌へや雪に寝ねやれ
吹き溜まりバーとは云はむ底無しやロートレックの風にしも聞け
 秋田の雪は横に降る、ケットにくるまっておっかさども上手に歩いていたな、わだちあとでスケートしたり、秋田犬に橇引かせて遊んだりした。津軽に冬尋ねたのは山上進という三味線引きに会うためだった、みごとすっぽかされて民謡酒場で酒飲んだかな、山上進はおわびのしるしだって、お寺のために作曲してくれた。それからへんなバーへ行っておかしなバッハ聞かされた。
 秋田の土崎にはエチオピア料理があって、マダムは絶世の美人だった、皇室に限りなく近いという、さすがスフィンクスのお国柄、だれかれのぼせ上がって、わしもさおれに気があるんだって。離婚してまたよりを戻して店はどっかへ引っ越した。
みちのくは飛天になりて鳴り響み見れども飽かぬ月を廻らへ
 飛天もいーけどさ、八郎になって天駆けるか、八郎伝説は、沼という沼にあるみたいな、田沢湖は坊主もからんで竜子姫だの、くにますの住んでいたころは若しや不気味な湖だったんだ、深いことも深いし。
 男鹿半島には、すけべななまはげたたっこむ池あるしな、火山で出来たんな、海へ半分出たのもあってまんまるー。
珍しみ咲ける花草いくへありし渦潮巻ける竜飛岬に
身のたけは丈に白髪になんなんに魚釣り暮らせ竜飛岬を
 みちのくの夢は龍かうわばみになってのし歩く、ちんけな歌作ってる場合じゃねーや。

2010年12月25日 07:01 せっちゃん ショートショート・くにます
 世の中の女どもってのはすげーな、春結婚するから処女を奪ってくれなと、ふーんあほか、三人四人男をとっかえて結婚ってそりゃいーけど、うーんなんかむかしもんにゃよーもわからん、息子としてるのがいたりよったくって乱交パーティだの、3Pだの彼氏代理だの、うっひーわしの出る幕ねーな。
 雪が降って来た、岩船のあたり波浪警報が出た、海水温が高いからすざまじいことになる。電車丸ごと持ち上げる竜巻とか、そりゃもー出合ったら人生おしまい。羽越線の雪景色はワンダーフルさな、荒波にかもめが飛んで塩の花、トンネルをくぐって抜け出でて、女どもがセックス狂いは、自然の美しさに触れあえぬから、自然を美しいと知るのは男だ、戦争に行くしか能のない男は、自然の絶唱を見る。今の男は、女か男かわからないけつ振って歩いてらーな。わっはっは戦争に行くのは女で、男は銃後の守りか。よってもって自然はぶっこわれコンクリートジャングル、女はセックス一辺倒の、風も吹かねば出口なし、淋しさには耐えられない、男は草食人間になって、女も男もどーでもひとりぼっちかな、犯罪だけが増えるか。
 あいまいなひげ面囲んでよったくってお茶濁すか。借金大国は議論しかできねーのさ。
 ドストエフスキーを持ち出す人っているな、小説なんか読むのいねーけど、地下室の手記っての一八のころ読んで、コペルニクス的転回だった、うしろめたく人には云えないのが表向きになる、そんなふうでコース踏み外したかな。 ピカソの青の時代という、これはそっくり絵になる。卵の中で、すべすべした青い壁に閉ざされて、一人でも夫婦でも子供つれでも同じだ、空気が不足する、飛び出せ、殻をぶち破って。まさにそーゆー絵がある、すざまじいものだ、アルルカンの実存主義、外に出たって空気はない。
 ラスコールニコフの殺人と、今のわけのわからん無差別殺人と、どこが似ているかいって、そりゃ人間のやることは同じだって云えば同じだ。
 生活空間がない、内爆発か発狂するか。
 すでに人間を失い去っている、なぜだ、
 嘘とはったりと空威張りはは坊主だが、ぜにかねと世間体のほかには空洞。
 よったくって右往左往きりだな、もぐら穴を掘ることも不可能。
 クニマスを発見した魚君は女だな。
 お声をかけられた陛下はー

