ショートショート5

2010年08月10日 08:07 せっちゃん ショートショート・尾瀬の花旅
アルバイトのお金が入ってどっかへ行こう。山歩きがいいさあ行こうといって、詩人は行方不明、小説家は不在、論敵も取り巻きも現れず、風月堂の大ガラス、柳かげの待ち合わせは、弟と腰巾着の英也しか来なかった。
尾瀬がいいと弟がいった。電発でダムになっちまう、今のうちだ。なんでもいい行こうといって、夜行列車に乗った。
弟は登山靴を履いてどでかいのを背負い、たいしたもんだと云って、わしと腰巾着の英也は、わけのわからん格好して、ポケット瓶を取り出す。二人してたいして飲めない酒を飲む。

【歌】青春の何を苦しみ酔ひつつに夜行列車はカザルスの鳥

 だれ彼ひどい目にあったが、腰巾着と弟はさんざくた、借金は踏み倒し、大切な青春をひっかき回し。真夜中沼田の駅について、明け方山行のバスに乗る。満席の列車が空になる、みんな尾瀬へ、
「ちええなんてえこった、せっかくなけなして― 」
 東京と同じだといって弟がぼやく。とにかく下りよう、一歩踏み出すと、濃厚な夜気にくうらり。

【歌】いにしへの月を知らじや上毛の武尊の山を仰ぎ見なむか

 寝静まる夜を砂ほこりを巻いて走る、蛍光灯が不気味に、
「こりゃなんだ。」
「バスの順番取りだな。」
 にひーと英也が笑う、いつもそんなふうに笑う、
「そうかそんじゃこっちも。」
 といってのっそり。頭上は満天の星、絹の布にちりばめるという、古代ギリシャの形容に似て、たとえようもなく美しく。
 とつぜんその一片が墜落。

【歌】上毛の天夜星天降り来る我れは妹思ふ置きて来ぬれば

 帰ったら必ず会おう言葉を掛けようと云って、身を立て直す、背骨がぎりっと音を立ててきしむ。
 バスの八百何番という札を取った、いっちしまいかと思ったら、夜行はもう一列車来た。
 なにしろ大騒ぎだれも人っことは考えず。なんだあこいつは、明け方を待って駅のベンチに眠る。

【歌】ぶっこはれタイムマシーンに乗りて来ていついつ我れを恐竜の世ぞ

二人はまだ寝ていた。水を飲む、山清水か、わななきふるえて目が覚める。 いちめんの星空だった、そいつが闇に食われる、山がせり上がる、
「どうなってるんだ。」
 雨雲だった、すっぽり覆う、雷が鳴ってはらついたと思ったら、ふうっと晴れた。

【歌】一千の宿らふ辺り明け行けば上毛の野に鳴る神わたる

2010年08月11日 07:51 せっちゃん ショートショート・尾瀬の花旅2
 まだ寝ていたり、一晩中起きている者。女のパーティがあった、とりわけ美しい子を真ん中に、、
「オリンピックはあなた、でもなんで代表。」
 失敗じったらぱっくり食おうか、はてな。
 木造トイレに穴が開いて、生まれてはじめて見る、けだるいやるせない。
「女の密室を描くドガ」
 という言葉が浮かぶ。
 入れ代わり来て、外に二人示し会わせてる。
 どうでもしろと出て行く。
 えっと叫んでそっぽを向いた。

【歌】乙女らが清やけき月と仰ぎ見し何におのれがカタストローフぞ

 透明な夜が一瞬かきくもって朝が来た、柳が姿を現わす。
 十何台めか、満員バスに荷物を叩き込んで出発。

【歌】鳥の鳴く何もなふして沼田夜の柳影とぞ明け行きにけり

 夜中騒いでいた連中は寝入る、明け方はすばらしかった。闇からくず屋根の家がぬっと現れる、桑の畠に光の矢が届いて、上毛の広大な山てんに朝日が射す、モーツアルトもバッハも顔負けの大演奏、神さまのたしかにこやつは日本の夜明け。

【歌】十七年かくの如くに明け行くか我が敗戦のくず屋根の家
【歌】ちはやぶる神の戦と知りぬべし桑の畑に日はも射しこも

 栗の花が咲いて、岸辺には藤が咲き、村々を縫って片品川をバスは行く。尾瀬は花の田代、神の田代と云い、牛と云うと山は荒れるんだそうの。

【歌】栗の花の咲き満ちつつに梅雨に入る物はな言はじ神の田代ぞ
【歌】君もしや恋ふらむあれば片品の藤江の浦を過ぎて廻らへ

 バスを下りてぶなの林に別け入る、さしてのこともないのに息切れして、日々のだらしなさを反省、とつぜん涼しい風が吹いて、夏をなを新芽吹く木々。

【歌】未だ見ぬ妻に恋ほつつあら芽吹く尾瀬の田代の風の清やけさ

 ひばの大木が真っ黒に茂って、ぶあつい万年雪。てんでに寝ころがって歓声を上げる、太古の息吹のような、なんなんだこれは。

【歌】うつせみの身を伏しまろび大杉の万ず代かけて思ほゆるかも

 金色のみずきんばいにみずばしょうと残雪。

【歌】神からか神さびおはせしのひふる雪の田代に人は踏み入れ
【歌】百伝ふ磐れはあれど降りしける雪の辺べの花にしあらむ

2010年08月12日 08:09 せっちゃん ショートショート・尾瀬の花旅3
雪とみずばしょうとひばの大森林、湖は燧の峰をさかしまに。ここで一泊しようと東電小屋に泊る。ぽっかり浮島があり、岸には白骨化したひばの巨木。水底には鮒のような、もっと大きな魚がじっと動かぬ。

【歌】島影も月に浮かれて梓弓春たけなはの行方知らずも
【歌】白骨と化すらんものは青春の巨木にあらむあららぎの木よ
【歌】ふりしのふ雪はも如何に湖の底なる魚と眺めやりつつ
【歌】白鳥の流転三界春さらばしのびわたらへ尾瀬の田代を

 ホッキョカケタカと聞こえる、時鳥に目覚め、朝を明け行く。快晴。みずばしょうの咲く前に、若い女が二人。なんのかんの声をかけてとっつく、旅は道連れ。

【歌】神さびて花の田代は杖を取り白髪を丈にわたらひ行かな

 杖をこさえてやろう、いらない。二人はすっかり嫌われて、ひばの森を息が上がって、突っ走ってはおい休もう、そんなんじゃ行き着かないよと、弟は女たちをがっしりエスコートして、残雪を踏み分けて行く。鳥が群れて鳴き行く。森が開けて沼が見える。

