ショートショート16
2011年03月28日 08:57 せっちゃん ショートショート・金の太刀
金の太刀
むかし山の本田の長者さま、勝手気侭の悪業三昧、人の難儀を見るに見かねて、
「外道め成敗致す。」
伊谷の十郎そっ首刎ねて、行方知れず。
噂も絶えてとある夜半、十郎父母の家屋根に、月は二つとなりくらめいて、金ねの太刀が抜き立った。太刀には文がつく、
「十郎は妻と二人行く、ご不幸お許し下され。」
月の光に涙流せば、形見の太刀が物語る。
山の本田をあとに伊谷の十郎、武者修行の旅から旅へ、しかもあるときこう聞いた、
「美しいやな松の長者のさゆら姫。」
雲は歌う草木もなびくと、やって来たれば苔むす巌に、一振り太刀が突き刺さる。
「引き抜いた者にゆら姫をやる、松の長者。」
と札が立つ。
「なんのこれしき。」
柄を取っては伊谷の十郎、雷鳴って巌の太刀を引き抜いた。
「天晴れ三国一の花婿じゃ、わしがそっ首刎ねたは三十人。」
松の長者が引き合わす、朝日ににおうと美しいやなさゆら姫。
子のないだけがたった一つの、三年三月は夢のよう。
秋夜は更けて、思いは遠く父母の里、不意にあやしの気配、抜く手も見せず切りつけた。伊谷の十郎巌の太刀。なんたること、朱けに染まって倒れ伏すのは、美しいやなさゆら姫、返す刀に我れと我が胸を。
「待った。」
と云うて、真っ白い松の長者。
2011年03月29日 08:56 せっちゃん ショートショート・金の太刀2
「家に伝わることわざ、末摘む花は宝の接ぎ穂。」
なき姫へのはなむけ、わしへの孝養、千載一隅宝蔵、七つの海のはてにある、ねむいむーなの島へ行け。
伊谷の十郎ゆら姫の太刀、西へ向って十五日、ざんざあ風に風鈴が鳴る、「ねむいむーなの宝の守りは、鳴子の太郎。」
すすきっ原に白刃が舞う、すねをえぐり耳をそぐ、
「死なば死ね。」
伊谷の十郎突っ走る、ゆら姫の太刀。
鳴子はふっ切れ守りは抜けた。
ふーわり跳んだ巨大なけもの、
「宝の守りは虎の次郎、千年生きて盲いになった。」
くわえ込んだは、急所を外してもてあそぶ。
雷鳴のように喉を鳴らす、すんでに逃れて伊谷の十郎、
「目ん玉の代わりになろうぞ。」
首に跨り、ゆら姫の太刀を突っ刺す。千里を走って虎は倒れ。
とっぷり暮れて、一つ屋敷に灯りが点る、宿を願えば、美しい女が案内する、飲んで食らって湯に浸り、床を取ったらこう聞こえ、
「宝の守りは屋敷の三郎。」
古い書物が一冊あった、
「ゆめやうつつやたからぐら、ひとついのちをいくつながらえ、」
二日を眠り十日を眠り。ゆら姫の太刀にももを突っ刺す、十郎ついに読み終えた、
「あやしのえにしむなしくおわる。」
一つ屋敷が火を吹いた。
あやうく逃れて旅の空。
笛や太鼓に行列が行く、輿に乗る美しい花嫁、
「めでたいな。」
伊谷の十郎。
「なにがめでたい。」
若者が云う。
「くすのきさまの人身御供じゃ。」
2011年03月30日 08:39 せっちゃん ショートショート・金の太刀3
ひよどり村の大くすは、あしたに二十の村を覆い、ゆうべに二十の村を覆う、七年ごとに花嫁をめとる。
「そんなものは伐り倒せ。」
伊谷の十郎、
「祟りが恐ろしい。」
と若者。
「木挽を十人。」
そーしようと云って必死の若者。
日も夜もなしに木は伐られ、
「よそ者がなんという。」
石のつぶてが飛んで来た、四方八方うなりを上げ、
「宝の守りはつぶての四郎。」
と聞こえ、十郎ゆら姫の太刀に払う、
「くすのきさまの花嫁じゃ」
美しい娘が胸を押し広げ、つぶてはうなりを生じ、
「又の世に結ばれようぞ。」
むくろを抱いて若者。
さしもの大くすが倒れ伏す。
「くすのきにふねをこさえて、たからのたびはうみのうえ。」
花嫁のむくろが口を聞く。
大くすに舟をこさえて、伊谷の十郎ゆら姫の太刀、宝の旅は大海原の、島影消えて淋しいばかり。
なんにしや、べったりないで五里霧中、
「宝の守りは霧の五郎。」
同じところを堂々巡り、夢まぼろしやもののけの、七日七夜を帆柱腐れ、投げ入れたゆら姫の太刀、切っ先光って行く手を示す。
霧の五郎のはらわたを抜け。
とつぜん海は吼え狂い、雷稲妻、
「宝の守りは嵐の六郎。」
かじは吹っ飛び帆柱は折れ、木の葉のようにもてあそばれて、海の藻屑と消ゆるには、七人乙女が舞い歌う、
「ちとせをへぬるくすのきは、ちたびのあらしにたえだえて」
ゆら姫の太刀を抜きはなつ、雷撃って轟然、ひるがえり嵐の目ん玉を撃つ。どうと大波に押し出され。
2011年03月31日 09:07 せっちゃん ショートショート・金の太刀完
生臭い風が吹いて電光、波はうねり逆巻いて、
「宝の守りはおろちの七郎。」
大蛇の七つの鎌首、こっちに向えばあっちが襲う、首がもぐれば尻尾が生える、伊谷の十郎死に物狂い。
血潮がおもかげに、美しいやなさゆら姫。袖を振るにしたがい、おろちは海底に消え。
物凄い臭いがして、いちめんに腐れ漂う、
「宝の守りは腐れの八郎。」
おおぞろもぞろかき上る、生首や腐れ目ん玉、手足はらばた、うちすえひっぺがし、気も狂うかと十郎、引き抜いたゆら姫の太刀、鞘は衣に押し広がって、腐れのはてを清うに脱ける。
塩を吹いて泡立つ海、
「宝の守りは日照りの九郎。」
らんらんと光のレンズ、舟板は裂け帆柱は火を吹く。
息も絶ゆると、
「お刀を日に。」
ゆら姫の声。
光になりくらめいて、冷たい雫にはうり落ちる。
ひでりの海を抜けて、流転三界虹のかけ橋、浮世のはては、ねむいむーなの宝島。
金銀珊瑚綾錦、紅玉碧玉しおみつの玉、かりょうびんがか歌う羽衣、へんげの壷にへらずのお椀、命の泉につくも石、浮き寝の梯子に天の速舟。
数えたてたるこの世の宝。
命の泉に太刀をひたせば、朝日ににおうと蘇る、美しいやなさゆら姫、ぬけがらは金ねの太刀に。
伊谷の十郎さゆら姫、天の速舟に宝を積んで、その夕映えの大空に舞い上がる、姫の指差す天空は、
「鳴子の星に、めしいの虎に。」
「一つ屋敷につぶて星。」
二人数える星の座。霧のカーテン、嵐の目、七つおろちのかま首、くされの星にひでりのレンズ。
「宝の守りは十郎おまえじゃ。」
天の速舟が口を聞く。、
「ねむいむーなの宝を月へ。」
「よかろう。」
伊谷の十郎、
「月のお里へ住む習い。」
さゆら姫がうなずく。
真っ白い松の長者が、
「その舟待てえ。」
鬼になって追いかける。
金ねの太刀は父母の家に。
伊谷の里には、十五夜の夜、浮き寝の梯子が舞い降りて、月の国へも行かれるそうの。
2011年04月01日 07:11 せっちゃん ショートショート・春
父と子
