とんとむかし2

きつつき

とんとむかしがあったとさ。
むかし、月潟村に、茂兵衛ともうす、名人大工があった。
木の駒も、水を飼う、梅のらんまには、鶯が鳴く。みなほんものそっくりに、こしらえた。
ある日、茂兵衛が、龍をこさえると、その玉が欲しいと、娘のお花が云う、
「神さまのものだで、だめだ。」
と云えば泣く。
目に入れても痛くないほどの、可愛がりよう、またこさえればとて、茂兵衛はくれてやった。
お花は大喜び、犬にも見せ、すすきにも見せ、空の雲にかざしして、水の辺りへやって来た。
どっと大波起こる。
お花もろとも、玉をうばって去る。
茂兵衛は、気も狂うかと、返らぬお花の、名を呼んで、山から谷から、走せ回ったが、一夜お社に来て、ぬかずいた。
「わしの娘を返してくれ。」
神さまに願えば、
「玉は龍のもの。」
と、神さま、
「じゃが、年月使えた、大工の願い、みたまは連れ戻そうぞ。」
ともうされる。
「はや、身はくたれる、大工のわざに、ととのえおけ。」
と。
名人大工は、身を潔め、神木をえらび、一心不乱。
七日七夜、神さまは、ことをたがえず、射し入る日に、黒髪ほどけ、ほんのりあかねさし、
「お花。」
名呼び、抱き上げりゃ、
「まっくらじゃ。」
とお花。
その目は、見れども見えずの、開きめくら。
茂兵衛は、つっ放す、泣きったけぶのをそのまんま、お社へ、
「大工のわざが、つたなかったか。」
と、問えば、
「悲しみ、過ぎたるゆえに。」
と、神さま。
お花は見えぬ目を、父親ののみに突いて、こときれ。朱けに染んだ、むくろを抱いて、名人大工はさまよい、しまいきつつきになった。
赤げら。



やどかり

とんとむかしがあったとさ。
むかし、にいはま村に、三郎兵衛という、漁師があった。
時化続きに、母親ねえなる、ねりやへやるとて、一そうきりの、舟売って、弔いすませたば、はあやなんにも残らず。
明日食うものもねえなって、なぎさ歩いていると、ねえなった母親呼ぶ。
「なのざま見ては、ねりやへも行かれね、あした浜の曲がりの松行け、いいことあらな。」 という。
あした朝、三郎兵衛、浜の曲がりの松、行いてみると、日にきいらり、何や光る。
清うげな衣は、かかる。
手にもふれりゃ、夢のようなる、
したば、
「もうし。」
と呼ぶ声、
「それはわたしのねりや衣。」
浜の曲がり、清水湧くとう、美しい乙女子が、ゆあみする。
「お返しなされや、ねりやの国へ帰れませぬ。」
と云った。
「にいはまのまがりまつがへあさひさすさやさやたまのねりやぎぬ。」
乙女子は歌う、
「さきほひのうしをみつとふふれなばか、
ねりやおともがうしをぎぬ。」
「お返しもうさぬ、わしの嫁になれ。」
浜の漁師はいった、
ねりやの乙女はたまげ、
「えにしはないが。」
「ねえけりゃこさえる。」
「ねりやの一日は、この世の百年。」
「たった一日じゃ。」
とやこう、海底に沈む、浮かび上がって、泣く泣く、浜の漁師に従った。
食うや食わずの浜の屋に、ねりやの乙女は住んで、幸も廻るよう、暮らしも立つか、

「そのうち舟を買うて。」
と三郎兵衛。着物やかんざしなども買うてやればとて、ねりやの妻は、咲まわぬ。
夜更けであった。
となりにうかがう様子、屋根に隠した、ねりや衣。
屋根の破れを、星の明かりにきいらり。
妻は寝入る。まだきに起きて、ねりや衣を下ろす、三郎兵衛、物持ちの家に売って、舟を買うた。
なぎさにつけると、にっこり咲まうて、
「お舟に乗せて下され。」
と、ねりやの妻。
漁師は、有頂天、舟にのせて、漕ぎ出した。
沖へかかると、かじさお利かず、まっしぐら、
「取らなかったは、おまえの子を、みごもったからじゃ。」
ねりやの乙女は云った。
「この世の縁もあったものを、この上はふかに食わせるっよりない。」
舟は張り裂ける。
おぼれかけて、三郎兵衛は、母親の声を聞いた。
「おれもおめえも、ねりやにあだした、しかたねえ、やどかりになって、荒磯渡れ。」




