ショートショート1

2010年05月25日 08:13 せっちゃん ショートショート・金色てん
 修那羅の石仏は松茸で有名な別所温泉の裏側にある、350の神仏や布袋さんやきつねたぬきの像もある。急坂道登って見に行ったら、帰りにてんに会った。見事な金毛の大物、のこのこ登ってくる、しのびあいの二人ただずむ、二三メートルに来て気がついて見上げ、とっこと山へ行く。
「てんも化かすってえけどほんとか。」
 聞いたら
「女の顔見てみろ。」
 ふうと笑う。なんと彼女の鼻がのーんと伸びて、
(うわ象だこりゃ。)
 と思ったら、どうなったのか、
「なんで落っこちたの、怪我はない。」
 彼女が聞く。道からずり落ちて、松の根っこにひっかかる、
「まつたけが生えていねーかな。」
 そこらへんうかがうと、
「こりゃまつたけ泥棒。」
 石仏のまあしょうきさまが突っ立った、とっつかまって罰金を取られ、ようやくに放免、
「いくら取られたの。」
「木の葉っぱ三枚ばかり、へっへ。」
「なんのこと。」
 彼女の鼻が長くなる、ありゃまだおかしいぞって、帰って来て写真を見たら、一枚だけ変なのがあった、お地蔵様がにやーり笑っている。

 ひらちゃんは真面目なお役人で、写真の編集を頼んだ。せっかくの休みをいわな釣り行って、かじか三匹釣って100キロ走り、でもって写真に五時間もかけて帰って行く、
「一枚変なのあっただろ、お地蔵さまのさ。」
「いやそんなことない。」
 そうかなあって、それが三日間行方不明になった。
 道っぱたの田んぼに突っ込んで、半死半生で見つかった。
「どうしたんだ。」
 いや黄金の服着た、真っ黒な顔のおっさん現れて、いわな釣らせてやるといった、ついて行くとみたこともねー山谷で、それっこそうなるほど釣れた、こーんな二尺もある大物からと云った。
 ぴょーんと跳ねて、朱鷺を食ったのにはわけがある、米軍基地は佐渡に持ってこい、日本は占領下にある、それに気がつかにゃならん、佐渡を朱鷺とともにアメリカに売ってと、わけのわからん演説を始めた。興奮してろれつがまわらなくなった、もう一ヶ月も入院している。

2010年05月26日 08:42 せっちゃん ショートショート・宇宙燃料
 みずばしょうと雪と,あんまりの美しさについたとたんに万歳、東電小屋に泊まった、明け方不如帰が鳴いて、昨日は夢のような浮島を見て、白骨化した大木や冬を越えた魚や、さかしまに影を宿すひうちの峰を仰ぎ、今日はなにしろ旅行く、
浮島の月に浮かれて梓弓春たけなはの行方知らずも
白骨と化すらむものは青春の巨木にあらむあららぎの木よ
降りしのふ雪はもいかに湖の底なる魚と眺めやりつつ
 もう一首できそこない詠んで行くと,ついたばかりの女の子が二人かがみ込む、写真を撮るらしい、おしっこしてるんかと思ったらさ、ではあいつをひっかけてー
 何か声が聞こえた、
「ふーん歌を詠む男が来たか、こっちへ来い。」
「なんだい。」
 ふりかえると、ようもわからん男が立つ。
 絶世の美人にあわせようかという、
「ぶすい山女か。」
「天女さまだあな。」
 ほんとうに天女さまだった、わしは気絶して、みずばしょうの中にふん伸びていたらしく。
 十万年前に宇宙船が不時着して、尾瀬沼ができた、ひうちの山はしばらく火を吹く、われらは冬眠装置で眠っておった、たったいま声が聞こえてよみがえった、はるかな尾瀬じゃなくって、おまえさんの歌であった、ついては命が欲しい、人の命十人分もあれば宇宙空間を飛べる。
 たしかにそのように聞こえ、なぜか30年もたってふいに思い出した。
支店長が消えた、ネオちゃんが消えた、どろちゃんもっほちゃんが消え、なぜだ、
「うとうとっとしたら30年たっていた。」
声がした、
「天女さまの思いを尊重する、十一人めの命の卍はおまえだ。」
 たしかにあれは気絶するほどのー
いついつか流転三界白鳥のしのび廻らへ神の田代を
 死んじまったかな。

2010年05月29日 08:41 せっちゃん ショートショート・グルメ
 清彦はグルメだってんで、浜で釣った魚をぶっこんで味噌汁にして食う、そりゃうんまいときはぞっこんうまい。釣った魚を三枚に下ろして鮨に握って食ったり、山へ入ってきのこを取ったり。こうたけのチャーハンがすんばらしかった、うしびてというきのこを焼いて食うのが最高、野蛮人やっていたら、あるとききのこに中って全員討ち死に、清彦もトイレに三回行って黙っていたら、一家みんな腹下し、それ以後きのこを取って来ても人みなそっぽ向く。岩牡蠣取って来いといって五月初旬、生で食ったり酢牡蠣にしたりフライにして、こいつが全員中った。時期が早かった、普通の食中毒と違って日が立つにつれて悪化する。ところが本人だけ、人三倍食っておいてぴんぴんしている。ふーんこりゃどーゆーこった。もしや人間じゃない、ではエーリアンだ。
どーゆーこったって一人グルメやっていたら、
「あたし生まれつき声帯に欠損があって、耳は聞こえるけど声が出ないの、こんなわたしでよかったら付き合ってくれない。」
 という女の子がいた。
「いいよ。」
 といって、身振り手まね筆談して、音楽を聴きそれからグルメして、ろくでもないもの食わせて、楽しんで仲良くやっていたら、
「処女のあたしを食べて。」
 と、ある日突然云う。いや書いた。
「グルメでしょう、げてもの食いの。」
 ふーんそりゃ問題だ。
 三日三晩考えて、
「うんいーよ。」
 と云って、とっときのワインを買って、いっしょに飲んだ、
「処女喪失に乾杯。」
 甘いおいしいワインだった、彼女はどーも飲みすぎた。さあとというときに失禁して、身振り手振りがよーもわからん。
 あんりゃろれつがまわらんてやつ。
「アルコールに弱いの、あたしはエーリアン。」
 と紙に書いて、そのまんま逃げ出す。
 それっきりわからない。
 清彦はなぜかむしょーに悲しくなって、さがしている。