2010年12月26日 08:19 せっちゃん ショートショート・滝桜
 朝っぱらからひでー下痢して参ったなあ、水のように出る、何回トイレ通ったか、おまけに猛吹雪で寒いし、こりゃ来春まで命あぶねーかな、思い残すことはないし、まだ大法も伝えてねーし、せっかく切り開いた和歌の道も絶えてしまうなあ、まいーかわっしの知ったこんじゃねーと。
願はくは花のもとにて春死なむそのきさらぎの望月のころ
 きさらぎはまだ雪掻き列車だ、四月にならんと花は咲かねーな、ホームレス野垂れ死にも吹雪きん中じゃどーもさ、凍死ってのは安楽行品だってえ話だがな。ロシア兵にさんざんなめにあって、その上シベリア抑留という、戦争に負けたら泣き寝入りのほかねーのか、北朝鮮のミサイルも中国漁民の横暴も、耐えしのぶってつまらねえ。わしなんざまったく幸せだ、今んとこ飯食えている、飲んで食って坐って、あとはほっとけ仏、下痢したって医者に行く気はねーんだな。
梅に桃三春の花と聞こえてぞ尋ね会津に雪は降りしく
 三春の滝桜をテレビで見て、そんでは行こうってすっ飛んだら、会津磐梯山は吹雪、やけに遠くって郡山の向こうだ、三分咲きといって駐車料金取られて、買ってけ屋台ずらっと並んで、うへえおしまい。
 次の年思いついて役場に電話したら、今がまっさかりという、美緒ちゃんと利恵ちゃんと三人で行く、道中のすけべ話が面白かった。にべもないのにべってどーゆーこった、なんとかっていうタレント男子校へ入ったら、全寮制でニベア持って来いって先輩が云うんだって、ニベアたっぷり塗ってそーして、タレント魂消て逃げ出した、ニベもないってなーるほど。
 利恵ちゃんはどっかへケータイ置き忘れて大騒ぎ、まぬけだからいつでもって嘆く、ケータイあって連絡ついた。そのあと味噌をつけたってのはどーの、MとSはもと同じこったてんやわんや。車が止まる、なんだ事故か、ちがう四キロ先から渋滞だ。田んぼわきに車おっぱなして歩く。滝桜の孫や子が成長してもって、一村花の渦、四キロ歩いたってわっはっはまーいーか、これ歩けそっち行くなひっぱたいて行進、女どもがSしたら生きてらんねかったか。
 滝桜は樹齢千年の、丘の上に八方に伸ばして、三千世界花の命ってふうの。なんともすばらしーやな。
 生きていたら今年はうすずみ桜を見に行こう。

2010年12月27日 08:37 せっちゃん ショートショート・萩
ゆずり葉を取ってきて松を切ってきてはーて正月って、かーちゃん省エネで餅は餅屋になったし、今年も六万払った車屋が大王松を持ってくる、わしは大掃除さぼって目下のところ腹下し、さーてさて年なんて取らなくっていーから、盆暮れ消えれ。てっちゃんが健康第一の嫁さん貰えば、来年からは正月は温泉でふわーい欠伸、きしょーめ待てば回路の日よりかな雪降ってら。
獄門の露と消えたる松陰の今しこの世を何変はらずや
 萩に松陰神社というのがあって、神社の境内に生家や松下村塾も移してある、小さなお蔵が博物館だ、なんでも忘れてしまうわしだが、松陰のみみずぬったくったような書だけは覚えている、我田引水わが党の士だなあってわけのさ。
 人を誉める天才は実に教育そのものであったか、坐禅をしない禅宗坊主に、議論だけの政治家に、教育なんてよりタレントまがい女の子に抱きつく先生に、学校ごっこのあほたれ教授に、男だか女だか不明の一般人や、うはっはそりゃきりもねーわな。
いにしへゆ朝日射しこも松や松涙溢れてて過ぎがてにせむ
 萩は北門屋敷という豪華ホテルに泊まった、一泊三万円、皇太子殿下のお泊りになった部屋は七万円、どーだわしだってそーゆーとこ泊まるんだぞ。そーさなあ萩焼きが並んでこんなもなわからん、かーちゃんにそっくりの茶碗買って、お土産買って、立ち寄った骨董屋のおやじが、こりゃあ目利きだってんで人を盗み見るうっふあほか。
 あとは自転車を乗り回す、ほんに萩はいーところだ、あっちこっち見学して高杉晋作の家とかえーと、お蔵喫茶で昼飯食べて、覚えているのはお寺さん食えねーなってぐらい、数が多すぎる。
 笠島椿を見た、まだ咲き残っていた、何万本という椿の原生林、八百比丘尼が植えて歩いて、北限は青森の野辺地にある、これも花のさかりを見たな。
 猫がいた、捨て猫だな、じっさが釣りしていた、南の海はぬるんで緑色、かさごが釣れた。新潟へ帰るにつれて青ずむ。
津和野にはつらつら椿めぐらひに熱海の梅を今月今夜
 なぜか熱海へ行ったら思い出す、一月十七日梅の満開を大雪。

