ショートショート3

2010年07月10日 08:12 せっちゃん ショートショート・宗谷岬1
 美緒ちゃんが行くと荷物が二倍になる、フライフィッシングの道具にウエザー五人前積んでどーも窮屈、みなしてかめちゃん車説得して二台行くはずが、急にけいちゃん恋しい帰ると美緒ちゃん、かめちゃん車もキャンセル、
「越の寒梅に焼酎もつけるで勘弁しれや。」
「ばあちゃんだめって云ったし、すんじゃ行かね。」
 あっさり云って、美緒ちゃん乗っけて東京経由で帰る。
「美緒ちゃん調子悪かったから。」
 さまやんに煙草止めれって云われたのが原因だってさ。こけちゃんもっほちゃん天呑とわしと四人、去年買い換えたカローラに乗って出発。マリノで祝杯挙げて、飲まされなかったもっほちゃんの運転で、新潟港のフェリーポートへ、23時半出航翌夕方五時に苫小牧へ着く。
 なんせこれは長かった、麻雀を車から出し忘れてふわーい退屈たって、船は揺れ出して、もうはやベットに転がっているほかなく。
この秋もアイヌ神威に入らんかな揺られ揺られて夕苫小牧

 ナビを北海道仕様にしたら、どっかボタン押し忘れて不備、てんやわんやを千歳のホテルルートインに泊まって、こけちゃんお奨めのピザ屋へ行く。ふーんナビ取っ替えなくってもよかったんだって。
ウトナイに廻らひ行きて夕暮れてピザで乾杯名代のビール

 こけちゃんの哲人頭は、次の日は白金温泉、ここをこー行ってあー行ってバジリスク。なんせ川へ入ろうてんで、宿を行き過ぎて川へ入る、どたばたウエザー着込んで、フライ手に手に笹薮をこぐ。釣れた、こけちゃんももっほちゃんもさ、天呑さんはサービス業に徹し、雨降って水が増していて引き上げる、思うさま釣れたのはでもさ初っぱなばかり。
せせらぎはおしょろこまいてやまべいて神威肥やさむ笹あひ深み

 宿の下に滝があった、真っ青な水に泡を噛んで落ちる二流れ三流れ。美しいといえば写真の方が美しく、魚の住まぬ硫黄泉。
黄金の滝にしあらむ吹き上げて我を迎えむホテルの底を

 こけちゃんが歌集二の表紙にした青い沼へ行く、写真はこれも絶景、クレー射撃場があってひぐま避けならぬ、ばーんばーん。
十勝なる沈む林をうら悲し魚さへ住まぬ碧玉にして

2010年07月11日 07:21 せっちゃん ショートショート・宗谷岬2
 次の日は層雲峡温泉に泊まって函館の明慧上人夫妻と落ち合う、そうしてこけちゃんは、その車に乗って恋しい旦那様のもとへ帰る。旦那は猿の脳味噌をいじくってノーベル賞へまっしぐら、みんなで押しかけて食い潰してもって、代わりに天呑に明慧上人にえーとお猿の代わり、おうさ精妙な研究が。はあて美瑛の丘はこけちゃんが運転、人呼んでジェットコースターというアップダウンの道、わーっ助けてくれえってすごい。
耕して美瑛の丘をジェットコースターつぶれ屋敷も一つや二つ

 ほんにあっちこっち廃屋、西部劇の町のように郵便局となんでも屋とあって家並みが二十軒、びばうしの駅は小じんまりしていて記念撮影、アイヌ語はへたな漢字しねーでかたかなで記しゃいいって。
びばうしの駅舎を小さき君若しやアイヌ神威の忘れ形見と

 こけちゃん天呑にてっちゃんが岩内川を教えた、せがれてっちゃんは自衛隊大尉殿の天呑とこけちゃんのおかげで口を聞く男になった。本山病なあ。石狩川の支流いわながわんさかいたんだが、はあてさ。
 アイヌのkら強奪した北海道は、ついにはますの川も死に絶えて、路には車にひかれたもぐらが二匹。
石狩の岩内の瀬をふきの門の清やけくもあるか神威廻らへ

