ショートショート12
2011年03月01日 20:15 せっちゃん ショートショート・雪消え
きつつきの穿てるあたり降り降りてまふら淋しも軒伝ひ行く
軒伝い歩くとは雪にすっぽり、屋根から下ろしたのが屋根よりも高く、閉じ込められて一歩出られん、日んがな軒を廻り歩く。ブルが来てそーゆーこともなくなったが、今年は久しぶりに大雪でもって、本堂の下を行ったり来たり。きつつきは青げらでまあ美しいんだやら、三羽も来りゃ本堂も庫裏も穴だらけ。
きつつきも庵は破らず夏木立
どっかに行い清ます坊主がいて、これは芭蕉の句。えーわしはなんせ聖人だってーのに、どんどんかっか穴だらけ、穴から入ったのをとっつかまえて、五十嵐川へおっぱなしに行く、ちえわしより早く帰って来てら。
唐松は堂を破りしきつつきのつがいにあらむ春の燭台
燭台の飾りみたいに、つがいが左右に停まる、予防措置取ったんけど、どーやら一つがい巣食っている、朝夕どんかつやってるな。
向こうもこっち見ると、きききって逃げて行きゃーがる。雪消えにはだれが見えて、けものや鳥や大入道や女の顔になったり、見飽きぬ千変万化、子供の描くような、落葉が目になったり、枯れ枝が口になったり。
この鳥や百舌鳥に追はれて大崎の雪の田原に何を見むとや
でっかいくせに大人しい鳥がいて、百舌鳥に追いたてられて木のてっぺん、百舌鳥は猛禽だなあいつ、人まねしてホーホケキョもホッキョカケタカもさ鳴く、百舌と云われる所以、蛙つっ刺して忘れちまうのを百舌鳥の早犠、冬も一羽きりで来る。
風吹けば散らへる雪のむたにしてあはあは行かめこれの日長を
吹雪してみたり、毎日降っていたり、三月に雪はうんざり、彼岸に法要があって、駐車場作りに雪をかき寄せてさ、今はでかいのあるしブルが来る。
ふーん痛んだ参道を修理に、なぬ600万かかるって、止めてくれ、こうのとりじゃねー青鷺め宝くじくわえてこい、冬中池の魚つっついてるじゃねーか。
2011年03月02日 19:57 せっちゃん ショートショート・捨て猫
君見ずやしの降る雪の木の間よもなんのものかはたはぶれ遊ぶ
兎でもなしたぬきでもなし、なんだったんだろーなあれは、雪消えにはりすが来てお墓で遊ぶ、春は楽しそーだな。はくびしんの子が本堂に巣食って、位牌のドミノ倒しに出会ってぶったまげて逃げた、どーしてるんかなあいつ。竹やぶの裏にくされみかんとかりんご置くとなくなっている、ねずみかな。
滝の門のまふらまふらに降りしけば押し照る月は堂のしとみも
雪が降ってどーやら満月で扉のあたり明るい、梅が咲くのはもーじきだのに、まんさくもまだ見えない、お寺の山のまんさくを貰いに来たじっさは、九六まで生きて死んだ。中じっさが首くくって死んだ、酒を絶って六日目だった、酒絶ちするのは一人じゃ止めたがいいってさ、首くくった人もー一人知っている、母親が目はなしたすきに死んだ。中じっさは中学の試験受かって、どん百姓が行くとこじゃねええって止めさせられた、もう一人は外交官コースへ入って、へんなのにひっかかって頭狂った、坊主がなんで釣りするって怒鳴られたっけな、中じっさには酔っ払ってきんたま握られたっけ。
アル中治すクリニック出たり入ったりが多いって、ぴったり止めて100まで生きたじっさが云っていた、ついに一滴も飲まなかった、一滴飲んだらおしまいだってさ。
麻薬や煙草や覚せい剤やのアル中が一番始末が悪いってさ、アル中映画あったな壮烈なやつが、花と酒の日々だっけか。
信濃河夕荒れ吹雪止みぬれば帰らふ鳥の姿さへ見ず
地荒れ吹雪は二月、ぶわーっと吹いてホワイトアウト、どえらいめに会ったけど、信濃河も夕方押し上げて来たな、ほんに鳥一匹いない。冬でも釣れるとこがあって、矢島が釣り上げてわしは逃げられ、下水がそのまま入る、あったかいから鯉が寄る、五月に行くと何十という大小が逃げる、うーんこやつを一網打尽、でかいのは一メートルもあったか。なんでこんな話だ。
信濃河夕荒れ吹雪止みぬれば田井に安らふ社の木立も