2010年12月28日 14:43 せっちゃん ショートショート・蕎麦
 年越し蕎麦ってーの冷たーい思いして食ったっけが、海苔してあれうんめかったかな。わしんとこはそーゆー習慣なかったな。学生のころふーらり戸隠に行って、中社の神主の坊に五00円で泊まった、風呂もあったし、お客さん蕎麦にしますかご飯にしますか、蕎麦だったら馬の食うほど出た、大笊に山盛りくそーおれも男だ、がんばって必死こいて半分は残す。お水取りの百姓連中が泊まる、なまくら学生じゃ太刀打ちできんな、そば粉の香りふくいくたるって、うんまい蕎麦だった、今のはもっと洗練されている。
 生臭坊主になってまじめーな先生を鯉釣りに誘い込んだ、先生お礼に蕎麦をおごるという、小千谷蕎麦の老舗に入って、さしむかい座る、なんにします、ふーん花へぎそばってある、あれにした、へーいって出て来たのが海苔をかぶった九人前。小千谷蕎麦はつなぎの自然薯が鼻につくってのもいて、でもこりゃうまかった、とうとうぜんぶ平らげた。先生は二人前、わしは七人前。
 そばとうどんとで喧嘩になって、死人が出たって新聞記事あったが、そのころのわしは完全蕎麦党だった。
 蕎麦がやけに高くなって、うめーとも思えねーのが一五00円からって、つまんねー止めた、そうは無茶食い出来なくなったんだな。雲水はお櫃空にするのが礼儀で、えいっと腹ゆするとぽかっと空いてまた入った。寒行托鉢して、ご馳走みんな食ってとくり一本ついてわっはっは。
 馬の食うほど出したって施主家が嘆いたら、なんで比丘の食うほど出さなかったんだってさ。
 しまいに食った絶品は、入広瀬の名物じっさ蕎麦だった、もう少し食いてーったら四人前平らげていた。
 入広瀬の民宿とらさくは閉店した。嫁なしの主が巫女さん貰って、仲良くきのこ栽培したり、林業したりしていたが、ついに長岡へ出て来た。冬はかもしか拾って来て食っていたが、つまり落っこちているわけだ。
「あいつは口の軽いのにはやれねえ。」
 と云って、ついに貰えずじまい。
 入広瀬はやたら開発して不毛の地になった。中国人嫁貰おうとして、中国女ただでやってきて東京駅でどろんする、そりゃ桂林には美人がいた、背がすらっと高くってだとさ、ふーん。

2010年12月29日 08:15 せっちゃん ショートショート・眼蔵
諸法の仏法なる時節、すなはち迷悟あり、修行あり、生あり死あり、諸仏あり衆生あり。万法とともにわれにあらざる時節、まどひなくさとりなく、諸仏なく衆生なく、生なく滅なし。仏道もとより豊倹より跳出せるゆえに、生滅あり、迷悟あり、生仏あり。しかもかくのごとくなりといへども、華は愛惜にちり、草は棄嫌におふるのみなり。
自己をはこびて万法を修証するを迷とす、万法すすみて自己を修証するはさとりなり。迷を大悟するは諸仏なり。悟に大迷なるは衆生なり。さらに悟上に得悟する漢あり。諸仏のまさしく諸仏なるときは、自己は諸仏なりと覚知することをもちいず、しかあれども証仏なり、仏を証しもて行く。
身心を挙して色を見取し、身心を挙して声を聴取するに、したしく会取すれども、かがみにかげをやどすがごとくにあらず、水と月のごとくにあらず、一方を証するときは一方はくらし。
仏道を習ふといふは、自己をならふなり、自己をならふといふは、自己をわするるなり。自己をわするるといふは、万法に証せらるるなり、万法に証せらるるといふは、自己の身心、および侘己の身心をして脱落せしむるなり、悟せき(しんにゅうに亦)の休かつ(喝の口をとって欠)なるあり、休かつなる悟せきを長長出ならしむ。
人はじめて法をもとむるとき、はるかに法の辺際を離却せり。法すでにおのれに正伝するとき、すみやかに本分人なり。
人の悟をうる、水に月のやどるがごとし、月ぬれず、水やぶれず。ひろくおほき光にてあれど、尺寸の水にやどり、全月も弥天も、くさの露にもやどり、一滴の水にもやどる。悟の人をやぶらざること、月の水をうがたざるがごとし。人の悟をけい(四に圭)げ(石に疑)せざること、滴露の天月をけいげせざるがごとし。
・証という字は言に登だったです。