前の旅には北見から来て、美緒ちゃんアルバイト体験の山のホテル層雲峡に泊まった、今度は旭川から来て、はあてトンネルを通り越して、
「ここひぐまの骨を拾ったところ。」
「いらくさにやられてさ。」
 とか前もそこへ、案内を終了しますってナビが云う、
「やっぱし変だあこれ。」
 仕方ない大雪湖を通って戻る、
層雲峡名にしおふなる大雪の天下りせむ行方知らずも

 ホテルの晩飯はバイキングだった、明慧上人夫婦は七時過ぎに来るという、函館で納所坊主をしている、貧乏人のくせにえらいご馳走するから、函館は避けて通ってと、
「あれこんなに時間かかるんかなあ、えーと八時間?」
いまさら気がついてもってこけちゃん、なにしろやって来た、
「かんぱーい。」
 がっちゃん。飲んで食って話してわしは引退、十二時過ぎまでやってたらしい。
層雲峡ビールを呷りバイキングなんに寄せあふ我らを六人

2010年07月12日 08:21 せっちゃん ショートショート・宗谷岬3
 今日一日は大丈夫だと明慧上人は云い、層雲峡のこの辺りいい川があるって、釣りをしようと、釣りしか知らぬじっさに肩入れして、
「大雪山から下りてとこで尺物を釣ったんだ。」
 そこへ行こう、そりゃ反対側だ二時間かかる、
「へえそんなもんか。」
 といって谷川へ入る、ぴっと来たのにそれっきり。また谷へ入る、きたきつねの子が二匹、可愛いいったら逃げもしない。
 釣れなかった。くじゃくちょうときべりたてはがいた。
初秋は清やけくあらむ孔雀蝶流らふ川も神威古譚ぞ

 本流ははあて信濃川と同じにおいがする、こりゃもうだめだ、そうだよなあ、まだ澄んではいるんだが。
見よやこれ石狩川を二別れ行きて帰らぬ神威古譚の

 ガソリンスタンドでガソリンを入れて明慧上人が聞いた、昼はルアーでなきゃだめだ、いくらつけりゃ入れ食いだ、フライは効かないって、朝夕なら釣れるとさ。夕方にはだいぶ間がある、旭川へ行って飯を食をう、旭川動物園へ行こうか。昨日ひぐま牧場っての見た、あれあーゆーの二度と見たくねえってわしはごねる。
ふてくされひぐまの檻をいたましや人は何故かくの如くに

 旭川のラーメン村で昼飯、山頭火という店の、塩ラーメンがお奨めだという、五十年醤油で来たんだとまたじっさごねて、塩のほうがうまかった。
四十年わしは醤油と押し通し恨みがましく塩ラーメンを

 帰ったほうがいいっていうのに、ホテルの無料コーヒーを飲んでいつまでもやっている、こけちゃんが札幌に着いたのが10時、明慧上人が函館に帰ったのが真夜中の二時だって。
大雪は紅葉しつらむ鳴きうさぎ秋の夜長をルートインなる

2010年07月13日 08:20 せっちゃん ショートショート・宗谷岬4
 台風12号が北上する、旭川は真っ赤な夕焼け、知床は雨だ、晴れるのは稚内では稚内へ行こう。北見の金石先生訪問が目的であったはずが、層雲峡を引き返すのは億劫、
「こけちゃんにお土産やる、先生とこは新米出来たら送ることにする。」
 なんせいい加減な話、
「金石先生ちょっとそこへっちゃ三時間。」
 帰れなくなったりとかさ。
 宗谷岬だ、別ルートを取って旭川士別名寄美深と行く。
名寄岩大関なりきいにしへゆ何変はらずや牧場と村と

 蕗といたどりと菊芋の花、天塩川に行きあう、堂々たる大河だ、河川公園に下りて行って物は試しと釣る、地の人に聞かないと無理か。水草の見える清流、わたり鳥の群れが行く。鶴のように大きな鷺。
天塩川万ず浮世をみそなはせはぐれ雲なむ棚無し小舟