うそが花をむしっている、あんまり食べないで。
啄ばむは浮世の花ぞうその鳥風や追ふらん雪降りしきり
雪の中にぽっかり開いた穴、なにかいるぞ。
見よや君しの降る雪の木の間よもなんのものかはたはぶれ遊ぶ
吹雪の日に飛び込んだのどあか、北海道へ行ったかな。
紅の春を迷はむこの鳥やオホーツクより吹き荒れけむに
まんさくが咲いたまんま凍って、日差しに溶けて。
まんさくの花にし咲くを知らでいて年のへ我れは物をこそ思へ
味噌汁に入っていたふきのとは、朝起きて取ったんだ。
ふきの葉のつゆにしのはないにしへの見果てぬ夢を金山の郷
今年は北海道へつれて行くぞ、うんニセコアンヌプリへ登る。
世界一周
ぴいちく雀が、田んぼにはまって、たにしになって、鯉に食われて、うんちになって、ひーるになって、牛にとっついて、もっくらもっくらもっくらもっくら、でっこーなって、くじらになって海にざんぶり、ぼーっと潮吹いて、世界一周。
さなぎ
葉っぱが落ちて、木は淋しそうだ、ぴーぷー風が吹いて、ふるえてる、それとも、裸になって恥ずかしいのかな=とうろり夢を見て
雪が降って、木は重たそうだ、風もないのに、ゆーらりはらり、それとも、白い着物が嬉しいのかな=春の風は金色の
鳥が飛んで来て、木は迷惑そうだ、あっちへ行き、こっちへ行き、それとも、遠くのことが知りたいのかな=こわい食べられる
雷が鳴って、木はたいへんだ、どうっと吹雪に、なりはためいて、それとも、大声上げて歌いたいのかな=羽はもう虹の色
2011年04月02日 09:01 せっちゃん ショートショート・詐欺
余命幾許もないもーじき死ぬっていう、両親も身寄りもない24歳、ピザが食べたい、アメリカへ留学しようとして果たさなかった夢をピザに託して、ナースにどえれえ怒られたことの、末期癌かな、けっこう淡々として真に迫る、元気になったらかさみんご連れてくお菓子もあるよ、明日はもうないって、明日はたとい死んだってある、雲や鳥も草も花も美しい絶唱、梅の咲く山はたのへに吹く風は今日はも吹かず暮れ入りにけり。歌つけて返事して、今日の午前二時逝くなったって弁護士からメール来た。遺産三千八百万の相続人になります、なんだあこりゃ、故人の遺言であり法律上有効です、そんなん貰う云われはないって云って、そのうち欲しくなった、祇園精舎の資金になる、まずはとーちょーさ遊び行って、ぺけ。お骨持って来い、戒名つけてお墓建てて供養する。弁護士先生受け取り強要する。ようやく詐欺だって気が付いた、カードとか口座番号とかな、うははおめでたい。
かーちゃん説得して、てっちゃんも被災者受け入れよーって気になった、そんならその遺産も回して、ささやかながら一家族は受け入れられそーだとか、そいつうっかり云わずによかった、立派な詐欺になる、かーちゃん具合悪くってやっぱりだめだ、晋山式でてっちゃんも忙しいってさ。ちえ晋山式なんて坊主詐欺の代表が。
わしみてーなぐうたらの回りは詐欺だらけ。世の中詐欺にひっかかるのはぐーたら我欲。
歌を一千首作ってさいずれ古今の名歌、そいつを繰り返し書いて王義之良寛もそれまでって、うほほーこれは詐欺だ、詐欺はまず自分をたぶらかしてってわけな。
だれかれみんな詐欺さ。政治家の演説も、学者のマイクロシーベルトも、屁のかすみてーなコマーシャルも、大真面目な日本助けよう外国もなーんかどっか、いやさわしは云う甲斐もなく。
なんで詐欺なんだって、どっか荒っぽいのさ、草木も花も鳥も雲も隙がない、たいへんな目に会ったって、悪夢としか云いようがなく。
地震も原発もなかったらって、日に三遍思っても、春の日差しがうららかに当たる、若しや放射能があるんか、たとい放射能も年寄りはふきのと食って死ぬ。
わしの短冊一億円に負けてやるでよー、正真正銘のわっはっはひっかかるやついっかな。
729 2011年04月03日 08:38 せっちゃん ショートショート・おおたか
うら寒い日だってのに、おおたかが四羽も飛んできた、お寺の上を旋回する、大小あるよーだし親子かな、天気のいい日に飛んでたり、尾根の枯れ枝に止まったりする、ずっと鳶かと思っていた、いやさのすりもさしばもはいたかもいる。それなりの食い物があるんかなって、さっき明慧上人に死んだ鯉すくっとけと云った、四つ五つあるんだけど、どでかい一尾けものに齧られて死んだのが、たいてい骨だけになっていたって。なーるほどこいつを食いに来ていたんだ。
冬を越すと二三尾はけものに食われている、去年は鯉が増えすぎて、えさやらないでいて餓死したか、
「えさ買って来い。」
「だってえさやると増えてたいへん。」
かーちゃんが云う。鯉子の群れが増える、腹へるとてめーん子食っていたのに、ぼけちまってえさしか食わん。飼い過ぎだ。鯨取るなのせいで、鯨の集団自殺みてーに野生のものは賢い、てめえで調整する、そやつがやたらに増えた、付き合い切れねえ。
池のふち荒らして困る、墓石ぶっこんで護岸したが、うまくいかん。新造の蓮池は、たなご飼おうかと思ったら、からす貝を仕入れにゃならん、するうちざりがにが増えて、蓮の根を食い荒らす。
ざりがに退治して、毎年手間代だ。
青鷺の蓮のうてなに寝ねやらひ去に行く雲がなんぞ恋ほしき
青鷺が来て、冬中水の落ち口に突っ立っていたな、雪消えには同じ大きさの白鷺もいた。
わしもさぎも、わっはっはからすも大好きなんけど、あいつら粗暴のできそくない、人間さまいるってこと忘れる、管理責任負わされてるんだぞくそ。鹿三つの漢字をそと読む、粗暴のそだな、安芸の宮島で囲まれてえれえめみた、ぶつぶつ。あおげらがかつかつやりゃがるし、晋山式だ開山堂だの壁の修復だの、ちえめんどくさ、ホームレスがいっちいーな、つまり連中と同じだ。
本堂は人天蓋や幡蛾ぶら下がって、まーるで地震計だな。東北大地震のときはおそろしい揺れ方した、そのあと栄村にもあって、余震がいくたびあって、ゆーらりゆっさ。
2011年04月04日 08:08 せっちゃん しょーとしょーと・ぜふぃるす1
ゼフィルス
つんとお鼻が空を向いて、ブルーネットは西風(ぜふぃるす)の、すてきな娘に恋をした、「ぼくはあなたの黄色いスカーフ。」
「あたしの心はブルーなの。」ぜふぃるすの髪はうねって、ジープに乗って走り去る、年は十七サラマンダー。
必死になって追いかけた、「どこへ行こうが蜃気楼。」「虹にかける七つの夢を。」サハラ砂漠は赤い砂。
スフィンクスが微笑んだ、一万年の死人の眠り、ラピスラズリの星の空、夜は優しい風の歌。
溜息一つトルネード、サハラの砂はさやめいた、四輪駆動は空回り、すてきな娘は急停車。