【歌】春さらば萌ゆる浮島うたかたのたが客人か舟に棹さす

 燧の峰は雪、昼飯を食って登って行く、猛烈なガスがかかる、とつぜん真っ青な空が覗く。くわーい死んでもいいやといって見上げ。
 長い雪渓があった。足スキーして一気に下る。英也が真似してそのまんま崖へ、すんでに受けとめた。さんざくたの目に会わせて、彼の為にしたのはこれっきり。

【歌】しかすがに霧らひこもせるひうち嶽晴るる間をさへ命なりけれ
【歌】しかすがに霧らひこもせるひうち嶽過ぎにしごとはな思ひそね

 登りはあはあ息せいて、下りはほうっと走って行く、ぶなの林はいちめん新緑。
 弟は女たちとゆっくり下る。
 長蔵小屋であった。ほぼ満員であったか。まだ山小屋と呼ぶにふさわしく、てんや銀狐の毛皮を売っていた。

【歌】長蔵の新萌え出る満つ満つし尾瀬の田代に人の住むとふ

2010年08月13日 06:14 せっちゃん ショートショート・尾瀬の花旅4
女の子の一人はすっかり弟が気に入って、どうだいいっしょ泊まろうぜ、兄が無責任にいったら、とろけそうな笑顔の、もう一方が慌てる、弟はまともだって、あとの二人へーんな人、もうどうでも次の小屋まで行くといって、連れを引っ立てて歩き出す。
悪いことした夕日を仰いで、ひえー嘆息。見りゃ健脚のようだし、ほっとしたのが弟だったり。
風呂へ入って飯を食って、酒も飲まずに歌う。荒城の月に菜の花畑にってもんの、隣パーティーの女たちが笑ってのぞく。

【歌】長蔵の芽吹かひ行くも花にしや手振り歌はむ鳥刺しアリア

 三丈の滝を見てから、尾瀬ケ原を歩く。
 滝まで三十分、豊かな水量が常舐というまっしぐらに流れて行って、大落下三丈の滝。
 ものすごいったら。
 鎖をと取って滝壷へ下りた。今は下りること不可。
 昨夜の女たちが、
「きーわー。」
 見守る中、さっそうと下りるはずが、手がふるえ。ただもうただしぶきに濡れて。

【歌】ふるへつつ鎖を取れば満つ満つし青葉若葉を三丈の滝

 花の田代といわれる尾瀬が原を、人っ子一人出会わさず。たった一人釣りをしていた。さまざまな花を見た。覚えたのは、ながばのもうせんごけというのだけ。なにかもう満喫すると忘れ呆ける。夕方に橋をわたる。楊の並木があった、大小のいわなの群れが行く。

【歌】浮世さへ忘れ田代の花にしや思ひおこせば魚の行くらむ
【歌】吹く風は夏にしあらむ尾瀬ヶ原今生この世と立ち止まりつれ
【歌】千秋のつゆ霜さへや枯れ果てて神の田代を回らふは誰そ
【歌】万雪に押し照る月の束の間のもがり吹くらむ長蔵小屋も

至仏小屋に一泊、一日もう余計に過ごしたから、明日は山を下りる他になく。全天またたかぬ星、手を伸ばすと届きそうだ。

【歌】至仏には流転三界人みなのなほ天降らはぬ星の如くに

 花は至仏のほうが有名だという。ざぜんそうやえんれいそう、みやまおだまき、世の中美しいものがあるんだと云っていたら、女子大生の四人組が行く。
 花より団子、大慌てに呼びかけが返事がない。
 リーダーは美人で、スタイルも申し分がないのに、うっすら口髭が生える、むらさきにおう処女のひげ。

【歌】しずやしずみやまおだまき繰り返しむかしを今になすよしもがな

 あとになり先になり、菖蒲平らを過ぎ、三人はむずむず、美人はかたくなに沈黙。
 ひげをまじまじ見ちまった。

【歌】年老ひてくしくも思へ咲く花に神さびおはせぶなの田代を


2010年08月14日 06:00 せっちゃん ショートショート・蓮す花
 台風が、発生したときと同じ勢力のまんま北上して抜ける、こんなこと未だかつてなかった、台風一過も炎熱地獄、なんか容易なこっちゃねーな。
 わっはっは年寄りは死ね、貧乏人は万事お終い。
 穏やかな二万年が過ぎて、予測不可能な世界は、あばずれほうけ突然変異の新人類さな、詩歌や書や人間の微妙さはぶっこわれて、多数決といいかげんと必死にてめえだけ生きる、いやさもーとっくに始まってるか、
 ではどーすればいーかって、仏の道に邁進するだけ。
 パンツで寝ていたら急に涼しくなる、蚊に食われて窓を開け放ったまんま寝て星空だ、オリオンの三ツ星にプレアデス星団に秋だ。
 とつぜん自由になった、全宇宙おらあがん。
 暑さ寒さのない国に行けば、自由になるって、浮世のしがらみのまんま死んだら、地獄も極楽も不自由さな、手鏡してさよならすりゃしがらみも消えるか、生まれおぎゃあと手鏡してをしがらみの始まり、生まれるのと死ぬのとはまったく同じ逆方向。
 身心という仮の浮世はどーなるって、大金持ちになって原子力潜水艦を買え、サブマリーンの生活が快適。ノーチラス号のネモ船長して、海に牧場作って優雅にマッコウクジラの競馬でもして。
 貧乏人はホームレスしかないか。冬は奄美大島夏は礼文島へ、歩いて飯も食うってことになると、はーてな、大金持ちになるほうが手っ取り早いか。
 良寛は墨染めに鉢の子だったが、坊主が坊主社会ぶっこわしちまったからもうない。
 消防士がいて、大農でもって、弥彦さまのお初穂講員で、村のお地蔵様の額書いてくれってやって来た、へたくそな字書いてやったら、へたくそな人が彫りこんで、今もかかげてある。
 消防どのは、芋取れたたまねぎっちゃ持ってきて、消防は酒だ、何本か持ってけって付き合っている。火事と喧嘩は江戸の花、いい男で、警察を八丁堀の旦那と呼ぶ。かーちゃんとっかえてできたせがれを育て上げりゃ停年過ぎるか。
 地震に中央のベテランが来て、大岩の下から赤ん坊を助け出す。
「ちがうぜやつら、わしらの出る幕なかった。」
 という。いやいつだって馳せ参ずるとさ。
 消防どの、お寺の蓮を取って行く。
 蓮の花は一日しか咲かない、ほんに美しいのにさ。
 十日咲かせりゃ立派に一儲けできるか。ゲゲゲの鬼太郎の俳優みたいに遺伝子の研究してりゃなんとか、水木茂の戦争物もすざまじい、戦死した魂をさ、浮かばれるようにお経読むのは、今の坊主じゃ無理だ、そうさなあそうゆうお経を読んで。