猫捨てに行ったっけな、お妙のやつがなんたって拾って来ちまうんだ。
2011年03月03日 20:20 せっちゃん ショートショート・剃刀
たけのこ大好き人間なのに雪降って孟宗全滅、びっしり折れてらあ、こんなに降るとは思わなかった、竹になるまぎわにゆさぶって先を落とすと雪折れしない、大雪降らずなってずーっと怠っていた。
折れたろーがおかまいなしたけのこは生える、一年おきに当たり年とそーでないのと繰り返す、出ない年でもてめえ食う分事欠かぬ。
山口県の防府に先輩がいて、表敬訪問した時に、どでっかいたけのこを掘って食ったら、えらいうまかった、南国のは違う、やわらかくって甘くって、お寺のはいわゆる青竹ってので、いごくって上物ではない。
古墳つき蜜柑畑を受け継いで先輩なれはやもめに暮らす
かーちゃんに先立たれて、三人の息子も嫁なしでどーして暮らすって、息子が自転車買ってくれて、日本中ツーリングして歩いてる、
「登り下り平気で道路作りやがって。」
ぼやくにはとんだ秀才で、兄貴は東大教授だった、自分は大会社五十で企画室長になった、出社したらデスクがあるっきり、つまりお払い箱かな、秀才頭は人を使いえなかった、企画室を大いに興せばよかったんかな。
同窓はいっとき付き合ったが、面白いのは死んじまったし、坐ろーってのもいねーし、たいていそれっきりになった。
冬でもひげは伸びるし、むさい頭剃ろうって、すぐお湯が出るからいーやな、むかし作法で水で濡らして剃刀研いは手間がかかる、自分の頭自分で剃ったらいかん、弟子がつかんてんだが、もう何十年てめえで剃る、弟子もてっちゃんんも同じだ。シックという便利なのあって剃ってたら、一枚刃がなくなって二枚、三枚刃になった、頭剃れない、かーちゃんが店行って聞いたら、一枚刃のストックあるという、あっちこっち買い集めて十年分ぐらいあっかな。ポットもだけど会社の勝手てのかなわねーな。
西洋剃刀を研いで一人頭剃るのはいーかげん芸当だったな、本山雲水のとき、老僧が剃ってくれって来て、刃は切れねーどーにもぞりぞりって、あっはっは。禿げ頭のほうが難しいんだってばさ、くそ。
尼さん頭とうとう剃らなかったな、待てよこれからあっかも。
2011年03月07日 16:49 せっちゃん しょーとしょーと・花見
廃業する坊主に破産するお寺にてんやわんやだってさ、そりゃ当たり前だこれだけ長い間さ、達磨さんに毒を盛り、道元禅師に後足で泥をぶっかけして、お釈迦さまの名を騙って勝手放題、坊主の好きなのは女に車にぜにかねの、死出虫稼業の嘘とはったり、こーんなのむかしに滅んでしかるべき。
ろくでもねーったら人間の格好したのいない、禅宗が坐禅忌み嫌うという、わけのわからんへーんなの。
食えなくなってようやく、わしらが悪うござーましたとさ、わっは笑っちまうぜ、食えなくならんのは、ありがたやーの御授戒だやってらーさ。
坊主本来世の為人の為って、出家もできねー本来心など爪から先もねーの。
なことは云わずにいたけど、テレビで大ぴらにやってら。
空威張りらごら坊主の世は終へて割りを食うたか月見に一杯
これから先どーなるって、一から出直しさーな、托鉢良寛行か、何人かいりゃ祇園精舎の復活しかな。
そりゃ到底無理だ。
自閉症のよったくって、坊主が坊主を食い物にしている宗門。
わしんとこに仏教はかつかつ残っている、これを相続出来なけりゃおしまい。
宗門は絶えはてようが仏も仏教も滅びない、飯田とう陰老師ではないが、一人で復興するには大力量がいる、なんとかはしたいと切に思うが、なんせ非力のぐーたら、若しやこれ以上なんて無理か。
雪が消えたら花見だ、どこへ行こう楽しみだな。
願はくは花のもとにて春死なむそのきさらぎの望月のころ
西行法師はたいてい仏教とは無縁だが、あんなにすんばらしいやつもいなかった。
心なき身にも哀れは知られけれ鴫立つ沢の秋の夕暮れ
わしも歌人のはしくれさーな、わっはっはてめえ本尊心行くしてあばよ。
2011年03月08日 20:06 せっちゃん ショートショート・けだもの
