ショートショート14
2011年03月26日 08:45 せっちゃん ショートショート・幕引き
夕月は信濃の河に言問はむなんに山越ゆ群らつの鳥も
トンネルを抜けて千曲川から信濃河になる、地震のあった栄村津南のあたり。東北関東大地震があんまりでっかくて、おまけに原発もあってさっぱりだな、えぐいのが好きで、渦中の中越地震もあたり見に行って、パトカーに睨まれて脱出した。今はしゅんとしている。お寺民宿に提供しよーとしたら、とんでもそんなことしてらんねーって云われてさ、由来かーちゃんと口聞かねー、てやんでえ何が晋山式だ、いーから猿芝居なんかすっぽかせって、ふーんわしが出行くほかねーんか。
てめえっきりねーらごら坊主か、かーちゃんもらってそーゆーのこさえちまった、わっはっは笑える、お寺私物化してー
住職四十年掛けといた年金だけの、お経読むほかなんにもできねー、檀家十軒の小寺もぐり込むったって、坊主どもの付き合いはねーし、托鉢するには年取り過ぎた、しょーがねーなあ。
鳥追い行事というのがあった、この鳥やどこから来た、信濃の国からやって来た、ほうほーやれほ。つげ義晴の漫画で見たっけな。
わしはなにやっても食えねーのさ、好きなことしかしねーからって、信州から来た鳥だけんども、ほんにさ。
名月は千曲の川に言問はむなんにしだるる神代桜
おふくろは信州山ん中の出で、先祖が赤報隊という、岩倉具視のせいで偽官軍にされて、山奥へこもった。義侠心が強く、人の為なら我が身を省みずの、せがれのわしにはどえあらいめにあったが、血はわしにも流れているのか、おふくろがいたら、たといお寺だって三家族は受け入れたろーさ。
人はおふくろを利用して、たとえば娘が暴力団にさらわれて、なんとかしてくれと頼みに来た、引き受けて、百万用意しろといって、乗り込んで親分に直談判、すんでに外国へ売られるところを娘は戻った。ゼニなんかいらねーって親分が云ったとき、そーかいって引っ込めりゃよかったあっはっはってさ。
わしほどの親不孝はなかったな。仏道だけが恩返し。
そいつもどーもいかんなあ、だれかに渡せばな、この世にたった一人お釈迦さまを継いだぞ、道現禅師を、恩返しこれが他にはなし。幕引きするにはもー何年か。
2011年03月27日 08:41 せっちゃん ショートショート・ぼすねこ
ぼすねこ
だんだら子猫がにゃーんと鳴いた、大ボス猫がのっそりと出た、そこいら十匹しゅーんとなった、今晩は子猫が挨拶、いいお月さんですうんそうじゃ、四キロ四方は大ボス猫のしま。
子猫をつれて大ボス猫は、レーガンさんのステーキを食い、サッチャー屋敷のまぐろを平らげ、がきは帰った巡回だ、帰らないって子猫が云った、世間のことが知りたいの。
知ってどうする強くなるんだ、向かい合ったら負けなきゃいいのさ、定刻通りの見回りだ、おまえの年には山ん中、兎を食ったり山鳥を追い、冬は吹雪きの野っぱらじゃ。
大ボスさまがうっそり行けば、犬の喧嘩もそれっきり、駅のシートに半日座る、哀れなもんさ人間なんて、長生きするっきゃ能がねえ。
あっちの白も向こうの黒も大ボスさまの、えーと子猫はやしゃごに当たる、おっといけねえ御帰還だ、のっそり入った貧乏屋敷。
大ボス猫がにゃーんごろったら、せんべえ蒲団にもぐり込む、うるせえってんだがき親父、尻尾つかんでほうり投げ。
ぶっかけ茶碗にねこまんま、昨日の話はほんとかなあ、大ボス猫は膝の上、そーさこいつは猫又よ、耳は三つに張り裂けて。
大明神にお参り三回、人間でいやあ百歳を越え、夜中の二時にお帰りだ、いったい何をしてんだか、外で会ったら知らん顔。
貧乏屋敷に石かけ一つ、赤のまんまがゆーらり生える、くふうと笑ってがき親父、人間さまより大往生、三日も前から仏さま。
三年たったら子猫は大ボス、おんなむねこ大明神、向かいあったら負けはない、ボスをつぐならスマートに、耳は一回張り裂けた。