真っ赤な岩に押し上げて、嵐をさけて洞窟に、槍をくうらり野牛の涙、文字のような人間が。
「あたしの夢はどーなるの。」タンクの水もあと一杯、ぜふぃるすの髪は砂だらけ、疲れ呆けてまどろんだ。
嵐が去って音もなく、文字の壁が抜け出した、とつぜん槍がぶっちがい、たくましい若者。
「豊饒のサハラは、美しい西風の乙女を迎えるであろう、金色の果実と吼え猿と、コンドルの舞い上がる大オアシス。」
七つの黒いダイヤモンド、「大森林の七人兄弟、中の一人をえらぶがいい。」すてきな娘は選んだ。
涼しい夏の目をした弟、「右手の槍はおまえのもの。」「つぼみの花を一輪。」六人の兄は祝福して。
一の兄は大オアシスの歌を歌い、二の兄は椰子の実を二つ、三の兄はくちなしの弓、四の兄は蛇の皮を。
五の兄はひひの遠吠え、六の兄は火食い鳥の羽を、新婚夫婦に贈る、二人は森の泉に浸る。
2011年04月05日 09:11 せっちゃん ショートショート・ぜふぃるす完
日光は茂みの踊り、月光はさやめきの歌、嵐をさける住まいには、椰子の実は吸いあって二つのお椀。
くちなしの弓にえものを追い、蛇の皮に傷をいやし、ひひの遠吠えに危険を知る、火食い鳥の羽は門の飾り。
大兄の、大オアシスの歌は常に響き、ハイハイハルーオーレーナ、ホイホイホルーアーレーナ。
十月十日の月満ちて、愛する二人に新しいダイア、生まれてすんなり生い育ち、三つのころには槍を持つ。
次には美しい西風の花、オアシスの大空は底無しの天、ハイハイハルーオーレーナ、ホイホイホルーアーレーナ。
底無し井戸は真昼間、夫が耳をそばだてた、大兄の歌が聞こえない、火食い鳥の羽がさやめく。
夫は森を駆け回る、いったい何が起こったの、悪い病気が流行る、六人の兄は倒れ。
わしらだけ残った、コンドルの谷へ行って、槍をとって夫は云った、病気を治す青い花を。
取りに行くならわたしも、蛇の皮を持つ、子供を置いて、ハイハイハルー二人は走る。
底無しの沼をわたり、ライオンの原を過ぎ、人食いわにの河に、舟を浮かべ。
とつぜん渦巻き泡立つ、ごーっと呑みこまれて洞窟の中、まっくらやみを流れて行って。
漂いついた島の辺、大オアシスの巨大亀、二人を乗せてのっそり歩く、一日寝ては四日を登り。
急にまぶしい日の光、コンドルの谷間の雪の山、亀はのっそり苔を食み、青い花は満月に咲く。
今宵満月十五夜の、月の光にまっしろに咲く、明日の朝は碧玉の、たもとにいっぱい花をつめ。
身をつん裂いて夫が云った、死体をねらってコンドルが来る、足をつかんで舞い降りろ、おまえを置いてなんであたしが。
大オアシスの命を救え、蛇の皮も役立たず、死体の辺に、むらがり寄せるコンドルの。
足をつかんで駆け降りる、月の光の青い花は、六人の兄の命を救い、大オアシスは蘇る。
返らぬはたった一つの、忘れ形見を抱いて、悲嘆の涙を流す、泣くなぜふぃるすサハラの命。
声は空ろにこだまして、死ぬな恋人すてきな命、半分砂に埋もれて、ブルーネットは目をさます。
さがし当てたぞさあ水だ、インフルエンザが流行ってる。
2011年04月06日 08:08 せっちゃん ショートショート・春なが
春が長いー春ながという言葉がある、いつまでたってもうら寒い新潟裏日本のさ、夕さりって夕方を云う、夕ざり来ればの万葉言葉だな、夕さり淋しい、やまどりしょうまをとりあしといって、伸び出したのを食う、ふきのと、とりあし、せり、のびろ、ぜんまい、わらび、しょうねんぼうなどの順に出る。とりあしが赤くはじかんだまんまの春なが、本堂前には雪の山、わっはっはじっくり来らーな。
大磯生まれの藤沢育ち、裕次郎と同じ足の長いえっへん湘南ボーイにとってはどーにもこーにも。
梅の咲く山はたのへに吹く風は今日はも吹かず暮れ入りにけり
春めいたって夕さりきまって風が吹く、うら寒い毎日のその風が止む、ほおっと春が来る。越年蝶のひおどしのおんぼろややきたてはが陽だまりに飛ぶ。しょうじょうばかまの次にはいちりんそう、かたくりやすみれさいしんが咲く、するとぎふちょうが出る、梅や桜に舞い飛ぶのはなんたって嬉しい春、こつばめしじみやみやませせりが飛ぶ、ようやくもんしろちょうの本格春だ、つまきちょうという可憐な蝶もいる。
柳生の中なる夕陽つれなくも信濃河の辺春なほ浅き
春先はいとよが遡る、人差し指ほどのとげとげ魚で、わんさか遡って来て、釣るはしから七輪の炭火で焼く、さばにも似て美味しい。春の風情は十年前からぱったりになった。みんなでわんさか釣り過ぎってこともあった、釣り餓鬼はなんたって釣れるだけ釣ってしまう、なんでだろう。
五十年間ほっぽっておくと、いわなもやまめもどっと増える、五年でもいーかな、放射能で人跡未踏になった、チェルノブイリや、三十八度線は、野鳥の楽園だってさ。
ふわーい欠伸、年寄りにゃ電気毛布があって、クーラーがあって避難生活なんか真っ平だ、ぽっかり春の雲、花に浮かれの、あとはケロイド面にならずに大往生さな。
年寄ると我れは思はね春は花酔ひて寝ぬれば冷えわびもすれ
三春の花は行けそうもなく、水戸の梅園も無理だ。
これから日本はどーなるのかな。
いにしへの人に恋ふらむ椿花こしの小国は長岡につき
2011年04月14日 07:05 せっちゃん ショートショート・たたり
君見ずや絶学無為の閑道人、妄想を除かず真を求めず。
永嘉大師信心銘が三島耕月寺開単接心の提唱であった、和訳した講本が三十冊ほどもあって、実にすばらしいもので、仏心のありよう仏祖の姿そのものを表す、時期も熟していたものか、悟入するものいっぺんに四五人も出た。せっかく堂頭和尚のずいぶんの物入りも報われた。専門の典座和尚が入って、精進の粋を尽くし、わっはっはわしの提唱とさ、まさにこれ破天荒の出来事であった。
接心終わって、しゅーしんが柄にもなくポーラ美術館を見ようという、耕月寺から30分も山を廻ってもとの耕月寺へ戻る、富士の裾野は広い。
「面目ねえ。」
といって、ほんに面目ねえつらしてたな。
夕は御殿場ビールで飲んで食って、
「しゅーしん歌え、となりのフィリピンねーちゃんどもにボトル寄進するで。」
といったら、しゅーしん歌った。
「酔っ払って歌詞忘れた。」
と云いながら、大向こうからジョッキ捧げてやってくる大受け、フィリピン夫婦のプロ歌手もいて盛り上がる、じっさ、
「わしすけべ。」
と云ったら、
「あらあたしすけべ大好き。」
わーきゃー握手。
ほんにしゅーしんみてえ歌えるとえーな。天竜の山へ行ってわと大声上げたら、天狗がわと答えた、いやこだまじゃねえほんに魂消た、天狗伝説の寺だそーの、悟入してその声はありゃ本物だな。