鬼無里紅葉

とんとむかしがあったとさ。
むかし、鬼無里村の、太郎右衛門さま、松のお庭なと、普請しなさる。石を置きかえようと、掘り返すと、くわの先にかっちと当る。 古い鏡があった。
年月埋もれていたのに、拭えば清うげに映る。
これはお宝じゃとて、太郎右衛門さま、
「水神さまの引き出物。」
という、桐のはこにも納める、お庭普請が終わって、人みなに披露した。
「さすがご人徳。」
「天が感じ、地がこたえた。」
というて、振舞酒に、人は誉めそやす。
鏡を取り出すとは、一天俄にかき曇る、雨さへほうと、はらつくのを、客も主も気がつかぬ。
この辺り、托鉢しなさる坊さま、見ればなにやらあやしの気配。
たまげて問えば、太郎右衛門さま、件んの鏡、坊さまとびすざる、
「天のものの、息吹がある、お宮に納めるか、水に返すかしなされ。」
と云わっしゃる。
太郎右衛門さま、せっかくのお宝もったいなや、神明さまに奉納。
吉日をえらぶでいとま、十五ばかりになる、一人娘が、桐のはこを開ける。
見るなり執心。
鍋の底なと、代わりに入れて、ねやにしまいこむ。
太郎右衛門さま、はこごとに奉納、お払いもすんで、帰って来たら、娘がものを云わぬ。
年頃じゃとて、ほっておけば、急に美しゅう。
もとよりにくさからぬが、太郎右衛門さまさへ、はっとと胸を突かれるほどに。
辺りの男という男どもが、よったくる。
文付けるやら、笛を吹くやら。
世を儚んで、大川に身を投げる者。
断わり切れぬ、縁談もあって、それとのうに問えば、娘はけんもほろろ。
春の花さえ、秋の月もかくやと、ろうたけて、そよとの風も、耐えがてな。
鬼がさらって行った。
奥山の岩屋へ。
こときれた娘の、たもとになにやら。
とって、見入るうちに、叫び上げて、鬼は姿をくらます。
鬼が消えたで、村を鬼無里という。
鬼の叫びで、山は紅葉したと。



金の太刀

とんとむかしがあったとさ。
むかし、山の本多の長者さま、人の妻はうばう、背く者には、田に水やらぬ。
手下をつれて、狩りに出た。
弓矢がそけて、娘に当る。
「お役をもって、ひしを取っておりましたのに。」
と、父親が云った。
「鴨と間違えるなと。」
「なんとな。」
と、長者さま、
「ふうむ鴨の親子ぞ、それ撃て。」
弓矢をつがえる手下ども。
なんということ。
そこへ、たくましい若者が立った。
「外道め、成敗いたす。」
十人、たたっ切って、長者さまに、
「わしは山の本多の長者。」
「伊谷の十郎。」
名告って、そっ首をはね。
「責めは、喜んでわしが受けもうす、お逃げなされ。」
父親が云った。
山の本多を、伊谷の十郎、あとにした。
行方も知れず、十年。
その家屋根に、なりくらめいて、金ねの太刀が、抜き立つ。
太刀には、文がついた。
「ご不孝お許し下され、十郎は妻と月へ行く。」
とあった。
父母が涙を落とすと、金ねの太刀が、物語る。
山の本多をあとに、伊谷の十郎、のさばるを退治し、弱きを助け、山を越え、野をわたれば、
「美しいやな、さゆら姫。」
松の長者の、さゆら姫と聞こえ、草もなびけと、やって来たれば、こけむす巌に、太刀が一振り。
「この太刀、引き抜いた者に、姫をやる。松の長者。」
仕損ずれば、命はないとあった。
「なんのこれしき。」
伊谷の十郎、柄を取る。
雷鳴って、太刀はからりと、引き抜いた。
「天晴れ花婿。そっ首、はねてくれたは、四十と九人。」
まっ白い、松の長者。
引き会わす、朝日ににおうと、美しいやな、さゆら姫。
三年三月は夢のよう。
伊谷の十郎、さゆら姫。
子のないだけが、たった一つの。
一夜巌の、太刀を取る。
思いは遠き、父母の辺。
あやしの気配に、抜く手も見せず、切り伏せたりゃ、倒れ伏すのは、さゆら姫。
「なんと。」
返す刀に、我と我が胸をと、
「待った。」
まっ白い、松の長者。
「我が家のことわざ、末摘む花は、宝の継ぎ穂と。子のない姫は、朱けに染まって、末の花、宝のつぎ穂は、その太刀じゃ。」
鬼神の残した、宝蔵、
「その太刀にとって、取りに行け、姫への手向け、まっ白い、わしへの孝養。」
松の長者の申さく、よってもって、伊谷の十郎、ゆら姫の太刀、行方定めぬ、旅枕。