鼻の長いみどりの東北新幹線、発売一0分で売り切れだとさ、日本人て金あるんだ、借金大国のくせしにさ。グランなんとかは二万六千円、往復でえーと五万以上、弘前公園の桜見て、角館の武家屋敷見て、男鹿半島のなまはげじゃねー鯛食って、ひないどり丼食ってきりたんぽにえーと、一泊二泊すっと二十万かな? 札幌行くカシオペア乗って新婚旅行もえーな、この際かーちゃん留守番で拾ったおねーちゃんとルンルン、乗り物の豪華ってのは、船がサイコーだけんどさ、クイーンエリザベスだあ、毎日パーティにダンスにカジノにプールで泳いでって、どこ面白いんだあほくさ。
わしら夕方八時に出てラーメン屋で晩飯食って、夜っぴで三交代で運転、雨に西施が合歓の花の象潟で一服、明け方六時には青森に着く、冥土の土産の貧乏旅行、へーいけっこーいけるのだ。
テレビつけたら列車のこと、
「けだもの。」
と云う、メキシコほんじぇらすの子が、アメリカへ出稼ぎの親訪ねて、何千キロして砂漠をわたって越境。聞いてもいられん、
「けだもの。」
というのは貨物列車のただ乗りだ、居眠りしたら振り落とされる、トンネルにぶちあたって落っこちる、警察につかまって有り金むしり取られたり、14の女の子や17の子や、貨車に穴が開いていて、母と娘と一九人の男に強姦されるのを見た、もーなーんももやになって移民局に出頭した、施設に入って、一歩も外には出られ強制送還も、帰って来てもいどころがない、またアメリカへっていう。
こんなことってー絶句、
そりゃもーそこいらじゅうの子がこんなことなんだ。
五%の贅沢仕放題のために世界中飢える。あー神様ってあほらしーこりゃもー仏教も何もねーや。北朝鮮に目つむってささやかな幸せをって、ふーん昆虫になったほうがよっぽどいーか。
なんかいーことねーかって、坐るしか知らんな。
2011年03月09日 15:45 せっちゃん ショートショート・童謡
ライアーにフルートいじる人いるから童謡に歌付けて貰おう。
月の光になって、波になって、リヨンのバイオリン弾きが、あたしの目を奪って行った、ドールーラララ、ドールーラ。
花になって、嵐になって、リヨンのバイオリン弾きが、あたしの耳を奪って行った、ドールーラララ、ドールーラ。
雲になって、青葉になって、リヨンのバイオリン弾きが、あたしの足を奪って行った。ドールーラララ、ドールーラ。
吹雪になって、氷になって、リヨンのバイオリン弾きが、あたしの心を奪って行った、ドールーラララ、ドールーラ。
だからあたしはお化けなの、どこへ行ってもがらんどう、窓を開ければ、くもの巣が、ドールーラララ、ドールーラ。
花の子守唄ってのは一番しか思い出せないな、明美ちゃんの作ってくれたブログにあったか、金のお椀に月を盛り、銀のお椀に雪を盛り、ねんころろーん、ねんころろん。てのさ、速い流れに帯を投げ、おそい流れに毬を投げ、ねんころろーん、ねんころろん。
花の咲くや姫。
春はな、ピートロ。さーやさやさや散る花の、花の咲くや姫さま、ほ。ドンガラピー。お好きなよーじゃて、ほ。とって日は上る。
川んどじょうもにょろりと行けば、池んかえるもげーろと鳴くで。
春はな、ピートロと続く、とって月が出たから、かってにつける。
夏がきたってのは歌にゃならんかな。
一つひなたの一輪草、二つ古寺梅の花、三つ三日月杉の森、四つよんがら鳴く蛙、五つ井上さくら花、六つ村々鎮守様、七つ中下青田んぼ、八つやしろの松の風、九つこうやのほととぎす、十でとうとう夏が来た。
童謡を作っているときが、そりゃやっぱり一番楽しかったな。
みそっちょみそっちょみそさざい、味噌樽はまって味噌あばた。
2011年03月10日 13:00 せっちゃん ショートショート・はたすすき
みそっちょみそっちょ味噌樽はまって味噌あばた。あっちへ行ったこっちへ行った花嫁修業。なあにが欲しい箪笥長持ち花の帯。ひいふうみいよう指折り数え。ひいふうみいよう寿命はいくつ。向こうのすみへ娘を埋めた、月夜の晩にふーらり出るぞ。西へ行ったら道祖神。東へ行ったらさいの神。みそっちょなんぼなる十三七つ、しばっこくぐってもー一つ。とんびのまねしてピートロ鳴いて、田んぼにはまってたにしになった。