2010年05月30日 08:28 せっちゃん 「この桂はそのむかしこの地を訪ずれた覚鑁上人が、」
 うぐいす嬢がいう、なんのなにしてなんとやら、ありがたーいお話の、
「説教のしるしに杖をつき立てた、その杖が茂って桂となった、月の桂と同じだそーです、千年たって大木になりました。」
 覚鑁上人は宇宙飛行士のさきがけで、月に往復したってわけだ、なーるほど、二郎が桂に手を触れると、ふーいとそやつが一本の杖になった。
 杖をとって歩いて行った、桂の大木も三宮市も観光バスも、はーて自分も忘れて歩く。
 戦の跡のような、半ば腐って鎧を着たむくろが転げる、阿鼻叫喚のちまた、どういうこったこれは、家など一軒もない、森があって川があって、もやいかかる。
 祠があった、杖で敲くと、へんてこなばばあが出た。
「お上人さまだろーがの、ここはわしの仕事だで、いんでくれ。」
 という。
 あばらが浮き出てたらちねの、口は耳まで裂けて、ほーこりゃ小気味いいや。
 亡者の行列だった。
 ばばあは見境なく着物をひっぱぐ、もちものを。
「奪衣婆か。」
 興味が無いから先へ行った。
 裾を引くやつがある、
「三の宮三之丈だ、敗戦は仕方が無い、生まれ変わって仕返しじゃ、お上人どの、またの世を都合してくれ、これは寄進の大枚じゃ。」
「あほくさ、せいぜいばばあにめっからんように泳ぎ渡れ。」
 杖に敲くと、川の辺に衣だけになってふんのびた。
「つまらん。」
 帰り道がわからん、ばばあのところへ行く、
「だめじゃ、順番待ち。」
 ひっぱたいたら、ふいっと元へ戻った。
 警察がいた。ふんずかまった。豚箱に三日いて放免になった。
「たしかにおまえさんだというのがいたんだ、車三台川へ突っ込んで、神社に火つけて、お宝の桂が燃えたんだ、さっぱり証拠もなくってな。」
 どーいうこっちゃそれは。
 わけ知りの神主が云った。
 千年めに覚鑁上人が目覚める、へんくつ、時流に外れた人がとっつかれる。まあそういうこったな。なんだいったいそりゃって、わからんわけでもねーよーな、二郎は思った、ふわーい欠伸。

2010年05月31日 08:26 せっちゃん ショートショート・くまがいそう
 クマガイソウ群生地、熊がいそうってなにもう一回読み直して、じゃ行こう平家なり太平記には月も出ず、くまがいそうまだ見たことない、走り出したら行けども行けども、止めとけってえと標識が出る、十三キロ走ったら人だかりわんさかたかって、くまがいそう祭り300円也。ぬかるみどろんこ登りつめたら、あった、こりゃすげえ数百いや千もの花、十六歳の敦盛切っちまった、血染めみたいなたっぷりくまがいそう、二つ花をつけた珍品もある。
 なーんまんだぶと云って見ていたら、おまえさん告発されているぜって声が聞こえた。
「だれだ。」
「いいかげんという恐ろしい神さまさ。」
「ふーんなんの罪だ。」
 とにかく聞いた。
「そーさな、おおかた四つばかりあるか、一真実を云う罪、二歌を詠む罪、三、とんとむかしを作ったた罪、四仏教を広める罪、どれ一つとっても死刑だな。」
「なんでさ。」
「一は、敗戦の腰抜けがみんな仲良く平和にって頬被りしているの引っ剥ぐこと。二は日本人の心を訴えるというはねっかえり、三はなつかしく悲しいという劇薬、四は仏教はこりゃもうもってのほか、酌量の余地はまったくなし。」
「どーしたらいーんだ。」
「見ざる聞かざる云わざるの、むかしの美徳を守りゃいい。」
「そりゃだめだ。」
「では逃げろ、じきつかまるがな。」
「しょうがねーなあったく。」
 熊がいそうじゃなくって絶滅危惧種さな、おまえさんはえーっと絶滅種かわっはっは。てやんでえ


2010年06月01日 08:37 せっちゃん ショートショート・いつかし
草をむしって落ち葉を掻いて、樫の葉っぱわんさか、ばけつにいっぱいにして捨てに行く、わっこのついた椅子を尻にして、年寄り仕事は疲れたらよす。
 お屋敷のわしはいっときは持ち主だった、人手にわたって、三代のちに空き屋になって、空き屋の草むしりをする、ホームレスのさ追っ払われないだけましだ。
 羽振りもよかったな、一晩にキャバレーで百万円も使ってみたり、ぽんこつヨットに乗ってかじきを釣る、ヨットじゃかじきは揚がってこない、あれは面白かった、ふだらくや人の方が投げ出され。十万円のワインを開けて、占い師に頭からぶっかけてきちがい騒ぎ、あほうなこと抜かすからだって、当たっていたわけだ、振られておしまいわっはっはすっからかん人生。あいつはどうしたかな、永遠の恋人は、なんしろそういう渾名を付けたんだ、わさびを効かせすぎて悶絶しちまう、腐らないから永遠の彼女だ。ふん思い出ってば性懲りもなく同じパターンの、わしももう永くはないな。
 草をむしってはトランプをする、ひまつぶしって。
 ほかのことなんかなんにもできねえのさ、
 昨日奇跡が起こった、七つのスートが完璧に開く、トランプを並べ出して以来こんなのは始めてだ。
 わしにもう一つのチャンスがあれば。
 そんなことありっこねえっての。
 あると出たんだ、もしやせがれが生きていて、お屋敷の樫の木はせがれの物さ、樫の木からお宝が出る、うっふそんなんじゃねえ、そんなんじゃねーけど、なぜか気に入って、家追ん出るときに、樫の木はおれのもんだと云った、
 お稲荷さんといっしょに登記しておいた。
 せがれは一度無心に来て、あとはそれっきり三十年たった。
 お屋敷が売れるってこと聞いたんだ、二束三文にしろ一千坪はある。
 なにを考えているんだおれは。
 抜け出して飲みに行った。
 あそこに占い師が立っていたんだ、
 なけなしはたいて見て貰った。
「せがれさんは海の方。」
 占い師は云った、
「樫の木が呼んでいる、若しやきっと帰ってきます。」
「どういうことだそれは。」
「おまえさまとせがれどのとその母親を結びつける因縁。」
 三日たった、十日過ぎた。わしは忘れ呆けて寝たきりになった。
 ふいに海のにおいがした、
「なんだいたのは親父だったんか、ワインをぶっかけて孕ました占い師がおふくろだとはな。二人揃ってお屋敷の内外にいたんだ。あほみてえな話。」
 樫の木に金冠があった、縄文の金冠だ、海の向こうにも同じのがあった、、お屋敷には、百代めの樫が育つ、一儲けできるぜ、そーしたらおふくろを呼んでさ、わしに似て嘘とはったりがさ、ふうっと息が絶えた。
 縄文の金冠はほんものだ。
 世界遺産的代物らしいぞ、死んじまっちゃおしまいか。