2010年08月15日 06:18 せっちゃん ショートショート・能面
 早く秋にならんかな、秋になっても狂い天気が続くのかな。鮒釣りに始まって鮒釣りに終わる、用無しじっさそこら河っぱたに浮きを見つめ暮らし、世の中だれもいないなそんなの。高級カメラ抱えて写真撮りまくったり、徒党を組んでろくでもないパーティよりゃ、一人きりが人間らしくっていーや。きのこ取りもきのこは出ないし、ハングリー世代の山荒らしは大人げないし、ドライブもガソリンがもったいないってさ。
 涼しくなりゃ筆もってみみずぬったくろう。
 世の中仏教流行りだとさ、わっはっは肝心の大法はひまをもてあまし。
 ピンクパンサーがとっつかまって、日本に護送されて来た。世界を股にかけて三百五十憶ぱくったとさ、黙秘して無罪を主張するってうっふ、どんなに粋がったろうが洒落のめそうが、ただの泥棒だ、100憶超えたら死刑が妥当。
 ルパン賛成もどっか真面目じゃねーわな。一神教我田引水の、てめえさえよけりゃ人のことは考えない、ふーん詩と真実だってさあ、悪魔がいて神様がいる、うざいってえの。
 お宝鑑定に平田郷陽という人形師の作が出た。四,五百万と踏んだら五百五十万ついた、重要無形文化財だか文化勲章だか、なんしろ偉い人らしい。。所有者の母親が、嫁入り道具に持参した、娘、つまり孫が三人いて、こわいといって近寄らぬ。どこがこわいのか、生きている人のように話しかけてくる。
 生きている人間が世の中払底しているから、そりゃこわいわさ。
 真龍を怪しむことなかれというやつ。
 物質をかたどるんだけど、心のこもったものをという、平田郷陽の言葉があった。心の失せた人間より真だ、いくつか紹介されるのを見てい涙溢れる。
 嘘とはったりと空威張りは、坊主の三種の神器だが、うそにもはったりにも気がつかぬのは世間人。
 だもう淋しい。
「菩提心というは、おのれ未だ渡らざる先に、自未得度先度他の心を起こすべし。」
 と。
 若し仏法僧のうちの僧ならば、無位の真人これ。
 たとい郷陽の人形に届かぬようでは落第だ。
 人間が人間に帰るだけのこった、作為の粋を集める必要はない。
 こわくない能面こわくない浄瑠璃人形、これまさしく日本人の工夫。
 演技すればこわさも底無し。
 生きている上は答えを出すこと。

2010年08月16日 06:31 せっちゃん ショートショート・たらちね
たらちねの母が飼ふ蚕の繭篭りいぶせくもあるか妹に会はずて(万葉歌)
 なるほど万葉人の云い回しはふるってらあ、珍しみ覚えただけだが、野球の野村監督の云うには、男なんてものは一生、おふくろからかーちゃんへの飼い殺しいぶせくもあるかって、野村はいい仕事をした。出張して大リーグの素人野球みたいなのをなんとかせーや、思い切って明徳の監督だアッハッハ、プロと対決して勝った、なーんてことはあるまいが、野村のいない世の中は面白くない。
 長島野村とわしは同年だ、神宮に二度観戦に行った、キャンパスがうわーとどよめいて明治に一勝した、それ行けってんで見に行くと、あまりのレベルの違いにもうそれっきり。
たらちねの母を恋ふらむ信濃路や浮世のはてを金木犀の
 信州はおふくろの里だ、疎開して小学校から中学まで過ごした、何十年ぶりに行ってみたというより通過した、こんな歌になる。
過ぎし日をもやもや思ふ信濃路や浮世のはてを銀木犀の
 いぶせくもあるか繭篭りで、ろくすっぽ女も口説けず、成長半端でなにをやっても遅れを取って、破れ呆けの坊主になってまでこんな歌を作る。
 お盆の檀経に行って車がつんとやった、稼ぎぱあになる。この家はせんにも事故に会う、前世の因縁が悪い。
 そんときは一歩通行になったのを知らず、停車トラック追い越そうとして追突された。トラックに突っ込む、追突車へっこむ、みーんなわし悪いんだって、右保険屋と車屋道の両側にあって、引っ張りこまれてお茶飲んでいた、きしょーめ。
 あんときはおふくろが生きていたな、だでおふくろが悪い。
こんどは間違えて入ってバックしたら、わけのわかんねえブロック塀あってがつん、かーちゃんが、
「あら三条って一軒きりしないの。」
 って云う、
「四軒あっけど、行かにゃなんねーのはわかってんけどむにゃむにゃ。」
 そーいや一軒行くのに往復一時間、四軒やったら実入りもあるむにゃむにゃ、繭篭り気が進まねーったらげんが悪い。
 きしょーめ。あったりきかーちゃんが悪い。
 車屋盆休み、修理しねーでもそりゃ動くけんどさ、ふーんデートもできねえ。
空しくは塩の花なむかもめ鳥由良の浜廻のきぬぎぬをかも
 勝木の弟子んとこで岩牡蠣食えるのにさ。