うははこりゃ面白いや。
むかごがね、ぷーらりなって、うさぎが食って、一つ食ったら目が真っ赤、二つ食ったら耳がにょっきり、三つ食ったらぴょーんと跳ねて、ささやぶ行って、山行って、雪はどんさか、お寺の屋根のてっぺんだ、お月さん今晩は、お月さんお餅つき、ぺったんこの金色臼。
はたすすき
だれが呼ぶのか、乱れ雲、月は三日月、流行り歌。浮き名を奥の、夜は明けて、はたやほーたら、はたすすき。
見果てぬ夢を、はたすすき。
賽の河原の、もがり笛、吹雪きの底を、流行り歌。なんの杭かや、みをつくし、はたやほーたら、はたすすき。
見果てぬ夢を、はたすすき。
茂みの夏に、霜を置く、からくれないの、流行り歌。行きて帰らぬ、最上川、はたやほーたら、はたすすき。
見果てぬ夢を、はたすすき。
梅に咲くさへ、鳴る神の、よるべもなしに、流行り歌。艪を漕ぎ分けて、うぐひすの、はたやほーたら、はたすすき。
見果てぬ夢を、はたすすき。
ちえこんな歌じゃ流行りっこねーか、待てよーあほ止めとけ。
2011年03月11日 11:09 せっちゃん ショートショート・大漁歌
大漁祭り歌
百合あへ浜に潮満つ、船はおんどろ寄せ太鼓、旗は大漁祭り歌、男は伊那の八丁艪。
泳ぎわたったさお鹿の、角館岩に日が上る、泡立ち行くか渦潮の、なめりの底に虹をかけ。
彼の美はしの平らの地、久島の王に使者を立て、八幡太郎義家は、弓矢にか「伊那の鳴門をおししずめ、八十島かけて明け渡せ。」「弓の穢れに果てんには、久島をともに海の底。」
久島の王は猛り狂って、使者を嵐に飲み込んだ、角館岩に日は沈み、鳥も通はぬ平らの地。
さても使いの若者は、嵐の海に漂い流れ、もがいの浜に息も絶え、海のもくずを選り分けて。
一つ命を救うには、三日三晩を添い寝して、久島の王の愛娘、百合あへ姫と名を告げた。
秋風吹いてさお鹿の、尻声悲し坂東武者は、使いの役を果たさんと、もがいの浜を後にした。
十月十日の月満ちて、百合あへ姫は身を二つ、彼の美はしの平らの地、子はその父に生き写し。
鳴門の渦に生い育ち、いるかを友の若者が、隠し持ったる宝物、忘れ形見の小さ刀を。
「死んではおらぬ父親は。」「会ってはならぬ世の定め。」下帯一つに小さ刀と、その渦潮をおしわたる。
父に会うだに束の間の、坂東武者の軍勢は、角館岩の潮を廻り、八十島かけて血に染まる。
弓矢の穢れを平らの地、久島の王は破れ果て、百合あへ姫は波のむた、子の魂は虚空のはて。
船はおんどろ寄せ太鼓、百合あへ浜に潮満ち、鳴門の海に旗を立て、さても大漁祭り歌。
今宵十五夜満月の、男は伊那の八丁艪、神さびわたるさお鹿の、角館岩に波うち寄せて。
2011年03月12日 10:42 せっちゃん ショートショート・かーおかあちゃん
新日本海フェリーは、しらかば反対に読むとばからし、おねーちゃんが髪を緑に染める、色白でけっこう似合うんだな。
みどりなす竜宮乙女があどもへば我れも六十路に年老ひにけり
一つとや、一人浮き寝は波の上、うみねこ鳴いて粟ヶ島。
二つとや、二人浮き寝は船の上、島影消えて淋しいばかり。
三つとや、見える灯は出羽湊、おしんの里は雪の中。
四つとや、夜霧に消える面影の、母を尋ねて三千里。
五つとや、いつか行く手は鳥海山、さかさに影を波枕。
六つよや、むかし芭蕉は俳人の、雨に西施が合歓の花。
七つとや、なまはげおんどろ笛太鼓、夏は真鯛のうしお焼き。。
八つとや、山は津軽か下北か、吹雪にむかう寒立ち馬。
九つとや、ここは海峡流れ星、カシオぺーアは海の底。
十とや、十は遠々函館の、百万ドルの街灯り。
からすかーお
からすがね、石を拾って落っことす、なんでかな、なんでかなったって、かーおかお。
人の頭へ落っことす、あぶないよ、あぶないよったって、からすもいっしょに急降下。