西へ十日を。
ざんさあ風の、かやっ原。
とーんからころ、
「宝の守りは、鳴子の太郎。」
名告りを上げて、十方刃。
耳をそぎ、頬をえぐる、
十郎、ゆら姫の太刀、
「死なば死ね。」
とて、突っ走る。
とーんがらごろ、つなはふっ切れ、鳴子の太郎の、守りは抜けた。
ひょーんと跳んだ、巨大なけもの。
「宝の守りは、虎の二郎。」
十郎をひっとらえ、急所を外して、もてあそぶ。めしいになった、大虎。
雷のように、喉を鳴らす。十郎、ゆら姫の太刀をつっ刺し、またがった。
「めしいの目になろう。」
千里を行って、虎は倒れ。
とっぷり暮れて、一つ屋敷に、灯が点る。
美しい女が、案内する。
湯につかり、飲んで食って、十郎。床を取ったら、
「寝るが、よかろう。」
美しい女が、さやめく。
「宝の守りは、屋敷の三郎。」
古い書物が一冊。
「ゆめやうつつや、たからぐら、ひとついのちを、ふたつにかえて。」
言葉を追えば、眠くなる、うつらと眠り、ゆら姫の太刀を、ももにつっ刺し、
「あやしのえにし、むなしくおわる。」
と、読み終える。
一つ屋敷が、火を吹いた。
あやふく逃れて、十郎ゆら姫の太刀。
笛や太鼓に、行列が行く。
美しい花嫁。
「めでたいな。」
「なにがめでたい、くすのきさまの、生け贄じゃ。」
恐れ多くも、大くすのきは、あしたに二十の、村を覆い、夕に二十の、村を覆い、七年ごとに、女を娶る。
「伐り倒せ。」
伊谷の十郎、
「木挽を十人、わしに預けろ。」
十人そろえ、夜を日についで、伐り倒す。
「よそ者が。」
「なんということをする。」
八方にうなりを上げて、石のつぶてが、飛んで来た。
「宝の守りは、つぶての四郎。」
と聞こえ。
「わたしは、くすのき様の、」
美しい花嫁を、かばう若者に、十郎、ゆら姫の太刀、十人の木挽を守り、石はうなりを上げ、
「またの世に結ばれようぞ。」
倒れる若者。
ついにくすのきは伐られ、
「ちとせのくすに、ふねをこさえて、たからのたびは、うみのうえ。」
むくろの娘が、口を聞く。
くすのきの、舟をこさえて、十郎ゆら姫の太刀、行方も知れぬ、波枕。
島影消えて、淋しいばかり。
急にあたりは、まっくらめいて、
「宝の守りは、霧の五郎。」
一寸先も見えぬ、五里霧中。
べったり凪いで、同じところを堂々巡り、帆はくされ、かじさお空ろ。
「はやこれまで。」
と、十郎、ゆら姫の太刀を、海へ投げ。
太刀は波もに浮く。
切先光って、あとを辿れば、霧の五郎の、守りを抜け。
荒れ狂い、吠え狂う、
「宝の守りは、嵐の六郎。」
雷稲妻。
かじは吹っ飛び、帆柱折れて、舟は木の葉のように、もてあそばれる。
海の藻屑か、
「いけにえの、いのちのたけの、ここのたび、とたびの、あらしをたえだえて。」
いくたり乙女が、舞い踊る。
へさきに立って、十郎、ゆら姫の太刀を抜く。
雷、ひるがえりうって、嵐の目ん玉を抜く。
津波をどうと、舟は守りを押し渡る。
生臭い風に、電光、
「宝の守りは、大蛇の七郎。」
恐ろしい大蛇の、七つかま首、あっちを撃てば、こっちが襲う。
尻尾をなげば、胴がのたうつ。
十郎ゆら姫の太刀、その血しぶきに、おもかげ立って、袖を振る。
従い七つ大蛇は、海に消え。
あたりいちめん、くされただよう、
「宝の守りは、腐れの八郎。」
生首や、どろり目ん玉、腸手足、おおぞろもぞろ。
とっつくやつを、うちすえ、ひっぺがし、気も狂うと、十郎、ゆら姫の太刀を抜く。