2010年08月17日 08:16 せっちゃん ショートショート・破三関
 しゅうしんは新婚旅行だっけか、沖縄に行って、でっかい魚突いて揚がって来た。うみんちゅになれると云われた、うみんちゅの長い槍だ。馬鹿は風邪引かねえといって、シューベルトにいかれて、にっちもさっちも行かなくなって、しまい海にどぼんと潜ったという先生。婿どんに行ったらとたんに風邪を引いた。大熱出した。水が変われば馬鹿もやってらんねーってさ。
 しゅうしんにすもぐりを教わった、シュノーケルをふっと吹いて水を抜いてと云われ、ふっとやったらまだ水の中、どばっと飲み込んで、大慌てで掻きあがったら、ムール貝みたいのにすぱっと足切られ、血いだら真っ赤。
きしょーめ大笑いされて、それっきりもぐるの諦めた。
 しゅーしんだったか、だれだったか碧眼のこういうのある、如何と。
挙す、良禅客欽山に問う、一鏃破三関の時如何。山云く、関中の主を放出せよ看ん。良云く、いんもならば即ち過ちを知って必ず改めん。山云く、更に何れの時をか待たん。良云く、好箭放って所在を得ずといって便ち出ず。山云く、且来じゃ(門に者)黎。良頭を回らす。山把住して云く、一鏃破三関は即ち且らく止く、試みに欽山がために箭を発せよ看ん。良擬議す。山打つこと七棒して云く、且らく聴す這の漢、疑うこと三十年せんことを。
 欽山文遂は洞山良かい(イに介)の嗣。一矢でもって三つの関をぶち破る、さあどうだというんです。
 一句に三つの意思がある、生きた言葉っていうものはそういうもんだ。
古池や蛙跳びこむ水の音
 一は情景そのもの、二は古池という日本詩歌の源流にこっけいな蛙が飛び込んだというもの。三はその水音が聞こえるかっていうんです。
 三つの関なくばそれは死んだ言葉です。
 ト書き能書きだけの今の日本語です。
 三関を一矢にぶち抜くという、では関中の主をそこへ出してみろ、見てやろう。
 思い込みは放出せいってもとないんです、もとないものは知らんのです。
 思い込みこれ、いんもならば即ち必ず改めん、どっかまちがっていたか、では必ず改めようって、そりゃ三十棒だ。
 ないものを0×する、百人が百様これで。
 虎に食われろ。
 方法以前の問題だ。
 更にいずれの時をか待たん。わっはっは良云く、
「せっかく箭を放ったのに、どこへ行ったかわからん。」
 と云って立ち去る。
 どいつもまあこんあふう。
 おいこっちへ来い坊主。良首を回らす、山とっつかまえて、一鏃三関はしばらくおく、おれのために矢を放て見ん。良擬議す。山ぶんなぐって、そうやって三十年疑っていろというんです。
 もう一度挑戦すりゃ、シュノーケルですもぐりができるってのとどこがちがう、同じっちゃ同じよ。
 わしのの云うようにはなった、ほんのもう同じ、これこれだどうでしょうと聞く。わしなんにも云ってないよ、らしいようになるという、てめえこっちにいてもう一人のてめえを見ている。わっはっはぶんなぐるよりない。
 百棒たって、一つぶんなぐりゃもう来ない。
 なーんじゃこりゃ。

2010年08月18日 07:00 せっちゃん ショートショート・まつくいむし
 木を伐らねばならん、場違いの樅が大木になって、一昨年あたりからまつかさを沢山つける。そこいらてんぐだけが生えて、ネット販売すりゃ儲かるってさ、幻覚あり酩酊状態になって、ぐっすり寝りゃけろり治るという。
 張った根がしっかり土手を支えている、どうしたもんか。
 もう一本は、先先住の倅が戦争から持ち帰った、どろのきというものらしい。くわがたがついて、毎日子供が取りに来てほっといたら大木になった。倒れりゃ庫裏を直撃。
 晩秋には穂綿を雪のように飛ばす。
いやひこの蒲原田井に舞ひ行かな汝は満州のどろのき穂綿
 まつくいむしが流行って松が枯れた、山内の松は、薬とホルモン剤うって、えらいめんどうみたのに枯れちまった。松がないとさまにならぬ。
 しょげていたら、明治時代の晋山式の写真があった。松がなかった。百年たってたいそうに茂ったんだ。三抱え四抱えもある七八本。
 庭で野球をやった。ビニールボールを打つ、二本の松が守り手になって、ピッチャーと外野とキャッチャーとで成り立つ。面白かった。ビニールボールの変化球が過激で、わあきゃあ本気になる。
 ソフトボールをやっていた黒岩がうまかった、ホームランバッターだ。あるときぺかっと変な音がしたら、わしの目ん玉に貼りつく、まっしんに当たるってことあるんだ。スピードはてっちゃんがいちばん、すなおでどっかん打たれ。
 宮部がバットを持ってぐるぐる歩く。
「おれがいない、どこへ行ったんだ。」
 という。心理学にいて、脳波のベーター波を出すのが得意だったという、こ数息観や無字と同じに有効かも知れない。ぴったりやった代表。
 松が枯れ、雲水も去り野球は終わる。お蔵の壁板に証拠の跡が残る。
 あとがまがの松が育っている。
 どろのきにもみにかしの大木があってうっそうと茂る、親子連れがきてトトロの森だねって云った。
 植木屋べらぼうに高いしセンスが悪い。
 松が大木になるまでほっとけ。
 まつくいむしが残っている。
 山の松林にせんぼんしめじが出て、香茸が出て復活かと思ったらそれっき出ない。

2010年08月20日 08:36 せっちゃん ショートショート・和紙
 和紙に歌を書くとなんだかうまく行くような気がする、みみずののたくった手前味噌は、見も蓋もなく手前味噌しかないのさわっはっは、ただもう書いて楽しくもなんともなく、何枚かしたらぽかっと放り出す、今は暑くって秋までは筆を持つ気にはならん。
西塔は飛天になりて鳴り響み見れども飽かぬ月を廻らへ
 いろんなところで和紙を漉いている、あっちこっち行ってみた、高いことは高い、大きい一枚紙やできそこない買って来て、短冊に切って使う、三分の一ほどの値になる。
 まあ道楽っちゃこーゆーこったな、
 死んで百年たったら一億円だあ、今のうちに買っておけ。
 売れたこともないし売ったこともなかったな。
 西塔のいしずえには地球最古の岩があった、四十五憶年前の石。不思議な因縁で手中にした男、階段から落ちて今リハビリやっている、長くかかるらしい。
 薬師寺へ返して来るんだな。
東塔は伎楽になりて鳴り響き見れども飽かぬ月を廻らへ。
 こけぐま出版はちゃっかり屋で、本こさえちゃ接心客に売りつける、こないだは売り上げ二万ほどあって、みんなで八石山ステーキ食べ行った。山ん中に牧場があって、ステーキにワインが飲める。
 けっこう人気の山で、登山客が多い、てっぺんのあずまやが見える。今は珍しい蝶の群飛する、なんとか現状維持がいいけど、じき開発だあってめちゃんこ。
 怨みつらみの宗教でもって、徹底的に破壊してから、鯨取るなだの自然保護だのって、仏教国の仏教は地に落ちて、なんしろ物真似らしくの曖昧大国は、貧乏人のゼニ失いで結局は駄目だな。
 こけぐま出版で一度売れたことがあった、こけちゃんこねで先生様に信濃毎日新聞に紹介文を書い貰った。一00冊売れた、エッケルト財団というところから一冊送れという、、うは四00億の手始めかと思ったら、一冊図書館に入ったみたいでそれっきり。
 どうやらわしの命運だな、和紙の命運も同じとわっはっは。涼しくなったら歌を書こう、うん。