2010年06月02日 10:29 せっちゃん ショートショート・竹の高地
 昭和十二年になにやら噂を聞いてお役人が尋ねて行ったら、異様な人物が飛び出して来て、
「源氏は滅んだか。」
 と聞いたっていう、竹の高地だ、ずっと山道のどんずまり。
 和紙工房があって雪消えに尋ねた。
 竹の高地の、それがやっぱりどんずまりだ。
 和紙と短冊買って来た。
 こけぐま出版が本売れたってなにがしかくれた。
「では飲みに行こう、八石山ステーキだ。」
 車は四人だな、もっほちゃんにどろちゃんにもう一人ったら、野郎が一匹葬儀屋練習生だとさ、
「あほか安月給。」
「いえ里へ帰って葬儀屋開く、ぼろもうけです。」
「ふーん。」
 ボトル一本とって、ステーキはミディアムレアーがいい、ちえわしは知らんでミディアムにした、山菜の付け合せピックルス、乾杯うわーい、こけぐまちゃん短冊売れったらこーんな目した、きしょうめってんで、ステーキのあとへ飯のっけて食うとうまい、みんなまねして野蛮マナー、
「口蹄疫なったらたいへん。」
「食うときそんな話するな。」
「竹の高地へ和紙買いに行こう。」
「うん行こう。」
 小国から小千谷へ入る。
 いいかげん行って、
「あんれ道間違えたかな、えれえ山ん中だぞ。」
 まだ雪が残っていた、倒木が道をふたぐ、雪を踏んでずるり、スノーなんかもう履いてない。
「わー。」
「きゃー。」
 ずり落ちてストップ。
 うひーどーする、死ぬって誰か来る、助かった、
「はたやまは滅んだか。」
 異様な風体のまあ、空色をした迷彩服。
「平家の落人か。」
「しゃかいとうだ。」
 社会党がなんで迷彩服、
「うっさい、北朝鮮の魚雷はCIAが仕組んだんだ、はたやまにさっさと基地作れってえサインだ、」
「うんでなんでしゃかいとうだ。」
「口蹄疫流行らせたってえことになって、人も感染したってんで隔離された。」
わっはっは、思わず噴出しちまった、
「笑うとはなんたる、我らはここに理想郷を築く、しゃかいとうだえいえいおう。」
 まわり中空色の迷彩服になった、
「じじいはいらねえ失せろ、女と若いの置いてけ。」
 気が付いたらそこら走っていた、しこたま飲んだけど、それっきり三人の消息はない。
 へんだぞ口蹄疫んなったかな。

2010年06月03日 08:25 せっちゃん ショートショート・入れ歯
 あっさりしたいい歯医者だった、申告しなけりゃなんも診てくれん。ちゃんちゃかちゃーんやって貰って入れ歯した、そいつが焼き鳥食ったらひっかけた。なんこつとか食ったせいだ、でもってまた入れて貰った。
 はてなまた焼き鳥食ってぼっかけた、しょーがねーなあって15万出せいいの入れてやるって、清水の舞台15万、金属性の別誂えが入った。
 なんとまあ調子いい、口笛でホーホケキョと鳴ける、得意技だ。
 うわこりゃりがてえ、うぐいすと競うと彼は必死になって鳴く、悪いことしてせっかくの彼女取っちまう。せきれいの鳴き声したら、せきれいのやつふわあと襲い掛かって、挙句の果て子供おっぱなした。しゃーない巣こさえて置いておいたら、餌付けしたらしく無事巣立った。
 そのいい歯医者、どうしたんかぽっくり病で死んでしまった、五十だった、歯医者死ぬと病院もナースも奥さんもおしまい、ふーんそーゆーもんかってわしもおしまい。
 でもなんしろ歯医者行かんきゃならん、女歯医者だった、ブリッジしてあっちこっち診て貰って、診療台ってせっかく彼女の股間にニアミス。けっこういい女だった、離婚訴訟中と聞いた、気を入れたらむーんと女の匂いする。
 彼氏になってくれる、奥さんいるのわかってるけどと云う、うんいーよでも。
でもなーに、いやなんでもない。
 彼氏してなんとはなし云っちまった。
 一生にいっぺんでいい、モーツアルトが好きな女を恋人に欲しいと思って。
そんな女いるわけねーやな、四分の一音程がわかる小沢せいじだってモーツアルトはさっぱりだったんだ。
「あらあたしピアノとハープできるわよ。」
 聞かせて貰った、どこがモーツアルトなんだ。
「うんうん。」
 感心してからに、二度と聞かなかった、鶯と鳴きあわせして、しばらく歯医者も行かなかったら、来てっていう、今夜来てという。
 行ってみた、彼女はバスタブにつかっている、鱗が生えて人魚になっていた。
 モーツアルト、なぜか痛烈にそう思った。
 美しい人魚だった。

2010年06月04日 08:28 せっちゃん ショートショート・松代うさぎ
谷を超えピーヒャラドンと笛太鼓月に浮かれて松代うさぎ
 のこのこと親子のうさぎが道を過ぎる、あっちにいたと思ったらこっちにもいる。山へ入ろうと思ったら野糞踏んずけてえらいめにあった。人のうんちはぐーわ車中臭う、水溜りにこすりつけ山を歩いて何の因果だ、ようやっとこさど無罪放免。このあたりは地滑り地帯だ。たらちねじゃなくバズーカ砲ぼいんのフランスかーちゃんの旦那は、親父の特許でもって地滑りの計測をしていた。地滑りは大変、人身御供を建てて祈るんだそーの、
「いや女は貴重品さ、そうそう行き倒れは転がってねえしな、ふんどしの汚いのから択ぶって話。」
 だっていう。そりゃ大きにありうる、学生のころパンツ貸してくれえ、いやだ、しゃーねえ敗者復活戦とかやっていた。あのころ惚れた女の子がいた、そりゃもう美しいのなんのいって、思っただけでふるえが来る。
 若しや人身御供っていうのはあんな娘を。平家物語風美談にしなけりゃ、日本人は収まらない。いやさ純情だもんで、言葉一つ掛けられない、待てど暮らせどってのは向こうのこったか、しまい逃げ出した。それでいいのかっていうと、なんせ頭剃って坊主になっちまった、女口説くほどの甲斐性もなかったんだ。
 そうしたらそっくりの子がいた、百年たってさ、綾子舞会館で踊っていた、高校生ー中学生かな、きれいだねって声を掛けた、すてきだね。
 そっくりの笑顔。
 あしびきの雪ふり袖の如くして出雲の阿国はいつ問ひ越せね
 出雲の阿国が名護屋三郎と、佐渡を追われて行き倒れになったのは、黒姫を挟んだの向かい側の鵜川上流だ。室町の踊りがそっくり伝わっている、なんかすばらしーんだな。名護屋三郎のほうは、ふんどしごと人身御供にされたって、わっはっは聞かねーか。
 谷を超えピーヒャラドンと笛太鼓我れも人の子風立ちぬべく