2010年12月30日 08:41 せっちゃん ショートショート・阿賀
 西会津のあたりに実川という急流がある、飯豊山から流れて来る、こりゃ釣れそうだってんで山路辿ったら、谷が深くって入れない、川を遡るには命がやばい、対岸には道があった、未舗装のなにしろ行ったがこれも川には入れない。杉の林があった、お粗末な立て札に朱字で五十嵐の家と書いてある、杉の林の中に何軒か民家があった、平家の落人部落かな、それにしても由緒あるって、貧乏屋敷洗濯物下がったり、なんか引けるな、水場があったんで竿振ったら岩魚が一匹いた。
 上流はふつうの谷であった、釣り人がのっそり歩いていた。
 次の年大工事をしていた、五十嵐の家観光開発かこりゃもーだめだって、
実川の春いや深み散りしける花の軒辺を言問ひがたし
 花なんかまったくなかった。花のあるのはもう一本向こうの奥川だ、理想郷だと吹聴して、ほんにさ人里離れたいい感じだったが、川は釣り荒れて岩魚もなーんもいなかった。
 とっつきは熱塩加納線という道で、いわなもいたし寝ていて取れるほどきのこが生えた、峠には家が四軒あって二軒は廃屋、それががけくずれで不通になった、何百というみやまからすあげはが水を吸いに来る、やまどりの一年子が行列を作って歩く、自然は賛嘆すべき豊饒さ、三年たったらコンクリートの道になった。
 仙見川も夢のような川だった、早出水系のこのあたりだやまびるがいる、どんなに支度して行ってもはいこんでいる、高校の生物の先生が云っていた。先生は一000種の植物を識別する、
「それから五つ増やすと五つ抜ける、わたしの限界ですか。」
 庭の草の名前教えてもらって、次ぎの日にはけろり忘れた。
 やまめがわんさかいて、三年たつと一匹もいない、てんぐちょうの群れ飛ぶ岸は開発されて死ぬ。
杉原の仙見の川に橋かけてなんに鳴き止むやまほととぎす
 うるさいほどに終日ほととぎすが鳴いていたんだ。
 なつかしい川も山も消える。
 人もそりゃ消えるほかないのに、ごきぶりと人間だけは生き残るとさ。セックスしかねえ女と議論だけの政治家とな。
 ただ飲み川と云われた只見川、まずは田子倉ダムを破壊して、わっはっはがーやん大渦に飲まれ、柳津から阿賀のダムというダムをぶっこわし、真っ黒になって鱒が遡った清流阿賀野川にしよう、わしの夢はこれ。

2010年12月31日 08:10 せっちゃん ショートショート・覚えない
 先生は高校で生物を教えていて、草や木は一千種も覚えている、少し増やしてやろうてんで、しだとくさの類に挑戦したら、三つ覚えると三つ忘れるそうで、自分の脳味噌タンクは一千が限度だと云った、ちょうちょは250も覚えりゃ頂上だが、草や木はそんなわけにはゆかぬ、おまけに無限化序だの有限花序だのなんのとめんどくさい。先生はわしに庭中の草を教えた、面白い逸話もあって、えーとそーずかばばっての他は忘れ、次の日だれか来た、説明しようと思ったら一つも出て来ない。ぎえーこりゃなんだ、恐竜の名前だってトリケラトプスにステゴザウルスにえーと、なんだっけかさ覚えたってのに。春先弥彦山に登った、固有種もあるそうで、可憐な花草があって、道つど教えられてうーんなんしろ
「ほへーえ。」
 って、下に下りたら忘れていた、おまけにわしは顎出して一人だけケーブルで着地。ファルスタッフとはわしのことかとだれか云い。人もよう覚えねーし、名と面とがちぐはぐ、がきのころからだったか、二人似ているの取り違える、人が云うにはさっぱり似てないってさ、小六のころ恋人間違えて、
「え? 」
「どーいうこと。」
 って、はーておっほん。
 ぜーんぜん間違えねーのもいた、授業中にほらってスカートまくる、パンツはいてない、なんだ産毛の生えた? ふわーって云ったらだめよ怒られ。おっぱいふくらんだ子いて、痛いんだろったら、叩いてみて痛くないってーから、どん、
「うーっ。」
 たら、えらいことになった。二人今でもよく覚えてるたって、しわくちゃばーさ覚えてるわけねーがな。
 駒場寮は西式健康法の冷水浴もある共同風呂で、同室の朝倉が髭剃って面みがいている、なんだおめーいくらいじったって不細工治らないよったら、赤の他人だった、よー見てもよーわからん、わっはあなにしろ謝るよりなく。
 この風呂で遷ったみずむしが未だに梅雨どきには出る。
 かさぶたみたな斑が出て、天呑が良性の皮膚癌だと云った、あいつちゃっかり僧堂歴二年にして、立職法戦式にはかーちゃん連れて来た。
「ふんなん見たことねえ。」
 って兄弟子の穴井がむくれる、美緒ちゃん満艦飾も、式にふさわしくねえって却下、パンクチュアルなんだ、美緒ちゃんいかしてたのに。坊主なぞどーでもいーってのにさ。
 皮膚癌てかびの一種かな、きのこ取りのむくいなんかな。


2019年06月02日