 道の駅があって昼飯を食べた、もっほちゃんはこけちゃんお奨めの豚丼、天呑はいつだってラーメン、わしはカツ丼を食って、けっこういけたんだが豚丼の垂れがきつくって、もっほちゃんは三年食わなくっていいってさ。
嵐さへ避けて通ふか幌内の道の駅なるシシカバブーと

 支流に入って行くとやまめの川だ、釣れるには釣れ、大きなのがいて見向きもしない。釣れないでくれえ、釣れたらどうしようといって、
「目が合ったら向こうへ行った、はーあ。」
 と、もっほちゃん。
 アンモナイトが出るらしい、ぬーっとひぐまが出たらー
魚釣りやまめの川の入りあへに大物を見ししいたどり茂み

2010年07月14日 08:28 せっちゃん  北海道は自衛隊の天下、なんせロシアが攻めて来るんだ、トラックが行く301部隊、
「あれは利尻島だな。」
 と天呑がいう。
 そういや新潟は北朝鮮中国が襲う、なんとかしなけりゃ。てめえ死ぬより国滅びた方がいいってえ若者、いや中年年寄りの尻ひっぱたくのは、
「うひゃむずかしいわな。」
 利尻富士が見えた。稚内へはもうまっしぐら、
心映え利尻の富士を仰がむは海のへ見えずさろべつ原野

 のさっぷ岬は知床でのしゃっぷ岬が稚内、へーえそうかねどっちも同じ意味でねーんか、なことねえって択捉国後がのさっぷでー
 利尻富士のとなりに礼文島が見える、小学校のころ金環食があった、鳥がかーっと鳴いてまっくらけになったな、信州の土田舎も、すすのガラスで三日月の太陽を見た、今はそれだめなんだってさ、欠けた木漏れ日をさ思い出す。
さひはての夕波荒れて礼文島我らは何を土産を買はむ

 たらばが取立てだってさうにも。うちへ送った三日かかる。

 宗谷岬は稚内から二時間近くもかかる、ふえーい遠い、北へ来るにしたがい蝶もほとんど見ず、北緯45度線を過ぎると牛を飼う以外畑もなく、こりゃきびしいところだ、冬はどえれーこったぞ死ぬ。うっすらとサハリンが見える、じーんと感激はやっぱり戦前生まれ。
へに立ちて我が感動は樺太とかつては云ひしサハリンならむ

 山へ上って行くと肉牛の巨大な牧場だった、黒い牛がたむろする、車を停めて眺めていると、だれか話しかける、景色のいいところがあると云う、行ってみるとまさにこれは絶景、なんともたとえようのないさいはての丘、これがほんとのジェットコースターだ、大空と夕暮れと海と。
 牛が帰って行く。一列縦隊、走って行くのもありゃあ、まだ草食ってるのもいる。
さひはての宗谷岬の夕映への廻り廻らひ牛の行く見ゆ

 天呑の予約したホテルはうわこりゃ自衛隊御用達、駅前旅館のまあさしっくなことは、シートも替えてない、もっほちゃんがクレームをつける。
 居酒屋の夕飯はぞっこん食わせる、いかにたこにほっき貝によくわかんねーの鱈腹。おしりのでっかいおばさんにおねーちゃんにいて、さいはてに乾杯。
さひはての居酒屋ならむ駅前の鱈腹食へば三人酔ひたり

2010年07月15日 08:28 せっちゃん ショートショート・宗谷岬完
 雲一つ見えぬ快晴、なんにもなしの北海道もこりゃもう満喫、七時半出発、ふーんフェリーに乗って利尻島に渡りゃよかったか、いやきっといい川がとか、あっちへ向きこっちへ向き、なんにもなしのごり押しじっさ、
さひはての宗谷岬を天下り仰がむものは利尻の富士ぞ

 利尻富士はすざまじい山容で、海には漁船が三艘マイクで世間話をしている、左側は牧場があったり原野だったり。
さろべつに沼地ありとふ我が思ふ風車の列をダンプが行くぞ

 バイクに車がたまに行き交う、あとは自然破壊のダンプの行列か、たまに町があり、かっこうの川は行き過ぎて、あとは泥川ばかり、初山別遠別と、利尻富士は富士見橋にてお別れ、焼け尻島天売島が見え。
遠別に利尻の富士とあひ別れ二つ島根を天売の海や