2010年06月05日 08:19 せっちゃん ショートショート・地震
 釣りがしたくなって、道具一式買って二三時間釣った。そうしたら眠くなる、歌ったりがなったり、はっと目を覚ますと対向車線に入って、ガードレールにぶち当たる。うしろ振り向くと、でっかいトラックが停まる、ワゴンが停まる、セダンが停まる、
「なにしてたんだ余所見運転か。」
 ワゴンから飛び出して来て聞く、
「居眠り運転だあ。」
 何事もなかった、みんな行ってしまう。
 命拾いした。
 わしの寿命はまだ尽きなかったか、つくつく思った。
 そのちょうど同じところから地震が来た。
 中越沖地震だ。
 ふえーわしの命と引き換えになと、どーもこーもならん。中越地震ではもろ喰らった、震度五強がそっくり四回も来る、ひどいことだった、恐怖症になって、しばらくは風が吹いてもヘリが飛んでも地震だった。
 中越沖のほうは家屋の全壊するのがめだった。雪の倒壊と同じものの見事にめちゃんこ。
 わしんとこだってまだ完全には修復していない。
 新潟地震の時にも新潟にいた、これはどかんと来て一発最大だから後の恐怖はなく。津波が美しかった、信濃川を逆流する。目の前に昭和石油があって、一ヶ月間燃え続けた、ナフサが爆発するときはものすごかった。いやガスも水道も止まった何十日間。
 あれは国体のあった年だった。共産党は大嫌いだったが、てんちゃんなど云って不敬罪が、天皇皇后のお車にむかって、知らず万歳を唱えていた。皇后様のあでやかな笑顔が忘れられぬ。
 若しや昭和天皇に殉死すればよかった。地震も北朝鮮も温暖化も株価暴落も、理不尽悲惨陰惨なことは、むかしでは思いも及ばぬ。
 日本人の行く末もわからん。
 てめえ仕出かしごともめったくさ。
 良寛さんのころの三条地震がもじき来るとか、いやもうこりごり。
 なんの因果か寿命があった、浮世の業がまだ済んでいない。
 業が尽きたら殉死ではなく、月山に行ってミイラになろう、雪消えぶなの新芽吹く、一生の垢を落とすにはよし。

2010年06月06日 09:34 せっちゃん ショートショート・雉
 田んぼにでっかい烏と思ったら雉だ、立派な尾羽が見えず遠目には烏そっくり。お寺には雉はいない山鳥ばかり、雪が積もっておっこうが頭を出す、山鳥の一家が啄ばみに来る、そっと窓から窺う。お寺の山は休猟区だった、来年は解禁というと雉山鳥を放すらしい。雉の鳴き声が聞こえる、雉も鳴かずば撃たれまいとさ、けーんけーんと山を鳴き歩く。なんだか切ない。
 車屋が鉄砲撃ちで二三獲物を持ってきた、そりゃおいしい、鴨は庶民の雉は殿様の食い物なと云う。弟子二人と出た車に雉が飛んできてぶちあたる、雌だった。半殺しじゃいかんといって、弟子がスタンピングする、そこに警官が突っ立つ。向こうの曲がり角に見張ってた制服だ、とっつかまるかと思ったらなんにも云わぬ、雌雉拾って逃げ出した。
 マニュアルねえからなんにもできねーんさと、空手馬鹿の羽賀が云った。
 魚三枚に下ろすようなわけにはいかん、四苦八苦して
「いた! 」
 指を切りながら料理した、おいしかった。
 夏なるともう食えた代物じゃねえと、羽賀が云った。
 解禁になる冬のものらしい。
 関わりのないことを思い出した。若いころ年上の女を愛して、例によって鳴き声を上げて、そのあといじめられた子供のような顔、いつもは仏さまのようなニールバーナが。やがてもう会わないという、どうして、上がっちゃったから、へーえよくわかんねーけど、上がったら純粋に愛欲だっていうけど、ふーと笑ってありがとうと云う、それっきり。
 ぶんなぐられたようなショックだった。
 マニュアルがあれば気が利いたことも云えたんかな。

2010年06月07日 08:55 せっちゃん ショートショート・ふぇゆとん
 フェユトン時代三百年のフェユトンとは文芸欄のこと、詩と真実なく噂とパロデイの時代が続くという、そうしてガラス玉演技という文芸復興が興る、ヘルマンヘッセのSF小説。二十歳のころ読んで感動した、三百年も待てない、今この手でルネッサンスをと思ったのはいつであったか、ガラス玉演技の心の担い手は禅マスターだ。では仏になろう、正師について十年二十年、無心の如来になる。山本健吉の芭蕉を熟読玩味した、俳句はできぬが、和歌ならなんとかなりそうだった、二十年してものになる。人が立ち上がって歩いてくる、声を聞く幸せ、うったえる不思議。ついに二できた、人みなそっぽを向く。孤軍奮闘もまったくまったく問題にならぬ、なんだこいつは、これが現実だ、三百年早かったのさ、そーかそりゃそういうこった。
 修行は身についた、歌は一千首。
 一人きりでもかまわない、
 良寛も一休も一人きりではないか。
 たわむれに手相を見て貰った、生涯終わったようなもんだでと云うと、その手をとって、こんないい手相は見たことが無いという。、志すところの詩歌芸術はすべて完成し、仏眼が広大に見開く、人の師たるべき上々吉、宗教性あり予知能力あり云々、九十一までは生きられますと。
 へーえそうか、なんとまあわかる人がいた。
 あれもまた花でありしか深山木の六十を過ぎて初に知れりとは
 ほかになし、日々新たに朝打三千暮打八百していたら、受け継ぐ者があったた、忘我してこれを得る、再度脱して仏になる。
 美しい女性であった、
「わたしは天人の末です、しばらく自分を見失って、目は彩りさえ見ず、耳は声を聞かず、死のうとして死ねず如来に出会った。」
 二人寒山拾得。
 この上なし、歓喜をもって暮らせば、天人は天人を取り戻す。
 鼓をうって花の雨を降らせ、伎楽天となって舞い踊る。
「おまえさまは何故空を飛ばぬ。」
「もとは毛なし猿。」
 心は虚空にあるのに、さあおいで、舞い踊って歓を尽くそう。
 フェユトン時代は終わった。
「さあおいで。」
 と引っ張る、
「だめじゃ。」
 そんなはずはないといって鞭打つ。
 ぎゃあこりゃあたまらん、喚いて目が覚めた。
 なんにもなく。
 なんという雲の美しさ。

2010年06月08日 08:56 せっちゃん  ゆーしんは遠くへ行ったってせいぜいいじめに出会うきりの、同じだといって地元の僧堂に行った。悟があったし間髪を入れずの対応が、さしも見込まれて師家にと云われて、年が明けるとさっさと帰ってきた。
「やだー面倒見られそ。」
「あっはっは三十年辛抱な。」
 ゆーしんのしゅーかんを連れて来た、渋谷で商売して成功したんだそうな、思うことあって出家した、僧堂に半年いてあほらしくって逃げ出した。
 熱心に坐ってほどなく見る、庭を歩き回って、わしのいうことはほんとうだった、身心なものみなあると感嘆する。
 風来坊して行く、だれかれ親しくなる、不思議な男だった、二三はわしも付き合う。ベトナムに行って冬を過ごす、一日百円ですむんだとか云っていた。 こーせいは僧堂でふてくされていたのを連れて来た。
「すべての書は読まれたり、肉は悲し、若しやそういうことか。」
 と云う、
「ちがうけんどもさ。」
 と云って聞いてやると、涙を流す。
 求めているものに僧堂は答えぬ、お布施と猿芝居のいじめしかない。
 弟子にしてくれと云えばしたんだが、云わなかったからそれっきりになった。 しゅーかんはホームレスになった。
 ゆーしんが東京で出合ったという、一杯飲もうといったら、飯食わせてくれという、それが最後になった。
 宗門には仏教がない、坐禅では草むしりもできませんなど平然という。達磨さんに毒を盛り、道元禅師に後足で泥をぶっかける、まあさそんな元気もなくなったか、坊主と付き合うとは、うそをつくこと。
 らごら(お釈迦さまのせがれ、お寺の子の蔑称になる。)四代、先人古聖のせっかくの伝統を食いつぶした、
 わしは宗谷岬まで行って、小樽のホテルで最後の一泊、稚内がおんぼろけで、ちっとはおごるかといって、こけちゃんやもっほちゃんや弟子どもと、出来立てのホテルに泊まった。
 僧堂の坊主どもがいた、北海道に托鉢に来る、しゅーかんはその途中に逃げ出した。若いのがすくみあがった、よったり自信のなさそうな大坊主ども。
 空威張りらごら坊主の世は墜へ割を食うたか月見に一杯
 さーてあといったいどーなるって。宗谷岬は牧畜だけで暮らす、厳しいってなんにもない、小樽宮平の洞窟に壁画があった、人もけものも舞い踊る縄文の月。ものを変革して面倒ことより、ことを伝えて死ぬまで生きるさ。