鞘が衣に拡がって、においもよげに、押し包む。
ようやく、腐れの海を抜け。
塩を吹いて、海は泡立つ、
「宝の守りは、ひでりの九郎。」
らんらんと、ひでりのレンズ。帆は燃え上がり、舟は裂け。
めくらめいて、十郎、
「お太刀を日に。」
ゆら姫の声。
日にかざせば、光の渦は、冷たい水にほうり落ち。
ひでりのはてを、舟は抜け。
十郎ゆら姫の太刀、その鬼神の宝蔵。
かりょうびんがか、歌う羽衣。
紅玉碧玉、しおみつの玉、
へんげの壺に、命の泉、
へらずのお椀に、打ち出の小槌、
金銀珊瑚、綾錦、
天の速舟、浮き寝の梯子。
命の泉に十郎、太刀をひたてば蘇る、美しいやな、さゆら姫。
ぬけがらは、黄金に変わる。
伊谷の十郎、さゆら姫。
宝は天の速舟に乗せ、その大空に、舞い上がる。
姫の指さす、星の座。
「鳴子の星、めしい虎。」
「一つ屋敷に、つぶて星。」
二人指さす、星の座。
「霧のカーテン、嵐の目。」
「大蛇七首、くされ星。」
「ひでりのレンズ。」
と、九つの、
「宝の守りは、伊谷の十郎。」
天の速舟が云う、
「舟は地上には下りぬ。」
さゆら姫、十郎どこへ行く。
「月へ。」
と、さゆら姫。
その舟待てえと、鬼になって追う、まっ白い、松の長者。
父母の家屋根に、金ねの太刀。
真夜中、浮き根の梯子が下がり、月の国へも、行かれるという、伊谷の里には、云い伝え。



からすがかあ

とんとむかしがあったとさ。
むかし、かんすけ村の、たろべえどん、田んぼ起こしに出て、ついでになまず釣ろうとて、凧糸に、どっぱみみずくっつけて、ぶっ込んだ。
そやつがどんと引く。
そうら来た。
いんや、大なまずではねえ、たぬきが引く、雑魚食ったか、どっぱみみず食ったか、