小林がすんでのところを、たった今しかない、崖から飛び降りろと云ったら見事抜けた。そいつを聞いてかめが、
「金正日マンセー。」
だってさ、みなの顰蹙を買って、堂頭和尚に精神科へ通っているんですかと聞かれ、美緒ちゃんが大笑い。美緒ちゃんも一つ抜けた。もっほちゃんもさ。
翌日高遠の桜見に行った、高速道路大月インターまでただという、大月インター通過して、岡谷で出ようとしたらチケットがない、らちあかん係り来て、三千円払って出るのに三十分かかった。まだ咲いてないという、ではスリランカ料理でお昼しよー、カーナビ入れたら、とんでもねー山中の廃道へ引っ張り込む、抜け出してから反対側へ走り、ぐわーだれの祟りだ。主は大阪の領事館へ行っていると云った、亡命政治家の店は、なかなか美味しかった。コニャックみたいな上等な酒もあった。その夜風邪を引き込んだ。だれの祟りだうーん。
2011年04月15日 08:53 せっちゃん ショートショート・まっくらけーのはい
三つになるもっほちゃんの甥たかちゃんは、機関車トーマスに首ったけ、わしはトップハムハット郷なる人物に擬せられて、一杯飲んでたらケータイを押し付けられた。
「トップハムハット郷です、いい子ですね、わしは今ご馳走を食べています、大人ですからお酒も飲みます、たかちゃんも云うこと聞いておいたして、おいしいものを食べて、元気でね。」
なにしろ出任せ云ったら、興奮して半日ぼやーっとしていたとさ、ほんに悪いおばさんだ、だって可愛いんだもんて、わっはっは本気に喧嘩する、大地震のあとまたケータイさせられ、
「みんな今はたいへんです、大人は淋しいんです、いい子で歌って踊って、元気な笑顔を見せて上げて下さい。」
とかなんとか。
叔父さんが末期癌だそーで、みんなで見舞いに行った、たかちゃんは奮闘、叔父さんは大喜び、くたっと寝入って、いい塩梅だと思ったら、目を覚ましたらもう活躍、ついて行けないってさ、子供の大エネルギー。
「だめだよわしトップハムハット郷下りる。」
「うんイギリスに帰ったと云っとく。」
美緒ちゃんが加担して、
「もっほちゃんのお友達の美緒です、トップハムハット郷と知り合いです、云々。」
なんたってこいつら、三つの子を玩具にする。
たかちゃんの歌と踊りだよ、わーきゃー喜んでいる、
「ヘルメットを被って行進、はい。ビルを建ててみんなで住んで、はい。なんにもないったらまっくらけだよはい。」
もっほちゃんの診察室のベットに乗って、手振りよく踊って歌う。
四月になって幼稚園に行く。
三島接心から帰ったら、新潟はようやく梅の満開、紅梅も白梅も同じに咲いて散る、モンシロチョウが飛んでいた。
大掃除だ、冬のあとかたずけがたいへん、風邪を引き込んでくっしゃん、ストライキ中のかーちゃんを立川病院まで送って行った。
「やだわ、風邪うつさないで。」
「ふんなら乗るなっての。」
きしょーめ一日で治すはずが。
ぎふちょうが飛んで来た。
2011年04月16日 08:22 せっちゃん ショートショート・雪消え
冬囲いを外している、むかしよりはずっと簡単になった、雪降らぬ年が続いて、徒らに囲いしては外していたが、今年は一メートル六0も積もってすんでに危なかった。よく囲わないと故障が起きる、雪下ろししてガラス戸一枚割ったな、いつだったか間に合わずに、軒をへし折ったことがあった、はい五十万円。
本堂前の、なでついた雪の山はあと十日も溶けぬ、かつては連休明けにやっと消えた。築山にはまっしろにさつきの咲く、老師を招いて接心であった、掃除し終えて、一日早く老師が来た。
「このごろは見るもの聞くものたとえようもなく清らかにー」
みなまで云わせず、老師は、
「それはまだ、清らかに見ようとする心が残っている。」
と云った、我れ未だ出家せず、ようやくに気がついて、その年のろう八にぶち抜いた。
今年はせがれの晋山式だ、代譲りがやって来た。接心がいつまで出来るのか、それはわからんな、真面目だけが取りえのせがれだ。
わしが癇癪起こさなければ、続くだろうがさ。
一箇だに打ち出しえむは大杉の涙すなるは出家せぬ尼
滝谷の慈光寺は、杉の森にすっぽりと、むかし師家の道場といって、新潟県に四つあった僧堂の一つだ、村松市が寄進して近年僧堂を新築した。師家-指導者がなければまったくのナンセンス。
テレビをつけたら住職が、
「坐れば仏さまだ。」
など云って、取材の人間をを坐らせていた。
涙も枯れるありさま。
坊主飯食うための私物化。
いにしへは大修行底雲洞庵荘厳せむは新芽吹かへる
禅堂の畳は腐れいたずらに客のよるさへ新芽吹かえる
上田の雲洞庵も師家の道場のうち、新緑のたとえとうもなく美しい、観光客しか来ない。
みやべは大枚はたいて開単して、三島接心が始まった、年二回はしたいという、なにしろせっかちだ、いいからじっくりかまえてさと云って、信心銘の提唱にいっぺんに四、五人悟入するものが出た。
そりゃもー大成功。
さあ一箇半箇こさえてさあの世へ行こう。
2011年04月17日 08:54 せっちゃん ショートショート・歌だよ
わしの歌はだーれもさ見向きもしない、うっさい古今の名歌だといったら、ふんでは解説しろってさ、聞いてやるから、ふんばーたろうめが。
君に別れ越しの野末も春なれや雪はしましく降りさふあらむ
年上の弟子であった滝川さんの葬式から帰って来たときの歌。わかれてきたというのと、こしみちのこしをかける、しましくはしばらく、東京はもう花も咲くというのに雪が降る、世話になりっぱなしの、ろくなこともできなかったやるせなさ。
送りては帰らひ来つるこの夜半の月はしましく雪を押し照る
雪が止んで月が出た。
行く秋をここに迎えむサロマ湖や寄せあふ波はオホーツクの海
九月になったらボートも釣具屋もなくラーメンもなくのシーズンオフ、遠浅の湖はべったり凪いで、その向こうにオホーツクの荒波が。
岬には花を問はむにオホーツクの波風高し行くには行かじ
原生花園というのがあって自転車を借りて行く、風が強くってやめた。
静内に月を仰ひで過ぎ行けば残んの夏を博労が夢
競馬馬で有名な静内町に月が出て、過ぎ行けば夏の夢が、ばくろうは馬喰としたほうがいいか。
秋の陽を寄せあひすらむ島影や襟裳岬を過ぎがてにせむ
秋の夕日を幾つ島影と、過ぎがては過ぎ難いという。
未だ見ぬ妻に恋ほつつ新芽吹く尾瀬の田代の風の清やけさ
日ごろのぐーたらのせいで暑苦しく登って行くと、青葉が新緑に変わる、涼しい風が吹いて、芽吹き山の尾瀬。妻に恋つつあらむというのと、新芽吹くをかける、青春の尾瀬の花旅。