2010年06月09日 11:14 せっちゃん ショートショート・山のうてさ
 お寺の心字池は蛙合戦の池で、げこげこがあこやっているうちに、あっちもこっちも卵塊がとぐろを巻いて、じきに真っ黒けになって子がきが山へ上る。踏みつけぬよう歩くのが精一杯。せっかくの蛙合戦を気味が悪いといって、ばあさんが世話人に頼んで駆逐した、女のやることはそりゃばあさんでもわからない。
 夏になる間に蛇の特異日というのが三回あって、むし暑い曇り空、辺りかまわず蛇がのったり出る。蛇寺もいいところで、青大将の抜け殻が開山堂に三つもあったりする。蛇なんざなんのその、わらび取りに行ったら、竹やぶうらにうわばみがいた、劫を経て紋柄の失せたやまかがしだ、茶碗の太さがあって三メートルを優に超える。ぞーっとした、ありゃ大の男がぞーっとする。逃げて来た。
 山の主だろうが、どうなったか二度と見ることはなく。
 山は杉を植えさせられ、公舎造林だといってせっかくの松山きのこ山が台無し。まつたけもだがだいこくしめじが群を抜いて立派であった、はやそれっきり。残った松には、まつくいむしがついた。
 若い松が生え出して、香茸が復活した、そりゃあもうどっさり出て、シェフが来てチャーハンにしてすこぶるつきをみんなして食べた。でもっておしまい、まつくいむしは松がいくらか生長すると取り殺す。どうしてまあこうなるんだ、中国のせいだと云って、わっはっは。
 もののけひめが自然を復活すりゃいい、蛙退治のばあさは、岩倉具視のせいで偽官軍にされた、赤報隊の孫で、山へこもったから、山のうてさと云われた。三つ目が通るの三つ目みたいに頭が切れた。教育さえありゃいっぱしになったんだろうが、せがれが馬鹿で台無しになった、隔世遺伝というと、内孫も外孫ももののけひめってふうで、そいつが育ちそくない、やっぱり親が間抜け。
 多摩川は復活した。若いころ川が全滅して、人の心が消えたように思った。
 川に船を浮かべて下って行ったら海へ出た、竜宮の使いが来た、虹の冠を振り立てて、山のうてさのせがれ、赤報隊のせいで山へ篭って、竜宮へ来いといった。乙姫さまとつがってもののけひめを産めとさ、よーし行こうってんではーてまだ夢の中。

2010年06月10日 08:20 せっちゃん ショートショート・西塔
西塔は飛天になりて鳴り響み見れども飽かぬ月を廻らへ
 薬師寺西塔の建立にあたって、越後からも大工や左官が呼ばれて行った、腕達者のその一人が、ふと見るとブルーシートから石が転がり出ている、西塔のいしずえの土を盛り溜めてある、なんとはなし記念に失敬したらしく、いまわのきわにこうこうだと仲間に託した、ずっしり重い変わった石だ、博物館に持ち込むと、
「ああ、それは地球最古の岩石ですね。」
 と、見るなり云った。
 カナダに一箇所どこそかに一箇所、四十五億年たっている、
「これはは変成岩になって、三十六億年ですか。」
 と。彼はぶったまげてお寺に持ち込んだ、どうしたらいいって、そりゃ薬師寺に返すよりなかろう。
 五重塔は仏舎利を奉り、いしずえには四十五億年の石か、そりゃどういうこった、地球最古の石って、そんなん当時の人が知っていたんか、うーんと坊主がうなるから、彼はまたどっかへ持って行った。
 仏舎利の代わりに瑪瑙や玉髄を奉るのは聞いたことがある。
 仏は永しなえ、いしずえに地球最古の石もそりゃ
「ぴったりかな。」
 知って用いたのか、単なる偶然か、気まぐれも人知の及ばぬ何かしら。
 宇宙空間をせんざんこうのように丸まって渡ってきたエーリアンが、奈良時代の大空を走って、あんれ平安時代だったっけか、いやその歴史はさっぱり。
「大徳のゆえに加担申し候。」
 どんがらぴっしゃ稲光。

2010年06月11日 08:40 せっちゃん ショートショート・朴柏
 よく見れば薺花咲く垣根かな
 膨大な俳句歳時記を見て行くとふっと人声、ささやきが聞こえる、決まって芭蕉だ、では余後のものはいったい何か、声の聞こえぬとは言葉になっていない、ひとりよがり自堕落、そっぽ向いてオナニーにふける、いぎたなく醜悪の、定型あれば後は野となれ山となれ、役人みたいなずずうしさ。マラルメもランボウーもなく、日本の言葉も知らぬとはなんていうまあ。
 小林秀雄を読み山本健吉の芭蕉を読んだ、熟読玩味した、日本語の伝統が実に明白記されている。
 俳句を作った。
 出来なかった、どうしても駄目だった。
 出家して禅宗無門関、初関を透ってから、俳句はできないが若しや歌は詠めるかも知れぬ、そう思って挑戦した、なかなかに難しかった、語学の才能がない、本歌取りというそっくりに真似る。
 守門なる刈谷川辺に郭公の鳴きわたらへば時過ぎにけり
 同じのを地名だけ変えた、
「時過ぎにけり。」
 の意味がわかった。
 いにしへは飯を盛るとふ朴柏おほにし咲けば人恋しかも
 法を得たのと朴の花咲くのをひっかけた、仏の道は人の食う飯であった、おほにし咲けば、悟りという一箇を出て、たれかれともにという心意気。田植えも終わって人っけなく。
 さまになりかける、返しは、
 朴柏おほにし咲けばいにしへゆつばくろ問へり四天王門
 四天王を安置して、蒲原郷いったいの豊年を祈願する、つばめはそのお使い。
 かれこれ一千首作った、一首あて二十回は推敲する、何度見直しても大丈夫というのがわしの歌の心得だ。言葉の復活を願う夢があった、はじめにとんとむかしという物語を書いた、これもまた二三十回は書き直して、ようやく納まる。
 次には歌だという。
 うまくできたかどうか、たまたま出したNHKの短歌大会に、
 門付けて我れも行かめやじょんがらの津軽の郷に雪降りしきり
 というのが入選した、取って貰えなかったこっちの方がよいか、
 あしびきの雪ふり袖の如くして出雲の阿国はいつ問ひ越せね
 佐渡を追われた出雲の阿国が、鵜川の地に行き倒れになって、綾子舞が伝わったという伝説。
 歌はそういういきさつが付き物だ。
 現代俳句や歌と袂別する。