2010年08月21日 08:22 せっちゃん ショートショート・郷別け
郷別の中なる川に橋かけて渡らふ月は清やにも照らせ
 郷別という地名があって、川を隔てて郡が変わったりする辺りを云った、今はなくなった、傍所なんて村がある。
田を植えて早に舞ふらむつばくろや郷別け中に大凧揚がる
 今町と中ノ島の大凧合戦は今も続く、月遅れの節句で法事があって見られなかったが、今年かぶりつきの料亭に招待された。堪能したかって風がばったりで今一つ。
 大凧合戦は頭のてっぺんに落ちてくる、百五十年前に死んだのがいて、信心が足りねーからだってけり。凧のことをいかという、卑下して云うんだと思ったら、江戸時代を通じていかが正しく、そりゃ蛸というより烏賊だあな。
 地震の前に洪水があって、ようやく後始末して、壁を塗り終わって左官が一服したらどかんと来た。いやもう踏んだり蹴ったり。
 洪水も前代未聞の規模だった。
 川の流れを変える大工事があって、檀家三軒火事肥りじゃなくって、全額保障で移転した。
 たいていは七割保障がいいところ。山古志村は莫大もない寄付や国の金が出た。わっはっはおっさんが毎日十万懐パチンコしに行く。
 まあものすごい工事がしてある。国は赤字になるわけだ。個人的意見とすりゃ、みんな移転して地震観光ってのやって、文無し儲けでよかったのにさ。ふわ殺される。
いにしへの人に恋ふらむ椿花古志の小国は長岡につき
 山古志郡というのは完全になくなった、町村合併しても地方は食えん、物真似ばっかりのあぶく思考。東京サラリーマンに稼がせてゆすりたかりのなんまんだぶ。
 食いつぶしてはなつかしさも失せ。
 月は良寛さんでおしまい。
郷別の中なる川に橋かけてわたらふ月は池島に行く

2010年08月22日 07:08 せっちゃん ショートショート・一夜漬け
 甥っ子のしんちゃんは猫が大嫌い、親父はもと海軍少尉どの、グライダーに乗って片道爆弾やってて終戦になった、敗けるとは何事だ天皇はけしからんといって、共産党になった、でもって飲み屋に行くと、海軍少尉ってんで大威張りがさ、どうも猫がこわいらしい、ぶるぶるふわーとほっぽり投げる。しんちゃんは山岳部ででっかいリック担ぎ込んで、ぐっすら寝ている。起きてこない、ねこを突っ込むとうわい出てくる。
 せがれと娘が二つ三つだったか、きゃっきゃわめいている、行ってみると猫を池に投げ込んで遊ぶ、かわいそうに溺れかける、助け上げて二人を叱ったら、なんで叱られたかわからない。
 しんちゃんが池へ投げて泳ぎわたるのを、三回が限界だなといった、それをまねして二人でやっていた。
 不幸なねこだ、大猫にはおどしあげられがきどもには玩具にされ。
 わしはしつけゼロだった、叱ったのはこれだけ。
 お寺の障子貼りは大仕事、あと二三枚になって振り向くと、二人指つっさして穴開けくる。白土三平の忍者武芸帳大切にしてたのに、二階から投げる、はらはら落ちるのを面白がる。そういえば碁石もぶちまけたな。
 子は親の恩を三年で返すという、ほんにその通りだった。
 てなもんで、高校受験のとき、親子面談で呼ばれて行ったら、兄はどこも受からんという、できたばっかりのなんとか高校って、そんなん遠くってだめだ、「なんで受からん。」
「成績悪い、体育なんか10点評価の1と2ばっかりだ。」
「どうしてだ。」
「喧嘩して相手ぶんなぐった。」
「でもうひょろひょろ体質を、走りこみやって立派な体にしたけど。」
「そういうのは評価されません。」
 てやんでえもう頼まねえ。高校の先生に聞いたら、内申書は試験の成績がすれすれんとき見るだけだって、三ヶ月特訓した。ナンバー校さえ充分受かった。
 きしょーめ先公野郎。
 年子の娘も、一ランク下げろと云われた、わしもそうしろって云ったんだが聞かぬ、三ヶ月特訓したら、これは頭がよくって詰め込み過ぎた。高校受かったらもう勉強せん。
 先生雁首揃えて謝ったな。
 高校受験なんて頭に関係ねーの、適当な参考書買ってきて三回やる、一回めはすみからすみまでやる、二回めはざっと目を通す、三回めはたいていもう覚えているのさ。
 満点取れるよ。
 一夜漬けみたいとするからだめなんだ、大人になった兄が云った。うっふまあ大きにそーゆーこったな。
見よやこれ親の因果が子に報ひ二人参うでぬ山百合の塚

2010年08月23日 08:39 せっちゃん ショートショート・江ノ島
大磯で生まれ藤沢で育って戦争だあ、小学校三年のとき疎開して、信州は中山道長久保の宿というのが、魚とりに栗拾いにわがなつかしの故郷になった。めったくさいろんなことあった、わっはっは面白かったぜ。戦争の悲惨だのああ原爆は許すまじっての、わしには関係ねーかな。
 進化論とか歴史とか理解できねー人です。
 おふくろの里は山のうちといって、隣大門村の山の中にある、赤報隊の親分して岩倉具視に悪者扱いされて、山ん中へ逃げ込んだ。村の面倒をよくみたらしく、疎開者はいじめられても、わしらは本陣に宿を借り、弟は優等生で兄貴はとんでもねえいたずらがきで、姉は大苦労して、まあさ六年の春に、復員してきた親父の就職が決まって、長野市に移転した。
 転々七十年。てめえのことかどうかもよくわかんねーかな。
 ろくなことはしなかった。
江ノ島に夕を仰がむ富士の嶺やわたつみ海に思ひうちよせ
 去年江ノ島へ行ってみた、住んでいた鵠沼はすっかり変わって、どこでも見えたな、同じものは富士山ばかり。
 桜貝を拾った浜に、予科練が四列縦隊で走って行く、先頭の教官がわしら親子に挨拶した。そりゃもう天にも上る心地。予科練藤沢航空隊の多いときは十人も泊まりに来た、民宿ってわけがそのいきさつは知らない。
 半分は日本刀をひっさげて特攻に行き、敗戦になってもうわからない。何十年もして連絡があった、加藤さんという人であった、だいぶ面倒をかけた、捜し当てたんだ会おうといって、手はずしている最中になくなった。
 ほんに気のいい人だった。
遊行寺に一遍上人をとむらふは早に忘れし幼な心ぞ
 遊行寺幼稚園に通った、つむじ風に巻き込まれておでこを打った、くるくるっと廻ってきたと思ったらどかん。第四小学校という学校はなかった。ちびの先生をこーやってからかってえらいこったとおふくろが云った、戦時中だった。毎日防空壕だ、防空頭巾かぶってなにをしていたんやら、B29が往復する、そいつが煙を吹いて落ちて行った。高射砲のむだ花が咲いて青い空。
 一遍上人は道元禅師と並び仏教を伝えた人、門徒や真言や難妙法蓮華経やと、仏教とはほとんどなんの関係もない。
 一遍さんのあとを継ぐものもない。
 よくこれを伝え次の代につないで行く。
 他にはない。
 戦争だの平和だの恐竜の進化だの、わっはっはそりゃ二の次三の次。