うつせみの身を伏しまろびあららぎの万代かけて思ほゆるかも
万年雪の辺に身を投げ出す、あららぎの木の葉がふっさりつもり。
神からか神さひおはせしのひ降る雪の田代に人は踏み入れ
百伝ふいはれはあれどしのひ降る雪の辺べの花にしあらむ
みずばしょうとみやまきんぽうげと雪の。
2011年04月18日 08:19 せっちゃん ショートショート・むささび
これは以前作った童謡だ。
ばっさり飛んで松の枝、あれなんじゃいな月の夜、ぎゃーっと泣いて人殺し、そうではなくって運動会。
そうではなくってむささびだ、ワープといったらふわーっと消えて、あれなんじゃいな二つになった、おっかけっこは松の庭。
とっとことっとこ、あれなんじゃいな、坊さん坐禅、ぱーんと一発。
しーんといっとき、坊さん坐禅、あれなんじゃな、とっとことっとこ。
ばっさり飛んで松の軒、あれなんじゃいな雪の夜、ぎゃーっと泣いて山の寺、つらら溶けて春が来た。
つらら溶けてぽっぽうが鳴く、むささびよりもでっかいふくろう、半年続いた冬は過ぎ、ばっさり墜落松の雪。
これって対称ーパノラマになってるんだっけ。
むささびがいなくなった、落っこちてきた子供を飼って、むーちゃんと名つけて、可愛がったりしたのにさ、どーやら一匹もいない、火事になるかと思ったが、銅版に屋根を葺き替えて、出入り口がふさがったんだな。
むささびの替りにはくびしんが来た、朝のお経に出た、まだ子供らしい、どうしようかって、はくびしんの為糞で天井が抜ける、業者呼んで退治するはずが、本尊さまの位牌が落ちて、次の日は開山堂にかきのぼって、何十本の位牌がなで落ちて、わっはっは魂消て退散した。
五郎兵衛どんんがきて、うちはこんなに古くないといって過去帳を返す、そんなことないこれでいーんだと持って行かせる。わしの代にじっさばっさが死に、ついでわしらと同じ年の夫婦が死に、すこうし足んねえ厄介者のおじさんが死にして、せがれ一人残った。娘二人は嫁に行ったが、せがれは五十を過ぎて独り者。お布施は貰うたってなーんかもうじっくり来る。
むささびもはくびしんもさ、まだ残っているきつつきもふくろうも、代譲りしてもお寺は変らんな、幻住わしは三十六世。
今は位牌棚の整理をしている、ずらり並べて接心にはいっとき寄せてもって。
2011年04月19日 08:23 せっちゃん ショートショート・歌の教室
いっひっひ歌の教室。
いにしへは飯を盛るとふ朴柏おほにし咲けば人恋しかも
朴は初夏白い大輪の花を咲かせる、葉っぱも大きいからあんまり目立たない、田んぼが終えて人っけない山の、なんとなく切ないような。お盆になると朴の葉にのせてお墓に供える、むかしは飯を盛る。大法の花に咲くと人恋しいか。
朴柏おほにし咲けばいにしへもつばくろ問へり四天王門
真葛生ふる山の間にして春蝉の長啼きつつに日はも過ぎぬれ
美しい青い透明なハルゼミがいて、しゃくやくの咲くころみーんみーんと眠ったげに鳴いたのに、地球温暖化でいなくなった、悲しい。
春蝉の長啼きつつに山を越え風の便りもうらみ葛の葉
男の暮らしはうらみつらみだってさ、裏を見せるうらみ葛の葉。
あしひきの雪ふり袖の如くして出雲の阿国はいつ問ひ越せね
柏崎鵜川の綾子舞は室町風芸能をそっくり残す、一説には佐渡の金山に流れた出雲の阿国が、佐渡も追われてこの地に行き倒れになった、それを助けおこされて舞を伝えたという。あしひきの山にかかる、足をひきずって雪の中、雪降りと振袖とかけてさ、出雲の阿国といやあエロティックの別嬪様。
木沢なる山沢ならむしるべして女沢とふ雪ふり袖の
鵜川辺りの地名を並べただけの歌。
柏崎夕波荒れてみずとりのかよりかくより雪降るはいつ
海にみずとりが五六羽浮かんでかよりかくより。
年のうちに降りにし雪の消え残り松の梢に白雲わたる
こう作ったら万葉にそっくり同じのがあった。
感動した歌をそっくり真似るといーでよ、はい。
2011年04月20日 08:57 せっちゃん ショートショート・あとつぎ
歌の跡取りおらんかなー、これは文芸復興なんよ。
加茂川の月に宿借るあしかびのしじにも雪は降りしかむとす
加茂市という桐箪笥で名を売ったところがあって、加茂川は信濃川に注ぐ、十二月釣りに行ってでっかいのいるのにさっぱり釣れん、ぽっかりと月が出た、月にあしがなびく、しじにもー静かに雪は降ろうとする。加茂は京都の地名を真似る、わしの歌も京都の加茂川にしてっと。
冬だってえのに四条大橋の下に青テントしてホームレスがいたな、なにスニーカーが七足もあるぞ。
芦辺には月さし出でて何故か河を越ゆらむ雪は降りつつ
これは信濃河。
吾妹子は何を悲しみ小諸なる町を廻らひ山方に行く
何を悲しみ小諸という響きが手柄、小諸は古い町で外人どもがたむろする。
赤げらのつがひに会うて日は暮れて幾人宿る高峰の里
日本一標高の高いところにある温泉宿。
吹き溜まりバーとは云はむ底無しやロートレックの風にしも聞け
青森じゃ有名なバーだってんで入ったら、バッハ弾きのCDを聞かされた、なんてえ迫力のねえバッハだ、げそ。
じょんがらのいつかな我れは物語津軽恋しや吹雪に暮れて
雪国は雪に行くもんさなぞっこん。
白神の十二の玉と聞こえしは津軽乙女が命を碧き
十二湖という三百年前の噴火で川をせきとめて出来た湖、風光明媚ったら三十ぐらいはあるらしい、青い池があった、いとうを飼う池もあった。
吾妹子や青き水底に住まへりし伝へはぶなの空洞にも聞け
人はいさ何をうそぶき求め草本間屋敷のしをりの花も
本間さまには及びもないが、せめてなりたや殿さみにと歌われた本間邸、大正天皇の御幸に建てたという別邸に花の栞があって、なぜか買って来た。人はいさ、人はともかくっていう意。
万ず人いずはたよりは押し寄せて流転三界塩の花咲く
塩の花に歓声を上げると、あんなもん見たかねーやと地元の人。
2011年04月21日 08:48 せっちゃん ショートショート・花見温泉
花が咲いたと思ったらとつぜん冷える、花冷えなんてもんじゃない、大被害の東北は雪が降る、災害の年はたいていろくなことはねーんな。日本は奮闘努力の甲斐あって立ち直っても、坊主は立ち直らん、根腐れもとろけておしまい、メルトダウンしたってだれも見向きもしないさ、てっちゃんお寺継いでもわっはっは食って行けねーや。