2010年06月12日 08:21 せっちゃん  ショートショート・釣り坊主
釣りがしたい、坊主頭になっぱ帽かぶって川っぱた、鮒を釣り鯉を釣った。殺生するなってよ、汝殺生するな、わっはっは生臭もとっから女好きも止みそーになく。鯉を釣って二匹めに、68センチの大物釣って、はたしてこんなもの釣ってもえーんだろうかって、たらいに折れ曲がって入るのをためつすがめつ。法事忘れて釣っていて、かあちゃんが迎えに来たり、その他無慮無数あってかあちゃんに頭上がらない。
 河童川流れで海に出る、ちぬ釣り名人になった。
 竿の林ん中でめえだけ釣ったり。大漁は、掌ちんに三十センチに四十センチに五十センチと山盛り釣って帰って来ると、いかにも達人風が尺物これみよがしにする、
「どれ釣ったか見せてみろ。」
 止めときゃいいのに連れが差し出す。
「ふん小さいなどれ。」
 次第にでっかく、真っ青になって押し黙る。
 あれは雪代の消えた日だった。
 いっぺんに乗っ込みになる。
 ちぬは五十センチが最大、ものすごい面構えだ、まさにもって黒鯛。
「これって二十年生きていたんです。」
 だれか云った、もう止めた。
 そんなもん釣ったらいかん、いやさ礒荒れ釣り荒れして、さっぱり釣れなくなった。
 空手の羽賀がニュージーランドに行こうと云った、うん行こう一も二もなく。釣りならいい、観光なんかあほくさ、やつめ煙草止めろといった。
「煙草吸いはレンタカーのましなんない、民宿すると家高く売れない、ぽい捨ては三十万円の罰金、空港も飛行機もそりゃあ禁煙。どうだ。」
 ちええおどかしゃあがる、わしはヘビースモーカーも、一本くわえてまた一本点ける、こりゃチェーンスモーカーだ、煙草吸わないと脳味噌が開かない。
「わーったよ止めりゃいーんだろ。」
 煙草止める方法は煙草止めること、理由くっつけりゃ反対理由も同じだけある。
 ぶりきの棺桶に乗ってフィージーに着いた。
 ハイブリットのすんげえ美人がいた、
 竜宮城ってここだったんかぽけえ。
 はあてそのあとのことはよーもわからん。
 ニュウジーランドのぶよはひどい、帰って来て発熱。日本のは蜂に至るまで免疫だってのにさ。
 なに禁煙成功したかって、とたんにメタボ腹なって今に至る。

2010年06月13日 08:22 せっちゃん ショートショート・故郷
 故郷は遠くにありて思うものと、小学校三年から五年まで中仙道長久保の宿がにいた、生涯の我が故郷となった。大学に入った年に行った、なにしろ行きたかった、山川のありようを夢にまで見た。まだまったく変わらずにあった、みーちゃんはーちゃんで他人行儀のない、なつかしい仲間が、若人組になって村を作る、立派であった、光溢れるような。がりがり亡者の受験勉強とは違う、恥ずかしかった。クラス一美しい子が二人して待っていた、月明かりの川原、なんにも云えず。
 それっきり二度と行かなかった。
 なにをやらかしてもめっちゃくちゃ、ついに出家して足は遠のく。
 七十を過ぎて傍らを通りかかった。疎開はいじめられたが、山のうてさと云われたおふくろの力で、下の石合という脇本陣に宿り、ついで上の石合という本陣に移った。八人手をつないで抱える巨大な五葉松があった、でっかい松毬に松の実がある、おいしかった。松のお庭は芝生に牡丹が咲いて、まんねんたけという霊枝が生えた。
 上の石合が残っていた、門構えもなく五葉松もなく。
 成功していたら、本陣を復活してと思う。文無し坊主はなんにもできずの、出たきり雀。
 村を外れて大きなかもしかがいた、のっさりのっさ歩く。いつかあいつになってまた来ようと思う。
 単の上だけが故郷の禅坊主、身心という形骸を脱して世界宇宙ぜんたい。
ない部屋ドアのどこでもドア、いつでも同じ故郷の。
 道の駅にかしぐるみがあった、盗んで食っちゃ怒鳴られた信州特産のむかしは貴重品。
 美ヶ原へ行くといわなを手掴みにた谷があった、一方ふさいで水を干す。だれかれ達者であった。火を燃す名人、まつたけ取り博士、草刈り上手に、ぼや取り上手に、なにをしたってかなわなかった。
 いたずらだけは天下一品で、ぜんたい責任だといって雪の辺を走る、切ないといってみんななんにも云わず。
 美しヶ原には若い鹿がいた、神さまのお使い。

2010年06月14日 08:14 せっちゃん ショートショート・蜂刺され
 草むしりは草と競争で負けそうになって、どうやらこうやら頑張って彼岸になったらおしまい。冬は雪だからお休み、このごろの雪は暮れにどかんと降って、杉も竹もへし折れるなんとかせにゃならん。かめむしがわんさか入って冬眠する、これ男性用香水になるってまさか、ひでえにおい。
 蜂に刺されたら
「痛くないっ。」
 ってやると痛くなくなる、たいてい腫れもしないで収まる、むかでもさ。
 がきのころさんざ刺されたからだ、殺虫管に入れて、死んだの並べていたら、いっちでかいのが生きていた。5センチもあるオオスズメバチ、氷嚢に指吊って一晩中うんうん唸っていた。
 刺されない蜂はまずなかった、わるがきは鍛えられる。
 弟子がすずめばちに刺され、二度刺されて、三度めには死ぬと医者に云われた。もう一人は蜂なんぞと云っているうちに、むくみが上がって来た、救急車で入院。まあ死人が出ぬだけよかった。去年は山師がやられた、まむしの焼酎塗ったら腫れが引いて、医者が不思議がっていた。
 ぼんのくぼの近くぶすり。
 ばあさんが死んで葬式の朝、ろくなこたしてやれなかったから葬式を盛大にって、そんなこたないお寺だで。起きて天気はどうかと首突き出したら、あしながばちの巣があって、ぺったんこ何十匹。
 ばあさんも云いたいことあったんだろうが、痛くないってやったらそれっきり、ぶつくさーでこぼこの跡が残った。
 みんな引き上げた朝、みやまからすあげはが飛んで来る、おふくろだなまわりを離れない、
「いらん行け。」
 追っ払った。
 さっさと成仏しろ。
 昆虫採集ばっかりの少年時代、まっくろけの足をからすあんよと呼んで、わるがきをかばい続けた、号泣のほかないのに、くそたれあげはになんかなるなと、いいや縁を切ったのだ。