2010年08月24日 07:50 せっちゃん ショートショート・椰子の実
椰子の実というのを一度食ってみたかった、ぽかっと穴開けて中身を吸う、冒険ダン吉のころからの夢だったかな、熟れるとコプラという油になるって、ふーんなるほどってわけ。そいつはあんまり食わなくっていいか。
「名も知らぬ遠き島より、流れ寄る椰子の実一つ。」
 島崎藤村のこの歌は知多半島という、めったに椰子の実は流れ寄らんてさ。
「我れもまた渚を枕、一人寝の浮世の旅路。」
 とさ、身の上を歌うほどの贅沢はわしにはなく。
「小諸なる古城の辺、雲白く遊子悲しむ。」
 遊子というには、ただもうめっちゃくちゃ。
「我れは歌えども破れかぶれ。」
 だったらそりゃハッピーだ。
 振り返るとユーリケーは冥府へ戻ってしまう、ホメーロスはなきがらをかき抱く。腐れた皮っつらを貼り合わせ、どうしたって元に戻らない。
 それをむりやり浮世へ担うて帰る、命の息吹をを分け与えって、それができたのは自分も死に絶えていたからではないか。
 それじゃなんにもならん。
 歌うとはどういうことだ
 無から有を生ずる。
 人をまったく新しくこさえる。
 サイボークかゾンビーか。
 科学者のロボットか。
 歌は訴えるという、感動があるのか。
 心とはモザイクがなんとしたら動き出す。
 そうさなあーわしの問題はこんなふうであった。
猫魔なる冬の宿りを摩訶不思議月押し照りてぶなの林を
この湖にわかさぎ釣らむ人をかも道は閉ざして雪降りしきる
ふたたびも蔵王の山を廻り行け雪の追はれて雪なき里へ
空しくは塩の花なむかもめ鳥由良の浜廻のきぬぎぬをかも
 そのように蘇る。
 作られたものではない感動が。
 釈尊によって救われた=ではその証拠をも。
 完成してもって見向きもされず。
 ということは失敗の。
 すると正しく本来本当が始まる。

2010年08月25日 07:41 せっちゃん ショートショート・習庵序
 道は無門と説けば、尽大地の人得入せん、もとなんにもない得入する要なし、人みな200%です、自分という囲いがない、自覚のしようがない。だのになぜという、なぜなんだろう神変不思議、奇妙なこったな、かつてわしはだれ一人許したことはない、会う者みな不可。それじゃ有門かといって、門があれば不可、坐るとは門の無いことを知る、知ればすなわち不可。不具合をまったく免れる、一人半分ありやなしや。
 無門関習庵の序という、習庵陳そん(土に員)は宋の寧宗嘉定年間の進士、科挙の試験に受かって天子の補佐となる、破天荒という言葉もある、これはたいへんなことで、累官して太常博士、枢密院編修官、国子司業に至ると、押しも押されもせぬ国家の枢要ですか、それが仏なんです、すばらしいことです。
 道は無門と説けば、尽大地の人得入せん。道は有門と説けば、阿師の分無けん。(おれの取りえないよってさ。)第一強いて幾箇の注脚を添うは、大いに笠上に笠を頂くに似たり。(せっかく盆に載せた餅の、味だの食いようだのあげつらう、邪魔になれこそ役立たず。)硬く習翁が賛揚せんことを要す。又た是れ乾竹に汁を絞る。(おれに賛辞を書けとせっつくんだが、そりゃ乾いた竹から汁を絞ろうとするが如く。)這些のこう(口に考)本を著得す。(だからこんなつまらんものが出来た。)習翁が一擲に一擲するを消ひず。(捨てるにも価しない。うっふなんにも書かないの大袈裟なこったぞ。)一滴を江湖に落さしむること莫れ。(人みなの修行道場に一滴も洩らすな、もとないものをあるように思ってしまう。)千里の烏すい(推のてへんを馬)も追い得ず。(うすいのような名馬でも追いつかない。)
 無門関を提唱する、いいわるいによらないその値を知ってあげつらう、はなはだ珍です。とらわれのものではないんです。
 若しこれなければ無明黒闇、光明がないんです。西欧社会はただもう闇だった、今の日本も、たとい光明あっても知ることはなはだ難です。
 理想社会とは何か。ものごとを弁えて下さい。
 人間らしいというひとりよがりを去って実際です。
 思いもよらぬもの。
 試験の答案が答えじゃないんです。

2010年08月26日 08:12 せっちゃん ショートショート・遠野
 遠野へ行って河童橋を見た、お寺の裏にむかしあった小川が流れて、観光開発というよりなつかしい、河童なんかどうでもいい、良寛さんなら、
「おらあがん。」
 と小川にそう書き付けてさ。
 遠野から宮古へ行く、熊が出て玄関先から上がり込んだと騒いでいる、国道何号線であったか山を廻る、村が一つだけあった。冬はもうどうやって暮らすんだろうと、せっかくわしの好みだってえのに、川は釣り荒れてやまめ一匹いない、車社会だからよそ者跋扈でしょうがないか。
 あっはっはそういうわしもリリースたって荒らしまくる。
 横審がまたもめてらーな、えらい人がいっぱいいて大関や横綱がいて、なんでって、みーんなどっかぼやけているんだな、良心というより真面目というより自信がないのさ。
 心体一致の白鵬だけがまるかな。
 まともな四股名もつけられない、日本語を忘れて、日本人を止めちまってさ、善いの悪いの、学者だろうが漫画家だろうがフアンだろうが相撲取りも同じ、
 やるせないとはこれ。
 まとまるものもまとまらないし、まとたって元の木阿弥だな。
 ねじ式のねじが外れ。
 宮古へ行ったら、なにがしというすし屋へ行けという、ずいぶん待たされて、さんまの刺身とほやと食べた。
 すんげえうまかった。
 肝心なもの=初秋がある。
 町はなつかしいような人でいっぱい。
 翌日北上したら、とんでもない山の中まで津波到達点のしるし。
 切なくなって、日照りの夏じゃないがどうろうろ歩く。
 わしは花巻には行かない。宮沢賢治で育って土足で歩きたくないって、奇妙なさ。