 小平という町ににしんの花田番屋を見学、よく保存されていた、にしん漁場を四百円で買った、米100トンの値段だそうな。車停めたらサイドブレーキを忘れてもって、じっさの運転は二十分でお終い、ちえ前の車はだいじょぶだったんにさ、顰蹙。
若乃花花田といふを覚へしやにしん御殿は明治の名代

 午後二時には小樽に着いた、明日の乗船手続きをして、宮平洞窟というのを百円で見学、洞窟にうさぎやしかや宇宙人のような像を描く、見えねえわかんねえと云ってら、だれか教えてくれた。縄文の北海道生え抜き、かってに決めんだ、宇宙人。
宮平のアイヌ神威はしかやくま宇宙人なる百円の洞

 初の鉄道が来たという鉄道博物館を見て、小樽へ行く、親父さま預かりますと看板のぶら下がる若人の町。もっほちゃんはわしを恋人にして腕を組んで歩く照れくさ、ガラス細工を冷やかし、すし屋を覗き、お茶を飲み、夕方にはこけちゃんがやって来る、こけちゃんなら豚丼だべ、いやよ三年は食べない、では居酒屋をさがそう。
 お土産を買い、わしはかーちゃんにネックレスを買った、もっほちゃんが値段を交渉、
「だめよ二百円しか負けない。」
 ひえー恐れ入り。
ランデブーなんの因果か親父さま預かりますの腕を組み

 稚内を取り戻そうとて、天呑がやっぱり駅前の、できたての温泉ホテルを取る、温泉もゴージャスで値段は、
「へーえ稚内とあんまり変わらねえ。」
 やーれと思ったらもっほちゃんが怒り出す、生理の女は洋ナシってわしが云ったんだそうの、変な付き合いしてないってえらい剣幕。うーわ。こけちゃんは面白がる、女には平謝りしろって天呑。
 へーい。
 四人で小樽の町へ繰り出す。
 居酒屋へ行ったら、ここはあたしのおごりってこけちゃんが云う、そりゃ御馳走さま。稚内のほうがよかった、はしごしてビアホールへ行った。
 青春再びって、青春してるじゃないのってさ、そうかな。
七十の青春ならぬ酔っ払ひさひはての地をうそぶき歩く

 ホテルに坊主の集団が泊まった、改良着を着ている曹洞宗だ、そういえば
「坐禅では草もむしれません。」
 と堂頭が宣うた僧堂が北海道を托鉢する。
 ふーんまだ空威張りやってやがんのか、一睨みですくみあがる。
空威張りらごら坊主の世は墜ひへ割りを食うたか月見に一杯