角栄の常宿温海温泉は、新潟県人で流行ってたが、こっちもどうやら左前でつぶれ宿が出たり、温海温泉万国屋へ、最後に行ったのは花の盛りだった。お寺から出てずうっと花のトンネル、自衛隊の新発田連隊のあたりいい花で、まあさ、世の中平和だと思ったのにさ、今年は高田連隊もフル回転で東北へ行く。原爆パニックで夜逃げした兵隊もいたって、うーんなんともなあ、命惜しくねーのはいねーさな、わしみてロートルが代りに行けばいーんかな。花街道を行き温海温泉が花祭りで、かーちゃんと二人一泊しか取れなかった。やまざくらもピンクの花つけて美しい、もう一泊はとなりの湯田川温泉に行く。
花の咲く春は千歳を若返りあつみ川なむ海へさし入れ
冬は海から吹雪が吹き上げる、
もののふや汝が黄金の酒を酌みもがり吹けるはたが物言いぞ
酒田は商人の町、鶴岡は武士の町、湯田川温泉九兵衛旅館は、藤沢周平が、けちくてずるいさむらい小説を執筆したところだ、本だのお飾りだの並んでいたな。
もののふが足駄掛けして湯田川の花の山路の行方知らずも
あしびきの山の花にも咲くやらん月に浮かれてさ寝も寝やらず
湯田川は延喜式の大むかしからあるそーで、もとはこっちが街道筋だった、泉質がよく、すっかりかーちゃんのお気に召す。
でっかいホテルは薄めたりするからよくないとさ、わしは烏の行水でわかんねーな。
花が終わると名物のたけのこ料理、女将一人でたけのこ七品料理作って食わせて、へーえてーしたもんだ、小さいのを蒸し焼きしたのうまかった、わしはなんたってとん肉と煮たのが大好物で、がぶがぶ際限もなしって品のなさ。
どーやら今年は花を見損なうかな。
こーなったら東北お見舞い、いやさ飲み食い、弘前城公園の花見に行くか、冥土の土産。角館武家屋敷の花もよかったんだがな。
嫁ぎ行く小いさ刀をしずやしずむかしを今になすよしもがな
2011年04月22日 08:37 せっちゃん ショートショート・ふだらく
ふだらく渡海というのはとにかく舟に乗って海に出る、でもってあとは夕陽に向って西方浄土。まあさ間違った宗教はかくの如しの端的な証左。千日廻峰行もたいてい同じだーな、たいへん難しく途中下車したら大恥かきの、仮死状態にまで行く修行もある、成功のあかつきは皇居に草鞋掛けだとさ、どこがましなんかな、ちっともいーとこない直きに元の木阿弥、恐ろしいこった無駄骨折り。世間が認めて大あじゃりのお上人さま、めでたく飯は食って行ける。そんならわしよりよっぽどましか。
うぐいすが鳴く、入れ歯いーの入れたでまた鳴く真似して、せっかく鶯を困らせる、なんせ雌がかかってるで必死だ、途中で引き下がっておく。いろんな鳥をぴーすか、けっこう手間かかるんかな、弟子どもにうぐいすのように蛙のようにという、おいそれとはできない、ぶち抜いて忘れ呆けて始めて鳴ける、でないとお経にならなんのさ。
鳥は正直で、御託並べないやつを仲間とする、単純に鳴く。かえりみない比較しない、円やかに200%、うふふ無字の公案だな。いったんできるともうそれっきり。信仰でもふだらく渡海なくアーメン神様もなく、まるっきりのロハ、人間が地球のお仲間入りしたってだけのこと。
そーしたら戦争も厄介ごともなくなるよ、転ばぬ先の杖もいらん、芸術も音楽もいらんって、わしは絵も音楽も書も大好きだ、空の雲も死ぬほど好きだけどさ、おねーちゃんもいーけど、面倒だしおっかねーしな。
男どもろくなんいねーな。マルバツ式優等生ってまるっきり能足りん、知恵遅れと話してるような、たち悪いだけが取りえの、ほんにさああきれ返って物も云えん。なにかやるったら思想の酒に酔っ払うだけ。
こんなのと暮らして行くってなあ世も末だな、おねーちゃんがセックスしかねーのもうなずける。
大地震も原発もカンフルにはならんか、ぎゃーすか知ったかぶり振り回すきりの民主主義。恥を知れってな。
いにしへは飯を盛るとふ朴柏おほにし咲けば人恋ほしかも
せっかく人間だーい好きなんに、孤独で暮らさにゃなんねーとさ、あっはっは孤危孤俊おおむかしっからの
2011年04月23日 08:52 せっちゃん ショートショート・なんの為に
何を云ったろうが聞く耳持たずで、てめえの思い込みを主張する、むかしはこれを狂いの始まりと云った、人が反対するたんび新理由を発明して、いよいよ犀利になる、回転が次第に短くなって行って、ついに焼ききれる、発狂だな、するとトランキライザーと檻のほかなく、親も見捨てて狂い病院、まあさ出たり入ったり。ところが今はそうでもないらしい、ごくふつうの男が思い込み一点張り、だれが何云ったってだな、これ退化現象だ、振られたろうがしっぺ返し食らおうが、だっても原発はってやる。おれは正しいんだ、おまえらはあほだ。
これじゃおねーちゃんどもも、結婚難だな、どーしよ-もない粘土細工さな。
長い間のこれは欠陥教育かな、歌はうったえるから歌、うったえるとは歌を捧げた相手に、生殺与奪の権を委ねる、身も心も挙げてという。万葉から西行実朝と来て、そのあと歌が生彩をはなったのは、明治維新の志士たちだ、お国のため万民のために命を捨てる、ようやく歌になる。歌とはそういうものだ。日本語とはさ。恥を知るというのはここから来るのだ。
膨大な俳句歳時記の中にふっとささやく声がする、
よく見れば薺花咲く垣根かな
きまって芭蕉だ、あとのものはうんともすんとも云わぬ、聞こえぬ言葉なんてありえない、膨大なごみ捨てだ。俳句作りも歌詠みも、人のものなんて読まない、てめえだけ、てめえさえ見てくれりゃいいっていう、自閉症だな。禅をしない禅宗坊主のように、まったくのナンセンス。猫も杓子も五七五だの七七だの、定型になってりゃあとは野となれ山となれ。
日本の心である歌や俳句が、禅がメルトダウンした。
なんとかしなけりゃ男なんて成り立たない、せっかく未曾有の大地震も、原発もカンフルにならない。
なんのための大地震だ、おれの為にだ、地質学上どうのこうののこっちゃない、おれが悪かった、おれをなんとかせにゃ=そのほかに結論はないのだ。
でなきゃあただのナンセンス、日本人は終わる。
2011年04月24日 08:24 せっちゃん ショートショート・こんぐらがり
臨済はまた別に入ったんだな、下らぬことにくわしい明慧上人が酔っ払って演説する、大応の師なんか、道元禅師より四十年遅れて入宋沙門となって、なんとかってえのからほんとうに継ぐ、聞くほうも酔っ払って固有名詞すっぽ抜け、いえ臨在も、道元禅師あることを中国人に示されて、痛恨思い知らされる。
へーえわしは御開山からすべて伝わったと思っていた。
大応大灯一休と間違いないやつが出てるが、ほかはどーなんだ、なにがし和尚、大徳寺の存続にかかわって言上したら、夢想国師に師匠替えしろと云われて、かんらと笑って坊主は師匠を替えられんと、首さし出して斬られちまったという、わっはあそりゃほんものだ。