「わっはあ、たぬき踊りだ。」
ぶっつん切れる、うらめしいやの、たぬきは逃げる。
「化かされそうだ。」
たろべえどんな、帰りがけ、のんのんさまの、おつねばあさとこ寄った。
「かくかくしかじか、でっけえたぬきが。」
云えば、赤いべべの、のんのんさまの前に、おつねばあさ、どんかん、
「もうとっついてる。」
といった。
「たいへんだ、性悪だぬき、人は火つけすっか、人殺し。」
「ええ、なんとかしてくれ。」
「こん中へ首突っ込め。」
おつねばあさ、味噌がめ持って来て、たろべんどんに、おっかぶせ、
「ほかへとっついちゃなんねえ、したば追い込む。」
がーんと引っぱたく、
「なんまんだ。」
しりと云わず、ぶったたく、
「性悪だぬき、出て失せろ。」
ろうそくの火、押しつけた。
「うわあっちやがーん。」
たろべえどん逃げる、
「やんれ逃げるか。」
飛び出した。
なんたって逃げて、どこぞへずぽっとはまる。かき上がって、がーんたら、そこらへたり込む。
「なんとした、わらにおなとひっかぶって。」
声がする。
わら束ずぽっと抜くと、ごんすけどんだ、
「ひやくせえ、おめえこえたんごはまったな。」
見りゃほんに、
「いやおら、性悪たぬきに化かされて、そんでもって。」
「まんずいいっけ、川入って、ふんどしまでも洗っとけ、おら、おめえんちかかに云って、着物届けさせるで。」
ごんすけどん去る。
川へつかって、たろべえどんな洗う。
なんてえこったや、洗っても洗っても、
すすいでもって、ふんどし一つ、待てど暮らせど、かか来ない。
「くそうめ、肝心なときゃ、いつだって。」
たろべえどん、歩き出す。
見つからにゃいいがと、名主さま主立ちして、お役人を、案内する。
走った。
「あれはなんだ。」
と、お役人、
「あれはなんだ。」
と、名主さま、
「えーと、あれはそのう、ふんどし一つのたろべえどんでありまして。」
と、主立ち。
とっつきの、かんすけどんの庭先へ。
「うをわん。」
犬がいた、 ふんどしに、食らいつく。
「よせ。」
ひんむかれて、すっぱだか。
はんくろうどんの物干しに、女の浴衣がぶらさがる。それひっかけて、帯がない、
「またあの嫁、へんなの寄せたぞ。」
にすけのばば、うかがう。
「ちがう。」
「たろべえどんでねえか、うんま年がいもねえ。」
たろべえどん、飛び出した。
「えい、かか持ってこねえから。」
前を押さえて、そろうり歩く、
(見られりゃおおごと。)
じんべえさまの、木戸開く。
「きい-。」
裁縫の稽古終わった娘ども、わっと出る。
「女もんの単衣来て、へんな男見る。」
「帯もねえ。」
「あやーわかんね。」
「やだあ、嫁に行かんね。」
すっ飛んだ、まっくろかいて、家へとっつく、
「かか。」
こんげの、ばあさま見たら、なんて云うだか、ばあさま出る、
「なんてなりして、真っ昼間から、おらそったらしつけした覚えはねえ、じいさまに申し訳がねえ、おらあはあなんとせば。」
「おら、たぬきに化かされて。」
「そうだ、性悪の、たぬき嫁のせいだ、だからおらあんとき。」
「ごめんなっし。」
だれか来た。
「ちいとばかし、話があって来ただ。」
はんくろうどんの、馬つら、
「いい年こいて、なんてえこった、おらとこ嫁が- 」
さんべえのかかとよいちんかかと、世の中いっちうるさいのが、二人つるんで、
「おめえさま、今日という今日は、いってえ何してくれただ、嫁入り前の娘に。」
名主さま、羽織紋付着て、主立ち衆と、
「たろべえ、お役人さまの前で、今日のざまはなんだ。」
「大恥かいた。」
「じゃによって、今年のわりまえ、おまえが引き受けろ。」
「そんなあの。」
「うちらの娘を、名主さま。」
「おらとこ嫁を。」
「たぬき嫁が。」
「おまえさん、こりゃなんの騒ぎです。」
かか帰って来た。
「おめえこねえから、こうなった。」
「今日はおら、お七夜でもって、兄とこ行ってたが。」
なんだと、兄ねえなったか、そうではねえ、お七夜いうのは、赤ん坊生まれたんだ。

見れば名主さま、赤ん坊になって、
「ああ。」
と泣く、
羽織紋付着て、
「かあ。」
と鳴く。
たろべえどん、田んぼの真ん中で、あっちへ頭下げ、こっちへ下げ、烏がよったくって、かあと鳴く。
「すっかり化かされた。」
たろべえどん、帰って行ったら、むこうから来るの、おつねばあさ。

2019年05月29日