車に当たって、キーブレーキ、ばっかやろうったら、禿げのおっさん。
ふえー仰天、バイクの兄ちゃん、ばっかやろーって、からすが云った、これはなんたって、一一0番。
ピーポー鳴って、パトカーが来た、仰天からすは、急上昇。石はどーんと、急降下、フロントガラスがめっちゃくちゃ。
本官さんは、ピストルだ、鼻水拭いてぶっぱなす、どかんどっかん、かーおかお。
両手を挙げて、飛び出した、うつなと云って、銀行強盗。手錠がっちゃり、本官さんは、お手柄だ。
鼻水すすって、ラーメンいっぱい、かあちゃん、おまえを愛してる。
からすがね、石を拾って落っことす、なんでかな、なんでかなったって、こう云った。
ばっかやろうったら、ピーポーどっかん、かーおかあちゃん愛してる。
大地震ふわーいお手上げ。
2011年03月13日 09:45 せっちゃん ショートショート・くそだめ
地震があっても原子炉爆発してもかなあ、これっきゃできねー馬鹿。
花の子守唄
金のお椀に月を盛り、銀のお椀に雪を盛り、一つ吸うてはねんころろん、ねんころろん。
天の船には酒の樽、風の船には吹流し、一つ漕いではねんころろん、ねんころろん。
浅い井戸には花のかげ、深い井戸には星のかげ、一つ汲んではねんころろん、ねんころろん。
遠い橋には笛太鼓、近い橋には毛槍歌、一つ聞いてはねんころろん、ねんころろん。
春の雨には金の櫛、秋の雨には銀の櫛、なんに泣くとやねんころろん、ねんころろん。
高い窓には紙風船、低い窓には影法師、末に生まれてねんころろん、ねんころろん。
速い川には帯を投げ、遅い川には毬を投げ、人の浮世をねんころろん、ねんころろん。
土塀の上には龍の足、瓦の上には獅子頭、なんに笑うてねんころろん、ねんころろん。
日本人が日本の心と言葉を取り戻せるよーに、復興の力はその他大勢にあり、半分はすでにありもー半分を。
めでたいな
つ 月の宮の舟大工 く
き 紀州のかわうそ そ
よ 嫁入りやどこだ だ
の 野っぱらの三丁目 め
ば 番屋の猫がにゃーお お
ん んとこしゃのあっち ち
に 荷は二つ届けた た
めでたいな
大地震の復興には何年もかかる。
2011年03月14日 09:24 せっちゃん ショートショート・なめくじ
梓弓春はぎふてふマンモスの氷河のみ代ゆ舞ひ生れ越せし
牙の大きなマンモスは、毛むくじゃらで、優しい目をして、もおっと鳴いて、草を食んでいた、そうさ、そんな時から飛んでいたんだ、花から花へ。
大きな牙のマンモスは、長い鼻を持ち上げて、悲しい目をして、もおっと鳴いて、行ってしまったよ、暗い氷の向こうへ、そうさ、帰って来るのを待っているのさ、花から花へ。
梅桜春はぎふてふマンモスの氷河のみ代ゆ舞ひ生れ越せし
温暖化でぎふちょうが絶えたと思ったら、去年またいた、ふーわりふわりあっちこっちへ飛んで、縁側に干した蒲団の辺に止まっていた、もしやこれが最後かもな。春蝉のほうは絶えたな。
三陸沖の巨大地震は千年周期で繰り返すんだそーな、どういうメカニズムになっているかは今後の研究によるとさ。
一万人以上が死んだという、死体がごろごろしている、危うく難を逃れた人が寒さに震えている、目の当たり茫然自失のぜんたいが瓦礫の山。
なんにもできねーのだなわしは、義捐金の箱へなけなし入れて、一柱を献じて、回向のお経を読む、お経とは何か、ようやくわずかに知る。復興には何十年もかかる、日本人を愛する、こんなにいい民族は世界中どこさがしたってない。死体の山にお経を上げに行きたい、情けねーな、到底無理なんかな。
なめくじどこへ行く、銀色の道をつけて。おいしいきのこを食べに行く。何日かかる。二日と半分。
なめくじ何がこわい、銀色のあとをつけて。まいまいかぶりとかえる。向こうへつくまで会わないか、さあわからない。
なめくじ何が楽しい、銀色のしるしをつけて。しっとり雨の、やさしい蒼苔。でも明日はかんかん日照り、そうしたらお休み。
なめくじ彼女が来たよ、銀色の道をつけて、そっちへ曲がろう、すてきな子。そんなところから見えるの、もうきっと。