娑婆人間が仏の首斬るとは、インドにもあったなそういう話。大震災よりも罰当たりがさ。
大灯十八年間乞食して、うっかり瓜に釣られた話は有名だが、弟子に書いたという、
「梅渓。」
の書はすばらしい、定めし達者な人かなと思っていたら、北方博物館に展示があって、大灯の、真面目一点張り小学生みたいな書があった、ふいに涙滂沱。死ぬときにけっかふざしようとて、骨がむき出しになったという、うん。
たといすったもんだも、正法眼蔵を見ればわが里ここにありと知る、これさえあれば、あるいは五人十人の大徳であろうが、わしはもはや十二分だ、死ぬまでは生きて行こう。
寝ていたらめったら仏になっちまって、小便には行くえらいめにあって、今日は部屋掃除一つしたきり。接心までには墓掃除終やしてっと、てっちゃんども働け。
ぽつりぽつり雨降って、あったかくはねーんだけれども芽吹き時、たらのめのてんぷらがあさってには食えるか、大山桜がほんのりと赤くなった。ぎせんどの寄進の証道歌も来た、支店長寄進の予定になる日課経典も来た。ついで太田医者がワイン送ってきた、わしの買うのとちがって上物だぞこりゃうひひ。もっほちゃんに頼んだ筆が来て、ふんでもってゼニはどーなる、かーちゃん立替分と、明慧上人の払うのとわしの払ったのと書留で送るのと、こんぐらかったなんとかしてくれ。
数学のでもしか教師やってたんけどもー
2011年04月25日 08:30 せっちゃん ショートショート・たらのめ
晴れたり曇ったりうら寒い風が吹く、たらのめ取れそうだ、やまおがらも取れるてんぷらだ、とうがたったふきのとはだめか、年寄ると食い意地張って、楓の新芽だってうまそうで、一杯やってさあって涎。
生ひ伸びるくさぐさにして食げましや我が山門を春はたけなは
連休はたいてい田植えだな、ずくなしという谷うつぎのピンクの花が咲いて、田植え冷えという、ぞっと冷えてむかし百姓は三時起きして、火焚き燃やして植えた、二日半で倒れこんで畳み抱えて半日寝ている、またおっぱじめる、産後の肥立ちが悪くて、嫁ふん伸びた、戸板に乗せてお里へ持ってく、お里でもいらんで送り返す、嫁も婿も代りはいくらもいた、こんなにして九二まで生きたばっさいたな、いい世の中になった、夢のようだと旅して歩いてたが、百姓天下も今んごろは底冷えだーな、この先どーなるかって、いつだってお先真っ暗が、なんせ大震災に原発だ、どーもこーも-ならんな。
いついつか我れも越し人ずくなしの花咲くころを思ひがてする
花に活けても水吸わぬから、ずくがないずくなしなんだとさ、わしは大好きだ、越後代表の花だと思う。分水河口の水かさが増す、連休にようやく雪代が消える、東京都一日分の水を十五分で流し出すという、見物がよったくって見ている、ほんに豪勢だ。
わしたかの類がいっぱいいる、図鑑借りて来たがどーもさっぱりわからん、おおたか、のすり、はいたか、中飛にえーとうわどれもこれも写真じゃ同じ、ふわふわと飛ぶのすりぐらいの、あれはなんだ。
お寺のおおたかは、死んだ鯉並べないとうんともすんとも云わん。
今朝はふくろうが鳴いた、雪消えにもは鳴き、田んぼを植えるころも鳴く、おっほんほっほてなふーにさ、のろ月おほんー宮沢賢治の詩にあるな、みみずを引き裂くふくろうなるぞってさ。
でもまあご立派、お寺のはまた大きく、見えぬくせにぱっきり見開いた目、がきが落っこちてきて保護したら、まあその大威張りなこと、不細工な足つっぱって、かんと鳴く。
しましくは雨に降りあふ茂みへの蛙鳴く音とあり通ひつつ
2011年04月26日 08:14 せっちゃん ショートショート・印可
(今日の事である。家の廊下を歩いていた時、江戸から帰省してきた末妹の3歳になる甥「タカアキ」さんが私を見つけて近づいてきた。
「もっちゃん(彼は私のことをこう呼ぶ)、足、寒いでしょ~?」
そう言っておもむろにしゃがみ込み、私の裸足の足のそれぞれに小さな紅葉のような手を乗せて来た。
「寒くないよ~ 。」
と言うのだが、タカアキさんは黙って手を乗せている。少ししてからぱっと立ち上がり
「はい♪これでいいですでね。これで寒くないですでね」
とニッコリ笑って去って行った。
ちょっとウルっときた。)
これはもっほちゃんの日記から、魂消たな、このちびっこわしの法を持って行った、こりゃはじめての印可底だな。三つの子がどこまで使い切るかというのは、そりゃまた別問題だ。印可のないわしは、印可したものから証明を受ける、わしはたかちゃんの印可底だ。坊主組合へ行ってうんざり帰って来て、どだい口も聞きゃせんだが、仏教の敵っていうよりなんだあこいつらはとこっちが食み出す。かと思えば、おむつ取り替えて貰いながら文句百万だらの若いの、説得不可能がわんさか。淋しいってこったな、はらばた裏返しになる、こんなこっちゃいかんと寝返りをうち、この話を思い出した。
はいよーわしもあいつだめこいつだめなんて云わない、ものみな夜空の星、口をもぐもぐだけが取り得のよって道還。
まあさわっはっは忘れ呆け、
たかちゃんも若しやまた復活するか、うーんわかんねーさな。
2011年04月27日 08:53 せっちゃん ショートショート・からす
どうやら雪も消えたな、庭掃除ちいっとしたら雨が当たる、さっそく時化込んでテレビを見たら、メキシコの革命映画かな、銀行強盗が英雄にるついには将軍というはちゃめちゃ、いや大真面目の虐殺シーンオンパレード戦争ありゲリラありって、なんせ字幕出るでつんぼのわしにも聞こえる、わっはっは裏切り裏切られ、ダイナマイトしか信じられなくなった野郎が壮絶な死。一神教のなれのはてかうっふふ。人間てのは鳥と違ってささいな幸福さえ命がけって命題らしーな、しかも幸福はダイナマイトに吹っ飛んで、はじめてなにかしらってえ。
計算しつくされたお粗末。
幸福は三つのころまでに200%ってさ、あとは悲惨無惨のいったいなんだったんだって、振り返ることも不可。たらいからたらいへ移るちんぷんかん。坐るっきりないのさ。すべてを捨てて。
間違いだらけにお茶を濁す、悟った悟らぬ、だからどーの強いてひけらかしたって、若しくは自分がすなわち自分以外が知っている。
良寛さんも死んでさへ誤解の渦。
わずかに知るとは、わっはっはメキシコ革命のくそみそよりも大苦労かな。
耐え難きを耐えしのびがたきをしのび、千年に一度の大地震。
日本国民だって知らん顔の半兵衛、わしは問題外さ。
烏のやつまた来た、小屋の裏にたぬきが死んでいた、雪消えに現れたときは、歯茎むきだしの蝿たかりしてもーどーにもならん、