2010年08月27日 08:33 せっちゃん ショートショート・おじゃまさま
 瀬戸内寂聴っていう女の顔は、なんであんなに醜いのかな、文化勲章だっけか日本人はさなんかへーんなの、醜いとは骨の髄まで嘘八百ってこと、自分でも嘘だって知っているのにさ。仏とは無縁の人、仏に無縁ということはありえないから罰当たりの極悪人だな。
 仏教があんなにでたらめいい加減で、源氏物語がましなわけはない。醜悪と多数決がいっしょとは救いようがない。
 うはっはあ売れねー本作ってるのは発言権がねーか。
 戦争に負けてどん底の折り返し点か、うすら馬鹿の崩壊ってだけか。
 冬の青荷温泉に行ってみた。みちのくのランプの宿と、電気を引いてあるからやらせのランプ。
 雪上車で雪山を行く、うわど迫力、
伝へ聞く死の行軍の八甲田万分の一が雪の辺なる
 つららのと氷の窓が摩訶不思議。
 美緒ちゃんが売店を冷やかして、お邪魔様でしたと云った、おおきにお邪魔様っておっさんが返した、なんにも買わねーくせにさ、
「お客に対してなにごとだ。」
 かんかんに怒る。
 晩飯は食堂で、はーい雪女にかんぱーい、飲んでますます怒る。
 美緒ちゃん幸ちゃん恵美子ちゃんと、年増おねーちゃんは怒るほどに下がかり、わしと弟子は焚き付ける。
 隣に孫娘二人とじっさといて、
「ランプの宿ってんで連れてきてもらったけど、わしら戦中派には風情じゃねーです、苦しいってか切ないこって。」
 という、そりゃわしも賛成で、子供の手突っ込んでランプみがきしてと、話盛り上がるかと、瀬戸内さんの信者ですがって、こっちの女どものど助平に辟易して早々引き上げる。
 青荷温泉は混浴が大小七つあって、夏はニアミスだった、勢い込んでやって来たら混浴は一つだけ、何でそーゆことするんだくそーめって、三人女サービスだってんで混浴入ったら、どっかのおっさん来て大悦び。
 遅ればせに入ったら、もやーっと薄暗くって男も女もわからない。
青荷なるランプの宿をま悲しみ雪に問へれば雪はも深み
 ゼニ払うの忘れて出てきて、道の駅で気がついて誂えた。
 弘前公園のぼんぼり祭りを見た。
 ボランティアのばっさと肩組んだら、その手のけてくれって写真を撮った。
弘前の百万灯にとぶらはめ人の住まへる雪はも深み

2010年08月28日 07:50 せっちゃん ショートショート・古墳
 岩原ワインの差し向かいに古墳群がある、直径五メートルほどの円形で、草が刈ってあって、乳首のないおっぱいのように盛り上がる。上に乗ってってみたらといって、おねーちゃんが上った、ケータイに撮って、
「スカート履いてただろ、今晩豪族さまがお出ましになる。」
 千二百年の眠りを覚ますやつはだれだ、うらめしやーってのは江戸時代でー
 残念出なかったってさ。
 上越へ行くと、ぶなの林に六十幾つの古墳があって、春にはいちめんにかたくりが咲く。そのいわれのほどはよーもわからん、看板に書いてあったって、なーるほどと云ったら忘れちまう。
「秋来るときのこ取れるかな、あまんだれの雑きのこだな。」
 うそぶいて出て来る。
 結婚式が長岡のホテルにあった、ワインを頼んだら岩原ワインを持ってきた、別誂え、古墳ワインみたいんで残したら、頼んどいてなぜ飲まなねえって、ホテル女に睨まれた。駐車場のじっさが大威張りかく、田舎さあな。
 信濃ワインも十勝ワインも、日本人のシャンソンみたいで今一。
 苦味が足りないはてな。
 長野だったかプリンスホテルに泊って、ワインて云ったら一覧表持って来た、あちゃらか文字わからねえ、1030円うーん手ごろだ、おーいって呼んどいて見たら103000円、ぎゃあ生ビール頼んだ。
 2万もしねーとこ泊ってるんだ、えっへん田舎者。
 ワイン一本300万円のホストクラブだって、ひえー田舎者にのしがつく。
 プリンスホテルが日教組断ったてさ、そんなもん断る、坊主が常識なしの、先生はもっと破廉恥、ふーわ恐れ入るようなめにあったなあ再三。
「先生と坊主にゃろくなものがいない。」
 藤原こうたつの仰せとおり。
 プリンスホテルを訴えるって、裁判沙汰よりなんで人に嫌われるかっての考えたことねーんかな。
 お飯が食えりゃそれっきり。
 偉いんさなあ。
 坊主と先生の二股膏薬、うは根太腐る。
 いやさだれあって破廉恥非常識さ、かーちゃんに当たり散らすしかねーってのが男さ。
 千年も眠っている大王は、ちっとは世の中見ていたんかなあって、かたくりに聞いたら首を振る。
 春風も時に冷たいのさ。