2010年06月15日 08:06 せっちゃん ショートショート・北見1
接心終わって北海道へ行こう、北見に金石先生を訪ねてといって、九月三日、弟子穴井と美緒ちゃんともっほちゃんと夕方七時半に出発。夜どうし走って下北半島大間岬からフェリーで函館に入る。こけちゃんがあとついてきた。先生は売れっこないわしの本を出版した。こけちゃんは私本みたいのを出して、先輩のつてで信濃毎日新聞に書評が載った、旅行のたしにって5万円ばかり出た。こけちゃんは村上で引き返す、駅前の海鮮酒場でかんぱーいお別れ。
 酒もうまかった、わしと美緒ちゃんと三人飲む。
 もっほちゃんと穴井運転。
夏過ぎてともに食らはむ岩船の荒磯が幸を汝は忘れしや

 勝木のやっじーのお寺に風呂を貰う、独身組合めくっさー洗濯物の山。
ここにして弟が湯にも浸れりし潮鳴りせむ粟ヶ島山

 若いころはぶっ飛ばしたけどこりゃけっこう強行軍、美緒ちゃんのヘンな歌に穴井の浪花節にもっほちゃんの突っ込み、わしはおじんギャグしちゃしーんとなって、いやもう秋田までは長い、秋田県はもっと長く、途中たいして休みもしないで、
たが妻とよもすがらせむ陸奥の国出羽の浜みを夢か現つやか

 うっすら明けて運転を変わる、下北へ入った、なんとガス欠だ、7時過ぎないと開かねえ、下北を甘く見た、大間港までは無理。美緒ちゃんが看板を見つけた、横町へ入って一軒だけやっていた。
なんにしやガス欠ならむ下北の風車の道は今明け行かむ

 大間港へつくとフェリーは15分前に出たという、次は11時半だそうな、ホテルを見つけて交渉したら一日分払えとさ、けち、食堂もない、ようやく見つけて、時間前に店して貰って食う。でっかいまぐろとてぐす引いてる手とモニュメントがあって、その前ふらついて公園へ行く。九時に温泉施設が開く、温泉につかっていっとき仮眠んだ。
 美緒ちゃんと松林にきのこを取る。
うち上げし昆布を拾ひ湯に浸り眺め暮らさむ津軽の海は

2010年06月16日 07:58 せっちゃん ショートショート・北見2
フェリーに乗った、雑魚寝部屋には枕と洗面器が置いてある、2時間ほどで着く。ちゃっかりカップルがちょっと荷物見ててねと云って帰ってこない、なんだああいつら、海んなか飛び込んだんじゃねーか、こっちもそこらほっつき歩く。貨物船やら漁船やら、フェリーにもすれ違う、今年の12月で大間函館間廃止だという、そんじゃ下北の人が困るってさ。
客さへに空ろ荷ならむカーフェリー波風荒れて函館に着く

 函館には兄弟子の明慧がいた、美緒ちゃんのいとこだ、お上人と人呼んで夫婦して函館暮らし。お土産だといってきのこを渡し、きのこきらいだっていうのにさ。至れりつくせりの歓待。名所案内は、お墓から見える函館湾の絶景、霧がかかって岬あり山あり船あり塔あり。大正ロマンの名物銭湯へ行く。バスに揺られて函館山は百万ドルの夜景。ゴージャスな海鮮料理。穴井にわたした金がそっくり返ってくる、すべて上人のおごりだ、いやまあそりゃご馳走さま。
函館の揺られ揺られて哀しとや百万ドルの烏賊釣り明かり
夫婦してけなげに暮らしささひはての賑ひの地に客をもてなす

 翌日函館の朝市ぶらついて朝飯を食べ、穴井ともっほちゃんと三人で出発。美緒ちゃんは起きてこない、明慧夫婦と後発。
 釣具屋へ行った、ケータイすると美緒ちゃんが今起きたという、しばらく大沼公園に向かう、今お茶してるからと云う、仕方がないこっちも駅前の喫茶店に入って、コーヒーにアイスクリーム。
 いいとこだよ、まだお茶してんのっていう、うっさいもう置いく、待ってすぐ行くから。穴井が運転して大通りへ出たとたん、パトカーがいてポリ公がいてはい12キロオーバーだとさ。
パトカーに切符を切られ長万部やまべは釣れじ雨にそほ降る

2010年06月17日 08:09 せっちゃん ショートショート・北見3
 みんなと合流して林道から川へ入る、やまべという、山女の十センチほどがひっかかるだけ。また沢へ入り、フライの練習にはなったがどうもいかん。雨が降って来る。夫婦に別れて、上人の予約してくれた洞爺湖ペンションに行く。夕暮れて延々。ペンションは老夫婦、はて受けた覚えはねーが、おじいさん忘れたんでしょうが、悶着あって、部屋は空いてるよ、温泉はいい温泉だよって晩飯なし。
 仕方がない食いに行く、灯りは見えて遠い、すてきなレストランがあった。ワインで乾杯、なにしろ宿は取れた。
洞爺湖は夏の宴ぞ乾杯のよせあふ波に砕ける月は

 朝見ると湖の辺りは風景よし、なぜか白鳥が二羽。遊歩道があってるんるん気分。美緒ちゃんを忘れたって、寝ていて起こさなかったんだ、置いていかれたと思ってパニックになっている、なんでさ車あるのに。
白鳥はなんに残れるペンションは老夫婦して部屋数いくつ

 どこへ行こう、ニセコに温泉ある朝湯しよう。雨になった。朝市は野菜にメロンを売る、もちもろこしはないか、流行りの糖度の乗ったのしかないな。羊蹄もにせこも雲の中。なんとかいう歌手の銅像が立ってる、
「どれ。」
 もう向こうへ行っちゃった。
羊蹄は雲井かくらへ朝市のかつて食らひしもちもろこしは

 雨と霧で視界ゼロ、自衛隊の研修宿舎があった、
「新兵いじめるんだぞ。」
「虫けら人間神さまっての体育界系。」
 温泉があった、二つあるうちの一つは改装中、まるっきり見えない展望台に登って、それから朝風呂。
朝湯には朝酒食らへ霧らひこもにせこの花をつゆさび咲かね

2010年06月18日 08:30 せっちゃん ショートショート・北見4
 それからどこへ行こう、登別といって走る。土砂降りに道の駅があった、濡れて突っ走る。もちもろこしはなかった、かしぐるみがあって買った。信州のとちょっと違うか。
 晴れて霧もやふ山々、可憐な花が咲く。
 登別温泉格安プランというのを、穴井ともっほちゃんが探し出す、ケータイだけで予約からなにからまかなう、じっさにはお手上げだ。
 地獄めぐりをし熊の牧場を見て、アイヌ村に行く。ひぐまのオスは二メートル30センチもある、こんなのとは喧嘩できない。
 ひえー頭だけでこーんなにさ。ふてくされて寝ているひぐまいた、あいつが本物だ。
見晴らしの久しくありて登別名もなき花の霧らひ美はしき
我が見しは檻の外なる大熊のひょうきんぶりもご免被むる
我もまた買ふには買はむ笹笛の奏で美はしアイヌ乙女を