 もっほちゃんのご機嫌は治ったんだけども、帰りのフェリーで麻雀の三人うちをやって、天呑にこてんぱん、ふえーやつめ旅のかたきを船で取る、きしょーめ。


2010年07月16日 08:23 せっちゃん ショートショート・幽霊
 消費税で菅直人はしくじっちまったけど、話し合いってのも受けず、一般受けしない無色無臭は不可。正しいこと云ったらアウトかな、国も国民もない党利党略だけっていうのが政治家、野党てのはまあどーしよーもねーかな。
 大衆におもねる、お客さまは神さま、ふーん民主主義ですとさ、日本人みんなが金正日ってことかな。
 岸伸介の時ももそうだったな、為すこと実に正等で、どう考えても最良の方法だった。それが安保闘争になって死人が出た。国民がばかなのは今に始まったことではなく、提灯行列の日露戦争から、そうさなあまったく変わらず。
 岸伸介の、銀時計をやっかんで教授どもが総反対した、授業は休みになって学生どもを呷る。わしはまだ学校にいた。だれかれ演説する、わしも云ってやった、
「てめえのこともよくわかんねーのになんで安保反対だ、政治は政治家に任せりゃいいじゃねーか。」
 それともなんだてめえ賢いとでも思ってるのかったら、そうだというやつもいた。教室にきれいなおねーちゃんが来た、あじ演説をしながら目が流れてわしを見る。
 そうか、安保闘争じゃない行き場がないんだな、こっちも行き場ないけど、止めたがいいよ。止めたがいいよって、樺美智子は死んでしまった。
 日本人の心が激変する、なつかしいものと彼女は心中した。生き残ったほうが地獄だった。無惨やる方なく。
 彼女が正しかった。でもとにかくわしは生き残った。
 頭を剃って坊主になったんなら、そりゃ死んだと同じだな。
 この間美緒ちゃんともっほちゃんと支店長と、たわむれに学校に行く。研究室に入り込んだら、若い子とばったり目が会った。
 樺美智子と同じだ。
 今の世の純粋培養。教授も人もそりゃあ信じられないさ。
 わしは幽霊か、浮世には住んでいない。
 ドクターコースか、つぶしが効かねえって、じきにたくましくなって、なにがし様になるさ。
 タレント画泊みたいにめえをすりかえて、小器用に生きて行く。思い込みだけの世界を、かたつむりのさ、その殻を破ることができないで。
 坊主で云やあ、坊主の三種の神器は嘘とはったりと空威張り、禅宗のくせに坐禅をしない、それじゃ人格の形成がない。
 世の中2チャンネル人間の、おれおれ詐欺さ。
 火中の栗を拾うか。
 依怙地ひとりぼっちのじっさでないだれかを、愛するって、ふん。
 仏は失われず。

2010年07月17日 08:14 せっちゃん ショートショート・幽霊2
 坐るってことは、ないはずの自分があるとうまく行かない、腹膨るるわざがついに激痛は、腹をよこしまにするからだ。あっちがどうのこっちがどうの、気にするってだけおじゃんになる。よこしまにするんです。邪なきときは自受用三昧これを標準とすと、かすっともかすらない。
 なんにもないがなんにもないを坐る。
 無自覚の覚これ。
 仏教という何かあるんじゃない、坐るただこれ。
 坐らぬほどに三百代言、学者だの布教師みたいの、よくもまあ仏罰が当たらぬもんだと、仏罰が当たらんてことねーわな、あほくさ。
 胸元がへっこんだのがいて、悪魔に食われた、こんなんじゃ坐ってどうもならんと、そんなことはないです、お釈迦さまは必ず救って下さる、救ってくれえとすべてを差し出せ。
 自分の持ち物なんぞもとない、不都合欠陥あれば、そっちで責任を持て、おらあ知らんてさ、虚空におけば虚空です。
 死ねばない。
 苦痛なく喜怒哀楽なく、はいこれ坐禅、面白くもなんともないといって、面白くないのさ。
 面白いつまらないを云うものがいない。坐ることができる、なんという無上楽、身心によらぬゆえに成道無上楽。取り付く島もない、自分というもと取り付く島もないんです。
 なんとか取り付こうとして、
「坐禅はどうの悟りはどうのだからおれは。」
 やってる間は不可。
 飯田とう(木に党)陰老師は坐中に痛烈に悟る。無字の公案であったですか、そりゃ数息観でも、隻手妙音でもなんでもいい。ノウハウを脱するぶち抜くんです。
 それを南天棒という坊主に、無と言わずに何と言うと云われてぐっと詰まった。由来十八年南天棒に就く、ある日高足の一人が、飯田居士ももう長いからそろそろ許してやったらどうかと、うんそうしようかと云うのをたまたま漏れ聞いて、憤然袂を分つ。
「自分が自分を許されぬのになぜ他人が許されるか。」
 これもっとも大切です。お釈迦さまは、おまえもわしと同じになった、いっしょにやって行こうと、そう云われるたんびに、初発心未だと云われた。ついに菩提樹下に於いて大悟す。
 とう(木に党)陰老師は独力で只管打坐を復活する、始めの悟でよかったと知る。
 悟がなきゃどうにもならんです、悟らずして仏教はないです。悟ってそのあとがもっと大切です。お釈迦さまには仏教がなかった。標準まさにこれ。もういっぺん悟ると不思議に落着します。正師にも惑わされ邪師にも惑わされと、なにゆえか、人の証明を必要とせんです、まるっきり他なしです。若し印可が欲しいんなら、印可しうる弟子をこさえりゃいい。

2019年05月31日