2010年08月29日 08:28 せっちゃん ショートショート・とりかぶと
とりかぶとにまつむしそうにわれもこう、秋の七草に思っていたら、みちのくのは思い切って毒かな。
 釣ってくるで飯の支度しとけって、谷川へ下りてさっぱり釣れない、上がってきたらコーヒーを沸かしていた。パンにソーセージなど並べて昼餉。
「きれいな花だ、なんだこれ。」
 と穴井、
「とりかぶとだ。」
「うわや飯食えね。」
 ばーかぶすっていうのは根っこだ、花は人畜無害。
 花輪鉱山というのがあって見に行った、
「鉱山跡がごっつーいいんだ、ぜにねーからもうそのまんま。」
 穴井の趣味だ。
 まだ現役か、プールがあってへんてこな機械があって、
「何掘ってんだ。」
「そりゃ金に決まってらーな。」
「ふーん。」
 デズニーランドにこんなんあったな。
小屋の畑小屋の沢なむあしびきの去に行く雲の春遠みかも
 高速道路沿いが、さびれきってそんな地名がある、冬は閉す、山越えに鹿角へ入る。
 弟子二人に女ども三人のこれが初旅だった。
鹿角には若葉をさへや花の輪の雪し消ゆれば問ひ越せぬかも
 大湯環状列石という縄文遺跡、直径百メートルもあるストーンサークルが二つ。ボランティア田口良子さん秋田弁丸出しの説明する。例によって覚えず、
「土器とかやじりじゃなくって黄金伝説ってのねーですか。」
「YFO出るとこに教会とかストーンヘンジあるってほんと。」
 そっぽむかれて売店に寄る。土器せんべえとさ、ピアノ弾きの幸ちゃんがオカリナ買った。
 車ん中で吹く、ピアノのようには行かないらしい、雨が降ってきた、ぴーこーオカリナ気狂う止めてくれ。
 おうジェルソミーナしよ、能無しのわしが鎖ぶっちぎって、大道芸しよ二人で食ってこ。
 そーだ礼文島に年五00万出すって寺あった、そこへ行こうんそーしよ。
 いいかげんな旅は面白かったな。
 有名宿の蔦屋に泊まった。テレビに出たから満員で、旧館のファサードしか開いてない。タイムマシーンみたいにねじれひん曲がる、縄文なんてけちいのより恐竜時代へ、名人大工がぴったり建具を建てる、わし寝たまんま女どもの部屋に滑り込むぞ、高低差はげしーや。
蔦屋とう我が思へらくはいにしへゆ言の葉疎き奥の細道
 庭にぞっとりかぶとが咲いていた。

2010年08月30日 08:11 せっちゃん ショートショート・お経
 犬も歩けば棒に当たる、月夜に釜を抜くってよーもわからん、もしや忘れちまったなんかあるんかな。日本語忘れてわっはっは、忘れちまったことも知らんてさ、ふわーい欠伸こちとら関係ねーか。宝くじ3000円当たったって、へーてえしたもんだ、一億円当たるにはどーしたらよいか、数学博士に聞いたら、当たるまで買えばいーとさ。なーるほど。
 だぼら吹いてるのへ、お経出しちゃいかん。
 はーいたってもさ。
「仏祖憐れみの余り広大の慈門を開き置けり、これ一切衆生を証入せしめんが為なり、人天誰か入らざらん、彼の三時の悪業報必ず感ずべしと雖も、懺悔するが如きは、重きを転じて軽受せしめむ又滅罪清浄ならしむるなり、然あれば誠心を専らにして前仏に懺悔すべし。」
 毎日読んでりゃ忘れないって、忘れっぱなして身に就く、海の水のように元の木阿弥。クリスマス島の赤蟹は海に行こうが、人は滅罪清浄して帰家穏坐、誠心を専らにして前仏に懺悔すべし、知識のだからどうのの横すべりじゃあ赤蟹にもなれん赤恥、悟りなく生活なしただもう有耶無耶。
 末寺の和尚が死んで告げが来た。死んだと云わないで示寂だ遷化だ、年はわしと同じ、らごら坊主には珍しく坐る、沢木興道さんの無事禅をして、耳塞という病気になった。自分を開く方向にはなかった。
 正師につかなきゃそりゃ無理だ。
 見せることは見せたがな。
 坐禅になって始めて坐禅ということを知らん、哀しい。
 不都合であり危険だ。
 仏の道はたった一つ、お釈迦さまになること、身心脱落という、忘れる忘れないではない、箇の大海三昧。
 もとからどんぴしゃの宝くじ。
 接心が始まるのに葬式に行く、ちゃんと引導渡してやれって、死んだやつに引導渡してどーなる。
「うわっはっは、そーゆーこと云うと首。」
 葬式稼業めくら判、お布施稼げねーかな。
 てやんでえこのくそ暑いのに衣着るんだ。
 汗みずく。
 よそ者坊主が、このごろらしく扱われるぜ。
 関心がねーからたいてい忘れる。
 侍者の云う通りすべえ。
「其の功徳法門普ねく、無尽法界に充満弥綸せらん、哀れみを我れに分布すべし、仏祖の往昔は吾等なり、吾等が当来は仏祖ならん。」
 我昔所造諸悪業、皆由無始貪じん(目に真)痴、従身口意之所生、一切我今皆懺悔。

2010年08月31日 08:12 せっちゃん ショートショート・戸隠
 あれはもう十一月であったか戸隠の中社に泊まった、古くからの宿坊があって神官がやる、学生一人だけど、いいよ、蕎麦にしますかご飯ですかと娘が聞く、蕎麦だといったら馬の食うほど出る、おれも男だって頑張ったけど、三分の二食ってふん伸びた。そばのにおい横溢もうそりゃうんまかった。
 庭は絶景、霜さびてたけなわの紅葉が五葉松と、夕陽に今皆懺悔、とつぜん降るような星。
 あしたはいい天気だった、あてもなく歩いて行く。
 少年のころ蝶を採集した飯綱原、叢に泉が湧き出す、何箇所も湧き出す、砂を巻いて底知れず。
 茶屋が二軒あった、長野市から四時間一の鳥居を過ぎて茶屋までがコースだった。まわりは蝶の宝庫だった。落葉を踏んで歩くとなにか転がり出る、ぼけの実だった、信州では地梨という、金色に熟れて光のような、六つも七つも拾った。
 そうしたらきべりたてはが行く、夢中で追いかけた。
 雪消えの五月に来て初めて採った、越年のおんぼろだった、手が震えてとまらない。美しい亜高山種であった。
 同じところにいた。
 悠々飛んで行く、枯れ落ちたぶなと青空の間に消えた。
 宿坊の娘がぼけを一つ欲しいといった、机の抽斗に入れておく、いいにおいがするのだそうだ。
 しめじとくりたけを取ろうというと、案内してやるって、すんでに遠慮した、550円で泊まってあとは交通費しかない。
 うっふ申し訳ないってわけの。
 笹ヶ峰から黒姫山のふもとをめぐる。
 古池と溜め池という池があった。お水取りといって、百姓どもがやって来て宿坊に泊る、戸隠の蕎麦を、そりゃ青二才がいくら頑張ったって平らげるわけには行かぬ、野良仕事はきつい、飯はめんぱで仕事は半端なと、めんぱはわっぱでこさえた弁当箱が、四合飯が入る、梅干に塩引きのしゃけと、わっはっは豪快そのもの。
 溜め池は不気味に静まり返る。黒姫は哀しい伝説そのものの、古池は紅葉の絶唱。
 蝶を追う少年と併せ青春に決別の旅は、そうさななにもかもとち狂ってなんにもならずは今に至る。
 だが風景はまったく色褪せず。

2019年06月02日