 翌日は快晴大雪山をめざす。旭川の郵便局で違反切符振り込んで、ラーメンを食おう、うんまいのが食えるぞといって、ラーメン評議会なる一廓に入る、行列を作っている、行列やだといって入ったら、あたしたち別んとこするって女ども、穴井と食ったラーメン外れ、ねぎばっかり多いってだけ、美緒ちゃんももっほちゃんもうまかったって。
 美緒ちゃんはマニュアルで取ったペーパードライバー、旭川のまっすぐ道路でトライする、
 やめてくれ後ろ見ないで車線に入る、走行中しだい左による。
 まあやめとくはご愁傷さまだから、半日やりゃ取り戻すさふわーいえっへん。大雪山のロープウェイへ、すでにすっかり秋の、三日後には初雪と聞く、少年のころ夢に見たヌタクカムウシュッペ、こけももが赤く。
神威かも神威遊べる大雪のうすばきてふやこまくさの花
見よやこれ神威遊べる一夏の花のさ庭に初霜ぞ置く

2010年06月19日 08:02 せっちゃん ショートショート・北見5
 夕方川へ入ってフライを振る一尺ほどの鱒がかかった。
石狩の川面を知るや行きずりの我が釣り揚げし鱒はも悲し

 旭川から北見まで三時間半だという、北見っていうのはそんなに遠くだったか、高速道路が無料だからって、金石先生がいう、そりゃとつぜんのことでって、一言も云ってなかったっけ、いいかげんな連中だ、いやさわしのことか。高速道路に乗った。以前来たときは作りかけだった、岩内でひぐまのうんち見て釣ったっけ、丸瀬布の川でイブニングライズ、うーんいやこの川も釣れそうだって三時間半、なにしろ走った、いいお天気。
この駅も様変わりせむオホーツク我が言問ひし雪消え春は

 ほんとうに三時間半、金石先生は新居にお住まい、親父さまが九拾五歳という、奥様がリハビリに伴う日。近所の地ビール屋へ行く、ビールもうまかったが塩やきそばというのが絶品、ほたてやえびや入っている。北海道では牛乳とソフトクリームと、この塩やきそばがおいしかった。
初秋は北見にあらむ地ビールや塩やきそばに名代の昼餉

 釣れるところ案内してくれったら、はいいいですよって三時間、ふえーそこらの川じゃだめなんか、いえどこでも釣れることは釣れるんですがねって、mou
じき知床に入る谷へ、そりゃもう釣れた、感動の先ずはフライフィッシング、初体験の女どもも悦に入る。
笹の葉のおしょろこまいてやまべいて坪ごとにせむ神威知床

 次ぎの日穴井は教区坊主の晋山式の練習が二日後にあって、どうも間に合いそうもない、ケータイしてさぼった。でもって金石先生と網走刑務所に行く、先生の初代さんは網走のお役人だったそうの、このあたりでは土地持ちの名門であった、弟さんが農業をする、さとう大根が欲しいと穴井がいう、そんなもんどうするのって笑われながら一本引っこ抜いた。煮ても焼いても食えんよ、砂糖取るだけってさ、ためつすがめつ。刑務所はたしかに今も刑務所だが、立派な観光地で秋の花に乱れ咲く。蓮池にはやんまが飛び、とうすみとんぼがいて美しい、やんまの百分の一のとうすみが大威張りして、やんまを追っ払うから面白い。
乱れ咲く花にしあらむ網走の檻の外なる何をか云はむ

2010年06月20日 08:20 せっちゃん ショートショート・北見6
 鮭の上る川を見た、一メートルもあるのが行列で上っている、ここで雌雄合同するんですと先生、海岸に竿を押し並べて何十人、何百人釣っている、昨日あの人が釣ったとか気の長い話。帰ってからここでひぐまに襲われたというニュース、だってまあひぐまの餌だ。知床へ行こうというのを、さすがに遠慮して近くの川に入った。先客がいてさっぱり釣れず、どでかいのが見えた。先生にお別れして、美緒ちゃのコネで層雲峡に宿を取る、暮れ落ちて道に迷う、
知床は遠くにありて山を越え川をめぐらひ日は暮れかかる

 層雲峡の山のホテルといった、美しい写真が並んでいた、蝶や鳥やえぞしかややまねや、ひぐまの親子に山の風景に。
 教えられて翌日釣りに行くと、なんにも釣れず、ひぐまの骨があった、頭蓋骨からあばらから脚から一式ある、頭骨とあばら二本を失敬。
絵葉書は山のホテルの名にしおふ蝶よ花よの夢物語り
親しくもつましくありて栗鼠や鹿初霜を置く紅葉まにまに
示されてその激たんにますは釣れずひぐまの骨を拾ひて帰る

 帰りは小樽から新潟行きのフェリーに乗ろうと思ったら、翌日苫小牧からの便があるという、一日余計になった、札幌へ行こう北大キャンパスを見て、札幌ビールでジンギスカン食い放題しよう。
 また釣ろうってのは却下になった。
 結局小樽にも行く。
 若者通りを行き、にしん御殿を見る、どうやらみんな穴井の差し金だ、北大でひぐまの骨格を見て、うんこれだとうなずく。
 美緒ちゃんとわしは道っぱたに腰下ろして、ぼりぼりなんか食っていた。
 クラークの像があった。
クラークの像を仰がむキャンパスの何を見むとや猿の腰掛
年寄りもジンギス汗の食い放題ビールを呷り札幌の秋

2010年06月21日 07:57 せっちゃん ショートショート・北見完
娘には本間さまより豪華なるにしん御殿の秋明菊も

 支笏湖を廻って苫小牧へ行く、さわやかに晴れて美しい、
神威なす双びみ山を秋長けて支笏の湖は見れど飽かぬかも

 苫小牧東港という、石油の備蓄タンクを廻って行ってぽつんと離れ港、カーフェリーの発着だけがある、陸送トラックの行列。出航まで時間があって、穴井と二人さびきでもって釣る。釣り客が二人いた、あじやさばを釣る。餌がない、ソーセージをちぎってつけた、そりゃ釣れんわ。
 きたきつねがやってきた、ソーセージを投げたらぱっくりすたこらさ、藪の前で食う。
狐して外れ港にさ引きする客とか見らむ旅行く我れを

 一晩船に寝てあくる日の昼下がりに着く。美緒ちゃんの誕生日だった、ワインをおごってバイキングの船の食堂でかんぱーい。秋田土崎港に立ち寄り、飛島を過ぎ粟島のあたりはやっじーの勝木、ケータイしたらうん見えるよフェリー、よーく見えるみんな見えるみたいだと、そんなはずはないな。
 お寺に帰ったら萩の満開。
鳥海の庭よくあらし飛島や粟が島山根を辿り我が行く
しだれては咲き満つあらむ萩の花北見の空は今夕三日月

2019年05月31日