おおたかのえさにと思ったが、持ち運びもならん、頼り甲斐は烏だけかな。
いちりんそうが咲いて今日は。うぐいすがへたくそに鳴き、へたくそにわしも鳴き。
舌噛み切ってもてめえ幸福なんか求めるかって、わしがいちばん幸福かな。
なんでさなよーもわからん。さて黄昏坐。
2011年04月28日 08:35 せっちゃん ショートショート・朱の衣
かーちゃんが朱の衣を畳んでいる、なんという美しい色なんだろう、驚嘆に値する、何百回と着てたった今気がついたかな。
「朱ってなんで染めるんだ。」
かーちゃんは返事しない、きちんと畳んでから墨染めにかかる、これも実に美しい。衣を畳むのはらごら坊主の得意技だ、唯一真剣になる、というのも衣は高価だし、お袈裟になると何百万するのがある。嘘八百猿芝居の法要とうっふー女と車と。かーちゃんは尼さんに教えられて畳む、次第わしは忘れて袖畳という略式もだらしなく。
朱を墨染めに染め直すと、いーんだってさ。
朱の衣は一等教師という、ようやくこの寺を継ぐべく、その上は袖にひらひらのついた正教師、それから黄色い衣の権大教師、宗門が位の数は一番少ないんかな、神主は十何段階もある。
老師が赤紫衣権大教正という、禅師さまに次ぐ位になって、ゼニ取られるだけ物入りでさと、まあさ押し付けられてまんざらでもなかったんかな。たしかわしが年一万円で、黄色いのになると百万円宗門に払う。
衣の色はお布施を稼ぐんだってさ。
朱は塩化第二水銀だったったか、食わせ物の弘法大師がお寺を開くところ朱ありと云われて、そりゃもう宝だった、金銀珊瑚と並び称される。水銀は金属であって水のような、不可思議千万、命のみなもとと云われて、きょうほ皇帝など、おむつをした皇帝は、水銀を飲まされて夭逝したってわけだ。
原発のメルトダウンとどっか似るかな、神さまアーメンに中国共産党に、現実に近道をつけると、オールマイティってたいていろくなことにゃならん。
烏が鷲みたいにふわーり飛んできた、たぬきの腐れむくろまだ食っている。そりゃありがたいこった掃除屋の鳥葬。
坊主と同じ墨染めがお似合い、良寛さんのおんぼろ昆布みたいな衣の。一休さんの真珠庵は墨染めが跡継ぎ。軒をてらうもそりゃ坊主のわざか。
わしゃ遊び呆けてなんにもならん、かーちゃんにそっぽ向かれ、寺追ん出されて、理想の生活湘南ホームレス。
なんかいーことねえか、きしょーめ。
2011年04月29日 08:37 せっちゃん ショートショート・ぜんまい
へーんに曇って時に寒さ雨が降って、ほんにさ大地震でもやって来そーな、なんとも意気上がらん風情、もーじき接心で人が来るで、そーしたらなんとかなるって、うっふーなにがなんともならん毎日。東北の旅に出て温泉だ大盤振る舞い、孫大先生の孫だ、いやさおばさんの親父の赤の他人だってんで景気よくやらかして来るか。こんなんじゃ東北は冷害の夏、角館の武家屋敷の花見て、弘前城の百年もののそめいよしの見て、風評被害もあって観光客はばったりだべな。なみどくがっていうのいてへんごな年にゃ流行る。踏んだり蹴ったりの。
原発騒ぎおさまって、世の中落ち着いたら台湾へ行こう、まだ行ったことないし、食い物えれーうまいっていうし、すげー寄付してくれたんだそーだ、お礼奉公だ。なんでわしは飲んで食うことしか考えねーんだろ、当たり前だほかのことなんもできねーのさ。
ぼかっと被さった日本沈没払拭する方法ねーか、おまえ死ねばいーってさ、死ぬほかには、晴れた空を見るさ、雲の泳ぐたってあんなに美しいもなねーな、世界宇宙脱落して、日本沈没も花びら一枚。
酔いどれじっさ人生の楽しみを知る、印可底のたかちゃんと同じだな、おねーちゃんもだれも見向きもしねーんが違ってるか、うぐいすもからすも花びらも、今いっち張り切ってるのは楓の若葉か、みずみずしいってあいつのこと、うっふー昨日までは立派な新芽だったが。
ぜんまいとりにわらび取りに、むかしはお斉をこさえるために毎日歩いていたな。ぜんまいは茹でて筵に干す、干してから毎日揉む、それ知らんで針金のよーにつっぱらかして、笑われたっけな。けっこう大仕事で、わらびはぜんまいの代用だ、さきっぽが三つ指してる他は、味もまったく同じ。
墓掃除もしない、庭掃除しては休み、しんどいといってさぼる、なーんもしない眺め歩くだけか。来春まで生きていられるかって、因業だで生きていそーだ。
黒岩んとこの新築本堂のふすま書かくんだった、もっほちゃんから筆取り寄せて貰って、使い方も教えても習って、とにかく筆慣らし。でっかい字書いたことねーや、なんとかいうダウン症の女の子に頼もうかな、あいつまったくすげーの書くぜ。
2011年04月30日 08:23 せっちゃん ショートショート・血盆
兎が来た、今年生まれたんだな、まだ大人になりきらず、茶色の毛並みの足は真っ白。あっちへ行きこっちへ行きすっ飛んで竹やぶに消えた。まだたけのこは生えんな、うら寒い変な天気が続いて、たらのめが出たまんまでごっつー固まる。
挙す、趙州投子に問う、大死底の人却って活する時如何。投子云く、夜行を許さず。明に投じて須らく到るべし。
死んで死んで死にきって思いのままにするわざぞよき、思いのままとは想像を絶する、若しや善悪の延長上にあるなら死んでいない、思いのままと思いよこしまと、自由無碍とはまったく自由なし。趙州和尚投子に問うのに、却って活するとき如何と、わっはっはこりゃ油断も隙もないわ、跪獅子の如く、臨済宗のお祭り騒ぎではなく、実に自然にこの問いが出る、さすが趙州って、その答えがいい、夜行を許さず、明に投じてすべからく到るべし、この問答大好き人間です。明に投じてすべからく至るべし、百二十歳までやっていたんだな趙州。死んだものは生き返らないのさ。まったくの元の木阿弥。三つの200%世の中、でもってどー生きるかって、見本なんにもなし。めっちゃくちゃ地面ぺったん蛙のはらわた。わっはっは嬉しくなっちまうなこれ。
大趙州にはおよびもないがせめてなりたや投子さまって、さっきどっかへすっとんだ野うさぎかな、投子義青一宿覚、ものすげーったらこんなん史上何人もいないんだろーな。
無門関も碧眼録もいらねーやな、わしの欲しいものは、ふわー欠伸ったら昼寝、腹減ったら食って、酔っ払ってごきげんでうーんなんてえふがいない男だ、
あさってから接心だな、わしの道楽のおかげで、てっちゃんもかーちゃんもさんざくた。檀家どももさ、でもってわしが師家だって、ぶはっほんとかよそれ。
なんだあへんな顔してるぞ、べったりがき面して血がしたたりそーな唇。新人おねーちゃんも来るのってにさ、助平な顔しちゃ駄目だ。